著者
桑田 喜隆 牛田 修司
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.42, pp.240-241, 1991-02-25

エキスパートシステムにおいて、専門家から得たルールを効率良く実行する方法としてRETEマッチアルゴリズムが有望であり、OPS5を初め多くのAIツールで応用されてきている。RETEマッチアルゴリズムでは予めルールの構造を解析し実行時の効率が最高になるような条件木(RETEネットワーク)を生成しておき、RETEネットワークを基にインタプリトしやすい中間形式を生成する。近年、RETE、マッチアルゴリズムに代わるTREATも提案されているが、否定ノードでの処理が増大してしまうことを考えると実際のエキスパートシステムでは必ずしも有効ではない。我々は実際に使われるエキスパートシステムでルールを効率良く実行するという観点で、RETEマッチアルゴリズムに注目して最適化の検討を行なっている。RETEマッチアルゴリズムでは、データ(ワーキングメモリエレメント,WME)の分布が実行時にしか分からないため、静的な解析だけでは最適な条件木を生成することは困難である。本稿では実行時のWMEの分布状況から最適なRETEネットワークを生成する方法について論じる。
著者
山本 繁弘 大野 和彦 中島 浩
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌プログラミング(PRO) (ISSN:18827802)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.83-83, 2002-03-15

我々は並列言語Orgelの開発を行っている.Orgelは,並行/並列の実行単位であるエージェントをストリームと呼ぶ通信路で結び,明示的なメッセージ送信を行う言語である.Orgelでは,プログラマが問題をエージェントという並列実行単位に切り分けることに加え,ストリームによる通信路接続網の構造をすべて宣言的に記述するので,コンパイル時に並列モデルが明確になっており精度の高い静的解析が可能である.本発表では,このOrgelの特徴を生かして,動的なオーバヘッドを最小限にした最適化を行う手法を提案する.プログラム全体の構造および粒度,通信量が完全に把握できれば,すべて静的に最適化することも可能である.しかし,Orgelでは再帰的な接続も記述できるため,実際に生成されるエージェント個数および構造は必ずしも静的には決まらない.また,通信対象は分かっても送信するメッセージの個数やエージェントの粒度は実行時にしか分からない.したがって,各プロセッサの処理量が偏らないよう静的に全体をスケジューリングすることは困難である.そこで,量的な性質が分かった時点でエージェントを,割当てやスケジューリングできるように,コンパイラは静的解析による結果をランタイムに渡す.ランタイムは,この情報をもとにノード数やプロセッサの現在の負荷などを考慮して,負荷が均等になり通信量が多いエージェントは同一プロセッサになるように割り当てる.また,同一プロセッサ内では依存解析などに基づいてスケジューリングを行う.We are developing a parallel language called Orgel.In the execution model of Orgel,a set of agents are connected with abstract communication channels called streams.The agents run in parallel sending asynchronous messages through the streams.In an Orgel program, each unit of parallel execution is speci fied as an agent by the programmer.The connections among agents and streams are declaratively speci fied.Thus,parallel execution model is clear and the highly accurate static analysis is possible.Utilizing these features,we propose an optimization scheme that minimizing the dynamic overhead.If the complete structure of the whole program is known at compile time,static optimization will be sufficiently effective. However,in Orgel,the number of agents and structures actually generated are not always static,because recursive connection is supported.Moreover,although a communicating pairs of agents are known at compile time,the number of messages and the granularity of agents are known only at runtime.Therefore,it is difficult to balance loads on the processor by whole static scheduling.Thus,in our scheme the compiler outputs an analysis result to instruct the runtime how to allocate and/or schedule an agent when its quantitative attributes are known. Considering the number of processors and the present load of each processor,the runtime uses this information for optimization;it allocates agents balancing loads and minimizing inter-node communication.It also schedules agents on each node considering dependencies.
著者
荻野 昌弘 小川 伸彦 脇田 健一 SEGURET Fran ABELES Marc JEUPY Henriー SEQURET Fron JEUDY Henri・
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、日本で近年高まりつつある文化財・博物館の社会的意味を問うことをめざして行った。三年間にわたる日本と欧米、特にフランスの調査に基づく。そのなかで得られた知見は多岐にわたるが、まず、ふれられなければならないのは、フランスと日本では、文化財という用語の定義自体がまったく異なるという点である。フランスで用いられるpatrimoineという用語は、社会のなかで見捨てられていたものを見直し、公共の財産として保存していこうとする意志が含意されている。遺産を通じて社会(とその歴史)を常に見直していこうというその性格から、フランスにおける文化財制度が、文化財保存のためだけではなく、フランス社会の秩序を維持する中核的な役割を担っていることがわかる。これに対して、日本では、「文化財」という言葉が用いられるとき、「見捨てられていたもの」の再評価と公共財化という観点は欠けている。そもそも日本では、伝統はモノの保存を通じてではなく、かつてあったはずのものを「かたち」に表すことで維持される(これを現在化の論理と呼ぶ)。したがって、モノ自体を保存することに関してはそれほど関心が高かったわけではなく、博物館制度の本格的な定着が遅れたのも、博物館を生みだした西欧近代の博物学的欲望を共有しなかったからなのである。ところで、戦後日本で、ようやくモノを通じた保存が本格的に論じられるようになったきっかけのひとつに、負の遺産と呼ばれる戦争遺産の保存問題がある(なお、負の遺産には公害、原子力事故の遺産なども含まれる)。それは、他の遺産とは異なり、展示品や展示方法に関してさまざまな議論を呼ぶ。研究者も例外ではなく、戦争遺産遺産に関しては、多様な解釈が可能である。本研究では、「視点の複合性」という立場にたち、ある特定の解釈だけを選択せず、多様な視点をいわば「共存」させる方法をとっている点が、方法論のうえでの新たな点である。
著者
田中 隆充
出版者
日本デザイン学会
雑誌
デザイン学研究. 研究発表大会概要集 (ISSN:09108173)
巻号頁・発行日
no.56, pp.154-155, 2009-06-20

