著者
松本 真理子 森田 美弥子 栗本 英和 青木 紀久代 松本 英夫 灰田 宗孝 坪井 裕子 鈴木 伸子
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

子どものロールシャッハ法に関する多角的視点からの研究を包括することによって、現代に生きる日本人一般児童のパーソナリティの特徴が解明され、また日本における被虐待児の心理的特徴も明らかにされた。さらに脳画像と眼球運動という生理学的視点からも子どものロールシャッハ反応の意味するものについてアプローチした結果、国内外において初の知見が得られ、さらに発達障害児との比較などについて、現在、研究を継続中である(平成21年度~25年度科学研究費基盤研究(B)(課題番号21330159)にて継続)。これまでに得た知見は国内外の学会および論文として既に発表している。平成21年度中には図書として成果の一部を刊行する予定である(2009年9月刊行予定)。
著者
宮地 弘一郎 松島 昭廣
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は,NIRSによる脳機能マッピングを活用した,重度脳障害児(重障児)の刺激応答性の即時評価システムを開発することであった.NIRSと心拍モニタリングを用いたアプローチは,重障児の生活刺激に対する応答性の評価に有用であることが示された.さらに,NIRS,脳波,心拍の多面的アプローチによって,定位反応系活動の発達を詳細に評価できる可能性が示され,今後の重障児の発達支援においての活用が期待された.
著者
加藤 守通 井ノ口 淳三 相馬 伸一 大田 光一 下司 裕子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の目的は、コメニウス中期の思想を代表する主著『光の道』に焦点を当て、彼の教育思想の多義的・重層的性格を明らかにすることであった。成果は以下の通りである。(1)教育思想史のみならず科学史における基本文献である『光の道』の本邦初訳を完成した。(2) コメニウスと新プラトン主義およびルネサンス思想との関連を明らかにした.(3)コメニウス教育思想が学校教育を超えた生涯学習論へと展開していく過程を明らかにした。(4)『光の道』啓蒙思想との関連を明らかにした。(5) オランダ、チェコなどでの調査や発表を通じてUwe Voigt教授をはじめとした世界的なコメニウス研究者との連係を確立した。
著者
佐久間 彬彦 定本 嘉郎
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.12-15, 2010
被引用文献数
2

凸レンズを通る光の道筋の作図について通常の授業を受けた中学生は,その多くが光の道筋の作図をすることができることが分かった。また,光の道筋と共に,凸レンズによってできる像を正確に記入できる生徒は,記入できない生徒より,像の大きさや位置を理解していることが明らかになった。しかし,像を正確に記入できた者のうち,像の大きさや位置の正解者の割合は約50%であり,凸レンズを通る光の道筋とできる像の作図を指導するだけでは,凸レンズによってできる像の理解が進むとは考えにくい。
著者
荒尾 晴惠 小林 珠実 田墨 惠子
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

