著者
竹内 洋 木村 洋二 雨宮 俊彦 吉岡 至
出版者
関西大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本年度は、新聞の見出しに着目した荷重分析の理論的・方法論的検討を行い、以下の3つのテーマに関する報道を対象として取り上げて分析した。また、多重媒介コミュニケーションモデルの理論的精緻化を図り、ネツトワークにおける信頼と不信の荷重変換ダイナミックスについて検討を加えた。1.地下鉄サリン事件とオウム真理教問題:本分析では、見出しにおける「サリン」と「オウム」という語句の出現頻度と文字面積の大きさを計測し、得られた各値を通時的な荷重グラフに表示することから、朝日・産経・毎日・読売新聞の報道における各紙の視点の違いを明らかにした。さらに、この2つのキーワードの配置に応じて5段階の評点を与え、サリン事件とオウム真理教との意味的な結びつきの強さを定量的に分析した。2.戦後日本における「いじめ」報道:1945〜2007年までの朝日新聞データベースを用い、現在、教育問題として語られる「いじめ」が、戦後から現在に至るまでの報道によって誘導され形成された言説(=「世論」)であることを明らかにし、その時系列的変遷を考察した。「いじめ」と「教育」に関連する意味ネットワークを相互比較することによって、分析におけるキーワードの選定とその意義が示された。3.東アジア問題-東シナ海ガス田の開発:2004年の中国による東シナ海ガス田開発に関する報道をもとに、日中両国の国益に関わる問題について、「ガス」という語を手がかりとして荷重分析を行うことにより、暗黙のうちに示された「国益の優先」と「日中友好」という各紙の立場の違いを明らかにした。記事の見出しに特化した本分析法は、簡便化による分析の即応性が見出された。本研究によって、客観報道の神話に隠れた荷重バイアスを視覚・データ化し、社会的現実がメディアの重みづけ報道によって相互構築されていく過程を実証的に分析する新しい手法の有効性を検証することができた。
著者
鈴木 直人
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

ポジティブ・サイコロジーの出現以来、感情心理学の分野においてもポジティブ感情の機能や存在意義に関する様々な説が提示されるようになってきた。例えば、まず第1に、ポジティブ感情は、ネガティブな感情によって亢進された精神生理学的反応を素早く元に戻す『元通り効果(undoing effect)』を持つという機能的意義も提唱された。さらには、ポジティブ感情は試行の柔軟性をもたらす、社交性を高めたり、健康にもプラスに働くなど、問題への対処というよりは、時定数の長い広範囲の有効な資源の動員を促すというFredricksonらの拡大-形成理論が提唱されるにいたった。しかしながら、一部の研究を除きこれらの存在意義や機能的意義に関して十分な十書的研究は行われておらず、ややもするとアイディアだけが先行している感がある。当初、申請では、主に元通り効果について検討する予定をしていたが、これまでの申請者の研究でも元通り効果と思われる現象が見られたことと、ポジティブ感情が思考などの柔軟性をもたらすという指摘については実証的なデータがあまり見られないことなどを鑑み、補助金を受けた研究では主にポジティブ感情が真に試行の柔軟性や、対処事態での行動の切り替えの柔軟性に効果を持つのかについて検討した。本研究報告では2つの実験についてその結果を報告している。まず、第1の実験パラダイムとしてポジティブ感情状態の実験参加者と、低い実験参加者を用いて問題解決実験を行わせ、その課題の解決方法が途中で急変し、それに対処しなければならない事態を作って研究した。その結果、ポジティブ感情の高低は、事態急変前後の課題遂行成績には影響を及ぼさなかったが、ポジティブ感情が心身への負荷を和らげる効果が示された。第2の実験パラダイムとして、実験参加者にポジティブ感情、ネガティブ感情、ニュートラル感情を歓喜し、その前後で、物事を考えなければ、あるいは発想の転換をしなければ解決できないを拡散課題、物事を考えるというよりは課題に集中しなければならない集中課題を負荷し、その成績を比較した。その結果、ポジティブ感情の喚起は」、拡散課題の成績を上昇させたのに対し、ネガティブ感情、ニュートラル観桜はそのよう奈効果をもたらさなかった。また一方、ネガティブ感情の喚起は集中課題の成績を上昇させたが、ポジティブ感情の喚起では集中課題に対してはなんら変化をもたらさなかった。以上の結果からポジティブ感情の喚起、もしくはおポジティブ感情状態にあるものは、問題解決場面などで、柔軟な考えかたができ、対処ができる可能性が示唆された。先述したように、ポジティブ感情の機能や存在意義に関して実証的データは少なく、本研究の成果、特に題2番目の研究はIsenやFredricksonらの主張を強く支持するデータであり、ポジティブ感情研究、あるいはポジティブ心理学に貢献するものである。
著者
佐藤 嘉一 中川 勝雄 森田 浩平 池内 靖子 木田 融男 佐々木 嬉代三 奥川 桜豊彦
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1994

