著者
大六 一志
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

子どもがかな文字の読みを習得する過程において,拗音(小さい"ゃ""ゅ""ょ"を伴う音節)は基本音節文字よりも習得時期が遅いので,その習得のためには基本音節文字の習得以上の何らかの必要条件が存在すると考えられる。本研究ではその必要条件について,発達遅滞事例に対する実験的教育手法を用いて検討した。まず先行研究の検討により,必要条件の候補を2つ見出した。すなわち,音素を客観的にとらえ操作できるようになること,および,二文字で一音節を形成するという規則の習得である。次に,両者が実際に拗音習得の必要条件になっているかどうかを検討するために,発達遅滞事例に訓練を行った。先に音素を操作する技能を育てる訓練を行ったが,この訓練は困難で,結局被験事例は音素を操作できるようにはならなかった。続いて二文字で一音節を形成するという規則に気付かせる訓練を行ったところ,この課題ができるようになるのとほぼ時期を同じくして,拗音節も正しく音読できようになった。なお,すべての拗音節が正しく音読できる段階に至っても,音素の操作は依然困難であった。以上より,二文字で一音節を形成するという規則の習得は,拗音節が音読できるようになるための必須条件であると結論した。一方,音素操作技能は拗音節音読習得の必要条件ではないと結論した。しかしながら,両者の間に相関関係が存在することが報告されているところから,むしろ拗音節の音読の習得が音素操作技能の必要条件となっていることが示唆された。
著者
浪江 巌 篠田 武司 宮本 太郎 横山 寿一 前田 信彦 北 明美 伊藤 正純
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

完全雇用は、どの先進諸国においても戦後福祉国家にとっての基本的な政策であった。しかし、現在のグローバル化と知識社会化のもとでは、完全雇用を実現することは困難になってきた。福祉国家の危機も進んでいる。では、こうした雇用と福祉の危機のなかで、各国はどのようにそれに対処しようとしているのか。それを高度福祉国家スウェーデンにおいてみながら、日本にとってのその意味を考察したのが本研究である。本研究で明らかになったことは、次のことである。(1)完全雇用を実現することを福祉国家スウェーデンの中心的政策として明確に位置付けてきたスウェーデンにおいても、その実現は難しくなっていること、(2)特に、社会的弱者ともいえる移民、青年層、女性、障害者などが労働市場から排除されるか、雇用の多様化が進む中で雇用の質が落ちていること、(3)しかし、現実には将来的に少子化の中で雇用をいかに確保するべきかがいまから大きな課題として認識されていること、(4)したがって、あくまで失業率を下げ、雇用率を上げるために政府は労働市場政策プログラムを様々な形で展開していること、(5)しかし、財政の関係、ならびにEU内でも進むワークフェアー的な労働市場政策の影響も受け、90年代以降その政策が変わりつつあること、などを確認した。では、どのように労働市場政策は変わりつつあるのか。ひとことでいえば、(1)労働市場政策の分権化、いいかえれば地方の役割を大きくしつつあることである。(2)多用な雇用形態が進むとともに、規制緩和が進み、民間企業による派遣事業が許可された。(3)労働市場弱者にたいするきめ細かい政策が実行されていることである。労働市場弱者を労働市場から排除しないことが社会結合にとって大きな課題であることが自覚されている。日本においても失業率の高止まり、また将来的には労働力不足を迎えるという事態はスウェーデンと変わらない。したがって、雇用対策がこの間、重視され、様々な政策が実行されてきた。しかし、まだスウェーデンと比べると危機感が少ないかに見えるし、対策の効用も十分あきらかにされていないかに見える。報告書は、12章から成り立つ。1章-「スウェーデン労働市場とG・レーン(宮本)、2章「労働市場の現状と政策の変化」(篠田)、3章「労働市場政策プログラムと職業訓練・教育」(伊藤)、4章「スウェーデンにおける雇用の男女平等」(北)、5章「保護雇用会社のサムハルの現状と未来」(福地)、6章「若年雇用政策の理念と現実」(櫻井)、7章「高齢者による人口問題の解決」(B・ヴィクルンド)、8章「障害者雇用の現実と課題」(横山)、9章「雇用対策における非営利セクターの役割」(中里)、10章「労働時間をめぐる政策動向」(浪江)、11章「分権化とクラスター・ダイナミクス」(G・ヨーラン)、12章「惨めなリーン生産方式か、豊な方式か?」(T・ニルソン)
著者
岡 典子 中村 満紀男 米田 宏樹 佐々木 順二
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、インクルーシブ教育についてその本質と課題を明らかにするため、インクルーシブ教育がもっとも盛んに議論されており、しかし同時に、インクルーシブ教育に関わる問題をもっとも深刻に抱えるアメリカ合衆国を対象として、インクルーシブ教育の理念的・制度的・方法論的出発点としての特殊学級の成立と展開の過程ならびにその教育的・社会的意味について検討した。特殊学級は、今日、インクルーシブ教育推進者によって、その対極に位置する特殊教育の象徴的存在として、特殊教育批判の重要な一角とみなされてきている。しかし、彼らの批判に反して、実は特殊学級には開設初期から既に、今日のインクルーシブ教育に連なる理念やそれを達成する方法あるいは実践が含まれていたのである。たとえば、インクルーシブ教育をめぐる現代の議論では、個別的ニーズへの着目と通常教育との一体化という理念のみが先行しているように思われるが、このような認識と議論は、特殊学級においても初期の段階から重要な課題として存在してきたし、障害種によって方法と程度は異なっていたが、その対応策も考案されてきた。アメリカの特殊学級は、すべての都市において、またすべての障害種について同一の様相を示していたわけではない。たとえば統合と分離(separation)あるいは隔離(segregation)をめぐる議論とその背景、特殊学級に対する障害当事者の見解、特殊学級の発展や挫折を生じさせた諸条件、教育内容や方法の開発・改善、スティグマなどは、いずれも時期によって、あるいは地域や障害種によって異なる実相をもつ。したがって、インクルーシブ推進者が主張するような特殊学級がすべて排除的・排他的であったという批判は正鵠を得たものではないし、むしろ特殊学級において何が達成され、何が実現できなかったのかを詳細に解明することで、インクルーシブ教育の実現に必要な課題と手段が具体化できるのである。
著者
原 實 川崎 信定 木村 清孝 デレアヌ フロリン ユベール デュルト 落合 俊典 岡田 真美子 今西 順吉 木村 清孝 末木 文美士 岡田 真美子 ユベール デュルト 田辺 和子 落合 俊典 デレアヌ フロリン 松村 淳子 今西 順吉 津田 眞一 北田 信 清水 洋平 金子 奈央
出版者
(財)東洋文庫
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成18年度より3年間、「古代インドの環境論」と題し、同学の士を誘って我々の専攻する学問が現代の緊急課題とどの様に関連するかの問題を、真剣に討究する機会を持ち得た事は極めて貴重な体験であった。外国人学者を交えて討論を重ねる間に、我々の問題意識はインド思想や佛教の自然観、地球観にまで拡がって行ったが、それらは現代の環境破壊や無原則な地域開発に警告する所、多大なるものがあった。「温故知新」と言われる所以である
著者
澤田 学 山本 康貴 浅野 耕太 松田 友義 丸山 敦史
出版者
帯広畜産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