【研究目的】本研究は、化学療法を受ける乳がん患者の認知機能障害について明らかにし、患者自身が必要なセルフケアを実行できるよう支援する有効な看護介入を考案することにある。最終年度の平成22年度は、化学療法を受ける乳がん患者の認知機能障害の様相を明らかにすることを目的として2つの研究に取り組んだ。【研究方法】研究(1)外来通院中の化学療法を受ける乳がん患者を対象に、認知機能障害の様相について質的研究を行った。半構成的面接法を行い共通したコードを集めてカテゴリー化した。研究(2)在宅療養中の乳がん患者を対象に研究者らが作成した認知機能障害の項目について自記式質問紙による調査を行った。研究の実施にあたっては、調査施設の研究倫理委員会で審査を受け承認を得た後に実施した。【結果と考察】研究(1)対象者は10名で、全員が女性、平均年令は53.5歳、2名が術前化学療法。〈自覚する認知機能の変化〉として《記憶力の低下》《思考力の低下》《注意力の低下》があった。さらに、《家族からの認知機能の評価》があり、自分では気づかないが同居者から指摘を受けていた。影響を与える状況として、末梢神経障害や倦怠感などの〈身体機能の変化〉と同時に〈心の在り様の変化〉があった。これらは《注意力の低下》に影響し〈いつもの暮らしの継続の支障〉として《自動車運転への支障》《対人関係への支障》を来していた。また《記憶力の儀下》は、《家事遂行の支障》を引き起こしていた。研究(2)対象者は30名(回収率62.5%)全員が女性平均年齢は55.3歳。認知機能障害の項目として対象者の自覚があったのは短期記憶、運動機能、情報処理速度だった。以上の研究成果から、化学療法を受ける乳がん患者の認知機能障害の様相の特徴が明らになったが、加齢による認知機能障害との識別など課題も明確になっており、対象者の人数を増やし程度や時期による変化についても検証していくことを今後の課題とした。
著者
六鹿 茂夫 渡邊 啓貴 小久保 康之 廣瀬 陽子 佐藤 真千子
出版者
静岡県立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、欧州近隣諸国政策(ENP)のイースタン・ディメンション、すなわち西部新独立国家(WNIS:ウクライナ、ベラルシ、モルドヴァ)および南コーカサス(グルジア、アルメニア、アゼルバイジャン)をめぐる政治過程について海外調査研究をした結果、以下の結論を得た。1.EUは、ENPの二国間関係に加え、黒海シナジーという多国間協力を展開し始めた。2.ENPのアクション・プランは南コーカサスにも適用されるに至った。3.EU=ロシア関係において貿易は増大したものの、深刻な問題が露呈した。エネルギー問題の解決は困難を極め、「4つの空間」ロードマップも、人権やマスメディアの自由および凍結された紛争をめぐる溝を埋められないでいる。4.凍結された紛争をめぐるOSCEとEUの関係は、前者が主要アクター、後者がそれを後方支援する関係にあり、OSCEの紛争解決における重要性が増している。5.とはいえ、凍結された紛争におけるロシアの影響は依然として重要であり、その役割は極めて大きい。(6)EUはモルドヴァのトランスニストリア紛争解決にも一層積極的となり、問題を残しつつもEUBAM(国境支援使節)氏遣で同地の闇経済摘発と民主化に貢献し始めた。(7)米国の対黒海地域政策としては、ポーランドの米系NGOへの支援を通したウクライナの民主化支援や、チェコおよびポーランドへのレーダー基地の設置計画が重要課題である。だがロシアはその代替案として、アゼルバイジャンのレーダー基地を提示している。これは米露関係が中欧と南コーカサスという二つの広範な地域に展開されている証左であり、広域ヨーロッパを見る際の重な分析視角を提示するものである。ENPを通してWNISや南コーカサス諸国の民主化と市場経済化が推進され、それに伴い黒海地域諸国全体の地政学的戦略的重要性が一層高まった結果、今や黒海地域の安全保障環境が劇的な変化を見せている。
著者
吉野 純 北 裕幸 田中 英一 長谷川 淳 久保 宏 世永 茂
出版者
The Institute of Electrical Engineers of Japan
雑誌
電気学会論文誌. B, 電力・エネルギー部門誌 = The transactions of the Institute of Electrical Engineers of Japan. B, A publication of Power and Energy Society (ISSN:03854213)
巻号頁・発行日
vol.124, no.5, pp.723-732, 2004-05-01
被引用文献数
7 2

Recently, a number of electric consumers have concerned about the reliability of electricity to be served. For example, some consumers need the electricity with a higher reliability by the automation of manufacturing processes. On the other hand, some consumers need the electricity of a cheaper price even if the reliability becomes a little worse. Under such circumstances, it is necessary that power suppliers evaluate the needs of every consumers precisely and propose the most desirable measures for meeting their requirements. This paper develops a tool to analyze the reliability for high-voltage supplied consumers quantitatively. Further, this paper presents a method for evaluating the outage cost of consumers to help them choose the most appropriate measures for maintaining the reliability. The proposed method applies the fuzzy reasoning approach. The validity of the proposed method is ascertained through some numerical simulations.
著者
松村 常夫 遠藤 乾市 木村 秀明
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. OCS, 光通信システム (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.99, no.91, pp.35-40, 1999-05-27

