著者
原 弘久
出版者
国立天文台
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究では私が発案したマルチスリットを製作し、それを用いて太陽コロナを観測することで、(1)高い時間分解能で太陽コロナの分光観測を行うこと、(2)コロナ中を伝播していると予想されているアルフベン波の存在の有無をマルチスリット分光観測によりつきとめること、という二つの目標があった。昨年度と今年度の前半にそれらの観測を可能とするマルチスリット製作を行い、7月より国立天文台乗鞍コロナ観測所で観測時間をもらって観測を行った。しかしながら、7月,8月,9月中に計4週間の観測を行ったが、観測期間のうち晴れた日が数日で、それも雲間をぬうようなものであったため今回解析するのに十分なデータを取得することができなかった。現在、観測所が閉まる直前の10月後半に取得したデータを解析中である。スペクトルデータの初期処理を終え、視線速度データをもとに定在波・伝播波を捕まえようとしているところである。したがって、現段階でアルフベン波の存在の有無については十分な考察のもとで答えることができない。これについては、結果が肯定的でも否定的でも重要な結果となるので、解析終了後に論文にまとめる予定でいる。それでも今回の目的の一つであった高い時間分解能の観測は達成することができ、太陽活動領域中のコロナの速度構造が3分程度の間にかなり変化しているという様子を捉えることができたことは大きな収穫であった。このスリットを用いた観測を来年度も引き続き行い、コロナ運動の様子を高い時間分解能で観測してコロナ加熱領域の研究を継続することを考えている。
著者
小林 哲夫
出版者
九州大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

乾燥土壌面からの蒸発とは,土壌表面が乾燥して,水蒸気が土壌中でのみ生成される状態を意味する。したがって,日中,土壌表面温度が大気温に比べて極めて高くなりうるために,土壌表面付近では水蒸気密度だけでなく温度勾配も水蒸気移動の駆動力となりうる。その結果,従来の蒸発速度測定法の多くは,乾燥土壌面からの蒸発には適用不能となる。このような温度勾配が水蒸気の駆動力となる蒸発過程を非等温蒸発と定義し,その機構を明らかにしてモデル化した。さらに,非等温蒸発時の蒸発速度測定方を開発し,その有効性を実証した。土壌層を湿潤土層(WSL),相変換層(PTZ)および乾燥土層(DSL)に分類し,それらが表面に露出している状態を,それぞれ,蒸発の第1,第2および第3段階とした。第1段階では水蒸気の生成(相変化)はすべて土壌表面で行われるが,第2段階では表面に露出している厚さ有限のPTZ内で行われる。第3段階ではDSLが表面に露出し,乾燥土壌面からの蒸発に相当する。温度勾配の影響はDSLと大気の境界面付近で作り出され,小対流(MCJ)によって接地気層内に運ばれる。その結果,接地気分層内に湿度逆転(日中,高度と共に比湿が減少する現象)が発現する。温度勾配の影響はDSL内では比較的小さいので,DSL内の水蒸気上昇フラックスを評価して蒸発速度を推定するDSL法を開発した。また,リモートセンシングによって測定可能な土壌表面温度と厚さ5cmの表土層内の平均体積含水率のみを用いて評価できるようDSL法をパラメーター化したDSLバルク法を提案した。両方法は,鳥取砂丘とマサ土を用いて検証され,有効性が確認された。
著者
張 樹槐
出版者
弘前大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究は,リンゴ果実と葉との体積の違いや光合成作用の相違から,その間に存在する温度差の情報に着目し,赤外線熱画像によるリンゴの検出方法を構築しようと試みた。そのために,まずリンゴ果実と葉の温度を24時間リアルタイムに計測し,その変化の特徴及びそれらが外気温との関係について詳しく調査した。またリンゴ果実と葉の温度差情報を利用して,取得した温度データに基づいてリンゴ果実を検出する方法を提案した。上記の研究結果を踏まえ,遺伝的アルゴリズムによるパターン認識方法を応用し,赤外線熱画像から得られたリンゴの2値画像及び輪郭線画像を基に,リンゴを円として検出することを試みた。検出アルゴリズムは,リンゴの輪郭線画像の情報を基に仮想生物個体の初期設定,検出用円モデルに対する2値画像及び輪郭線の適応度の算出,適応度の高い個体に対するエリート保存,または探索空間の多様性を維持するための突然変異,近親相殺などの遺伝子操作で構成されている。その結果,昼夜の外部環境の相違に関係なく,画像中に存在するすべてのリンゴを検出することができた。しかも検出されたリンゴはおおよそ画像中の位置及び大きさと一致している。またリンゴの一部が葉などに隠れている場合や二つのリンゴが連結されている状態でもよい検出結果を得た。これらの基礎知見は、リンゴのみならず他の果実などにも応用できるものであると考える。
