著者
櫻井 幸一
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

電子投票では現行の投票制度では発生しない無証拠性問題を検討した。票の販売を防止するために,独立的な二つの機関を利用して,投票内容は二つの機関の公開鍵で暗号化する手法を提案した.とくに、研究では、提案する無証拠性手法と他の方式を比較すた.最近提案されている無証拠性手法は複数の通信路複数のセンターを利用する.これらの提案方式は電子投票の実現が複雑になる.電子投票では,投票者が政党でも候補者に自身の投票内容を証明することが出来なくなければならない.また,無証拠を実現するために,二つの独立機関を利用した二重暗号を基盤とした.これにより,シンプルで効率的なシステムが実現することができた.さらに,不在者投票のための票-取消手法も検討し、票-取消手法は機密性を維持しながら,投票を取消すことができようになった。これらの結果は、国内外の暗号と情報セキュリチティの学会において発表した。
著者
仲地 博 高良 鉄美 比屋根 照夫
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1) 研究期間を通して、資料の収集、実態調査、研究会等を行った。その成果の一部は本報告書の研究発表の欄に記載した通りであり、その他にも、講演・シンポジウムという形で社会に還元されている。2) 研究分担者の意見が細部まで完全に一致することはもとよりないが、共通する結論は次のようなものである。1995年の沖縄における代理署名訴訟は、全国的な問題提起となった。代理署名訴訟の渦中の沖縄で独立論が飛び交ったことに見られるように、代理署名訴訟の背景は、広く深い。日本国憲法の意義と限界、地域自立を求める世界的傾向、エスニシティとアイデンティティにかかる政治思想の歴史と動向がそれである。これらの本質的な結節点で、代理署名訴訟は、考察されなければならない、それなくして、「沖縄問題」を分析解決することはできないからである。代理署名訴訟は、最高裁判決で終結し、沖縄問題は、政治の表舞台から消えたかに見える。また、現地沖縄でも住民運動のうねりは過ぎた。しかし、SACO合意にかかる基地移設問題を中心に基地問題はなお進行形の課題である。否、戦後53年基地問題は、とりも直さず、沖縄社会を規定する最大の要因であり、巨大基地ある限り、過去進行形であったし未来進行形であることも疑いない。代理署名訴訟は、沖縄とは何か、沖縄の抱える課題は何か、沖縄は全国民に何を問うのか、を具象的に示すものであった。それゆえ、繰り返し検証される必要がある。3) 本研究は、この報告書で終了するものでは決してない。私達のライフワークの一つとして、継続的に共同研究を続けることを予定している。
著者
山田 健司 水村 容子 小川 信子 一番ヶ瀬 康子
出版者
群馬松嶺福祉短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

(1)日本の現行公選法規定は、法規上心身能力低下をもつ選挙人の選挙権行使を実質上抑制阻害している。当該規程は、1951年地方選挙で発生した大規模不正投票の再発防止を理論的根拠としている。しかしながら、当該規程は、不正投票発生原因に対応したものではなく、在宅投票制度全体を不可能とする投票権侵害=選挙権侵害=違憲状態を生ずる原因となっている。1974年に一部復活した郵便投票制度以降を勘案した場合も、同様な違憲状態にあり、この状態は70数年間に及んでいる。(2)介護保険の要介護認定者は、本調査結果の範囲において半数以上が、非投票である。非投票原因は、主として体調の不調と移動困難性である。これは、能力低下レベルとは相関していない。また、移動困難性は通常の移動手段(歩行運動機能レベル)とは関連がなく、自宅と投票所間の投票当日における移動手段の確保を意味している。身体上の能力低下は、投票行動において障害とは言えず、非投票を惹起する原因は、環境因子によって生じている。したがって現行公選法規程が、重度歩行運動機能低下を在宅投票の事由とすることは、実態的論理的に誤謬である。(3)オランダでは、本調査結果の範囲において心身能力低下と公選における非投票とは関係がない。非投票は、自由意志による積極的投票拒否である。またスウェーデンは、在宅投票を不在者投票の一環として制度化し、投票環境の改善によって投票率の向上を恒常的に国策として進めている。(4)以上の結果から、現行公選法規定は、投票権の制限よって心身能力低下をもつ選挙人の選挙権剥奪を行っているといえる。また、すでに心身能力低下をもった高齢者が選挙人人口中に一定の比率を占めており、高齢化によってその人口は激増していくことが予想される。これは、わが国において行政政策への非関与、社会保障施策当事者性の奪取という現象を生じせしめ、人権保障の実体外人口を実質的に増加させるものである。(5)現行公選法が改正され、心身能力低下=投票バリアが解消する場合においては、公権行使への関与階層が未経験域に変化する。また改正が無い場合には、修正資本主義の自己矛盾つまり社会保障機能不全による社会制度倒壊へシフトする。いずれのケースでも、わが国は近い将来において、今と異なる社会形成を経験する可能性が高く、このことは日本自らが、社会と人間のとりわけ本質的な在り方を、本格的に問うべき時の訪れを意味している。
著者
朝山 邦輔 COQBLIN B. BERTHIE C. STEGLICH F. FLOUQUET J. 三宅 和正 北岡 良雄 FLOUGUET J.
出版者
大阪大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