本研究は国内外の社会移動に注目し、(1)移住の動機・誘因、(2)移住後の生活実態、(3)UターンやJターン現象にみられる「帰郷意識」、(4)移住に伴うアイデンテイテイ問題などの実証的研究によって、社会移動についての社会学的分析を試みたものである。具体的には、戦前・戦後を通じて海外や本土に大量の移民・出稼ぎ者を供給してきた沖縄県の北部地域である今帰仁村を対象地域に選定し、現地の移住体験者と移住先の今帰仁村出身者についての綿密な聞き取り調査を実施した。本研究によって明らかにされたことは、次のような諸点である。第1に、移住の誘因としては後進的農業地域ゆえの現地での雇用機会の少なさがあるにしても、個人レベルに立ち入ってみると大きな夢や高い理想の実現をめざそうとする気概をもって出て行く者も少なからず存在した。第2に、移住の経路として先行する移住者の親戚・知人を頼る「呼び寄せ」を経由する者が大半である。第3に、にもかかわらず多くの移住者は沖縄文化と異質の異郷にあってさまざまな苦労を体験することで、ある者は移住先で郷友会に入り沖縄文化を享受し、ある者は再び帰郷している。その結果、母村と各地の郷友会の濃密な社会的ネットワークが形成される。第4に、この社会的ネットワークが母村を支え人口増、農業振興など本土農村と異なる様相がみられる。第5に、移住先で郷友会に組織されなかった者のなかには、異郷に適応できず社会的転落を余儀なくされる事例があり、また沖縄本島においてもハンセン病患者に対するような深刻な差別があったことも看過できない。第6に、移住者一世によって形成されてきた社会的ネットワークは近年世代交代の局面を迎えており、一世から二世・三世への継承のありかたが課題となっている。
著者
増田 聡 村山 良之 佐藤 健
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、自然(災害)科学の研究成果として公開が進むハザード情報が、「行政やプランナー、地域住民からどのように受け止められ」、「今後の都市計画制度や防災まちづくりに如何に反映されるべきか」について、地震災害を中心に、重層的リスク・コミュニケーションをキー概念に据えて、人口減少期を迎えた我が国の市街化動向を踏まえた検討を行い、(1)地域コミュニティにおけるリスク・コミュニケーションと行動変容の課題と、(2)自治体内リスク・コミュニケーションを核とする防災都市計画の実態を明らかにした。
著者
木下 泉 青海 忠久 田中 克
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

四万十川河口内で浅所と流心部の仔稚魚と魚卵の出現状況から,アユ,ハゼ科等の河川内で孵化し,成長した後,河口内浅所に接岸するグループ,カサゴ,ネズッポ科等の河口付近で孵化するが,その後他の水域へ移動するグループ,ボラ科,ヘダイ亜科等の沖合で孵化し,成長した後,河口内浅所に接岸するグループの3つに分けることができる.河口内浅所のアマモ場,非アマモ域と河口周辺の砕波帯を比べると,アマモ場と砕波帯には各々特徴的な種がみられた.本河口内には海産魚類の仔稚魚が多く出現し,砕波帯にも共通している.しかし主分布域は種独特の塩分選好性により河口内浅所と砕波帯に分かれ,河口内浅所はプロラクチン産生等で低塩分適応を獲得した特定の仔稚魚が成育場としていると考えられる.河口内浅所と砕波帯との共通種の加入サイズは一致し,これら仔魚は砕波帯を経由せず沖合から直接河口内に移入し,浅所に接岸すると考えられる.本河口内と沖合との間には著しい塩分勾配がみられ,河口内への仔稚魚の移入に塩分の水平的傾斜が関与している可能性が高い.成育場での仔稚魚郡集は滞在の長短によりresidentグループとmigrantグループに大別されるが,本河口内浅所の仔稚魚の多くは前者に属する.この点で殆どがmigrantグループである砕波帯の仔稚魚相とは大きく異なる.しかし河口内浅所におけるresidentグループには成長に伴ってアマモ場に移住する種が多い.一方,アマモ場は本河口内浅所が仔魚から若魚期に至る成育場として重要な環境要素となっている.本河口内で生活する仔稚魚は枝角類・橈脚類に加え,流心部に多く分布するハゼ科・アユ仔魚を多く摂餌している.浮遊期仔魚は浮遊甲殻類に比べて,はるかに質的に重要な餌生物であろう.以上のように,本河口域浅所は豊富で独特な餌料環境を形成するとともに,逃避場所や定着場所として利用されるアマモ場が周年存在することにより,低塩分環境に適応した特定の魚類にとって,初期生活の大部分を過ごすことができる重要な成育場となっていることが分かった.
著者
林 正子
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

