著者
堂浦 克美 逆瀬川 裕二 照屋 健太 逆瀬川 裕二 照屋 健太
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

プリオン病とアルツハイマー病では、難溶性蛋白質(プリオンとAβ)が脳組織内に沈着して神経細胞障害がおこる。インビトロ及びインビボにおけるアミロイド親和性化合物の構造活性相関解析研究を通じて、治療学の側面から両疾患に共通する病態発生のメカニズムの存在を検証した。その結果、難溶性凝集体としての物性は似ているものの、プリオンとAβでは凝集能や毒性に関与する立体的化学構造は異なっていることが明らかとなった。また、両疾患でアミロイド親和性化合物のインビボでの効果がほぼインビトロでの効果と相関しており、インビトロでの作用メカニズムの共通性から、プリオンとAβの産生や病態発生には共通なメカニズムがあり、アミロイド親和性化合物はこのメカニズムを抑制することにより治療効果を発揮しているものと考えられた。
著者
西野 浩明 宇津宮 孝一 吉田 和幸 賀川 経夫
出版者
大分大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本課題では,「仮想と現実を継ぎ目なくつなげる仮想環境」を構成するために,「現実と仮想の間に人間が違和感を覚える境界」を明確化し,それに基づいて,利用者に違和感を与えないリアルな仮想環境を描出する手法に関して研究開発を行った。このために,人間の感性を利用してシステムの最適化を行う対話型進化計算法に,認知科学や免疫学等の知見を融合した仮想環境の構成法とソフトウエアを設計・開発した。また,仮想物体の質感表現,技能の記録と伝習など,利用者の違和感がシステムの機能・性能に大きく影響するような応用分野に提案手法を適用し,その有効性を実証的に評価・検証した。
著者
加藤 幹郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

映画は、今年一九九五年で満百歳をむかえる。しかし、これは映画が発明されて百年になるという意味ではない。映画を撮影鑑賞するのに必要な機材は、一八九五年以前にすでに実用化されている。では今年を映画生誕百年と呼ぶのは、どういうことなのか。それは映画が今日の上映形態に近いかたちで、初めて公共の場所でスクリーンに投影され、それを見るために一般の観客が入場料をしはらって一堂に会したのが、ちょうど百年前のことになるということである。つまり映画が、のちに映画館と呼びうるような場所で公開された一八九五年を、映画元年としているのである。今日さまざまな種類の映画史が書かれ、映画の歴史は映画作品の歴史、映画作家や映画製作会社の歴史、あるいは映画技術の歴史として広く知られている。しかるに、われわれは肝腎なことをまだよく知らないでいる。それが映画館の歴史であり、映画館をにぎわせた観客の歴史である。だれがどのようにして映画をつくったのかという歴史は、比較的多くの研究者によって解明されている。しかし、だれがどのような場所で映画を見せたのかという歴史、そして観客がどのように映画を享受したのかという歴史は、いまだに不分明な点が多い。括弧つきとはいえ、「映画館」生誕百年を祝う今年は、劇場とそこにつどう観客の歴史の研究元年としなければならないだろう。
著者
中須賀 真一 森 治 矢入 健久 松永 三郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