1995年6月 朝山邦輔がオーストリア、フランス、ドイツの大学・研究所を訪問し、以下の研究テーマについて情報交換、研究成果の討論、研究打ち合せを行った。(1)ウィーン工科大学ハウザ-博士、ブラウン教授と重い電子系セリウム化合物の磁性の圧力依存性の研究。(2)グルノ-ブル原子核センターフル-ケ博士と重い電子系超伝導体ウラン化合物UPt_3,URu_2Si_2の研究(3)グルノ-ブル大学ベルティエ博士と酸化物高温超伝導体HgBa_2Ca_2Cu_3OのNMR研究(4)ダルムシュタット大学シュテ-グリッヒ教授、ガイベル博士と重い電子系超伝導CeCu_2Si_2とUpd_2Al_3,UNi_2Al_3の研究(5)ベルリン大学リューダース教授と酸化物高温超伝導HgRa_2Ca_2Cu_3O_3のNMR研究(6)パリ南大学コクブラン教授とCe化合物のT_1の理論的研究(7)キャンベル教授と高温超伝導体における渦系の運動とク-パ-対の対称性との関係同年7月北岡良雄がイタリー・トリエステにおける強相関電子系の夏の学校に出席し情報交換、討論を行った。同年9月朝山邦輔がインド・ゴアにおける強相関物理の国際会議に出席し、高温超伝導、重い電子系超伝導のNMRの結果を発表し、議論及び情報収集を行った。一方、同年9月ダルムシュタット大学ガイベル博士、10月にシュテ-グリッヒ教授を招聘し、共同研究のCeCu_2SiおよびUPd_2Al_3研究成果の交換と討論を行った。同年11月グルノ-ブル極低温研究所ルジェ博士を招聘し、重い電子系セリウム化合物について研究成果の交換を行った。1996年2月パリ南大学コクブラン教授を招聘し、重い電子系セリウム化合物の核磁気緩和時間の理論的研究について情報交換を行った。CeCu_2Si_2の基底状態は本質的には非磁性d波超伝導であり微妙なイオンの配列の乱れにより容易に超伝導が破壊され常伝導磁気秩序状態が発生する事がわかった。磁気秩序状態の性質は未定である。UPd2Al3は超伝導ギャップが線上に消失するd波超伝導でありわずかな試料の乱れや不純物により状態密度が変形し、比熱等にあたかもギャップが点状に消失しているように見せている事がわかった。UPt_3は三重項p波超伝導と結論される。これは強磁性スピンのゆらぎで媒介にした引力機構によるとかんがえられる。URu_2Si_2のク-パ-対の対称性についてはRuのNMR信号がまだ十分強くないので今後の研究に待たなければ成らない。Tc最高を与える酸化物高温超伝導体Tl_2Ba_2Ca_2Cu_3O_<10>,HgBa2Ca2Cu3O8のスピンゆらぎパラメータの測定から高温超伝導体では反強磁性的スピンゆらぎを媒介にした引力機構の可能性が非常に高くなった。軽ドープ系、重ドープ系等を含めた組織的な研究が必要である。応用上重要な渦系の運動とd波対との関係を明らかにする事が重要であり、今後のこの方面の研究も必要である。
著者
竹内 恒博
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

