著者
渡邊 洋
出版者
山形大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

本研究の実績概要を以下に示す。研究初年度でもあり、雪氷物性の計測や使用機器の特性把握を目的とした雪密度計測を行った。・雪密度の制御に係る実験計測技術の獲得を目的として、雪に見立てた人工雪(大型製氷装置で製作したフレークアイスをアイススライサーで粉砕したもの)の雪氷物性値を1ヶ月に亘って連続観測した。その結果、この雪密度は概ね0.35〜04を推移し、比較的含水性の高い人工雪の生成が可能であることが判った。・加えて、室内実験に用いる低密度の人工雪は、冷凍庫で製作するブロックアイスをアイススライサーで粉砕することにより、雪密度0.25〜0.3程度の人工雪を生成できることが判った。・サンヨー製の大型製氷器に貯蔵されるフレークアイスは、生成直後の氷密度と時間経過を経た後の氷密度に相違があり、気温変化の過程にも依るが増加する傾向にあることが判明した。よって、実験用の人工雪の生成には注意(特に温度と密度の管理)が必要であることが判った。・力学的な加圧(約3kg/cm^2)による雪密度変化では、繰り返し載荷(8回程度)により、0.3程度の雪密度は0.8(氷板に相当)近くまで上昇することが判った。(ホイールトラッキング試験器による室内実験観測)・雪山で保存した雪の雪密度は、3ヶ月経過後の6月には0.6程度にまで自然上昇することが判った。本研究による雪密度制御では、0.7〜0.8程度の密度増加を目指す必要がある。
著者
和泉 薫 小林 俊一
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

これまで日本で発生した雪泥流災害を新聞記事データーベース等から選択抽出し、それらについて現地調査を進め実態を明らかにしてきた。平成8年度に得られた知見を以下に記す。雪泥流の発生には、渓流内に雪が貯まっていることと、降雨や融雪による水量の急な増加が条件となる。渓流内の雪は、流水が少ないための自然堆積、雪崩の流下によるデブリ堆積、建物からの屋根雪落下や道路からの除排雪による人為的な堆積の三つに分けられる。このうち、雪崩のデブリが雪ダムとなって渓流を閉塞し、それが決壊して雪泥流になる場合には百mmオーダーの累計降雨量が必要であるが、渓流内の自然積雪の場合には数十mmオーダーの累計降雨量でも雪泥流化することがわかった。昭和43年2月11日滋賀県伊香郡余呉町で10棟が床下浸水となった雪泥流災害は、雪崩で川が堰止められそれが崩れて鉄砲水となったことによると気象庁要覧には記載されているが、実際は堰止めのため川水が溢れ、集落に流出したことが現地調査からわかった。富士山では最近4冬期連続してスラッシュ雪崩が発生しているが、古文書などの文献調査や近年の災害現地調査などにより、富士山で過去に発生したスラッシュ雪崩の16世紀以降の編年史がまとめられた雪泥流の対策としては、その物性の実験的研究から雪泥の流動性が含まれる水の量と関係することから、発生の初期の段階で水をできるだけすばやく抜いて流動性を低下させる方法が有効である。また、雪泥流の衝撃力の特性から、橋桁のように雪泥の凝集構造よりも小さいと考えられる構造物に対しては充分な強度を持たせることが必要なことが明らかにされた。
著者
小林 俊一
出版者
新潟大学
雑誌
自然災害特別研究
巻号頁・発行日
1985

