著者
高井 まどか
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

再生医工学において、材料への細胞接着を制御することは必須である。本研究ではナノレベルで構造が制御されたナノ相分離構造を作製し、このパターンの違いにより、異なるタンパク質の吸着状態を作り、その上での細胞接着挙動の解明を目的とした。親水性部位と疎水性部位を有する両親媒性ブロックコポリマーを合成し、ナノレベルで構造が制御されたパターン表面を作製することが可能となった。親・疎水性の相が反転したナノ相分離構造界面で、細胞接着を誘導するタンパク質は、疎水性ドット状ドメインサイズに依存して凝集体を形成し吸着した。タンパク質の凝集体構造と、分布状態により細胞接着が制御されることが明らかとなった。
著者
鎌倉 慎治 越後 成志 鈴木 治 松井 桂子
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

種々のリン酸オクタカルシウム(OCP)・コラーゲン複合体(OCP/Col)を用いてその骨再生能について検討し、(1)OCP/Colは細胞の増殖や接着を促進し、(2)小型動物の埋入試験でOCPの含有量に依存して骨再生能が向上し、生じた新生骨の骨質は経時的に増強し、正常骨組織に匹敵する力学特性を示すこと、(3)大型動物での種々の埋入試験によってその十分な骨再生能を確認し、これら一連の成果によって世界初のOCP/Colを用いた臨床研究を実現するに到った。
著者
熊谷 正朗
出版者
東北学院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

従来の球面モータに比べて出力が大きい、3自由度に角度制限なく回転する球面誘導モータを開発した。トルクは最大 5Nm、球面での推力換算で 40N を出力でき、かつ指令から力出力の安定まで 10ms 未満という応答性を持つなど、移動ロボットの車輪などに使用可能な性能を実現した。また、光学式マウスセンサによる球体の運動計測を併用して、角速度制御、角度制御を実現し、トルク出力と合わせて応答特性を測定し、性能を明示した。
著者
石井 澄 辻 敬一郎 (1985) 木田 光郎 辻 敬一郎
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

本研究は、食虫目トガリネズミ科ジネズミ亜科の1種、ジャコウネズミ(Suncus murinus)を対象に、野生個体を起源とするドメスティケーションを試み、その過程において行動の諸特徴を経代的に観測するものである。野生個体は沖縄県下多良間島で捕獲後、ただちに人為的制御下に移して維持・繁殖を続けてきた。昭和61年度末現在、第2世代を得ている。観測対象とした行動項目は、基本的適応価をもつと考えられるもので、初期行動,生殖(性)行動,および日周活動リズムである。ジネズミ亜科の多くの種に具わる特異な初期行動としてキャラヴァン行動(caravaning)がある。従来詳細な記述がみられなかったこの行動について、ドメスティケーションの進んだ段階の個体(実験動物としてのスンクス)を対象とした組織的観測を行ない、その発現齢,成立パターンおよびその解発刺激,事態特性を明らかにした。それらの成果に基づいて、ドメスティケーション初期段階の個体と進んだ段階の個体とを比較した結果、いくつかの所見を得た。すなわち、前者の場合、出現時期がより限定的でピーク齢が明確であるのに対して、後者においてはキャラヴァンの消失齢が遅延して発現の日齢特性が曖昧化の傾向にあった。また、5種の成立パターンの発達的順序性が前者に比して後者で稀薄化し、母仔関係の障害を示唆するパターン(第【IV】型)が後者のみに認められた。このように、ドメスティケーションに伴って母仔関係の行動的発現が非特殊化する傾向が指摘できる。この種には雌に発情周期がなく、排卵は交尾刺激によって生起する。従って、生殖行動における雌雄の行動的相互作用がもつ意味は大きい。交尾の成立は、雌の攻撃に対する雄の宥和に依存するが、この宥和に一種の行動的退行と考えられる発声が有効に働くことが確かめられた。ただし、ドメスティケーションの効果は検討中である。
著者
金森 寛 會澤 宣一 道端 齊
出版者
富山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

