著者
片野 卓 吉村 可那江
出版者
奈良大学
雑誌
奈良大学紀要 (ISSN:03892204)
巻号頁・発行日
no.11, pp.p108-118, 1982-12

本稿は,特養施設老人に関する既発表,拙4論文の続編に当るものであるが,昨年(81年)発表の第4論文,「長生きする老人の条件」を要約することから始めたい.特養施設において,「長生きする老人の条件」を加藤正明の事例性(caseneSS)の概念3)にそくしていえば,彼らは,入所以前の過去の生活にこだわることも,またとくに神仏にたよることもなく,現在の施設生活を充分楽しみかつ幸福だと感じるようなポジティブな心情のもち主,つまりきわめて"アッケラカン"としたパーソナリティ特性の老人であることが浮きぽりにされた.したがって,死ぬ場所としては近代的な設備の整っている施設でと答ながらも,最後をみとって欲しい人物は寮母その他の施設職員ではなく,プライマリーな"家族"にと願う老人が圧倒的に多いという事実が解明されて驚かされた.こうした"アッケラカン"と"したたかさ"をもった長命老人の実態ももちろんそうだが,そうでない施設老人のすべてにいえるのは,日常生活の中にいかにプライマリーな人との直接的な,血の通った接触を求めているかということである.冒頭に記したM老女のふと洩らされた「ボランティアの奥さんと話をするのは‶生〟やさかえ楽しい」という実感のこもった言葉こそ,コミュニティぐるみのボランティアの方向を示すものとして貴重である.
著者
吉岡 克成 薗田 光太郎 滝澤 修 中尾 康二 松本 勉
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. ISEC, 情報セキュリティ (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.106, no.176, pp.197-204, 2006-07-14
被引用文献数
3

我々は,LZ77符号化やハフマン符号化などの可逆データ圧縮において情報を埋込む方法を既に提案している.本報告では,LZSS符号化における情報埋込方式を,データ圧縮ツールとして広く利用されているZIPに適用した,情報埋込機能付データ圧縮ツールIH-ZIPの実装と性能評価について報告する.評価の結果,圧縮率の観点からは,IH-ZIPはパラメータを調整することにより,スライド辞書法を忠実に実装したオリジナルのZIPに準ずる効率を達成できることがわかった.さらに処理速度の観点からは,高速化の工夫により,オリジナルZIPと同程度の速度を達成できた.
著者
宮田 憲一 渡邉 大介
出版者
特定非営利活動法人 組織学会
雑誌
組織科学 (ISSN:02869713)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.32-48, 2013-03-20 (Released:2013-10-17)
参考文献数
32

本稿の目的は,PC 製品における製品アーキテクチャの変化を検討し,その背後にある企業の組織能力について明らかにすることである.本稿は,1970年代から90年代の米国デスクトップPCを対象にして,アップル(アップル系PC)とマイクロソフト(インテル系PC)のアーキテクチャの違いを観察することにより,従来強調されてきたような組み合わせ能力の巧みさだけではなく,擦り合わせ能力も適切に活用することがPC産業における競争力につながることを明らかにする.
著者
長田 年弘 木村 浩 篠塚 千恵子 田中 咲子 水田 徹 金子 亨 櫻井 万里子 中村 るい 布施 英利 師尾 晶子 渡辺 千香子 大原 央聡 中村 義孝 仏山 輝美 加藤 公太 加藤 佑一 河瀬 侑 木本 諒 小石 絵美 坂田 道生 下野 雅史 高橋 翔 塚本 理恵子 佐藤 みちる 中村 友代 福本 薫 森園 敦 山本 悠貴
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究課題は、研究代表による平成19-21年度基盤研究(A)「パルテノン神殿の造営目的に関する美術史的研究―アジアの視座から見たギリシア美術」の目的を継承しつつ再構築し、東方美術がパルテノン彫刻に与えた影響について再検証した。古代東方とギリシアの、民族戦争に関する美術について合同のセミナーを英国において開催し、パルテノン彫刻をめぐる閉塞的な研究状況に対して、新しい問題提起を行った。平成21年開館の、新アクロポリス美術館の彫刻群を重点的な対象とし撮影と調査を行ったほか、イランおよびフランス、ギリシャにおいて調査を実施した。研究成果を、ロンドンの大英博物館等、国内外において陳列発表した。
著者
岡田 勇 太田 敏澄
出版者
一般社団法人社会情報学会
雑誌
日本社会情報学会学会誌 (ISSN:09151249)
巻号頁・発行日
no.10, pp.98-112, 1998-09-30
被引用文献数
4

人間や社会といった観点を含んだ社会情報システムの構築や運用にとって、組織硬直に関する諸問題の発生や解決を問うことは、避けて通れぬ必要不可欠な課題である。本研究は、パーソナリティという局所的要素から、組織硬直化という大域的現象が、如何にして創発しているのかに関して、マルチエージェントシステムに基づく計算機シミュレーションを用いて解明しようとするものである。計算機シミュレーションは、操作的オーガニゼーションを可能にし、直観的には妥当性が見通せない現象についても、そのダイナミクスを議論する基礎を与えてくれる。本研究は、複雑系に関するフレームワークとしてのマルチエージェントシステムと、研究ツールとしての計算機シミュレーションの有効性を示すものであるといえる。硬直化モデルを定式化するにあたり、人間の心理的特性を持つパーソナリスティックェージェントを定義した。パーソナリティは、タスク執着、対人好悪感情、保守性とする。組織硬直化とは、組織業績の低下、環境変動への非適応性、情報への不信頼性として観察されるものとする。計算機シミュレーションの結果、現実の組織硬直化のメカニズムに関する興味深い数多くの知見を得ることが出来た。それらは、例えば、対人好悪感情によって組織内に派閥が形成される過程についてや、タスク選択過程において妥協が生じるメカニズム、または、タスク執着と保守性の組織業績に関する相殺作用などがある。これらは隆盛しつつある社会情報システムの構築や運用に対して意義深い示唆を与えている。
著者
山田 純平 金谷健一 菅谷 保之
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告コンピュータビジョンとイメージメディア(CVIM) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.51, pp.339-346, 2006-05-19
被引用文献数
18

