著者
佐藤 彰一
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究の課題は、約20年前に「発見」されたメロヴィング末期の7世紀末にフランスのトゥールのサン=マルタン修道院で作成された所謂「会計文書」を可能な限り多角的に解析し、史料的にきわめて限られているこの時期の西欧における社会構造を明らかにし、また農業生産の具体的な水準などを確定することであった。作業の手続きとして、まず第一にこの文書の書冊学的、古書体学的分析を行い、これがおそらくはローマ後期の租税関係文書の系譜を引く、トゥールの市政文書に由来するものであろうという仮説を提示した。第二に、「文書」に記載されている地名の比定を行った。これはフランス国土地理院から発行されている地誌図ならびに18世紀に作成された「カッシ-ニの地図」を用いた。続いて農民一人ひとりが納付している穀物貢租の種類と量から、その生産量を割り出し、更に貢租と翌年の種播き用の種籾などを控除した消費可能な穀物の扶養力を、カロリー計算とパンによる摂取形態とで総合的に判断すると1世帯当たりの家族成員が約4人で平均値であったことが知られる。農民の家族形態は、明らかに核家族形態が中心であった。第四に、穀物の栽培形式と生産量から、三圃農法の実践如何の点を検討し、トゥール地方では夏穀の大麦が播種期を徐々に繰り下げる形で春穀に転化し、三年輪作システムが中規模経営の農民層から始められたらしいことが窺われる。
著者
海谷 啓之 宮里 幹也 寒川 賢治 松田 恒平 北澤 多喜雄
出版者
独立行政法人国立循環器病研究センター
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究において、キンギョの脳から大きく2種類に大別される機能的なグレリン受容体(GHS-R1a,2a)と、それぞれの受容体のサブタイプ(GHS-R1a-1[構成アミノ酸数360アミノ酸(aa)],1a-2[360aa], 2a-1[366aa],2a-2[367aa])、計4種類の受容体cDNAを同定した。それぞれの受容体は組織特異的な遺伝子発現を示し、組織特有の生理作用に関わっていることが示唆された。魚類以外の脊椎動物では1種類のグレリン受容体(GHS-R1a)のみが知られているが、本研究で同定されたGHS-R2aは新しいタイプの受容体であり、これに対する新規リガンドの存在が想定された。キンギョの脳や腸の抽出物を用いて新たなリガンドを探索したが、本研究の期間ではその発見には至らなかった。
著者
秋田 恵一 山口 久美子 望月 智之 小泉 政啓
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

肩関節周囲の構造については、臨床の技術の向上にともない、ますます詳細な理解を必要とするようになった。そこで、本研究では肩関節周囲筋の解剖を見直し、総合的に新たに評価を行い、手術、診断といった臨床応用への基盤を形成する。また、肩関節の成り立ちを比較解剖学的に検討し、ヒトの解剖学的な理解に役立たせる。本研究の結果、非常に多くの解剖学的な新知見が得られ、臨床への応用が期待されることになった。また、比較解剖学的な知見から、ヒト肩関節の構造について、より理解が深まったと考えられる。
著者
市川 朝子
出版者
大妻女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

小麦粉濃度15〜20%でつくられるクレープやお好み焼きなどは、調理過程でグルテン形成を抑制する副材料が多量に加えられる。このような状態下でのグルテンの形成機構に閧する研究は未だに明らかにされていない。そこで本研究はまず、小麦粉に砂糖、鶏卵、牛乳、バター及び少量の食塩を加えてつくるクレープ生地を対象として、各々の材料と調製方法が仕上がり性状の及ぼす影響について検討した。その結果、調製時に良く攪拌し生地を均質にすることはクレープを軟らかく、引っ張りによるのびを良くし、しかも'ねかす'操作を省くことを可能とした。また、加えたバターはクレープの硬さや伸びに関与し、更に生地中に形成されたグルテンがバターによる、油っこさ'をマスクし、生地の硬さを軟らかくしかも伸びやすくすると推察した。