海産動物のホヤは,海水中の5価バナジウムを取り込み,3価にまで還元して血球細胞中に蓄えている。しかし,このホヤによる特異なバナジウム濃縮・還元機構は,未だに解明されていない。本研究計画では,ホヤ由来のバナジウム結合タンパクとその小分子モデル化合物を用いて,ホヤのバナジウム濃縮・還元機構を化学的に解明することを目指して基礎的知見を集積した。1.NADPHによる5価バナジウムの4価への還元:ホヤのバナジウム還元にはNADPHが関与していることが示唆されている。我々は,以前にedta存在下で5価バナジウムがNADPHにより4価に還元されることを報告しているが,本プロジェクトでは,アミノ酸やペプチドなどの生体関連配位子がNADPHによる5価バナジウムの還元を進行させることができるかどうかを調べた。その結果,グリシンやバリンなど,2座配位子としてしか作用できないアミノ酸は,還元を進行させることができないが,アスパラギン酸やヒスチジンなどの3座配位できるアミノ酸や,3座配位可能なジペプチドは,NADPHによる5価バナジウムの還元を進行させることができることを見いだした。2.チオールによる4価バナジウムの3価への還元:我々は,以前にシステインメチルエステルがedta共存下で4価バナジウムを3価に還元することを報告している。今回,部分的ではあるが,ntaが還元反応を進行させることができることを見いだした。アミノ酸やアミノ酸誘導体,およびペプチドの中で,4価バナジウムの還元を補助できるものがないかの探索は,現在も継続中である。ホヤ由来バナジウム結合タンパク中のリシン残基は,1,2において直接関与していない。3.ホヤ由来バナジウム結合タンパクを用いた酸化還元実験は,準備に時間がかかったため,年度内に結論を得ることができなかったが,実験は進行しており,近い将来,結果が得られる予定である。
著者
近藤 弘幸
出版者
東京学芸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本におけるシェイクスピア作品の翻案・翻訳受容について、フェミニズム理論を用い、またナショナリズムの観点から分析した。フェミニズム分析としては、日本で初めて女性としてシェイクスピア作品の全訳に取り組んでいる松岡和子の翻訳について、その功績と問題点を指摘した。ナショナリズムの観点からは、『オセロー』の翻案小説である宇田川文海『阪東武者』を、日本が「西洋化」することの不安を反映するテクストとして分析した。
著者
武内 ゆかり 森 裕司 菊水 健史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

同一犬種内における気質の個体差の遺伝的背景を探る目的で,日本古来の柴犬と使役犬としても名高いラブラドールレトリバー種(盲導犬候補個体)に着目し,柴犬では飼い主による気質評価アンケートと,ラブラドールレトリバー種では訓練士による訓練評価記録と,主に申請者らが同定した気質関連遺伝子の多型との関係を解析した。その結果,柴犬では,他人に対する攻撃性とsolute carrier family 1, member 2遺伝子の一塩基多型が,ラブラドールレトリバー種では,活動性と同多型およびcatecholamine-O-methyltransferase遺伝子の一塩基多型が有意に関連していることが明らかとなった。
著者
太田口 和久
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

大規模プラント排ガス中のCO_2を除去する技術のうちモノエタノ-ルアミン化学吸収法は、吸収能力および経済性および経済性などの点で高く評価されている。この方法では、CO_2吸収後のモノエタノ-ルアミンは水蒸気の作用によりCO_2を分離し再生される。しかし、長期間に亘る反復使用の後に劣化物を含んだ吸収液のCO_2吸収能力は低下し、吸収液は廃棄されている。本研究では、そのような使用済みモノエタノ-ルアミンを大腸菌Escherichia coli K12株を用いて生分解し、有価物の酢酸へと変換するバイオリアクタ-を考案し、培養条件が生物反応に及ぼす効果について検討した。培地成分について吟味した結果、モノエタノ-ルアミンはE.coliの生育のための窒素源となるが、効率良い増殖を望むためにはグリセロ-ルまたはグルコ-スなどの炭素源が不可欠であることがわかった。モノエタノ-ルアミンを分解するエタノ-ルアミンアンモニアリア-ゼは、その生合成および機能発現のためにビタミンB_<12>を必要とした。この酵素は、反応生成物のアセトアルデヒドにより不活性化したが、培養液中のアセトアルデヒドの蓄積を抑えるためにはアセトアルデヒドを酢酸へと変換するアルデヒドデヒドロゲナ-ゼの活性を高めることが大切であることがわかった。酢液は、これらの酵素の活性を低下させ、また細胞の増殖を抑制したためpH制御が生分解反応を促すことを演繹した。モノエタノ-ルアミン自身をpH制御用のアルカリ溶液とする新しい培養方法を考案し最適pH値を求めた。モノエタノ-ルアミンの処理産および酢液の生成量はpHが7.5の時に最大となり、処理量1g/(l・h)および酢液生産性0.9g/(l.h)が得られた。
著者
川名 敬
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

