著者
丹羽 雄一 須貝 俊彦 松島 義章
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2015, 2015

1.はじめに <br> 三陸海岸は東北地方太平洋岸に位置する.このうち,宮古以北では,更新世の海成段丘と解釈されている平坦面が分布し,長期的隆起が示唆される.一方,宮古以南では,海成段丘と解釈されている平坦面があるが,編年可能なテフラが見られない.これらの平坦面は,分布が断片的であり連続性が追えないこと(小池・町田編,2001)も踏まえると,海成段丘であるか否かも定かではない.すなわち,三陸海岸南部の長期地殻変動は現時点で不明である. 三陸海岸南部には,小規模な沖積平野が分布する(千田ほか,1984).これらの沖積平野でコア試料を採取し,堆積物の年代値が得られれば,平野を構成する堆積物の特徴に加え,リアス海岸の形成とその後の埋積,平坦化の過程を検討できる可能性が高い.リアスの埋積・平坦化過程の復元は,長期地殻変動の解明につながると期待される.本研究では,気仙沼大川平野において掘削された堆積物コアに対して堆積相解析および<sup>14</sup>C年代測定を行い,完新統の堆積過程,および完新世全体として見た地殻変動の特徴について論ずる.<br><br>2. 調査地域概要 <br> 気仙沼大川平野は気仙沼湾の西側に位置し,南北約2 km,東西4 kmの三角州性平野である.気仙沼大川と神山川が平野下流部で合流して気仙沼湾に注ぐ. <br><br>3. 試料と方法<br> コア試料(KO1とする)は,気仙沼大川平野河口近くの埋立地で掘削された.KO1コアに対し,岩相記載,粒度分析,<sup>14</sup>C年代測定を行った.岩相記載の際,含まれる貝化石の中で可能なものは種の同定を行った.粒度分析はレーザー回折・散乱式粒度分析装置(SALD &ndash; 3000S; SHIMADZU)を用いた.<sup> 14</sup>C年代は13試料の木片に対し,株式会社加速器分析研究所に依頼した. <br><br>4. 結果 <br> 4.1 堆積相と年代 <br> コア試料は堆積物の特徴に基づき,下位から貝化石を含まない砂礫層を主体とする河川堆積物(ユニット1),細粒砂からシルト層へと上方細粒化し,河口などの感潮域に生息するヤマトシジミや干潟に生息するウミニナやホソウミニナが産出する干潟堆積物(ユニット2),塊状のシルト~粘土層を主体とし,内湾潮下帯に生息するアカガイ,ヤカドツノガイ,トリガイが産出する内湾堆積物(ユニット3),砂質シルトから中粒砂層へ上方粗粒化を示すデルタフロント堆積物(ユニット4),デルタフロント堆積物を覆いシルト~細礫層から構成される干潟~河口分流路堆積物(ユニット5)にそれぞれ区分される.また,ユニット2からは10,520 ~ 9,400 cal BP cal BP,ユニット3からは8,180 ~ 500 cal BP,ユニット4からは280 cal BP以新,ユニット5からは480 cal BP以新の較正年代がそれぞれ得られている. <br> 4.2 堆積曲線 <br> 年代試料の産出層準と年代値との関係をプロットし,堆積曲線を作成した.堆積速度は,10,000 cal BPから9,700 cal BPで約10 mm/yr,9,700 cal BPから500 cal BPで1 &ndash; 2 mm/yr,500 cal BP以降で10 mm/yr以上となり,増田(2000)の三角州システムの堆積速度の変化パターンに対応する.<br><br>5.考察 <br> コア下部(深度38.08 &ndash; 35.38 m;標高&minus;36.78 &ndash; &minus;34.08 m) は潮間帯で生息する貝化石が多産する層準である.また,この層準の速い堆積速度は,コア地点が内湾環境に移行する前の河口付近の環境で,海水準上昇に伴い堆積物が累重する空間が上方に付加され,その空間に気仙沼大川からの多量の土砂が供給されることで説明がつく.すなわち,この区間(10,170 &ndash; 9,600 cal BP)における堆積曲線で示される堆積面標高は,当時の相対的海水準を近似すると考えられる. <br> 一方,地球物理モデルに基づいた同時期の理論的な相対的海水準は標高&minus;27 ~&minus;18 mに推定される(Nakada et al., 1991; Okuno et al., 2014).コアデータから推定される約10,200 ~ 9,600 cal BPの相対的海水準は,ユースタシーとハイドロアイソスタシーのみで計算される同時期の相対的海水準よりも低く,本地域の地殻変動を完新世全体としてみると,陸前高田平野で得られた結果(丹羽ほか,2014)と同様に沈降が卓越していたことが示唆される.コア深度36.13 m(標高-34.83 m)で得られた較正年代(9,910 &ndash; 9,620 cal BP)を基準にすると,当時の相対的海水準の推定値(堆積面標高)と理論値の差から,完新世全体として見た平均的な沈降速度は0.9 ~ 1.8 mm/yr程度と見積もられる.
著者
磯前 順一 小倉 慈司 苅田 真司 吉田 一彦 鍾 以江 Pradhan Gouranga 久保田 浩 山本 昭宏 寺戸 淳子 岩谷 彩子 小田 龍哉 藤本 憲正 上村 静
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

