著者
浅井 将 城谷 圭朗 近藤 孝之 井上 治久 岩田 修永
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.143, no.1, pp.23-26, 2014 (Released:2014-01-10)
参考文献数
18
被引用文献数
1

アルツハイマー病の原因物質アミロイドβペプチド(amyloid-β peptide:Aβ)はその前駆体であるアミロイド前駆体タンパク質(amyloid precursor protein:APP)からβおよびγセクレターゼの段階的な酵素反応によって産生される.アルツハイマー病の発症仮説である「アミロイド仮説」を補完する「オリゴマー仮説」は,オリゴマー化したAβこそが神経毒性の本体であるとする仮説であるが,オリゴマーAβのヒトの神経細胞への毒性機構や毒性を軽減する方法は未だ不明であった.そこで我々は,この問題点を解決すべく若年発症型家族性アルツハイマー病患者2名および高齢発症型孤発性アルツハイマー病患者2名から人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell:iPS細胞)を樹立し,疾患iPS細胞から神経細胞に分化誘導を行って細胞内外のAβ(オリゴマー)の動態と細胞内ストレス,神経細胞死について詳細に検討した.その結果APP-E693Δ変異を有する家族性アルツハイマー病患者由来の神経細胞内にAβオリゴマーが蓄積し,小胞体ストレスおよび酸化ストレスが誘発されていることがわかった.一方,1名の孤発性アルツハイマー病患者においても細胞内にAβオリゴマーの蓄積と上記と同様の細胞内ストレスが観察された.これらの小胞体ストレスおよび酸化ストレスはβセクレターゼ阻害薬によるAβ産生阻害やドコサヘキサエン酸(docosahexaenoic acid:DHA)によって軽減された.このように孤発性アルツハイマー病においても Aβオリゴマーが神経細胞内に蓄積するサブタイプが存在すること,およびこのサブタイプに対する個別化治療薬としてDHAが有効である可能性を示した.
著者
今村 都南雄 金井 利之 光本 伸江 佐藤 学 原田 晃樹 嶋田 暁文
出版者
山梨学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

第1に、「自治の器」の縮小を「手段」として住民生活を維持し、地域社会の「看取り」を責任持って行うという、もう一つの「自治」のあり方"を提示することで、既存の「自治」観の問い直しを行った。第2に、複数の自治体を取り上げ、長期的なスパンで分析を行うことにより、「意図せざる結果」に満ちた「自治のダイナミクス」を描き出すことに成功した。第3に、そうした研究の蓄積は、「課題設定の次元」と「課題対応の次元」からなる公共サービス供給編制の多様性への着目を惹起し、新たな研究展開をもたらすことになった。
著者
平城 智恵子
出版者
呉YWCA
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

研究目的筑豊のおばあちゃんの語りを使った教材で学習した筑豊地区の子どもが、自分の郷土の歴史を知り、ふるさとを愛するようになることが目的である。研究方法筑豊のおばあちゃんたちの語りによる音声資料を、1,「いつでも、簡単に」視聴できるように整備する。2,学校などの教育現場で活用しやすいように教材として開発をする。3,継続的な実施のために、今回の取り組み全体をプログラムモデルとしてまとめる。研究成果上記方法の分類別に成果を示す。2,当初は複数の筑豊のおばちゃんによる聞き取りを対象としていたが、2011年1月に、戦前の坑内労働経験女性(橋上カヤノさん、1910年生まれ)に出会い、肉声証言保存の緊急性を考慮し、橋上さんに限定した音声資料の整備を行うことにした。取材、編集を重ね、映像制作者山本祐子氏の協力を経て、インターネット動画共有サービス(YouTube)に配信している(2012年3月20日現在2動画アクセス数合計158)。2,学校現場での教材開発については、飯塚市立大分小学校の中山雅子教諭の協力を得て、ヒアリング、指導案作成、パワーポイント教材作成と修正を行った。2012年1月24日、6年1組21人の児童に「わたしたちが暮らす『筑豊』」の単元の中で中山教諭が教材を使用して授業を行い、評価までを行った。(1)筑豊は好きですか、(2)筑豊はどんなところですか、(3)炭坑について知っていること、(4)炭坑について学習したいこと、の4項目について学習前・後の評価検証を行った。その結果、(1)については、学習前に「筑豊」が「好き」が5人、「だいたい好き」が16人だったが、学習後「筑豊について興味を持って学習することができましたか?」の問いに、「持てた」が14人、「だいたい持てた」が7人と高評価を得た。3,今回一校しか実施できず、教育現場での協力者探しに課題が残った。地域学習の必要性についての説得力と利用の簡便さが教育プログラムには要求されることが分かった。
著者
前川 宏一 長谷川 俊昭
出版者
公益社団法人 日本コンクリート工学会
雑誌
コンクリート工学 (ISSN:03871061)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.13-22, 1994-05-01 (Released:2013-04-26)
参考文献数
44
被引用文献数
2 8