著者
加藤 曜子
出版者
流通科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.目的児童虐待防止法が成立したのちも、児童虐待事件は多発している。本研究は、平成17年度に予備調査をえて、児童福祉施設退所のケース分析を通し、再発防止のための要因および、支援状況を明らかにする。2.方法安全な退所の要因や条件を理解するため、2001年作成の大阪リスクアセスメント指標をもとに、作成した17項目からなる安全指標をもちいて、平成18年5月から6月にかけて、全国児童相談所187箇所を対象に郵送調査を実施し回答をえた(回収率55.1%)。433件の回答を分析し、個人情報保護に配慮し、PC-SPSSにより統計分析を試みた。調査票は、施設退所、未退所用、施設退所後の再発入所について項目を設けた。3.結果と考察安全指標は退所の際、再発予防としてどのような要因を把握しておくと、退所できるのかを考える枠組みで、17項目から成る。今回退所ケースで17項目の占める割合が高かった項目の上位5位は、(1)親が子を想う(2)親が子への復帰努力をする(3)子どもが家庭復帰を望む(4)虐待が止む(5)援助機関体制があるであった。子どもの年齢により項目は異なった。退所再び施設に再入所した場合、退所して再入所しなかった違いは何かを比べると、(1)子が改善していないこと(2)子の現状を親が理解していないこと(3)保護者としての自覚に欠ける(4)家庭内の人間関係に問題があるが、再入所した場合に問題が残されていたことがわかった。退所時にワーカーに認知された項目を比較することで、さらに、再発予防のためには上記4項目が重要であることが示された。4.結論・課題在宅における再発防止のための施設退所からみた要因がわかった。今後在宅支援から再発し施設入所した事例を詳細に検討し結果を検証していく必要がある。
著者
金元 敏明 服部 裕司
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本風力発電機は,(1)低風速下では前後段風車ロータが互いに逆方向に回転し,(2)後段風車ロータの最高回転速度付近で定格運転に達し,(3)その後は雨風車ロータが同方向に回転して出力一定運転となる.これを実現させるため,二重回転電機子方式二重巻線形誘導発電機を試作して特性を把握するとともに,風洞と数値実験により,風車ロータ形状の好適化を図った.1.発電機風車ロータとの連携運転が可能なことを確認し,同期回転速度以上では入力側からも出力が取り出せることを明らかにした.2.好適な前後段風車ロータ径比前段ブレードの形状によらずD=(後段径/前段径)=1までは後段風車ロータ径の増加とともに出力は増大するが,D=0.84以下では相対回転速度が遅い領域で後段風車ロータが前段風車ロータと同方向に回転する能力があるのに対し,D=0.84以上になると前段風車ロータが後段風車ロータと同方向に回転する.本着想に沿いかつ高出力が得られる直径比はD=0.84付近となる.3.前後段風車ロータの好適な軸間距離前後段ブレード形状によって出力と回転トルクに違いはあるものの,前後段風車ロータの軸間距離が近いほど高出力が得られる.4.風車ロータ周りの流れ軸方向速度成分は風車ロータを通過する毎に遅くなるが,前後段風車ロータが同方向に回転すると後段風車ロータのハブ側で上流側に向かう流れが生じ,前段風車ロータの過回転を抑制する.5.好適ブレード形状の提案後段風車ロータに流入する流れを考慮し,前段風車ロータ径の50%内側では,前段風車ロータに流入する流れをそのまま後段風車ロータに流すため,無作用翼素の採用を提案した.6.空力騒音の把握単段風車ロータのみの場合に比べてタンデム風車ロータの等価騒音レベルは高く,相反回転時のほうが同方向回転時より高い.しかし,後段風車ロータ径が小さいと騒音が低くなることは喜ばしい.
