著者
魚住 二郎 上田 豊史 徳田 倫章 安増 哲生 〓住 二郎
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

シスプラチン(CDDP)は各種の悪性腫瘍に優れた抗腫瘍効果を示す薬剤であるが、腎毒性が用量規定因子となっている。より有効かつ安全なCDDPの投与を目的として、メチルプレドニゾロン(MP)によるCDDP腎毒性の軽減作用を検討した。ラットを用いた動物実験おいてCDDP投与の2-4時間前にMPを皮下投与するとBUN、血中クレアチニン(Cr)の上昇は有意に抑制された。その機序としてMPがCDDPの尿中排泄を促進し、腎組織プラチナ濃度を有意に減少させることを示した。また腎皮質スライス法を用いた実験により、MPはCDDPによる腎尿細管上皮細胞における糖新生能の抑制を軽減することによりCDDPの腎毒性発現を阻害する可能性が示唆された。これらの基礎研究の成果を基にMPのCDDP腎毒性軽減作用を臨床的に検討した。CDDPを含む化学療法としてMVAC療法を行った尿路上皮腫瘍14症例を対象とした。1コース目はMPを投与しないで対象群とし、2コース目はMP2,000mgをCDDPの数時間前に投与して治療群とした。腎毒性の指標として、尿中NAG、 GGTP排泄、血中Crの変化、クレアチニンクリアランス(Ccr)の変化を評価した。尿中酵素はCDDP投与翌日に有意に上昇し、その程度はMP群と対照群で有意な差は認められなかった。CDDP投与の1週後にみられた血中Crのわずかな上昇に関してもMP群と対照群で有意な差は認められなかった。しかし、CDDP投与1-2週間後のCcrは、対照群では約25%低下したのに対して、MP投与群においてはCcrの低下はなく、対照群と比較して有意差が認められた。MPのCDDP腎毒性に対する腎保護作用は、臨床的にも明らかにされた。MPとの併用によってCDDPの大量投与が可能になり、抗腫瘍効果の増強が期待される。
著者
福井 千鶴
出版者
日本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

平成18は南米、日本において現状把握の調査と実証実験用の理想モデルの考察を行った。平成19年度で研究を具体的に推進する実証実験モデルの実施要件の策定を行い、実証的研究を推進と同時に評価を行った。実証実験モデルでは、日本企業で通用する南米日系人リーダーであり、かつ、プロフェッショナルとして活躍できるIT分野の人材を養成することを狙いとした。選定理由は、□自己の能力次第で企業化可能、□企業化時の投資額とリスクが少ない、□IT関連事業は、ネットワークを通じて海外の遠隔地との間で受発注と納品が可能、□ネットワークを通じて連携することができ、研究成果の目的である日本と南米の連携システムの構築が容易にできる、などの利点があることによった。考案した実証的研究モデルをもとに、南米日系人の受入れ日本企業を開拓した他、コロンビア、ペルー、パラグアイ、ボリビアの南米諸国日系人協会や商工会議所などの団体組織にて実証実験プログラムの具体的な推進方策の説明会と実施方法、ならびに実証実験参加者の募集活動を行った。考案した実証的研究プログラムは、全説明先において南米現地の問題を解決する具体的な手段として効果的な初めての提案との高い評価を得た。説明した全地域で、このプログラムの推進を要望され現地各協会や組織団体などが正式な窓口対応を行うとの協力意志が表明された。本件研究成果を実施するは、各団体組織や企業の連携が組織的にできるNGO組織を設立し推進することが適切との結論に達し、研究成果を反映してNGOを設立し推進することとした。
著者
木島 孝夫 高崎 みどり 徳田 春邦
出版者
千葉科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