昭和61年1月26日23時頃、新潟県西頚城郡能生町柵口地区を権現岳(標高1108m)から発生した雪崩が襲い、住家11棟が全半壊し、被災した35人の中の13人が死亡する大惨事となった。翌27日の調査の結果、降雪中で権現岳は見えず発生地点の確認はできなかったが、デブリの状態、家屋内の雪の侵入状況、樹木の枝の破断面の観察から判断して新雪表層雪崩であることがわかった。その後の総合的な調査の結果次のことが明らかとなった。(1)雪崩は権現岳頂上付近で発生した「面発生乾雪表層雪崩」である。(2)雪崩の規模は10〜25万【m^3】の雪が崩落。デブリの体積は10〜30万【m^3】。(3)雪崩の流走距離は発生点からデブリ末端まで水平距離で約2km、崩落斜面の角度は約45度、流走斜面は約10度の緩斜面である。(4)雪崩の速度は崩落斜面下端で最大となり約50〜60m/s、被災家屋付近で約35〜45m/sの高速けむり型表層雪崩である。(5)被災家屋付近で、雪崩による衝撃力は2t/【m^2】以上と推定される。(6)樹木の被害状況から雪崩風を伴い、土地の言葉で「アイ」「ホウ」「ウワボウ」と呼ばれる種類の雪崩である。(7)雪崩発生のメカニズム:低温で弱風下で激しい降雪で、この場合の積雪は雪同志の結合力が弱く非常に不安定な状態であった。その直後に地吹雪が発生位の7m/s前後の強風となり、その結果不安定な雪の層が平衝を失って容易に崩落した。雪の中の2.5m深付近に弱層があったため大量の雪が崩落し大規模表層雪崩が発生した。大規模なほど雪崩は遠方まで流動する。(8)今回の雪崩の雪氷学的特徴:デブリの雪の性質が周囲の自然積雪状態と区別が困難である。この種の雪崩は、雪の変形が進まない中に、速やかな総合的調査が重要である。(9)この種の雪崩の防災工法の決め手はない。今後の研究が必要。
著者
田崎 和江 沢田 順弘 鈴木 徳行 飯泉 滋 高須 晃 石賀 裕明
出版者
島根大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1989

ODPの伊豆・小笠原弧の深海底掘削が行なわれた後,昨年度は,船上での成果を“Proceedings of the Ocean Drilling Program(Vol.126)"にまとめ公表した。それに次いで,今年度は,各研究者が専門的な立場で,より詳細な陸上での成果を“Scientific Volume"にまとめた。さらに,日本人の研究成果は,地学雑誌,月刊「海洋」,月刊「地球」に特集号を組み,日本語でも成果を発表した。研究代表者の田崎は,これらの報告書,雑誌にすべて論文を投稿し,当補助金により購入した電子顕微鏡をフルに活用し,3年間で40編の成果を得ることができた。伊豆・小笠原弧の深海底堆積物のうち,特に,火山砂,軽石に注目しXRD,SEM,TEM,FTーIR,マイクロESCA等の機器類により,鉱物組成を検討した。その結果,火山性堆積物の中に,有機物の存在を認めた。スメクタイト,沸石などの熱水変質鉱物の中に,グロ-コナイトやセラドナイトが共存し,その化学組成は,CH,CO,CーCCooHの化学結合を持つことが明らかとなった。今まで,グロ-コナイトの生因の一つに有機物が関与するという説があったが,今回の研究結果で,それが証明された。さらに特筆することは,この火山性堆積物の中に,多量のバクテリア化石を,電子顕微鏡で明らかにしたことである。200℃前後の熱水の循環があり,火山ガラスや造岩鉱物が変質する中にバクテリアが存在し,化石化して保存されていた事実は,深海底にブラックスモ-カ-が存在していたことを示唆している。さらに,グロ-コナイトの生成に,バクテリアが関与していることも暗示している。深海底における物質循環において,有機と無機の境界は不明りょうであり,両者の相互作用により有機炭素からグラファイトが生成される過程も,電子顕微鏡により追跡することができた。これらの研究成果は,国際誌chemical Greologyに投稿した。
著者
WESTERHOVEN J.N アンソニー・スコット ラウシュ 笹森 建英 畠山 篤
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

