著者
徳田 幸雄
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

当該年度は、一般に「回心」という語で括られる宗教的な新生あるいは再生の体験、具体的にはタウバ(イスラーム)とコンバージョン(キリスト教)、廻心(仏教)を、それぞれクルアーン、聖書(ヘブライ語旧約聖書、ギリシャ語新約聖書、ラテン語訳聖書)、『浄土真宗聖典』に基づいて比較考察し、そこに宗教の相互理解に資するような共通構造を取り出すことに取り組んだ。結論を先取りして言えば、その共通構造とは、人(自力)の転換と神(他力)の転換とが同時に成り立ち、そこにおいて人(自力)と神(他力)とが相互に回帰し、両者が逆説的に接するという構造である。これを明らかにするために、アラビア語のタウバと英語のコンバージョンの共通の語源であるヘブライ語のシューブやギリシャ語のエピストレフォーにまで遡って考究した。およそ一千か所にも及ぶ膨大な参照個所をふまえつつ、先の共通構造を浮き彫りにさせたことは、これらがいずれも各宗教の核心部分を構成するがゆえに、宗教一般を理解するうえでも大きな意義をもつ。とりわけ、宗教をもっぱら人間側の現象としてのみ捉えることの限界を示唆したことは、従来の宗教研究のあり方に一石を投じることになろう。なおこの研究成果は、『東北宗教学』第6号に掲載予定の論文「イスラームにおけるタウバとキリスト教におけるコンバージョン、そして仏教における廻心-各聖典を中心とする比較考察-」において発表することになっている。
著者
廣井 隆親
出版者
(財)東京都医学研究機構
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、マウスにおける動物モデルをワクチンの予防効果ならびに治療効果に分けて確立しその奏功機序を解析した。その結果、予防効果を示すモデルマウスにおいては減感作療法を行うことによってTh1/Th2両者のサイトカインの産生量が減少していた。さらに、舌下減感作療法を行うことによって治療効果を示すモデルマウスにおいて実際の臨床症状を判定する際の鼻洗浄液中に存在する炎症細胞や顆粒球数の減少が認められた。口腔底において抗原提示細胞の解析を行った結果、F4/80抗原を有するマクロファージが中心であった。このことより、口腔底からの舌下減感作療法はこれまでにない経粘膜ワクチンであることが明らかとなった。
著者
秦 正樹
出版者
京都府立大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

2019年度は,当初の研究計画にもとづいて,世論における政治的デマの受容傾向を明らかにする意識調査(サーベイ実験)を実施する予定であったが,以下の理由によって調査実施を遅らせることとなった.その理由は,昨年度に実施したサーベイ実験の結果にもとづいて,日本選挙学会で行った報告(秦正樹「「"普通の"日本人」ほど騙される?:政治的デマの受容メカニズムに関する実験研究」日本選挙学会,東北大学,2019年7月)でのディスカッションによるものである.当該ディスカッションでは,「普通の日本人」を測定する際の項目について,重要な視座を得た.とくに,社会心理学等で用いられている噂の受容に関する測定尺度を改めて整理したことで,より妥当性の高い研究とつなげられることとなった.また,これらの意見を反映した新たな調査については,事前の調査を2019年11月に実施しており,プリ調査の結果を踏まえたサーベイ実験を2020年3月までに行う予定であったが,今般の新型コロナ禍を踏まえたデマについて検討するべきであると考え,調査時期を延長することとした.加えて,前述の学会での報告ペーパーをもとに英語論文化を進めている.さらに,日本政治学会での報告(秦正樹・Song Jaehyun「争点を束ねれば「イデオロギー」になる?:サーベイ実験とテキスト分析の融合を通じて」日本政治学会,成蹊大学,2019年10月)でも,憲法改正に特化した有権者の態度形成に関して報告を行っており,こちらの論文は年報政治学2020-1に掲載予定である.
著者
鈴木 長寿
出版者
東京工業大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

