著者
野田 由美意
出版者
成城大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

昨年度の調査結果をまとめた論文「1919-1920年代前半における読書を通じてのパウル・クレーとアジア・オリエントの関係」(『美學美術史論集千足伸行教授退任記念』19輯、2011年、219-233頁)で、クレーのアジア・オリエント関連文献の蒐集期には、1909年~第1次世界大戦期に第1次ピーク、1919~24年に第2次ピークがあることを取り上げ、その読書体験の分析を行った。本年度では、この第2次ピークにクレーがアジア・オリエントに関する作品をやはり多く制作していることに注目し、関連作品の精査を行った。昨年度から調査を行っていた作品《中国風の絵》(1923年)が、本年度の調査過程で《中国風の絵II》(1923年)ともとは1つの作品であり、クレーが制作のある時点で縦方向に2つに切断したという可能性が非常に高いことが発見された。そこで本年度は、ベルンのパウル・クレー・センターと宮城県美術館でこれらの作品についての情報収集と、作品調査を中心に行った。また、ヴァイマール・バウハウスにおけるアジア・オリエントの関心や当時のドイツと中国やインドとの政治的関係を明らかにするために、ベルリンのバウハウス・アーカイヴやヴァイマールのテューリンゲン州立中央文書館等で資料調査を行った。その調査結果を、美術史学会例会(於東京藝術大学)で「パウル・クレー作《中国風の絵》(1923)と《中国風の絵II》(1923)の制作背景について」として発表した。本発表では両作品やインドに関する作品を中心に、クレーがヴァイマール・バウハウスの当時の環境にあって、クレーがアジア・オリエントの芸術や社会に積極的に接近し、その関心が作品の源泉となり得たこと、そしてその関心は、画材や制作過程についての取り組みにまでも及んだということを明らかにした。これにより、クレーとアジア・オリエントへの関心とその作品制作への反映に関して従来の研究で取り上げられなかった局面が新たに実証され、クレー研究に新たな地平を開いたと考える。
著者
行場 次朗 三浦 佳世 北岡 明佳 川畑 秀明
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、R.L. Gregoryの「心のデザイン」モデルを援用し、人間情報処理の主要な3つのストリームに由来するクオリア、アウェアネス、知覚ルールを次元的にクロスさせて、体系的に視覚芸術の基底をなす共通項とその心理・脳科学的基盤を明らかにする世界に類がない試みを行った。その結果、心理・脳科学的には、視覚美の様相は多数存在し、それぞれが機能的に特殊化した脳内のモジュール活動に結びついており、本研究で示した分類法の妥当性とともに、美を感受するモジュールやストリームの多重性が明らかにされた。
著者
深井 喜代子 前田 ひとみ 佐伯 由香 關戸 啓子 兵藤 好美 樅野 香苗 大倉 美穂
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は,看護ケア技術の科学的根拠を明らかにし,看護界におけるEvidence-Based Nursing(以下,EBN)推進の一役を担うことであった。清潔ケア,感染看護,寝床環境,食のケア,そして痛みのケアのそれぞれの領域において,ケア技術のエビデンスを探究する研究を遂行した結果,以下のことが明らかになった。1)39℃の湯を用いた10分間の片手の手浴は,事後に保温することによって1℃以上の両手の皮膚温上昇と温感が手浴後少なくとも30分間は保たれた。2)手浴終了後の薬用クリームの使用で保湿効果が持続し,皮膚の生理機能が維持された。3)学生の手洗い行動を習慣化させるには,行動化に向けた教育方法の検討が必要なことが分かった。4)シーツ素材の吸湿性が低いと,寝床気候の悪化を招来することが示唆された。5)ヒトの話声は,話の内容に係わらず,70dB以上の大きな声の場合,不快感や交感神経系の緊張を高めることが明らかになった。6)欠食は疲労の原因になるほか,やる気や精神状態の安定にも影響を及ぼすこと分かった。7)一側の手の手浴で反対側の手の実験的疼痛閾値が上昇することが明らかになった。8)看護行為で発生する様々な音のうち,比較的持続時間が長く,大きな音は鎮痛をもたらすが,一時的にストレス性の生体反応を引き起こすので,看護行為中の不用意な音の発生を避けるとともに,事前に音についての説明を行うべきであることが提案された。9)4基本味うち,甘味と酸味にpricking painに対する鎮痛効果があることが分かった。10)温罨法の鎮痛効果は,皮膚温38℃以上の加温で始めて現れることが,実験的に誘発したpricking painで証明された。
