著者
粟井 和夫 中野 由紀子 石田 万里
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

心臓CT受診患者45人を対象に、CT検査前、直後、24-48時間後の末梢血リンパ球を採取し、DNA二本鎖切断修復関連蛋白(γH2AX)の定量を行い、CTにおける被曝の物理的指標(CTDI, DLP, SSDE)とDNAの損傷の程度の相関を検討した。また体の体幹部を模倣したファントムの中心に血液を封入したシリンジを挿入し、それに対してCT撮影を行い、CTDI、DLP、SSDEとDNAの損傷が相関するか否か検討した。臨床検討およびファントムの検討により、DNA二重鎖はCT直後より切断され、その程度はCTの物理線量と相関することが判明した。
著者
藤尾 圭志 駒井 俊彦 井上 眞璃子 森田 薫 照屋 周造
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本課題では制御性T細胞が産生する抑制性サイトカインTGF-βによる液性免疫制御機構を解明し、新たな自己免疫疾患治療戦略の確立することを目指した。本研究により、TLRシグナルを介したB細胞活性化制御には、TGF-βおよびIL-10の協調的作用が必須であるという知見を得た。さらに、TGF-β/IL-10による抑制はB細胞におけるミトコンドリア機能制御を介していることを明らかにした。これらの検討により、Tregを介した液性免疫抑制機構におけるB細胞エネルギー代謝制御の重要性が示された。これらの成果は、自己抗体産生を介した自己免疫性疾患の新規免疫抑制療法開発の一助となると考えられた。
著者
上野 秀治
出版者
皇學館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本課題研究によって得られた研究成果のうち『岩倉公実記』の編纂過程は次の通りである。1.明治16年8月香川敬三に岩倉具視行状取調べが命ぜられると、香川は岩倉家職員山本復一に資料蒐集を依頼、写字生を使い、おそくも同年11月より蒐集作業を開始した。2.明治17年5月頃から城多董が加わり、18年6月頃より薄井竜之が加わるが、薄井は同年8月にはやめ、かわって多田好問が加わった。3.城多董は年語編集に集中したが、18年8月頃には岩倉具視絵伝(絵巻物)の作成にかかった。絵伝の絵は田中有英に描かせた。4.編纂費用は当初香川敬三が立替え、17年頃より21年3月までは内閣機密金から支出され、その後28年9月までは皇后の手元金から支出された。5.明治21〜22年頃から三条実万・実美父子の年譜作成が本格化し、山本復一・城多董がこれに関与することになった為、岩倉行状取調べは停滞しつつも、多田好問が中心になり、西尾為忠が加わった。6.26年末には岩倉行述編輯は多田が主筆となり、西尾は絵伝の詞書を担当、資料整理は沢渡広孝が行なっていて、具視の10年祭には間に合わなかった。7.30年前後は編纂が進まず、33年西尾の死去、35年沢渡の転出にあい、多田一人で執筆する状態になった。8.岩倉の20年祭(36年7月)を目標に編纂を急ぎ、多田が執筆した原稿を香川・原保太郎・薄井竜之とで校読会を開いて修正した。9.明治36年12月に『岩倉公実記』稿本を奉呈した。これらのことから、資料蒐集、年譜編集、伝記編纂と、歴史編纂に必要な手順を踏んでいることが明らかとなった。途中で絵伝作成が加わったが、これで明治40年代に湯川松堂が描いて完成した。当時、目で見てわかる歴史絵巻がわかりやすく、必要なものと認識されており、明治天皇もそれを要望した。三条実美の伝記も、年譜と絵伝を作成しているところから、当時の歴史編纂に絵伝の占める地位は大きかったと結論づけられる。
著者
坂本 恵 佐野 孝治 村上 雄一
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ベトナム人技能実習生の権利擁護に取り組む日本国内の労働組合、弁護士ネットワーク、国際交流協会からの聞き取りを行い、権利擁護施策の最新情報を得た。また、韓国・台湾・オーストラリアにおける外国人労働者受け入れ施策を調査し、最新の動向を得た。ベトナム調査を実施し、帰国した実習生、その家族、支援者らからの聞き取り調査を行い報告書にまとめることができた。
著者
前原 清隆
出版者
日本福祉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