次に加水量を小麦粉の0.5〜5倍量に変化させ生地中に形成されるグルテン量を比較した。加水量が増えると共にグルテン量は減少し、3倍以上になると激減したが、5倍量でもグルテンは形成されていた。また、材料として牛乳、バター、砂糖を用いると形成されるグルテン量は減少した。次に、加水量の異なる生地から得られる、'グルテン'の構造、すなわち単位分子量の大小について検討した。抽出したグルテンを0.5%SDS-2メルカプトエタノールに溶解した液を20万分子量分画フィルターでろ過し、高速液体クロマトグラフィーによるペプチド分析を行った。その結果、各々の生地から単位分子量の異なるペプチドが4〜6種類検出された。この組成比はアミノ酸1単位前後の分子量の小さなものが30〜50%を占めた。割合は加水量の多い(3〜5倍)生地の方が、加水量が少ない(0.5〜2倍)生地に比べ多かった。加水量1〜2倍からの組成にはアミノ酸230単位前後の高分子ペプチドが十数%含まれていた。以上の結果から、加水量の違いは、グルテン形成機構に質及び量いずれにも影響を及ぼすことが示された。
著者
澁谷 啓 川口 貴之 鳥居 宣之 木幡 行宏 石川 達也 齋藤 雅彦 中村 努 加藤 正司
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,ジオシンセティックスを用いたL型排水盛土防水工を,補強土(テールアルメ)壁工法に適用し優れた効果を確認した.谷埋め盛土など背面側からの浸透水が懸念される箇所で有効に機能するものと思われる.排水機能が健全な状態では震度 6 強~7 強震動観測地区であっても被災を免れると考えられる.また,スラグおよびスラグ混合土を用いた土層の変位量が一般土を用いた場合より小さいこと,また,スラグ補強土壁の盛土造成時の締固め度 80~85%程度でも安全率が Fs=1.6 以上確保できた事実よりスラグ補強土壁が施工性に安全であると判断される.
著者
畑江 敬子 戸田 貞子
出版者
和洋女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

高齢者の口腔内状態を把握するための検査食の開発を目的として、寒天ゲル及びデンプンゲルの調製を試みた。寒天ゲルについては寒天濃度の異なるゲルを再現性よく調製することが出来た。しかし、デンプンゲル検査食については手作りであったため、わずかに再現性に乏しくこの解決が課題であった。そこで、食品工業的に餅のような食感のゲルの調製を考え、業者に依頼した。これを冷凍保存し、必要に応じて一定時間蒸し加熱することで、再現性のある物性の検査食が出来ることがわかった。この検査食を用いて、少数の高齢者と若年者で、咀嚼してもらい、測定することを検討した。その結果、15秒間咀嚼してもらい、それを吐き出してもらうこととした。1辺が15cm、高さ約2cmのシャーレをアクリル板でつくり、シャーレに吐き出した寒天あるいはデンプンゲル試料をひろげ、デジタルカメラで撮影することとした。このとき、光が反射しないように、また、はきだした小片が重ならないように注意深く竹串でひろげるなど、測定条件を検討した。撮影した写真の画像解析により、粒度分布を測定することで、高齢者と若年者の口腔内状態が把握できた。最終的に若年者52名、高齢者76名の協力を得た。ストラスブールのシニアハウス2カ所を訪問し、当該施設で提供される1週間のメニューをしらべた。さらにストラスブールに住む高齢者の食生活の聞き取りを行なった。
著者
上倉 庸敬 藤田 治彦 森谷 宇一 神林 恒道 渡辺 浩司 永田 靖 天野 文雄 奥平 俊六
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