著者
岡 明憲
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

私は、当年度において、光学的に厚い原始惑星系円盤におけるスノーラインの位置とその進化を数値計算によって求めるという研究を行った。特に、これまで円盤の温度構造に大きな影響を持つと考えられてきた氷粒子の減光による影響について調べた。まず、計算のための準備として、シリケイトと氷の2種類のダスト粒子による減光(吸収・散乱)を考慮した1+1次元の輻射輸送計算コードを開発した。この計算コードは輻射輸送方程式を高精度で解いており、世界的にもレベルの高いものである。今後、このコードを用いて様々な応用が期待される。計算の結果、スノーラインは、円盤進化初期においては中心星に向かって移動し、円盤進化後期には中心星から遠ざかっていくことが分かった。また、円盤進化初期においては、中心面の上層に生じた氷粒子の雲が中心面で発生した粘性加熱による熱エネルギーを円盤外部へ逃げにくくし(毛布効果)、中心面付近の温度を上昇させ、氷なしの場合と比べてスノーラインの位置を中心星から遠い位置に追いやることが分かった。その遠ざかる比率は円盤ガス中の水蒸気量に依存し、それを見積もるための式を導出した。本研究の成果により、これまで不明であった、氷粒子を考慮したときの現実的なスノーラインの位置の振る舞いを解明することができた。これにより、惑星形成や円盤内の化学進化などについて、より精度の高い議論がでさるようになると思われる。また、近年原始惑星系円盤において氷粒子が観測されるようになってきており、本研究で開発した計算コードを用いることによって観測における理論的サポートを行うことができた。
著者
幸福 輝 佐藤 直樹 渡辺 晋輔 栗田 秀法 金山 弘昌
出版者
独立行政法人国立美術館国立西洋美術館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、16世紀から17世紀にかけ、版画という媒体において古代がどのように表象され、また、この媒体を通じて古代文化はどのように伝播されていったかという問題を、西欧各国の具体的な事例に基づいて、明らかにしようとする目的でおこなわれた。もとより、きわめて大きな問題であり、われわれの目的はその基礎的な概略図を描くことでしかないが、それぞれ異なる分野を専門とする者が協力しあったことにより、当初の目的は達成できたのではないかと考えている。はじめに、イタリア、ドイツ、ネーデルラント、フランスの順で、ごく簡単にこの主題について各国の状況を略述し、次いで、各研究分担者による研究成果を掲載する。佐藤はデューラーとイタリア版画の関係について、幸福はヒエロニムス・コックの版画出版活動について、金山は古代建築の復元図とバロック建築との関係について、渡辺はズッカレリの風景画に見られる古代彫刻のモティーフについての議論をおこない、栗田はフランス・アカデミーにおけるラオコーンに関する講演の翻訳とその解題を寄せている。なお、国立西洋1美術館に属す研究代表者の幸福と研究分担者の佐藤および渡辺は、2005年と2007年に本研究に関連するふたつの版画の展覧会(『「キアロスクーロ:ルネサンスとバロックの多色木版画』と『イタリア・ルネサンスの版画』)を同館で企画・開催した。別冊資料1、同2として、それら2冊の展覧会図録を本研究成果報告書に添付して提出する。
著者
松友 知香子
出版者