巻頭論文では地域の歴史を概観し、文化の独自性について述べる。次に、高木恭藏作「婆々宿」を踏まえて、ラウシュは津軽地方の文化的・社会的な特徴を五感で分かるような例を利用しながら詳しく分析する。長部日出雄作「津軽じょんから節」は津軽三味線の演奏家の生涯についての物語である。オタゴ大学のジョンソン協力者は津軽三味線の最近の動向について調査し、若者にまで支持される津軽三味線の魅力の理由について明らかにしている。長部日出雄作「津軽世去れ節」は、津軽民謡に多大な影響を与えた伝説的な三味線奏者であった嘉瀬の桃(黒川桃太郎1886-1931)の生涯を追った小説である。これらの小説、また多くの文献に記述される4点の津軽民謡についてウェスタホーベンはその歌詞を英訳し意味を分析する。かつて盛んに歌われていた歌詞が歌われなくなった原因ついても考察している。長部日出雄作「雪の中の声」は霊能者のお告げによって、息子が母親に殺された話である。霊能者ゴミソ、イタコは津軽に特有な民間信仰である。笹森はこの両者の特質・差違を明確に示し、さらに第3の霊能者ヨリについても指摘している。笹森はこれらについて、先行研究を踏まえて、医学・心理学の面から鋭く考察している。畠山篤は津軽の鬼伝説を23の事例から分析することによって、後の大和朝による仏教、神道の鬼概念としてではなく、地域の古層にあった自然宗教の名残として鬼説話が存在していることを明らかにした。逆境に耐え抜く津軽人の精神力の強さを象徴している物語である高木恭藏作「相野」がこの報告書を終える。文献表は、英語による過去の研究にはなかった新しい資料が豊富に収集されており、付録,補遺では人名、地名、その他の語彙が詳細に解説されている。この報告書で始めて示された語彙も少なくない。英訳に関して、「婆々宿」以外はすべて初あての翻訳である。掲載した37点のカラー写真の大半はオリジナルの資料である。
著者
平井 英二 山口 幸祐 北村 守次 丁子 哲治 村本 健一郎 上木 勝司 全 浩 李 敏熙 宮崎 元一 QUAN Hao LEE Min-Hee 庄田 丈夫 李 敏煕 小村 純子 山口 幸裕 鍛治 利幸
出版者
北陸大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

1.吉林省環境保護局吉林省の劉 淑塋副省長,吉林大学環境科学系の杜 尭国教授らによれば,同省は人口約2,500万人,面積約19万km^2であり,両者とも中国の約2%である。東部は長白山を望み,櫟などの木材資源が豊富であり,中部は松遼平原が広がり,農業が発達している。西部は大草原であり,羊・馬の放牧地である。基幹産業は長春市の自動車,吉林市の化学工業である。大気汚染は,従来から低硫黄(0.4%以下)の石炭を使用せていたが,工業の発展にともない省外の石炭を輸入のため,低硫黄の石炭の確保が困難となり,大気汚染が進行中である。水質汚濁として,地表水のCODは8ppm程度であり,有機物による汚染が進んでいる。さらに,同省の図們江開発にも言及した。また。吉林大学の環境関係の研究は太陽光,粉塵,微生物等の自然界由来の物質を有効利用して汚染物質を低減する研究が集中的に行なわれている。図們江開発にも関係するので,吉林省からの帰路を利用して,大連経済技術開発区を見学と調査を実施した。2.研究成果森林衰退の原因は多くの研究者が様々な地域で研究している。観測,測定が行なわれた地域によって,気象,土壌,樹種,大気中の汚染物質濃度などが異なるため,重要な因子が異なってくる。即ち,土壌酸性化/アルミニウム毒作用説,オゾン説,マグネシウム欠乏説,ストレス説,窒素栄養過剰説があるが,関与している因子が多いことが,この問題を難しいものとしいる。酸性降水は土壌と接触することによって速やかに中和される。この中和反応は多岐であり,炭酸塩の溶解反応,陽及び陰イオンの交換反応,アルミニウムの溶出反応,二酸化炭素の溶解反応がある。これらの反応を総合的にを数式化し,実験と比較し,酸性降水による河川水質のメカニズムを正確に解明できた。β線吸収法による浮遊粒子の解析から黄砂現象の評価するに,黄砂の彼来により酸性雨の成分であるSO_4^<2->とNO_3^-に影響を及ぼし,日本海側における冬期のSO_4^<2->濃度が異常に高い原因の一つに黄砂が関与している可能性が高いことが明らかになった。酸性雨・雪の現象をレーダによって定量的に観測するため,一般的に地上観測データとの重畳によって行なう.そして両者の観測から,レーダ観測で得られるレーダ反射因子(Z)と地上観測で得た降雨や降雪強度(R)の関係を求める。このZ-R関係が求まればレーダ反射因子(Z)から降雨や降雪強度を推定できる。研究ではXバンドレーダを使用し,降雪についてZ-R関係を求めた。短い期間に分割すると良い相関がえられた。3.STRATEGY FOR AIR POLLUTION CONTROL IN EAST ASIAの刊行特に中国は硫黄酸化物が主成分である大気汚染物質の影響が深刻である。よって大都市である重慶市での研究・調査を1991年度から実施すると同時に,大気汚染とその対策のついてのシンポジウムを,重慶市環境保護局と平井班が主催し,1992年10月に同市で「中日大気汚染防止対策シンポジウム-重慶‘92」を開催した。本研究班の全員と四川省,重慶市の研究者や行政担当者が多数参加し,重慶市のマスコミにも大きな関心をあたえた。これらの発表は大気汚染のデータも含むが,大気汚染についての基礎的な事項や環日本海各国の酸性雨の現状,酸性雨の分析,土壌の中和反応機構,湖沼・森林への影響,環境行政,火力発電所の排ガスや環境保全などの多方面にわたっている。これらの発表論文に最近の研究成果を追加して翻訳し,1冊の書に纏めて刊行し,今後に工業化される東アジアの諸国の大気汚染対策に役たてれば,かけがえのない地球のボ-ダレスな環境の解決の一つとなると考えた。これが1994年度の科学研究補助金研究成果公開促進費に採択され,今春に刊行する。東アジア諸国に配布するが,平成8年度の国際学術研究にも活用する予定である。
著者
曽根 敏雄 原田 鉱一郎 岩花 剛 森 淳子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

