著者
田中 弘美 平井 慎一 徐 剛
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

研究期間内において、機能(記憶容量)を拡張した現有のPCクラスタ上にAdaptive Gridアルゴリズムを実装し,アルゴリズムの並列性を評価した.今年度購入のVolumeProを用いて,高次微分特徴に基づくアダプティブグリッドのモデリングおよびボリュームレンダリングの性能を評価した。また,柔軟物体の内部計測のための埋め込み用マイクロフォースセンサを試作した.さらに、代表者及び分担者らにより以下の研究項目について検討を進めた。・Adaptive Meshに基づく幾何&力学ベース適応的モデリング:レオロジー特性をもつ柔軟物体の変形/切断のリアリティベース・シミュレーションモデルを構築することを目的とし,レオロジー物体の3次元変形特性を表すために,体積効果を用いたパーティクルベースの幾何及び力学特性に適応的な格子モデルの研究を進めた.今年度はまず,現在の幾何形状に適応的な2次元Adaptive Meshを各格子要素にかかる外力と内力に適応的なDeformable Adatptive Meshに拡張し,変形及び切断に適応的なモデリング法を検討し,さらに,手術の事前プランニングを可能にする手術シミュレーションモデルの生成法を検討した.・Adaptive Gridに基づく高速ボリュームレンダリング法の開発:対象ボリューム空間を構成する四面体集合の隣接構造をAdaptive Grid表現の二分木構造からDual Graphとして自動抽出する方法と,Dual Graphを用いて各レイ(ray)に属する四面体集合を高速に選出するレイキャスティング法を提案し,ボリュームレンダリングの高速化を図った.・ボリュームデータを用いるAdaptive Gridに基づく並列領域抽出:本年度は,肝臓の実CTボリュームデータを入力として、1)ボリュームデータに含まれるすべての領域集合と,2)その位相関係記述,を同時に並列に抽出することを検討した.・独立形状を用いたnon-rigid位置あわせ法の開発:医用画像の位置あわせには,術前撮影された画像を,何らかの変換で術中の画像に精度よく重ね合わせて表示することを目標とする.Adaptive Grid生成時に抽出された微分特徴を用いて,平行や回転を計算する大域変換と,変形を計算する局所変換の二つからなる位置あわせを検討した.・柔軟物体埋め込み用マイクロフォースセンサを用いる内部計測:本年度は柔軟指の力学モデルを確立し,2mm角サイズの6軸のマイクロフォースセンサを内蔵した柔軟指の研究を進め,柔軟指で使われるマイクロフォースセンサを用いて,物体内部の変形挙動を計測する方法を検討した.さらに,二液混合型のシリコンゴムを用いて様々な粘弾性を有するテストピースを作成し,その中の様々な位置にセンサを埋め込み、加重による内部変化をMR画像により観測し分析する方法を検討した.