日清戦争後から大正期にかけての日本におけるドイツ思想・文化論が、当時の知識人の意識や国情の実態を反映していることを確認し、国民国家確立期の日本におけるドイツ哲学・芸術の受容の意義について論じるというのが、本研究の目的であった。次のようにその結論の概要を挙げておきたい。1.当時の青年知識人たちにとって、ショーペンハウアー、ニーチェ、ウァーグナーらが代表するドイツ思想・文化は、俗化の方向をたどる文明の改革と主体性のない社会の道徳への反抗を実現するための支柱となった。2.ドイツ思想・文化受容の成果が雑誌「太陽」に掲載されたことで、数多くの読者に具体的な情報が与えられ、相対的・客観的な日本文化論の展開によって、日本(=自己)自身への認識を深めさせるというパラダイムが創り上げられ、時代精神そのものが形成されていった。3.<生の哲学>(Lebensphilosophie)の受容とその評論の隆盛は、明治というひとつの時代を閲した時期の[日本=自己]の存在の基盤を問う風潮と精神性を象徴的に表わすものであった。4.オイケンの<新理想主義>が移入されたことによって、現代文明・自然主義の超克、精神生活の建設が提唱されることとなった。5.<文明>と<文化>が、当該の社会状況や思潮の動向に応じ、用語として区別されるようになるのは1910年代であり、ドイツ語<Kultur>の翻訳である<文化>概念の登場が<文化主義>を導き出した。その要因としては、明治期における<日本文明>の進展についての自覚、<国民文化>確立の重要性の認識、ドイツ思想の受容による<教養>の練磨などが挙げられる。
著者
平田 光弘
出版者
星城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究の主要目的は、日本の不祥事企業に着目して、不祥事企業が必死の思いで経営再生に取り組み、社会からの信頼回復に立ち向かう事態をつぶさに観察することによって、「社会に信頼される企業」形成の実践的条件を探ることにあった。1不祥事企業が経営再生するための鍵概念は、「持続可能な発展」「社会に信頼される企業」「新しい企業の社会的責任」「コーポレート・ガバナンス」「コンプライアンス」「内部統制」および「リスク・マネジメント」である。これらの鍵概念は同時に、不祥事とは一見無縁の、堅実に経営業績を上げている企業が、いまの経営を、そしてこれからの事業展開を考えていく上で欠かせない鍵概念でもある。2不祥事企業が経営再生するための必要条件は、(1)起業の原点に帰り、自社の社会における存在意義と使命を改めて問い、確認し、それを全社員が共有すること、(2)不祥事の芽は現場にあるとの認識に立って、全社員が常に危機意識を共有すること、(3)企業はこぞって、地球社会の持続可能な発展に貢献することが期待されているとの認識に立って、杜会から信頼される企業づくりに努め、そして、それを可能にするのがCSR経営であることを自覚し、実践することである。これらの条件は同時に、「社会に信頼される企業」形成の実践的条件をもなしている。3「社会に信頼される企業」形成の実践的条件は、(1)経営者は明確な経営倫理観・経営姿勢を持ち、常に起業の原点に帰り、自社の社会における存在意義と使命を問い、社員との対話等のコミュニケーションを通じて、これを社員とともに確認し共有すること、(2)経営者は社員とともに、不祥事の芽は現場にあるとの認識に立って、危機意識を共有すること、(3)経営者は社員とともに、社内の聖域をなくすことに努め、風通しの良い企業風土を醸成し、経営の透明度を高め、情報開示すること、(4)経営者は社員とともに、自社も地球杜会の持続可能な発展に対する貢献を期待されているとの認識に立って、社会から信頼される企業づくりに努め、そして、それを可能にするのがCSR経営であることを自覚し、実践することである。
著者
林 勲男 杉本 良男 高桑 史子 田中 聡 牧 紀男 柄谷 友香 山本 直彦 金谷 美和 齋藤 千恵 鈴木 佑記
出版者
国立民族学博物館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008-04-08