東京大学・東京工業大学の学生が手作りで製作を進めてきた10cm立方,1kgの超小型衛星CubeSat"XI(サイ)"および"CUTE-1"は最終的な機能試験を行い、平行して衛星の国際標識(Spage Warn)の登録、使用周波数に認可と衛星局・地上局の免許取得、輸出許可申請などの手続きを行い、日本での作業を完了した。2003年6月に打ち上げ射場であるロシア・プレセツク宇宙基地に学生・教官の手で輸送され、ROCKOTという3段ロケット上段に取り付けられる作業までを共同で実施した。同ロケットは6月30日23時15分(日本時間)に成功裡に打ち上げられた.7月1日午前0:48に高度824kmの太陽同期円軌道に投入され,その後順調に飛行し,午前4時すぎに日本上空を通過する際に,東京大学および東京工業大学の地上局にてビーコンが受信された。投入軌道は予定通りで,正常に起動・分離・アンテナ展開されたことが確認できた.その後、両大学において、順調に軌道上運用が行われ、それぞれに計画していた種々の展開実験、通信実験,地球画像の撮像とそのダウンリンク実験,姿勢運動の推定などの実験を行ってきた。8ヶ月たった2004年2月末においてもまったく異常なく動作を続けている。これらの実績は、宇宙開発、特に衛星分野における大学の存在を示した点で、また民生品を用いた低コスト・短期間開発の超小型衛星バスでも軌道上で正常に動作することができることを示した点で、大きな成果であったと考えられる。また、打ち上げに向けて実施した種々の国際調整や手続きは貴重な経験であり、今後大学で衛星を開発しようというグループにとって有益な情報をもたらすであろう。また、超小型衛星の軌道上運用の方法を実践的に獲得し、新しいプロトコルや地上局ネットワークを試行し効果があることを確かめられたことも、今後の超小型衛星の軌道上運用にとって大きな成果であると考える。
著者
丸山 真一朗
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、植物の誕生、即ちシアノバクテリア様生物の細胞内共生によって葉緑体(色素体)が獲得されて以来、共生体から宿主の真核生物のゲノム中へと移行してきた「植物型遺伝子」というものに注目し、藻類・非光合成原生生物においてそれらの遺伝子の進化的・機能的保存性を解明することを目的に解析を進めた。昨年度の成果を基にして解析対象と規模を拡充させると共に、光合成を行う藻類にも解析の重点を移し、「光合成をする/しない」、「葉緑体を持つ/持たない」の境界にあるような真核生物群を対象としてゲノム規模での進化生物学的解析を行った。その結果、現在葉緑体を持つ生物でも太古の地球では別の系統の藻類と遺伝子の伝達交換をしていた可能性が示唆され、地球環境において最も重要な生物的エネルギー転換である光合成の進化という点でも、ゲノムのモザイク的な進化が大きな役割を果たしていることが示された(Yang et al. submitted、 Maruyama et al. editorially accepted)。また、二次共生による色素体の獲得過程において痕跡化した、ヌクレオモルフという共生体核において、これまで核ゲノム中には存在しないと考えられていた、遺伝子が、遺伝子構造の前半と後半が逆順にコードされた「逆順tRNA遺伝子」としてゲノム中に存在し、実際に転写され、タンパク質翻訳に寄与していることを示唆した(Maruyama et al. 2010 Mol Biol Evol)。さらに、共生体と宿主という枠を超え、寄生植物(ストライガ)と宿主植物という共生関係にある真核生物間においても、進化的時間軸で見た場合に比較的「最近」起こった遺伝子の水平伝達により寄生生物のゲノム進化が進んで来たことを示した(Yoshida et al. 2010 Science)。こうした解析により、真核生物ゲノムの複雑性が生物間の遺伝子交流・水平伝達・細胞内共生的伝達によってもたらされるというゲノム進化の基本原理とも言うべき進化過程を明らかにすることができた。
著者
中村 豊
出版者
九州工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、ネットワーク管理・運営の補助のため過去に蓄積したトラヒックを解析することで異常トラヒックを検出することを目的とする。過去に蓄積したフロー情報を解析し、周期性を抽出し、その周期に基づいた統計処理により確率分布を算出する。フロー情報を用いることによりトラヒック量だけでなく特定ホストに対する解析といった、これまでにない柔軟なトラヒック解析が可能となる。本システムを用いることで、明示的な閾値の設定なしに「転送バイト量・パケット数の変化から通信障害・帯域の圧迫」「平均転送量のホストごとの分散の変化から一部のユーザによる帯域の独占」「平均パケット長の変化からDDoS攻撃の発生」「単位時間当たりのユニークな通信相手先数の変化からワームによる攻撃の発生」と言った事を検出することが可能となる。平成18年度では平成17年度で構築されたシステムを実際の運用サイトに適用し、評価を行った。また、ネットワークに流れるトラヒックからデータを収集し、蓄積・解析・視覚化の一連のデータの流れを構築した。さらに、異なる複数の解析アルゴリズムを実装し、それらの比較評価を行った。これらを以下のような手順で推進した。1.実際のサイトに適用する本学(九州工業大学)のキャンパスネットワークに本提案システムを適用し、実環境において提案システムの有用性を評価した。2.解析アルゴリズムの評価複数の解析アルゴリズムをモジュールとして実装し、それらの比較評価を行った。評価方法に関しては、実運用と連携し、最もfalse positiveの低いアルゴリズムが何であるかを検討した。
著者
川橋 範子 黒木 雅子 小松 加代子 熊本 英人
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