札幌大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、以下の3項目についての研究を行った。まず1920年、30年代ドイツにおける芸術表象としての<天使>と近代都市の関係性の考察である。パウル・クレーとエルンスト・バルラハの両作品における<天使>の造形は、美麗なキリスト教の天使像から逸脱し、近代的な造形へと還元される一方で、<都市>という生活世界で苦悩する人間の内面を映す媒体として天使像が選ばれたことを確認した。次にフィリップ・オットー・ルンゲの版画作品『一日の諸時間(Die Zeiten)』を取り上げ、<天使>と<子ども>の関係性について考察を行った。この作品は<時>の循環を、連作という形式で実現し、各作品は中央部分とそれを取り囲む枠の二重構成となっているが、その中央部分に<天使>が唯一登場する「夜」に着目し、ルンゲの意図する「最後の審判」としての『夜』の意義づけと、<天使>と<子ども>の造形的特徴と身振りの分析から、両者の関係性を解釈しようと試みた。この十全な解釈には、本作品に先行する『アモール神の凱旋(Der Triumph des Amor)』における<アモール神(クピド)>と人間の諸段階(幼少期、青年期、壮年期、老年期)を表象する<子ども>の考察が不可欠であり、そしてバロック・ロココ的な愛の神クピドではなく、ギリシア神話に由来する原初神エロスとしての解釈が成立するかということが次の課題になることを確認した。最後に現代社会における<天使>表象を考察した。当初の計画では、現代日本のサブカルチャーにおけるキッチュな<天使>や人造人間としての<天使>を主な対象とする予定であったが、その領域が広範囲にわたることが判明したため、ドイツ文化圏における天使像に限定し、先行する研究との連続性から、ヴェンダースの1987年の映画『天使の詩(Der Himmel uber Berlin)』を対象とした。この作品には、キリスト教の天使や図像から派生した様々な天使を集約した<天使ダミエル>と<天使カシエル>が登場する。有限の時間を生きる<人間>の運命に<天使>が共鳴するというストーリー展開であり、そこには、かつての<天使>に対する人間の憧憬の反転が見られる。これを近代の「倒錯」と見るか、それとも<天使>の本来の姿と見るかについては、結論は保留としたい。
著者
有光 秀行
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

これまで積み重ねてきた「ネイション・アドレス」研究を最終構築段階に入れるべく、国内で参照不可能な地方史関係刊行物、さらにイングランド司教文書・ノルマン朝国王文書・12世紀を中心とした教皇庁文書などのうち、これまで未検討であった史料にあたって分析を行ない、とくに「文書形式」そのものの伝播・継承・変化についてデータを充実させ、総合的な像の構築をこころみた。同時に、地域の実情(「ノルマン人」の定着度)とのかかわりについても考察した。
著者
向坂 保雄
出版者
大阪府立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、超徹泣子の計測に静電分級器(DMA)と凝縮核計数器(CNC)もしくはエレクトロメータ(EM)を用いて、ナノメータサイズのエアロゾル粒子およびイオンクラスターの動力学的挙動について研究を行い、次の成果を得た。初年度では、DMAによって超微粒子を分級するときにおこる電気移動度のシフトについて理論的・実験的検討を行い、(1)異なる粒子径をもつ粒子のブラウン拡散による混合効果、および(2)帯電泣子によって発生する空間電界の存在によってシフトが生じることを明らかにした。またその結果、(1)平均粒径よりも小さい粒子は真の粒子径よりも小さく測定される、(2)平均粒径よりも大きい粒子は真の粒径より大きく測定される、(3)粒子個数濃度が高い方が電気移動度のシフトは大きくなる、(4)低い個数濃度の場合でもブラウン拡散の影響によって電気移動度のシフトはおこる、(S)電気移動度のシフトは一段目のDMAについてのみ重要で、二段目のDMAでは無視できることを指摘した。次年度では、初年度の研究成果に基づき、タンデムDMAシステムを用いてモビリティシフトを考慮した正確な粒子径を求めることにより、ナノメータサイズ粒子のワイヤスクリーンと層流円管内の透過特性について検討を行い、(1)粒子の電荷は透過特性に影響を及ぼさない、(2)Cheng-YehとGormley-Kennedyの既存の理論はStokesーEinsteinの式で粒径換算した2nmまで良く一致する、(3)金属表面での跳ね返りはなく、金属表面に衝突した粒子はすべて沈着することを明らかにした。さらに、両極拡散荷電効率について実験的検討を行い、粒径が3nm以上では、イオンの電気移動度については実測値、質量については既往の文献値を用いることによりFuchsの理論とよく一致するが、3nm以下では理論より小さい値になることを明らかにした。