著者
登喜 和江 高田 早苗 蓬莱 節子 和田 恵美子 山居 輝美 前川 泰子 山下 裕紀 仁平 雅子 柴田 しおり
出版者
大阪府立看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

脳卒中後遺症としてのしびれや痛みの実態および対処の様相を明らかにすることを目的に面接法と質問紙法による調査を行った。脳卒中後遺症としてのしびれや痛みは,(1)約7割に発症している。(2)約5割の人々が四六時中しびれや痛みを感じている。(3)約7割の人々が生活に支障を感じながらも何とか生活している。(4)最大の強さを100とした場合,約1割の人々が80以上と感じている。(5)個々の参加者によって多様に表現される一方,表現しがたいとする人も少なくない。(6)明確に区別されにくく,人によってはしびれが強くなると痛みに近い感覚として体験される。(7)気象の変化等による深部や内部のしびれ・痛みとして知覚される場合と雨風が直接当たることで誘発される皮膚表面のしびれ・痛みといった一見相反する感覚を併せ持つ。(8)眠ると感じない,他に意識が向いている時は忘れている,しびれ・痛みに意識が集中すると強く感じられる等の特徴が見出された。しびれや痛みの受けとめは,「強さ」「罹病期間」「医療者や身近な人々の対応」に影響を受けていた。治療効果については,様々な医学的治療や民間療法が用いられていたが,「温泉」「マッサージ」「温湿布」などの身体侵襲が少なく心地よさを感じる療法に効果があったとしていた。また,しびれや痛みは,それ自体として知覚されるだけでなく<感覚の不確かさ><温冷感覚の変化><感覚の違和感>といった特異な感覚を伴っている。さらに,この痛み・しびれは,脳卒中者の生活に多様な影響をもたらしており,参加者は<しびれ・痛みそのものへの対応><身体との折り合い><道具世界との協調><周囲との付き合い><自分自身と向き合う>といった対処で生活を維持しようと努めていた。
著者
寺本 吉輝
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

観測装置は宇宙線検出器用のガス封入型高抵抗板検出器(レジスティブ・プレート・チェンバー)と宇宙線のトリガー,波高値,到来時間などを測定する回路ボックス,全体をコントロールするパソコンなどから構成される.このうち最も困難な部分はガス封入型高抵抗板検出器の開発であった.高抵抗板検出器には二つの動作モードがあり,それぞれストリーマモードとアバランチモードと呼ばれている.我々はこの両方についてテストチェンバーを作りガスを封入してまず動くかどうか,それにさらにどの程度の寿命があるかどうかを調べた,ストリーマモードはアルゴン,イソブタン,テトラフルオロエタンの混合ガスを用いた,その結果1年間以上にわたり95%程度の検出効率を維持し,波高値,などにこれといった変化は見られなかった,しかしその後劣化がみられ,600日目の測定のころに接着剤の剥離が見られた,一方アバランチモードの信号はストリーマモードより二桁大きさが小さく,電極やガスに対する負担が少ないと考えられる,アバランチモードのテストチェンバーはストリーマモードのチェンバーより後に作ったためテスト期間が短いが,1年以上にわたって安定した検出効率を維持している.アバランチモードの方が信号が小さくチェンバーに対する負担が少ないので,本番用のチェンバーをアバランチモードで作った.本番用チェンバーはテストチェンバーの数倍の大きさがあり,信号電極が大きいためノイズが大きくそのままでは使えないことがわかり,信号電極を6分割すればノイズが落ちることがわかった.この本番用チェンバーは現在までに6台つくっている.これを戸外で雨風を防ぐステンレスのケースにいれて配線すれば一応完成であるが,現在完成までには達していない,回路ボックスの方は安価なコンポーネントの使用や,信号波高回路をマルチプレクスして1chで4ch分読み出せるようにするなどをしてコストをさげた,こちらのほうはすでに完成している.