地域には観光ガイドブックやインターネットの情報等にはない、地元の人にしか分からない由来や体 的な歴史がある。それらの情報は現場にいかなければ分からないことや住んでいなければ分からない情報も多々ある。これらの情報は本来、代々伝えていくことが重要であるが、これらをアーカイブ化し、共有することも大切な要素と考えた。また、その情報の貴重性を伝えるために、情報の演出の仕方を考える必要がある。そこで、その場にいてその場の過去の映像や音声を体感することで、その地域の特色や本質的な歴史観を見いだすことができるのではないかと考えた。そこで、それらを具体的に示す方法の一つとして、携帯電話のQRコード読み取り機能を用いて、使い手がインターネットに手軽にアクセスし、そこから過去の画像等を携帯電話側に読み込ませることで、携帯電話の画面やイヤホンから表示できるコンテンツを実 的に制作した。本研究においては岩手大学構内に 力所のQRコードパネルを2006年度から2007年度の 年間に設置し基礎的な実 を行った。そして、2008年度は国立公園に指定されている岩手県浄土ケ浜に設置することで、観光の最前線での試みを行い始めた。
著者
岡村 吉永 森岡 弘
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

測定的な手法を用いた、IT活用型の学習指導方法について、その効果の検証ならびに教材の開発等を行った。のこぎりびき作業の学習に関する研究では、学習者の技能を類型化し、これに基づく指導方法の提案とその効果を検証する授業を行い、学習改善効果を認めることができた。また、作業技能との関わりが深い前腕部の技能評価については、被験者の技能レベルを反映すると考えらる有効な資料を得ることができた。さらに、赤外線や無線通信を使った装置の利便化や教材への応用も検討し、実用化に近づけることができた。
著者
中嶋 英昭 湊 久美子 林 喜美子 斎藤 八千代
出版者
和洋女子大学
雑誌
和洋女子大学紀要. 家政系編 (ISSN:09160035)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.161-170, 2000-03
被引用文献数
1