エネルギー枯渇問題と,化石燃料消費による地球温暖化問題の観点から,廃熱や太陽熱を利用しエネルギー利用効率を高める技術の開発が急務である.熱を電気に変換できる熱電材料はこれらの諸問題を解決する機能性材料として注目を集めている.現在実用化されている熱電材料による熱電発電は変換効率が悪く,現状では大規模な熱電発電が行われる迄に至っていない.熱電材料の特性を向上により大規模熱電発電を実現することは,21世紀の材料研究者に課せられた最も重要な課題の一つである.申請者は,近年,様々な金属材料の異常な電子物性(電気伝導率,熱伝導率,熱電能,電子比熱係数,ホール係数)を電子構造と結晶構造を解析することにより解明する基礎研究を行ってきた.これらの基礎研究により得られた知見から,熱電材料に対して今までに提案されていない全く新しい材料設計指針を構築するに至った.本研究では,申請者が提案する熱電材料設計指針により高性能熱電材料を開発することを目的としている.平成19年度に行った研究では,電子構造に数k_BT程度のエネルギー幅の微細構造がある場合に,熱伝導度に異常が生じWiedemann-Franz則を適用することができなくなることを明らかにした.バンド計算と低温比熱の測定から求めた電子状態密度とBoltzmann輸送方程式を用いて電子熱伝導度を解析した結果,観測される異常な熱伝導度を完全に理解することに成功した.平成19年度に得た成果も含め,本課題研究により蓄積してきた研究成果により,全く新しく,かつ,極めて有効な熱電材料の設計指針を構築することができたと考えている.
著者
田中 愛治
出版者
青山学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

本研究では、戦後の日本政治を特徴づけた「55年体制」と呼ばれたものが、国民意識の中では実態としては存在せず、一党優位体制を支えた有権者の意識と1993年の政権交代を引き起こした有権者の意識とは同一のものであるという仮説を検証しようとした。そこで「政治システム技術(system support)」という概念を導入することによって、戦後の変化を包括的に説明できる理論モデルを構築し、そのモデルを実証的に検証しようと試みた。研究は概ね研究計画通り進み、平成7年度には1989〜95年の自民党一党優位体制崩壊期の分析をし、平成7年10月には拙論「『55年体制』の崩壊とシステム・サポートの継続」を発表した。平成8年度には1972〜88年度までの自民党一党優位体制確立期まで遡って分析し、平成8年12月にはその成果を拙論「国民意識における『55年体制』の変容と崩壊」にて発表した。平成9年度には、「55年体制」が形成されたと考えられている1948〜60年までの日本人の政治意識を分析し、拙論「国民の政治意識における55年体制の形成」を平成9年9月に発表した。厳密には1960年代の時期の分析が完全には終了しておらず、成果を十分に発表していないが、対象となる期間の世論調査の結果は入手し、基本的な分析は終わったので、近いうちにこの部分も併せて、研究成果全体を発表したい。
著者
丸山 真央
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

最終年度にあたる平成19年度は、平成18年度までの成果を踏まえて次の3つの課題に取り組んだ。1)市町村合併(「平成の大合併」)をめぐる地域政治の地域社会学的研究。ポスト「大合併」段階のローカルガバナンズを明らかにするために、静岡県浜松市(旧佐久間町)と新潟県上越市(旧安塚町)で調査を継続した。いずれも、住民全員参加型NPOを設立し、地域協議会制度を活用することで、合併により消滅した自治体の機能を部分的ながら代補させようとする稀少な事例であり、「大合併」後のローカルガバナンスに関する全国的先進事例である。地域協議会委員全員の面接調査を集中的に進めたほか、NPOや行政の聞き取り調査も行った。以上から、ポスト「大合併」段階の地域においてこうした「自治体代替型NPO」と地域協議会制度を活用したガバナンスが構築されようとしていることが明らかになった。成果は、安塚町の事例に関する制度論的考察を『地域社会学会年報』に論文投稿した(査読付き、掲載決定、平20年度刊行予定)。2)大都市部におけるローカルガバナンスの政治社会学的研究。東京圏の都市自治体におけるネオリベラル・ガバナンス改革と市民活動との関連を検討し、日本社会学会で発表したほか、国際社会学会都市・地域部会の国際会議でも発表した。3)地方自治の制度変化と同時に進行する地方政治の再編に関する政治社会学的研究。ポスト55年体制期の地方政治の構造変動を明らかにするため、理論枠組の整理を行ったほか、徳島県などで継続調査を行った。その成果の一端は、ミネルヴァ書房より公刊された。現在、以上3つの課題を統合的に分析する理論枠組を検討しており、平成20年度中にも論文として発表する予定である。
著者
田路 秀樹 金子 公宥
出版者
兵庫県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