著者
玉井 昌宏
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究では,植生の幹の直径程度あるいは植生背後に生じる後流が認識できる程度の長さを最小のスケールとして,植生の運動,植生を起源とする乱れと水流の持つより大きなスケールの乱れとの相互干渉を明らかにすることを目的として,木理実験と数値計算を実施した.植生の縮尺を河道のそれと同一にすると,植生と流体間に生じる流体力に関する抵抗則が実物と模型との間で変化することになる.そこで,縮尺の異なる歪み模型により実験を行なうことにした.実験結果そのものに一般性がないことを補うために,植生と流体運動の間の相互作用をモデル化し,それを基礎とする数値計算を実施して,モデル化の妥当性を評価するための基礎データとして利用することとした.乱流計算における植生と乱流の相互作用のモデル化については,前年度において検討した固体粒子運動と流体運動の相互作用について開発した乱流モデルを発展させた.植生と乱流場との相互作用を表示する最も単純な流れ場として,河床に植生を有する等流場に関する鉛直一次元の数値解析を実行した.この数値計算においては,直径や高さといった植生固体の特性と植生密度による流動構造の変化,特に,植生と河床との流体抵抗力の分担,植生部と無植生部との流量分担等について検討した.実務上は,植生部の視覚的な特性によって,植生部と無植生部の基本的な流量分担が決定されている.これでは河道の疎通能力を過小に見積もったり,逆に過大に見積もる可能性があり,治水計画の精度上問題がある.今回の研究で,植生帯特性と流量分担との関係を明確にしたことによって,実務設計面においても有益な情報を提供するものと考えられる.
著者
山本 隆 山本 惠子 井岡 勉 青木 郁夫
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究の成果は、英国での実地調査や英国研究者を招聘して開催した研究会に基づいて、地域再生におけるネイバーフッド(基礎自治体内の小地域)・ガバナンスの理論を構築し、日英比較の可能性を明らかにした点である。理論と実態の両面から詳細に検証したことにより、わが国におけるネイバーフッド・ガバナンスの先駆的かつ包括的な研究となった。また、英国の大学研究機関と交流しており、今後の国際的な比較研究へ発展させることが可能である。
著者
楠戸 一彦
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、ドイツ中世後期の「トーナメント」に関する諸問題の中でも、特に「トーナメント規則」に焦点を当て、次の点を明らかにした。(1) 15世紀後半に南ドイツ(ラインラント、シュバーベン、フランケン、バイエルン)において統一的なトーナメント規則が作成された。(2) トーナメント規則の内容は、現代スポーツの規則に見られるような「勝敗の決定方法」ではなく、トーナメントへの「参加証明」と「資格証明」であった
著者
遠藤 孝夫
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、これまで本格的研究がなされてこなかった、シュタイナー学校の教員養成システムの理念とその実態を解明することを目的とするものである。具体的には、(1)シュタイナー学校発祥の地であるドイツにおけるシュタイナー学校の教員養成の歴史的展開過程を、「補完的」教員養成から、「完結的」教員養成への転換の視点から明らかにし、(2)ドイツにおけるシュタイナー学校の教員養成機関の現状とその内実について、特にボローニャ・プロセスに伴う再編に留意しつつ明らかにし、最後に(3)シュタイナー学校の教員養成システムを支える基本理念、とりわけシュタイナーの教員養成思想を解明した。
著者
澄川 耕二 三好 宏 冨安 志郎
出版者
長崎大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2001