子宮頚癌の発生に深く関与しているヒトパピローマウイルス(HPV)は、性行為感染により腟粘膜や子宮腟部の粘膜上皮に感染する。このHPV感染を防御することで、子宮頚癌の発生を制御する試みが既に諸外国で始まっている。しかし、子宮頚癌に関連するHPVは10種類以上(16、18など)あり、それらの抗原性はHPV型によって異なっているため、どの型のHPVにも有効なワクチンを開発することが大きな課題となっている。本研究ではHPVの粒子を形成する蛋白質のうち、L2蛋白質に注目し、その一部にどのHPV型にもほぼ共通でかつHPV粒子の表面に露出している領域があることを見出した。HPV16型のこの領域と同じアミノ酸を持つ合成ペプチドをL2ワクチンとして、BALB/cマウスでのワクチン実験を行った。HPVは性器感染することを考慮し、粘膜免疫を誘導できるように経鼻接種により16L2ペプチドを投与した。マウスの血清中、腟洗浄液中にHPV6、16、18型に対する特異抗体が誘導された。腟洗浄液中には主としてIgA抗体が誘導された。HPVはマウスには感染しないため、ワクチンの効果判定には、培養細胞でのHPV感染系を用いた。マウス血清中、腟洗浄液中のいずれにも、HPV6、16型の感染を阻害できる中和抗体が含まれていた。L2ペプチドワクチンの経鼻接種は、性器粘膜面に複数のHPV感染を阻害できる抗体を誘導できることが示された。一方、MHCクラスIIのハプロタイプが異なる系統であるC57BL10マウスで同様のワクチン実験を行ったが、特異抗体が誘導されなかった。16L2ペプチドをC57BL10マウスのMHCクラスII分子に結合できるように改変したところ、BALB/cマウスと同様の中和抗体誘導が示された。このペプチドワクチンはMHCハプロタイプに応じた改変が可能であることが示された。
著者
山口 文彦
出版者
長崎県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本課題は、イースター島で作られた記号の列が彫り込まれた木製の遺物について、デジタルデータの収集、そのようなデジタルデータ収集に必要な技術の研究、および収集したデジタルデータから言語情報を抽出することを目的としている。対象となる遺物は現在20点ほどが遺されており、中でも比較的大きなものを所有する教会に連絡をとるなど、所有者・所有機関に対して研究への協力を要請している。データ収集の方法としては、対象物を複数の方向から撮影した二次元画像から三次元のモデルを復元する方法を用いる。これは従来のレーザーを使う三次元計測に比べて、強い光を使わないため、遺物に与えるダメージが少ないという利点がある。遺物形状の計測データからは、彫られた記号の形状が得られる。遺物のデータから抽出する言語情報として、記号を文字に分類する問題に取り組んだ。これは既知言語に対する手書き文字認識の手法を参考に記号の特徴量を得て、その特徴量の違いの大きさから、文字としての分類を見つけようというものである。未解読文字の場合は正解が分からないため、既知言語を用いて手法の評価を行う。本課題の初年度にこの研究手法の基礎を作ったが、その時点での正解率は満足のいくものではなく、ひきつづき正解率を向上させる努力をしている。なお、手法を評価するために既知言語の文字データを収集・整備する必要がある。こちらは現在のところ二次元の画像データだが、研究用などに公開されている日本語手書き文字のデータを調査し、また解読が進んでいる考古学的文字としてエジプトの神官文字の画像データの調査および整理を行った。
著者
河瀬 彰宏 宇津木 嵩行 大利 さやか
出版者
同志社大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