本研究は,各種の表明選好法を社会的関心の高い食品安全性問題に適用し,分析対象とした安全性・環境対応に係る属性に対する支払意志額(WTP : Willingness to Pay)の計測を通して,わが国消費者の食品安全性に対する選好の構造を実証的に明らかにした.分析対象とした具体的な属性は,(1)原産地や遺伝子組換え原料情報(地場産牛肉,生鮮野菜の原産地表示,遺伝子組換え作物の含有率),(2)牛乳製造に関するHACCP認証,(3)サルモネラ食中毒(サルモネラ・フリー卵),(4)トレーサビリティ(生鮮野菜,牛肉),(5)農業生産における環境負荷情報(家畜ふん尿処理対策,野菜の有機など特別栽培方式)である.分析の結果,HACCPラベル付加牛乳は,通常製品の価格よりも5〜10%高い評価を得ること,地場産牛肉の価値を高める第1の要因は,新鮮さで,次いで,安心,おいしさ,廉価性,安全性の順であること,ミニトマトのトレーサビリティに対するWTPは有機栽培野菜に対する評価額の4割程度であること,牛肉のトレーサビリティに対するWTPは牛肉購入価格の5%前後であること,非遺伝子組換え枝豆に対するWTPは遺伝子組換え作物含有率表示に影響を受けるが,含有率のある程度の減少幅については同一のものとみなされていること,せり実験による食品安全性に対する消費者のWTPは,新たに開発したネットワーク型のせり実験システムにおいて安定的で精度の高い結果が得られること,などが明らかにされた.表明選好分析では,被調査者からアンケート調査や実験によって食品安全性やグリーン購入に対する支払意志額を表明させるため,アンケート質問票の内容や実験環境が分析結果に大きく影響する.本研究では,分析課題にそって体系的に回答者の選好表明を引き出すように綿密・周到に設計されたアンケート質問票およびせり実験方法も公開した.
著者
岩渕 光子
出版者
岩手県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