著者
西川 義晃
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本年度の実績は以下の通りである。本年度は研究期間の最終年度に当たる。1.従前と同様に、明治23年商法制定以降、昭和25年商法改正前(以下、「旧商法下」とする)における会社法について、これを大規模公開企業法制と位置付ける観点から研究を進めた。まず、株式会社の設立規制および発行市場法制に関して、資料収集及びその分析を進め、成果を発表した。旧商法下においては募集設立が原則と考えられており、設立と同時に発行市場の形成が想定されていた。一方、設立時には、発起人による払込金の取込詐欺や払込の仮装などの違法行為が問題となっていた。そのため旧商法は厳格な設立規制を構築すると同時に、学説は公募に応募する公衆の保護を強く主張していた。一方、平成17年制定の新会社法は設立規制を緩和したところ、ここでは設立にまつわる弊害対策という観点が乏しいように思われ、設立規制は再検討が求められるように思われる。2.旧商法下の発行市場における相場操縦の研究を進め、その過程で現代の相場操縦規制に関し、相場操縦にかかわる民事責任について判例研究を執筆し公表した。3.新たに大規模公開企業の取締役の責任に関して、旧商法下における取締役の私財提供を研究し、成果が間もなく公表される(本年4月15日)。日興コーディアルグループにおける3億円の私財提供など、近時、私財提供は話題に上ることが多い。旧商法下において私財提供は、主に昭和2年金融恐慌の際に行われており、これと昭和13年商法改正による損害賠償請求権の査定制度との関連について考察した。査定制度は訴訟で確定すべきものを、裁判所の後見的判断により迅速に明確化するものであり、民事訴訟による責任追及と私財提供の中間的な位置づけにあったと言えるように思われる。4.昨年度、金融商品取引法の沿革について文章化したが(上村達男(編著)『金融商品取引法』中央経済社)、発行が遅延している。
著者
近藤 健一郎
出版者
愛知県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

1、沖縄県内の小学校が刊行した学校記念誌に掲載された回想記録や座談会記録を資料として、近代沖縄における方言札の実態について調査研究を行った。明らかにできた点は以下の通り(報告書第2章)。(1)沖縄全体としてみれば、1900年代前半以降のあらゆる時期に方言札が存在していたことが確かめられた。この事実はこれまでの研究に対して次のような修正を迫るものである。第一に方言札の登場がこれまで考えられていた1900年代後半よりも若干古く1900年代前半であること。第二に方言札が「下火」になってきたと考えられていた1920〜30年代にかけても、多くの小学校に方言札が存在していたこと。(2)方言札は、児童の相互監視と罰を基本的な特徴としつつも、学校ごとに適用範囲や導入方法などに違いが存在した。そして児童は方言札を免れようと、また渡されないようにと、弱い児童にむりやり沖縄言葉を話させるなどの対応をしていた。2、小学校における国語科設置など日清戦争後の「国語」確立に向けた政策を展開するなかで、文部省が沖縄県用に編纂した『沖縄県用尋常小学読本』(1897〜1904年度使用)を用いた教育実践とその論理について考察した。その際、沖縄県私立教育会機関誌『琉球教育』に掲載された教育実践記録や教育論、言語論を主要な史料として用いた。分析の結果、1900年頃を境として、標準語教育の方法は、沖縄言葉を媒介としたものから沖縄言葉を最小限にとどめ主として標準語に依ったものへと移行しようとしており、標準語教育は沖縄言葉の排除を伴っていたことを明らかにした(報告書第1章)。
著者
西山 繁 中村 和彦
