著者
藤原 悌三 井上 隆二 日下部 馨 大場 新太郎 北原 昭男 鈴木 祥之 俣野 善治 鎌田 輝男
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

地震観測は従来から主として高層建物や長大橋梁など特殊な目的のために行われることが多かったが、兵庫県南部地震では必ずしも十分活用可能な観測波は得られなかったのが実状である。本研究では京都市域の地形・地質を考慮した10点に鉛直アレー観測を実施するため、観測システムを各区の消防署に分散配置した。観測網は、地中・地表・建物内部に地震計が設置された防災研究所の観測地点10箇所と京都市が行っている地表の観測地点4箇所、で構成されており、宇治の露出岩盤と見られる貴撰山発電所と防災研究所の観測も含まれている。これらの地点の記録波形はISDN回線を通じて自動的に地震計の自己診断、データ転送され、キ-ステーションの一つ防災研究所では、震源特性と地盤震動、地盤-建物相互作用、構造物の応答性状、設計用地震動評価、都市域の地震被害想定など高範囲の研究を行ってきた。一方のキ-ステーションである京都市消防局では発災直後の緊急対策に有効利用するよう努力が続けられている。本観測システムで得た京都南部の地震と愛知県東部の地震による波形を分析した結果によると、遠地地震では京都市域全域の表層地動が似ており長周期成分が卓越しているが、近地地震では表層の地盤特性を反映して各観測点の表層加速度が大きく異なり、そのため構造物によっては高次モードが卓越する場合があること、地表と地中のスペクトル比、構造物頂部と地表のスペクトル比より、表層地盤の動特性、構造物の動特性が明らかになり、電源位置と地表規模の決定からリアルタイムに京都市域の被害想定を行える可能性があること、構造物のモデル化の際の高次の減衰評価手法に留意する必要のあることなどを明らかにした。また、兵庫県南部地震による京阪神の観測結果から、地盤と構造物の相互作用、杭と地盤の相互作用、地盤の液状化解析手法などについても有為な知見を得ている。
著者
北條 純一
出版者
九州大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

(1)セラミックス技術の公開いままでの調査を基礎として、それぞれの技術革新の歴史的展開を分析し、その技術展開の必然性をまとめ、将来の技術発展に貢献する知識基盤の集大成として国際セラミックス総合展2009に参加し、セラミックスアーカイブズについて出展した。関連分野の研究者から活発な質問を受け、本研究が高く評価されている事を実感でき、今後の研究の進め方について大いに役立つものであった。また、第5回シンポジウムでセラミックスアーカイブスとして最後のまとめについて講演を行った。(2)インターネット博物館セラミックスに関するバーチャルな博物館を設立するため、これらの成果を日本セラミックス協会の「セラミックス博物館」として公開した。http://www.ceramic.or.jp/museum/(3)研究成果の出版アーカイブズ出版小委員会を2月に開催、出版方針について検討し、英語版として出版することとした。
著者
春木 敏 川畑 徹朗 西岡 伸紀 境田 靖子
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

