著者
福迫 博 滝川 守国 久留 一郎
出版者
鹿児島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

鹿児島県北西部地震および出水市土石流災害に関連して発生するPTSDに関して実態を調査し,免疫機能の変化について検討した。北西部地震においては,小学生,中学生,高校生を対象とした調査では,震災3カ月後に10.2%にDSM-IV修正版でPTSDにスクリーニングされた。6カ月後の調査時には4.5%に減少し,一年後の調査では3.1%,一年半後は1.8%,二年後は1.8%であった。一方,成人では6カ月後に6.5%,一年半後には4.2%であった。したがって,児童生徒の方が低頻度であり,児童生徒の心の傷の回復力は成人に比べて高いことが示唆された。地区別での検討からは,震度だけでなく,地区のPTSDに対する取り組み特性,余震の頻度などで経過が影響されることが示された。出水市土石流災害においては,災害発生3カ月後には28.8%がPTSDとしてスクリーングされ,その後の調査では20%前後で推移し2年後も同様の頻度でみられた。被害状況の大きさや死者が出ていることから,地震に比べて尾を引いていると考えられた。免疫機能については16名においてCD4,CD8,CD56,NKCCを測定した。被災3カ月後の調査では,16名中3名(19%)のNK細胞活性が正常の-2SD以下であった。これは-2SD以下の度数が約2.5%であることを考えると,7.5倍と高値であった。一方,CD4,CD8,CD56は増加する傾向がみられ,CD8およびCD56は不安の強い者で高値を示した。PTSDと細胞性免疫能の関連については否定的であった。しかし,NKCCの低下していた3名にNKCCの結果に基づいて個人面接をすると,災害発生後フラッシュバック体験をしていたことや雨音に敏感になって不眠であったことなどと語るようになった。フォローアップした結果では,CD8およびCD56は減少することが示されたが,対象者数が少なく決定的なことは言えないと考えられた。
著者
岡本 拡子 無藤 隆 新開 よしみ 松嵜 洋子 吉永 早苗
出版者
高崎健康福祉大学短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では,子どもと音との素朴なかかわりや音楽的表現の芽生えに着目し,保育における音環境のあり方と,意識的な音環境づくりがどのように子どもの表現教育へと繋がるかについて検討した。音環境に関する物理的調査(環境機械論)とサウンドスケープの思想(環境意味論)に基づき,(1)音圧測定による園の音環境の実態調査,(2)保育者の意図的な音環境づくりと子どもの活動との関連に関する調査,(3)これらの調査結果に基づいた,「望ましい音環境」のあり方とそれらをいかした保育に関するチェックリストの作成を行った。また,保育者を対象に,チェックリストを用いた予備調査を実施し,今後のチェックリスト改良のための検討すべき課題を明らかにした。
著者
岡野真 一 青野 裕司 片寄 晴弘 井口 征士
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.1998, no.74, pp.67-73, 1998-08-07

本研究では,物理モデルに基づいた雨音の生成を目指している.以前より,一粒の雨滴が落下した際に発する音のサンプルを利用した,雨音全体を生成するためのモデル制作に取り組んできた.今回は,一粒の雨滴の音自身,特に傘の上に落下したときの音を物理モデルによって生成することを試みている.雨滴および傘といった個々の物体のモデルは質点・バネ・ダンパ系で構築している.特に,発音課程で雨滴に見られるような過渡的な崩壊を,バネ・ダンパの切断モデルによって表現することを試みている.雨滴の挙動・振動を特徴づける要素としては,雨滴の大きさ,落下速度,表面張力,空気抵抗があり,また傘は,傘の布地部分を2次元膜モデルとして近似を行っている.最終的な音情報は単一の質点の座標の連続的なシーケンスとして抽出することにより出力している.The aim of this research is the produce of the rain sound using the thechniques of physics based modelling. We have experimentally developed the framework model that prodeces rain sounds, though it uses sampling sounds of water drops. In this paper, we try to produce the sound of single rain drop falling on an umbrella by use of its physical model. A physical object, which is modelling rain drops and an umbrella, is assemblies of masses linked to others by springs and dampers. The modelling techniques we proposed can express transitional disintegration. The disintegration is caused by the breaks of the spring-damper links. Factors that fix the motion and vibration of the rain drops are size, speed, surface tension, and air resistance. The umbrella is an approximation to a membrance model. The sound finally aquired is received as a sequence of sucessives positions of sigle mass.
著者
福島 哲仁 永幡 幸司 嘉悦 明彦 守山 正樹
出版者
福岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