市販単四電池1本で停電時に5時間の通話が可能なISDN用のカードサイズONU(世界最小電力&電カサイズ)のプロトクイプを開発した。本ONUは50Mbit/s STM-PDS システムに適用するもので、最先端の1V級動作モジュール/デバイスを搭載している。これらモジュール/デバイスの搭載と共に、サービス対応部をプラグ形式で共通処理部と接続する構成法, 高精度モジュール設計法の適用により、本ONUは3.3V版の従来型ONUに比べ、1/8の低電力化(150mW), 1/6の小型化(59cc;カード搭載対象部)が可能であることが確認された。
著者
橘高 二郎
出版者
北里大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

イセエビ類フィロゾーマの完全飼育をJasus、PanulirusおよびPalinurusの3属について行うと共に、天然採集により得たプエルルスを用いて生態観察および生理実験を行った。1.変態プエルルスの作出 従来困難であったフィロゾーマの完全飼育は、飼育条件としてNannochloropsis sp.100〜500万細胞/ml、アムモニア態窒素1.4ppm以下、COD1.2ppm以下、細菌数10^3〜10^5CFU/mlを適用することにより達成された。平成4、5年度のプエルルス生産尾数はJ.edw-ardsii 5、J.verreauxi 24、Panulirus japonicus 4、Palinurus elephas 2尾であった。プエルルスの観察実験への供試尾数の増加を図るためJ.edwardsii(ニュージーランド)、J.verreauxi(オーストラリア)、Panulirus argns(米国)のプエルルスについて天然採集を行った。2.プエルルスの生態 飼育によるプエルルスの期間は最短でPanulirsuおよびPalinurusは12日、Jasusは20日であった。これらのプエルルスはすべて無投餌で稚エビに脱皮し、水温がプエルルスの期間を決める唯一の環境要因であることが示された。プエルルスは水温の変化に対して抵抗性があり、冷水性のJasus属は28℃の高温に、温水性のPanulirus属は15℃の低温に耐えることができた。着底基盤はJ.edwardsiiは岩の割れ目、J.verreauxiは海藻であるが、P.japonicusはその両方、P.ele-phasは岩の上であった。なおJ.edwardsiiでは潜砂行動に日周性が示された。3.プエルルスの生理 変態後接岸するまでの間のプエルルスは透明であるが、定着数日後には中腸腺が肉眼で認められるようになり、甲殻への色素の沈着が進行して稚エビに脱皮する。プエルルスの中腸腺前葉・中葉の先端部(J.edwardsiiの場合)、または中葉・後葉の合流部(P.argusの場合)には樹状に体腔中に延びる脂肪体の存在が認められた。プエルルスの生育に伴い脂肪体は減少し、それがプエルルス期の栄養貯蔵器官であることが示された。
著者
林 春男 田中 重好 卜蔵 建治 浅野 照雄 中山 隆弘 亀田 弘行
出版者
広島大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

