著者
山本 健二 浅尾 哲次 赤峰 昭文 中西 博 TETSUJI Asao 浅尾 哲治
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

歯周病の主要な病原性細菌Porphyromonas gingivalis(以後ジンジバリス菌)は自身の生存戦略に必須の物質として2つの主要なシステインプロテアーゼArg-gingipain(Rgp)とLys-gingipain(Kgp)を産生している。両酵素は細胞内外に存在し多様な機能を果たしている。細胞外にあっては、両酵素は歯周組織を直接したり、宿主の生体防御機構を破壊したりして歯周病原性を発現する一方、菌体にあっては自身の成長・増殖に必須のヘムやアミノ酸の獲得や菌体表層蛋白質の具プロセシング、血球凝集素活性やヘモグロビン結合活性などに強く貢献していることが明らかにされた。本研究の目的は、両酵素のこうした多様な機能の詳細な機能の解明を通じて、これらを薬物標的とした創薬研究を推進することにあった。とくに本研究では、Rgpに対する特異的な天然ならびに人工の阻害剤が探索され、それらの有効性を検定するとともに歯周病治療薬として実用化していくための具体的な方法論が検討された。天然の阻害物質としては、土壌の放線菌FA-70株の培養物中に本酵素活性を阻害する物質(FA-70C1と命名)を同定・単離し、構造を決定した。本物質は構造式C_<27>H_<43>N_9O_7で表され、分子量606の新規物質であった。またヒト唾液中にRgpを阻害する物質としてヒスタチンが同定された。ヒスタチンを含む宿主蛋白質のRgpによるペプチド結合の切断特異性に基づいて10種類以上のオリゴペプチドが合成され、その中から、Rgpを強く阻害するトリペプチド化合物(KYT-1と命名)を見出した。FA-70C1およびKYT-1はともにRgp活性を10^<-8>Mで80%以上阻害するのに対し、宿主のシステインプロテアーゼのカテプシンB、L、K、Sは同じ濃度で50%以下の阻害しか示さなかった。また、両阻害剤はRgpがもつコラーゲン分解能や免疫グロブリン分解能を強く阻害した。
著者
山脇 成人 岡田 剛
出版者
広島大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

昨年度までの検討で、reward delay impulsivityにおけるセロトニンの役割が明らかになった一方で、うつ病患者を対象にこれまでの課題を行ったところ、理解力不足や注意の持続が困難であることより解析モデルにフィットせず、広く臨床に用いることができる簡易版報酬予測課題を作成しさらに検討を進める必要があった。本年度は、簡易報酬予測課題の基礎検討((1)fMRI計測では個人ごとに計算されたγの値が大きいほど報酬予測値に関連した脳活動のピークが背側に位置している、(2)計算されたγの値が低いほど抑うつ尺度の得点が高い、などの結果が得られた)を経て、簡易版報酬予測課題、質問形式の遅延割引課題、rapid response impulsivityに関連した報酬・罰GO/NOGO課題と脳内セロトニン濃度変化との関連を検討した。その際、脳内セロトニン濃度と合わせて、衝動性に関与する重要な要因と考えられるセロトニン受容体の遺伝子多型やパーソナリティーの特徴(TCIおよびNEO-FFIで評価)も個人差として考慮した。その結果、(1)簡易報酬予課題において、セロトニン欠乏時におけるdiscount factor;γの低下(reward delay impulsivityの上昇)が個人の性格特性と関連していること、(2)報酬・罰GO/NOGO課題において、セロトニン2A受容体のAA型ではG carrierと比較してrapid response impulsivityが高く、その傾向はセロトニン欠乏時により顕著となること、(3)質問紙形式の遅延報酬選択課題においては、セロトニン欠乏時に将来予測される損失が割り引いて評価されること、などが明らかとなった。今回衝動性におけるセロトニンの役割を多面的かっ個人差にも注目して検討できたことは、様々な衝動性を有する精神疾患の病態解明を進める上でも非常に有意義であった。
著者
黒田 彰子 中村 文 蔵中 さやか 大秦 一浩 濵中 祐子
出版者
佛教大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、1.奥義抄の伝本研究、2、新出歌学書の研究、3、2を踏まえた平安末期歌学史の研究、の三課題から成る。1については、平安末期以降書写の古鈔本、江戸初期書写の伝本を調査し、後者については、主要な伝本を成果報告として刊行した。古鈔本についての調査は完了し、刊行に向けての最終作業を行っている。2については、疑開和歌抄、口伝和歌釈抄等、平安中期に成立した歌学書の発見を受け、平安末期成立の歌学書とどのような連続性、非連続性を有するかという観点からの検討を行い、口伝和歌釈抄については、その成果報告を刊行した。3については、対象となる和歌童蒙抄の注解を完成し、現在その注解刊行に向けて作業中である。
著者
藤野 純也
出版者
昭和大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