ライフスキル形成を強化する第二次の食生活教育プログラム改訂,指導者マニュアル作成,授業担当者研修,意志決定スキル,目標設定スキル尺度開発,家族への働きかけを試み,以下の成果を得た.I.2005年6月〜2006年7月,大阪府下の6小学校と山口県2小学校を研究対象校とする準実験デザインのもと,健康的な間食行動と朝食行動を主題とするスキル形成に焦点をあてた食生活教育プログラム(18時間)を実施し,計810名が参加した.(i)プロセス評価より,意志決定の下位尺度「選択肢の列挙」「結果の予測」を踏まえたおやつ選択法を,「意志決定をすべき問題の明確化」を踏まえ,朝食で野菜を食べるために具体的な,実行可能な目標設定ができた.(ii)影響評価より,女子は,健康的な間食行動の態度,自己効力感が高まり,低油脂おやつの選択が増加した.野菜摂取に焦点をあてた朝食学習により,朝食の野菜摂取率はおよそ倍増し,栄養バランスを改善した.(iii)意志決定スキル形成群において介入校の児童は,広告分析に関する自己効力感や食品選択スキルに有意な成果が認められたが,対照校児童には規則性はみられなかった.II.大阪府下の3小学校と山口県3小学校を研究対象校とし,2007年5月〜7月に,保護者通信,朝食モニタリングシートの家族点検,家庭での朝食野菜料理など保護者への働きかけを強化した朝食プログラム(6時間)を実施した.計417名が参加した.(i)全児童は,目標達成率,朝食の栄養バランスともに有意に高くなった.(ii)授業実施6カ月後には,児童の学習成果は有意に低下したものの家族強化群は,対照群に比べ,朝食得点,野菜摂取率ともにやや高い維持率を示した.さらにプログラム効果を高め,持続するために,教材や指導者研修,家族強化の改善を図り,学校健康教育に普及していく.
著者
深谷 克巳 島 善高 紙屋 敦之 安在 邦夫 堀 新 村田 安穂
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

2001-03年度の研究期間に、伊予宇和島藩・土佐高知藩・阿波徳島藩・讃岐高松藩・讃岐多度津藩・讃岐丸亀藩・備前岡山藩・因幡鳥取藩・長門萩藩の史料調査を行った。調査地は、宇和島市の伊達文化保存会(宇和島藩伊達家文書)、高知の山内家宝物資料館(山内家文書)・安芸市立歴史民俗資料館(高知藩家老五藤家文書)、国立国文学研究資料館史料館所(蜂須賀家文書)・徳島城博物館・徳島県立文書館・徳島県立博物館、香川県歴史博物館(高松藩松平家文書、多度津藩の藩庁文書・大名家文書)、丸亀市立資料館(丸亀藩京極家関係文書)、岡山大学附属図書館・岡山県総務部総務学事課文書館整備推進班・岡山市立中央図書館・岡山県総合文化センター郷土資料室、鳥取県立博物館(鳥取藩政資料)、山口県文書館(毛利家文庫)などである。これらの調査と併行して、各藩に関する活字史料の収集を進めた。いずれも、朝鮮や琉球からの使節来訪や中国船などの漂着の取り扱いなど幕府の外交儀礼や外交問題、日光社参・参勤交代・勅使下向などの通行をめぐる作法、官位をめぐる藩と幕府との関係、幕府法と藩法の関係と裁許の実際、東照宮の祭礼、大名の本・分家関係や相続、藩世界における寺院の役割や宗教権威、在地秩序の内容とその形成、地域における政治思想・政治意識の形成などに関する史料を収集した。以上の収集史料を順次講読し、大名の類型や各藩領域の地理的・風土的差異に留意しつつ、幕府、朝廷、藩、寺社、民衆の相互の関係に重点を置き、その関係にどのような「権威」が存在し、あるいは創られるのかを検討した。その成果の一部を、近世誓詞の機能と意義(深谷克己)、元和二年幕府の対外政策に関する一考察(紙屋敦之)、史料翻刻・佐賀藩「律例」(島善高)、官位昇進運動の基礎的研究(堀新)、翻刻・香川県歴史博物館蔵『南木惣要』(若尾政希・小川和也)、寛永11年日光社参の一考察(泉正人)、大名家における「仮養子」史料(大森映子)、大名の「京都御使」について(久保貴子)、住持退院一件にみる村(斎藤悦正)、近世「大名預」考(佐藤宏之)として研究成果報告書(冊子)にまとめた。
著者
古川 謙介 後藤 正利
出版者
別府大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は環境汚染物質である揮発性高塩素化合物を高度に脱塩素化する偏性嫌気性細菌についてその脱ハロゲン呼吸のメカニズムを解明するため、基礎・基盤研究を行った。我々が先に分離したDesulfitobacterium hafniense Y51株はテトラクロロエテン(PCE)を最終電子受容体としてcis-1,2-ジクロロエテン(cis-DCE)へと脱塩素化して生育する。本研究ではまず、Y51株から脱塩素化に関与するpceABCT遺伝子をクローン化した。このpce遺伝子群は二つの相同な挿入配列で挟まれ複合トランスポゾンとして機能することを明らかにした。PceAは脱塩素化酵素、PceBは膜結合タンパク質であること、また、機能不明であったpceTの産物(PceT)はPceAに特異的に働く分子シャペロンであることが判明した。すなわちPceTはTat輸送を受ける前のPceA前駆体と特異的に結合することが免疫沈降実験により明らかとなった。次にY51株を最小液体培地に接種し、1μMのクロロフォルム(CF)を添加して培養すると生育阻害が起こりlag期が長くなる、また、pce遺伝子クラスターを欠失したLD株が高頻度に出現することを明らかにした。これらの結果とさらなる生化学的・分子生物学的解析からCFは還元的脱ハロゲン酵素であるPceAの補欠分子族であるコリノイドと結合してフマル酸呼吸の電子伝達系を阻害することが明らかとなり、そのモデルを提唱した。偏性嫌気性細菌による脱ハロゲン呼吸の分子機構はまだ、未知なところが多い。今後はこの重要な脱ハロゲン呼吸細菌類における宿主ベクター系の開発、及び脱ハロゲン呼吸に関与する遺伝子の異種発現系の開発が重要である。
著者
冨田 直人
出版者
東京女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