大規模災害被災地への人道支援や復興支援は、災害規模が大きくなるほど、地域を越え、国を越えたものとなる。そうした支援が被災地の従来の社会関係資本を正しく評価し、それを復旧・復興に活用し、さらにはその機能と価値を高めることによって、将来の更なる災害に対する脆弱性を克服することに繋がる。しかし、地域や国を越えての異なる文化や社会構造の理解は容易ではなく、多分野の専門家や住民との協働が求められる。それは、開発途上国の被災地への支援だけでなく、先進国で発生した災害の被災地支援についても同様であることが、2011年3月発生の東日本大震災で示された。平穏時から、対話と協働に基づく活動と研究が重要である。
著者
藤本 文朗 太田 富雄 加瀬 進 小川 克正 河相 善雄 玉村 公二彦 後藤 容子
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、障害児教育教員の免許制度(養成・採用・研修に関する懸案事項)を解決するため盲・聾・養護学校並びに都道府県教育委員会・教員養成大学の実情を把握することとともにこの制度についての歴史的研究と国際比較を通して、総合的な観点から免許制度と教師教育の在り方について立案することを意図した。(1)第3年次としてまとめの年で今後あるべき方向として障害児学校の教師には研修として総合的な障害児教育の基礎免許状(教員養成大学学部)を義務づけ、障害別の免許状は大学院専攻科レベルで取れるとしてそのカリキュラムを草案として示した。(2)又ベトナムホーチミン市に障害児教育師範大学(2年、現取対象)の創立、カリキュラム教師派遣に援助して発展途上国の教師教育について討議した。
著者
北澤 毅 近藤 弘 佐々木 一也 有本 真紀
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本共同研究におけるテーマは、感情をめぐって、(1)発達・社会化、(2)文化的規範、(3)人間関係(解釈学の視点から)、(4)情操教育(音楽教育の歴史と現状)の観点に大別される。これらの観点から3年間研究を重ね、上記(1)〜(4)までの観点を、主に(a)理論的検討、(b)相互行為における子どもの泣き、(c)記憶と涙、(d)ジェンダーと涙という研究課題へと展開させた。その成果として研究協力者の協力を得つつ、下記構成のもとで報告書を執筆した。以下の成果が本研究のまとめとなる。第1部 問題設定と理論枠組第1章 本研究のねらい-「文化」概念に着目して-第2章 感情概念の捉え方の変遷-その社会性に着目して-第2部 相互行為における子どもの泣き第3章 発達という文化-保育実践における泣きの記述に着目して-第4章 園児間トラブルにおける保育士のワーク-<泣き>への対応に着目して-第5章 児童のく泣き>を巡るトラブルの構成-遊び場のフィールドワークから-第6章 「涙」をめぐる定義活動及び修復活動の開始と園児の「泣き」-「泣き始めること」と「泣き続けること」の相互行為分析-第3部 制度化された涙3-1.記憶と涙第7章 卒業式の唱歌-共同記憶のための聖なる歌-第8章 制度化された場面の感情喚起力-テレビドラマの分析を通して-3-2.ジェンダーと涙第9章 表象としての涙とジェンダー-絵本の表現技法の分析を通して-第10章 涙・泣きに関するジェンダー言説の分析補論関係性としての涙-哲学的考察-
著者
田中 弥生 武田 晴人 山内 直人 三好 皓一 高橋 淑郎 西出 優子
出版者
独立行政法人大学評価・学位授与機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