有機合成の実験教材開発の基礎として、マグネチックスターラーを用いたポリスチレン微粒子合成において粒子径を制御するための諸条件を検討した。ポリスチレン微粒子は、窒素雰囲気にした反応容器内にペルオキソニ硫酸カリウム0.0620g、スチレンモノマー1.52gを含む溶液300mLを入れ、ホットマグネチックスターラーにより80℃で24時間撹拌しながら合成した。合成時の撹拌速度は50~1000rpmまで段階的に変えた。その結果、200~500rpmの範囲で200~250nmのほぼ均一な粒子径の微粒子が合成でき、粒子径は回転数に比例して小さくなることがわかった。100rpm以下の弱い撹拌では液面で膜状にポリスチレンが固化し、600rpm以上では溶液の回転の乱れが大きく粒子径が不均一になった。反応容器では、筒状のセパラブルフラスコより三角フラスコの方が安定的に粒子径を制御できた。また、筒状フラスコで合成した粒子は三角フラスコに比べ径が小さくなる傾向が見られた。撹拌子は、棒状のテーパー型以外の形状の異なるものも用いたが、粒子径の変化に大きな差は見られなかった。合成後、得られた白色のポリスチレン分散液から微粒子を遠心分離したものをガラスのプレート上に塗布し、乾燥後発色を確認した。また、走査型電子顕微鏡で形状と配列、粒子径を観察・測定した。今回、合成した粒子径の異なる微粒子を用いて、赤・黄・緑・青色の4色の構造色を呈するコロイドフォトニック結晶を作製できた。粒子の配列が充填構造でないものや粒子径が不揃いなものは構造色が発現せず白色のままであった。粒子径が均一な微粒子を充填構造な配列に塗布したガラスの反射光を紫外可視分光光度計で測定したところ、反射光を呈する結晶の粒子径と最大反射波長には比例関係が確認できた。将来的にはゲルや樹脂中への固定化も含めて生徒実験としても実施可能な教材を目指したい。
著者
松森 奈津子
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究は、16世紀スペインにおける後期サラマンカ学派が政治的諸問題を論じる際の基盤にしていた、神の恩寵と人間の自由意志の関係をめぐる諸議論を検討したものである。このことにより、イエズス会士を中心とする彼らが、社会契約説に代表される同時代の主流理論とは別の形で、初期近代政治思想の一潮流を形成したことを明らかにした。それは、初期近代が内包していた脱中世型政治体探求の豊かなヴァリエーションの一端として、注目される。
著者
宮崎 哲郎 荒殿 保幸
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1994

これまでのトンネル反応はH原子移行型反応であった。今回、2、3-ジメチルブタンカチオンからの水素分子(H_2又はD_2)脱離反応を77Kで調べた。k(H_2脱離)/k(D_2脱離)=1.7×10^4という著しい同位体効果を観測した。これはトンネル脱離反応の場合の理論的予想値とも一致しており、H_2分子がトンネル効果によって移行することを観測した初めての例である。次に、生体系におけるトンネル反応を見出した。哺乳動物細胞又はそのモデル系(高濃度蛋白質溶液)に室温でγ線を照射すると、生成した有機ラジカルは、1日以上も生存する。このラジカルはDNAの突然変異を引き起こし、ビタミンCを添加するとラジカルは反応によって消滅し、突然変異も抑制される。重水素化ビタミンCを用いて長寿命ラジカルとビタミンCとの反応を研究した。大きな同位体効果(≧20〜50)を発見し、この反応がトンネル反応であることを見出した。生体内でもトンネル反応が重要であることを示している。極低温、固体p-H_2を用いると高分解能ESR測定が出来ることを考え出した。この方法を用いてH_2^-アニオンの明確なESRスペクトルを得ることに成功した。H_2^-アニオンの減衰挙動に関する温度効果を調べた結果、この減衰がトンネル効果によることを見出した。
著者
宮崎 哲郎 熊谷 純
出版者
名古屋大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