住民対象の検診受診者で睡眠健康教室参加希望者35名に、調査内容を説明し同意を得て、昼寝レクリェーション、ミニ講義、グループワーク、軽運動を週3回、2週間実施した。教室初回には睡眠に関する習慣を振り返り各自目標を設定し、教室開催の度に達成状況を確認した。教室は冬期間の開催であり雪や道路の凍結が心配されるため、不参加でも自宅で取り入れるよう習慣の継続を促した。教室終了後はフォローアップ教室、支援レターの送付を行い、教室終了2年後までの睡眠状態と生活習慣の変化を追跡調査した。実施前、直後、1年後、2年後のすべてに回答のあった11名(男性3名、女性8名、71.18±6.08歳)を分析対象とし、介入の効果及び留意点を検討した。1 睡眠に関する困り度は、実施前「非常に困っている」1名、「少し困っている」3名であったが、2年後は、1名は「少し困っている」のままであったが、3名は改善が見られた。2 「朝の気分」(五肢択一法)は、実施前と直後、1年後及び2年後との間で改善の効果が見られ維持されていた(p<0.05)。「起床時刻」は2年後と直後、1年後の間で差があり、時間の経過と共に早くなっていた(p<0.05)。3 入眠にかかる時間は2年後16±13分と実施前30±28分、直後25±22分との間で短縮する傾向(p<0.1)がみられ、改善には長期的な視点が必要であると考えられた。4 「時間の規則性」(四肢択一法)は、不規則であった人も全員、直後には規則的な時間に改善するが、起床時刻では直後と1年後、入眠時刻では実施前と1年後、睡眠時間では直後と1年後、2年後の間に不規則になる傾向(p<0.1)がみられた。規則的な生活の理解について、もっと、支援内容に追加していく必要があることが示唆された。
著者
江口 厚仁
出版者
九州大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は、内外の最新の研究動向を参照し、「日本型法化社会」の動態に適合するリスク・マネジメント・システムの基礎理論を構築することにより、多種多様なリスク問題に対する法システムの応答可能性を模索する試みとして計画・実施された。研究計画最終年度(20年度)は、初年度から継続的に収集してきた内外の文献・資料・データの翻訳・要約・分類・整理をつうじて、現代日本社会のリスク・マネジメント問題の全体像を俯瞰する理論体系の構築と、研究成果の公刊に向けて準備を進めてきた。あわせて、効率的なデータ検索・利用に資するデータベースの作成作業にも引き続き取り組んだ。本研究計画の期間をつうじて、現代日本社会における市民的公共性/専門家倫理/リスク管理の実態を批判的に再検討する研究会・セッション・出版企画などに参与し、本研究の中間的成果を示す論考二本を順次公刊するとともに、21年度上半期には岩波書店より「暴力・リスク・公共圏-国家の暴力/社会の暴力と折り合うための技法-」を含む書籍の公刊が決まっている。本研究の最終年度にあたって、リスク・コミュニケーションそれ自体のはらむリスク、及びそのマネジメント上の問題点を、リスク管理の技術的問題を越えた市民社会的視点から、かなりの程度まで明らかにできたものと考える。だが他方で、現時点では研究成果の一部を漸進的に公表する段階にとどまっているため、今後も本研究の所期のテーマを継承し、その全体像を解明した体系的論考へとまとめていく研究に引き続き取り組む所存である。
著者
笹田 栄司 亘理 格 大貫 裕之 村上 裕章 赤坂 正浩
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

最高裁判例と異なり、憲法32条「裁判」は憲法82条「裁判」よりも広い概念と捉えるべきである。即ち、他の権力から独立した中立的な裁判官が、手続的公正に則って審理を行うのであれば、それは司法作用と言うべきであり、その際、手続的公正の核心として、法的聴聞、武器平等があげられる。憲法32条が想定する「裁判」は、公開・対審・判決を"標準装備"した訴訟=判決手続に限定されず、上記のような司法としての性質を有する「裁判」を含む。(決定手続で行われる)「仮の救済」がこのような意味の司法作用であるなら、憲法32条「裁判」に含まれる。執行停止=仮の救済を司法作用と見るならば、「内閣総理大臣の異議」の制度は司法権を侵害し、さらに、裁判を受ける権利を侵害すると解されよう。右制度を合憲とする別の根拠は、内閣総理大臣が「緊急事態等への対応」するために必要とするものである。しかし、緊急事態が執行停止手続に関わるケースを想定するのは困難だ。合憲説の根拠とはなりえないだろう。ただ、内閣総理大臣の異議を廃止した場合、行政文書不開示処分取消請求事件において特定の文書の提出が仮の義務付け(行訴37条5第1項)によって可能となるなら、これによって文書が閲覧され被処分者にとり「満足的執行停止」となろう。「国の安全等に関する情報」(情報公開法5条3号)等が関係する場合が特に問題である。最近の実務では、地裁の執行停止決定に対する即時抗告について抗告審の高等裁判所が迅速に審理・判断する運用が行われているが、上記ケースについては抗告審の出番はなくなってしまう。このような場合に限り内閣総理大臣の異議を存続させることも考えられるが、それでは憲法上の問題は解消されない。そこで、抗告審の意味を喪失させる上記のようなケースに限り、即時抗告に執行停止効を認めることが考えられる。
著者
桂華 淳祥 浅見 直一郎 松川 節 松浦 典弘 藤原 崇人 井黒 忍 加藤 一寧 清水 智樹 福島 重
出版者
大谷大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