非営利組織には、営利組織の利潤に匹敵するような業績判断基準が不在であること、それゆえに非営利組織の経営が困難であることを最初に指摘したのはP.F.ドラッカーであった。たしかに、評価の不在が、非効率な行動を招き、成長の機会を逃している。そこで、ドラッカーの非営利組織論の原点に立ち返りながら「社会変革性」「市民性」「組織安定性」の3つの基本条件を軸に、非営利組織の評価基準を作成した。まず、NPOセクターの現状分析を行なうべく、定量・定性的な分析を行なった。財務データベースをつくり、財政的な持続性にかかる財源の種類など要因分析を行なった。その結果、非営利組織の場合には、収益事業収入に加え、寄付や会費などを組み合わせたほうが財務的な持続性が高いことがわかった。またアンケート調査を実施した。その結果、社会変革の担い手になりたいという願望を持ちながらも組織体制や技術面で不十分なこと、さらには、社会的な信頼性が低く、市民との関係性がより希薄になっていることがわかった。次に、研究者および実践者によるチームを編成し、先の現状分析結果を踏まえ、社会的なイノベーション力を備えた望ましい非営利組織像に到達するためには、どのような条件を満たすことが求められるのか議論した。そして、評価基準策定工程をデザインし、先の議論からエッセンスを抽出し、33の評価基準にまとめた。また、33基準を満たしていることを確認するための105の自己チェック項目もデザインした。これらの研究成果は、6本の研究論文、4冊の図書にまとめられ、5回の学会発表、8回の講演で発表された。なお、研究成果を非営利組織が活用できるよう、これらの基準とチェック項目を「エクセレントNPO基準」と名付け、2冊のブックレットにまとめた。さらに、フォーラム、講演などで説明を行ったが、5大紙、雑誌などで取り上げられた。また、2011年1月には本評価基準を普及すべく、推進母体として「エクセレントNPOをめざそう市民会議」を発足させた。
著者
西野 和典 高橋 参吉 大倉 孝昭 大西 淑雅 山口 真之介
出版者
九州工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

高校教科「情報」担当教員が専門的な知識や技能を得て、実践的な授業スキルを身につけるためのe-ラーニング教材を開発する。そのために、大学の教科「情報」の教職課程科目の授業内容をe-ラーニング教材にして、現職教員が働きながら学ぶことができる環境を実現する。また、インターネットを活用して遠隔から授業を評価するシステムを構築し、ベテラン教員から授業改善について指導を受け、相互評価を行い教科「情報」の授業のスキルアップを行う。
著者
小林 信之
出版者
山口大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

我々は従来よりAIDS発症のco‐factorとして、TNF(tumor necrosis factor;腫瘍壊死因子)を提唱してきている。本研究において我々は以下の2点を新たに明かにした。その第1点は、TNFによるHIV感染細胞の特異的致死機構が所謂Apoptosisの機構に拠っており、TNFによるHIV複製増強がHIV感染細胞の特異的致死を誘因しているのではないことを明かにしたことである。近年細胞のApoptosisを仲介すると考えられている細胞膜上の糖蛋白Fas坑原遺伝子が分子クロ-ン化され、細胞死の機構がようやく明かにされうる段階に来ており、今後HIV感染相棒の特異的致死機構がこの観点からさらに詳細に検討されていくものと期待される。我々が明かにした第2の点は、HIV転写制御に細胞特異的に関わる因子の存在と、その因子が作用するHIV‐LTRの中のcis‐elementの同定である。我々が新規に見いだしたこのcis‐elementはHIV‐LTRの‐121から‐158に存在し、この領域がヒトT細胞株MOLT‐4でHIVの転写を正に調節していることから我々はこの領域をURE(up‐regulation element)と命名した。この領域は単独にHIV転写を制御する因子ではなく、HIV‐LTR中のエンハンサ-(Enhancer)領域の機能を制御する領域である事が明かとなった。、HIVの転写には必須の領域ではないが、この領域の存在はHIVの転写を最大500倍活性化すること、さらに、この領域の活性が細胞特異的であることも見いだした。今後この領域に働く細胞性因子の検索を行なっていく予定である。
著者
中村 陽子 人見 裕江 西内 章 津村 智惠子 上村 聡子 松浦 尊麿 村岡 節 金 玄勲 金 東善
出版者
園田学園女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