視覚的に疱疹の程度を評価し、熱または機械的刺激に対する閾値の低下の程度とどのような相関があるのか評価を行った。ヘルペスゾスターウイルスを右下肢に皮下注し(ウイルスは10^6、10^7、10^8 plaque-forming unitを50μlに希釈して用いる)10日後のラットは疱疹の面積と機械的または熱刺激に対する閾値の低下は負の相関を示し、アロデイニアと痛覚過敏状態を呈した。しかし、現在作成している帯状疱疹後神経痛モデルラットは2週間ほど経過すると死に至ってしまい、急性痛の評価は可能であるが臨床的に大きな問題となっている慢性痛に対する評価は難しい。また、ウイルスの投与量が少なかったり、抗ウイルス薬を増量すれば長期生存はするが皮疹や痛覚過敏の発現をみず、疼痛モデルとして不適切なものとなってしまう。今後、現在のモデルにおける帯状疱疹後急性期の疼痛メカニズムを解析するより、現在のモデルを改良して帯状疱疹慢性期のメカニズムを検討できるモデルを作成するほうが臨床的に意義の高いことだと考え、ウイルスの量、抗ウイルス投与量とタイミング、疼痛反応測定の時期等を調整、もしくは何らかの新しい技術を導入し試行の予定である。
著者
川名 誠司 東 直行 山岡 淳一 井村 純 片山 美玲
出版者
日本医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究の目的は、皮膚におけるCRH-POMC反応系が毛周期の制御機構に及ぼす影響を解明することにある。前年度(2003)は、心理ストレスがマウス毛周期のtelogen stageを有意に延長させ、そのメカニズムは毛包ケラチノサイト、脂腺細胞に強く発現するCRHの作用を介することを証明した。従来、毛周期の研究にはC57BL/6マウスの背部皮膚を機械的に脱毛し、直後から成長期が同調して開始する性質を利用する。我々の研究もこの性質を応用している。しかしながら、現在、成長期の強制発現がどのようなメカニズムに基づいているか不明である。本研究の遂行にあたって、このメカニズムを明らかにしておくことは必要不可欠のことと考える。特に、CRHの関与については興味深い。そこで、今年度(2004)はCRHノックアウトマウスとwildマウスにおいて、脱毛によって誘導された毛周期毎に皮膚に分布する神経線維ならびに活性化肥満細胞数の経時的変化、神経ペプチド(CRHおよびSubstance P ;SP)、神経成長因子(Nerve growth factor ; NGFおよびGlial cell line-derived neutrophilic factor ; GDNF)の発現についてELISAにて測定し、同時に免疫組織化学染色にてその局在を検討した。その結果、両マウスに共通して、成長期初期(anagen I〜III)に毛包ケラチノサイト、脂腺細胞、平滑筋細胞にNGFが急速かつ多量に発現することが一義的変化であることが明らかになった。その後、POMCの発現、SP陽性神経線維の増加、活性化肥満細胞の増加、毛包におけるTNF-αなどサイトカインの増加が続いた。CRHノックアウトマウスにおいてはCRHの発現はなかったが、α-MSH、ACTHなどPOMCの発現はwild typeと有意の差はなかった。以上の結果は、機械的脱毛によって皮膚に創傷反応をきたした結果NGFが産生され、ケラチノサイトの増殖、神経細胞の可塑化/成長、肥満細胞由来のサイトカインによる毛乳頭細胞の活性化などの反応が進展していったことを示唆した。また、CRHの存在がなくとも別のルート(例えば、NGFなどの作用)でPOMCの発現が誘導され、その後の毛周期が進行、維持されることが推測された。
著者
神崎 美玲
出版者