パルサは永久凍土の丘状の地形で、日本では大雪山だけにその存在が知られている。これまで大雪山のパルサには変化が生じていると考えられてきたが、基本的な情報が不足していた。そこでパルサの分布状態を記載し、地温観測、電気探査法による永久凍土核の推定を行った。その結果、2010年に生じた急激なパルサの分布面積の減少を捉えることができた。また永久凍土の温度が高いことが判った。大雪山の高山帯の気温変化を復元した結果、現在パルサの大部分が残存しているものであると考えられた。
著者
佐藤 修 大木 靖衛
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

1、新潟県下の降水の酸性物質の状況:新潟大学積雪地域災害研究センターで行った降水の化学分析結果、新潟県衛生公害研究所の発表した資料を整理し、酸性物質の降下状況を把握した。新潟県の山間部には3〜5g/m^2の硫酸イオンと1〜2gの硝酸イオンが降下している。硫酸イオンは冬の降雪期に多い特徴がある。雪の中の酸性物質は積雪期の温暖な日に流出する。2、沢水・湧水・河川水の変化:沢水・湧水の調査は花崗岩地帯で過去に分析結果のある丹沢湖の周辺で行った。現段階では、沢水・湧水に酸性降下物の影響は見られなかった。新潟県下の沢水の連続観測の機器は現在雪の下で、データ解析は今後のこととなる。河川の水の分析結果を、小林純が行った20年以上前の河川の分析データと比較した。分析誤差範囲内で両者は一致し、新潟県下の河川の流域では平均的な意味では、酸性降下物の影響で化学風化が活発になったとは見えない。3、土壌の酸性化調査:花崗岩地帯の土壌のpHは5〜6の範囲で普通の酸性の褐色森林土壌よりpHが高い。花崗岩地帯の崩壊地の土壌のpHが過去に測定された例は見あたらない。比較の対象がないので、酸性化したかどうかは今回の調査からは結論を出すことができなかった。4、まとめ:チェコ、ポーランド、ドイツでは酸性雨の影響で土壌が荒廃し、崩壊が起こっていると報告されているが、わが国では今回の調査ではその証拠はつかめなかった。おそらくわが国では影響が見られないのは、降水量が多いこと、地形が急峻で水が長時間とどまらないこと等が影響している。
著者
青木 幸一
出版者
福井大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

電極上に電解合成した導電性高分子膜は、電気化学的なスイッチングにより、導電体(酸化体)と絶縁体(還元体)との間で相変化を起こす。イオン性溶液中で還元膜を電気化学的に酸化すると、電極に接した部分はイオンの放出または取り込みを伴って電子導電体になり、それ自身が電極として作用する。その結果、導電層が電極表面から溶液/膜界面へ向かって成長すると考えられ、本研究室では、この成長を導電層伝播機構と名付けて理論的に取り扱い、成長速度を測定してきた。導電膜を還元すると、膜全体にわたって均一に絶縁体化することがわかった。それ故、膜の酸化還元を繰り返すと、膜の電極近傍では酸化状態、溶液に近い側では還元状態をとる。すなわち、イオンの膜への取り込み量に動的分布を作ることができる。この分布をマクロ的に拡大するため、電極から引き剥した膜の一端に別の電極を取り付けてスイッチングを行うと、膜の長さ方向に酸化と還元体の分布が形成できた。ポリアニリン膜における電位と導電種の濃度との関係をスペクトロメトリーにより測定したところ、大きなヒステリシスのために、不可逆性が重要な問題になった。酸化方向の膜の変化では、電位の変化速度に依存しなかったため、平衡に近い状態が得られた。電位と導電種の対数濃度との関係はネルンスト式で表される直線からはずれ、ある電位で急激に折れ曲がることが分かった。この電位はパーコレーション閾値電位と考えられ、電極と電子的につながった酸化体と電子的につながらない酸化体との線形結合によってネルンストプロットを説明した。また、誘導電流を利用した抵抗測定に成功した。現在、そのpH依存性について実験が進行中である。
著者
宮本 比呂志
出版者
佐賀大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