バリアフリーの視点で環境を整えることによって、痴呆を患っても、ユーモアのセンスと豊かな人間性が養われる事がわかった。デイケアにより、初期の不十分な状況の下で生じた不安または混乱から起こったトラブルが消え、彼ら自身と環境への自信が生まれていた。家族へのインタビューから、痴呆を患うことで、痴呆高齢者の隠された人間性が表に現れてくることが明らかになった。痴呆高齢者とその家族双方の「記憶障害」に対する受容は、家族間に生じるトラブルを防ぎ、痴呆高齢者の豊かな人間性を発展させる上で重要なプロセスと考えられた。ケアスタッフの視点、役割は、痴呆高齢者と家族の間のこのダイナミックなプロセスの進行にとって非常に重要である。幸福に今を生きることは、痴呆高齢者にとって重要であるが、将来への希望や豊かで人間的な生活への期待がさらに重要であることがわかった。痴呆高齢者の生活環境の改善について考える時、音の効果を無視することはできない。痴呆高齢者の生活環境に対する音の効果を明らかにするために、どのような種類の音が回想されるかを調べた。デイケアのリーダーが、擬声語を書いた大きなカードを示し、その擬声語を声を出して数回読み、その間に何を想像しているかを自由に話してもらった。この結果わかったことは、(1)一般的に、鳥の鳴く声や雨の音など自然にある音は、性を問わず擬声語から容易に回想される。(2)台所仕事の音は、女性によりよく回想される。(3)昔の生活習慣に関する音は、はっきりと回想される。(4)それぞれの生活史に関わる音は、深い感情を呼び起こし、鮮明に回想される。これらの結果は、痴呆症を患う高齢者が、痴呆を患う前に身近にあった音を容易に回想することができることを示している。
著者
内藤 直樹
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ケニア・ダダーブ難民キャンプ複合体において、ソマリ系長期化難民と地域住民であるケニア・ソマリが構築した社会.経済的関係の様態に焦点をあてた現地調査を実施した。2011年末の時点で40万人を越える難民の大量流入がもたらすインパクトは、難民と地域住民との間に対立関係を生み出す要因となっている。その一方で、難民と地域社会の人びとの双方は、約20年もの長期にわたる相互交渉の過程で、生活上の争いを回避する制度や、商品の委託販売関係、土地の貸借・売買制度などの共生を可能にする方途を練り上げてきたことが明らかになった。
著者
見市 建
出版者
岩手県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

資料の収集と読み込み、武装闘争派への継続的なインタビューを通してその思想と社会的な背景を明らかにした。また武装闘争派の映像およびインターネットの利用、穏健な福祉正義党党員による出版ビジネスについての研究成果を発表した。イスラーム主義勢力はそれぞれの目的を達成するために、「市場」動向に敏感に反応し、思想やイデオロギーをVCDや書籍、ウェブコンテンツとして「商品化」をしている。報告者はイスラーム主義を広くインドネシアの社会的文脈に位置づけ、その市場戦略を詳細に分析した。
著者
加部 通明 生方 俊典
雑誌
全国大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.50, pp.157-158, 1995-03-15
被引用文献数
1

現在いろいろなクロスワードパズル(以下CWPと略記する)の雑誌が本屋の店先に置かれている。それらの中身を見ると、単語の問題文のないもの、規模が大きいもの等読者の興味を引くようにできている。CWP作成手法には大別して2種類考えられる。第一は、既成の枠に重複するところを一致させながら単語を埋めて行く、埋込み型手法である。第二は、一つの単語を元にして乱数を用いて単語を縦横に並べていく、増殖型手法である。本講演は、いくら作ってもきりがないCWPを作成する手法と、その自動生成への可能性について発表する。
著者
中嶋 哲彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