生活習慣病の予防や改善に有効な運動は有酸素運動であり,それは呼吸循環系の機能向上を目指して行う運動で,最大酸素摂取量の多少で評価できる。そこで,一般女子学生を対象にトレッドミル歩・走行を行わせ,呼吸循環系機能の応答について計測した。比較のため運動部員(バスケットボール部,ソフトテニス部)についても同様に測定し,さらに15-25年前の報告とも比較した。心拍数は安静値から運動部と有意な差があり,その差は中等度の負荷でさらに広まり,一般学生・テニス部・バスケット部の間にそれぞれ約10拍/分ずつの差があった。最高心拍数は一般学生・テニス部・バスケット部それぞれ184・191・181拍/分で,運動遂行時間はそれぞれ11分20秒・12分26秒・12分56秒で,バスケット部はまだ余力がある状態かもしれない。最大酸素摂取量は一般学生34.5・バスケット部47・テニス部41ml/kg・分で,運動部との間に有意差が認められた。また15-25年前の一般学生と比較しても若干低い値であった。心拍数と酸素摂取量の関係式から考察するとバスケット部は他の群より大きく左方移動した直線で,テニス部と15年前の一般学生がほぼ同様の傾向,そして今回の一般学生は最も右寄りに位置しており,同一負荷に対して循環系がより多く負担を強いられている状態と言える。以上の結果から,今回の一般学生の呼吸循環系機能は運動部員に比較して,さらに15-25年前の一般学生と比較しても低く,日常生活の中に有酸素運動を取り入れる努力をし,呼吸循環系の機能改善を計らなければ,将来の生活習慣病が心配される。
著者
田中 康夫 井上 庸夫 鈴木 雅一
出版者
独協医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

誘発耳音響放射(OAE)に関する私共の行なってきた研究(Tamaka et al.,1988他)からこの音響現象が騒音難聴などの内耳障害程度の指標として役立つことや,更にそれがdip型聴力障害の易傷性と関係を有していることが示唆されてきた。本研究では実際の騒音環境にある対象で耳音響放射の測定を行ない,音響易傷性の個体差について検討を行なった。対象としてF中学校女子吹奏楽部員33名およびS自動車部品工場勤続2年従業員16名を選び,聴覚検査とOAEの測定を行なった。騒音測定装置を用いて解析した作業場の騒音レベルは90.0〜97.0 dBLcegであった。1). 中学吹奏楽部員33名64耳のうち,41耳(63.5%)に自記オ-ジオグラム上のdip型聴力損失を認めた。OAEの持続が6ms以上であった。cーOAEは36耳(56.3%)に認められた。cーOAE(+)耳群のうちdip損失のあった耳は80.6%なかった耳は19.4%であった。dip損失のあった群のうちcーOAE(+)耳は70.7%,cーOAE(-)耳は29.3%であった。2). 工場従業員16名32耳のうち,16耳(50.0%)にdip型聴力損失が認められ,20耳(62.5%)にcーOAEが観察された。cーOAE(+)20耳のうち,13耳(65.0%)にdip型損失あるいは高音急墜がみられたが,7耳(35.0%)には障害が認められなかった。cーOAEが(+)であり,かつdip損失を伴っていた耳群のうち8耳は,22ケ月前の調査で,全例がcーOAE(-)であり,そのうち7耳はdip損失も伴っていなかった。今回の中学校における調査結果は以前に行ったH中学校で得られた成績と同様に,OAEの持続する耳と音響易傷性の関係を支持するものであった。工場における調査では,両者の関係を実証する統計的に有意な結果は得られなかった。工場の調査ではcーOAEが素因ではなく結果である可能性が示唆され今後,作業環境,耳栓装用,および検査前休養時間などの条件をさらに厳密に一定化して検討する必要があると考えられた。
著者
大木靖衛
雑誌
月刊地球
巻号頁・発行日
vol.7, pp.426-430, 1985
被引用文献数
2
著者
田中 康夫 岡田 真由美 井上 庸夫
出版者
独協医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1989