ドイツ語圏諸国(ドイツ、スイス、オーストリア)におけるエコロジー憲法(エコロジーを構成原理とする憲法)について、学説や運動による構想、諸国の連邦および州(ラント、カントン)における実定憲法化の過程と現状を明らかにした。同時に、それが憲法に関する近代的な原理(人権の保障や民主主義など)との関係で一定の緊張関係にたつものでもあることを示唆した。
著者
矢野 久美子 金 惠信
出版者
フェリス女学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、1960年代後半から70年代に韓国からドイツに派遣された看護師女性たちの経験を、調査・考察することを目的とし、ベルリンおよびハンブルク在住の元看護師の女性を対象に、労働運動、韓国人女性グループの結成と表現活動の持続、それぞれのライフストーリーについて、聞き取りを行い記録した。韓国人看護師派遣事業に関する資料を整理した。また、女性移住労働者の体験と表現活動の尊厳性と意味を確認した。さらに彼女たちの看護師としての身体経験、異文化体験、政治への応答、その後の活動を追跡し、①ドイツにおけるディアスポラ・アジア女性労働者の体験を探り、②ドイツの政治文化史にジェンダーに関わる新たな領域を開いた。
著者
野村 卓 元木 理寿
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は食育を推進する教員および指導者(スーパー食育指導者)を養成することを念頭においたものである。特に、食育を推進するために家庭科教育や技術科教育の連携と、この2教科を土台とした他教科(理科、数学科、社会科)との横断手法の開発を行った。また、社会教育的アプローチとして、味覚継承教育手法の開発を行い、鹿児島県沖永良部島における生産調整前の水稲を栽培し、高齢者と青少年の味覚の断絶を乗り越える実践を展開した。これらの成果は日本産業技術教育学会北海道支部、日本環境教育学会北海道支部の研究大会において報告し、教員養成課程学生が食育を通じて教科横断を展開する手法等の開発を行うことができた。
著者
佐藤 龍子
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

任期制教員の採用は、国立では平成11年ごろから、私立大学では臨時的定員導入前後(昭和60年頃)からが多い。現在、任期制は急速に増えている。競争的経費が増えたことも一因である。しかし、一部の若手研究者を除き、キャリア形成の視点から任期制をとらえている大学は極めて少なく、任期制教員の特別のFD(教育力向上)もなされていないことが分かった。世界的な高等教育の市場化の流れの中、大学教師も不安定雇用が増えている。
著者
森田 雅也
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

成果主義の進展に伴い、評価の対象が時間から仕事の結果へとシフトしてきている。この場合、時間とは、長期的には勤続年数、短期的には仕事の遂行に費やした時間の双方を含んでいる。貢献と報酬の清算期間が短期化してきており、評価における時間の重要度は相対的に低下しつつある。また、成果主義の考え方と一致した人事施策として注目が高まってきている裁量労働制のもとでは、時間のみならず仕事の場という空間への制約も弱めることが可能である。しかし、現実には裁量労働適用者の多くは通常勤務者と同様に出社しているし、フレックスタイム制を廃止する企業も出てくるなど、仕事における時間と空間の障壁を打破する動きには一定の方向が確認されない。スタッフ部門を中心にホワイトカラーの時間-行動分析を行った結果、職位が高くなるほど、対人接触時間が増大し、個人作業時間や通信時間の割合が減少しており、時間や空間を共有しなくてもよい自己完結的な仕事をしている人はほとんどみられないことが確認された。これも、対象部署が限定されているとはいえ、時間と空間を共有しない働き方の進展には反する結果である。しかし、仕事生活と仕事を離れた生活を労働者が自律的に設計し、ワーク・ファミリー・バランスを重視した働き方を構築していくことは社会全体の重要な課題でもあり、今後組織が優秀な人材を獲得するためにも必要である。そのためにも、仕事における時間と空間の障壁を克服していくことはやはり不可欠である。職場での一体感や集団討議の強みを維持し、顔を合わせることができないことから生じる仕事の非効率化を抑えながら、この障壁克服を進めるためには、仕事の進め方そのものを再編成しなければならない。再編成のあり方は業種や部門によって異なると考えられるが、それについて何らかの類型化を行うことが今後に残された課題である。
著者
太田 肇
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