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は有用な薬剤の開発に資することを最終目的として、有機電気化学的手法とタリウム(III)塩の双方からフェノール酸化反応を検討し、これを鍵反応として天然有機化合物を含む生物活性物質の合成を行ったものである。以下、その概略を述べる。ユーリパミド類の合成海洋生物由来の環状イソジチロシン類ユーリパミドA、B、Dの合成を行った。鍵となるジアリールエーテルの構築は、硝酸(III)タリウムを活用した。ユーリパミドAの構造訂正を含めて、目的を達成することが出来た。さらに、ユーリパミド誘導体に新たな抗MRSA活性を見出すことが出来た。現在さらなる高活性の誘導体を求めて研究を続けている。ジャーマクレンDの臭素化反応ジヤーマクレンDに電極酸化により発生させたブロモカチオンを反応させ、主生成物として2環性化合物が得られることが判明した。ヘリアヌオール類の合成と生物活性独自に開発したフェノール類の陽極酸化で生成するスピロ化合物か6クロマン誘導体への変換反応を活用して、ヒマワリのアレロパシー物質ヘリアヌオールEの構造訂正を含めて全合成を達成した。また、本合成における転位反応の選択性は芳香環上の置換基の立体化学と電子的性質に依存することを見出した。合成途上で得られたクロマンおよびベンゾオキセピン誘導体について植物に対する成長阻害活性を調べたところ、より単純な構造についても天然物と同様の活性を有することを明6かにした。海洋生物由来のスピロイソキサソール型天然物の合成と反応スピロイソキサソール骨格の合成を陽極酸化と水素化ホウ素亜鉛の還元による改良合成法を確立するとともにスピロイソキサソール環の選択的な開環反応を行い、新しいアエロプリシニン-1の合成を達成した。カラフイアニンは、ジエノン部分にエポキシ環が存在するスピロイソキサソール関連物質であり、本研究において従来提唱されていた構造を訂正するとともに全合成を達成した。ベルベナカルコンの合成神経芽成長促進因子活性化作用を示す植物成分ベルベナカルコンの合成において、混合ハロゲン化フェノールの陽極酸化反応を鍵反応として全合成を達成した。さらに、この全合成の知見を活用して活性試験を行い、新たな知見を得た。
著者
林 雄二 村井 章夫 野老山 喬 菅 隆幸 後藤 俊夫 磯江 幸彦 正宗 直
出版者
大阪市立大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

天然性のイリドイド、ゲニビンを原料にして、多くの多官能性イリドイド及びセコイリドイド類の合成を達成した(磯江)。皮膚刺戟性があり発癌プロモ-タ-として注目を集めているテレオシジンの全合成をおこなった。インド-ル環に直接置換基を導入する新しい方法で、インドラクタムVおよびテレオシジンB3及びB4を合成した(後藤)。環状モノテルペノイド生合成の際に、ゲラニル2-リン酸(GPP)は、(i)環化酵素内で2-リン酸基を引抜かれてリナリル状のカチオンを発生すること、(ii)酵素内で発生するカチオンは、植物種に特異的なConfigurationをもっていることを明らかにした(菅)。2-(6'-シリル-4'-キセニル)-3'、4'-ジメチル-2-シクロヘキセノンの2'位にかさ高い置換基(シリル基あるいはアルコキシカルボニル基)をもつ基質の環化による8,9-ジメチル基をもつクレロダン骨格の合成を検討した(野老山)。さきに開発した鎖状ポリエン環化剤を用いて、センダン科Lansium domesticumの抗アレルギ-性セコオノセラノイドのアグリコンLansiolic acidを合成した。同じ植物の種子の二重転位形リモノイドを構造決定し生合成経路を推定した。又、同植物の魚毒成分アファナモ-ルAを、分子内光環化により生じるブルボナン形中間体を経て合成する経路を検討した(林)。ジャガイモ塊茎組織はジャガイモ疫病菌あるいはアラキドン酸を接種されると過酸化水素を発生し、これに伴ってフィトアレキシンの蓄積が誘導される。人為的に過酸化水素で処理してもフィトアレキシン生成は誘導されるので、過酸化水素はジャガイモでのフィトアレキシン生成の直接の引金物質であることがわかった。同様の現象は、サツマイモ、インゲン、サトウダイコンでも見出された。ジャガイモを用いてフィトアレキシンの内因性エリシタ-の実在をはじめて証明すると共に、その単離研究をおこなった(村井)。
著者
大串 隆之 高林 純示 山内 淳 石原 道博
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