生活習慣病の中で、肥満・糖尿病及びその合併症は、最も深刻な問題であり、ショ糖代替甘味物質の研究はきわめて重要な研究課題である。そこで、天然代替甘味料として広く利用されているステビア葉のジテルペン配糖体steviosideについて、抗発がんプロモーター作用を明らかとし、次いで中国広西壮族自治区の特産植物Momordica grosvenoriの果実・羅漢果に含有されるcucurbitan型のトリテルペン配糖体mogroside Vにも同様の強い抗発がんプロモーター作用が認められることを明らかとした。更に、糖尿病患者血清中に高濃度に出現するAdvanced Glycation Endproducts(AGE)が、顕著な発がんイニシエーターとなることに着目し、これら天然代替甘味料の抗発がんイニシエーション作用を検討することにより、発がん予防作用に関する研究を行なった。その結果、羅漢果に含有される11-oxo-mogroside Vには、AGEにより誘起される発ガンイニシエーション作用に対する顕著な抑制効果があることを明らかとした。また、UVBの照射、窒素酸化物などによる発がんイニシエーション作用に対しても顕著な抑制効果があることを明らかとした。従って、天然代替甘味物質には発がん予防物質として有効なテルペン類が数多く存在することが明らかとなり、機能性を有する代替甘味物質として今後の有効利用が期待される。羅漢果含有の甘味配糖体はショ糖の数百倍の甘味を有することが明らかとされ、中国政府により、羅漢果は同地区のみで栽培が許可され、極めて厳重に保護政策が布かれているが、これらの資源に関して、中国内での栽培状況を明らかとした。これらテルペン誘導体に関連し、既に抗発がんプロモーター作用が顕著であるとされる海洋生物由来のジテルペンsarcophytol類についても、発がん予防作用を詳細に検討し明らかとした。
著者
堀坂 浩太郎
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は,2年間にわたりブラジル,アルゼンチン,ウルグアイ,チリ,ボリビアからなる南米部地域を対象に,「市場統合」の推進と補完的な関係にあるインフラ部門や通関システムなどの"物的統合"がどのような形で進展しているかとともに,その促進に影響を及ぼすと考えられる「地域公共財」的発想の観点を検証することを意図して行ったものである。「南米南部共同市場」(メルコスール)や南米地域インフラ統合計画」(IIRSA)がうたうエネルギー網や輸送網,通関制度などからなる,かなり幅広い分野の現地調査を行った。その成果を踏まえながら,本報告書では,調査期間中にボリビア新政府が天然ガスの「国有化宣言」を行う等,当初予期されなかった事態が発生したこともあり,事例研究として天然ガスを集中的に取り上げ,経済自由化、市場開放過程でのインフラ(ガスパイプライン網)の整備状況,ネオリベラリズムの反動ともいう形で発生した「エネルギー(天然ガス)危機」,その後の各国の対処法,および南米南部地域としての解決策の模索を取り上げた。その中で,天然ガスおよび同パイプラインは「非排除性」および「非競合性」からみて純然たる公共財(pure public goods)とはいえないものの,市場の原理には完全に任せずに,公益性を有した半、公共財と認識し,地域構成国が納得し遵守しえる規範づくりが早急に必要とされる点,およびそうした発想を再確認することによって初めて,安定した供給体制の確立に道が開かれる点を指摘した。世界的に天然資源の需給逼迫が言われるなかで,地域の方向性を検討する上で不可欠な視点の一端を示した研究といえる。
著者
高垣 敏博 上田 博人 宮本 正美 福嶌 教隆 ルイズ ティノコ アントニオ
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本論は,スペイン語圏の地理的広がりの中で,統語現象の分析に新たな視点を見出すという観点から,現地アンケートの手法で得たデータから分析を加えるのが目的である.平成17年度はメキシコ市,平成18年度は南米のコロンビア,パラグアイ,アルゼンチン,チリの首都において総計100名余りの被験者から100をこえる質問文に対する回答を収集した.本年度は,こうして得られたデータを処理し,すでに前科研助成にて完了したスペインの9都市における同調査結果とともに比較検討した.また,分担者2名は香港における国際学会にてこの成果を報告した.今後,さらに調査地点を南米アンデス地域,米国のスペイン語話者などに拡張,より精度を上げてことを視野に収め,方法論の確立を進める.最終報告書にはこれまでの成果と見通しを盛り込みたい.
著者
大山 喬史 森本 俊文 河野 正司 片山 芳文 野首 孝祠 古谷野 潔
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2001