日本でのフェミニズム研究と宗教研究の関係の進展を課題としてきた本研究では、「欧米中心的物の見方」への批判的問い直しをするとともに、複数形フェミニズムのなかで、非西欧女性の宗教経験を、家父長制の因果関係や弱者の戦略ではなく、新しい視野でとらえなおす試みをしてきた。「宗教と社会」学会において2年続けて、テーマセッションを企画・実行してきた。本年度は、テーマセッション「仏教ルネッサンスの向こう側-ラディカルな現代仏教批判」を企画し、4月に研究会を開いてその準備をし、「宗教と社会」学会第15回学術大会で、川橋(発表・司会者)熊本(発表・司会者)が加わって実施した。また、研究代表者の川橋は国際宗教学宗教史会議の女性委員会運営委員をつとめ、この会議における女性研究者ネットワーク立ち上げに協力した。今後、このネットワークを通して、各国の研究者と積極的に情報交換を行い、国際的な研究者ネットワークの確立を行うと同時に日本の女性宗教研究者の開拓を行う予定である。本年度の情報収集のための旅行としては、黒木が、ギリシャ・メテオラに出かけ、小松がアイルランドに出かけ、それぞれ修道院と尼僧の歴史的研究資料を、女神信仰の具体的な資料を収集してきた。今後も、性別にかかわる差別と権力構造を明示し社会変革の梃子になる力を生み出す批判的概念としてのジェンダーの視点を、社会の中の性差にまつわる非対称性をあきらかにするものとしてとらえ、人間の平等な尊厳と解放を目指す宗教という事象の研究に当てはめていくことを、我々のさらなる課題と考えている。(660文字)
著者
松田 皎 萬 栄 劉 群 陳 大剛 侯 恩淮 高 清廉 東海 正 兼広 春之 佐藤 要 小野 征一郎 WAN Rong HOU Enhuai CHEN Dagang GAO Qing-lian 候 恩淮
出版者
東京水産大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