植物-植食性昆虫-捕食者からなる多栄養段階のシステムを対象にして、フィードバック・ループの生成メカニズムとしての植物-植食者相互作用の重要性を実証し、その高次栄養段階に与える影響とメカニズムの生態学的・化学的・分子生物学的基盤を明らかにした。さらに、植食者の被食に対する植物の防衛戦略とその結果生じる間接効果についての理論も発展させた。これまでの3年間の総括を行い、間接効果と非栄養関係を従来の食物網構造に組み込んだ新たな「間接相互作用網」の考え方を提唱した(Annual Review of Ecology, Evolution, and Systematics 36:81-105)。さらに、「間接相互作用網」の生態学的意義とその概念の適用について世界に先駆けて単行本の編集を行った(Ohgushi, T., Craig, T. & Price, P.W. 2006. Ecological Communities : Plant Mediation in Indirect Interaction Webs, Cambridge Univ. Press)。本プロジェクトの成果の多くは、すでに国際誌に公表されている(研究発表リストを参照)。これらの成果に基づいて、植物の形質を介した間接効果が植物上の昆虫群集における相互作用と種の多様性を生み出している重要なメカニズムであることを指摘し、間接相互作用網に基づく生物群集の理解のための新たなアプローチを確立した。このように、本プロジェクトは陸域生態系の栄養段階を通したフィードバック・ループの実態解明と理論の確立に大きな貢献を成し遂げた。
著者
早川 典生 陸 旻皎 川田 邦夫 富所 五郎 宮下 文夫 石坂 雅昭 渡辺 伸一
出版者
長岡技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.分布型流出モデルによる松花江1998年洪水の解析松花江流域全域について、格子間隔30分の分布型流出モデルを開発し、1998年大洪水の流出解析を行い、洪水現象の発生を再現させることができた2.1 松花江流域の積雪量調査を行い、資料を収集して積雪量分布の概略を把握した。2.2 分布型モデルによる融雪流出解析松花江流域の支川,拉林河と甘河において,降水量,流量データを取得し,その分布特性を調べた.その結果,降水量分布に顕著な標高依存特性が見られた。拉林河において,格子間隔90mの分布型流出モデルを開発した。このモデルについて、降水量,流量データを取得し,洪水流出解析、融雪流出解析を行った。その結果洪水流出解析では計算流量が実測流量に比べて少なく出る傾向があった。融雪流出解析では融雪初期の流量を再現するために気温の日較差を考慮した計算手法を考案した。
著者
富所 敦男 間山 千尋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

(1)前眼部フーリエドメインOCT(以下、FD-OCT)による隅角微細組織構造の同定、論文掲載輸入摘出人眼の隅角部を前眼部FD-OCTの高解像度スキャンにて撮影することで、隅角部における房水流出経路として重要なシュレム管や線維柱帯の構造を非侵襲的に同定することが可能であった。シュレム管は空隙としてとらえられ、外科的拡張操作の前後にFD-OCTの撮影を行うことでシュレム管であることを確認した。さらに、正常人ボランティア30人60眼において、超音波生体顕微鏡(UBM)、前眼部FD-OCTによる隅角部画像データを取得し解析した。その結果、正常人眼60眼においてシュレム管は87.5%と高い頻度で同定できた。シュレム管の平均長径は347.2±42.3μm、線維柱帯の平均長径は466.9±60.7μm、線維柱帯の平均面積は0.0671±0.0058mm^2であるなど正常な隅角構造の定量的な解析を初めて行うことが可能であった。これらの成果については英文論文として発表した。(2)狭隅角眼を対象とした前眼部画像データの解析原発閉塞隅角症、原発閉塞隅角緑内障患者を含む狭隅角眼を対象として、長期間前向きに隅角構造の定量的パラメータの変化を追跡する他施設共同研究を主導して実施し、最終的に257例451眼が組み入れられた。現在はエントリー終了後、定期的な経過観察FD-OCTや他の臨床検査、取得したデータの解析を進めている。