日本民謡の地域的特徴を科学的に比較・分析するための基盤を構築した.はじめに各地域・各令制国での楽曲の種目の違いを把握するために,『日本民謡大観』(日本放送協会出版)に掲載されている全楽曲とその採録地域名・令制国名・位置情報(経度・緯度)をリスト化した.また,掲載楽曲を電子データ化し,各楽曲の旋律を構成する特徴を抽出するためのプログラムを開発した.楽曲のコンテンツ情報に基づき分類実験を実施し,抽出した特徴をデータベースに納めた.あわせて楽曲の位置情報に基づく特徴の可視化を実施した.得られた分析結果とリストは,研究者コミュニティで利用できるかたちに整備し公開した.
著者
海老原 秀喜
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

申請者は、リバースジェネティクス法(人工的にウイルスを作成する技術)等の分子生物学的技術と動物実験を駆使し、ヒトに重篤な出血熱を惹起するエボラウイルス(EBOV)のうち強毒ザイールEBOV (ZEBOV) と近縁のマールブルグウイルス(MARV)、出血熱を惹起しないレストンEBOV (REBOV)の3種類のウイルスタンパク質(GP, VP35, VP24)の病原性に関わる機能(主に免疫御能等)を比較し、EBOVタンパク質の病原性発現における役割に焦点を絞って研究を実施する。本年度(平成20年度)は、以下の研究を遂行した。(1) 新たなエボラ出血熱の動物モデルの確立 : ゴールデンハムスターを用いたエボラウイルス感染モデルを開発した。このモデルはヒトと同様の病態を示すことから、今課題の病原性の研究のみならずワクチン・治療法の開発にも有用なモデルになる事が期待される。(2) フィロウイルスの糖タンパク質を発現する組換え水泡性口内炎ウイルス(VSV)ライブラリーの構築 : 現存する5種類のエボラウイルス糖タンパク質及び5種類のマールブルグウイルス株の糖タンパク質を発現するVSVを作成した。このシステムを確立したことにより、フィロウイルスの糖タンパク質による免疫抑制能の研究をヒトの初代培養細胞系を用いて遂行可能となった。(3) 強毒型マールブルグウイルス・アンゴラ株のモルモットモデルの確立とリバースジェネティクス法の確立 : 2005年に致死率90%以上の流行を起こしたアンゴラ株のモルモットモデルを確立し、さらにリバースジェネティクス法の確立を実施中である。(4) さらにエボラウイルスのVP35及びVP24のインターフェロンシグナリング能の比較を行った。
著者
宮下 雅年
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

北原白秋の『フレップ・トリップ』(1928)の樺太イメージは、以後の樺太観光に道筋を付けた。本作における風物・風習・異民族の記述が島民の郷土の誇りに直結していった。戦後、その生まれ故郷は奪われてしまうが、だからこそ、望郷の念は募り、今もサハリン観光と言えば帰郷ツアーが中心である。そこにあるのはもはや白秋の「樺太」ではなく、往時の日常生活への思慕である。サハリン州政府も観光の好影響を重視して様々な対応を開始した。
著者
澤山 英太郎
出版者
有限会社まる阿水産
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