西洋近代に由来する人権思想の世界的な普及にもかかわらず、当の西洋においても、あるいは日本などの他のさまざまな地域においても、差別(人種差別だけでなく、いじめや戦争、 テロまでを含む)が依然としてなくならないのは、なぜだろうか。本研究では、これまで「聖なるもの」と「俗なるもの」の二分法で説明されてきた「宗教」と「社会」とのありかたの理解を、日本宗教史と世界諸地域の比較宗教史との学問の蓄積からあらたに問いなおし、現代社会における公共性の問題と結びつけて検討する。そのことで、公共空間における差別と聖化の仕組みがあきらかになり、より具体的な公共性のあり方についての議論が可能になることが期待される。
著者
森重 和春
出版者
日経BP社
雑誌
日経systems (ISSN:18811620)
巻号頁・発行日
no.190, pp.46-51, 2009-02

「電子メールの情報はインターネット上を飛び交っているのに,データを社外に置くのは問題だという考え方はおかしい。お金を銀行に預けた方が安全なのと同じように,データをGoogleに預けることに不安はない」─。東急ハンズの長谷川秀樹氏(IT物流企画部 部長)は,同社の情報系システムに米Googleが提供するクラウド・サービス「Google Apps」を採用した理由をこう説明する。
著者
九津見 明
出版者
一般社団法人 日本メディア英語学会
雑誌
時事英語学研究 (ISSN:21861420)
巻号頁・発行日
vol.1987, no.26, pp.91-102, 1987

本稿は、Newsweek誌における激動のフィリヒ.ン情勢を伝える記事を、メタファの観点から分析したものである。<BR>ニューズウィー一ク誌は、前大統領のF. Marcos夫妻、亡きB. Aquino氏、また当時、一介の主婦であった現大統領C.Aquino氏をはじめ、フィリヒ.ンの政治改革1において、国内外で主役となった多くの人物にインタビューをした。また、奥地深くに潜入しているNPAゲリラや、それに対抗する特殊部隊にも記者を送り活濃な取材をした。<BR>これらの記事は、ニューズウィーク誌はもちろんのこと、それらの人々そしてフィリヒ.ン政府やアメリカ政府の現状認識を興味深く伝えるものであるが、それを生き生きとさせているものこそメタファである。メタファは舞台の主役達が自らの立場をアピールし、どのように味方を結集し、敵と戦うか、そして報道する側は、いかに適切にそれらを世界に伝えるかの大きな武器となっている。
著者
前川 喜久雄 籠宮 隆之 小磯 花絵 小椋 秀樹 菊池 英明
出版者
日本音声学会
雑誌
音声研究 (ISSN:13428675)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.51-61, 2000-08-30 (Released:2017-08-31)
被引用文献数
2

Compilation of a large-scale corpus of spontaneous Japanese monologue is underway as a joint work of the National Language Research Institute (under the Agency of Cultural Affairs) and the Communications Research Laboratory (under Ministry of Post and Telecommunication). The corpus will contain about 700 hours of digitized speech (about 7 million morphemes), its transcription, and various tagging information such as POS information. Phonological labels (segmental as well as prosodic) will be provided for a subset of the corpus. The corpus will become publicly available in the spring of 2004.
著者
岡田 一晃 廣井 慧 河口 信夫
雑誌
第79回全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.2017, no.1, pp.971-972, 2017-03-16