広島地区(2124名)及び弘前地区(928名)で共通のフォーマットを用いた住民への意識調査を行い以下のような結論を得た。(1)今回の調査では人口109万人の広島市、17万人の弘前市、さらに純農村である青森県平賀町を調査対象とした。人口規模では大きな差異がみられる広島・弘前両市の住民の間には、今回の台風を契機とするライフライン災害に対する対応には差異がみられなかった。しかし、平賀町と市部との差異は顕著なものであり、少なくとも人口100規模までの都市では都市型災害の様相及び防災対策に共通性が存在しうる。(2)被災住民のがまんには3日間という物理的上限が存在すること。(3)復旧に関する情報の提供のまずさが被災住民にとって最も不満であった。住民が求める情報と提供される情報との間には大きなギャップが存在し、情報伝達手段もマスメディア主体となるために、一方的な情報提示に過ぎなかった。こうした事実をもとに被災地域内での情報フロー・システム構築の必要性が議論された。広島地区では中国電力をはじめとする各種行政機関及び指定公共機関を対象に台風9119号に対する危機対応についてヒヤリングを中心にして検討した。その結果、広島市の中央部が配電線の地中化事業が講師が完成していたために、他の地域とは違い停電期間がきわめて短く、広島市における「文明の島」として機能したことが明らかになった。こうした文明の島の存在によって、停電期間中であっても広島市民は「個人的生活」に関する不安は高かったものの、「社会的サービスの提供」に関する不安は低く、それが停電期間中に大きな社会的混乱がみられなかったことに貢献していることが議論された。
著者
直井 信久 中馬 秀樹 中崎 秀二 丸岩 太 新井 三樹 中野 徹
出版者
宮崎医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本年度の研究は人体で計測した臨床電気生理学的実験とネコ、ニワトリ網膜を用いて行った動物網膜の電気生理学的実験を行った。臨床電気生理学的には正常者と網膜内層の異常があると考えられる緑内障眼において、多局所網膜電図(Sutterら)を測定した。緑内障眼では有意に多局所網膜電図各波の振幅の低下、頂点潜時の延長が認められたが、これが網膜内層の変化を反映しているのか、視細胞など外層の変化を反映しているのかは、来年度以降の基礎実験が必要である。基礎実験の内、M波については薬理学的手法を用いて行った。TTXを用いてナトリウム依存性活動電位を抑制するとM波は変化しないがERGのoff反応は減少した。M波のon反応はAPB投与により極性が反転し、この反転した波はaspartateによって消失した。また網膜電図のSustained negativer responseはAPBによって変化しなかった。この様にM波の臨床的ERGへの関与は小さいが、パターン刺激のように小さい刺激野で刺激する場合などでは関与する可能性が考えられた。Scotopic threshold response(STR)に関しては、微少電極でこの波のdepth profileを調べることができたが、STRは内網状層付近で最大となり、網膜中心付近(60%の深さ)で極性が逆転した。このことは、この点より近位側に電流のsinkが存在することが推定され、電流のsourceはさらに遠位側にあると考えられた。またカリウム選択性電極を用いてカリウム変化を測定した結果ではカリウム濃度の変化と網膜電図の変化に密接な関係がみとめられた。
著者
新名 朋子 野上 道男
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
pp.209, 2004 (Released:2004-07-29)

1.研究目的 大都市圏において発生するヒートアイランドやクールアイランド現象は、人口集中域の拡大によって広域化し,都市域内部の土地利用のパターンによって、複雑にモザイク状になっていることが予想される。新版の気象庁気候値メッシュデータ(気候値2000)でも、土地の特性を都市域の気候値推定の要素に加えている。日本人の多くは都市生活者であり、都市域の温度環境を知ることは重要である。 広域都市圏の気候の実態を知るためには、リモートセンシングデータは好都合である。とくに衛星画像の昼・夜画像間の放射温度の「差」を用いることで、可視的な土地利用とその定常的な熱特性(不可視的)との関係を見ることができる。 また、種々に土地利用された地表面の熱特性が都市域の気温形成に影響していることから、都市域の気温分布特性を把握するために、地表面の熱特性を知っておくことが必要である。そこで本研究では土地利用(区分)ごとに地表面放射温度差(今後Radiation Temperature Difference=RTDと呼ぶ)の値が異なる場合があることに着目し、東京首都圏における土地利用ごとのRTD値とその季節変化を明らかにする。2.研究対象地域 本研究では「細密数値情報(10mメッシュ土地利用)首都圏」1994年版に収録されている行政区域内を首都圏として扱う。この対象地域を含む、ランドサットTM band6(解像度:120m×120mメッシュ)における、1050×1091ピクセル(約126km×131km)の範囲を解析対象とした。ランドサットTMデータは、昼夜間の放射温度差(RTD)の季節変化を見るために、夏と冬でそれぞれ昼夜の画像を用意した。尚、いずれの画像でも撮影時に降水や厚い雲はなかった。3.結果 RTD値の分布と土地利用分布との対応を明らかにするため、夏・冬のRTD画像と10mメッシュ値から作成した120mメッシュ土地利用画像を幾何学的に重ね合わせ、土地利用ごとにRTD値を集計し、平均値と標準偏差を計算した。 土地利用ごとのRTD値の差異からみると、田や畑などの自然的な土地利用では土地の被覆状態の季節変化(耕作など)がRTD値に影響を与えていることが数値的に示された。人工的な土地利用においては冬のRTD値は小さく、夏よりもヒートアイランドが強くなっていることが明らかになった。また、RTDの標準偏差からみると、郊外に多く分布する土地利用についてRTD値の広がりが小さいことが分かった。 都市気候の形成にかかわる土地利用としては,田や畑など自然的なものがまだ残る土地利用と,市街地・工場など高度に人工的な土地利用とが考えられる。しかし客観的な基準によって土地利用をみるために、クラスター分析を行ってみた。その結果として、自然的な土地利用については容易にまとまったクラスターとして抽出されたが、人工的な土地利用はなかなか同じクラスターになることはなかった。その理由としては、人工的な土地利用は細かいモザイク状になっており、RTD値がその土地利用特有の被覆状態よりもその土地利用が存在する場の影響を受けるためであるらしい。一方、自然的な土地利用では、その逆で近隣の場の影響よりも、その土地利用特有の被覆状態の方がRTD値を決め、またその値のバラツキも小さくなった(すなわち対応が鮮明である)と解釈された。
著者
生島 一真 清野 雄治 小嶋 正三
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.124, no.4, pp.245-255, 2004
被引用文献数
9