最終年度をむかえるにあたって本研究が直面していた課題は以下のとおりであった。現在、日本の「芸術」は二極化している。ひとつは純粋化を維持しようとする「芸術」であり、いまひとつは「あたらしさ=総合」という視点からクロスオーバーをめざす「芸術」である。それは実は、日本のみならず、世界の各局地における「芸術」概念の共通構造である。「芸術」の事象における世界的な傾向とは、各局地に通底する先述の構造を孕みつつ、各局地で独自の展開をくりひろげている多様さのうちにこそある。では、(1)日本の近代「芸術」概念が成就し、また喪失したものはなんであるか。(2)なぜ、近代の芸術「概念」は死を迎えねばならなかったか。(3)「ユニ・カルチャー」の傾向にある現代世界で、日本に独自な「芸術」概念の現況は、どのような可能性をもっているか。(4)その可能性は日本のみならず世界の各局地に敷衍できるかどうか。解答の詳細は成果報告書を見られたい。解答をみちびきだすために準拠した、わたくしたちの基本成果はつぎのとおりである。(1)西欧で成立した「芸術」概念が19世紀半ばから100年、世界を支配した。(2)その支配は世界の各局地で自己同定の喪失をもたらした。日本も例外ではない。(3)20世紀半ばから世界の各局地で自己「再」同定がはじまった。(4)再同定は単なる伝統の復活ではなく、伝統による「死せる芸術概念」の取り込みである。(5)再同定は芸術「事象」において確立され、芸術「概念」において未完である(6)日本における「芸術」概念の誕生と死が示すものは、2500年におよぶ西洋美学理論の崩壊である。
著者
河村 祐治 西村 龍夫
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

流路壁が正弦波状をなす波状流路内に生じる2次流れ及び物質移動特性におよぼす影響について実験的な検討を行った.1.2次流れは遠心力の不安定性よって形成ささるTaylor-Goertler渦であり, 幾何形状パラメータ(振幅・波長)にかかわらず, 流路間隔が壁面振幅の2倍以下では必ず発生することがわかった. したがって従来ほとんど問題とされなかった2次流れは, 流れのはく離と同様, 波状流路における流れの性質の一つとみなされる. また, 特殊な流動パラメータを用いることによって波状流路内の流れの不安定性を表す中立安定曲線を得た.2.波状流路内に生じるTaylor-Goertler渦は曲率の方向が周期的に変化するため, 曲率一定の長方形曲りダクトとは異なり, 上・下壁面に渦を生じる. その配列は2つあり, 一つはどちらか一方の壁面だけに渦が形成される安定型と, 上・下壁面に同位相で形成される不安定型である. 特に後者の配列が渦の崩壊をみちびき, 乱流遷移を促進させることが明らかとなった.3.2次流れの発生は局面からの物質移動速度を増進させる. 特に2次流れの特質によって流れが一波長毎に更新されるため, 物質移動の助走区間が短くなることが, その原因の一つであることが明らかとなった.
著者
久保 幸弘
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

GPSに代表される衛星測位システムでは,衛星から送信される擬似ランダム符号や搬送波の位相観測値を用いて,衛星,受信機間の距離を測定(測距)し,受信機座標を求める.従来,受信機単独でその絶対座標を求める手法は「単独測位」と呼ばれ数m程度の誤差を持つとされている.本研究では,この誤差要因を,1.電離層・対流圏の影響,2.衛星の軌道誤差,3.サイクルスリップ,4.移動体の動的モデル,の4つに分類し,その各々についてより正確な数式モデルを構築(GRモデル;GNSS Regression equation)し,観測データからこれらを同時に推定することにより,測位精度の向上を図った.また,サイクルスリップに関しては,測位演算アルゴリズムにおいて使用されるカルマンフィルタのイノベーション過程を監視し,カイ2乗検定,尤度比検定に基づく検出手法を提案した.さらに移動体の動的モデルに関しては,移動体の速度を一次のマルコフ過程,加速度を一次のマルコフ過程,躍度を一次のマルコフ過程と仮定するモデルをそれぞれ構築し,精度の検討を行った.また,測位に用いる衛星の選択手法として,衛星の仰角による重み付け,観測残差の絶対値による衛星選択アルゴリズムを構築し,上述の高精度単独測位アルゴリズムに導入し,測位計算プログラムを実現した.それらの結果,実証実験においては,本学所有のNovAtel社製受信機および国土地理院殿の電子基準点で得られた観測データ等を用い,静止点において常に約50cm程度の精度で受信機座標を得ることが可能であった.