インターネットをはじめとする情報通信技術の発達、経済のソフト化に伴い、人的資源管理が変化している。第一に、時間と場所とにとらわれない働き方が進行している。とりわけアメリカの企業においては、在宅勤務などの普及が著しい。一方わが国では、技術的条件は整っていても、職場の風土や仕事の進め方(いわゆる集団主義)の面での制約から、働き方の柔軟化は後れている。第二に、IT化・ソフト化に伴って個人の能力格差が増幅された形で成果に反映されるようになったため、それが処遇の格差をもたらす要因になっている。それは、わが国でも成果主義の普及という形で現れている。第三に、IT化やソフト化に伴って、より質の高いモチベーションが要求されるようになり、それが動機づけの内容に影響を与えている。その中でもとくに注目されるのは、金銭的報酬より非金銭的な報酬、とりわけ個人の承認欲求に働きかける動機づけである。企業その他の組織において行った実証研究の結果、顧客からの感謝や承認を従業員にフィードバックしたところ、モチベーションや組織・仕事に対するコミットメントなどが向上することが明らかになった。
著者
三家本 里実
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、日本型雇用システムの変容について、企業の労務管理の変化と若年正社員の離職動向との関係から考察することで、必要な雇用政策のあり方を検討することにある。その際、主な研究対象を情報サービス産業におけるITエンジニアに設定し、2015年度においては、以下の課題に取り組んだ。(1)インタビュー調査: 2014年度に引き続き、企業の労務管理と労働者の働き方(より具体的には、労働者の有する自律性)との関連を明らかにするために、労働者へのインタビュー調査を実施した。下請企業ほど、労働過程における決定権は制限され、労働者が、より直接的な管理のもとに置かれることが想定されるが、実際には、いわゆる「丸投げ」というかたちで、労働者が労働過程における決定を行っていることが明らかとなった。(2)文献研究: インタビュー調査を受けて、企業の労務管理と労働過程において労働者が発揮する自律性の関連を分析するために、労働過程論を参照した。ハリー・ブレイヴァマンの労働過程分析と、その後の労働過程論争を辿り、技能との関連において、労働者の自律性を把握する必要性が浮かび上がった。(3)アンケート二次分析: 情報サービス産業においては、長時間「残業」の問題が深刻であり、メンタルヘルス不調や離職率の高さの原因としても考えられている。長時間残業の発生する要因について、労働政策研究・研修機構のアンケート調査データの使用許可を得て、分析を行った。その結果、目標値やノルマの高さなど、企業の労務管理が大きく影響していることがわかった。(4)アンケート調査: 産業別組合の協力のもと、ITエンジニアの転職行動に関するアンケート調査を実施した。労働時間の長さなど労働条件に加え、スキルアップが転職を志向する要因として挙げられた。とくに後者については、キャリアコースによって転職意識に違いが生じることが明らかとなった。
著者
桐原 尚之
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

これまで精神障害者の社会運動に関する歴史研究は、精神医学の一部や社会福祉学の枠内等で検討されてきており、精神医学の進歩史上の一事象や社会福祉の価値の正当化のための歴史として叙述されてきた。そのため、これらの目的に反する実践の記録の大部分は歴史から意図的に除外されてきた。障害学は、障害を医療や福祉の対象とする枠組み――医学モデル――からの脱却を目指す試みであり、上述のような従来の歴史認識を批判し、障害の観点から歴史研究をすることが志向される。しかし、現在の障害学は精神障害者の不利益を捉えられる枠組みにはなっておらず、従来の歴史に批判を加えるための基盤となる理論が存在しないという点で問題がある。本研究の目的は、精神障害者の社会運動の現代史を通じて、そこから示唆される知を明らかにすることである。対象範囲は、1960年代後半から2000年代前半までとし、全国「精神病」者集団の歴史を中心とする。第一に精神障害者の社会運動は発生し活動を続けてきたのかという集団形成の歴史を記述した。そこから運動が発生した理由、集合的アイデンティティの設定過程、設定された価値を分析した。その結果、精神障害者の社会運動は、精神障害者の生命を守り人権を回復すること、協調からの逸脱という精神障害者像に基づき精神障害者同士の助け合うことを志向した運動であったことを明らかにした。第二に精神障害者の社会運動は何を求めたのかという主張の歴史を明らかにした。そこから何を批判対象となる価値規範や不利益と措定し、いかなる負担をどのように分散することを求めたのかを分析した。その結果、精神障害者の社会運動が求めたことは、「関わることを止めないこと」を求めた運動であったことを明らかにした。第三に精神障害者の社会運動の歴史を記述したことによって従来の医学や社会福祉学の歴史認識にどのような変更が加えられるのかを明らかにした。
著者
北村 正敬
出版者
山梨大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