まず、研究開始に伴う手続き(被験者への説明文書、同意書、必要書類の準備、作成など)を行い、自閉スペクトラム症(ASD)群、注意欠如多動性症(ADHD)、および定型発達群のリクルート体制を構築した。ASD群とADHD群に関しては、昭和大学発達障害専門外来を受診された方に、研究の概要を説明し、参加募集を行った。発達障害の意思決定に関する先行研究をまとめること、関連学会に参加することで情報収集し、ASDやADHDの病態理解に重要な意思決定課題や質問紙などを作成し、準備した。加えて、予備実験を行うことで、ASDおよびASHD被験者の課題理解を高める方策についても検討し、課題内容を洗練した。また、本研究課題における至適なMRI撮像パラメータの選定を行った。本年度は主に、ASD群 およびTD群を対象に、埋没費用(事業や行為の中止を行っても戻ってこない資金や労力)が関わる状況下での意思決定パターンを調査した。結果、ASD群では、TD群と比較して、埋没費用効果が低下していた。また、TD群では、埋没費用の増加に伴って埋没費用効果も上昇したが、ASD群でそのような現象はみられなかった。加えて、ASD群では、TD群と比較して、課題中の選択反応時間も埋没費用に影響を受けにくいことが示唆された。ASD群では、埋没費用が関わる状況下において、文脈への感受性が低いものの合理的な意思決定を行うことが示唆された。
著者
薬師寺 克行 井上 正也 王 雪萍
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

1993年の自民党政権の下野から22年が経過し、「55年体制」末期の日本政治も漸く歴史研究の対象に入りつつある。しかし、同時代を政治史的に考察する上には未だに分析上の課題を抱えている。第一は、信頼できる一次史料の不足である。第二に、政界再編に関するこれらの二次文献の多くも、自民党経世会を中心とした記述に偏重している点である。ゆえに、同時代に自民党の派閥政治を担っていた安倍派清和会や宮沢派宏池会の派閥の実態については殆ど解明されていない。とりわけ、安倍晋太郎から三塚博へと継承された清和会は、派内に新党さきがけを率いた武村正義、石原慎太郎や党内「右派」を多く擁していた亀井グループ、小泉純一郎といった政界再編後に重要な役割を示す多くの人材が所属しており、清和会内部に存在した政治改革構想や派閥観を検証することなしに、90年代前半の政界再編の描くことには大きな限界があろう。本研究では、研究代表者が政治部の清和会担当記者であった1989年から94年までの記録を活用した。同記録には安倍晋太郎、安倍派幹部であった三塚博や塩川正十郎、小泉純一郎、武村正義の肉声が残されており、55年体制末期から政界再編期にかけての清和会内部の政治改革に対する議論や、政界再編に対する見通しなどをうかがい知ることができる。本研究は、ジャーナリストの経験を積んだ研究代表者と、戦後政治外交史を専門とする研究分担者(井上)と共同作業で、取材メモの本格的な調査分析を実施している。この作業とは別に研究代表者の薬師寺は、村山富市元首相に対するインタビューと資料の再チェックをしたうえで、単行本として2012年に出版された「村山富市回顧録」(岩波書店)の解説部分など加筆修正したうえで、同書を文庫本化し「岩波現代文庫」から出版した。
著者
南 武志 武内 章記 高橋 和也 今津 節生 徳田 誠志 寺沢 薫 河野 一隆 島崎 英彦 豊 遙秋 河野 摩耶
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

弥生時代後半から古墳時代に重点を置き、墳墓より出土した朱の産地推定を硫黄・鉛・水銀同位体分析から行った。その結果、北部九州では古墳時代に入っても中国産朱と思われる朱が一部の墳墓に用いられていたが、それ以外の地域では古墳時代に入る前から国内産の朱が墳墓に使用されていた可能性が高く、古墳時代前期には東北地方まで畿内産の朱がもたらされたと考えられる。以上より、朱の同位体分析により古墳時代黎明期の権力推移が考察され、考古学分野に一石を投じることができたと考える。
著者
渡辺 美知子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