放射線による発ガンの引き金は、短寿命の活性酸素ラジカルによるものとこれまで考えられてきた。筆者等は半減期が20時間の長寿命ラジカルが細胞中に生成し、これが引き金になり突然変異やガンを誘発することを発表してきた。活性酸素ラジカルの存在しない照射後にビタミンCを添加すると、長寿命ラジカルを反応によって消去し、突然変異やガンの誘発を抑制する。本年度、ビタミンCとは化学構造が全く違うエピガロカテキンガレートを用いて検討し、長寿命ラジカルモデルをさらに実証するデータを得た。また、アメリカのWaldren教授によってこのモデルの追試がなされ、モデルの正当性が裏付けられた。彼の言葉によれば、長寿命ラジカルによる突然変異やガンの誘発機構は、これまで誰も考えていなかった新しいモデルであり、放射線生物学や発ガンにおいて極めて重要である。またESRスペクトルの解析から、長寿命ラジカルは蛋白質中のCH_2-SO・ラジカルである事を同定した。放射線により生成した長寿命蛋白質ラジカルから損傷シグナルがDNAに伝達され、突然変異やガンが誘発される。これはバイスタンダー効果の分子レベルでの機構と言える。長寿命ラジカルモデルによれば、ラジカル反応からDNA損傷に至る過程でも十分に制御出来る。特に長寿命ラジカルを直接観測しつつ対処出来るので、ガン抑制の新しい方向となろう。長寿命蛋白質ラジカルは紫外線照射によっても生成する事を見出し、紫外線発ガンの誘発に関与すると思われる。さらに、長寿命ラジカルとの反応性を利用して、抗ガン剤を評価する方法を検討した。
著者
戸部 博
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、モチノキ目(フィロノマ科、ハナイカダ科、モチノキ科、ステモヌルス科、ヤマイモモドキ科)の花と雌雄生殖器官の進化について、以下の点を明らかにした。(1)フィロノマ科とハナイカダ科について、葉上花序、下位子房、花盤蜜腺、薄層珠心が共有派生形質である。(2)フィロノマ科は単軸集散花序、腺毛、接線方向に配置した2心皮性1室子房、側膜胎座、胚珠の増加、外種皮外層型種皮を固有派生形質としてもつ。(3)ハナイカダ科は花弁の欠損、逆一輪雄蕊、両媒を固有派生形質としてもつ。(4)ステモヌルス科とヤマイモモドキ科では、向背軸方向に配置した2心皮性子房と偽単心皮性雌蕊が共有派生形質である。
著者
神沢 英幸
出版者
名古屋市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

男性不妊症は我が国の喫緊の課題である。私たちはこれまでに精子幹細胞活性が将来の精子形成に影響を及ぼす可能性について報告してきた。本研究では将来に造精機能障害のリスクがある停留精巣をモデル疾患として幼少期精巣および男性不妊症精巣における精子幹細胞活性およびセルトリ細胞機能の変化を検討した。その結果、男性不妊症には先天的な精子幹細胞機能低下が生じている症例群がいることが明らかとなり、またそのような精巣では精子幹細胞活性の低下の原因としてセルトリ細胞の成熟異常により発現亢進する一連のカスケードにより精子幹細胞のアポトーシスが進行することが一因と推察された。
著者
稲見 昌彦 南澤 孝太 杉本 麻樹 北崎 充晃
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

今年度は、新たな身体に全身を投射する実験条件だけでなく,局所に操作対象を投射している場面においても同様の身体像の学習が可能かを,視触覚提示を用いて検証した.具体的には,ロボットアームを身体に装着し,下肢で操作するシステムを構築した.ロボットアームからの感覚情報によるフィードバックを下肢で確認しながら,能動的に操作対象を動かすことにより,新たな身体像を学習させることに成功した.また,視覚的に透明な身体に対し,身体像を投射可能か実験を行い,その効果を検証した.
著者
安元 健 NOELSON Raso NORO Ravaoni 佐竹 真幸 NOELSON Rasplofonirina RASOLOFONIRI ノエルソン RAVAONINDRIN ノロ
出版者
東北大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

マダガスカルにおける現地調査の結果、近年になって高死亡率の魚介類食中毒が多発していることが明らかになった。サメを原因とする食中毒は1993年以降に6件発生し、980名の患者と65名の死者の発生が判明した。ウミガメによる食中毒は1993年以降に5件発生し、414名の患者と29名の死亡者を出している。ニシン科に属する小型魚のミズンを原因とする食中毒(クルペオトキシズム)では、1名が中毒し死亡している。中毒原因となった有毒試料の入手は極めて困難であり、サメ、ウミガメ、ミズンのそれぞれについて1検体ずつ、数十グラム以下の試料しか得られなかったが、入念に解析を行い、以下の成果を得た。[サメ中毒]原因毒はシガトキシンと同様にNaチャネル活性化作用を有するものの、マウスの症状及びHPLCの挙動が異なることを明らかにし、主要毒2成分を単離してカルカトキシンAおよびカルカトキシンBと命名した。僅か数十ミクログラムの量であるが、化学構造の追究を継続している。[ウミガメ中毒]アオウミガメの内臓と推定される部位90グラムを得た。ヒト中毒症状及び毒のクロマトグラフィーにおける挙動から、らん藻の有毒成分であるリングビアトキシンとの類似性を指摘し、さらに追究を行っている。[クルペオトキシズム]中毒検体の頭部1個から微量の毒を検出し、クロマトグラフィーにおける挙動、細胞毒性、溶血性、抗体反応の結果からパリトキシンと同定した。
著者
渋谷 哲也
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