世界でも有数の漁場である東シナ海・黄海は、日本・中国・韓国・北朝鮮などが国際漁場として戦前・戦後を通して利用してきたが、永年にわたる漁獲圧のため、現在は極めて厳しい資源状態になっている魚種は多い。これを元の豊かな漁場に戻すには、国際的な管理組織を築くことが緊急の課題である。その第一歩として、この海域を利用している主要国である日本と中国とが漁業の実態に関する情報交換・技術交流を進めることにより、その実態を認識することが必要である。本研究の3年間の集大成として、1996年11月青島海洋大学において開催した日中共同セミナーは、貴重な情報交換の場であった。まず、佐藤は「日本の以西底びき網漁船の歴史的変遷」と題して、戦後において東シナ海域における日本・中国・韓国3国の底びき網漁業の変遷を述べ、1975年以降、中韓2国と異なり日本の漁獲は急激に減少の一途を辿っている。これは日本漁船の賃金の高騰と円高による水産物輸入の増大によるものと考えられた。松田は「日本の以西底びき網漁業における主要魚種の資源状態と漁業管理における諸問題」について、イカ類、タチウオその他わずかな魚種以外は、ほとんど壊滅的な状態であること、早急に国際的管理体制にすべきとした。高は「日中両国漁船の発展趨勢」について、船形から日中の各種漁船の性能の比較を行った。陳は日中両国の海洋魚類の分布の比較研究」において、日中両国近海に出現する魚種は4351種329科に属し、その中3048種が中国近海に、3254種が日本近海に、両国共通種は1951種であることを明らかにした。陳はさらに付表として4351種の学名、中国名、日本名及び分布海域を記す表を作成した。侯は「中国漁政管理の特徴」において、これまで20年間の漁業の変遷をみると、漁船の増加、養殖業の発展が水質の汚染と伝統魚種の減少をもたらしたとしている。劉は「中国漁業40年の回顧」において、この40年間に何が中国の漁業の発展をもたらしたかを示した。小野は「日本の漁業管理-TACを中心として-」において、日本が昨年国連海洋法条約を批准したことにより、TAC制など今後両国の取るべき政策について論じた。東海は「多魚種漁業と投棄魚問題」で、底びき網漁業など、多魚種を同時に漁獲し、不要魚種その他を投棄する場合の生態系への影響を論じた。兼広は「日本の漁業資材の現状と動向」で、漁業行為によって廃棄された漁網類がゴ-ストフィッシング等資源に及ぼす影響について論じ、これを解決する方法として微生物により分解するバイオプラスチックを紹介した。資本主義体制下の日本と、解放政策が進展中とはいえ社会主義体制下の中国では漁業管理の方式が異なる。開放政策により、中国では従来からの国営漁業の他に大衆漁業が急激に増大した。それらは主として、小船によるもので、主として張網漁業を行っている。張網は比較的沿岸域に設置しておいて、潮流によって流れてくる魚を濾して獲る趣向の漁具である。問題は網目が非常に小さいため、小さな幼魚まで一網打尽にしてしまうことである。このような稚仔魚は普通商品にはならないのであるが、たまたまエビの養殖の餌として高価がつく。エビの方はもちろん日本市場へ輸出されることになる。このような情報があったため、今回の研究では、この事実を確認すべく努力したが、確証は得られなかった。一方、中国農業部水産局は、1995年からタチウオ資源の回復のため、一つの資源管理策を打ち出した。それは5月頃産卵したタチウオの幼魚を保護するため、7、8月の2ヶ月間、底曳網漁業を全国的に禁止し、さらに張網(定置網)も6〜9月のうち2ヶ月間を禁漁にするというものである。このことは、底曳網、張網でタチウオの幼魚が大量に捕獲されていることを政府も認めていることを示している。この政策が永年続くと、タチウオばかりでなく、他の資源にもよい結果が表われると思われる。今後の資源の動向を注意深く観察する必要がある。
著者
安部 英理子
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

