著者
金 友子
出版者
立命館大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、日本に居住する在日朝鮮人のうち、韓国を自らの国とする学生団体の、1960年代から70年代における思想と行動を考察することを目的とした。研究期間内には、第一に資料収集とその保存のための電子化、第二に収集した資料を読み込み彼ら・彼女らの思想と行動を記述・分析をおこなった。さらに当時活動していた人物への聞き取り作業も実施した。資料は約500点の存在が確認され、そのうち貸与可能なものは電子化した。分析の結果、彼ら・彼女らは無条件の「祖国」に同一化していたのではないこと、また、祖国意識形成の装置として母国訪問団や翻訳資料など、「祖国」との物理的・時間的距離を埋める装置の存在が確認された。
著者
遠藤 金吾
出版者
秋田県立秋田南高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

【研究目的】近年、博士号を取得しても定職に就けない余剰博士が問題化していおり、博士号取得者をアカデミア以外の業界で活用しようという動きが盛んになっている。また、秋田県では、昨今問題視されている理科離れに鑑み、子どもたちの理数分野への興味・関心を高め、将来の科学技術・医療を担う人材を育成する事を目的として、全国に先駆けて理系の博士号取得者を対象とした教員採用試験の特別選考を行い、新たな博士のキャリアパスの開拓へとつながる試金石として注目を浴びた。申請者はこの選考による採用者であり、自らの教育実践を通し、博士号取得者に対して、初等中等教育の教員としてのロールモデルの提示を行っていくと同時に、学術界・教育界に対して、理系博士号取得者の初等中等教育の教員としての有用性を訴えていく。【方法・結果】専門性を生かした授業・実習プログラムを開発し、秋田県内の小中高校において実践した。その実践報告を、日本理科教育学会、日本生物教育学会にて行った。文部科学省中央教育審議会大学院部会において、本研究の取り組みについて答弁を行った。(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/004/gijiroku/attach/1288749.htm)【結果】日本理科教育学会、日本生物教育学会での実践報告、中央教育審議会での答弁の他、名古屋大学ノン・リサーチキャリアパス支援事業のパンフレット、文部科学省科学技術白書にて紹介されたことにより、博士号取得者に対してのロールモデルの提示を行い、学術界・教育界に対する、理系博士号取得者の教員採用の意義を訴えることができた。内閣府行政刷新会議においても博士号取得者を教育界で活用する方針が打ち出され、岩手県など、博士号取得者の教員採用が広がりつつあり、今後、本研究の成果が各方面で活用されていくことが期待できる。
著者
笠原 諭 高橋 美和子 松平 浩 岡 敬之
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

ADHDを併存した慢性疼痛患者100名に対するADHD治療薬(メチルフェニデート and/or アトモキセチン)による薬物調整を完了し、治療前後におけるコナーズ成人ADHD評価尺度(Conners’Adult ADHD Rating Scales: CAARS)の自己記入式、観察者記入式の双方を実施した。約8割の患者においてADHD評価尺度に大きな改善が認められている。そしてADHD症状に改善の見られた患者においては、認知機能の改善とともにNumerical Rating Scale(NRS)で測定した疼痛症状や、Hospital Anxiety and Depression Scaleの不安・うつ等の気分症状、痛みの破局的認知Pain Catastrophizing Scaleにも有意な改善が認められた。薬物調整を完了した40名の患者については、治療後のSPECT検査を実施完了している。薬物療法で治療効果の得られた患者においては脳血流にも改善がみられる傾向があり、1)前頭葉領域の血流低下が改善するパターンと、2)大脳皮質低血流/基底核高血流の不均衡が緩和するパターン、3)モザイク状の血流分布が平滑化するパターンが認められた。研究分担者の異動などにより解析作用が遅延していたが、研究体制も整ったため、上記のADHD診断の有無、ADHD治療薬の効果・薬物反応性の結果と、脳SPECTのデータを合わせて(1)非ADHD群との比較を行うことで、ADHDを併存した慢性疼痛の早期診断指標を確立し、(2)治療効果と関連する脳血流パターンを同定することで、治療反応性(薬剤選択)の予測指標を確立し、(3)ADHD治療薬による鎮痛効果の脳内機序の解明に繋げられるようにする計画である。
著者
石幡 浩志 島内 英俊 静谷 啓樹 安田 一彦 庄司 茂 山田 志保子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