山梨大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、悪性黒色腫治療モデルにおけるTGF-β阻害分子の抗腫瘍効果および、腫瘍ワクチン療法と併用した場合の抗腫瘍効果を検討し、最終的には悪性黒色腫の新しい治療法を確立することを目的とする。先に申請した研究計画に基づき、昨年度は以下の2点について研究を行った。1. Melanoma(B16)担癌マウスにおけるTGF-β阻害薬による抗腫瘍作用の検討担癌マウスの治療的モデルを用いて悪性黒色腫に対するTGF-β阻害薬の抗腫瘍効果を検討した。C57BL/6マウスの腹部にB16 melanomaを皮内接種して作成した担癌マウスモデルに、TGF-βRI kinase inhibitor(HTS 466284)を腹腔内投与し、腫瘍径を観察した。腫瘍長径(a)、短径(b)を測定し、腫瘍塊の大きさをtumor index(ab)で評価した。TGF-βRI kinase inhibitorを投与した群において、tumor indexはコントロール群のそれと有意差なく、TGF-βRI kinase inhibitor単独投与では抗腫瘍効果が期待できないことが示された。2. 腫瘍ワクチン療法と併用した場合の抗腫瘍作用の検討先述のTGF-β阻害薬を当教室で以前から行っている腫瘍ワクチン療法と併用し、腫瘍径やsurvivalの評価を行った。担癌マウスモデルにTGF-β阻害薬とR9-OVA融合タンパクを用いた腫瘍ワクチン療法を併用し、腫瘍径やsurvivalの評価を行った。TGF-β阻害薬併用しても、腫瘍径・survivalともにワクチン療法の効果を増強させることはなく、残念ながら抗腫瘍効果は認められなかった。今後は、TGF-β阻害薬を腫瘍塊に直接投与して抗腫瘍効果を検討するなどの工夫が必要と思われた。
著者
羽二生 久夫 小山 省三
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

未熟児網膜症(ROP)モデルマウスにおける血管新生とその後の退縮・毛細血管再形成までのメカニズムの解明するために、我々はまず、出生後(P)7〜12日目に高酸素暴露を行ってROPモデルマウスを作製した。血管新生とその後の退縮・毛細血管再形成をフルオロセイン潅流後に、蛍光顕微鏡下で確認し、P14(相対的低酸素時)、P17(血管新生最大時)、P21(新生血管退縮時)、P28(毛細血管形成時)の4時系列とさらにP35の1時系列を加えてマウス網膜サンプルの採取と同時系列のコントロール網膜の採取も行った。時系列毎に4個の網膜を1回の2次元電気泳動のサンプルとして網膜を採取、さらに1群につき6回の2次元電気泳動を行う分として合計で240網膜を採取して、2次元電気泳動を行った。泳動ゲルはクーマシーブリリアントブルーで染色し、各群6枚の電気泳動ゲル、合計60枚のゲルの画像解析を行い、各ゲルで600個以上のタンパク質スポットを検出した。その後、各時系列のコントロールと比較し、ROP群で2倍以上、かつ有意差のあるゲル上のスポットを抽出したところ、それぞれの時系列で複数のスポットが見つかり、現在、質量分析計でそのタンパク質の同定を行っている。これとは別に、発達途中で一時的に発現上昇するNDRG1のROPモデルマウスでの発現変化も調べたところ、発現上昇がみられ、血管新生への関与が示唆された。一方で、血管新生機序の別の観点から、糖尿病網膜症モデルラットを作製し、こちらも2,12週での比較を行い、タンパク質の同定を完了した。これらのタンパク質の中には、直接血管新生に関わるという報告のあるタンパク質は見つからなかったが、いくつかのストレス反応性タンパク質の発現変化があり、血管新生前にストレス反応性タンパク質の関与が示唆された。
著者
安藤 仁介 芹田 健太郎 小原 喜雄 三宅 一郎 木村 修三 五百籏頭 真 西 賢
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1986

本研究は, 第二次世界大戦後における日本の対外関係の特質を究明するために, その原点となった占領期における基本的な問題をいくつか選び出し, その各々について日本がいかに自主的にかかわっていったかを分析することを目的とした. そして従来この分野の研究が二次的資料に頼りがちだった事情を反省し, 国立国会図書館(現代史資料室)が最近に米国の国立公文書館(National Archives)秘蔵の膨大な一次資料をマイクロ・コピーで入手したなかから, GHQ/SCAP文書を中心に上記の基本的な問題に関係するものを複写・整理し適宜インデックスを作成したうえ, それに基づいて個別および共同の研究を進めた.