今年度は歯性感染症患者10例の排膿を用い、遺伝子法と培養法で検出菌の比較を行った。唾液の菌叢解析には、基礎疾患がなく口腔内に疾患のない健常者10名の唾液を用いた。歯性感染症患者の排膿は、滅菌スワプもしくは穿刺吸引で膿汁を採取した。培養法には4種の培地(羊血液寒天,BTB,チョコレート寒天,ブルセラ半流動)を使用し、37℃,好気および嫌気条件で培養した。一方、遺伝子法は試料からDNAを抽出し,16S ribosomal RNA遺伝子の一部(約580b p)をPCR法で増幅した。得られたPCR産物を大腸菌にクローニングした後,塩基配列を決定した。決定した配列はBLASTを用いて相同性検索を行い,菌種を同定した。健常者の唾液はすべての被験者においてStreptococcus属が最も多く検出された。優占菌は、個人差はあるもののStreptococcus属,Neisseria属,Actinomyces属,Granulicatella属,Gemella属,Prevotella属であった。排膿では、培養法と遺伝子法とで検出菌が一致したのは10症例中1症例のみであった。培養法では10症例中4症例において起炎菌が同定できなかったが、遺伝子法ではすべての症例において起炎菌が推測できた。遺伝子法は、従来の培養法では検出困難とされるVBN菌も含めた試料中の細菌叢を網羅的にかつ短時間で検出可能であった。本研究で開発した方法が、口腔内という常在菌が多数存在する中から起炎菌を同定する際に有効であり、口腔常在菌の変動解析に十分使用できることが確認された。生活習慣病のリスクアセスメントツールが確立できた。
著者
金山 権 座間 紘一 座間 紘一 小松 出 任 雲 金山 権
出版者
桜美林大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本調査研究が目指したことは、中国の内陸地域、沿海地域、外国の三極関係の枠組みの中で、(1)地域間の商品、労働力、資本の流れ、(2)地域開発の波及効果および開発後の地域間経済関係の変化と地域経済構造の変化、(3)地域開発に対する中央政府、地方政府の対応、(4)外資、沿海部企業の内陸部地域への進出のあり方などを分析することを通じて、中国の地域格差是正と統一市場形成のあり方を占おうとするものであった。成果では、西部地域と国内・国際経済ないし企業とのリンケージに関する研究として最初の1,2、3章がそれに当てられている。第1章は、マクロ指標の分析を通じて、西部地区経済は全体としてはまだその国内・国際的リンケージは弱く、それは、西部経済の発展が遅れた結果であると同時に、西部経済発展の阻害要因にもなっている事を明らかにしている。2,3章は,それは自動車、ミシンの個別企業と紡織産業での産業と個別企業におけるリンケージのあり方を取り上げている。その他の研究は西部地域や四川省の産業開発、産業集積、農業の産業化、農村の近代化、少数民族地区の開発、生態建設など、西部地区開発をめぐる多様な問題を取り扱っている。中国側の強力研究者の論攷も含めて、多様な側面を多角的に、深く掘り下げたものとなったと思われる。成果は以下の10編の論文から構成されている。(1)西部地域と国内・国際経済とのリンケージ、(2)中国進出日系企業の沿海地域と西部地域のリンケージ、(3)東部地域紡績企業の西部地域進出の展開と問題点、(4)中国西部地区工業化の若干の問題、(5)資金投入と経済成長、(6)西部地域における産業集積の形成と発展、(7)四川省少数民族地区での西部大開発効果、(8)「社会主義新農村建設」と「三農」問題の解決、(9)四川省農業産業化の発展、(10)四川省の生態建設、である。
著者
竹内 淑恵 大風 かおる
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