両側性および一側性の肘屈曲運動によるパワー発揮特性を力-速度関係から検討した結果、力-速度、力-パワー関係においても両側性機能低下が認められると共に、最大筋力、最大速度、最大パワーにおいても有意な両側性機能低下が認められた。また、両側性・一側性によるレジスタンス・トレーニングでは、両側トレーニングにより両側運動が、一側トレーニングにより一側運動が増加し、特に筋力の特異的な増加が見られた。
著者
河野 徹
出版者
法政大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

第一論文「中・近世英文学にみるユダヤ人像(1066-1600)」(『法大教養部紀要』第81号)では、まず序章で反ユダヤ主義の神学的基盤に探りを入れました。初期教会の教父らがパウロの思想をどう恣意的に変形し、その変形された教義の不可欠な一部として、反ユダヤ主義がどう中世イギリス社会に浸透したか、その過程を宗教史的、経済史的に辿りました。当時の宗教劇、とりわけコーパス・クリスティ祝祭劇に接して、その放埒なユダヤ人憎悪に衝撃を受けました、チョーサー作『カンタベリー物語』中の「女子修道院長の話」の解釈をめぐって、内外の学者たちにユダヤ史への配慮が欠けていることを確認しました。シェイクスピア作『ヴェニスの商人』の解釈に関しても同様です。しかしシェイクスピアが描いた半悪魔的シャイロック像と、現代イギリスのユダヤ系劇作家アーノルド・ウェスカーが描いた自由人的シャイロック像を比べるとき、ウェスカーは、主人公の半悪魔性を剥落させることで、情動のダイナミズムひいては劇的効果をも低下させてしまいました。両極端でないユダヤ人の実像に迫り得た作品はあるのだろうか--この問いに答えようとする試みが『法大教養部紀要』第85号に掲載された第二論文「近世英文学にみるユダヤ人像」です。ユダヤ人のイギリス再入植がその緒についた1655年以降の歴史を辿った後、スコット作『アイヴァンホウ』中のレベッカとアイザック、ディケンズ作『オリヴァー・トウィスト』中のフェイギン、ジョージ・エリオット作『ダニエル・デロンダ』中の主人公はじめ他のユダヤ人群像を分析しました。結論は、やはりどの登場人物も「神話」か「反神話」に属するということです。未完の第三論文では、現代英文学を対象に同様のリサーチを行い、さらに「アメリカ文学におけるユダヤ人像」の研究を続行する所存です。
著者
服部 裕幸 美濃 正 大沢 秀介 横山 輝雄 戸田山 和久 柴田 正良
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