ラビリンチュラにおけるDHA含有リン脂質の合成に関与されると推定される酵素、LPATF26についてラビリンチュラの遺伝子操作株を作成することによってその機能の解析を行った。遺伝子操作株の作成については、ラビリンチュラ由来のプロモーター、ターミネーターとハイグロマイシン耐性遺伝子連結させ、エレクトロポレーション法によってラビリンチュラ内に導入する方法を確立した。このことを利用し、LPATF26のORF内に上記の選択マーカー断片を挿入したものをラビリンチュラに導入し、遺伝子破壊株を作成した。これまでの報告ではLPATF26はPC合成に関与することが示唆されていたが、LPATF26のKO株において解析を行ったところ、実際にはLPCAT活性ではなくlysoPAを合成するGPATとして働いていることが示唆された。さらに脂肪酸組成についてはパルミチン酸を含有するリン脂質や中世脂質の減少傾向が確認された。現在はlysoPAの合成に伴う脂質代謝の変化について特に形態の変化に着目し、より詳細な解析を行っている。さらにLPCATと思われる遺伝子をクローニングし、酵母による発現解析を行ったところ、LPATF26の10倍程度のLPCAT活性を示した。現在はLPCAT候補遺伝子についてもKO株を作成しており、LPATF26とのダブルノックアウトによって、ラビリンチュラのリン脂質代謝経路を明らかにすることができると考えている。
著者
有田 峰太郎
出版者
国立感染症研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ポリオウイルス(PV)擬似粒子を用いてPVレセプター発現マウス(TgPVR21マウス)に残存性ポリオ様麻痺を生じさせる条件を確立し、残存性ポリオ様麻痺を長期間生じさせたマウスについて解析した。また、ポリオ後症候群の発症に関与する宿主遺伝子群を同定することを目的とし、PVの複製を阻害する化合物の探索を行った。結果、4.1×10^6感染単位以上のポリオウイルス擬似粒子を脊髄内に接種した場合、ほぼ全てのマウスが重篤な残存性ポリオ様麻痺を呈した。このマウスを運動負荷の有無で6ヶ月間飼育したが、誘導されたポリオ様麻痺と運動負荷を原因とする異常を確認することができなかった。PV複製を阻害する化合物として、GW5074(Raf-1阻害剤)を同定し、GW5074と協調的に働くキナーゼ阻害剤としてMEK1/2阻害剤、EGFR阻害剤、PI3K阻害剤を同定した。GW5074に対する耐性変異を同定し、阻害機構が不明である既知の抗ピコルナウイルス化合物enviroximeに対する耐性変異と同じ変異であることを見出した。さらに、GW5074が宿主のphosphatidylinositol 4-kinase III beta (PI4KB)の活性を阻害することによりPVの複製を阻害することを見出し、PI4KBがenviroxime様化合物のエンテロウイルス複製阻害活性の標的の一つであることを明らかにした。
著者
草場 ヒフミ 野間口 千香穂 藤井 加那子 永瀬 つや子
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は入院と治療に伴う思春期患児の睡眠状況の調査を行い、睡眠に関する問題、睡眠の特性、睡眠に影響を与えている要因を検討することである。1.入院生活を送っている思春期患児の睡眠に関する実態一般小児の病棟に入院中で、急性症状がなく、入院3日以上の小学4年生から高校生を対象として、自己記入式による質問紙調査を行った。質問内容は、(1)睡眠-覚醒機能のアセスメントに関する睡眠の特徴と睡眠の影響、(2)睡眠を妨げる要因、(3)睡眠をとるための対処、(4)児童用状態不安尺度(STAIC-S)である。入院中のデータは連続2日間の夜間睡眠データとした。3病院(4病棟)に入院中の10歳から18歳の男女から得られた24名の分析の結果は次のようであった。1)睡眠の特徴:病院では50%の患児が21時台に就床し、30分以内に入眠していた。就床時間と入眠に要した時間は病院と家庭とに関連が見られ、病院での就床時間が早かった。夜間覚醒は47%に認められ、回数は1回から3回であった。2)熟眠感の低い児が約17%に認められ、夜間覚醒との関連が認められた。夜間の覚醒している患児の方が状態不安得点は高かった。4)夜間覚醒の理由には身体症状、環境の変化があったが、「なんとなく」が最も多かった。5)睡眠導入への入院児の対処:音楽を聴く・本を読む、部屋を暗くするなどの入眠促進行動が多かった。2.活動・睡眠リズム記録(アクティグラフィ)を用いての睡眠調査アクティグラフに睡眠日誌を併用し、入院中の11歳〜15歳の5名の連続2日間の夜間睡眠パターンを分析した(2名は持続静脈注射中)。総夜間睡眠時間は319分から519分、睡眠効率は74.8%から96.5%の範囲であった。主観的熟眠感の高い時は、そうでない時に比べ、全睡眠時間は長く、睡眠効率は高く、入眠潜時は短く、覚醒回数は少なかった。3名はアクティグラフィが認識した5分以上の覚醒回数より自己報告の回数が少なかった。
著者
宮本 万里
出版者
国立民族学博物館
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

現代ブータンは環境保護国として知られてきたが、近年の急速な民主化の動きは、君主制下での一元的で厳格な森林管理を環境保全成功の秘訣としてきたシステムを大きく変えつつある。本研究では、選挙や分権化をとおした民主化プロセスの中で、自然や生物の保護に対する村落社会の人々の価値体系がいかにゆらぎ、どのように再編されつつあるのか、その過程を現地での聞き取りと資料調査により明らかにした。特に、村落住民だけではなく森林局や畜産局、群議会、仏教僧、ボン教の呪術師を含めた複数のアクターによる日常的で多元的な交渉過程が、村落の価値体系と自然観を恒常的に書き換える様を動態的に描出し、環境研究に新たな一石を投じた。
著者
齋藤 君枝 青木 萩子 藤原 直士 後藤 雅博 渡辺 洋子 岩佐 有華
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