床義歯の形態,設計様式が口腔感覚に及ぼす影響を分析し,機能との関係を検討する目的で舌感,味覚,痛覚,咬合感覚等の生理学的データを収集し,さらにその神経筋機構について動物実験より分析した.まず口蓋部の床の形態が舌感に及ぼす影響について質問紙法で分析した結果,床辺縁の断面形態は粘膜より移行的に立ち上るナイフエッジ状,走行は左右対称な形態が感覚的に優れ,移行的な断面形態,斜めのラインを避けた左右対称な走行形態が口腔感覚に調和することが推察された.次に臼歯部咀嚼とうまみ溶出の関係を調べるために,利尻昆布のグルタミン酸量を測定し,咀嚼後の溶出量を算出した結果,臼歯部補綴によりグルタミン酸溶出量は増加する傾向が認められた.また金属床の味覚に対する影響を実験用口蓋床を用いて検査した結果,厚さが1.5mmのレジン床と金属床では味覚閾値に差は認められなかったが,0.5mmの金属床では,味覚閾値は有意に低い値を示し,義歯床の厚さや材質の違いが味覚に影響を与えることが示唆された.さらに義歯装着者の咀嚼効率の判定法として,食塊形成能の観点から嚥下に至るまでの咀嚼ストローク数をパラメータとすると有用なことが認められた.また無歯顎者の義歯装着が床下粘膜の圧痛閾値に与える影響を調べた結果,無歯顎者は健常有歯顎者より40%低く,無歯顎者の口蓋中央部の閾値は頬側歯槽粘膜より2〜300%高かったため,義歯装着により圧痛閾値は低下し,粘膜への機械的ストレスの関与が示唆された.さらにモルモット前歯部に咬合挙上板を装着して臼歯を挺出させると,歯ぎしり様の運動を繰り返し元の咬合高径に戻るが,三叉神経中脳路核を破壊し閉口筋の筋感覚を除外すると高径低下が有意に減少し,咬合高径決定に閉口筋の筋感覚受容器の関与が示唆された.以上より,口腔感覚と機能とは密接な関係にあり,床義歯の設計に際しては維持や機能力の分配だけでなく,感覚への配慮が機能向上に繋がることが示唆された.
著者
酒井 雄祐
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

水素様窒素の再結合レーザー発振に要求される高速放電パルスを得るための放電部開発を進めた。水コンデンサ後方に,低インダクタンスな自爆型のギャップスイッチ,伝送線路とキャピラリー負荷部を組み合わせるシステムを考案し,より整合のとれた放電部の開発を行った。そして,波高値にして約3倍程度,またパルス幅とし50ns程度のパルス発生を可能とした。また,この装置の特徴として,伝送線路の線路長を変化させることである程度の電流波形制御が可能となった。結果として,75mmのキャピラリーに,電流ピーク値として65kA以上で,パルス幅が50ns〜80ns程度のパルス電流の生成に成功した。並行して,最適な実験条件を探るため,イオンの状態を知るための電磁流体(MHD)シュミレーションコードと,放電部のパルス形成のためのコードの開発を進めた。そして,実験装置で形成可能な電流波形を基に,作成したMHDコードによる計算を行い,水素様窒素の再結合励起に滴する電流波形の形成を試みた。計算結果として,ピーク値50kA,立ち上がり25ns,立ち下がり25ns程度の三角波電流を用いた場合,最大ピンチ時に150eV,電子数密度として1×10^<20>cm^<-3>程度までプラズマが圧縮され,その後10ns程度で数十eVにまで急峻に冷却きれた。そして,ピンチ後数ns後に,全窒素イオンの20%程度が7価まで電離し,小利得信号としてG=1cm^<-1>が得られた。最終的に,実際に開発したパルスパワーシステムにより,三角波電流の生成を行った。そして,実際に放電を行い,窒素プラズマからの放射光の計測を進めた。現在までに,XRDにより波長3nm以下の放射光の時間変化の計測を行った結果,数nsに渡り強い信号を観測し,最大ピンチ時付近における,水素様窒素の存在を確認し,再結合レーザー発振の可能性を示した。
著者
工藤 眞由美 金田 章宏 狩俣 繁久 木部 暢子 佐藤 里美 山東 功 林 明子 吉村 裕美 吉村 裕美 三ツ井 崇
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、国際的にも大いに多様化の進んでいる日本語のバリエーションの問題について、言語類型論(Language Typology)、言語接触論(Contact linguistics)の立場から包括的に考察を試みた。具体的には、格やとりたて構造に関する言語項目調査について、諸方言に適用できる「統一した調査票」の改善についての検討を行った。また、ボリビア共和国サンタクルス県オキナワ移住地を対象とする言語的日常実践を描くエスノグラフィー的研究や、ドイツをフィールドワークとする、言語接触論的観点からの在外駐在日本人の言語生活調査を実施した。
著者
武田 千香 柴田 勝二
出版者
東京外国語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