ISO/IEC15693におけるRFIDの通信周波数は短波帯(13.56MHz)であり,この帯域の電波については生体軟組織を通過することは既に確認されている。本研究以前に、本研究実施者の研究により、歯の内部に無線ICタグが格納された際,比較的電子密度の高い硬組織を電波が通過できる可能性について、中波帯の小型RFIDタグを用い,これをヒト抜去歯内部に格納した際の影響は、5パーセント未満の通信距離の減少にとどまり、少なくともRFIDをヒトの歯の内部に格納しても,外部にあるリーダーとの通信にはさほど影響を与えないことがわかった.そこでまず本研究では、SUICAやエディなどのセキュリティ機能を持つRFIDが使用される周波数帯である13.56MHzにおけるRFIDの口腔内設置を念頭に、ISO/IEC15693(近傍型)RFIDを用いて,直径3mm,長さ8mmの小型無線ICタグを作成,埋め込み前の状態で3cmの通信距離を確保した.これをビーグル犬における歯内療法を実施した犬歯歯髄腔内部に設置したところ,約0.5W出力を有するハンディリーダ・ライター(FPRH100:マイティーカード株式会社)を用いて,口腔周囲組織を介して顔面側方部から口腔外にあるリーダーと通信可能であることが実証された。そしてその際の通信距離は2.5cmと推定された.さらに、この試作したRFIDが口腔内に設置された状態で、携帯電話に内蔵したリーダー通信を実施するため、リーダーの小型化を実施したところ、幅1cm、長さ3cm厚さ2mmのアンテナから、口腔内にあるRFIDへの通信が可能となった。携帯電話と口腔内に設置したRFIDの通信はステルス性が高く、セキュアな本人確認に威力を発揮すると見られるが、充分な通信距離を確保し,かつ情報漏洩を防止する観点から,通信距離を10cm程度にコントロールするのが適切と思われる.
著者
菊池 俊彦 石田 肇 天野 哲也
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

オホーツク文化の遺跡から大陸製の遺物が発見されることはオホーツク文化の大きな特徴であり、そのような大陸製の遺物には青銅製の帯飾りや鉄製の鉾、硬質土器などがある。それらは大陸の靺鞨文化・渤海文化・女真文化の遺跡に同一の遺物が発見されていることから、これらの文化とオホーツク文化の間に何らかの交流があって、その結果として大陸製品がオホーツク文化の文化圏にもち込まれたことを示している。本研究ではこうしたオホーツク文化と大陸の諸文化の間の交流について、遺物の上からその実態を明らかにすることを目的とした。その主要な研究成果は次のようにまとめることができる。1.青銅製帯飾りは靺鞨文化およびその中国側の同に文化、女真文化の遺跡から発見されており、したがってオホーツク文化と靺鞨文化・女真文化の間の交流が密接だったことを青銅製帯飾りがよく示している。2.鉄鉾は靺鞨文化・渤海文化・女真文化のいずれの遺跡からも発見されており、オホーツク文化にはこれらのどの文化からも鉄鉾がもたらされていた可能性がある。3.硬質土器は靺鞨文化にはなく、渤海文化と女真文化の特徴的である。オホーツク文化の硬質土器には渤海文化の硬質土器に類似のものと女真文化に類似のものとがある。4.オホーツク文化の人たちの人骨の計測データとアムール河下流域およびサハリンの諸民族の人類学研究のデータの対比によって、オホーツク文化人はニウ-フ民族やツングース系諸民族に極めて近いことが明らかとなった。
著者
安田 尚
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

「福島民報」と「福島民友」は、ともに社内には原発専門家はいないので、社外の原発推進派の技術者に依存し、「安全神話」の普及に貢献している。海外の「原発事故」に対して「我が国では起こりえない事故」と断じている。読売と朝日の記事を比較すると、前者は終始一貫し「原発」推進派であり、「先導」者であった。後者は、原発に関してはその拙速を批判するものの動揺する「容認」派であった。福島の「原発事故」に関する、日仏メディアを比べると、「メルトダウン問題」を仏は迅速に伝え、日本は隠蔽した。仏は「情報源の多様性」を保持し、米軍からの情報も報道している。福島の「原発事故」の深刻度でも仏は事故後すぐ報道している。
著者
梅崎 昌裕 須田 亙 高安 伶奈 平山 和宏 冨塚 江利子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