騒音の曝露によって起る聴器障害の程度の個体差は大である。この個体差が何に基因するかは未だ不明である。誘発耳音響放射(OAE)は内耳の微小機械系振動の外耳道への投影と考えられており、騒音難聴の初期像であることの多いdip型聴力損失との関係が示唆されている。本研究ではそのような関係の有無を実際に騒音環境下にある中学校女子吹奏楽部の部員および、板金工場の従業員に対し動特性分析器および現有の聴力検査機器を用いて施行したOAEならびに聴力の測定結果より検討した。1.吹奏楽部員62名118耳の調査結果、1)dip型聴力損失を有する耳は純音オ-ジオグラム上は10.2%に存在し、連続自記オ-ジオグラム上では59.4%に認められた。2)持続が6ms以上であったC-OAEは50耳42.4%に検出できた。3)純音オ-ジオグラム上にdipのある耳は、C-OAE(+)耳で16.0%、C-OAE(-)耳で5.9%であった。連続自記オ-ジオグラム上でdipのある耳はC-OAE(+)耳で82.0%、C-OAE(-)耳で34.8%であった。2.板金工場で騒音下作業7年以上の従事者34名52耳の調査結果、1)連続自記オ-ジオグラム上で高音急墜型の聴力損失は2耳3.8%dip型聴力損失は34耳、65.4%に見られた。2)C-OAEは17耳32.7%に認められた。3)C-OAEのみられる耳において高音急墜型およびdip型聴力損失を示す耳の割合は82.4%、C-OAEのない場合には62.9%であった。C-OAEをもつ耳の頻度は正常聴力群で3.0%、dip型聴力損失群および一側dip型健側群で約90%であることを以前に報告した。今回の実際の騒音環境下での調査においても、主として騒音障害の初期像であるdip型聴力損失の発生頻度はC-OAEをもつ耳で高いことが示された。C-OAEは内耳の微小機械系の可動性に関係があるので、音響受傷性の個体差の一因子と考えられ、易傷性の予知に役立つ指標といえる。
著者
日吉 武
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、体ほぐし・心ほぐしを音楽学習の中で実践するための指導方法と指導プログラムを開発した。そして小中学校の教育現場で実践を行いその効果の検証に取り組んだ。実践の結果、本研究で開発した指導方法や指導プログラムが、学習者の体や心をほぐし、音楽活動に楽しく取り組める効果を挙げ、さらに呼吸の改善、歌唱における発声の改善、器楽演奏における響きの改善、音楽表現の改善に効果を挙げるという示唆を得ることができた。
著者
若林 攻 河野 均 佐藤 幸治 BRASS Sussan NICOLAUS Bea BOGER Peter SUSSANE Bras BEATE Nicola PETER Boger BEATE Nicoau 小川 人士 BOGER Pecter
出版者
玉川大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

当該研究グループの既往研究によって得られている,“Peroxidizing除草剤の作用機構:クロロフィル生合成過程のProtoporphyrinogen-IX oxidase(Protox)阻害,Protoporphyrin-IXの蓄積,エタン発生を伴うチラコイド膜の破壊,光合成色素の減少"と言う,所謂Peroxidizing植物毒性作用を説明するために,当該研究グループ提案中であった“活性酸素が関与するラジカル反応によりチラコイド膜が破壊される"とする機構の構築と確認する検討を行いこれに成功した。次に,前記の帰結の発展応用研究に当たる「ポルフィリン代謝の制御」に関する検討を行い,植物の生長調節,藻類を利用した水素生産,活性酸素の制御による疾病治療等に応用が期待される基礎的データを得た。研究成果は以下((1)〜(5))に纏められる。(1) HPLC-lsoluminol化学発光を原理とする全自動脂質分析システムを用い,protox阻害剤処理後に生ずる過酸化脂質を測定し,活性酸素が関与するチラコイド膜破壊の機構を明らかにした。(2) 緑色植物細胞系を用いて,Protox阻害剤によるチラコイド膜破壊作用を緩和させる薬剤を見出す検討を行い,光合成電子伝達系阻害剤がチラコイド膜破壊作用を緩和させることを見出した。(3) クロロフィル生合成能を有する植物培養細胞(馴化Nicotiana glutinosa,Marchantia polymorphaその他)を用いた生理活性試験を行い,上記の[1],[2]を含むPeroxidizing植物毒性作用が緑色植物の葉緑体中で普遍的に起こることを確認し,Peroxidizing除草剤の作用機構を明らかにした。(4) 得られた生理活性データに関して定量的構造-活性相関解析を行い,光存在下で活性酸素を発生させチラコイド膜破壊を誘導する新しい強力なprotox阻害剤の分子設計と合成に成功した。(5) Peroxidizerと光合成電子伝達阻害剤が藻類の光合成明反応に及ぼす効果を確認し,その結果を藻類の水素生産制御に応用する可能性を見いだした。
著者
脇田 里子 三谷 閑子 ワキタ リコ ミタニ シズコ Wakita Riko Mitani shizuko
出版者
同志社大学日本語・日本文化教育センター
雑誌
同志社大学日本語・日本文化研究
巻号頁・発行日
no.9, pp.59-79, 2011-03