マシャード・デ・アシス(1839-1908)は、夏目漱石(1867-1916)とほぽ同時代に地球の反対側に生きたブラジル文学を代表する写実主義作家である。当時、日本とブラジル両国の間にはまだ活発な文化交流がなく、両作家の間にも接触はなかったと思われるにも拘わらず、双方の文学の間には親和性がある。本研究は、間テキスト性にその原因を求めることのできない親和性がなぜ生じたのか、その要因を明らかにすべく行なわれた両作家の文学の比較研究である。研究の結果、まずは両者がアレゴリーという文学的手法を用い、主要な登場人物にそれぞれの国やその外交関係を仮託することによって、当時の近代日本や近代国家ブラジルに対する批判的精神を盛り込んだことが明らかになった。そして、その批判的精神自体にも明らかな共通性がみてとれる。これはおそらく当時のブラジルと日本が、似たような地政的な状況に置かれていたことに起因するものであろう。すなわちブラジルも日本も19世紀に西欧の外圧を受けることにより、200年〜300年の長きにわたって閉ざしていた門戸を開け、突如すでに構築されていた地球規模的国際関係や西欧的知的枠組みに組み込まれ、新生近代国家として急速な近代化を進めざるを得なかったのである。いずれの作家もそうした激動の時代を生き抜き、その経験を各自の作品の中に描きこんだ。すなわち両者の文学はともに西欧から働きかけられた近代化の波に襲われた非西欧的周辺国で生まれたものなのである。このように考えれば、両者の文学の親和性は必然的な結果だということができる。以上は、11にある成果を通して明らかになったことである。
著者
川本 隆史
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、1970年代から英語圏の倫理学・社会哲学の領域で活発に論議され成果が蓄積されてきた「社会正義論」の観点から、租税の根拠と再分配原理を考察し、あわせてわが国の租税制度のあるべき姿を構想することをねらいとする。租税の根拠についての説明としては、「利益説」と「義務説」という二つの有力な立場があるが、未だ決着を見ていない。さらに租税の機能の一つに資産および所得の再分配があるとされるけれども、租税を通じての再分配原理の実質まで立ち入った論議はほとんどなされてこなかった。そこで本研究は、そうした欠落を埋めようとするものである。初年度は、まずこれまでの「社会正義論」における租税論の蓄積を吟味ししつ、租税の根拠および再分配原理の探究がどれほど深化しているかを見定めた。研究第二年度には、折りよくMhrphy, L.and T.Nagel, The Myth of Ownership : Taxes and Justice,2002が刊行された。本書のポイントは、「われわれが正当に稼いだ所得なのに、政府はその一部を税金として取り立てている」との臆断の無根拠さを暴きながら、「租税の公正よりもむしろ社会の公正こそが租税政策を導く価値であるべきで、所有権は因習・規約に基づくものに過ぎない」と主張するところにある。研究第二年度から最終年度にかけて、本書をしっかりと読み解くことで、著者らが提起した「社会の公正」という理念と照らし合わせつつ、「あるべき税制」を共同で探究する作業の基礎を固めることが出来た。その成果は、学会誌等への寄稿や学会・研究会での報告に随時盛り込んだ。
著者
細井 昭憲
出版者
熊本県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ルームエアコンの消費エネルギー量を正確に推定するため、これまで困難であった除霜運転の発生条件と除霜時のエネルギー消費効率の算出法を明らかにした。ルームエアコンの使用時に生じる室内温度分布を改善するため、サーキュレーターを用いた場合の効果を明らかにし、省エネルギー性を評価した。
著者
大上 祐司
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

結晶を微細化する熱処理とショットピーニングを組み合わせた材料強化加工法によって微細結晶化するメカニズムを調査し, しゅう動機械要素の表面強度向上を実現するための加工条件を明らかにすることを目的としている. 提案加工法では長寿命化が可能で, 加工時間の短縮に由来する製造コスト低減を達成できる. さらに, 加工により創製されるディンプル形状は油膜厚さを向上させる. 提案加工法は, 材料表面特性と潤滑性能の観点から従来の方法よりも有利であった.
著者
石原 健吾
出版者
椙山女学園大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