言い淀んだとき,日本語では「エート」などのフィラーが頻繁に用いられる。フィラーは文節境界によく現れるが,その出現率は境界直前の文節の係り先までの距離が長いほど高くなることが明らかになった。これにより,フィラーは後続発話生成の負荷と深く関連する現象であることが示唆された。すなわち,これから伝えようとするメッセージが長く複雑なほど,スムーズな言語化が困難になり,フィラーの出現率が上昇すると考えられる。一見ランダムに現れるように見える言い淀みの背後にある規則性が示された。
著者
能登 真規子
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、現代の身元保証の位置づけを、2017年5月に国会で成立した改正民法に関する議論を参照しつつ検討した。先行研究によれば、身元保証人に対する巨額の責任追及がなされる例はあり、わが国では、今日でも74.8%の企業が身元保証制度を採用している。しかし、通常の保証契約とは異なり、保証意思の慎重な形成と表明の機会が確保されたうえで、身元保証契約の締結が行われているわけではない。身元保証法による身元保証人の責任限度の規律は独特である。裁判所が裁量により身元保証人の責任の有無と責任額を決定する。身元保証法にも改正の必要な点はあるものの、身元保証の特性をふまえれば、民法に一本化することはできない。
著者
吉沢 豊予子 跡上 富美
出版者
長野県看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

平成13年から15年にわたり、医療とジェンダーという観点から研究を行った。その中でこの3年間で医療の中のジェンダーは、性差医療というひとつの問題提起を行い、その枠組みを明確にするにいたった。1.ジェンダーの概念分析:社会学で使用されているジェンダー、セックス、セクシュアリティ、ジェンダーの違い、さらに医療の中でジェンダーはどのような言葉の意味をもって使用されているかについてジェンダー分析を行った。医学の中でのジェンダー特に性差医療は差異化を明確にしていくことを目的としていた。それは性別による差異化のとどまらず年齢、人種、民族にも及んでいることが明らかとなった。2.看護教科書、看護文献のジェンダー分析:看護の教科書、看護文献について、プロトコールを開発しジェンダー分析を行った。その結果、看護教科書にジェンダーに敏感な視点は見いだされなかった。看護文献においては、母性看護学と老年看護学でジェンダーに敏感な視点を見出す論文が比較的多かった。老年看護学では高齢者そのものの研究ではジェンダーに敏感な視点はなかったものの、介護者を扱った研究ではジェンダー特に性役割とジェンダーの関係を考察している論文が見出された。成人看護学ではジェンダーの視点はなく、男性患者と女性患者を一緒にして、研究結果に出しているものが多かった。3.看護教育とジェンダー:看護基礎教育のカリキュラムにジェンダーの視点をどのように導入していくべきかについて考察した。アメリカのカリキュラムの紹介と研究者が行ってきたジェンダーの視点を入れた「母性看護概論」の紹介および学生のジェンダー観について評価を行った。ジェンダーが健康にどのように影響を与えているかについては、「介護とジェンダー」「ボディーイメージとジェンダー」「セクシュアルヘルスとジェンダー」と様々な気づきをしていた。この研究では、医療の中でのジェンダーとは何かの概念分析を行った。また、看護論文を中心にして、ジェンダーに敏感な視点特に「ジェンダーを考慮した看護」、および看護基礎教育へのジェンダー視点の導入の方向性を示唆した。
著者
岩田 誠 宋 時栄
出版者
徳島文理大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2010