ミチグリニドカルシウム水和物(以下,ミチグリニド,商品名:グルファスト<sup>&reg;</sup>)は,グリニド系の新規速効性・短時間作用型インスリン分泌促進薬である.ミチグリニドは,膵&beta;細胞のATP感受性K<sup>+</sup>(K<sub>ATP</sub>)チャネルを介し速効性かつ作用時間の短いインスリン分泌促進作用を示すことにより,食後の血糖上昇を効果的に抑制するものと考えられている.K<sub>ATP</sub>チャネルを再構築した実験において,本薬は,心筋型のSUR2Aまたは平滑筋型のSUR2Bよりも膵&beta;細胞型のSUR1に対して強い親和性を示し,その作用選択性はスルホニル尿素(SU)薬のグリベンクラミドおよびグリメピリドに比較して極めて高かった.本薬のインスリン分泌促進作用は,in vitroおよびin vivo共にナテグリニドに比較し強力であり,SU薬に比較し速効性であった.また,正常および糖尿病モデル動物において,優れた血糖上昇抑制作用が認められた.国内の臨床試験においては,良好な食後高血糖の改善効果を示し,空腹時血糖値およびHbA<sub>1C</sub>等の臨床評価項目を低下させた.副作用はプラセボと同等であり,特に低血糖発現率もプラセボ群と差が認められなかった.以上,基礎および臨床試験成績から,ミチグリニドは2型糖尿病患者の食後高血糖改善に高い有効性を有し,かつ安全性に優れた薬剤であると考えられた.<br>
著者
片山 泰之 井上 明弘 堀籠 博亮
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.132, no.3, pp.181-188, 2008 (Released:2008-09-12)
参考文献数
20
被引用文献数
2 1

インスリン デテミル(遺伝子組換え)(販売名:レベミル®注300フレックスペン®,レベミル®注300,以下「デテミル」)は,脂肪鎖を付加しアルブミンとの結合を利用することにより,作用の持続化を図った新規持効型溶解インスリンアナログ注射製剤である.非臨床試験では,デテミルはヒトインスリンの分子薬理学的作用を有することが示された.また,NPH(neutral protamine Hagedorn)ヒトインスリン(以下「NPH」)よりも緩徐で持効型の薬理作用を有することが示唆された.デテミルとヒトインスリンの代謝パターンは類似していると考えられ,ヒトインスリンとデテミルの間に安全性に影響するような差異は認められなかった.臨床試験では,デテミルは,NPHと比較して,よりピークが少なく,より長時間(24時間)に渡り効果が持続することが確認された.国内における第III相臨床試験は,1型および2型糖尿病患者を対象としたBasal-Bolus療法,小児1型糖尿病患者を対象としたBasal-Bolus療法,2型糖尿病患者を対象とした経口血糖降下剤との1日1回併用治療の3試験が実施され,NPHに対する非劣性,空腹時血糖の低下,空腹時血糖値の個体内変動の減少,夜間低血糖の減少といった特徴が認められた.さらに,既存のインスリン治療では得られない体重増加抑制効果が認められたため,大いに臨床的メリットが期待される新規インスリンアナログ製剤である.
著者
新井 三樹
出版者
宮崎医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