脱水状態において、摂取した溶液が短時間のうちに排尿されない方が望ましいと考え、実験動物用の高精度の尿量測定系を開発しました。牛乳摂取後の4時間の排尿量は、水、スポーツドリンクの約50%と低くなりました。その作用の内訳は、牛乳の高分子量画分、低分子量画分が、各25%でした。牛乳摂取後の血漿水分量は長時間高い状態を維持して、その原因はナトリウム摂取量が高くないにも関わらず、溶液摂取後に血漿中のナトリウムが低下しないためと考えられました。
著者
桑原 浩平 窪田 英樹 濱田 靖弘 中村 真人 長野 克則 池田 光毅 林健 太郎
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

個人差(心肺能力,暑熱順化)が生理量に及ぼす影響を既往の研究データと被験者実験により検討した。暑熱環境における直腸温を,作業強度起因の直腸温と暑さ起因の直腸温の増分として定義し,個人の心肺能力(最大酸素摂取量)を考慮することを可能にした。次に暑熱順化が発汗量および着衣のぬれに及ぼす影響について検討し,平均皮膚温36℃を境に暑熱順化前後の発汗量と着衣のぬれの特性に差が見られた。
著者
加藤 内蔵進 松本 淳 武田 喬男 塚本 修
出版者
岡山大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

人工衛星のマイクロ波放射計データ(SSM/Iの19.35GHzと85.5GHz)に基づき,海上も含めた梅雨前線帯付近の広域降水量分布とその変動を評価するとともに,GNS雲データによる雲量や深い対流雲域の出現頻度,及び全球解析データによる水蒸気収支との関係について冷夏・大雨/猛暑・渇水(1993/1994)年の夏を中心に解析を行ない,次の点が明らかになった。1.1993年には,8月に入っても日本付近で梅雨前線帯に対応する降水域が持続したが,前線帯の位置の違いだけでなく,そこでの総降水量自体が1994年に比べて大変多く,それは,例えば5日雨量100ミリを越える「大雨域」の面積の違いを大きく反映したものである事が明らかになった。2.1993年の夏の多量の降水は,すぐ南の(〜28N)亜熱帯高気圧域からの大きな北向き水蒸気輸送により維持されていたが,日本の南の亜熱帯高気圧域内で〜28Nに近づくにつれて北向きの水蒸気輸送が急激に増大しており,単にグローバルな東アジア域への水蒸気輸送とは別に,亜熱帯高気圧自体の水輸送構造の違いが両年の降水分布の違いに密接に関連している事が明らかになった。3.7〜8月頃の梅雨前線停滞時には,1993年についても,5日雨量で見た広域の「大雨」には深い対流雲群の頻出が大きな寄与をなしていたが,台風が日本海まで北上した時には,大規模場の層状雲域である〜38N以北においても,その南側の対流雲域と同等な「広域の大雨」が見られるなど,冷夏年における梅雨前線と台風の水の再分配過程の興味深い違いが明らかになった。また,いくつかの興味深い事例について,個々の降水系のマルチスケール構造とライフサイクルについても検討を行った。
著者
中澤 哲夫 新野 宏 榎本 剛 田中 博 向川 均 吉崎 正憲
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

全球大気顕著現象の予測可能性研究計画(THORPEX)を日本で具体化し推進する研究戦略を、3回開催した研究計画策定会議により策定した。本研究は、毎年日本を含むアジア域で発生している顕著気象(台風、豪雨、旱魃、寒波、熱波など)を適切に予測して、社会的・経済的被害の低減を目的とする。日本のリーダーシップがアジアにとどまらず、世界的にも大きな役割を発揮して研究が推進できるよう、以下の6課題について研究戦略を策定した。1:大気顕著現象の発生過程とその大規模場との相互作用の機構解明。暖候期及び寒候期の大規模循環異常とメソスケール擾乱の力学と予測可能性について研究を推進する。2:偏西風帯上のエネルギー伝播と大気顕著現象発生の機構解明。偏西風の蛇行による砕波がもたらす大気顕著現象の発生機構をデータ解析や数値シミュレーションから解明する。3:アンサンブル予測の高度化に関する研究。世界各地の数値予報機関で行われているアンサンブル予測データを束ねた確率的予測手法を構築する。4:季節内変動の機構解明とその予測可能性に関する研究。長期予測の精度向上に不可欠な季節内変動をアンサンブル予測データから調査する。5:大気顕著現象発生に果たす風・水蒸気の挙動に関する研究。降雨の予測向上のためには、風上の下層大気の風と水蒸気の空間分布の把握が重要であり、観測船のデータから調査する。6:台風の進路・強度変化に果たす力学場・熱力学場の影響評価。台風周辺の直接観測を実施し、台風の予測精度向上を目指す。上記の課題を解決するため、以下3点の重要性が認識された。・気象庁をはじめ機関が保有するデータのデータベース構築とその利用・予測可能性研究のための共通基盤的研究の更なる進展・本研究の成果を東アジアや東南アジア諸国に還元し、それらの国の研究促進への貢献本研究の成果を踏まえ、平成19年度からの特定領域研究に申請を行う。
著者
山村 善洋
出版者
宮崎大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1997