限界集落における終末期の現状は在宅死よりも病院での死亡が多かったが、後期高齢者になると自宅か町内の病院死が多かった。厳しい生活条件の下での暮らしの中、人々は地域に深い愛情を持ち、家で終末期を迎えることを希望しながらも現実は無理であるとの思いが強かった。高齢化と過疎化、相互扶助の文化が薄れてきており、看取りの文化の継承が困難である現状が明らかになった。韓国の過疎地域における終末期ケアの課題としては医療・福祉サービスなどの多様なサービスの提供と都市部と地方の地域格差の解消が重要であることの示唆を得た。
著者
島田 三惠子 鮫島 道和 保 智巳 新田 紀枝 大橋 一友 白井 文恵
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

妊娠中から産褥期の母親の生活リズムおよび生活習慣と、乳児の睡眠覚醒リズム等のcircadian rhythmの良否および生活習慣との関連の有無を明らかにする事を目的として行った。対象:大阪府内の研究協力病院の母親学級(参加者の合計328名に説明)と妊婦外来でリクルートし、研究参加に意思表示した妊婦75名のうち、同意書が得られたのは平成19年11月迄に出産予定の妊婦60名であった。縦断的に追跡調査できたのは産後1ヶ月の母子53名、産後4ヶ月の母子41名であった。方法:妊娠末期、産褥1ヶ月・4ヶ月の計3時点で、(1)生活習慣と生活リズムの質問紙調査、(2)睡眠表1週間記録と平行して(3)アクティグラフで睡眠覚醒リズムと活動量を4日間測定と(4)唾液を1日4回3日間家庭で採取した。同時にこの妊婦から生まれた乳児の生後1ヶ月と4ヶ月の2時点で、母親と同時に(2)乳児の睡眠表記録1週間と(3)アクティグラフ(4)唾液採取し、メラトニンを測定した。結果:妊娠出産に伴って睡眠覚醒リズムは変化し睡眠の質が悪化するが、妊娠末期から産後4ヶ月では、睡眠が分断されても最長睡眠時間は夜間にあり、睡眠覚醒のリズム周期は24時間であることが明らかにされた。妊娠末期から産後4ヶ月の期間は最長睡眠の入眠時刻が早いほど最長睡眠時間は長くなり、早寝は産後の睡眠状態の改善に役立つことが明らかにされた。また、妊娠末期に妊婦が早く寝ることによりその新生児が夜間多く眠ることが明らかにされ、ヒトにおいても母体の生活リズムを基本として胎児期に発達し始めることが明らかにされた。新生児の睡眠などの生活リズムはその後の乳幼児の基本的な生活習慣の形成あるいは生活習慣病の発症との関連が示唆されている。従って、妊娠期から規則的な生活習慣を持つこと母子の生活習慣病の発症の予防に資する重要な意義がある。今回の対象には、妊娠合併症を持つ異常妊婦は数名しか同意が得られず、妊娠中の生活リズムや生活習慣が妊娠・分娩・産褥経過に及ぼす影響については十分検討できなかったため、事例を積み重ねて今後の継続課題とする。
著者
荒川 圭太
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

化石燃料の消費によって大気中に放出された硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)による酸性雨・酸性霧は地球規模の環境問題である。降雨などに混じる酸性物質(硫酸、硝酸など)が直接的もしくは間接的に植生や農作物の生産性・品質に少なからぬ影響を及ぼすことが懸念される。降雨の酸性化と同様に雪氷の酸性化(酸性雪)も徐々に進行している。酸性雪は冬期間かつ寒冷地域での気象現象であるため、酸性雨に比べてその関心度は低い。酸性雪は地表面に留まる時間が長いため、酸性雪に覆われた植物は、氷点下温度と酸性物質による複合的環境ストレスを長期間にわたって被ることになる。そのため、酸性雪は融雪後の植物の生長に影響を及ぼす環境要因のひとつと考えられるが、酸性雪による植物への影響やその応答性について検証した例は見ない。そこで本研究では、酸性雪によるストレスを実験室レベルでシミュレーションし、酸性雪による越冬性植物の傷害発生機構を解析して酸性雪耐性付与への分子基盤の構築を目指した。これまでに、越冬性作物である冬小麦を用い、酸性雪ストレスをシミュレーションする実験系を構築して酸性雪ストレスに対する冬小麦緑葉の応答性を調べてきた。その結果、酸性物質(硫酸)存在下で凍結融解処理することによって冬小麦緑葉の生存率が低下するのは、共存する硫酸が凍結濃縮されることによって生じるpH低下が主たる要因であることを明らかにした(Plant and Cell Physiology誌に掲載予定)。しかし、酸性雪ストレスによる越冬性作物の傷害発生の分子機構を詳細に解明するまでにはまだ至っていない。今後も当研究課題に関連した生理学的・生化学的解析を継続し、越冬性植物の分子育種による酸性雪耐性の付与や酸性雪耐性品種の選抜による生産性向上・植生回復などへ応用するための分子基盤の構築を試みる所存である。
著者
矢野 潤
出版者
山口大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