調和解析的な手法を用いて,時間周波数解析の中で基本的な役割を果たすモジュレーション空間を研究してきた.モジュレーション空間は,J.Sjostrandが擬微分作用素のシンボルクラスとして用いた後に注目が集まっている.また最近,モジュレーション空間上でのシュレディンガー作用素の有界性が示され,モジュレーション空間の偏微分方程式への応用に関心が集まっている.平成20年度は,私は東京女子大学の宮地晶彦教授と共に,シュレディンガー作用素を一般化した作用素のモジュレーション空間上での有界性を研究した.αが2以下の場合に作用素e^{i|D|^{α}}がモジュレーション空間上で有界になることが知られていた.これに対し我々は,αが2を超えてしまうと通常のモジュレーション空間上では有界性が成り立たないことを示し,有界性を保証するには適切な重みが必要であることを示した.αが2を超えた場合は未解決の問題であったため,我々の研究は有意義であると思われる.また名古屋大学の杉本充教授と共に,平成18年度より続いているモジュレーション空間の擬微分作用素への応用を平成20年度も引き続き研究した.平成20年度にJournal d'Analyse Mathematiqueにacceptされた論文では,これまではモジュレーション空間とベゾフ空間にシンボルを持つ擬微分作用素のトレース性の結果が独立に扱われていたが,α-モジュレーション空間を用いることにより統一的に扱うことができることを示した.平成20年度は,α-モジュレーション空間にシンボルを持つ擬微分作用素のL^p-有界性も研究し,SjostrandのL^2-有界性の結果を一般化したL^p-有界性の結果が得られた.
著者
岡林 秀樹
出版者
明星大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009-04-01

本研究の目的は,高齢期における人生マネイジメント方略が高齢者夫婦の精神的健康にどのような影響をもたらしているのかを明らかにすることである。2011年に地域に居住する高齢者夫婦1500組に初回調査,2013年に3年後の追跡調査を行った。初回調査に回答した498組の夫婦のデータを解析した結果,「否定的なイベントを受容できる柔軟な態度」が夫と妻それぞれの幸福感にとって重要であることが明らかになった。また,夫の「否定的なイベントを受容したり,老化に伴う喪失を補償しようとする柔軟な態度」が妻の幸福感にとって重要であることが明らかになったが,妻のそのような態度は夫の幸福感に影響を及ぼさなかった。
著者
山田 邦夫
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