著者
森 英樹 右崎 正博 大久保 史郎 森 正 大川 睦夫 小林 武
出版者
名古屋大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1990

平成4年度は、3年間にわたる本研究の最終年度であったため、2年間の成果をふまえ総括的な検討をおこなった。すなわち、日本を含む先進資本主義国の従来の憲法学における議会制民主主義と政党制の理論史的枠組みを検討し(1年目)、各国の集中的検討による普遍性と固有性を析出し、あわせて日本の現状分析をおこなう(2年目)という研究成果にもとづき、日本の政治文化状況のもとで政党への国庫補助の妥当性にかんして一定の結論をみちびき出した。具体的には、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スイス、イタリア、ニュージランドの各国における政党国庫補助の現状分析と、それを支え、あるいは批判する理論状況を検討したが、その結果みえてきたのは、各国における大衆社会の進行による議会制民主主義の形骸化、それにともなう選挙戦の変容などの共通点とともに、その背景にある各国の議会制民主主義の歴史の偏差であった。これらの成果をふまえ、日本で進行中の「政治改革」による選挙制度改革と政党国庫補助導入の動きを批判的に分析した。かくして、日本の「政治改革」を、先進資本主義諸国で共通に進行する新たな統治戦略としての政治改革との連動性のなかに位置づけることができ、日本固有の政治風土のなかで、いかに国民主権と民主主義を実現することが可能かについての共通の認識をうることができた。
著者
鈴木 寛
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.距離正則グラフの結合グラフの研究が進み、特に、よいクラスとして、既存のかなりのものを含む距離半正則グラフの概念を定義した。特に、位数が(s,t)で、s>tのものについては、結合グラフが常に距離半正則グラフになることが示され、それまで複雑な組合せ構造の議論に頼っていた部分が全く簡単に扱えるようになった。2.部分グラフの構成および部分グラフの束を調べることは距離正則グラフの研究でもっとも重要なことと思われるが、平木氏、Weng氏の研究も関連して、geometric girthが5のものについても結合グラフの束が構成できることを示した。この束自体が研究されそこから幾何を構成する事へと発展することが望まれる。3.距離正則グラフの表現論を進展させるためには、Q-多項式型のアソシエーションスキームの研究が欠かせないが、このパラメターが指標の積分解などと関連して非常に難しいことから今まで進展が見られなかった。今回、行列成分の等式を駆使することにより、いくつかの新しいパラメターの関係が示され、それによって長い間未解決であった、非原始的なQ-多項式型アソシエーションスキームの特徴付け、および、二つ以上もQ-多項式構造をもつアソシエーションスキームの特徴付けが得られた。表現論の進展が待たれる。4.上にの述べたように表現論は指標の積などとも関連が深いが、有限群の既約指標の積分解が、Q-多項式型の分解になる場合を考えそのクラスを分類することが出来た。このことは、距離正則グラフ、Q-多項式型アソシエーションスキームの研究が単に組み合わせ構造の中に留まるのではなく、群の表現や、鏡映群、不変式などとも深い関連があることを確認することともなっている。
著者
赤澤 計眞
出版者
新潟大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究はイギリス中世後期社会の歴史的特質を明らかにすることを目的とし、平成6年度の研究課題は、中世後期のイギリス社会に視点を特に定め地域支配の行政(ローカル・アドミニストレーション)面に関する史料を分析対象に設け、領主権と地域支配組織との社会的・政治的関連を明らかにすることを研究の主たる目的としつつ、同時に裁判権をふくむ領主支配を明らかにすることに目標が置かれた。具体的には、この場合の中世後期のイギリス社会は大きな時代の変動期を内にもっている移行期で、中世後期とは主として13世紀から15世紀の時代を意味しているが、研究のねらいをしぼって、成果をできるだけ生産的にみちびき出すことが大切であるためこの課題を具体的に効果あるように深化させるために、平成6年度は13世紀から14世紀前半にわたる時期にほぼ限度に研究を進めることにした。交付額230万円のほぼ50パーセントを備品費に配合する計画を立てて研究の素材をととのえることに本年度は努力の目標を置くこととし、主として研究書および史料集の購入にあてて図書費として支出し、結果的に約60パーセントの金額が研究文献・史料集の購入に支出された。また、神戸大学・広島大学・東北大学・名古屋大学・東京大学等の研究室・図書館・資料室において史料収集をおこない、必要不可欠と思われるものについて複写・写真撮影をおこなった。平成6年度は土地訴訟・新侵奪訴訟など具体的な訴訟過程に注意を払い、また権原開示訴訟(プラキタ・デ・イオ・ワラント)との関連を解明することにもつとめている。これと共に領主権の基盤をなす土地所有関係と相続関係に研究の重点を置いた。
著者
伊藤 亜矢子 青木 紀久代
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究ではスクールカウンセラーの学校全体への支援を可能にするツールづくりを国際比較によって行うことを目的とした.米国,スコットランド,香港などの研究者・実践者との協議や現地調査,共同研究を行った結果,(1)学級を切り口に学校全体への支援を行うための学級風土質問紙小学校版の公開と,中学校版も含めた自動分析システムの構築,(2)子どもの肯定的資質をアセスメントする質問紙の作成試行,(3)SCと教師の協働を促進する教師向けパンフレット,テキスト作成,(4)支援サイト試行などを行えた(一部継続中).