人類集団のなかには、タンパク摂取量が極端に少ないにもかかわらず、タンパク欠乏にともなう臨床症状をしめさないものがあることが知られている。これは、「低タンパク適応」と呼ばれ、代表者のグループは特に腸内細菌叢の役割に着目しながら、そのメカニズム解明を目指してきた。本申請課題では、これまで研究をすすめてきたパプアニューギニア高地に加えて、タンパク摂取量が少ないことが想定される2つの地域を対象に加えることにより、「低タンパク適応」メカニズムの固有性と普遍性を明らかにする。
著者
管原 亮平 清水 伸泰 石丸 幹二 徳田 誠 田中 良明
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

トノサマバッタおよびサバクトビバッタ等のトビバッタフン抽出液中には、バッタの産卵を抑制する活性とバッタの卵を殺す活性が存在する。本研究では、その原因となる成分の化学構造を特定し、作用機構についても解明を試みる。まず、食草の種類が本活性に与える影響を検証することにより、植物における当該成分もしくはその前駆体の含有量について知見を得る。次に、殺卵活性は他の昆虫に対しても有効であるか否かを検証する。さらに、産卵忌避反応が野外でも起こるか検証する。最後に、フン抽出液から該当成分を分画し、化学構造の同定を行う。本研究は、新規農薬シーズとして合成農薬研究、および、害虫防除研究に資することが期待される。
著者
古川 聡
出版者
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2020-04-01

月・火星への有人探査計画が進む中、宇宙極限環境での生体変化に関し、無重力、閉鎖環境、宇宙放射線・微生物環境リスクを重点的に取り上げて学際的チームで臨み、分子・細胞レベルからヒトの高次制御まで統合的理解を深め、これらリスクの複合的効果など未知の領域にも挑戦し、宇宙を切口にした新しい研究領域「宇宙に生きる」を創った。得られた知見は、地上の超高齢化・高ストレス社会を克服するための方策として応用できる。
著者
唐澤 太輔
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

南方熊楠の「やりあて」(偶然の域を超えた発見や発明・的中)を可能たらしめている「場」の研究を中心に行った。その場とは「南方曼陀羅」における「理不思議」という領域であることを明らかにした。そして、統合失調症者に見られる様々な症状を比較対象とし、いわば「人間学的精神病理」の見地から研究を行った。自己と他者との境界・区別が曖昧になる領域を、自己と他者とをつなぐ「通路(パサージュ)」として捉え、その場に立ち、他者と交感し、さらに再び自己へと戻ることが、「やりあて」を可能にする条件の一つという結論を導き出した(『ソシオサイエンスvol.17』「南方熊楠の『大不思議』論-根源的な場に関する考察-」)。「やりあて」が可能になる場を「自他の区別が曖昧になる場」とする一方、自他を根底から支え、含み、さらに自他の内に含まれながらも、それらを超えている根源的な場を「自他融合の場」とし、それを「南方曼陀羅」における「大不思議」に見出した。そして、「大不思議」という、いわば「生命の根源的な場」を、熊楠と土宜法龍との間の往復書簡における言説から考察した。またCG.ユングの深層心理学を援用し、「南方曼陀羅」が熊楠の思想の核であると同時に、彼自身の心のカタルシス(浄化作用)としても機能していたのではないか-つまりこの曼陀羅を構築することで、彼自身の心に「統合性」が与えられていたのではないか-という新たな仮説を立て、考察を行った(『トランスパーソナル学研究vol.11』「南方曼陀羅への深層心理学的アプローチ-ユング心理学を手がかりに-」)。さらに、熊楠と彼の研究対象であった粘菌との関係から、熊楠が知り得たことを「内観」をキーワードに、研究・発表した、(「第9回日本トランスパーソナル学会大会」「南方熊楠の「内観」に関する考察-ユング心理学を援用して-」)。
著者
梶田 隆章 内山 隆 大橋 正健 川村 静児 黒田 和明 三代木 伸二 安東 正樹 宗宮 健太郎 森脇 喜紀 麻生 洋一 都丸 隆行 フラミニオ ラファエレ 鈴木 敏一
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2014