前年度は、バラ‘プリティーウーマン'の切り花が開花する際には、インベルターゼやアミラーゼの活性が上昇し、その活性はスクロース処理により制御されていることを明らかにした。本年度は引き続き糖代謝酵素の発現と花弁生長の関係を明らかにするための研究を進め、特に本年度は、糖代謝酵素cDNAを単離し、発現解析を試みた。その結果、液胞型インベルターゼと細胞壁型インベルターゼが数種類ずつクローニングすることが出来た。液胞型インベルターゼは、液胞に蓄積したスクロースを分解する酵素で、浸透物質の液胞への蓄積に大きく関与している酵素である。一方、細胞壁型インベルターゼは、葉から転流してきたスクロースをアポプラストで分解し、ヘキソースの形での細胞への取り込みに重要な働きを持つ。また、液胞型インベルターゼの発現解析の結果、本酵素mRNAはバラ花弁が大きく肥大生長する時期に強く見られることから、花弁生長との関係が考えられた。花弁細胞の肥大には、糖の蓄積だけでなく細胞壁のゆるみも重要な要因となる。本年度は糖代謝関連の実験を平行し、細胞の肥大生長の観察および細胞壁のゆるみを制御すると言われているエクスパンシンの解析も試みた。その結果、バラ花弁細胞ではつぼみのごく小さいステージですでに細胞分裂を停止しており、その後はまず海綿状組織の細胞肥大、引き続き表皮(特に表側の表皮)細胞の横方向への肥大が起こっていることが明らかとなった。また、エクスパンシンcDNAはバラ花弁から4つのパラログが単離され、それらの発現解析から海綿状組織の肥大と表皮細胞の肥大がそれぞれ別々のエクスパンシンパラログによって引き起こされている可能性が示唆された。本研究成果は、引き続きさらなる検討を加え、将来的には切り花の開花促進技術の開発に重要な知見となるものと思われる。
著者
竹中 治堅
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、戦後日本の政策決定過程において野党が内閣の政策に及ぼした影響を明らかにすることを試みた。特に1990年代以降、いくつもの内閣が野党の掲げた政策に影響され、主要政策の一部に野党の構想を取り入れたことを明らかにした。野党が影響を及ぼすことになった主要な要因は二つある。一つは1994年の政治改革により選挙制度が小選挙区・比例代表制に変更され、二大政党化が進捗したこと。二つはしばしば国会が「ねじれ」の状況になり、内閣は政策課題に対処するためには政策について野党の考えを取り入れざるを得なかったこと。
著者
遠山 晴一 安田 和則 小野寺 伸 近藤 英司
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

マクロファージ遊走阻止因子(MIF)の腱・靱帯損傷の治癒に与える影響は明らかではない。そこでMIF遺伝子の欠損が膝内側側副靱帯(MCL)断裂後の治癒過程に与える影響を検討し、28日におけるMIFknock-outマウスの大腿骨-MCL-脛骨複合体の力学的特性およびMMP-2および-13の遺伝子発現はwildtypeに比し有意に低値であり、組織学的には肥厚しており血管新生に乏しくかつ細胞数の減少の遅延が観察された。以上よりMIF遺伝子欠損はMMPの遺伝子発現抑止を介して、MCL損傷治癒を遅延させることが示唆された。
著者
山崎 彩
出版者
イタリア文化会館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