戦後ドイツにおいて独自の美学や様式を生み出した映画監督たちについて、国籍、時代、ジャンル、テーマの境界を越えて作品分析を行い、戦後ドイツという特殊な社会的かつ歴史的コンテクストの中で特徴を考察した。主にニュージャーマンシネマのファスビンダー、ストローブ=ユイレ、クルーゲ、ネストラー、「新ベルリン派」のシャーネレクを中心に取り上げた。主に日本未公開作を中心にした映画上映、作品解説のレクチャー、観客との討論という形でイベントを行い、その成果の一部は論文等の文章として公表した。他の成果は今後文章化する予定である。
著者
渋谷 哲也
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ドイツのニューシネマにおけるラディカルな映像美学とメディア批判を実践した映画監督たち、とりわけストローブ=ユイレとファスビンダーの映画における文学的要素の活用方法を考察した。とりわけ彼らの脚色映画を取り上げ、歴史的な原作テクストから20世紀後半のアクチュアルな政治性を掘り起こす手法、そして文学性を強調する演出法が映像メディアへの批判的な意識を喚起する技法を明らかにした。
著者
小林 大地
出版者
新潟大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

「良薬は口に苦し」は孔子が残した言葉であり、古くから人々は苦い薬には良い治療効果があると信じてきた。一方、医療現場において患者は薬の苦味を不快に感じ、苦味が原因で患者が服薬を中断することがあり、近年の大きな問題の一つとされている。このため、苦味成分が治療に有効であることを科学的に証明し、社会的な理解を得ることは苦味による服薬の中断を予防することにつながる。本研究では苦味物質が抗炎症作用を有することを種々の苦味物質および、苦味受容体欠損細胞を用いて解析を行い、苦味による治療効果の可能性を追求する。
著者
菊水 健史 茂木 一孝
出版者
麻布大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究では以下の知見を得た。1)求愛歌を聞いたメスは自身の系統とは異なるオスマウスの発した求愛歌に対して高い嗜好性を示した。2)メスの求愛歌への嗜好性は、発達期の父子間の関わりが重要であることが明らかとなった。3)メスの求愛歌への嗜好性は雌性ホルモンの存在が必要であることを示した。4)求愛歌を呈するオスでは数回の出産を認めたが、求愛歌を呈さないオスマウスのペアではほとんど出産を認めることがなかった。5)メスマウスの歌嗜好性はオスフェロモンとの共提示により顕著に観察され、感覚統合された表現型であることがわかった。
著者
西 栄二郎 KUPRIYA-NOVA E. KUPRIYANOVA E.
出版者
横浜国立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

オーストラリア産多毛類と日本産多毛類を中心とする底生生物の生物相を比較しながら、外来種の調査を行った。オーストラリア沿岸の付着生物(カキやイガイなど)の隙間に棲む多くの種類が外来種の可能性があることが確認できた。また、オーストラリア産、日本産、米国西海岸産の数種の比較で、外来種ではなく、それぞれ別個の種である可能性があることがわかった。今後、これらの外来種なのか別個の種なのか判明していない種の起源や移入・伝播経路等をDNA解析により明らかにしていく予定である。また、海洋研究開発機構との共同研究により、深海産の多毛類について新記録種が見つかった。この種はDNA解析により既知種との類縁性が考えられるものの、剛毛などの外部形態に差異があることから新種(未記載種)の可能性がある。今回は採集された個体数が少なく、外部形態の差異が変異なのか固定形質なのか判別できないため、新種または既知種との判断は行っていない。今後の調査により同種が採集された場合には種の位置付けが確定されると思われる。横浜港など東京湾内や相模湾内の底生生物調査とともに、淡水産生物の調査も行った。淡水には特異な進化を遂げた種が分布し、その分布域に外来種が入り込むことで、多くの淡水産種が分布を狭めたり、絶命に瀕する例が知られている。そのため、淡水産の種とそれに影響を及ぼす可能性がある種を調査・研究することを目的とした。欧州の洞窟に棲む種やタイの淡水・汽水に棲むカンザシゴカイ科、日本の洞窟内淡水に生息するホラアナゴカイ科などを調べた。それぞれ現在も良好な分布が確認されたが、今後もモニタリングすることにより、その分布域の減少に注視する必要があると思われる。
著者
山田 源
出版者
熊本大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2001