著者
前田 亜紀子 山崎 和彦
出版者
長野県短期大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

野外活動用被服類の温熱的快適性について検討するため、3種実験を行った。実験(1)では、野外活動用被服類の各種環境条件下における観察から、フィールドにおける評価方法を検討した。実験(2)では、野外活動における衣服の濡れについて、人工降雨および自然下降雨について比較し定量化した。その上で、徐々に衣服が濡れる場合の生理・心理的影響を捉えた。実験(3)では、寒冷下での野外活動を想定し、被服類内部に発生する結露現象をモデル実験で捉えた。さらに零下15℃における着用試験を実施し、生理・心理的影響について検討した。
著者
境田 清隆
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

気象庁技術報告第34号「積雪累年気候表」には、1963年までの約800地点における最深積雪深と積雪日数の累年値が掲載されている。本研究では、各県の気象月報等を用いて、1931年まで遡ることが可能で、かつAMeDASデータにより現在まで接続可能な地点の積雪データを収集した。その結果、435地点について、1931〜1991年の最深積雪深および積雪日数の累年値を収集した。しかし、気象官署以外の観測点では欠測年が多く、また明らかに異常なデータも散見され、データの均質性をチェックすることは容易ではなかった。本研究では、そのうちほぼ均質なデータの得られた、北海道17地点、東北地方43地点の積雪日数のデータを用いて、地域毎の気候変動と都市の影響とを分離する方向で、解析を行なった。北海道と東北地方でそれぞれ、地点間のクラスター分析を行ない、積雪日数の年々変動の類似性の観点より、北海道で4地域、東北地方で5地域に区分した。そして地域内平均値の経年変化によって地域の気候変動を明らかにし、地域内の都市と非都市との比較から、積雪に及ぼす都市の影響を検討した。その結果、1)北海道は南部で減少、中北部で変化なしであるが、札幌は減少が著しく、地域平均との差は約6日である、2)東北地方太平洋岸は、地域としては積雪日数の増加が顕著であるが、仙台は増加しておらず、地域平均との差は約8日に及ぶ、3)盛岡など県庁所在地クラスの都市においても、地域平均に比べ8〜10日程度減少している、4)札幌・仙台・県庁所在地など都市規模により都市の影響が顕在化する時期がずれていること、などが明らかになった。
著者
近江 隆 北原 啓司
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

大都市圏及び地方中心都市に立地する区分所有集合住宅(マンション)において、所有と利用の不一致、すなわち、所有者の不在化の進行状況、背後にある所有権の流動化、マンションの立地・供給動向、不在者の離散プロセスとその意味等について分析した。調査対象は札幌、仙台、大宮、千葉、名古屋、堺、広島、福岡である。分析結果の概要を以下に述べる。1.大都市圏のベットタウン都市は不在化が抑制され、逆に所有権の移動が激しい。これは中古住宅の流動性の高さ、定住の為の住宅需要が支配的であることを示す。2.地方中心都市では不在化が4割水準に達し、賃貸住宅需要、業務需要マルテハビテーションの需要が大きい。従って、投資的要素が強く、それだけ所有権の移動が抑制されている。3.不在化はオイルショック後に完成した物件で特に進行し、ストックとしての不安定な状態が益々深刻化してゆくと考えられる。4.不在化は立地、建設年代、開発・販売主体等の要因でかなり左右される。但し、これらの作用は地域の市場関係の特殊な条件とも関連し、各々の都市で独自な傾向をもつくりだしている。5.不在・賃貸化した住宅は市場において一定の社会的役割をはたしている。特に、着工レベルの小規模賃貸住宅への偏りが、市場レベルではマンションの賃貸化により、定住可能型と云える中・大規模の需要を吸収している。6.持家政策の中でつくりだされたマンションが、社会的な借家需要に応えるという矛盾を内在させている為、分譲持家としての限界性と共に、借家としても社会的ストックとして位置づけための問題性、要件の欠落と有している。所有者不在とその空間的離散は、マンションの社会的、政策的な位置づけの方向転換を迫る結果を示した。