われわれはコネクショニズムと古典的計算主義の対比を行ないつつ、コネクショニズムの哲学的意味の解明を行なった。美濃は、ホーガン&ティーンソンのアイディアを援用し、古典的計算主義を超えつつも、いくつかの点で古典的計算主義と前提を共有する立場の可能性を模索した。服部と金子はコネクショニズムにおける表象概念(すなわち分散表象)がはたして「表象」と呼ぶに値するかということを研究し、その有効性の度合を明らかにした。金子はどちらかといえば、分散表象を肯定的に評価し、服部は否定的に評価しているので、この点についてはさらに具体的な事例に即した研究が必要であることが明らかとなった。柴田と柏端は、「等効力性」議論を検討することを通じて、「素朴心理学」的説明による人間の行為の説明が真ではないとする主張の意義を研究し、柏端は、コネクショニズムが素朴心理学の消滅よりはむしろその補強に役立ついう評価をするに至った。他方、柴田は、条件つきではあるものの、素朴心理学は科学的心理学を取り込んだ形で生き残るか、道具主義的な意味で残るであろう、と結論するに至った。戸田山と横山はコネクショニズムが認知の新しい理論であると言われるときに正確には何が言われているのかということを研究した。特に横山は、コネクショニズムを科学についてのより広いパースペクティヴから見なければならないと結論した。大沢は、古典的計算主義における古典的表象のみならずコネクショニズムにおける分散表象もともにある種の限界をもつと論じ、それに代えて新たに像的表象の概念を提案し、そこでの論理を具体的に提案した。しかし、この点はまだ十分に展開しきれてはいないので、今後も引き続き研究する必要のあることが判明した。
著者
高木 真喜子
出版者
東京芸術大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、中世末期、国際ゴシック様式の時代におけるフランス写本絵画を主たる対象として、時代様式に対する地方様式の貢献という観点からアプローチすることにより、当該時代のフランス絵画の様相の把握に改めて取り組むものである。とりわけ<ロアンの画家>およびその工房の作品群に着目し、工房の伝統、宮廷のパトロネージの下での発展、その後の伝承について具体的に検証することにより、その一例を示すことができた。
著者
黒田 日出男 林 譲 久留島 典子 田中 博美 宮崎 勝美 保立 道久 鈴木 圭吾 加藤 秀幸
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1992

本研究は,日本史の主要な画像史料の一つである肖像画に関する基礎的な調査と研究を行ってきた。その成果は、以下の通りである。第一点。東京大学史料編纂所は、明治時代以来、肖像画を模本の作成という手段によって蒐集してきた。現在までの蒐集点数は約900点に及んでおり,それらの紹介は急務であった。本研究では,全点を4×5判白黒フィルムで撮影し,四切りの大きさに引き伸したうえで、それらについての基礎的調査を行い、新たな目録を作成した。これによって,史料編纂所の所蔵する肖像画模本は多くの研究者の関心を集めよう。第二点。この引伸写真を光ファイリング・システムに取り込んで,簡単なデータベースとし,身分・職業・性別・老若・時代によって検索できるようにした。これによって,史料編纂所々蔵の肖像画模本から,日本の肖像画の特徴の幾つかを把握できるであろう。第三点。本研究では,各種の日本史叙述や自治体史叙述を悉皆的に点検し、肖像画情報に関する調査カードを合計約27000枚作成することができた。予算の制約によって、そのデータベース化までは実現できなかったが、このカードを検索することによって、日本史叙述における肖像画情報の全体を把握することができる。そして第四点。肖像画の個別研究によって、幾つかの新説を提出することができた。たとえば,文化庁保管の「守屋家本騎馬武者像」の像主名についてであり,高師直像とする通説に対し,新たに師直の子息師詮像であるとの新説を提出した。肖像画研究の方法論についても,幾つかのシンポジウムや研究会において発表し,今後の研究の発展のための基本的な論点を提出することができた。また,1996年3月には,史料編纂所主催で「肖像画と歴史学」と題するシンポジウムを開催し,当日は257名もの出席者と討論を行うことができた。
著者
柴垣 芳夫 水本 清久
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1CET1温度感受性変異体の分離とmutational analysis昨年度分離した温度感受性変異体(ts変異体)を21株についてすべてDNAシークエンスを行い分類を行ったところ、7種類の変異体(cet1^<ts>-1〜7)に分類することができた。変異が認められた部位は、我々が欠失変異体を用いて、Ceg1-Cet1相互作用に必要な領域、TPase活性に必要な領域としてマッピングした領域の中あるいはそのごく近傍に存在した。また、cet1^<ts>-3,5〜7は複数の部位に変異が入っていたため、個々にアミノ酸変異体作成し、それぞれのアミノ酸変異の酵母の生育および酵素活性に与える影響を調べた。その結果、cet1^<ts>-1;G527D,cet1^<ts>-2;S419L,cet1^<ts>-3;T396I/T400Iは、TPase活性はそれほど大きく減少しなかったが、細胞は温度感受性を示した。このことは、これらのアミノ酸変異がTPase活性以外のCet1機能に影響を与えた結果、温度感受性になったことを示唆している。R532K変異はTPase活性が大きく減少したにもかかわらず細胞は温度感受性にならなかった。このことはR532がTPase活性に重要なアミノ酸であることを示唆している。またR242K変異はCeg1-Cet1相互作用領域の変異で、単一変異のみで温度感受性になった。このことはR242がCeg1-Cet1相互作用に重要な役割をしていることを示している。しかも、R242K/A257Nあるいは、R242K/E200Kの変異体では温度感受性は見られなかったことから、A257,E200は、R242と協調してCeg1-Cet1相互作用に関与していることが示唆された。2 キャップ構造を持つRNAの効率的な検出法の確立酵母細胞抽出液を用いてキャッピング酵素の転写反応に与える影響を調べる上で、転写産物にキャップ構造が付加されているか否かを、簡便かつ定量的に検出する方法の確立はキャッピング酵素と転写の関係を調べてゆく上で必要不可欠である。そこで、cis-diolと架橋を作ることが知られているBoronateを側鎖に持つアクリルアミド誘導体(N-acryloyl aminophenyl boronic acidを合成し、電気泳動的にcap構造の持つRNAの分離を行った結果、少なくとも数100ntのRNAについては、cap構造の有無によって分離することができた。現在、この系を用いてキャッピングの時期などを検討中である。
著者
阿草 清滋 坂部 俊樹 小谷 善行 大岩 元
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