市場の成熟化、競合環境の激化に伴い、新製品のコミュニケーション活動に十分な予算を投下できない企業では、製品パッケージによる消費者への情報伝達の重要性が認識されている。しかしながら、パッケージ情報がどのように、またどの程度消費者に処理されるのかは解明されていない。本研究では、パッケージの評価尺度とパッケージ・コミュニケーションモデルを開発し、実証分析を行った。あわせて「パッケージ評価尺度」に基づいて、架空ブランドの製品パッケージを作成し、「売れる製品パッケージ」開発のあり方を検討した。
著者
村田 光二 小森 めぐみ 道家 瑠見子 桑山 恵真 埴田 健司 井上 裕珠 馬場 洋香 田戸岡 好香 渡邊 さおり
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、他者の感情を他者がおかれた社会的文脈情報から自発的に推論することを示す実証的証拠を得た。また、状況への注目や音声による情報提示など、この推論を促進する要因について示唆を得た。他方で、後悔感情の予測におけるインパクトバイアスの実証的証拠を示した。また、学業課題におけるポジティブおよびネガティブな感情予測が、後の達成動機づけを強めることをいくつかの現場実験で示した。
著者
三輪 譲二 佐藤 滋 川村 よし子
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、いつでも、どこでも、だれにでも、手軽に、繰り返し利用可能なユビキタス環境における日本語教育支援システムを開発し、地球規模の公開運用実験と評価を行った。このシステムでは、連合漢字学習、手書き漢字入力を用いた辞書検索、漢字文章読解、特殊拍や単語アクセントの聞き取り、日本留学模擬試験、United Linksなどの支援機能を有している。漢字クイズの約1年間の公開運用実験の結果、iPhoneやiPod Touchから約16%の利用があり、ユビキタス環境での学習支援システムが益々重要になってきていることが分かった。
著者
丹沢 哲郎
出版者
静岡大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

本年度は、約1週間にわたりBSCS本部を訪問し、BSCS設立後カリキュラムが出版されるまでの約5年間(1958-1963)の関連資料収集をまず行った。収集資料は300ページを超える量となり、スタッフ間の書簡、会議議事録、報告書、書籍等から収集を行った。そして、BSCSのディレクターであるJanet Carlsonや、カリキュラム開発センター・ディレクターのPamela Von Scotterらと意見交換を行った。彼らからは、この意見交換の中でも各種の参考文献を紹介してもらい、帰国後古書店等を通じて貴重な資料収集を行うことができた。続いて、これら収集資料の分析を行った結果、「BSCSのカリキュラム開発の方針決定に関しては、初代ディレクターであるArnold Grobmanが決定的な役割を果たしていたこと、またSteering Committeeがその重要な会合に位置づけられていたこと、さらに各種のマスコミ報道を巧みに利用しつつ科学的リテラシーの考え方も取り入れた方針を確定していったこと、しかし科学的リテラシー概念をかねてより強く主張していたPaul Hurdが、実はBSCS内ではそれほど大きな影響力を及ぼしていなかったこと」などが明らかとなった。
著者
黒柳 米司 浅野 亮 稲田 十一 小笠原 高雪 金子 芳樹 菊池 努 佐藤 考一 玉木 一徳 吉野 文雄 山田 満
出版者
大東文化大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

(1)米国の対ASEAN政策の積極化、(2)中国の存在感の顕著な増幅、(3)日本の存在感の長期的凋落、および(4)「地域としての東アジア」の顕在化などという方向で変容する地域国際環境の下でASEANは、(1)「ASEAN憲章」の採択・発効、(2)インドネシア民主主義の確立などの成熟を示したものの、(3)タイの軍事クーデター、(4)タイ=カンボジア武力衝突、(5)ミャンマー軍政の民主化停滞など、後退局面がこれを上回りつつある。
著者
床谷 文雄 村上 正直 伊達 規子 栗栖 薫子 高阪 章 大槻 恒裕 村上 正直 大久保 規子 長田 真里 内記 香子 栗栖 薫子 高阪 章 大槻 恒裕
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

EU(欧州連合)による経済的、政治的統合の過程が深化し、EU加盟国内の国家法、司法制度の運用に強い影響を及ぼしている。専門家を招聘し、研究会で検討を進めたところ、EU主導による統一的な私法制度の形成に向けた動きが、契約法のみならず、家族法、国際私法においても具体化しつつあることが明らかとなった。EUによる規範形成の効果は、スイス、ノルウェーといった非加盟欧州国へも実質的に及ぶうえ、豪州、ニュージーランドといったアジア・太平洋諸国にも影響し、東アジアでも共通経済圏、共通法形成への胎動がみられる。
著者
船越 資晶
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