本稿は, コンクリート構造物の有限要素解析などで必要とされる連続体コンクリートおよび鉄筋コンクリートの構成則 (応力-ひずみ関係) に関する研究動向と今後の課題について解説したものである。ここでは, 骨材最大寸法の数倍のコントロールボリューム内で空間的に平均化された応力とひずみの関係として定義される連続体コンクリートの構成則のうち, 塑性論的アプローチ, 損傷理論, 塑性・損傷の組合せ理論, 微細構造に立脚したモデルについて述べた。分散ひびわれを有する30~50cm四方のコントロールボリュームに関する鉄筋コンクリート構成則は, ひびわれの密度や本数, 鉄筋比などの影響要因が相互に関連をもって変動するため, 見かけ上, ひびわれの分散性には強く依存しないことを説明した。鉄筋が交差する1本のひびわれを対象とする鉄筋コンクリート離散ひびわれ構成則は, 鉄筋の構成則とひびわれ面の応力伝達構成則を組み合わせたものであり, 単独では表現されない経路依有牲を記述することができる。今後は構成則の論理の明快さと精度や適用範囲のバランスをとり, 部材レベルから構成モデルと解析手法を系統的に検証していく段階にきている。
著者
目黒 杏子
出版者
東洋史研究会
雑誌
東洋史研究 (ISSN:03869059)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.548-575, 2011-03
著者
近内 トク子
出版者
山野美容芸術短期大学
雑誌
山野研究紀要 (ISSN:09196323)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.35-44, 1993-03-25

Shakespeareは作家として出発した初期の一時期に,ペストの大流行に出会った。1592年から1594年のことのことであった。この間,劇場はこの疫病のため閉鎖されたままであった。この疫病の流行の時期に,彼は詩集を二編,すなわちVenus and AdonisとThe Rape of Lucreceを書き上げ,出版した。この時期に彼は,The Sonnetsの最初の部分も仕上げたと考えられる。Venus and Adonisは1593年,The Rape of Lucreceは1594年に出版されているが,この二つの詩集は両方ともSouthampton伯に献呈された。彼はThe Sonnetsの美しい貴公子に当る人物と考えられる。Venus and AdonisはThe Sonnetsの中の最初の17篇,つまり貴公子に詩人が結婚をすすめた部分と極めて共通している。似た表現が見られるだけでなく,同じテーマや同じ意図が込められている。この論文は,Venus and AdonisとThe Sonnetsの最初の17篇との間の類似性と,テーマの同一性を検討する。結論として,Venus and Adonisは17篇の結婚ソネットと同様,美しい貴公子に,疫病に打ち勝つため早く結婚して子孫をもうけなさいとすすめる詩である。詩人は若い貴公子が,子孫をもうけることで,その生命が永遠に続くことを願って歌っている。
著者
平藤 雅彦 篠田 壽
出版者
北海道医療大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

本研究はエンドトキシンの全身投与が歯髄組織にどのような微小循環障害を引き起こすかを検討し、さらにその発生機序を生化学薬理学的および組織学的手法を用いて解析、検討する事であった。平成4年度はエンドトキシン投与後、歯髄組織中の組織障害のマーカーの一つである過酸化脂質をTBA法で測定し、組織障害の有無を検討した。エンドトキシン10mg/kgを静脈内投与して4時間後の歯髄祖組織内の過酸化脂質濃度を測定したところ、有意な過酸化脂質の増加が認められた。同様に肺および空腸組織についても検討したが、2及び10mg/kgエンドトキシンのいずれにおいても有意な影響は認められず、歯髄組織はエンドトキシンにより障害を受けやすいことが示唆された。そこで平成5年度は、エンドトキシン投与による歯髄組織内のアデニンヌクレオチド濃度の変化を検討して、循環障害の有無を検討し、またエンドトキシン投与後の歯髄組織および象牙質形成障害を組織学的に観察した。ラットにエンドトキシン2mg/kg静脈内投与を行い、4時間後の歯髄組織内アデニンヌクレオチド含量をHPCLで測定したところ、AMPの有意な上昇と、ADP、ATPの有意な減少が認められ、組織内のエネルギー状態を示す指標であるエネルギーチャージは著明に減少し、虚血性障害を起こしていることが示唆された。さらに、組織学的観察を行ったところ、エンドトキシン処理により歯髄組織細胞の核の変形、萎縮が認められた。しかし、炎症細胞浸潤や、血管拡張などの炎症性組織所見は認められなかった。以上のことより歯髄組織はエンドトキシンにより虚血性の組織障害を受けることが示唆された。本研究ではさらに、内皮細胞の機能障害機序についても培養ヒト内皮細胞を用いて検討し、好中球の活性化に依存して内皮細胞への血小板粘着が生じ、これは血小板のcGMPレベルの減少が伴っていることを明らかにした。
著者
小林 良彰 名取 良太 河村 和徳 金 宗郁 中谷 美穂 羅 一慶
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