より高度なシステムの仕様化を支援するために,継承により階層化された代数的仕様の直接実現による検証,代数的仕様の類似性の定義とそれに基づく仕様ベ-スについて研究を進めた.また,プログラム理解のモデルを定義することによりソフトウェアの開発・保守に有効なソフトウェアデ-タベ-スを開発した.その他,文書執筆協調作業の作業割当問題を定義し,その近似解を高速に求めるアルゴリズムを提案した.ユ-ザ主導の対話システムとして,自由知識獲得システム第2版の作成と評価を行った.これは対話を通しテフレ-ム構造の知識を集積していく創造性開発指向の教育ツ-ルである.また,ソフトウェア(要求)仕様獲得するシステムの概念設計を行った.これはこの自由知識獲得システムにソフトウェアや仕様の枠組みを与えたもので構成され,仕様を獲得するとともに,利用者に仕様を自動的に意識化・具体化させるものである.前年度に作成した仕様形成のためのカ-ド操作ツ-ルKJエディタのワ-クステ-ション版を完成させた.また,いくつかの機能拡張を加えたパソコン版を実際のソフトウェアの仕様作成に適用した.要求分析の途中経過を示すカ-ド配置は,思考過程の記録としてその内容を把握し易く,エディタが仕様作成のツ-ルとして有効であることが知れた.要求仕様の直接実行による検証の理論的モデルとして,動的項書換え計算(Dynamic Term Rewriting Calculus,DTRC)について研究をすすめ,停止性と合流性に関するいくつかの結果を得た.また,値表現の体系として項書換え系を含むCCSを提案し,テスト正確度という新しい概念に基づく意味論について検討した.さらに,ブロ-ドキャスト通信機構を持つ並行プロセスの体系としてCCS+bを提案し,並行演算,選択演算の結合則と可換則,ならびに,展開則が成立することを示した.
著者
長尾 光之
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