著者
濱田 靖弘
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究は,主要地域が豊平川扇状地に位置している札幌に適したエネルギーシステムとして,扇状地特有の河川伏流水を用いた暖冷房システムの構築の可能性を検討するものであり,研究実施計画に基づいて本年度得られた主たる研究成果は以下の通りである.1.札幌における既存の地下水観測井戸における測定値の収集及び整理を行い,札幌扇状地の不圧地下水流動系の広域的な把握を行った結果,札幌は広範囲にわたって,極めて豊富な高流速の伏流水が存在する可能性が高いことが示唆された.2.地下熱利用のための基礎資料の作成を目的として,地中温度・不圧地下水位等の長期定点測定を実施した.地中温度の測定は,過去に例の少ない不易層到達深度にて行われ,不圧地下水位の変動特性及び不易層温度に関するデータベースを構築した.3.熱水分同時移動,粘性圧縮現象による積雪の変成過程,凍結・融解現象を考慮した積雪寒冷地に適用可能な地中温度シミュレーターを作成し,実測値との比較を行った結果,地中温度,積雪深等の計算値は,実測値を比較的良く再現することを示した.4.扇状地の伏流水を利用した暖冷房システムの設計フローを構築するとともに,伏流水の影響を考慮した地中熱交換器の熱解析モデルを作成し,地下水の流速,凍土形成,土壌の熱伝導率等の要因が採熱量に及ばす影響を示した.以上により,札幌扇状地の伏流水の広域的な流動系,地中熱環境に関するデータベースが構築され,暖冷房のための地中熱交換器の敷設規模の原単位が札幌について明らかになった.
著者
日野 正輝
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

札幌,仙台,広島,福岡の4広域中心都市はこれまで中心性および成長力の点で類似した都市として認識されてきた.しかし,1980年代後半以降,4都市間の成長の差が顕在化してきた.本研究はこの点を主に4都市の雇用者数の動向に焦点を当てて検証した.その結果,下記の諸点が明らかになった.(1)広島の人口および従業者の増加率は1980年代後半以降他の3都市に比べて継続して低位にある.この広島の成長率の低位は主に流通産業の成長の鈍化に求められる.広島の支店集積量は福岡の1/2程度の規模しかない.また,1980年代以降の成長産業である情報サービス業の集積においても,広島は4都市のなかで最も低位にある.(2)福岡と仙台の成長は最も良好であった.しかし,仙台の成長は1990年代においても域外企業の事業所の集積に依存し,地元企業の成長による従業者の増加は相対的に小さい状態にある.それに対して,福岡の従業者の増加は,域外企業の進出に依存すると同時に,地元企業の成長による部分が仙台に比べると絶対的にも,また相対的にも大きい.(3)札幌は,東京企業などの支店集積量では仙台と同規模にあって,福岡に比べると小さい.そのため,支店集積による従業者の増加も相対的に少ない.しかし,札幌では地元企業の従業者の増加数が大きい.この点は,情報サービス業においても同様の傾向にある.
著者
城 斗志夫
出版者
新潟大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

食用キノコの主要香気成分、1-オクテン-3-オールの生合成機構の解明を目的として、その生合成に深く関与すると考えられるリポキシゲナーゼ(LOX)を香り高いことで知られているヒラタケ(Pleurotus ostreatus)から単一に精製し、合成機構との関連を検討した。ヒラタケの傘をブレンダーと超音波破砕機でホモジナイズ後、遠心して粗酵素液を調製した。これをセファクリルS-400ゲルろ過カラム、ダイマトレックスグリーンAアフィニティーカラム、DEAE-トヨパールイオン交換カラムの3つのステップで精製した。その結果、LOXは126倍に精製され、回収率は5%、比活性33U/mgの蛋白質が得られた。精製酵素をSDS-PAGEで分析したところ一本のバンドしか検出されず、上記の方法でLOXは均一に精製されたことがわかった。