20世紀初頭のトリエステは、オーストリア帝国の一都市でありながらイタリアの文学史の上でも非常に重要な場所である。本研究の目的は、イタリア語の一方言であるトリエステ語を母語とする作家たちが標準イタリア語によってトリエステという町独自の文学を創造しようとした試みをたどり、第一次世界大戦前夜におけるトリエステの文化状況を明らかにすることである。分析の対象としては、当時のトリエステを代表する作家、ズラタペル、サーバ、ズヴェーヴォの第一次大戦前の活動に重点を置くことにした。研究に必要な資料(特にズラタペルに関する資料)が日本では手に入りにくいことから、夏休みを利用し、充実した資料のあるトリエステ市立図書館とフィレンツェ国立図書館で資料収集をおこなった。トリエステ市では市立中央図書館に併設されている「イタロ・ズヴェーヴォ博物館」の学芸員の方にお徴話になり、図書館に所蔵されている資料、主にズラタペル、ストゥパリッチの本を数多く閲覧・複写することができた。また、書店も訪れて必要な図書、特にトリエステでしか入手できない類の出版物の購入をおこなった。続いて訪れたフィレンツェにおいては、トリエステでは見ることのできなかった雑誌記事を閲覧することができた。しかし、この記事の複写が許可されなかったために、デジタルカメラで撮影し、後でPDFファイル化して出力するという手段を取った。また、中継地として寄ったパリにおいても「エコール・ノルマル」の図書館で資料収集をおこなった。このようにして収集した資料に基づいて、23年2月18日に地中海学会定例研究会において発表をおこなった。20世紀初頭のトリエステ文学の研究は日本においてはまだ充分におこなわれていないが、多民族化の進行する現在の日本においても、100年前の多民族都市の文学のあり方を研究することは意義あることと考えている。〔775字〕
著者
東郷 俊宏
出版者
京都大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は、病因、病態、病理に関する唯一の専書として中国医学史上、特異な位置を占める『諸病源候論』(610年成立、巣元方撰)について、その疾病分類の特徴を分析することにあった。また疾病を67門、1739種に分類する本書の疾病記述は、漢代以降に成立した医学文献の内容を多く継承しており、かつその疾病定義が日本、中国の別を問わず後世の医学書にしばしば引用されてきたことを鑑み、本書の他の医学書への影響関係をも分析対象とし、中国医学における疾病観の変遷を探る基礎的な作業とした。具体的な成果としては、両年度を通じ最善本(宋版)を用いた経文のデータベース入力作業を進め、さらに宋改以前の旧態を存すると考えられる『医心方』との校合作業を行った。最終年度に当たる平成13年度はこの成果をもとに、本書と先行する医学経典(『素問』『霊枢』『傷寒論』『金匱要略』)、および本書の疾病分類を採用した日本、中国の医学全書(『医心方』『太平聖恵方』『聖済総録』)との引用関係、相互関係を明らかにするべく、対照表をも含めた総合データベース作成に着手した(平成14年度中完成予定)。作業量が膨大となったため、総合データベースはまだ完成をみていないが、作業過程において明らかになった事項を以下に2点挙げたい。1.計画段階で予想したとおり、『諸病源候論』の記述は先行する医学書の記述を大量に含むが、必ずしも原文とおりの引用ではなく、病因の説明などを補い、原本には見られなかった因果関係を明確にする場合が多く見られる。2.『諸病源候論』の引用書目は多種にわたるが、同一種の疾病の記述に関して、諸書の記述をあえて一貫性のあるものにまとめることはせず、内容的に矛盾、相違する部分に関しては別項目をたて、複数の書の記述を併存させるように編集している。
著者
田村 照子 小柴 朋子
出版者
文化女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