後漢から南北朝期の口語資料を多くふくむ漢訳仏典とその他の口語資料を用い、1.疑問文 2.得 3.与 4.着 5.被 6.代名詞 7.2音節と2字連語 8.縦使、仮使 9.重複形式 10.量詞 11.接尾詞、の枠組みに従い、言語体系の一部を明らかにした。そのうち、漢訳仏典をはじめとする魏晋南北朝期に多用される「どこ、なに」の意味で用いられている「何所」に着目して変遷の様子をさぐった。先秦において「なに」をあらわす代表的な疑問代名詞は「何」であった。漢代には近代語に連なる2音節化の傾向のなかで疑問詞「何等」が現れる。六朝には疑問詞「底」が用いられ、連用されて「底是」ともなる。また、「何」が「物」と連用されて「何物」ともなる。「等、底」系には形態素{T}を、「物」系には{M}を設定する。{T}は時代を追って{S}に変化して行ったものと考えられる。唐代の文献を見ると「是」と「所」を同音で標記している場合がある。「所」が魏晋南北朝期に幅広く用いられたのはこの期にすでに{S}系疑問詞が発生したことの反映と考えられる。「等、底」が現代語「什公」の前身である「是物」などに連なって行くさいに「所」がその橋渡しをしたという仮説を立てた。そのほか、漢訳仏典の代名詞について総合的に論述している兪理明『仏教文献語言』を紹介した。また、4世紀の口語を反映していると考えられる鳩摩羅什訳『妙法蓮華経』のテキストのうちパリ国立図書館・ペリオ文献に収められている同経の目録を作成した。
著者
山木 昭平 金山 喜則 山田 邦夫
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

インベルターゼ遺伝子の発現調節と肥大成長に対する役割を、ニホンナシ果実成長とバラ花弁の肥大成長によって検討した。(1)ニホンナシ果実より2つの液胞型インベルターゼの全長cDNA(PsV-AIV1,PsV-AIV2)をクローニングした。PsV-AIV1は細胞分裂の盛んな初期成長に関与し、PsV-AIV2は糖集積を伴う細胞肥大成長に強く関与した。(2)バラ花弁の肥大成長は、酸性インベルターゼ遺伝子の発現増加に伴う活性上昇により、スクロースがヘキソースに変換し、大きな膨圧を形成することによって生じる。そしてこの活性上昇はオーキシンによって引き起こされた。ソルビトール脱水素酵素遺伝子の発現調節とソルビトールの蓄積についてイチゴ果実を用いて検討した。(1)イチゴ果実のソルビトール脱水素酵素(NAD-SDH)の全長cDNA(FaSDH)をクローニングし、その活性も検知した。しかし、ソルビトールー6ーリン酸脱水素酵素遺伝子は存在したが、タンパク質と活性を検知できなかった。そしてNAD-SDH活性のキネティックスから、フルクトースの還元反応によってソルビトールが生成されることを明らかにした。(2)NAD-SDH活性はフルクトース、ソルビトール、オーキシンによって促進された。しかしmRNA量の大きな変化はなかった。(3)NAD-SDHのmRNAはイントロンを含んだpre-mature mRNAとmature mRNAを含んでおり、フルクトース、ソルビトール、オーキシンによる活性促進は転写後のスプライシング速度を促進することによって生じた。以上のように、インベルターゼとソルビトール脱水素酵素はバラ科植物の肥大成長、糖集積に密接に関わり、それらの基質や植物ホルモンによって発現が調節されていることを明らかにした。
著者
片岡 郁雄
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

ブドウ果実の初期発育の制御による裂果抑制について調査した。無加温全面被覆と部分被覆栽培の‘藤稔'について、裂果の発生様相を調査した結果、裂果はベレゾーン期頃から発生し、全面被覆および部分被覆栽培での発生率は、1.7%および3.7%であった。裂果は主に成熟期の前半に果底部で発生し、後半には果頂部にもわずかに発生した。ベレゾーン後の果皮の硬度は、全面被覆栽培に比べ、部分被覆栽培でより低い傾向があった。次に‘藤稔'の果実肥大と裂果に及ぼす生長調節物質の影響を調査した。満開期にGA25ppm、満開10日後GA25 ppmCPPU5ppmの単用あるいは混用処理した結果、成熟開始後、GA単用区、GA・CPPU混用区では全果実の12%が裂果したが、CPPU単用区では2%であった。果実肥大はGA・CPPU混用区で最も優れ、CPPU単用区がこれに次いだ。収穫期には果皮硬度、可溶性固形物およびアントシアニン含量は処理間に差はなかった。GA単用およびGA-CPPU混用区では小果梗周辺部に亀裂が増加したが、CPPU単用区では少なかった。小果梗周辺の亜表皮細胞はGA区に比べCPPU単用区で小さかった。以上の結果から‘藤稔'のGA処理果とCPPU処理果における裂果発生率の差異の一因として、果皮の組織構造の違いが関与していることが示唆され、満開後のCPPU単用処理は、果実肥大促進の効果をもたらすと同時に裂果を抑制させるための有効な手段となりうる可能性が示された。
著者
平塚 伸
出版者
三重大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