「ポケモンGO」などに代表されるゲームによる行動変容が注目されている。これらの効果を計測するために、行動変容のあるゲームを考案し、きのこたけのこ対抗スタンプラリーというアプリを作成した。このアプリを用いて、BLEスタンプラリーをG空間EXPO2016というイベントで実施した。スタンプラリーの達成条件を人によって変更し、その際のスタンプの取得時間、取得順を調査した。得られたスタンプの取得時間、取得順よりBLEスタンプラリーの展示閲覧行動への効果を検討する。
著者
佐藤 正明
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.960, pp.84-87, 1998-10-05

ビクターのVHSとソニーのベータマックス。家庭用ビデオの主導権争いは、いかに多くの家電メーカーを自陣営に引き込めるかに勝負の行方がかかってきた。ビクターが7社連合を結成すると、ソニーはすかさず、その切り崩しにかかる。その後、海外メーカーをも巻き込んだ規格争いは、ソニーの巻き返しが激しくなり、ついに東芝と三洋電機がベータマックスの正式採用を発表することとなった。
著者
黒野 祐一
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.123, no.10, pp.1247-1252, 2020-10-20 (Released:2020-11-05)
参考文献数
11

粘膜免疫は消化管において病原微生物の侵入を防ぐ一方で, 生命維持に必要な食物は積極的に体内へ取り込むなど, 抗原に応じて相反する反応を示す. 上気道においても粘膜免疫が生体防御に重要な役割を果たしており, これが破綻することで感染症やアレルギー性炎症が発症する. したがって, 上気道の粘膜免疫を賦活すること, すなわち粘膜ワクチンを用いることでこれらの疾患を予防できると考えられる. 粘膜免疫において主たる役割を担っているのが分泌型 IgA で, ウイルスや細菌の上皮への接着を阻止する. 上気道に抗原特異的分泌型 IgA を誘導するには, 抗原を経鼻投与するのが最も効率的で, 現在, 経鼻ワクチンの開発が進められている. そのワクチンの一つとしてホスホリルコリンがあり, すべてのグラム陽性および陰性菌に含まれることから広域スペクトラムを有するワクチンになり得ると考えられる. また, 結合化ホスホリルコリンは粘膜アジュバントとしての作用を有しており, これらを用いた新規の経鼻粘膜ワクチンの開発を目指して現在も研究を続けている.
著者
多胡 靖宏
出版者
生態工学会
雑誌
CELSS JOURNAL (ISSN:09154353)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.33-34, 1999-09-30 (Released:2010-12-16)
参考文献数
3
出版者
日経BP社
雑誌
Nikkei microdevices (ISSN:13494619)
巻号頁・発行日
no.273, pp.32-37, 2008-03

半導体や電子部品といった業界の垣根を越えたデバイスの"大競争時代"に突入した。2010年代の次世代コア・デバイスの「統合化デバイス」は,半導体単体ではなく,MEMSをはじめとするさまざまな機能を取り込んでいく。こうした技術進化が,デバイス業界に大競争を引き起こしている。この競争には,Siファウンドリも参戦する可能性が高く,その勝負の行方は混沌としている。
著者
内村 元一
出版者
一般社団法人 日本画像学会
雑誌
日本画像学会誌 (ISSN:13444425)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.419-422, 2020

<p>昨今,海洋プラスチックごみや地球温暖化問題への関心が高まる中,パッケージにおいても 「サステナビリティ (持続可能性) 」 や 「環境配慮 (再生可能資源の活用) 」 といった観点から様々な対策ならびに技術開発が進められている.</p><p>当社では長年培ってきた製紙技術を基に,再生可能な循環型素材である 「紙」 に様々な機能を付与する取組みを展開しているが,この度 「紙」 に酸素や水蒸気,フレーバーなどのバリア性を付与した環境に優しいパッケージ用素材 「シールドプラス<sup>®</sup>」 を開発.更に,紙ストロー 「シルフィールTM」,シャンプー用差し替え容器 「スポップス<sup>®</sup>」 など,あらゆる分野·用途でのプラスチック代替製品を開発し,循環型社会形成の一助となる製品提案を行っている.</p>
著者
浅倉 むつ子
出版者
日本法社会学会
雑誌
法社会学 (ISSN:04376161)
巻号頁・発行日
vol.2016, no.82, pp.81-92, 2016