精製酵素のゲルろ過による分子量は72,000で、SDS-PAGEでの分子量が67,000であったことから同酵素は単一のサブユニットから構成されていると考えられた。酵素反応の最適条件は25℃、pH8.0であり、本酵素は40℃以下、pH5〜9で安定だった。また、原子吸光分析と吸光スペクトル分析により本酵素は非ヘム型のFe原子を持つことがわかった。精製酵素は脂肪酸のうちリノール酸に高い特異性を示し、その反応生成物を調べた結果、13-ヒドロペルオキシドを特異的に生成していた。キノコの1-オクテン-3-オール生合成経路には9-ヒドロペルオキシドを経た経路と13-ヒドロペルオキシドを経た経路の2つの説があり、ヒラタケの結果は後者により1-オクテン-3-オールが合成されることを示唆している。さらに、露地栽培されたヒラタケのLOX活性を収穫時期である秋から冬にかけ測定したところ、収穫初期の10月頃で最も高く、寒くなるにつれ低下することがわかり、人が感じる香りの強度変化と一致していた。
著者
城 仁士 岡田 由香 二宮 厚美 青木 務 杉万 俊夫 近藤 徳彦 小田 利勝
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本研究は地域一体型の老人介護施設における利用者本位・住民主体の介護サービスがどのようなものであればいいのか提案し、さらにサービス機能の今後の方向性や評価方法を提言することを目的とした。平成13年度から15年度の3年間にわたって、次のような4つの研究アプローチを設定し、研究遂行した。1)社会システム論的アプローチ高齢者をとりまく社会システムを高齢者の発達及び自立支援という視点からアプローチした。特に介護保険によるサービスを個人の尊厳により選びとれる環境整備や制度的な問題点の洗い出しを行った。2)医療システム論的アプローチ高齢者を支援する環境づくりに向けて、地域医療の観点から実践研究を展開した。具体的には、高齢化率の高い過疎地域(京都市北区小野郷)における、住民が主体となって診療所を開設・運営するという新しい地域医療運動に、研究者も参加しながら、運動の経緯を検討した。3)生活環境論的アプローチ高齢者の衣食住環境を生活の主体者としての意識や生活意欲をひきだす環境づくりという視点からアプローチした。被介護者のみならず介護者、利用者の家族、スタッフのストレスを軽減するハード面とソフト面の機能を住環境学、食環境学、衣環境学から分析・評価した。4)心理行動論的アプローチ地域一体型施設における被介護者を中心としたスタッフ、介護者、地域住民の連携を促進する介護サービスの開発と評価を生活環境心理学、ストレス心理学、環境生理学の観点から行った。施設のサービス体系にもとづく調査結果を整理し、第8回ヨーロッパ心理学会や日本心理学会第67回大会に発表するとともに、今後の介護サービスの方向性やその評価方法について検討した。以上の結果に基づいて、今後は施設における集団ケアを少人数のユニットケアへ移行するとともに、個人の尊厳にもとづく新世紀型の施設介護のあり方を提言した。また、環境生理から研究からは、寒くなるとエアコンをつけるなどの行動性体温調節反応が高齢者ではどうなのかを検討した。この反応は自律性体温調節反応が衰えると大きくなり、また,高齢者では皮膚温度効果器の低下にも関係し、若年者より劣っている.このことから,高齢者の生活環境を支援するためにはこの反応も考慮する必要があることを明らかにした。最終年度には、本研究プロジェクトのこれまでの研究成果を実績報告書という形で公刊し、今後の施設ケアの方向性の参考として福祉施設関係者に配布した。
著者
酒井 保藏 石川 進 荷方 稔之 加藤 紀弘
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1日30m^3の水処理可能な大型の実験プラントを用いて、パイロットスケールでの磁化活性汚泥の実証実験をおこなった。最初沈殿池(約1m^3)、曝気槽(7.6m^3)、最終沈殿池(約1.5m^3)からなる活性汚泥プラントにおいて、曝気槽上部に小型の回転磁石ドラム(長さ80cm×直径30cm)を備えた磁気分離装置を1基設置し、大部分の高濃度の磁化活性汚泥を磁気分離により分離に、最終沈殿池でさらに残りのSS分を分離する磁気分離・沈降分離ハイブリッド方式を適用した磁化活性汚泥法について検討した。