南九州火山灰土壌地帯は,元来,河川水,湧水,地下水あるいは溜池を水源とする天水依存型の農業地帯である。ところが,この地域は戦後の50年の間に,土地利用形態の変化,農地の減少や河川改修等によって水文環境が相当に変化し,河川水位や地下水位の低下,あるいはため池や湿原の減少等の水環境の変化が生起している。その結果,気温の上昇と湿度の低下,霧の発生の減少等の気象環境変化が認められている。この様に水環境の変化が進行する中で,ダム・堰・調整池,水路,パイプライン等の建設を含む農業水利事業が完了したり,進行中であったり,あるいは今後着工する地域がある。ところで,農業水利事業とは新たな水環境創生事業に他ならない。卑近な事例として高鍋防災ダムがある。築造され30年経過し,ダムの効果が発揮されていると同時に,湿原が出現し,今その保存のあり方と環境教育の一環として注目を浴びている。また,昨夏の無降水・猛暑による早魃被害が報じられた一方で,一ツ瀬地域の水利事業完了地域ではその事業効果が報じられた。この様に農業用水は単に安定した作物生産や営農上の観点から,農業・農村の活性化に貢献するばかりでなく,周辺の大気・微気象環境を良好にし,用水として使用される過程において,また,使用された結果として,地表水あるいは地中水・地下水として3次元的に地域水環境に影響を及ぼしていることが明らかになった。このように農業用水は地域水環境の保全に対して公益的機能をもっている。しかるに,農業用水も取水・利用には利水上の制限があり,水利施設の観点からの用水管理のあり方が重要な課題となっている。そのためには水利用の実態と気象条件との関連を詳細に解析し,水使用量の推定を行うことが重要な要因となる。気象変動の予測にはひまわり画像が有益な情報であり,この利活用による農業水利施設の管理が可能であることを確認できた。
著者
川村 隆一
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究課題はエルニーニョ南方振動(ENSO)現象がどのようなメカニズムで夏季アジアモンスーンの変動に影響を与えるのかを解明することを主たる目的としている。本研究課題の成果は以下の二つの項目にまとめられる。1.ENSO赤道対称・非対称インパクトとアジアモンスーン循環南アジア夏季モンスーン変動とENSOを関係づけるプロセスとして、ENSO発達期の赤道対称インパクトと衰退期の赤道非対称インパクトが存在することが観測・モデルの解析から見出された。1970年代後半以降、長周期ENSOが頻繁に出現し春季に終息しないで持続傾向になったことで、冬季から春季にかけてインド洋にENSOシグナルが伝わり、海面水温と積雲対流活動の赤道非対称構造を生成するのを容易にさせた。このような非対称構造が維持されるためには、風-蒸発-海面水温(WES)フィードバックが重要な働きをしていると考えられる。この赤道非対称インパクトは中央アジア地域の陸面水文過程も関係する間接的なインパクトで、モンスーン循環へ与える影響はモンスーン前期(6-7月)において有意である。別の解析結果から、二年周期的なENSOが発達する8月から11月にかけて、熱帯インド洋上の対流圏下層循環と降水量偏差に顕著な赤道対称構造がみられることがわかった。これはインド洋から西部太平洋へ東進するウォーカー循環偏差の一部をなすものであり、このようなインパクト(空間構造から赤道対称インパクトと呼ぶ)の実態は、準二年周期的なENSOの大気海洋結合システムが熱帯インド洋から太平洋へ発達しながら東進する過程において形成される、赤道対称構造であると解釈できる。赤道対称インパクトはむしろモンスーン後期(8-9月)に顕著である。準二年周期的なENSOの発達期にみられる赤道対称インパクトが1970年代後半以前の強いENSO-モンスーン関係をもたらしていると考えられる。2.日本を含む東アジア夏季の天候に影響を与える力学プロセス日本の夏季天候との関係に注目すると、赤道対称インパクトが明瞭であった1960年代から70年代中頃までの期間では、フィリピン付近の対流活動偏差の局在化は不明瞭で典型的なPJパターンもあまり卓越しなかった。その結果、日本の夏季気温変動の振幅は小さく比較的安定した夏が続いた。逆に1970年代後半から90年代にかけての長周期ENSOの卓越により、ENSO衰退期の赤道非対称インパクトが顕在化し、フィリピン付近の対流活動偏差の局在化とPJパターンの励起が頻繁にみられるようになった。これにより日本の夏季気温変動の振幅は大きくなり不安定な夏が続いたと解釈できる。最近では1999年から2001年まで3年連続で猛暑の年が続いたが、春季から夏季のインド洋・西太平洋の大気・海洋の状態はKawamura et al.(2001b)の模式図と非常に類似しており、赤道非対称インパクトの卓越と関連してフィリピン付近で積雲対流活動が活発化した、まさに典型例であると言える。
著者
宮脇 博巳
出版者
佐賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