エントリー時における断面的データから、虹彩前癒着のある症例では隅角角度は上下方向で薄く、狭隅角眼が女性に多く女性には男性に比べ遠視、短眼軸、薄い角膜厚の傾向があることなどを国内の学会で発表した。(3)前眼部FD-OCTによる隅角全周解析を用いた狭隅角眼における隅角閉塞領域の検討狭隅角眼43眼において、緑内障につながる隅角閉塞の検出頻度を前眼部FD-OCTとUBMで比較した。UBMでは明所下、暗所下にて各18.4%、44.1%で少なくとも部分的な隅角閉塞が認められたのに対し、前眼部FD-OCTでは各72.4%、75.7%とより高率であり、高速、高解像で隅角全周の解析が可能な前眼部FD-OCTが、閉塞隅角緑内障の診断や発症メカニズムの解明に役立つことが示唆された。これらの成果については英文論文として現在投稿中である。
著者
井口 淳子
出版者
大阪音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

戦間期、1920年代から40年代の大阪と上海における西洋音楽受容について、音楽専門教育と、ロシア人、ユダヤ人亡命者による演奏会や教育活動を対象に、文字資料とインタビューにもとづく調査をおこなった。とくに上海については、当時発行されていた「外国語新聞」、とくに、フランス語LeJournaldeShanghai、ロシア語新聞Slovo、Zariaなどを収集、解読することによって「同時代音楽」(バレエを含む)の活発な上演実態を明らかにすることができた。
著者
小笹 祥子
出版者
八王子市立第十小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

研究目的 学校現場においてリストカット,根性焼きなどの自傷行為は特別なことではない。自傷行為生徒への早期働きかけが可能なのは,養育者以外では教員となる可能性が高い。そこで,教育の場である学校の特性と限界を念頭に置いた支援方法の構築が必要と考えられる。教育現場における,自傷行為生徒への適切な対応を阻害する要因を質的に分析し,その阻害要因の対策を検討し,教育現場で実施できる自傷行為生徒への支援方法を開発することを目的とする。研究方法 本研究は,一般中学校に勤務する教員を対象とし、自傷行為生徒への対応について,自由記述方式によるアンケート調査,インタビュー調査により質的に分析した。質的に分析した結果から,阻害要因を抽出・分析し,自傷行為生徒本人,家族・学校組織を含む環境要因への支援を検討した。インタビュー調査は、夏期休業中期間に、研究者が研究者と親交のある公立中学校へ出向き、その中学校に勤務する教員7名に実施した。インタビュー内容の分析・支援方法の開発においては、事例検討会開催、児童精神科医師、心理士より専門的知識提供を受けた。研究成果 インタビュー調査内容の分析より、1)教員は生徒に相談されるとうれしいと感じること。2)授業中に周囲に周知されるようにリストカットをする生徒がいること。3)学校だけでは抱えきれないと強く感じていることの3点が明らかになった。教員が実施する支援においては、生徒個人と集団への教育的支援方法を開発する必要がある。支援においては、自傷行為の基礎知識、校内の相談・セスメント窓口、教員集団の連携が必要である。今年度は、専門家による自傷行為の講演、アセスメントシートを活用し学校の限界設定を念頭に置き生徒支援を実施した。課題として、より詳細な一般教員の自傷行為をする生徒への対応の調査を実施し、教員・学校の特性をふまえた支援方法を汎化する必要がある。
著者
矢守 隆夫 旦 慎吾
出版者
(財)癌研究会
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