平成23年度、(1)選挙公約内容分析ユニットでは、日本の地方選挙における都道府県知事選拳・都道府県議会議員選挙・政令指定都市長選挙・政令指定都市議会議員選挙、韓国の地方選挙における道知事選挙・道議会議員選挙・広域市長選挙・広域市議会議員選挙の公約を収集して、16の政策領域について内容分析した。次に、(2)政治的選好/政策分析ユニットでは、平成22年度に行った日本の都道府県知事・全ての市長宛の意識調査と比較するために、日本の都道府県議会議長・全ての市議会議長、韓国の道知事・基礎自治体長・道議会議長・基礎自治体議会議長宛の意識調査を行った。また日本の都道府県・全ての市の企画部局、韓国の道・広域市を含む全ての基礎自治体の企画部局宛の意識調査を行った。さらに(3)データアーカイブユニットでは、日本の都道府県、政令市を含む全ての市町村、韓国の道・広域市を含む全ての基礎自治体の財政データを収集してデータアーカイブを構築した。上記の各ユニットで得られたデータを接合して分析した結果、地方分権の効果は、(ア)韓国においてより肯定的に評価されていること、(イ)韓国においてより地域活性化への意識が強いこと、(ウ)日本においてより財政再建志向が強いこと、(エ)韓国において、より「代理型」の代表スタイルが施行されていること、(オ)韓国では、政治的・財政的に中央との結びつきが強く意識されていること、(カ)日韓両国とも、首長と議会の間の認識ギャップが存在するが、そのギャップは日本において、より顕著に見られること、(キ)韓国の地方選挙において公約の地域差のみが表れるのに対して、日本の地方選挙においては公約の地域差と政党差をみることができ、有権者に政策上の選択肢が提示されていることが明らかになった。これらの分析を通して、日本と韓国における自治体が有する共通点と相違点が統計的に明らかにされた意義は大きいと考える。
著者
柴原 孝彦 森田 章介 杉原 一正 箕輪 和行 山口 朗 山田 隆文 野村 武史
出版者
Japanese Society of Oral Oncology
雑誌
日本口腔腫瘍学会誌 (ISSN:09155988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.171-181, 2009-09-15
被引用文献数
7 6

1995年1月から2004年12月の10年間に本学会評議員が所属する61施設で,エナメル上皮腫と診断,治療された947症例に対してアンケートによる疫学的調査を実施した。性別は男性581例,女性366例であり,年代別にみると男性は20歳代で18.6%とピークを示し,女性では10歳代で23.2%とピークを示した。また部位では臼歯部が最も多く55.6%であった。臨床症状では疼痛が46.6%と最も多く,次いで腫脹が13.6%であった。エックス線所見は単房性が50.7%,多房性が40.4%であった。2005年のWHO歯原性腫瘍組織分類ではsolid/multicystic typeが74.5%と最も多く,次いでunicystic typeが17.0%,desmoplastic typeが4.1%,extraosseous/peripheral typeが3.0%であった。治療法では,顎骨保存療法(開窓145例15.9%,摘出開放創187例20.5%,摘出・掻爬289例31.8%を含む)が74.0%,顎骨切除療法が24.1%であった。
著者
追川 修一
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は,組み込みプロセッサ向け仮想化環境の研究,および異なるプロセッサアーキテクチャを持つプロセッサの相互接続手法の研究の2点を研究の目的とした.研究成果として,組み込みシステムで広く使用されているARMプロセッサをターゲットとする仮想化ソフトウェアの開発手法を明らかにし,また実際に実装することで手法の正しさを検証した.また,OpenCLを拡張したHybrid OpenCLにより,効率的に複数のプロセッサを相互接続できることを明らかにした.
著者
山本 竜大
出版者
Japan Society for Information and Media Studies
雑誌
情報メディア研究 (ISSN:13485857)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.43-57, 2004

本稿は,東京都議会の広報と都議の情報意識の事例を検討する.90年代以降の議会は,既存の広報紙の発行に加えて,テレビ番組,ICT化への対応を順調に進めてきた.99年12月開設の議会ホームページへのアクセスも伸びている.アンケート調査から都議は,複数の日刊紙を購読し,人気ニュース番組を視聴しやすい一方で,客観性・公平性・公共性,時間配分,キャスターの発言内容に報道の問題性を他方で感じている.政治情報源(メディア)としてインターネットに注目するものの,個人ホームページ開設には支持者の要請が作用しており,PC利用時間やEメール発信数も多くないため受動的な情報発信の態度がある.今後も新情報通信技術は政治の情報公開,広報活動,選挙準備に影響すると考えている.今後は情報メディアを介した政治・政策の成果内容を都議が問われるため,東京都や各都市の政治過程や選挙へのその影響は一層深まるといえる.