本研究では重力波の観測と重力波天文学の創成を目指し、別予算で整備がすすめられた大型低温重力波望遠鏡KAGRAの研究基盤をベースに、熱雑音を最小化する低温懸架システムの開発、極低温鏡急速冷却方法の開発、グリーンレーザーを用いた干渉計の迅速かつ安定な動作状態獲得、新たな信号読み出し法を可能にし、干渉光に含まれる余計なノイズを削減する出力モードクリーナーの開発などを行った。また、レーザー強度雑音の低減、さらに最終的には自動で観測モードまで進む高度なデジタル制御システムの開発を行った。これらの開発された技術を全てKAGRAに組込み、重力波観測運転を2020年2月に開始した。
著者
五味 敏昭 寺嶋 美帆 國澤 尚子 西原 賢 坂田 悍教 細川 武
出版者
埼玉県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

最近、注射における医療・医事紛争が多発している。看護学教育における重要な看護技術のひとつである「注射部位」について、その安全性の科学的根拠が問われるようになり、今回は筋注部位として医療現場で日常用いられている三角筋について、MRI(核磁気共鳴画像法)を用いて映像解剖学的に安全領域について検討した。三角筋の刺入部位として、教科書・技術書の殆んどが「肩峰より三横指下」を推奨している。しかし、報告者は長年解剖学の研究・教育に携わり、「肩峰より三横指下(約5cm)」が本当に誰にでも当てはまる安全領域であるのか否か疑問を感じてきた。1.腋窩神経は肩峰の後端から腋窩横線(腋窩の前端(三角筋と大胸筋との交点)と腋窩の後端(三角筋と大円筋との交点)を結ぶ線)に下ろした垂線の下1/4〜前端の下1/3、後端の下1/3〜前端の下1/2の範囲を走行していた。2.肩峰中点から腋窩神経までの距離は平均5.8cm(男性6.4cm、女性5.2cm)、Max. 8.3cm、 Min. 4.3cmであった。3.皮脂(皮膚+脂肪)の厚さは平均7.4mm(男性6.6mm、女性8.1mm)、三角筋の厚さは平均29.2mm(男性30.9mm、女性27、9mm)であった。4.肩峰中央部から腋窩横線に下ろした垂線(腋窩縦線)の1/2からやや上方が三角筋注射部位として適しているが、身長、腋窩縦線の長さを考慮する必要がある。5.神経位置・腋窩縦線・身長の相関関係から、腋窩縦線が10cm以下、身長が155cm以下の場合は注意を要する。6.刺入部位である「肩峰から三横指下」は万人に適用出来るとはいえない。7.刺入部位は「肩峰から二〜三横指下」または「肩峰から3.5c〜5cm下」が適当である。8.看護師は自身の「三横指長」を理解するとともに肩峰を正しく同定(触知)できる事が重要である。
著者
ドル クレメンス 山﨑 みのり
出版者
武蔵野音楽大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

かつて広く使用された5弦チェロの衰退は、音楽史の推移からチェロに求められる音量と音質の変化が最大の理由と推察されるが、その詳細な資料は少ない。本研究は「多弦隆盛時の名工の5弦チェロ製作値をもとに現代の良質な素材で5弦チェロを製作、音響特性を試奏し、4、5弦楽器の為の多様な楽曲を5弦チェロで演奏する可能性の追求」を目的としたものである。結果、その音響特性は想定を下回るもので、一部例外を除き、5弦チェロは4弦チェロに比肩する楽器たり得ないことが判明した。しかしながら、本研究で得た楽曲製作や試奏結果などの詳細なデータは、多弦楽器の使用を試みる奏者、製作者の考察の一助となったこともまた明らかである。
著者
弘中 満太郎 八瀬 順也 遠藤 信幸
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

昆虫が正の走光性によって人工光源に集まることは,身近な生物現象である.昆虫走光性に関しては,コンパス理論,マッハバンド理論,オープンスペース理論という3つの主要な仮説が提案されているが,いずれも多様な走光性反応を十分に説明できてはいない.本研究では,顕著な走光性反応を示す幾つかの分類群の昆虫の飛翔軌跡と到達地点を解析し,それらの昆虫が光源と背景との境界部に向かうことを示した.本研究の結果は,既存の3つの仮説とは異なり,昆虫がその正の走光性において明暗や波長,そして偏光による視覚的エッジへ誘引されていることを示唆している.
著者
戸倉 清一 西 則雄 金子 元三
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1985