海産魚の種苗生産において初期餌料として用いられているシオミズツボワムシ(S型ワムシ)の個体数増減と遺伝的多様性についての関連を、マイクロサテライトDNAマーカーを用いたクローン解析により検討した。まず、クローン解析に必要なマイクロサテライトDNAマーカーの選定を行ったところ、4つのマイクロサテライトDNAマーカーを用いてクローン判別をすることで解析集団の全てのクローン型が特定でき、ミトコンドリアDNAのCOIハプロタイプとも一致することが分かった。次に、S型ワムシを1ヶ月間培養し、増殖良好時と培養不調時のワムシについて、ミトコンドリアDNA COI領域によるハプロタイプ解析とマイクロサテライトDNAマーカーによるクローン型解析を行った。ミトコンドリアDNA COI領域による株型判別の結果、全てのワムシはBrachionus plicatilis sp. “Cayman”と判別された。また、培養良好時には2~3種類のハプロタイプが混在していたが、培養不調時には1種類のハプロタイプのみが確認された。マイクロサテライトDNAによるクローン型解析を行ったところ、80個ものクローン型が識別された。また、培養良好時のワムシのクローン多様度は培養不調時と比べて高い傾向が見られた。以上の結果から、ワムシの培養が良好な時はワムシの遺伝的多様度が高いことが明らかとなり、ワムシの個体数増減に遺伝的要因が関与する可能性が示唆された。しかしながら、飼育環境が良好であることで隠蔽種も良好な増殖をし、その結果として遺伝的多様度が高まった可能性も否定できない。そのため、今後は本研究で見られた主要なクローン型を用い、単一クローンでの培養、ならびに複数クローンでの混合培養を行い、個体数の増減と遺伝的多様性の関係について実験的に解析していく必要がある。
著者
山口 富子 福島 真人 橋本 敬 日比野 愛子 纐纈 一起 村上 道夫 鈴木 舞 秋吉 貴雄 綾部 広則 田原 敬一郎
出版者
国際基督教大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、現代社会にさまざまな影響を及ぼす「予測」という行為に焦点を当て、「予測をめぐる科学技術的実践の多様性とそれが政治あるいは社会に与える影響」、また「政治あるいは社会が予測という行為に与える影響」を明らかにすることを目標とする。その問いの答えを導き出すために、平成29年度は、地震、市場、感染症、食と農、犯罪など、諸分野に観察される「予測」の問題について、科学社会学、科学人類学、科学政策、社会心理学、地震学の立場から、個別の事例研究を推進した。事例研究を推進する過程においては、異なる分野で観察される諸現象についても理解を深めるために、科研メンバー間で事例研究の進捗状況を報告するとともに、関連する分野の専門的知識を持つ連携研究者やゲストスピーカを招き、予測と社会の問題についての理解に勉めた。「災害リスク・コミュニケーションの課題と展望」(京都大学防災研究所巨大災害研究センター、矢守克也氏)、「将来予測の方法論」(JAIST北陸先端科学技術大学院大学客員教授、奥和田久美氏)らが主だった話題提供者である。これまでの研究討議を通して、「予測科学」を社会科学的に理解するためには、予測ツールと人びとの行為の接続の問題、政策的ツールに包含される予測と社会の問題等が掘り下げるべき主要な論点である事が解り、平成30年度は、これらの論点を中心に議論を継続し、多様な事例を統合する方策を模索する。また、研究成果を研究者コミュニティーに還元するために、科学技術社会論学会年次大会において「予測をめぐる科学と社会」というタイトルのオーガナイズドセッションを行った事も主要な研究業績として挙げられる。セッションの取りまとめは、若手研究者である鈴木舞氏が行い、研究者育成にも配慮をした。学会での発表要旨、登壇者等については、本科研のホームページを通して日本語と英語で公表し、社会に向けて情報発信も行った。
著者
酒井 聡樹
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

これまでの研究では、集団間で送粉者が異なることによって、花の香りが異なることが知られている。しかし、花の香りは以下の要因でも変化しうるのではないだろうか。1.昼夜:昼夜で送粉者が変化することがあるため。2.花齢:花齢が進むにつれて、訪花要求量(残存胚珠・花粉)が減少するため。本研究では、これらの昼夜・花齢によって花の香りが変化するのかどうかを量・質に着目して調査し、それが雌雄繁殖成功に与える影響を明らかにする。質のデータを付け加え3年分の結果を報告する。【実験方法】ヤマユリ(ユリ科・花寿命約7日)を用いて以下の調査を行った。1.香りの時間(昼夜・花齢)依存変化 2.送粉者の昼夜変化 3.繁殖成功(送粉者の違いの影響をみるため、昼/夜のみ袋がけ処理を行い、雌成功:種子成熟率・雄成功:花粉残存数を比較)【結果】1.昼に比べ夜の方が香りは強くなり、花齢が進むにつれて香りは弱くなる傾向にあった。時間によって組成比は様々に変化したが、最も類似度が高かったのは夜の香り.同士を比較したものだった。2.昼にはカラスアゲハ、夜にはエゾシモフリスズメが訪花していた。3.雌成功・雄成功共に、昼夜での違いはなかったが、雌成功は昼夜どちらかの送粉者のみで十分だったのに対し、雄成功は昼夜両方の送粉者に訪花される必要があった。ヤマユリの花の香りが夜に強くなるのは、暗闇によって減少する視覚効果を補うためであり、昼夜両方の送粉者を呼ぶという戦略をとっているのは、主に雄繁殖成功を高めるためではないかと考えられる。
著者
高木 伸之 王 道洪
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