導電性高分子であるアニリン誘導体高分子,ポリ(N-メチルアニリン)(PNMA)およびポリ(o-フェニレンジアミン)(PoPD),をそれぞれ対応するモノマーを電解重合することにより作製した.PNMAおよびPoPDとも安定な膜として電極基板上に得られた.これらの重合膜を被覆した電極を用いて溶存する有機化合物のサイクリックボルタンモグラムを測定したところ,ビタミンCやいくつかのキノン類のサイクリックボルタンモグラムの酸化・還元ピーク電位は電極反応が起こりやすい方向に移行し,重合膜の電極触媒作用が観測された.PNMA膜の電極触媒作用の電極過程や速度論的パラメタを調べるため,PNMA膜を回転円板電極(RDE)上に被覆してRDEボルタンメトリを行った.PNMA膜の膜厚,溶存種の濃度などを変えてRDEボルタンモグラムを測定し,AlberyとHillmanの理論をもとに解析した.その結果,(1)溶存する有機化合物は主にPNMA膜中のレドックス活性サイトにより酸化・還元されること,(2)その電荷移動の速度定数は6.4×10^3Ms^<-1>であったこと,(3)電極触媒反応の全電極反応速度定数は0.015cm s^<-1>であったこと,などが明かとなった.他方,PoPD膜についても同等の検討を行った結果,(1)〜(3)とほぼ同様の結果が得られた.したがってこうした電極触媒作用を高めるには,重合膜のレドックス活性の増加を図ることが重要であるという知見が得られた.PoPDは他の多くの導電性分子と異なり,いくつかの有機溶媒に溶解した.そこでこのことを利用してPoPDの分子構造が決定できた.得られた分子構造と導電性や電極触媒活性の関連についても有為な結果が得られた.
著者
中東 靖恵
出版者
岡山大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2001

本年度は、中国人日本語学習者に対して撥音の読み上げ調査を行い、その結果を学習者音声の音声的バリエーションという観点から考察を行った。インフォーマントは、日本に在住の中国人日本語学習者31人(男12人、女19人)。出身地、民族名、年齢、来日歴、日本語学習歴など学習者の属性のほか、中国で受けた日本語の発音教育や、日本語の撥音を発音する際の意識についても尋ねた。調査は、以下に示すような撥音を含む258の単語と13の短文を用いて行った。(1)両唇鼻音:インパクト、乾杯、看板、コンビニ、あんまり、運命、さんま、専門…(2)歯茎鼻音:簡単、センター、半月、うんざり、金属、団地、本音、訓練、親類、コンロ…(3)硬口蓋鼻音:カンニング、こんにゃく、三人、にんにく、般若、本人…(4)軟口蓋鼻音:アンコール、単価、貧困、案外、音楽、言語、ジャングル、ハンガー…(5)口蓋垂鼻音あるいは鼻母音:安全、本、禁煙、恋愛、神話、男性、チャンス、噴水…調査の結果、学習者に見られる撥音の音声的バリエーションには、音環境ごとに一定の傾向が認められることが明らかになった。多くの場合、日本語母語話者と同様、後続する音の別により実現音声が決まるが、ゆれも見られ、その場合、撥音に先行する母音の別と、先行母音の調音位置が関係するという日本語母語話者にはない別の規則が働いている可能性が示唆された。本研究は、従来、誤用の観点からしかあまり議論されてこなかった日本語学習者の撥音の実現音声について、計量的観察に基づき、音声的バリエーションという観点から考察することにより、これまで漠然としていた学習者音声の実態を明らかにすることができた。今後、他の言語を母語とする学習者にも調査を行い、日本語学習者に共通する規則性が見いだせるかどうか、そしてそれがあるとすれば互いに共通性があるのかどうか、検討する必要がある。
著者
小林 恵美子
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