種々のキチン誘導体を合成し医用材料として使用するための基本的性質及び抗凝血性等の人為的コントロールについて研究した。種々の部分脱アセチル化キチンの中で70%脱アセチル化キチン(DACー70)が比較的長期間免疫アジュバント活性を示すのに対し陰イオン性の(80%置換)カルボシメチルキチン(CMーキチン)が短期間の免疫アジュバント活性を示したこの脱アセチル化キチンのアジュバント活性はカルボキシメチル化や、O,Nースルホン化等の化学修飾により消失させることが出来たことより生理活性の人為的コントロールの可能性が示唆された。CMーキチンのアジュバント活性も脱アセチル化やスルホン化で消失できた。DACとCMーキチンの免疫賦活能について研究の結果、脱アセチル化キチンはマクロファージ活性化後Tー細胞系を、CMーキチンはBー細胞系を活性化させる二つの経路が明らかになった。さらに、カルボキシメチルキチンは高い生体内消化性を示すのでハプテン特異性抗体産生について研究した。CMーキチンに医薬を結合させたフロイント完全アジュバントで乳化して皮下注射するとハプテン特異的抗体の産生が確認されバイオセンサー等への応用が考えられている。一方、フロイント完全アジュバント無しでは医薬徐放性担体として働き1回の標準的皮下注射で約120時間にわたり医薬の血中濃度を一定範囲内に維持できることを見出した。また、CMーキチン60を部分脱アセチル化(約10%)した後N,Oースルホン化し特にグルコサミン残基のCー3位もスルホン化するとヘパリン様活性も示すことを見出した。このヘパリノイド活性は天然へパリノイド活性の約1/3でネズミ静脈中への注射でも毒性を示さないことからキチンヘパリノイドとしての将来が期待できる。さらに、CMーキチンのカルシウム特異吸着能と3価の鉄イオンによるゲル化能についても医薬徐放性の面から研究を行っている。
著者
杉山 あかし 神原 直幸
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、今日、世界的にも注目を集めている我が国「おたく文化」の文化社会学的分析を行ない、文化に関する社会学理論の再構築を行なうことである。具体的な研究対象はコミック同人誌即売会「コミックマーケット」(通称「コミケ」)である。このイベントは現在、東京、有明の国際展示場を借り切って夏と冬の年2回、3日間日程で催行されており、参加者は一日あたり15万人を超える。運営はボランティアによるものであり、世界最大規模の文化運動と呼ぶことができる。本研究では初年度(平成16年度)に以下の(1)〜(3)の3調査、そして平成17年度には(4)の調査を実施し、調査対象の巨大さに対応して、文化社会学分野でこれまでにない規模の、極めて膨大なデータを集積した。このデータについてその後の各年度において分析作業を行なってきた。(1)【サークル参加者質問紙調査】サークル参加者全数調査。得られた質問紙回答は37,620票。(2)【スタッフ参加者質問紙調査】コミックマーケットを運営するボランティア・スタッフに郵送法によって行なった質問紙調査。得られた質問紙回答は336票。(3)【スタッフ参加者グループ・インタビュー調査】コミックマーケットを運営するボランティア・スタッフに対して行なったグループ・インタビュー調査。6グループについて実施。テープ起こし字数、総計23万5千字。(4)【米澤嘉博氏インタビュー調査】コミックマーケット準備会代表、米澤嘉博氏への聞き取り調査。テープ起こし数、総計3万5千字。データ分析・検討の結果、大衆操作という観点から立論された大衆文化論、ならびに、反抗の契機として大衆文化を捉えるカルチュラル・スタディーズといった、これまでの文化理論のいずれもが適用できない、"中間文化的"な現代日本文の動態が明らかとなった。
著者
岩下 達雄
出版者
慶應義塾大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

片頭痛発作と気象との関係について個々の臨床・気象データを検討したところ、片頭痛発作は低気圧の接近前後に起こる傾向があり、気圧変化との関連が示唆された。天気が悪くなると頭痛が起こるなど、片頭痛患者の間で感覚的に語られていたことと同様の傾向であった。また、片頭痛の病態解明を目的とした研究で、脳硬膜に侵害刺激を加えると、三叉神経節でERKリン酸化が起こること、皮質拡延性抑制(cortical spreading depression:CSD)は三叉神経節においてERKリン酸化を誘発させることを明らかにした。これらの結果は、CSDと三叉神経血管系の活性化との関係に重要な知見を提示するものと考えられた。