腸とその関連二次リンパ系器官に存在するレチノイン酸(RA)産生能を持つ樹状細胞(DC)は、T細胞活性化の際に、RAを与えることによってT細胞に小腸ホーミング特異性を刷り込み、さらにTGF-β依存性の制御性T細胞分化を促進し、炎症に関与するTh17細胞の分化を抑制する。従って、これらのDCによるRA産生の制御は、腸管免疫の構築ばかりでなく、経口免疫寛容の誘導にも関与すると考えられてきた。しかし、実際に経口免疫寛容がビタミンA由来シグナルに依存するかどうかの確たる証拠はなかった。本研究では、DCにおいてRA産生の鍵を握る酵素retinal dehydrogenase 2(RALDH2,ALDHIA2)発現の制御と免疫寛容の誘導について、レチノイドシグナルの役割を軸として解析した。その結果、ビタミンA欠乏マウスでは経口免疫寛容が正常に誘導されないことを明らかにした。さらにその原因として、特に腸間膜リンパ節DCの性質変化が大きな関与をしていることを見出した。これらのDCは、コントロールマウスのDCより成熟型であり、活性化によって主に炎症性サイトカインを産生した。また、効率良くTh17細胞など好炎症性ヘルパーT細胞の分化を誘導する能力を有していた。従って、レチノイドシグナルは、T細胞の機能分化に影響を与えるばかりでなく、腸間膜リンパ節DCの性質制御にも大きな役割を果たしていることが示唆された。我々は誘導型Foxp^<3+>制御性T細胞(iTreg)の分化誘導におけるレチノイドシグナルについても解析した。生理的な主要RAであるall-trans-RAは、生理的濃度で核内受容体ヘテロダイマーRAR/RXRのRARに結合するが、RXRからの刺激がiTreg誘導に影響を与えるかどうか不明であった。RARだけでなくRXRからの刺激を加えることによってiTreg誘導が促進されることを見出した。
著者
東 範行 横井 匡
出版者
国立研究開発法人国立成育医療研究センター
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

ヒトおよびマウスのiPS細胞、ES細胞から、網膜神経節細胞を作製した。網膜神経節細胞は構造的にも機能的にも成熟していた。その単離培養にも成功した。この網膜神経節細胞を、視神経を傷害したマウスに移植した、ドナー細胞は網膜内に生着するとともに、視神経入口部に向かって軸索を伸ばし、一部は視神経内に侵入した。網膜神経節細胞の軸索の複雑な経路探索について、誘導物質Sem3AやSlit1の評価を行った。各化合物をビーズに浸透させて局所で徐放したところ、軸索は化合物に応じて屈曲し経路を変更した。小型動物実験においては、網膜神経節細胞を移植し、その軸索を視神経内に誘導し経路をコントロールする可能性が示された。
著者
高橋 徳幸 伴 信太郎
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

医師の共感的態度醸成の必要性が叫ばれるなかで、医師の共感的態度は経年的に低下することが定説となっている。しかしこれは「患者の視点からの量的検証」を経たものではない。よって本研究は、我々が開発した患者の視点から医師の共感を評価する質問紙票であるCARE Measure 日本語版(Aomatsu et.al, 2014)を踏まえて作成された、医師の診療の質を患者の視点から評価する尺度C Q I - 2 の信頼性・妥当性検証を行うことを目的としている。それに先立ち、CARE Measure日本語版の評価者間信頼性に関して明らかにされていなかったことから、本研究で検討を行っている。その結果、評価者間信頼性を検討するために40枚程度の質問紙票を回収する必要があることが明らかになった。これは過去に他国で検討された数値と比較しても妥当な値であり、日本語版CARE Measureの汎用性を高める意義がある。一方、本研究では医師の共感的態度の経年的低下という定説に対して、質的探索によるアプローチも行っている。すなわち、既に我々は医学生・初期研修医への質的探索により「共感の量的減少ではなく質的変化」の可能性を示した(Aomatsu et.al, 2013)。これを踏まえて、本研究では後期研修医・指導医についても共感に関する認知構造を質的に探索し、共感の認知構造に関する新たな経年的変化モデルを構築することを目的としている。これまでに、患者との信頼関係構築のためのコミュニケーションスキルとして共感を特に重視する総合診療科に焦点を当て、そこで研修をする後期研修医(専攻医)に対して、2017年度は質的探索を行った。その結果、専攻医は臨床経験によって認知的共感を獲得し、それを主に用いながらも、専攻医自身の出産といった非職業的経験によって感情的共感をも行っていることが明らかになった。
著者
竹原 正也 永浜 政博 小林 敬子
出版者
徳島文理大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