冬季雷雲下の風力発電設備において上向きに開始する落雷の前兆現象を3つ確認した。一つは落雷開始の数秒前から数アンペアの電流が流れる前兆電流である。二つ目は落雷前に発生する微弱な発光を伴う放電現象で風車先端から数メートル程度進展して停止する現象である。三つ目は落雷前に風力発電設備周辺での地上電界強度が正または負の極性に偏る現象である。前兆電流については2秒前には落雷の発生を予測できることを確認した。
著者
中村 美亜
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

東日本大震災後、「音楽の力」という言葉が頻繁に登場し、死者への追悼や復興など様々な場面で音楽が用いられた。本研究は、震災復興において、音楽が果たす機能や人や社会にもたらす効果を明らかにすることを目的としている。研究は、(1)「音楽の力」という言葉の使用に関する調査、(2)震災後の音楽活動に関する概要把握、(3)被災地での事例調査、(4)認知科学やトラウマ研究の応用、(5)文化政策的知見の抽出という5つのフェイズから成っている。社会学的なアプローチをベースにしつつも、認知科学や精神医学的知見を取り入れることで、音楽の「力」が発動するプロセスやメカニズムに関する理論的説明を行った。
著者
西尾 ゆかり
出版者
大阪医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

2型糖尿病患者の主観的評価による睡眠と血糖コントロール(HbA1c)との関連を明らかにすることを目的に本研究を行った。その結果、(1)「睡眠の質」の評価が悪い、(2)「睡眠時間」が6時間未満である者はHbA1cが高くなることが明らかになった。また、女性で短時間睡眠の者のHbA1cはそうでない者より有意に高いことが明らかとなった。
著者
河内山 隆紀
出版者
株式会社国際電気通信基礎技術研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は,複雑な手指運動学習課題における運動技能の両手間転移に関する神経機構の解明を目標としている。本年度は,主に昨年度構築した実験システムを用いて実験を行なった。被験者は,健常な男女40人であり,複雑な手指運動学習課題である健身球の回転運動課題を課した。両手間転移が評価できるように被験者を4群に分け,すなわち,右手から左手への転移を評価する群とその逆を評価する群に加え,それぞれに転移を生じない統制群を設けた。脳活動計測は,昨年来より共同研究を行っている生理学研究所の磁気共鳴画像装置(MRI)を用いた。MRIを撮像中に(1)ビデオ監視システムによる球の回転運動計測と(2)被験者の腕より導出した筋電図(EMG)計測を行ったが,解析の結果より被験者の行動は球の回転運動計測から評価することとした。その結果,行動学的には,学習に伴う,球の軌道分散が減少し,また回転角加速度の上昇が見られた。また脳活動計測データより,転移前では,運動学習に伴う,小脳、運動前野、補足運動野、体性感覚野、後上頭頂葉の活動減少が見られたが,転移後のデータにはそのような変化は確認されなかった。また,転移後の運動では,補足運動野と運動前野の活動が転移前に比較して上昇していることが確認された。以上の結果より,転移の成立は,転移前の補足運動野と運動前野で生じた運動学習がプライミング的な役割を持ち,それが転移後の当該領域の脳活動上昇を導き,さらには行動学上の促進効果の表出をもたらしたことが予想される。現在,行動学的データと脳活動計測データの相関分析などを継続中であり,それらの結果を踏まえた研究成果を今年度中に専門雑誌へ投稿予定である。