喫煙は潰瘍性大腸炎の寛解因子として知られている。本研究は「喫煙は芳香族炭化水素受容体(AhR)の活性化を介して潰瘍性大腸炎の発症進展を抑止する」という仮説を実験的に検証することを目的に行った。その結果、タバコ煙を曝露させたマウスでは肺および肝臓等で AhRの活性化が生じること、高濃度のタバコ煙への曝露により大腸でも AhR 活性化が起こること、また AhR の活性化物質の経口投与により大腸での AhR 活性化マーカーの発現上昇が認められ、実験的潰瘍性大腸炎の発症進展を抑止できること、を明らかした。
著者
米川 智
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、気管支喘息などのアトピー性疾患の患者さんの一部は手足のしびれ感、痛みを訴えることがあるが、その原因は明らかでない。私たちは、気管支喘息モデルマウスを作成し、そのマウスでも実際の患者さんと同様の痛みに対する過剰な反応(=アロディニア)が起こっていることを見出した。このマウスを解析すると、脊髄のグリア細胞という非神経細胞が活性化し、神経細胞の活性化を誘導してアロディニアを引き起こしていることがわかった。これらのグリア細胞はEDNRBという特殊な受容体を発現していたため、この受容体に対する選択的阻害薬をマウスに投与したところ、アロディニアを完全に抑制した。
著者
河合 孝尚
出版者
長崎大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究は科学者の不正リスク(動機・機会・正当化)要因の発生メカニズムを解明し、不正行為に対する抑止力を向上させることで不正行為を未然に防止することが出来るのではないかと着想し、そのための新たな倫理教育プログラムの開発を行うことを目的としている。平成29年度では、過去に行われた不正行為に関する事例や関係法令等を分析することで、不正行為に及んだ原因や問題点等を明らかにし、科学者の不正リスク要因を特定するための過去の不正行為に関する事例分析を主に行った。国内での研究不正行為に関する事例報告は情報が乏しく件数が少ないので、本研究では主に海外の研究不正行為事例を調査した。調査したのはアメリカ国立科学財団(NSF)の調査報告書2754件、アメリカ研究公正局(ORI)報告書102件、web上の研究不正事例に関する情報65件であるが、本研究で扱うデータとしてはデータの信頼性を考慮してORIの研究不正行為に関する報告書の情報102件を分析対象とすることとした。本研究ではORIの研究不正行為に関する報告102件を対象に変量解析を行った。ORI報告書から読み取れた項目として性別(女35件、男63件、欠測4件)、職種(教授7件、准教授24件、研究員22件、ポスドク20件、大学院生16件、その他9件、不明4件)、不正行為の種類(改ざん11件、ねつ造39件、盗用94件、重複あり)、所属施設(大学49件、病院14件、研究センター7件、企業1件、不明1件)について二変量解析を行い、それぞれの項目間の関連を検討した結果、特に項目間に関連は認められなかった。つまり研究不正行為は職種や性別等に関係せず誰でも起こす可能性があり、外的な要因ではなく心理的要因等の内的要因が大きく影響していると考えられることがわかった。
著者
半谷 吾郎
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

キノコ(子実体)は、菌類が次世代を残すために胞子を生産する繁殖器官である。キノコの化学成分、とくに毒性の生態学的意義を解明するためには、ジェネラリスト的傾向が強く、広範囲を動き回り、バイオマスも大きい哺乳類のキノコ食について、基礎的な知見を積み重ねていく必要がある。本研究では(1)屋久島のニホンザルを対象に、サルが採食するキノコの多様性を明らかにし、毒性に着目して、サルによるキノコ選択の基準を明らかにすること(2)キノコを採食したサルが有効にその菌の胞子散布を行うことを実験的に証明することを目的とした。屋久島のニホンザルは、14 ヶ月の観察期間中、年間を通じて 67 種(31属)という多様なキノコを食べていた。ニホンザルが検査行動なしにすぐに食べるキノコは毒キノコである割合が低く、ニホンザルが途中で採食を止めたキノコは毒キノコである割合が高かった。これらのことから、ニホンザルはキノコにたいしてある程度事前の知識を持っており、味覚とあわせて毒キノコ回避に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。一方、胞子散布については、サルに対してキノコの給餌実験を行うことが困難だったため、本研究期間内に実証することはできなかった。
著者
毛利 透 土井 真一 曽我部 真裕 尾形 健 岸野 薫 片桐 直人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

まず、ジョン・ロールズの正義論において世代間正義の占める意義を検討した。世代間正義の観点から、市民的不服従の許容性について格別の考慮が求められることになるとの指摘は、世代間正義と民主主義の関係を考えるうえで、大変示唆的である。世代間正義の観点から代表民主政に制度的変革を迫るべきかどうかという重大な問題については、ドイツでの議論を参考にして詳しく考察を行った。この結果、制度的改革で政治に長期的視点を導入するという試みには大きな難点があるといわざるを得ないことが分かった。さらに、財政赤字の限界を憲法上定めるといった手法にも、実効性に加えてその政策的有用性について疑問が残ることが分かった。