パターン視覚誘発電位(PVEP)は眼科領域では眼底黄斑部や視神経の機能評価に用いられ、病変による機能障害の判定などに利用される。PVEPのうち刺激の反転頻度が早い、8ヘルツ以上のものをsteady-statePVEPという。刺激の空間周波数を変化させるとPVEPの振幅はある空間周波数で最大となり、その空間周波数より高いものでも低いものでも振幅は低下する。この現象を空間周波数特性と呼ぶが、この特性を利用して他覚的に視力を測定することができるようにしたものがスイープPVEPである。この方法で得られた視力(PVEP視力)と通常の視力表を使った自覚的視力検査との違いをみるために正常者の眼前にアクリルフィルターをおき視力を低下させてPVEP視力と通常の視力を測定し比較した。フィルターなしの状態で通常の視力検査での視力が1.0以上のときでもPVEP視力は0.6から0.7を示した。アクリルフィルターの数を増やすと通常の視力検査による視力が低下するよりも早くPVEP視力は低下を示した。通常の視力検査とPVEP視力は0.3で一致したが、1.0から0.3のあいだでも両視力検査の値は1オクターブ以上離れることはなかった。実際の臨床ではどれくらい視力が障害されているのかを評価することに使用するため、視力が良い状態での両視力検査の乖離はあまり問題にならないと思われる。また、各種眼疾患による視力障害をもつ80例に対しても両視力検査を行い相関をみた。通常の視力検査では0.3より良い症例ではPVEP視力は低くなり、反対に通常の視力が0.3以下になるとPVEP視力はよくなる傾向がみられた。両視力検査の間の相関係数は0.66であった。特に黄斑疾患の症例で両者の相関は高かった。乳幼児に対してもPVEP視力測定を行う予定である。
著者
饗場 和彦
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

日本がPKOや難民支援のために自衛隊を送ったのは1992年の国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)が初。以後、モザンビーク、ルワンダ、ゴラン高原(シリア・イスラエル)、東ティモールと派遣され、イラクにも特別措置法に基き2003年末から派遣されている。本研究ではこうした自衛隊の活動の実態を検証し、課題を分析、考察した。東ティモールはすでに終了し、イラクは治安が改善しないため現地調査に入れなかったが、ゴラン高原は現地調査を実施し、国内ヒアリングなどを行った。成果としての主な知見は、まず致命的弱点としての現地における適応障害の存在、である。自衛隊は憲法との関係上、宿命的に「軍隊でないこと」を条件付けられているが、PKOをはじめ紛争地における平和構築支援としての活動においては「軍隊であること」を求められるため現場では大きな乖離、矛盾が発生、しわ寄せは現地の自衛隊員に行っている。また、海外における自衛隊の活動の「性質」についての区別、も重要。自衛隊の海外活動は、概念としては、a)日米同盟の観点から日本の安全保障という国益を図る性質の強い活動と(日米同盟のための海外派遣)、b)国連などの多国間協調の観点から国際社会の公共益に資する性質の強い活動(国際社会のための海外派遣)、とに区分でき、この視点を区別しておかないと自衛隊の海外派遣は軍事主義としての危険性をはらむ。さらに、民軍関係の問題も大きな課題としてある。近年の平和構築支援の活動では軍事組織と文民組織が共同して当たる形が多いが、そこでの両者の関係のあり方、協働の仕方は功罪両面あり、自衛隊としても早急に検討され対応されねばならない課題である。