2006年の教育基本法改正及び2007年地方教育行政の組織及び運営に関する法律・学校教育法の改正は、地方教育行政及び学校管理への目標管理システムの導入を促進する意味をもっていた。全国学力テストの実施や学校評価・教員評価はその一環を成すものであることが確認された。他方、教育振興基本計画による目標管理は当初予想されたほど強い統制力は発揮していないことが確認された。
著者
上條 末夫
出版者
駒澤大学
雑誌
政治学論集 (ISSN:02869888)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.61-134, 1984-10-31
著者
上條 末夫
出版者
駒澤大学
雑誌
政治学論集 (ISSN:02869888)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.27-93, 1987-10-30
著者
岡本 正明 水野 広祐 パトリシオN アビナーレス 本名 純 生方 史数 見市 建 日下 渉 相沢 伸広
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

冷戦崩壊後のアジア経済危機を克服した東南アジア諸国は今、グローバルなビジネス・ネットワークやイデオロギー・ネットワークの展開・拡大により急速な社会・政治・経済変容を遂げている。本研究で明らかになったのは、東南アジアの地方レベルで新しい政治経済アクター、或いは新しい政治スタイルを活用する政治アクターが台頭してきていることである。タイ、フィリピン、インドネシアでは、地方分権化が進展して地方首長の権限が拡大したことで、彼らはグローバル化、情報化の時代の中で獲得した新しい政治経済的リソース(情報も含む)を武器にして新しい、よりスマートな権力掌握・維持のスタイルを作り上げてきている。
著者
大黒 太郎
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、「極右政党」を組み込んで、1990年代のヨーロッパで相次いで登場した右派連合政権(オーストリア・イタリア・オランダ)によって実現した年金・医療保険制度改革において、「極右政党」が果たした独自のインパクトを確定することがその第一の目的である。また本研究は、ドイツ・イギリスなど左翼政党主導で実現した同時期の同種改革との対比のなかで、その改革の性格を明らかにしようと試みた。
著者
佐藤 芳彦 SATO Yoshihiko
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
言語と文化の諸相
巻号頁・発行日
pp.367-380, 1999-03-10

イギリスによるアイルランド統治史研究の一環として,本稿においては,いわゆる「アイルランド統治問題」の一応の解決策であると想定しうる1914年「アイルランド統治法」を取り上げ,従来の研究においては殆ど欠落していたところの,グレートブリテンとアイルランド間での財政関係史の観点から,同法成立のもつ歴史的意味を検討していきたい。予め,同法成立の直接的背景についていえば,1905年末に成立し,1906年総選挙で圧勝した自由党政権の下で,1907年恐慌を転換点として,1908年老齢年金導入等により社会政策費が増加し,同時に対独建艦競争により海軍費が増加し,そのために提案されたいわゆる「人民予算」(People's Budget)をめぐる1910年の総選挙で,アイルランド自治を要求する「アイルランド国民党」(Irish Nadonalists)が, (1885年, 1892年総選挙後に続いて)いわばキャステインヴォートを握ったので,新たな(第3次)アイルランド統治法案の作成が必要になり,また1911年「国会法」(Parliament Act)によって,その法案の成立が不可避である状況が出現したのである1)。
著者
杉谷 嘉則 影島 一己 西本 右子 天野 力
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