佐賀市内のオニバスを佐賀大学噴水池に移植栽培し2003年度に549個,2005年度に200個の種子を採集した.これらの種子使って実験室で種種の条件で栽培した.以下にその研究の概要を箇条書きにする.1,野外観察により富栄養な水質と底土があり,年間を通して流れが緩やかで,水位が安定している場所を好んでオニバスが生育していることが判明した.2.農薬,河川の清掃などによってオニバスは,絶滅の危機へと追い込んでいると思われた.3.オニバスの移植栽培は適した水質と底土さえあれば比較的簡単に行え,種子も採集することが判明した.4.オニバスの発芽は低温処理と珠孔の蓋の除去を行い,水温を20〜26℃に保てば,発芽率を約10%に上げることができた.
著者
田畑 泰江
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

クロピドグレルの活性代謝物生成に関与するCYP2C19の遺伝子多型と、臨床効果の関連性が近年数多く指摘されてきており、活性代謝物の生成量がクロピドグレルの臨床効果発揮に重要であると考えられる。最近の研究からクロピドグレルの活性代謝物生成経路に関与するCYPは詳細に同定されてきており、クロピドグレルから2-オキソ-クロピドグレルへの代謝と、2-オキソ-クロピドグレルから活性代謝物への代謝の2段階で反応が進行すると考えられている。このため、両段階の反応に中心的に関与するCYP2C19の活性が、クロピドグレルの臨床効果に大きく影響を与えると考えられ、プロトンポンプ阻害薬との併用によってCYP2C19の活性が阻害された場合、クロピドグレルの臨床効果が低下するとする報告も存在する。一方、CYPを介した薬物間相互作用としては代謝酵素の阻害だけではなく、代謝酵素の誘導を介した薬物間相互作用も良く知られている。クロピドグレルの活性代謝物の生成経路を考慮すると、CYP2C19の誘導は活性代謝物の生成量増大につながると考えられ、このため、CYP誘導剤とクロピドグレルを併用した際には、クロピドグレルの臨床効果あるいは副作用の増大が生じる可能性が考えられる。そこで、東大病院においてクロピドグレルが処方されている患者をリストアップし、併用薬剤およびその併用時期情報を網羅的に収集することで、相互作用の可能性検証を現在も継続している。またCYPP2C19の誘導に関しては、他のCYPと同列に比較した詳細ない情報が乏しかったため、レポーターアッセイ系を用いて実際に誘導活性の評価を行った。その結果、CYP3A4ではPXRによる誘導が強く、CYP2B6ではCARによる誘導が強く観察される実験系を構築した。従来はCYP2C19の誘導にはPXRが中心的と考えられてきたが、むしろCARを介した誘導の方が強く観察された。今後は、この点を考慮してCARを介した誘導剤に焦点を移して検討を継続したい。