宿主は、細菌感染に対して好中球の産生を亢進し対抗するが、一部の細菌感染は致死的である。我々は、ウエルシュ菌が感染したマウスや、α毒素を投与したマウスでは成熟好中球が減少することを発見した。また、本菌の感染は末梢の成熟好中球を減少させた。骨髄細胞をα毒素で処理すると、脂質ラフトが変化し、好中球の分化が抑制された。脂質ラフトの阻害剤を処理した骨髄細胞では、好中球の分化が抑制され、脂質ラフトの阻害がα毒素による好中球の分化抑制に関与することが示唆された。以上の結果より、ウエルシュ菌α毒素は好中球の分化を阻害し宿主免疫を障害する、本菌の新しい免疫回避機構が明らかとなった。
著者
糸川 昌成 瀧澤 俊也 新井 誠
出版者
公益財団法人東京都医学総合研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

GLO1のrare variantから同定された統合失調症のカルボニルストレスは、一般症例の40%でも検出された。カルボニルストレス陽性症例の臨床特徴については、カルボニルストレスを反映する二つの有力なバイオマーカー候補分子であるペントシジンとビタミンB6を用いて163名の統合失調症患者を4群に分類し、統合失調症の精神症状評価尺度である PANSS を実施して臨床特徴を比較検討した。その結果、カルボニルストレスを呈する患者群では、カルボニルストレスの無い患者群と比較して、入院患者の割合が高く、入院期間が4.2倍と長期に及び、投与されている抗精神病薬の量が多いという特徴が明らかになった。
著者
望月 俊男 佐々木 博史 脇本 健弘 加藤 浩 鈴木 栄幸 久保田 善彦 舟生 日出男
出版者
専修大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、多様な人々が関わる問題解決場面における効果的な対話的コミュニケーションスキルを育成する学習環境の開発を最終目的とする。その教育方法としてのロールプレイをより効果的に実施するため、演技全体を見渡す俯瞰視点だけではなく、特定のアクターの視点(他者視点)から対話的コミュニケーションを振り返り、吟味できる3次元リフレクション支援システムを開発した。また、その教育方法を教師教育の授業実践において検討・開発した。授業実践を通して、他者視点と俯瞰視点を往還する中で、他者視点があったほうが、各立場を意識しリフレクションが促され、対話的コミュニケーションを深く検討できるようになることが見いだされた。
著者
高橋 一男 堀田 泰司 芦沢 真五 北村 友人 黒田 一雄 廣里 恭史 小幡 浩司 新田 功 太田 浩 関山 健 花田 真吾 小早川 裕子 田中 祐輔
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2017-04-01

平成29年度の研究はNAFSA年次大会(アメリカ)、EAIE年次大会(スペイン)、第6回APEC高等教育協力会議(ロシア)、AIEC年次大会(オーストラリア)、CBIE(カナダ)、APAIE(シンガポール)などに出席し、UMAPを中心としたアジア太平洋地域における学生交流に関する発表を行うとともに、国際会議・大会に出席している政府関係者及び、大学関係者に対するヒアリングを行い、国の政策と大学の国際戦略の関係について分析を行った。その中でも、特に英語圏であるカナダとアメリカが、UMAPへの参加を表明するなど、学生交流に関する新たな関心と問題意識が生まれていることが確認できた。8月18、19日にはUMAP国際事務局を担当する東洋大学、留学生教育学会と連携し、カナダ、アメリカ、オーストラリアから学生交流に関する専門家を招聘し、国際フォーラムとワークショップを開催した。アジア太平洋諸国の大学がどのような大学間連携を模索しているか、というニーズ調査を推進するための意見交換をおこなった。また、オーストラリア、カナダ、米国など発足当初のUMAPには参加していた英語圏諸国から関係機関の代表に参加を得て、今後、これらの国からUMAPへの参加を得ていくための課題検証について意見交換をおこなった。本フォーラムとワークショップには国内外の大学教員、大学職員、政府関係者等の150人を超える参加を得られた。2月15日、19日、3月26日にUMAPタスクフォース会議を開催し、本科研メンバーと各国国内委員会の代表が意見交換を行った。その中で、UMAPに実際に係る専門家に対し行ったSWOT分析や、日本国内のUMAP参加大学、非参加大学に対するUMAPに関するアンケート調査の分析を行い、今後のUMAPプログラムの発展に寄与するいくつかのアクションプランが提言された。
著者
大津 透
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1999