基本的な問題の第一として, 占領軍の権限の国際的評価が挙げられるが, これについては, 連合国の日本占領はドイツに見られる無条件降伏の場合と異なり, ポツダム宣言に列挙された諸条件を実施するためのものであって, 占領軍は日本の非軍事化と民主化のために適切と認める措置をとる強大な権限を有していたことが判明した. 第二に, 占領下における対外関係の処理については, 占領の初期に対外関係処理の権限が占領軍の手に集中されたが, 占領方針の転換と日本側の要請によってこれが徐々に緩和され, 対外郵便業務の再開, 国際会議・国際機構への参加, 駐日外交代表部との接触, 出入国管理事務と対外公的通信の再開, 在外事務所の設置をもたらしたことが跡づけられた. 第三に, 国内問題についても, まず財閥解体・独禁法の制定が日本の特殊事情を考慮に入れるようにとの日本側の要請にも拘らず, 対独方式と同様に進められたこと, だが選挙法の改正には日本側の自主性が尊重されたこと, 総じて, 連合国の占領政策のうち, 日本側が実質的なイニシャティヴをとりえたものや, 政策の日本人受益者層が着実な拡がりを見せたものが, 定着したことが実証された.
著者
丸野 俊一 加藤 和生 仮屋園 昭彦 藤田 豊 小林 敬一
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

子どもの発達に応じた創造的ディスカッション(CDC)技能を育む学習/教育環境作りに関する3年間の研究成果は次の通りである: 1)"CDC技能を育む学習/教育環境作りの基本型は対話中心(「子ども主体の話し合い・学び合う」)の授業実践にある"という前提の基に、対話を中心とした授業実践作りに向けての「学びの共同体」作りを行い、現場教師の実践力の向上を図るアクションリサーチを展開した。3年間に渡る追跡研究の中から、身体化された実践知を客観的に可視化し、支援する教師成長過程モデルを構築し、その妥当性を検証した。 2)子どものCDC技能はどのように発達していくのかに関する発達段階モデルを、「態度」「技能」「価値」の諸側面を考慮しながら構築し、その促進を図る為には、どのような学習/教育環境作りが不可欠であるかについての縦断的な追跡研究を行った。 3)対話を中心とした授業実践を行う為には、教師は「新たな授業観」(授業とは子どもと協同構成するもの)のもとに「子どもの視点を取り入れた事前指導案作り」を行い、実践の中では「最適な心理的距離」(自分の感情に振り回されない、遂行上の責任性)の取り方に注意し、3つの位相(授業前、授業中、授業後)での省察的思考に熟達化していくことが不可欠であることを実証した。 4)子どものCDC技能の育成には、"対話を支える談話的風土作り"(グランドルール作り)が教科を超えて必要であるが、創造的・批判的思考が広まる/深まるような対話が生まれる為には、具体的な授業実践の文脈の中でグランドルールの重要性を認識する/体験するような教師からの働きかけが不可欠である。 5)教師の"対話を中心とした授業実践力"の向上と、子ども達の創造的・批判的なCDC技能の向上との間には、車の両輪のごとく、切るに切れない双方向性の関係があり、一つのシステムとして機能する。
著者
村川 秀樹
出版者
富山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

理工学分野において現れる様々な問題を含む非線形拡散問題を取り扱った。非線形拡散を含む問題の解析や数値解析において、拡散の非線形性をどのように扱うかが問題となっている。本研究では、非線形拡散問題の解が、拡散が線形である半線形反応拡散系の解により近似されることを示した。この結果は、非線形拡散問題の解構造が、ある種の半線形反応拡散系の中に再現されることを示唆するものである。一般に、非線形問題を扱うよりも半線形問題を取り扱う方が容易であるため、本研究は非線形問題の解析や数値解析に応用できることが期待される。
著者
高木 昌宏 VESTERGAARD C.M. VESTERGAARD C. M.