がんの増殖・生存に関わるPI3Kは、がん治療の有力な標的と考えられる。我々は、新規PI3K阻害剤ZSTK474を開発し、世界に先駆けPI3K標的がん治療の有効性を証明した。本研究では、PI3K阻害剤の臨床開発に向け以下の知見を得た。1) PI3K遺伝子変異の解析:クラスIPI3Kの触媒サブユニットp110には4種のアイソフォーム(α、β、δ、γ)があり、各々PIK3CA、-B,-Dおよび-G遺伝子によってコードされている。PIK3CA変異のみ注目されているが、他の3種の変異は報告がない。そこで39種類のがん細胞株(JFCR39)でPIK3CB、-D,-G遺伝子の全塩基配列を決定し、ミスセンス変異を初めて同定した(PIK3CBに5箇所、PIK3CDに3箇所、PIK3CGに8箇所)。これらが機能獲得型変異かどうかは興味深い。2) PI3K遺伝子変異を持つがんに対する効果:JFCR39におけるPI3K変異プロフィルとZSTK474に対する感受性に相関があるかどうかを細胞レベルならびに動物レベル(ゼノグラフト)で調べたが、有意な相関は認められなかった。よって、PI3K阻害剤の抗がん効果は、PI3K変異状態には無関係と考えられた。3) PI3Kスーパーファミリー(クラスI、II、III、PI4KおよびPI3K関連キナーゼ)への効果:ZSTK474はクラスIPI3Kへの特異性が高いことが判明した。4) 脳腫瘍への効果:脳腫瘍同所移植モデルにおいてZSTK474は経口投与で有効性を示したことから、脳腫瘍治療への応用が期待された。5) 他の薬剤との併用効果:ヌードマウス移植ヒトゼノグラフトに対しZSTK474は、mTOR阻害剤ラバマイシンとの併用で効果増強を示した。PI3K経路を2箇所で阻害する治療は有望と考えられた。
著者
美馬 のゆり 木村 健一 渡辺 政隆 木村 政司
出版者
公立はこだて未来大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

公衆の科学技術意識の向上のために有効な公空間における対話的科学コミュニケーション手法について、デジタル技術を応用したシステムを構築し、参加者の科学技術リテラシーの向上を図るための実証的研究を行なった。科学館のない地方都市において、地域が有する資源を有効活用した地域活動を組織化し、公空間を積極的に利用することで、参加者の科学技術リテラシーの向上を図れることが明らかになった。
著者
吉田 文和 寺西 俊一 山下 英俊 外川 健一 寺西 俊一 山下 英俊 外川 健一
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

ITと環境問題を3の側面から検討した。第1は.IT製品・IT部品の生産による環境影響である。いわゆるハイテク汚染問題そして半導体生産に必要な原料やエネルギー需要の問題である。第2は, IT製品の消費によるエネルギー需要である。とくにサーバによる電力需要が増加傾向にある。第3は, IT製品のリサイクルと廃棄による環境問題である。日本と世界の家電リサイクル制度について比較検討を行った。
著者
矢内 桂三
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

平成6年(1994)を予備調査とし,平成14年(2002)〜平成17年(2005)に4回の本格的な隕石探査をモンゴル国南部のゴビ砂漠一帯で実施した.砂漠での探査を中心に,都市部の博物館,地方の資料館及び各学校の岩石標本もくまなく調査した.更に原住民からも隕石の情報を入手し,探査に活用した.本研究までに知られていたモンゴル産隕石は次の5個である.Adzhi-Bogdo II(隕鉄,582kg),同I(コンドライト,910g).Manlai(隕鉄,166.8kg),Sarigiin Gabi(隕鉄,17.5kg)及びTugalin-Bulen(コンドライト,〜10kg)である,今回の探査で確認した隕石は,モンゴル唯一のエコンドライトJalanash(ユレーライト,〜700g)とNartiin had(コンドライト,1,946g)の2個である.原住民が隕鉄として所有していたOliziitを現地では隕鉄と判断したが,帰国後詳しい分析の結果"人工鉄"と判明した.現地の博物館等で隕石として展示してあるものや"隕石"と称されている資料を全部チェックしたが,隕石でなく,多くは人工鉄(銑鉄など)や地球の玄武岩-ハンレイ岩であった.ゴビ砂漠の広範囲を調査した結果,ゴビ砂漠では数10年〜数100年間隔で,大雨-洪水が起こっている可能性が高く,この洪水により地表面が更新され隕石の集積(蓄積)には適していないと判断される.数万年〜数10万年あるいはそれより長い期間地表面の変動がない場所こそ隕石は集積するとものと考えられる.