著者
金子 育世
出版者
順天堂大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本人英語学習者のスピーキングにおける感情表現を観測し、米語母語話との比較を行うため、生成実験を実施した。日本人大学生10名(男性6名、女性4名)と米語母語話者(男女各1名)を被験者とし、2つの課題のもとに書かれた英文手紙をテープレターにするつもりで読んでもらい、録音した。感情表現の中でも愛情表現と哀悼表現に着目し、それらが第二言語と第一言語でどのように異なるかを観測するため、課題は「付き合って3年目の記念日に恋人に渡すラブレター」と「大学入学前にとてもお世話になった先生が亡くなったことについて、先生の家族に送るお悔やみの手紙」とした。日本人被験者は全て海外滞在経験のない大学生で、英語能力はTOEICにおいて平均が484点(280点〜650点)であり、米語母語話者は英語教材の録音を担当するプロのナレーターであった。音声資料において、音声分析ソフトを用いて音声波形、スペクトログラム、イントネーションカーブを作成し、米語母語話者が強調している語を分析語とした。日本人被験者の各分析語のピッチ高低差、持続時間、強度を測定し、米語母語話者のものと比較、分析を行った結果、日本人被験者は米語母語話者に比べて、ピッチの高低差が少なく、持続時間が短かいが、強度は高いことが観測された。このことから、日本人英語学習者はピッチの高低差と持続時間の不足部分を強度で補おうとしていることが示唆された。また、男性よりも女性において英語母語話者に近い音響特徴が観測され、女性の方が英語における感情表現の習得が進んでいることも示唆された。さらに日本人の音声資料に関して、単音、プロソディ、感情表現、全体的印象を4人の英語母語話者(男女各2名)にそれぞれ評価してもらった結果、ラブレターよりもお悔やみの手紙の方が高い評価を得た。このことから、日本人英語学習者は愛情表現よりも哀悼表現において習得が進んでいることが示唆された。
著者
黒岩 真弓
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

○研究目的:近年、医療や生命科学の分野で生体分子間相互作用のリアルタイム解析が必要であり、このような分野では、SPR(Surface Plasmon Resonance:表面プラズモン共鳴)を用いたBiacoreによる生体分子間相互作用解析がポピュラーである。一方でSPRよりも小型・安価で使いやすいと最近注目をあびつつあるQCM(Quartz Crystal Microbalance)も生体分子間相互作用リアルタイム解析に使われている。QCMとSPRは原理の違いから、求められた解離定数に差が生じることがあるがその理由はまだよくわかっていない。また、QCMシステムによっては抗原抗体反応を行わせる前段階で周波数が安定しないということも起きている。この原因もよくわかっていない。今回は前述2種類の測定システムにより決定された解離定数等の比較検討を行い、その違いと原因を明らかにし、分子間相互作用や吸着のメカニズムを詳細に検討することを目的とした。○研究方法:今回新たに共振型QCMの共振周波数特性測定ならびに電気的等価回路定数解析を行うためのPCをコントローラとした測定システムを構築した。従来の発振型QCMを用いて抗原抗体反応の検出最適条件を検討した。SPRにおいても最適条件の検討を行った。発振型QCM、SPRの検出条件をもとにし共振型QCMにおいて抗原抗体反応の検出を検討した。○研究成果:抗原抗体反応を検出するためにQCMを用いる場合、温度の影響はもとより、バッファーならびにサンプルの送液速度、抗原濃度、抗体濃度等が測定データに及ぼす影響がかなり大きいことが示唆された。
著者
西本 真弓
出版者