研究論文2010年度春学期日文センターの超級レベルの「文章表現」と「口頭表現」の授業の連携をもとに、レポートと口頭発表のデータを分析、考察する。授業の連携とは「文章表現」で執筆したレポートを「口頭表現」の授業で口頭発表することである。この連携による実践の結果から、超級レベルの日本語教育においては、あるテーマを深く追究することを重視し、4技能を総合的に身につける「内容重視の言語教育」の重要性を確認する。This paper analyzes the research papers written by the high advanced level students in Writing class (Written expression VIII) and their presentation drafts in Presentation class (Oral expression A VIII) in 2010 spring semester at Center for Japanese Language and Culture. Analyzing the result of implementing the connective practice of writing and presentation classes, the authors propose that the "content-based language instruction" is significant to be emphasized at high advanced Japanese level. The reason is that learners think and learn about the target language deeply through pursuing one research theme with four language skills integrated.
著者
光永 徹 徳田 迪夫
出版者
三重大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究では樹皮の浄化作用の一つである消臭作用に着目し、樹皮抽出物中の縮合型タンニンおよびそのアセトアルデヒド付加縮合変性物のアンモニアとメチルメルカプタンに対する消臭活性メカニズムを分子軌道計算結果から明らかにすることを目的としている。平成13年度はヘッドスペースガスをGC/MSで分析する消臭試験を行ったところ、従来のデシケータ法に比べ圧倒的に再現性があると同時に、少量の試料で試験ができる点が改善され、信頼性のより高い消臭試験を確立した。その結果、樹皮由来の縮合型タンニンおよび茶抽出物のポリフェノールはアンモニアに対しては良好な消臭活性(消臭率70〜100%)を示したが、メチルメルカプタンに対しては柿抽出物以外はほとんどその効果を示さないことが明らかとなた。用いた柿抽出物は、渋柿を熱水で抽出し熟成させたものであるため、柿の生体内で蓄積されるアセトアルデヒドと縮合型タンニンが付加縮合してできる高分子不溶性物質であると考えられた。そこでアカシア樹皮由来のワットルタンニンを用いてアセトアルデヒドとの付加縮合物を合成し、その消臭活性を検討したところ、メチルメルカプタンに対し85%以上の良好な消臭活性を示すことを明らかにした。平成14年度はメチルメルカプタン分子の捕捉サイトを明らかにする目的で、付加縮合物のカテキンdimerの半経験法による分子軌道計算を行ったところ、ジフェニルメタン炭素原子上(付加縮合サイト)には分子上で一番大きなプラスのチャージが存在し、メチルメルカプタン分子の硫黄原子の大きいマイナスチャージがこのサイトに引き寄せられることが予測された。また静電ポテンシャルのマッピングの結果その分布状態が大いに消臭活性と関連することを明らかにした。
著者
橋本 朋広
出版者
大阪府立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

祭りの調査研究によって臨床心理学的象徴研究を進展させたと考えられる。具体的には,各季節の祭りにおける代表的象徴を明らかにし,各象徴を使用した代表的祭りを調査した。そして,祭りにおける人間と象徴の相互作用を考察し,祭りにおける象徴的時空間の構成過程,通過儀礼におけるリアリティ変容の心理学的構造,春の火祭における火のイメージの心理学的構造,象徴的体験を分析する枠組みとしての象徴的現実の構造解析などを行った。
著者
荒牧 英治
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

近年,電子カルテやインターネットに接続可能な健康器具により大量の医療データが利用可能になりつつあり,これらを活用することで,過去例を見ない大規模な統計的研究や,大規模データに基づいた医療支援システムを実現可能であるとして大きな期待がよせられています. しかし,現状では,電子化された言語データを処理する枠組みがないため,データは活用されるどころか,情報過多を起こし現場の医療者の負担をさらに増しているケースさえあります.以上の背景のもと,本プロジェクトでは, カルテ文章に記述される疾患表現の表記ゆれを吸収する技術を開発します.
著者
八木 伸行
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