著者
中島 千恵 坂本 裕子 浅野 美登里 落合 利佳 鳥丸 佐知子
出版者
京都文教短期大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1.2年間の取り組みを通した学生の食意識改善度、連携力向上の分析:入学後の知識の獲得が意識改善に影響をもたらし、意思決定に関わる価値の内面化、一情報獲得への姿勢にも一定の効果があった。しかし、著しい行動変容をもたらすには至らなかった。とりわけ、女子学生のやせ願望は改善しなかった。学生対象のアンケートは自己認識を高め、問題意識、改善意識を高める手段として効果があを目指した大学祭での食育実践では、約60%が他専攻の学生と一緒に活動できたことを評価しておりった。また、家庭におけお「お手伝い」の無と改善度との相関関係が伺われた。連携力を培うこと、企画検討のプロセスが相互の専門性に関心を持ち、連携する上での困難や問題点に気づかせる機会となった。2.卒業生対象の追跡調査の実施と分析:食育基本法制定以前の学生(平成15年度入学)291名と本研究を通して様々な経験をした平成19年度入学生377名を対象にアンケートを実施し、大学教育の効果を探った(回収率約30%)。大学で学んだ知識や技術の有用感は、平成19年度入学生の方が約30%多かった。しかし、食育基本法が制定され既に3年を経過しているにも関わらず、保育士、栄養士ともに「活用の機会が無い」と感じていた。3.保育園での食育実践:学生の連携力を高める更なる取り組み:合同の講演会に加え、中島、坂本、浅野が担当するゼミで合同授業や合同保育園見学を行い、近隣の保育園2箇所で学生主体の食育実践を行った。4.京都府下の保育園アンケートの分析とフィードバック:平成20年度に実施したアンケート結果から、保育園では栄養士より保育士が食育の企画や実施に取り組んでいるケースが多いことがわかった。栄養士の保育所への配置も含め、今後、養成校のみだけでなく、政策的にも栄養士の保育園や学校での食育実践力に力が注がれる必要があると考える。
著者
松香 敏彦
出版者
千葉大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究ではカテゴリー学習において、学習者の個人の目的が獲得される概念・知識に影響を与えること、また、ある概念は単一に表象されているのではなく、複数の表象をもちうるということが、行動実験によって明らかにした。これらの状況に応じた知識を獲得する能力、複数の表象を持つ認知メカニズムが、人間の適応性を要素であることを計算機シミュレーションによって示した。
著者
宍戸 宏造 鳥澤 保廣 久山 哲廣 新藤 充
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

2年間にわたり、細胞接着分子誘導阻害活性を持つ2種の海洋産天然物、ハリクロリンおよびラソノリドAの合成研究ならびにハリクロリン合成中間体の生物活性評価を行い以下1-3の成果を得た。1、ハリクロリンの合成研究:前年度に確立した三環性コア部分の合成法を基盤に、全合成に向けて研究を展開した。その結果、全合成には至らなかったものの、重要鍵中間体までの大量合成ルートを確立することができ、数種の化合物を3で述べる生物活性試験に供することができた。また、光学活性体の合成をめざして検討を行い、鍵となるアザスピロ環部のエナンチオ選択的合成を達成した。この方法も短工程で収率も高く効率的なものである。今後、光学活性体としての全合成に大きく寄与できる結果である。2、ラソノリドAの合成研究:全合成において鍵となる2種のヒドロピラン環部のうち、C1-C16セグメントの高立体選択的合成法を確立することができた。また、C18-C25セグメントの合成も行ったが、予期に反し、C21位でのエピ化が起こり、目的物のジアステレオマーが得られた。今後、この点の解決と全合成の完結に向けて検討を加えたい。3、ハリクロリン合成中間体の細胞接着・浸潤を制御する新規医薬品リード化合物の探索:ハリクロリンを範とし、動脈硬化や難治性炎症疾患治療に有効な薬物の開発につながるリード化合物の創製を目的に、今回合成した中間体を用いて、その生物活性評価を行った。正常およびガン由来細胞株を用いてスクリーニングを行った結果、一つの化合物にアポトーシス様の現象が観測された。このものは、最もハリクロリンに類似した骨格構造と官能基を有しており、天然物そのものもアポトーシスを誘導する可能性が期待され、全合成の意義がますます大きくなった。今後、本来のVCAM-1誘導阻害活性のみならず、アポトーシスの誘導に関する生物活性についても詳細な検討を加え、分子機構の解明と新規リード化合物の創製をめざしたい。