高周波分光法は、物質と水の相互作用の変化を鋭敏に捉えることを可能にする、われわれ独自の手法である。すなわち、物質の状態変化に伴う誘電率変化を共振周波数の変化として検出する手法である。また、エマルションとは、界面活性剤の力により、水中の油滴、逆に油中の水滴の形で一様に分散する系をいう。食品(牛乳)、化粧品(ヘアーオイルなど)、農薬、塗料、その他多くの産業分野に用いられている。これらエマルションは熱力学的に不安定な系である為、時間経過によりいずれ相分離を生じる(別の言い方では、劣化する)。これらの相分離過程を高周波分光法により観測することに成功した。実際には、多種類のエマルションを合成し、その劣化過程を高周波スペクトルのピーク位置の移動という形でとらえることができた。結果の一例を示すと、エマルション合成時に、界面活性剤の割合を多くしたものは、時間経過に対する劣化が緩やかに進行することが判明した。また、高温で保存したエマルションは、劣化がより速やかに進行することも判明した。これらは経験的には自明として知られていることであるが、目視や他法では観測し得ないような微小の変化も本法で鋭敏にとらえることができた。
著者
石田 貴文
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

COS-7細胞での一過性発現と酵素免疫法によるcAMPアッセイの結果、ヒトでみつけた変異型は野生型よりも有意に低いcAMP産生能を示した。これらの結果から、野生型と変異型の分布頻度の差、そして機能的な差がヴェッダ、オセアニア人と他のアジア人との間に観察される皮膚色の相違の遺伝的背景であると考えられる。また、東北アジア人の間では非常に低い活性を示す変異が4種類同定された。この集団では、低頻度ではあるが金髪や非常に明るい皮膚色といった形質が確認されており、これら4種類の変異がこのような表現形と関連していると考えられる。スラウェシマカク7種は総じて黒い体毛色を呈するが、幾つかの種においては、体の全体あるいは一部分に著しい体毛色の明化が確認されている。このような体毛色の明化を示す種では、MC1Rの機能的に重要と予測されるアミノ酸置換が生じており、一方、著しい明化を示していない種ではこのようなアミノ酸置換は確認されなかった。テナガザルは種間、種内での体毛色多様性が著しく、性的二型が存在する種、性に関係なく多型的な種、そして単色な種が存在する。多型的な体毛色を示すシロテテナガザルについて、MC1Rのハプロタイプを決定した。その結果、MC1Rハプロタイプとシロテテナガザルの体色多様性との間に有意な関連性は見られなかった。しかし、in vitroにおける機能解析の結果、テナガザルのMC1Rは恒常的活性型に進化している可能性が示された。
著者
口羽 益生
出版者
京都大学
雑誌
東南アジア研究 (ISSN:05638682)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.229-248, 1969-09

この論文は国立情報学研究所の学術雑誌公開支援事業により電子化されました。
著者
Yuya KIMURA Hidenobu KAWABATA Masaji MAEZAWA
出版者
JAPANESE SOCIETY OF VETERINARY SCIENCE
雑誌
Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
pp.1104050483, (Released:2011-04-12)
被引用文献数
3 4

This survey explores the grief associated with the loss of a pet, and was carried out using a self-administered questionnaire. The questionnaires were handed out to 50 bereaved pet owners attending a public animal cremation service, and we received 18 responses. Participants responded within 0 to 44 (median 4) days of the death of their pet. Although most mental health problems immediately following mourning are presumed to be normal grief reactions, on the basis of several psychiatric scales, 8 of the 16 valid responses indicated depression and/or neurosis. Statistical analyses showed that the following factors were significantly associated with grief reactions: age of owner, other stressful life events, family size, age of dead animal, rearing place, and preliminary veterinary consultation.
著者
長谷部 文雄 塩谷 雅人 藤原 正智 西 憲敬 荻野 慎也 宮崎 和幸 柴田 隆 山崎 孝治 岩崎 俊樹
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

ゾンデを用いた現場観測により熱帯成層圏水蒸気量の長期トレンドを明らかにするとともに、熱帯対流圏界層(TTL)内を水平移流しながら巻雲を形成し凝結脱水中の大気の対氷過飽和度が80%に達する事例を見出した。また、観測された大気の水蒸気混合比とその大気の流跡線に沿って上流へ遡ることにより評価される最小飽和水蒸気混合比との比較解析により、TTL内を水平移流しながらゆっくり上昇する大気に働く脱水過程の観測的記述に初めて成功した。