日米大学生より収集したデータの分析結果は以下の通りです。まず第一に、Haganのパワー・コントロール理論とHofstedeの不確実性減少という概念を使って、11種類の逸脱行為に従事する頻度は、日米グループ共に男子学生の方が高いこと。又その性別間差異は、日本人学生の方が米国人白人学生よりも小さく、背景には、日本人男子学生の逸脱行動を控える傾向が強く作用していると仮説を立て、統計的に立証しました。尚この調査結果を記した論文は、修正し米国の某学術雑誌に再提出する予定です。続いて、分化接触/社会学習理論について、3本論文を執筆しました。まず初めに、Tittleの"Shells of Illusion"とHofstedeの不確実性減少という概念を基に、仲間の逸脱行動が自身の逸脱行動に及ぼす影響は、日米グループ共に男子学生の方が強いこと。又その性別間差異は、日本人学生の方が小さく、背景には、日本人男子学生が仲間の逸脱行動に感化されにくい傾向が強く働いていると仮説を立て、統計的に立証しました。次に、Hofstedeの不確実性減少という概念を使って、日本人学生が米国人学生よりも逸脱行動を控える傾向は、逸脱行動に従事する仲間の数が少ないことに起因すると仮説を立て、統計的に立証しました。最後に、仲間の逸脱行動と逸脱支持の姿勢が自身の姿勢に影響を及ぼし、果ては自身の行動に作用するという因果関係を日米で比較検証しました。Hofstedeの個人主義という概念を用いて、仲間の逸脱行動と逸脱に対する姿勢が自身の姿勢にもたらす影響の度合いは、日本人学生の方が大きいこと。一方、自身の姿勢が行動に及ぼす影響度は米国人学生の方が大きいと仮説を立て、統計的に立証しました。これら3本の論文は、学術雑誌に投稿すべく、現在、米国人共著者が推敲しております。
著者
神川 康子
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

当研究室では1996年から子ども達の基本的生活習慣と日中の生活の質に焦点を当て、唾眠研究を続けている。平成15〜17年度の研究は、睡眠・覚醒リズムの乱れが、子ども達の集中力や情緒の安定性に及ぼす影響力について検証し、生活の改善を図りたいと考えた。そのためには、子ども達、保護者および教員が、基本的生活習慣や生活リズムを整え、望ましい時間帯に睡眠をとることの重要性を科学的に理解することが先決である。そして、子ども達が成長とともに生活の自己管理ができるように周囲から教育支援できるプログラムの作成を目的とした。この3年間の研究の成果はつぎのとおりである。1.2003年実施の富山県における小学校から高校までの養護教諭を対象とした調査で、子ども達の生活が、明らかに夜型化し、睡眠不足になっている傾向が認められた。2.同調査分析の結果、養護教諭が懸念する最近の児童・生徒の心身状況は、「情緒不安定」「精神発達が幼稚」「生活リズムの乱れ」「体調が悪い」「疲れている」の項目であった。3.大学生を対象として、睡眠習慣と心身の健康状態の関連をシミュレーション実験により検証したところ、就寝時刻、起床時刻ともに遅く、睡眠時間が短い学生ほど、昼間の疲労の自覚症状訴え数が多く、反射神経の活動性を調べる「落下反応検査」の5回測定した成績の標準偏差が大きく、作業が不安定であることが判明した。4.しかし、室内環境に、副交感神経優位にする効果のある香気成分セドロールを噴霧することによって、自覚症状訴え数が減少し、作業成績の標準偏差も小さくなり、安定することもわかった。このセドロールの効果は小学生の計算作業や図形認識でも作業量が増え、誤答数と標準偏差は減少するという同様の傾向が認められた。最後に3年間の研究の成果をプレゼンテーションにまとめ、学校現場や地域の研修活動等、3年間で107件に活用し、睡眠のとり方による生活の質(QOL)向上について理解を促した。