応急仮設住宅生活経験のある高齢被災者の身体機能とストレスを定量的に中長期間評価し,応急仮設住宅入居からコミュニティにおける再建後5年までの生活現象を民族看護学的手法により検討した.再建に伴い女性の身体変化が見られ,被災後の経過と季節の影響を受けると考えられた.再建後ストレスの長期的な変化は認められなかった.被災高齢者の生活適応には,地域の文化や行動様式の維持が重要であり,応急仮設住宅生活から長期的な体力保持と健康管理,自立支援,文化ケアが求められる.
著者
増原 綾子
出版者
大東文化大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

1998年5月、それまで30年にわたり続いてきたスハルト独裁体制が崩壊した。本研究は、このスハルト体制の崩壊をめぐって、その背景にあった与党ゴルカル内部の変容とそれに伴う体制内部の亀裂を分析し、体制内部の亀裂が経済危機・政治危機をきっかけに体制内外の政治アクターを結び付ける役割を果たし、スハルトを退陣に追い込んで政治権力の再配置を生み出していった政治過程を説明した。
著者
田中 愛治
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究は、日本の政治システムについて日本の一般有権者の態度を、世論調査データと選挙結果のデータを時系列に分析することによって、解明しようとしたものである。本研究の目的は、日本国民がどの程度、日本の民主主義政治システムに対する支持態度(システム・サポート)を持っているのかを、1970年代後半から2000年までにわたり時系列に分析し、そのシステム・サポートの源泉となる要因を探ることにあった。本研究は、レヴァイアサン・データバンクから提供された学術的全国世論調査データ(1976年JABISS調査、1983年JES調査、1993年JESII調査)と、研究代表者(田中愛治)自身が実施に参加したJEDS96調査(1996年)、JEDS2000調査(2000年)、JSS調査(2001年:文部科学省科学研究費特定領域研究(B)「世代間利害調整に関する研究」領域代表者・高山憲之のA7班「世代間利害調整の政治学」研究代表・北岡伸一による全国世論調査)のデータを時系列に分析した。1976年〜2001年までの25年間の時系列分析によって、日本人の政治不信に関する政治意識と、政治システムに対する信頼感(system support)の変化を分析し、以下の3点が明らかになった。第1に、日本人の一般的な政治信頼はもともと低いもの(40%程度)であったが、1996年から2000年にかけて急速に悪化し(2001年3月の森内閣の退陣直前に最低の11.1%)、2001年も十分に回復していない(小泉内閣時でも23.6%)。第2に、日本の政治システムを支える民主主義的政治制度(選挙、国会、政党)の機能に対する信頼感は1976年〜1996年までは非常に高いレベル(選挙への信頼は1993年に82.3%)にあったが、これすらも2000年には急激に低下し(32.3%)、2001年にも十分に回復していない(42.7%)。日本の政治システムの政治・経済の業績の悪化が、政治不信のみならず政治システムへの信頼感も低下させている。第3に、政治システム(すなわち、民主主義政治制度)への信頼は世代間に差異はなく、どの世代の日本人も時代と共に信頼感が低下しているが、国の政治への信頼は、世代間の差異が大きい。
著者
田原 亮二
出版者
福岡大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究では方向転換を伴う足部でのトラップ動作について、映像とセンサーを用いた動作分析を行い最適なトラップ動作を探索した。その結果、方向転換を伴うトラップ動作に関しては膝の外旋動作よりも、足関節の外反動作によってボールスピードが減衰されていることが明らかとなった。
著者
福元 健太郎 坂本 孝治郎 待鳥 聡史 増山 幹高
出版者
学習院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