本論文では画像上の点列に楕円を当てはめる問題を最尤推定として定式化し、KCRの下界との関係を述べる。次に、その数値解法としてFNS法、HEIV法、くりこみ法のアルゴリズムを述べ、ガウス・ニュートン法を追加する。そして、シミュレーションおよび実画像を用いてこれらの反復解法の収束性を実験的に比較し、反復の初期値や当てはめる楕円弧の形状への依存性を明らかにする。This paper studies numerical schemes for fitting an ellipse to points in an image. First, the problem is posed as maximum likelihood estimation, and the relationship to the KCR lower bound is stated. Then, we describe the algorithms of FNS, HEIV, and renormalization, to which a new method based on Gauss-Newton iterations is added. Using simulated and real image data, we compare their convergence properties and reveal their dependence on the initial value for iterations and the shape of the elliptic arc to which an ellipse is to be fitted.
著者
幸福 輝 尾崎 彰宏 青野 純子 深谷 訓子 中田 明日佳 髙城 靖之
出版者
独立行政法人国立美術館国立西洋美術館
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-10-31

17世紀オランダ美術の特質はなによりその写実的風景画や風俗画にあり、古代神話や聖書主題の作品を描いたルネサンスと対比されてきた。こうしてオランダ美術における「オランダ的なもの(オランダ性)」の解明が重要な課題のひとつとなった。他方、オランダの経済的繁栄の基盤は東西貿易にあり、芸術作品を含むあらゆるモノがオランダに集まっていた。そのような社会において異国の文化の受容は必然であり、「オランダ性」はオランダ固有の国内問題であると同時に、世界に向きあった国際化の問題でもあった。本研究では、特にアジアの視点から17世紀オランダ美術を再検討し、「オランダ性」に関する様々な調査研究をおこなった。
著者
眞鍋 えみ子 和泉 美枝 岩佐 弘一
出版者
同志社女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

産後における適正体重、適正体脂肪率の維持を目的に、自宅における体重・体脂肪率維持の支援策としてのプログラムを作成し、その効果を検討した。プログラムは、日常生活習慣や精神状態のコントロールのセルフモニタリングとライフコーダーによる活動量のモニタリングから構成した。その効果を検討したところ、プログラム実施群には交感神経活動の活性化が認められたが、体重、体脂肪率、筋肉量などの身体組成では効果が認められなかった。本研究成果は、プログラム実施期間の再検討、実施されたセルフモニタリングへのフードバック方法の検討が課題であり、その展開が期待される。
著者
川瀬 卓
出版者
弘前大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2012-08-31

本研究は不定語と助詞によって構成される副詞の歴史的研究である。本研究の主な成果は次の通りである。(1)副詞の歴史的研究における課題と可能性について明らかにした。(2)「どうも」「どうやら」「どうぞ」「どうか」の歴史を記述した。また、それらの歴史的変化を言語変化の一般的傾向と関連付けることも行った。(3)不定語と助詞によって構成される副詞の歴史から見えてくる日本語史的問題を指摘した。以上のことから、今後の副詞研究の方向性に加え、副詞を視点とした日本語史研究の方向性も示せたといえる。
著者
山本 早里 槙 究 熊澤 貴之
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

景観法の趣旨である地域再生を目論み、景観色彩を改良する手法を開発することを目的とし、地域の特性、合意形成、審美性の3軸から考察した。国内の景観計画において色彩を地域別に誘導していないところが多いことが明らかになり、仏国では協議システムが運用されていることがわかった。また、向こう三軒両隣の配色の重心を考慮した景観色彩設計法の有効性を検討した。被験者誘導の実験を行い、色彩規制の効果について考察した。以上から、日本の色彩誘導のあり方は景観法の趣旨が活かされているとは言い難く、そのため、様々な専門家が関わる協議システムが参考になり、街路景観はその特徴によって個別の対応が望ましいことを明らかにした。
著者
小島 順治 牧野 昭二 羽田 陽一 島内 末廣 金田 豊
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会総合大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.1995, 1995-03-27

マルチメディア時代の到来を迎え、遠隔地と通信しているにもかかわらず、あたかも同一の室内にいにような会話ができることや、マイクロホンやスピーカーの位置を意識しないで会話ができるシームレスな音響空間の実現が望まれている。NTTでは、適応アルゴリズムなどの音響信号処理の研究成果を活かし、適応追随性や同時通話時の性能に優れた高性能音響エコーキャンセラを開発したので報告する。

1 0 0 0 少女文藝

出版者
新報社
巻号頁・発行日
1926
著者
千賀 愛
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、1890―1920年代のアメリカで展開された新学校・進歩主義学校の理論と実践を特別な教育的配慮の観点から明らかにすることを目的とした。はじめに進歩主義学校の1つとしてジョン・デューイが娘のエヴェリンによる「明日の学校」(1915)で紹介したインディアナポリス第26公立学校の実践の検討を行い、子どもが主体的に取り組む活動が学業不振問題の解決に寄与していた。第二に、1896年にシカゴで開校したデューイ実験学校の体育と住居教育の実践を分析した。これはインクルーシブ教育の源流という観点から、様々な特性のある子どもが参加できる活動のカリキュラムをどのように創出するのかに関わる実践例であった。