著者
川村 武 菅原 宣義 柏 達也 田口 健治
出版者
北見工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

暴風雪悪視界下の車両のナビゲーションシステムをUHF帯RF-IDシステムを用いて構築することが本研究の目的であった。まずRF-IDタグをアスファルト道路中に埋めるための埋設方法を検討し,実用に供するに足る埋設方法を開発した。またUHF帯RF-IDタグの埋設間隔などのシステムの構築方法を屋外の計測実験より導き,実験道路にRF-IDタグを埋設し,実験を行った。誘導用のGraphical User Interface(GUI)をWindows Xp上に作成し,誘導実験を行った。またシステムに用いるアンテナの数を1個から2個に増やし,これに対応するGUIも作成した。屋外実験において,視界の良い天候でも,暴風雪悪視界の状況を再現するために実験車両の運転席前面のウィンドウにビニール製発泡梱包材をはり,前方が見にくい条件下で走行実験を行った。その結果,発泡梱包材をはった悪視界下でも車両を良好に誘導できた。700MHz帯でのRF-IDシステムの対応に備えて,同周波数の交差点等での電波伝搬に関するシミュレーション実験を行い同周波数帯の交信に関する知見を得た。
著者
北岡 良雄 石田 憲二
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

2本鎖梯子型量子スピン系のSrCu_2O_3について非磁性不純物(La-4%,5%,Zn-1%,3%)、磁性不純物(Ni,l%,2%,3%)を添加した系、ホールがドープされたSr_<14-x>Ca_xCu_<24>O_<41-y>系についてのCu-NQR、NMR測定を行い、梯子格子系の量子コヒーレンスの効果によって特異な磁気秩序が発現することを明らかにした。平成9年度の成果1. SrCu_2O_3にZnおよびNiを添加した系では、共通に反強磁性磁気秩序が起こることを示し、磁気モーメントの大きさは不純物近傍で空間的な分布をもつが、丁度不純物間の中間領域では0.041μB程度の比較的に均一な反強磁性自発分極をもつことを明らかにした。2. Zn添加系で反強磁性磁気秩序が起こる臨界濃度は0.5%付近であることを緩和時間の測定から明らかにした。3. L.aを添加した系(電子ドープ系)では、磁場による反強磁性分極が誘起されるが最大5%まで磁気秩序は起こらないことが明らにした。これはLaがSr位直に置換され、ラダー面のCu位置に均一に電子がドープされることに起因していることを示唆した。4. ホールがドープされたSr_<14-x>Ca_xCu_<24>O_<41>系では、すでに存在するホール濃度が少ない試料では空間的に均一な反強磁性分極が磁場によって誘起されることを見出した。平成10年度の成果1. 不純物(Zn,Ni,La,)によって誘起された異常磁性不純物によって誘起される交番磁化分極の相関長ξ_Sが不純物の種類に依らず、不純間距離とともに増大することを示した。また不純物を添加しない系のスピン一重項液体状態の相関長より極めて長いことが明かとなった。2. ホールドープ系スピンラダーの常圧での磁気秩序の同定加圧によって超伝導が発現するSr_<2.5>Ca_<11.5>Cu^<24>O_<41>は常圧下でT_N=2.2Kで磁気秩序を示すが、NMR/NQRの研究からラダー面上で0.02μ_Bの比較的に一様な大きさの自発磁気モーメントを持ち、鎖面上で最大0.5μ_Bの分布した磁気モーメントをもつ磁気秩序状態にあることを示した。梯子スピン系に不純物が添加されると低エネルギー励起(スピノン)が誘起され、その励起を媒介にして磁気秩序が発生する。一方、ホールをドープした系では多様な電子相が現れる。遍歴する場合は、超伝導が出現し、局在する場合は電荷密度状態と磁気秩序が共存する。電荷およびスピン自由度の局在と遍歴に起因して多彩な電子相があらわれることが本研究によってか明らかとなり、低次元量子スピン系の新しい研究分野の方向を切り開くことができた。