全裁判官の経歴に関するデータ・べースを構築した。これを用いて、9月開催のアメリカ政治学会で、福元・増山は共著論文を発表した。これは、裁判官の青年法律家協会への加入の有無が部総括への昇進を遅らせるとする先行研究に対して、分割母集団生存分析とマッチングの手法を用いるとそうした効果は見られないことを示した。福元は次の研究を行った。(1)立法府から行政府への委任は、最終的な司法府の判断を考慮に入れながらなされる。立法府の議員の選好が多様であることも委任をもたらす。(2)議院が他の議院の政策選好に関する情報が不確実であったり、法案が重要であったりすると、後議院修正や両院協議会が起きる。坂本は、政治・司法関係の変遷について、1962年の臨時司法制度調査会の発足から1987年の中曾根内閣終了までに関し、衆参の法務委員会における司法行政や関連法案の審議に際し、どのような頻度で最高裁事務総局裁判官が出席を求められ、どのような質問をされたか、その頻度データや質疑内容の分析をおこなった。それに、最高裁長官がどのような行事に出席しているか、三権の長が揃って出席する催しにはどんなものがあるか、事例を収集・整理した。待鳥は、日本の地方政府を素材として、行政府と立法府の部門間関係が政策選択に与える影響について分析した共著書『日本の地方政治-二元代表制政府の政策選択-』を刊行した。また、二元代表制が地方政府の運営に与える影響を概観した小論も公表した。増山は二院制の論点整理を試み、第二院と行政権の問に「信任関係」を制度化する方策を検討し、「二院制と行政権」と題する論文を日本公共政策学会で報告するとともに、戦後の日本における首相の信任、不信任に関してより多角的な検討を進めている。
著者
中島 裕夫 本行 忠志 斎藤 直
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

チェルノブイリ原発事故以来、低レベル放射能汚染地域に生活するヒトの継世代的影響が懸念されている。ヒトへの影響研究の代替法としてマウスに0または100Bq/mlのセシウム137水を自由摂取させて世代交代させた子孫マウスでの発がん性、遺伝的影響を調べた。その結果、セシウム137摂取群で腫瘍増殖抑制ならびにDNA切断頻度の有意な上昇が認められたが、肺腫瘍発生頻度、小核頻度、染色体異常には対照群との間に有意な差が認められなかった。
著者
山本 達之 高橋 哲也 山本 直之 神田 啓史 伊村 智 工藤 栄 田邊 優貴子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

南極上空に南半球の春先に発生するオゾンホールの影響で,地上への紫外線照射量が増加したための生態系への影響を,動物の眼の組織に注目して, FT-IRやラマン散乱スペクトルなどの分光学的手法によって調べた。その結果,牛眼の角膜のコラーゲン分子が,紫外線によって断片化していることが明らかになった。また,牛眼の水晶体のクリスタリンが,紫外線照射によって黄変し,トリプトファン残基だけが特異的に破壊されていることが明らかになった。
著者
花枝 英樹 芹田 敏夫 宮川 公男 胥 鵬 須田 一幸 広田 真人 木村 由紀雄
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

(1)「日本企業の配当政策・自社株買い-サーベイ・データによる検証-」概要:わが国全上場企業を対象にペイアウト政策についてのサーベイ調査を行い、つぎのような結果を得た。配当決定は投資決定とは独立に行われており、減配回避の考えが非常に強い。一方,自社株買いは配当と比べれば柔軟性をもって決められている。情報効果仮説については,配当・自社株買いとも支持する結果が得られた.ペイアウト政策を敵対的買収防止手段として考えている企業が多く,株主構成の違いもペイアウト政策の意識に影響を及ぼしている。(2)"The choice of financing with public debt versus private debt: New evidence from Japan after critical binding regulations were removed"概要:成熟企業と成長企業の資金調達と社債発行との関連を分析した。とりわけ、日本の経験から、最も有効な社債市場育成策は、銀行の利権を保護する規制を緩和し、社債と銀行借入の選択を企業に委ねるべきことを提案している。(3)"Ownership structure and underwriting fee: Evidence from Japanese IPOs"概要:企業の株式所有構造と新規公開時の引受手数料,IPO後の長期パフォーマンスの間の関係について,1997年から2002年にJASDAQへIPOした企業サンプルを用いて検証した。(4)"Financing constraints and Research and Development Investment"概要:わが国企業の研究開発投資と資金調達の関係を実証分析し、特に、キャッシュフローの多寡で表せる内部資金制約が研究開発投資の大きさに大きな影響を及ぼしていることを明らかにした。