講談社の『日本の歴史』シリーズのなかで、第6巻「道長と宮廷社会」を執筆して、日本の古代国家の形成のなかで、東アジア世界で中国文明を吸収して文明化をとげたが、その到達点が10-11世紀の藤原道長に代表される摂関政治にあることを解明し、江戸時代まで続く宮廷社会の成立の歴史的意味を考えた。律令制が変質して、律令国家の第二段階となるだけでなく、白氏文集に代表される漢文学の流行、作文など漢詩の作成をうけて『源氏物語』『枕草子』などの王朝文学が花開き、藤原行成など三跡が和様書道を完成させ、藤原公任が『和漢朗詠集』を編み、漢詩と和歌のアンソロジイを作り、日本の古典的な美意識を規定した。日本における古典とは、一義的には中国における儒教の経典であるが、それが律令国家の展開の中で日本で吸収定着するなかで、この時代に日本にも古典と呼びうる独自な作品や美が生まれたのである。また編集も兼ねる第8巻では天皇制についての多角的な議論を行っている。調査としては、中国寧波の天一閣で発見された北宋天聖令の田令・賦役令の比較研究を進め、具体的な唐令の復原作業を進めている。また龍谷大学所蔵の大谷探検隊が西域より将来した大谷文書のうち、唐西州の退田文書、欠田文書、給田文書からなる均田制関係文書群について、副葬時に四神に青龍の形をなして七枚以上張りあわされていたことを解明し、多くの断簡接続を発見した。大谷文書の整理に貢献しているだけでなく、唐律令制の土地・民衆支配が解明され、日本の田令の特質も明らかになるであろう。
著者
堀之内 末治
出版者
東京大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

グラム陽性細菌である放線菌は、菌糸状に生育して最終的には珠玉状胞子を着生する複雑な形態分化を行う。放線菌中に見出されたカルシウム結合タンパク質CabAは、遺伝子破壊などのデータからカルシウムバッファーまたはトランスポーターとして機能すると推定された。CabBと名付けたタンパク質は放線菌に広く分布し、2個のEFハンドモチーフを有する。CabBは真核生物のカルモジュリンと高い相同性を示す。なお、カルモジュリンは相同性のあるドメインが2個連なったダンベル構造をとっているが、CabBはその1個分の大きさを持つ。CabBについて以下の知見を得た。(1)S.ambofaciensとS.coelicolorにおいて、cabBは培養期間を通じて単一の転写開始部位から転写された。(2)CabBは放射ラベルのCaを用いた実験で、高いCa結合能が確認された。CabBは2個のEFハンド有することから、2個のCaイオンを結合すると推定された。(3)CabBはCa結合により、そのα-ヘリックス含量が大幅に増加することをCDスペクトル分析で確認した。(4)cabB破壊株では、胞子の発芽に違いが見出され、また高濃度カルシウム培地での生育が遅れた。したがって、CabBは、放線菌の増殖、胞子発芽に関係することが推定された。CabBと相互作用する菌体内タンパク質の同定やその分子機構の解明は今後の興味ある課題である。
著者
河村 満
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

音楽には、言語と同様に表出(歌う・演奏する)、受容(聞く)、(楽譜を)読む、(楽譜を)書く過程がある。音楽の表出・受容の脳内機構についてはいくつかの知見が蓄積されているが、(楽譜の)読み書きについての検討は極めて少ない。そこで、本研究では、脳病変例を対象に、楽譜の読み書きの脳内機構を明らかにすることを目的とした。われわれは2000年に、左上頭頂小葉の皮質・皮質下病変によって、楽譜の読みに障害がないが、楽譜の書きにのみ障害が認められたピアノ教師を報告した。この症例では文字の書きの障害も伴わなかったことから、楽譜の書きが文字の書きとは独立した過程である事を明らかにした。さらに、この症例の特徴はリズム表記の障害であったことから、音高の表記とリズムの表記は独立した過程であることを示唆した。さらに同年、上記症例とは逆のパターンを示したトロンボーン奏者を記載した。この症例は左角回に限局性の病変で、音高の表記のみに障害を示していた。本研究では、これらの結果を基底にして、ウェルニッケ失語を呈したピアノ教師例を検討した。この症例では、楽譜を読む際の障害はピッチにのみみられリズムでは障害がみられなかった。この結果は楽譜の読み書きにおいて、リズム認知機能とピッチ認知機能とがそれぞれ異なった脳内機構をもつことを明示している。さらにパーキンソン病を対象にして、リズム認知機脳を検討し、本病でリズム認知機能障害がみられることを示した。これは大脳基定核にリズム語知機能があることを示唆している。