我々は本研究によって、哺乳類の外性器形成の特徴である陰茎および陰核形成メカニズムに迫った。哺乳類は脊権動物の中でも、良く発達した外性器を有している。高等哺乳類の外性器形成過程は、これまで分子発生学的に全く解明されておらず、そもそも如何なるメカニズムで胎生期に外性器原基(一種の突起構造)が伸長するのか、如何にそれが分化して外性器となるか殆ど理解されていない。陰茎および陰核はアダルトにおいてはその形態は大きく異なるものの、胎生期形態は後期に至るまで両性で類似した形を有している。ここでは体幹部から伸長、分化するメカニズムが雌雄で類似しており、さらに胎生末期から生後に到るホルモン影響下の分化の違いが出るという興味ある現象がある。我々は胎生期における陰核および陰茎形成プログラムとして間葉性のFGF遺伝子、および尿道上皮に発現するShh(ソニックヘッジホッグ)遺伝子が近接した状態で(尿道上皮のShhが中央に、両側にFGF10遺伝子が)発現し、それら相互作用が陰茎、陰核形成にとって、最も重要な尿道板/尿道形成に作用していることを世界で初めて見い出した。さらにこうしたShhおよびFGF遺伝子群が陰核、陰茎形態が顕著な哺乳類ばかりでなく、烏類胚(ヒダ状のものから突出した交接器を有するものまである)においてもこれら遺伝子発現が興味ある相関を示している事を見い出した。このようなメカニズムが今後さらに胎生後期から新生児期にホルモンの制御を受けるかに関して、これら細胞増殖因子群の遺伝子発現変化、及び形態変化を今後解析していく予定である。
著者
羽山 伸一
出版者
日本獣医生命科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

2011年3月に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の爆発により、放出された放射性物質に、福島県東部に生息するニホンザルが野生霊長類としては世界で初めて被ばくした。申請者は2008年から福島市に生息する本種を対象に妊娠率などを観測してきたが、2011年以降は筋肉中放射性セシウム濃度を測定するとともに、臨床医学的検査および病理学的検査を実施している。本研究では、被ばく後10年間における造血機能や胎子成長の経時的推移を明らかにするとともに、放射線被ばく量との関連も検討する。また、胎子期に被ばくし、妊娠可能年齢に達したメスの妊娠率や排卵率等の推移を観測し、影響を評価する。
著者
小西 史子 香西 みどり 古庄 律
出版者
女子栄養大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

老化促進マウス(SAMP8)を、対照群、ムクナ豆粉末低投与群、ムクナ豆粉末高抗投与群の3群に分けた。ムクナ豆粉末低投与群には、ムクナ粉末を1.5g/体重kgに調製した飼料を、ムクナ豆粉末高投与群には、ムクナ粉末を15g/体重kgに調製した飼料を投与した。それぞれの飼料におけるL-DOPA含量は、0.6mg/体重kgおよび6mg/体重kgである。飼育期間は、11週齢から40週齢までである。飼育後、脳を取り出し、N-PER試薬を用いてたんぱく質を抽出、遠心後、上清を用いて、ウェスタンブロッティングを行い、タウタンパク質のリン酸化の程度を調べた。用いた抗体は、抗リン酸化タウS199,S262,T181マウスモノクローナル抗体である。その結果、タウタンパク質のセリン262,スレオニン181のリン酸化の程度には、群間で有意な差は認められなかった。しかし対照群に比べ、ムクナ豆粉末高投与群においてタウタンパク質セリン199におけるリン酸化が有意に抑制されていた。このことから、ムクナ粉末の投与は、老化によるタウタンパク質リン酸化の増加を抑制することが示唆された。ムクナ豆を用いた加工食品の調製では、ムクナ豆焙煎粉末を小麦粉に0,5,10,15,20%に添加した麺を作成した。その結果、ムクナ豆焙煎粉末の添加量の増加とともに、抗酸化能が上昇した。また、これらに重曹を添加すると中華麺になり、風味が増したが、抗酸化能は低下した。