湿潤感は着衣の快適性研究において極めて重要である。本研究の目的は着衣による湿潤感の感知構造を探り、湿潤感の中枢・自律神経系への影響を探ることにある。主たる結果は以下のようである。1)全身の湿潤感を左右する重要な要因としては、湿度そのものよりも湿度によって影響を受ける皮膚蒸散量並びに人体-環境間の体熱平衡から求められる蒸発放熱量であることが明らかになった。2)カプセル又はポリエチレンフィルムを用いた閉塞性の局所湿潤負荷装置による実験の結果、人体の局所湿潤感を左右する要因は、皮膚からの水分蒸発に伴う皮膚温変化と皮膚水分に対する触感量の複合であることが示された。3)衣服内湿度の生理影響を調査するために、異なるサイズの孔を穿ったポリエチレンフィルムを用いて実験衣服を製作、その物性値及び熱・蒸発熱抵抗をKES法並びに発汗サーマルマネキンを用いて評価した。穿孔の有無、穿孔サイズにより衣服内湿度および皮膚濡れ状態に差を生じたので、これを以下の実験に供した。4)心電図R-R間隔のパワースペクトル分析により自律神経の活動レベルを測定した結果、衣服内の湿度が高いほど副交感神経活動の指標HF/(HF+LF)が低下し、交感神経活動の指標LF/HFは上昇した。5)国際10-20法による13部位の脳電図並びに脳波CNVを測定した結果、衣服内湿度が上昇するにつれて脳波のα波含有率、β波含有率ともに少なく、CNVでは振幅の抑制が認められた。6)衣服内湿度の内分泌反応への影響を調べた結果、衣服内湿度が高いほど唾液中のストレスホルモンといわれるコルチゾール、分泌型IgAともに増加し、尿中アドレナリン分泌量が低下する結果となった。以上の結果は、すべて衣服内の湿度上昇が心理的不快感のみならず、自律神経活動、内分泌反応、中枢神経活動のいずれにも負の負荷を与えることが生理学的に示唆された。本研究成果の一部は平成12年9th国際環境工学会(ドイツ)において発表した。
著者
宇佐見 香代 八木 正一 岩川 直樹 庄司 康生 舩橋 一男 野村 泰朗
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

教師は、それぞれの教室で生起する特定的・一回性的な状況と絶えず相互作用しながら、日々授業の創造や学級づくりの問題に取り組んでおり、具体的文脈の中での臨床的実践的な知覚や熟考、判断を基盤にした臨機の活動をその専門性の主軸としている。様々な問題状況のなかで、教師たちがその見識を拡げ葛藤を乗り越えて生き生きとした実践を生み出すためには、この具体的文脈へ教育研究者や将来教師になる学生が共同参加して臨床的研究を進めることが必要とし、その研究成果をまとめた。
著者
湯城 吉信
出版者
大阪府立工業高等専門学校
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、江戸時代の中井履軒の暦法、時法、解剖学に関する思想を明らかにした。中井履軒は漢学塾懐徳堂出身の儒者であったが、自然科学にも関心を持っていた。本研究では、彼の『華胥国暦書』『華胥国新暦』を中心に彼の暦学に関する考えを、『履軒数聞』を中心に彼の時法に関する考えを、『越俎弄筆』およびその草稿である『越俎載筆』を中心にその人体に関する考えを探った。筆者はすでにその宇宙観については分析を終えている(拙稿「中井履軒の宇宙観-その天文関係図を読む」(『日本中国学会報』57号、2005))。また、本研究と同時に執筆した拙稿「中井履軒の名物学-その『左九羅帖』『画〓』を読む」(『杏雨』11号、武田科学振興財団杏雨書屋、2008)では、彼の動植物の名前に関する考えを明らかにした。以上の一連の研究で中井履軒の科学思想の全貌はほぼ明らかにできたと考える。暦法については、履軒は、月を廃したラジカルな太陽暦を作り、百刻法による定時法を提唱した。それは、古代はシンプルでわかりやすい暦法、時法であったが、後世複雑でわかりにくい制度になっていったという彼の考えに基づく。彼の理論は、中国の古典の歴史研究に基づき、おおむね妥当であるが、斗建についての認識は歴史的根拠に欠ける。解剖学に関しては、『越俎弄筆』の草稿である『越俎載筆』の発見など最新の資料調査の成果に基づき、また、同時代の解剖書や西洋の解剖書と比較することにより、『越俎弄筆』の特徴を探った。当時の大坂ですでに西洋の解剖学書が出回っていたという事実は注目に値する。
著者
藏中 しのぶ
出版者
大東文化大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