約5000〜10000mg/Lの高濃度汚泥を曝気槽に保持することで、自己消化による汚泥の減量を実現し、余剰汚泥を引き抜くことなく、半年間の実証試験に成功した。沈降分離槽から流出する最終的な処理水はCODCr=20〜30mg/L、SS=10〜20mg/Lと良好な処理水が得られた。また、汚泥滞留時間が長いことから、硝化が良好に行なわれることも確認された。7月に行なわれた下水道研究発表会ではポスター発表において最優秀賞を得た。また、10月に行なわれた磁気分離開発研究に関するワークショップでは、応用部門の優秀ポスター賞を得た。3月には、問い合わせのあった、イギリス・水処理企業まで出向き、国際的な共同研究・共同開発に関する打ち合わせを行なうことができた。パイロットプラントは世界初の実証規模での磁化活性汚泥法として、イギリスの磁気分離の著名研究者、荏原製作所、栗田工業などの多くの企業の見学を受けた。これらの結果は昨年3月28日にNature Science Update他に記事が掲載されたのをはじめ、6月にはアメリカ化学会のオンラインニュース誌、さらに7月にはアメリカ化学会のオンラインマガジン誌に繰り返し取り上げられるなど大きなインパクトを世界に与えたといえる。世界中の水環境関連のWebニュース、30誌以上で活性汚泥法の新しい技術として報道されている。
著者
山下 光雄 室岡 義勝 小野 比佐好 林 誠 山下 光雄
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2003

マメ科植物と根粒菌との共生系を利用して、生物的窒素固定能に加えて重金属集積などの有用機能を付与し発現する共生工学基盤技術を構築し、環境浄化に応用する目的で下記の研究を行った1.共生工学基盤技術の開発:共生分子遺伝機構を解明するため、マメ科モデル植物のミヤコグサを用いて共生状態と非共生状態における遺伝子発現の違いをマクロアレー技術を用いて測定した。2.メタロチオネイン4量体遺伝子およびファイトケラチン合成酵素遺伝子の根粒バクテロイド内での発現:メタロチオネイン4量体遺伝子とアラビドプシスより分離したファイトケラチン合成遺伝子をベクターにつないでレンゲソウ根粒菌Mesorhizobium fuakuii subsp. rengeiに導入し、この組換え根粒菌をレンゲソウ種子に感染させ根粒を形成させた。インサイチュハイブリダイゼーションにより根粒バクテロイド内で両遺伝子が発現していることが観察された。3.根粒バクテロイドの輸送系の改変による植物組織への物質移動の試み:上記遺伝子を導入した組換え根粒菌は、野性株に比べて20倍のカドミウムの取り込みを示したが、この組換え菌をレンゲソウに接種して、根粒を形成させたところ、組換え根粒では野生型根粒の1.5-1.8倍のカドミウム蓄積にとどまった。これは根粒内への重金属取り込み能の不足と考えられた。そこで、金属イオンの膜透過に関与するシロイヌナズナのIRT1(iron-regulated transporter)遺伝子を取得し、上記組換え根粒菌株に組み込んだ。IRT1遺伝子を組み込んだ根粒菌はカドミウムを1.5倍近く取りこんだ。そこで、この組換え根粒菌をレンゲソウに感染させ、根粒を形成させた。4.創生レンゲソウの重金属集積能試験:B3:PCS(IRT1)を感染して根粒形成させたレンゲソウを、カドミウムを含む人工土壌で生育させ、植物組織各部位のカドミウム濃度を測定した。その結果、IRT1遺伝子発現によるカドミウム集積能には差が見られなかった。したがって、根粒内における根粒菌によるカドミウム集積の限定要因は、植物細胞によるものだと考えられた。5.土壌のファイトレメディエーション:稲田の土壌を用いて組換えレンゲソウを栽培して、カドミュウム浄化能を試験した。非組換え根粒菌を感染させたレンゲソウでは、汚染人工土壌中のカドミウム取り込み効率が約0.4%であったのに対して、MTL4およびAtPCSの2つの重金属結合遺伝子を組み込んだ根粒菌を感染させたレンゲソウは、同程度のカドミウムに汚染されたフィールド土壌中のカドミウムを約9%も吸収していた。
著者
山崎 晴雄 長岡 信治 山縣 耕太郎 須貝 清秀 植木 岳雪 水野 清秀
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