「研究の目的」に記載した通り、本研究は、(1)社会的な討議/闘技に開かれた過程において、(2)差異/再分配の承認をめぐる実践が展開される、したがって(3)非基礎づけ主義的なアイロニズムの地平に立つ、ポストモダンの法体制論へと批判法学を鍛えることを目指すものである。今年度は、「研究実施計画」に記載した通り、上記内容のうち(3)「地平」研究を中心としつつ、(1)「過程」研究および(2)「実践」研究を同時並行的に実施した。(3)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の法的思考論「法的思考の系譜学」の再検討を行い、ニーチェ/ウェーバー的視点から現代の法的思考を把握する理路を深化させた。同時に、批判法学運動史についても検討を行い、現代の法的地平がアイロニズムに満たされたものであることをいわば理論外的視点からも明らかにするよう努めた。これらの成果は、現代の法体制がよって立つポストモダンの精神史的地平がどのようなものかをより重層的な仕方で明らかにするものである。(1)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の法社会理論「ピンク・セオリー」を鍛える作業を行い、同理論をポスト・マルクス主義的法理論として把握する理路を解明し終えた。この成果は、まさしく批判法学に基づく法体制の記述を可能とするものである。また、(2)について具体的には、前年度に引き続き批判法学の実践論「脱正統化プロジェクト」の再検討を行うとともに、ダンカン・ケネディの法学教育論についても検討を行った。これらの成果は、批判法学の実践論の意義と射程をより十全な形で明確にするものである。
著者
水野 慎士
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

我々が開発している仮想彫刻・版画システムの機能・表現手法の改良を行うと共に,一般の人々に実際に使用してもらうことでシステムの検証・評価を行った.仮想彫刻および仮想木版画では切削,彩色,版画摺工という作品制作の各工程において,筆圧タブレットを利用して操作の強さを考慮した操作を実現した.三次元仮想彫刻に対する彩色では,筆圧と彫刻表面形状を考慮しながら色と水分量の情報を持つ絵の具を対話的に塗布することが可能となった.そして仮想版木表面に水分量を様々に変化させた絵の具を塗布することで,絵の具の色と水分量,版木形状,ばれんの操作具合の相互作用によって生み出される浮世絵などの多版多色摺り木版画を仮想空間内で忠実に再現することが可能となった.また筆圧タブレットに対応した仮想彫刻・木版画システムのプロトタイプを構築して,コンピュータやCGの専門家ではない人に実際にシステムを使用してもらって評価を行った.実験では,多くの被験者にとって筆圧タブレットによる仮想彫刻操作はマウスに比べて直感的な操作が可能で,操作感覚も実際の彫刻に近いと感じることがわかった.また操作力と変形量の関係を変化させることで,素材の固さの違いを感じ取ることができるという結果を得た.ただし,タブレットペンが滑りすぎることや,音や削り屑などが出ないなど,実際の彫刻との細かな違いが彫刻としての操作感覚を損ねているという意見もあり,これらの問題を解決する必要がある.仮想銅版画システムでは銅版画制作物理モデルの改良に加えて,様々な銅版画手法の濃淡の解析を行い,より実世界の銅版画に近い画像の合成を実現した.特に代表的な銅版画手法の一つであるメゾチントでは目立てた銅版をスクレッパーとバニッシャーで削ることで濃淡表現を行うが,それぞれの使用頻度に応じた中間表現方法を提案して,操作の違いによる銅版表面状況の変化とそれに基づく版画画像の濃淡の変化を実現した.これらの研究内容は,論文や国内外の会議で発表した.
著者
佐野 輝男 千田 峰生 種田 晃人 R.A. Owens
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ノンコーディングRNA病原体"ウイロイド"の自己複製能と病原性をRNAサイレンシングの観点から解析した。ウイロイド感染植物に誘導されるウイロイドを標的とするRNAサイレンシングにより、ウイロイド分子は少なくとも5箇所のホットスポットが標的となり分解され、多様なウイロイド特異的small RNAが宿主細胞内に蓄積することを明らかにした。ウイロイドは想像以上に複雑な機構でRNAサイレンシングの標的になっていると考えられるRNA配列の類似性を基に2次構造を予測する新しいプログラムを開発し、RNAの自己複製と分子構造の関連性を解析するための基盤を構築した。