阪南大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究では、出産・育児と就業の両立を図るためにはどのような制度が必要とされているのかを明らかにするため、育児休業取得後の復職率を高める要因は何かを分析した。具体的には復職率が高い企業で導入されている制度や職場環境を明らかにし、復職率を高める要因を検証した。また、配偶者出産休暇制度や子の看護休暇制度にも注目して、これらの制度を有効に機能させるために必要なことは何かを検証し、男性の育児参加も視野に入れた分析を試みた。
著者
藤川 和利 砂原 秀樹 猪俣 敦夫 垣内 正年 寺田 直美 油谷 曉
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究課題では、複数の4K映像ストリームが混在する環境を対象として、インターネット上のネットワーク機器におけるパケットマーキング機能およびパケット優先廃棄機構を開発し、実証実験を通して開発した機構等の有用性が確認できた。
著者
能町 しのぶ 村井 文江
出版者
滋賀医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、死産時の看護ケアを行っている助産師が捉える効果的な看護支援と、死産を体験した母親が捉える死産時の看護ケアニーズから、死産時の看護プログラムを構築していくことを目的としている。看護支援の提供者である助産師21名、看護支援の受け手である死産体験者10名にインタビューを実施した。結果、母親と子どもの安全を保障すること、母親と死産した子ども、家族が共に過ごす場・時間を確保すること、母親や家族の意思決定を支援すること、退院後のフォローをすることが、プログラムの内容として挙げられた。
著者
新 恵里
出版者
京都産業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の二年目として、本年度は、法医学の分野において、被害者への支援、特に遺族ケアを行っている諸外国の取り組みについて文献の収集、調査、検討を行った。司法解剖における遺族ケアについては、グリーフ・カウンセリングが主流であり、医療機関での遺族対応の問題も含めて文献、資料収集を行った。また、下記の諸外国において、文献の収集およびインタビューによる調査を行った。1)外傷体験を持ちやすい専門職(警察、消防、検視官など)へのメンタルケアと同時に、遺族ケアも行っているアメリカ合衆国の行政機関からインタビューを行った。2)「犯罪被害者庁」をもち、捜査段階で国選弁護人を被害者につけ、また司法解剖においては遺族に説明義務を持たせているスウェーデンでの取り組みについて調査を行った。3)検死および検死法廷(Coroner's Court)の制度が整っているオーストラリアビクトリア州において、検死事務所所属のカウンセラー、検死法廷での民間支援機関であるCourt Networkの責任者およびスタッフ、ボランティア、長期的な支援を行っている民間支援機関Compassionate Friendsのスタッフからインタビューによる調査を行った。これらの研究結果は、第43日本犯罪学会で報告を行ったほか、第7回国際法医学シンポジウムにおいても、報告を行う予定である。また、日本における犯罪被害者支援政策は、犯罪被害者等基本法において整備されつつあるが、過渡期にある現在、これら研究成果をもとに、今後も本研究を発展的に継続する予定である。
著者
池岡 義孝 木戸 功 松木 洋人 松木 洋人
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、戦後日本の家族社会学の成立と展開を詳しく検討することである。それを、文献研究と年配の先生方へのインタビューを通じて行い、所期の目的を達成することができた。とくに、家族社会学の主流だけでなく、家族問題研究のグループ、マルクス主義家族社会学のグループ、女性学・フェミニズム研究のグループなど多様な研究の流れを明らかにすることができたことが大きな成果であった。このことで、戦後家族社会学の展開を多元的に理解する視座をえることができた。