Despite the thirty years of the implement of the Equal Employment Opportunity Act, gender inequality in employment still remains unsolved. The primary factor of the gender inequality in employment in Japan is the deep-seated stereotyped roles for men and women in Japanese society. Child rearing and household affairs are largely regarded as women's duties and about 60 percent of female workforce retires for childbearing. The second factor is corporate systems and customs deeply rooted in Japanese business community, which are only superficially gender-neutral. For instance, assessment standards of typical wage systems include subjective criteria that are susceptible to gender views of assessors, e.g. "enthusiasm," "cooperativeness" and "tractability." This article analyzes the current status of the doctrine of leading cases in relation to gender inequality in Japan, and proposes development of a framework to enhance the effectiveness of anti-discriminatory legislation, an efficient working- hour law to reduce long working hours of male labor force, and a system to apply the principle of equal pay for equal value work to the norms of lawsuit.
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1502, pp.90-92, 2009-08-03

東京・お台場に、高さ18mの"実物大ガンダム"の立像が展示されている。この立像の肩の高さで記念撮影できる権利がオークションにかけられ、約260万円で落札されるなど、多くの話題を集めた。 ご存じのようにガンダムは、アニメ「機動戦士ガンダム」の主人公が乗る戦闘用巨大ロボットのこと。30代以降の世代を中心に熱狂的なファンがいる。
著者
三村 雄一 柴田 誠司 久田 茂 児玉 晃孝 吉田 正尚 増山 剛 成田 隆博 立花 滋博 古谷 真美 桑形 麻樹子 早川 和宏 青木 豊彦 細川 暁 牧 栄二
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.P-44, 2012

Wistar HannoverラットはSDラットに比して小型であり、生存率が高く、自然発生腫瘍が比較的少ないことから、安全性試験への利用が注目されている。今回、IGSラット研究会の活動として、4施設参画によるCrl:WI(Han)ラットの一般毒性試験に関する背景データの収集を実施した。下記の共通プロトコールを基に、各施設で試験条件を設定し、Crl:CD(SD)ラットの背景データとの比較を行った。共通プロトコール: • 観察・投与期間 : 4週、13週または26週 • 動物数 : 雌雄 n=10/ 性 (無処置または溶媒投与) • 飼育条件 : 任意 (実施施設で決定,飼料等の条件設定はしない) • 検査項目 : GLP 適用試験で実施する検査項目結果及びまとめ:Crl:WI(Han)ラットは、Crl:CD(SD)ラットと比較して、以下の特徴が認められた。なお、主要な所見について、施設間に相違は認められなかった。 • 体重及び摂餌量:低値 • 眼科学的検査:角膜混濁 頻度増加 • 血液学的検査:WBC、Platelet低値 • 血液生化学的検査:脂質系、AST及びALT低値 • 器官重量(相対):胸腺高値 • 眼の病理組織学的検査:角膜鉱質沈着 増加
著者
嶌田 久美 増山 英太郎
出版者
Japan Ergonomics Society
雑誌
人間工学 (ISSN:05494974)
巻号頁・発行日
vol.36, no.6, pp.311-318, 2000-12-15 (Released:2010-03-12)
参考文献数
13

デザイン活動において, デザイナーの視覚イメージ能力は大きな役割を果たしている. 本研究では視覚イメージの個人差として直観像素質を取り上げ, デザイン活動における直観像の機能についての基礎的研究を行った. まず, 工業デザインを専攻する大学生114名に質問紙調査を実施し, 主成分分析などによって日常生活における視覚イメージの使用傾向について概観した. 次に質問紙結果をもとに選出した15名を対象に直観像検査を実施し, 直観像素質者の検出を行った. その結果, 4名が直観像素質者であると判明した. 彼らは普段から視覚イメージをよく使用しており, 非素質者よりも頻繁に空想や想像を行っていることが示された. また, デザイン活動において不可欠と思われる, 視覚イメージの鮮明な保持や心的操作といった行為に対しても得意である傾向がみられ, 直観像素質とデザイン能力との関連性が推察された.