非対称情報の下でプリンシパルが複数の仕事をエージェント達に行わせる問題で、グループを形成し、ノルマのような制約を課す非金銭手的手法による近似的な解決方法はJackson and Sonnenschein(2007)で、ある十分条件の下に議論された。Matsushima, Miyazaki, and Yagi(2010)はそのような非金銭的インセンティブによる解決手法と、結果に応じて賞罰の金額を変動させる金銭的インセンティブによる伝統的な解決手法の同値性を標準的なミクロ経済学の理論の枠組みで証明した。また、破産制約がある場合には非金銭的インセンティブの手法が優位性があることを示した。改訂要請を受けて再投稿した結果、Journal of Economic Theory誌に掲載が決定した。不確実性下の状況での現実の人間がいかにして協調行動を達成するか、を不完全モニタリングの無限回繰り返し囚人のジレンマを被験者を使い経済学実験で分析した、松島斉・遠山智久・八木伸行"Repeated Games with Imperfect Monitoring : An Experimental Approach"における統計的検定作業のためのプログラミングと検証作業を行った。不確実性が小さい場合、お互い協調した場合も裏切りが観察される可能性があるが、理論的には協調を維持するには裏切りを観察した場合には高い確率で報復行為をとってはならない、という結論が得られる。しかし実験結果は、被験者たちは過剰に報復してしまい、協調が理論ほど達成できず、金銭的利益を失っている。その理由は不確実性が小さいので裏切りを観察した場合に「疑わしい人間を罰したい」という人間の心理的欲求であると考える。この研究により、不確実性下での人間同士の協調問題における心理的インセンティブと金銭的インセンティブの相互作用を分析した。
著者
池田 瑞音 宮永 豊 下條 仁士 白木 仁 水上 正人 吉田 廣 目崎 登
出版者
一般社団法人 日本体育学会
雑誌
体育学研究 (ISSN:04846710)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.287-295, 2008-12-10 (Released:2009-02-25)
参考文献数
30
被引用文献数
2

The purposes of this study were to examine the effect of teeth clenching on isokinetic muscle strength during isokinetic elbow (60, 120 degrees per second) and knee (60, 180 degrees per second) extension and flexion using a BIODEX isokinetic dynamometer. Twenty-five American football players (19.6±1.3 years) with normal occlusion served as subjects. Isokinetic muscle strength of the elbow and knee, extension and flexion strength were measured during tooth clenching (Bite), biting with a soft biteplate (Soft), biting with a hard biteplate (Hard), and without tooth clenching (No-bite). Analysis of the peak torque per body weight and the time to peak torque yielded the following results:1) The peak torque per body weight of elbow extension with Soft was significantly higher than with Bite and No-bite (120 deg/s, p<0.05).2) The time to peak torque of elbow extension with Hard was significantly slower than that with No-bite and Soft (60 deg/s, p<0.05), and those with Bite and Hard were significantly slower than that with No-bite (120 deg/s, p<0.05).3) The peak torque per unit body weight of knee flexion with Bite and Hard were significantly lower than that with No-bite (60 deg/s, p<0.05), and that with Bite was significantly lower than that with No-bite (180 deg/s, p<0.05).4) The time to peak torque of knee flexion with Soft and Hard were significantly slower than that with No-bite (60 deg/s, p<0.05), and that with Bite, Soft and Hard were significantly slower than that with No-bite (180 deg/s, p<0.05).These findings suggest that tooth clenching and the materials of the biteplate are factors that lead to increased isokinetic muscle strength of elbow extension and to decreased isokinetic muscle strength of knee flexion. Thus it appears that tooth clenching and the materials of the bite-plate do not influence isokinetic elbow flexion muscle strength or knee extension muscle strength.
著者
櫻井 敏雄
出版者
近畿大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では城下町など、歴史的背景をもつ都市空間や集落において、社寺建築のもつ空間がどのような関わりもってきたかを著名な、ないし由緒のある社寺を通じて分析、考察したものである。社寺建築を個別的な建築の集合と見るのではなく、それら取り巻く境内全体を境内の外部空問の変容や、その周辺の空間を含めて検討したものである。都市空間の中心部は政治・経済・商業の中心となり、人間が集住する空間を狭め、一方で中心部は空洞化する現象を生み出している。本研究で扱った社寺の境内や門前の空間は経済性を追求する都市空間によって侵食され急激に変貌したが、宗教的・祝祭的空間は二度と再生できない空間である。そのためにはこの種の空間が町とどのような意味と係わり合いをもってきたか、ないしもっているかを明らかにし、見落としていた事実を掘り起こし、現在の都市の町づくりの中で再考する必要がある。本研究では大阪では大阪天満宮と天神祭り・天神橋筋・淀川、江戸では仲見世として賑わう浅草寺・浅草神社の境内の建築構成と歴史的変容の過程を考察し、戦災にあわなかった城下町金沢では観音院と東茶屋町(伝統的建造物保存群)の成立過程、卯辰山麓寺院群との関連性などについて検討した。その結果、江戸時代における庶民と祭事の関わりや、その重要性が認識され、為政者による行楽の場としての空間が現在の都市空間に大きな足跡を残し、ゆとりと行楽の場としての役割をなお留めている事実を明らかにすることができた。