鮮新・更新世に噴出した火山灰層の対比・編年を通じて、日本各地の後期新生代堆積盆地の層序・編年を行った。これを利用して、関東平野や北陸地域、宮崎平野などの古地理変遷を明らかにした。また、洞爺火山や浅間火山などの活動史や地形変化を示した。これらにより以下の成果を得た。1.中央日本(大阪〜関東)において1.3Maの敷戸-イエロ-1テフラの存在確認を初めとして、4〜1Ma(百万年)の間に少なくとも12枚の広域指標テフラの層序及び分布を明らかにした。これにより、10〜50万年ほどの間隔で時間指標が設定でき、本州に分布する鮮新・更新世盆地堆積物編年の時間分解能や対比精度が著しく向上した。2.本研究で発見した坂井火山灰層(4.1Ma)は現在日本で知られている最古の広域テフラである。アルカリ岩質の細粒ガラス質火山灰で、その岩石記載学的特徴から同定対比が比較的容易であり、今後、日本列島の古環境復元に活用できる重要な指標テフラとなろう。3.関東平野の地下についてボーリングコア中の火山灰と房総半島や多摩丘陵に分布する火山灰の対比が進み、平野の地下構造、深谷断層-綾瀬川断層の活動史、テフラ降下時の古地理などが判明した。4.関東平野の地下構造とテフラ編年から、この地域の活断層の一部は15Maの日本海開裂時に形成された古い基盤構造が、1Ma以降の前〜中期更新世頃に新しい応力場で再活動を始めたものであることが明らかになった。5.北海道各地のテフラ情報が集積され、洞爺火山の活動史などが明らかになった。6.九州の火山活動史がとりまとめられると共に、テフラを用いて宮崎平野の地質層序、地形面の編年が詳細に調査され、鮮新・更新統の層序が明らかになった。7.テフラを利用して浅間火山の更新世活動史、泥流流下機構、周辺の地形発達との関係が明らかになった。8.本研究で改良した広域テフラを用いた地層の編年・対比技術はエチオピアの人類遺跡の調査・研究にも活用された。
著者
安部 力
出版者
岐阜大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

過重力環境下飼育によって引き起こされる摂食抑制の改善過重力(3G)環境下でラットを飼育すると摂食量の低下が見られ,この原因として,前庭系を介する酔いが考えられる。実際,前庭系を破壊したラットでは,摂食量低下の改善が見られた。今回,我々はセロトニンの5-HT2A受容体に注目した。5-HT2A受容体のアンタゴニストであるketanserinは,前庭器からの入力を受ける前庭神経核の神経活動を低下させる。そこで,ketanserinを慢性投与しながら過重力環境下で飼育し,摂食量の測定を行った。Ketanserinを投与したラットでは,前庭系を破壊したラットには及ぼないものの,有意な摂食量低下の抑制がみられた。このことから,過重力環境におけるラットの摂食量低下には前庭系が関与しており,その改善にketanserinが有効であることが示唆された。起立時の動脈血圧調節における前庭系の関与起立時には,血液が下方シフトし,静脈還流量・心拍出量が低下し,その結果動脈血圧の低下が生じる。この動脈血圧の低下は圧受容器反射により緩衝され,動脈血圧は維持される。また,姿勢変化時には前庭系に入力が入る。我々は,起立によって生じる動脈血圧低下の影響を小さくするために,前庭系がフィードフォワード的に働いているのではないかと仮説を立て,自由行動下ラットの起立時の動脈血圧を測定した。圧受容器および前庭系を破壊したラットでは,圧受容器だけを破壊したラットに比べ,起立時には有意な動脈血圧の低下が見られた。また麻酔下の実験では,前庭系が正常なラットではhead-up tilt時に交感神経活動が増加し動脈血圧の低下を防いでいることがわかった。このことから,姿勢変化時の動脈血圧の調節には,前庭系が関与していることがわかった。
著者
栗山 繁 大渕 竜太郎 青野 雅樹 持丸 正明
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

人体の動作や形状を計測して大規模に蓄えられたデジタルデータ集合に対し、所望のデータを探し出す技術とそのデータを様々に役立てる再利用技術を開発した。動作データの探索に関しては世界最高の性能を達成し、規則の導出に基づく新たな探索機構も開発した。一方、形状データの探索に関しても特徴量の学習に基づく各種手法を開発し、世界最高クラスの性能を達成した。また、再利用技術を用いた種々のアプリケーションを開発した。