本研究は,特殊に分化した果皮の(1)CO_2固定能力,および,(2)色素合成能力,を明らかにすることを目的に行ったものであり,得られた結果は以下のように要約される.なお,成果の一部は,平成21年9月に開催された園芸学会秋季大会で公表した.(1)ウンシュウミカン果皮のCO_2固定能力は,明期・暗期ともに満開後100日前後が最も高く,この時期の果実遮光は成熟時の糖・酸含量を明らかに低下させることが明らかとなった.前年度に引続き行った本年度の研究成果は,以下のように要約される.1)ラジオアイソトープを用いた実験により,9月上旬の果皮で固定された^<14>CO_2の約1/3が果汁に蓄積され,その^<14>Cはそれぞれ果汁内の糖・酸・アミノ酸分画に取り込まれることが証明できた.なお,暗黒下でのPEPCによる^<14>CO_2固定は光合成の40%弱であったが,PEPCによって固定された^<14>Cも糖分画に検出されたことから,ウンシュウミカン果皮にはC_4光合成的機構が備わっている可能性が示された.2)果実のPEPC活性はクロロフィルを含む組織で高く,内部の組織では低かったことより,ここでもカルビン回路とPEPCが相互作用するC_4光合成的機構の存在が示唆された.3)結果枝に環状剥皮を施して枝内への光合成産物流入を阻害すると,果皮の光合成速度は約2倍高まったことから,果皮の光合成は葉の働きを補完する作用をもつものと考えられる.(2)スモモ果肉のアントシアニン生成は,その前駆体のカフェ酸やフラボノールを作り出す機構が備わっているためであり,これらがアントシアニンに代謝される過程では光が不要であることを明らかにした.さらに本年度は,以下のことを明らかにした.1)光照射は,むしろ果肉のアントシアニン生成を抑制する可能性がある.2)果肉では,果皮でアントシアニン生成を促進するABAや抑制する2,4-Dなどの植物ホルモンでは制御されない.
著者
菅谷 純子 弦間 洋 瀬古澤 由彦
出版者
筑波大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

本年度は、果実発育および成熟時の内生ABA量とその代謝産物であるファゼイン酸(PA)およびジヒドロファゼイン酸(DPA)の定量を行い、ABA生合成遺伝子である9-cis-epoxycarotenoid dioxygenase(NCED)遺伝子、PpNCED1とPpNCED2について、その果実と樹体における発現特性について詳細に検討し、果実発育、成熟時のABAの機能について解析した。その結果、前年度も確認された内生ABA量の果実成熟時における増加とそれに続く減少は、ABAの代謝、すなわちABA→PA→DPAという速やかな変化により制御され、それによりABAの一過的な上昇が認められることが強く示唆された。また、PAは果実発育の初期に多く、その後減少することが示された。さらに、定量PCRによりNCED遺伝子の発現解析を行った結果、ABAの上昇はPpNCED1遺伝子の発現上昇を伴って起こることが示された。その上昇は、エチレン生合成酵素遺伝子の前に認められ、果実の成熟開始の初期にPpNCED1遺伝子が関わる可能性が示された。また、PpNCED1遺伝子の樹体における発現量を比較したところ、PpNCED2は茎で発現量が高いのに対して、PpNCED1遺伝子は茎頂や葉での発現に比較して成熟果実における発現が著しく高いことが明らかになった。ABAの生合成は乾燥ストレスにより誘導されることが知られているため、葉に乾燥ストレスを与えた際のPpNCED1遺伝子の発現量を調べた結果、約50倍の著しい発現上昇が認められ、本遺伝子が乾燥ストレス誘導性の遺伝子であることが明らかになった。また、プロモーター領域をクローニングした結果、複数の重要なシス因子の存在が示された。これらの研究により、果実におけるABAの生合成の制御様式について遺伝子レベルの制御機構が存在することが示され、成熟シグナルとの関与が示唆されたと考えられた。