『和漢朗詠集』絵入版本2種、貞享元年「絵入」と元禄2年「図解」における詩題と挿絵の画題を比較検討し、以下の結論をえた。(1)「絵入」は『和漢朗詠集』の部立の詩句本文に具体的に詩語として詠みこまれた表現素材を散りばめて、一幅の絵を構成していた。すなわち、「絵入」は、ひとつ以上の部立の漢詩句と和歌の詩語にもとづいて、直接的に絵画化のための素材を選択していた。(2)「絵入」は数少ない挿絵を有効に活用するために、一幅の絵のなかに複数の漢詩句・和歌の意味をこめていた。「絵入」の絵が同時に複数の部立の十数首にもおよぶ詩句本文の挿絵として機能できたのは、この絵が部立のなかの複数の表現素材を統合していたためである。「絵入」の絵は一幅の絵として完成されており、なおかつ、そのなかに複数の部立の代表的な詩語を配している。(3)「絵入」の五年後に刊行された「図解」の絵は、「絵入」に学びつつも、「絵入」の絵を解体する。統合された「絵入」の絵から、一、二の素材をぬきだして、ひとつの小さな絵を構成するのが、「図解」の挿絵の手法である。(4)「絵入」の絵は、漢詩句・和歌のひとつひとつに対するのではなく、部立全体をひとまとまりとみて、総合的な一幅の絵を構成しようとしている。つまり、「絵入」の絵は、『和漢朗詠集』の漢詩句一句・和歌一首の断片的な理解によって構成されているのではない。むしろ、部立の連続性をよく踏まえて、ひとつの絵を構成するのが「絵入」の方法であった。最初の絵入り版本「絵入」の絵には、複数の詩句本文の詩語、さらにはこれらを含みこむ複数の部立の意味が統合性と連続性をたもちつつ、一幅の絵の中に凝縮されていたのである。
著者
長尾 彰夫 木下 繁彌 村川 雅弘 浅沼 茂 安彦 忠彦 山口 満 西川 信広 田中 統治 的場 正美 今野 善清 柴田 義松 長尾 彰夫
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

本研究の最終年度は、これまでインタビューや授業観察および研究資料の内容分析などによって明らかになった各学校での新教育課程の開発状況について、インターネットのWEBページとして発信するための研究に重点をおいた。本研究で開発したインターネットサイト(http://jcultra.cc.osaka-kyoiku.ac.jp/〜sougo/)に掲載した学校は、大阪教育大学附属池田中学校、高槻市立上牧小学校、緒川町立緒川小学校などである。それぞれの学校の研究状況を、「地域の特色」、「学校の沿革」、「カリキュラムの概要」、「総合的な学習の位置づけ」、「授業実践事例の紹介」を基本とする項目で整理した。また、授業分析によって得られた研究知見を、文章表記によってのみ記述するのではなく、子どもの個人情報の保護に十分留意しつつ、写真等を用いて、より具体的な研究情報として閲覧することができるようにした。このインターネットサイトの活用目的は、上記の情報を公開することによって、全国の小・中学校の教師がそこから新教育課程に対応した新しいカリキュラムの開発を行うための実践的な知見を得られるようにすることである。この目的を達成するために、たんに学校の実践事例を並列的に掲載するだけでなく、すでに作成されている教師のための教育用インターネットサイトにリンクを貼ったり、本研究の分担者として各学校で訪問調査を行った研究者に直接掲示板を通して質問を寄せたり、あるいは閲覧者同士が意見交換できる掲示板システムを付随させたりしたいる。以上のように、本研究は、当初の計画通りに、新教育課程を先端的に実施している学校を訪問調査することによって、カリキュラム開発の手続きやデザインに関する経験知を集約するとともに、それをインターネットサイトを通して発信することによって、オンラインでの新しい教師教育、ないし教師の自己研修に貢献するという所期の目的を達成することができた。