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

細胞は外部環境に応じて、膜の構造を動的に変化させる。膜の動的構造変化は外部環境応答において重要な役割を担っている。外部環境刺激の中でも、酸化ストレスは極めて重要な刺激の一つでありる。しかし、膜の動的構造変化に着目した酸化ストレス研究は、あまり行われてはいない。本研究では細胞サイズのリボソームを用いて、膜中コレステロールの酸化、および酸化コレステロールを含む膜の動的膜構造について調べた。不飽和脂質dioleoyl-phosphocholine(DOPC)とコレステロールを用いて細胞サイズリポソームを静置水和法で作成した。その後、酸化ストレスとして過酸化水素を用いてリポソームへの刺激を行い、位相差顕微鏡により動的構造変化を観察した。DOPCのみからなるリポソームでは揺動を伴う形態変化は観察されなかった。DOPC/コレステロール両方を含むリポソームでは膜揺動を伴うダイナミックな形態変化が観察された。このリポソームをHPLC分析したところ、酸化コレステロールである7β-hydroxycholesterol、7-ketocholesterolが検出された。膜中の分子断面積を計算したところ、分子断面積の増加がリポソーム膜の余剰表面積を生み、揺動を伴う膜ダイナミクスを引き起こしたと考えられた。そこで、これらの検出された酸化コレステロールをあらかじめ含むリポソームを作成し、膜ダイナミクスを顕微鏡観察により比較検討を行った。その結果7β-hydroxycholesterol、7-ketocholesterolをそれぞれ、または両方を含むリポソームでも、揺動や形態変化などのダイナミクスが観察できた。以上の結果より、酸化ストレスによる膜ダイナミクスには、酸化コレステロールが重要な役割を担っていることが明らかになった。
著者
西谷 大 篠原 徹 安室 知 篠原 徹 安室 知 梅崎 昌裕
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

伝統的な技術でおこなわれてきた農耕は、ある特定の生業に特化するのではなく、農耕、漁撈、狩猟、採集といった生業を複合的におこなうことに特徴があり、これが生態的な環境の多様で持続的な利用につながってきた。本研究では、中国・海南省の五指山地域と、雲南省紅河州金平県者米地域とりあげ、伝統農耕の実践と政府主導による開発、そして自然環境という3者を、動的なシステム(いきすぎた開発と環境の復元力)としてとらえ、その関係性の解明を目的とした。対象とする地域の現象は「エスノ・サイエンスによる伝統農耕と環境保全技術」「共同体意識と環境保全」「地域社会の交易とグローバルな市場経済の影響」など、アジア地域の環境問題を考える上で重要な視点を含んでいる。中国の急速な経済発展は、さまざまな社会的矛盾を生み出すだけなく、激しい環境破壊をもたらした。2006年から開始した第11次5カ年計画は、中国政府が推進している「小康社会(生活に多少ゆとりのある社会)」の達成に重要な役割を担うものと位置づけられている。特に経済を持続可能な成長モデルに転換するため循環型に切り替え、生態系の保護、省エネルギー、資源節約、環境にやさしい社会の建設を加速するといった環境政策の大変革をおこなおうとした。しかし昨今の中国の公害問題が意味するように、経済発展が至上目標であるという点はまったく変化がない。中国において地域社会を維持してきた特徴の一つとして市の存在がある。市を介して地域内で各家庭単位での参加と「小商い」が可能な、この市の存在こそが自給的な経済活動を維持してきた。そのことが環境保全や地域社会の生業経済を両立させることに結びついてきたと考えられる。環境保全と生業経済を両立させようとするならば、地域社会の生活と経済に深く結びついた市を維持、または復活させる必要があると考えられる。