仏教関係碑刻を詳細に検討するため定期的に研究会を行った。また現地調査を実施し、碑刻の実物を検証して研究会で問題となった事柄を補足するとともに新たな史料の入手に努めた。これらの活動の成果を纏めたものが、27の碑刻の全文を正確に録文・読解し、そこに記される重要な語句に注を付した「金元代石刻史料集-華北地域仏教関係碑刻(一)-」である。
著者
浅利 宙
出版者
宇部フロンティア大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

今年度は、「比較」を意識しながら、1)遺族支援に関する文献研究(遺族支援の考え方と海外や国内の支援動向の特徴を把握する)、2)遺族支援グループに対する参与観察調査、3)グループの加入者に対する調査の3つを実施した。1)死別によって悲嘆状態に陥った人を同様の経験をした遺族がケアする一連の活動を「遺族間相互支援プログラム」という。海外では遺族への個別訪問活動が少なくないようであるが、わぶ国の場合は、医療・看護専門職による遺族会の組織化活動、ならびに、遺族等によって形成された遺族支援グループによる諸活動が多くを占めるというプログラム展開上の特徴が指摘できる。2)昨年度からの遺族支援グループに対する参与観察を今年度も継続して実施した。特記すべきなのは、参与観察している遺族支援グループが、従来の遺族支援活動に加えて、社会に向けた情報発信活動を展開した点である。参与観察を継続していた遺族グループでは、加入者を対象に在宅看護調査を実施し、その結果を関連の研究会にて報告した。これらの一連の動きは、同様の多くの遺族支援グループが活動展開に悩みをもつなかで、立ち上げ→組織化に引き続く展開のあり方として参考事例になるであろう。3)在宅看護調査からは、終末期の在宅看護では同居家族が看護の中心となるが、特に配偶者との二人暮らしの場合は別居家族(親族)のサポートが大きな意味をもつことが分かった。また、インタビュー調査による事例の比較からは、終末期のあり方は個別性が強いにもかかわらず、家族に対する病状の適切な説明が多くの患者・家族に共通するニーズであることを確認できた。特に終末期のあり方は、看取りの過程にとどまらず、看取り後の遺族の立ち直り過程にも大きな影響を与えている。これらの「声」を集約するところに、遺族支援グループのもつ社会的意義を指摘することができる。
著者
安野 智子
出版者
中央大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究では、異なる意見を持つ人とのコミュニケーションが、政治的寛容性に及ぼす効果を検証するため、郵送式スノーボール調査(無作為抽出によって選ばれた対象者に調査票を郵送し、さらに対象者が「日頃よく話す相手」として3人まで言及された人たちに、類似の調査票を対象者から直接送付してもらう調査)を行った。多摩市有権者800名を対象に調査を行い、本人票237回収率29.6%),他者票284票の回答を得た。政治的寛容性に関する項目のうち、「異なる価値観の人を寛容に受け入れるべきだと思うか」という問いに関する回答(「そう思う」〜「そうは思わない」の5段階、ただし対象者で「そうは思わない」という回答が存在しなかったため、実際には4値)の規定要因を検討した。その結果、他者票の回収数をコントロールしても、現実に異なる意見を持つ人とコミュニケーションを取ることが、政治的寛容性を高めるという知見が得られた。また、メディア接触(新聞・テレビ)は政治的寛容性に負の効果を持っていた。年齢と性別については先行研究と逆の結果(女性のほうが、また年齢が高い方が寛容)が得られているが、年齢については寛容性と線形の関係ではなかったこれらの結果は、International Political Science Association(IPSA)2006年度福岡大会、および日本社会心理学会第47回大会(東北大学)にて報告された。今後、加筆訂正の上、論文として学術雑誌に投稿の予定である。
著者
木村 光江 前田 雅英 亀井 源太郎 堀田 周吾
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

本研究では,来日外国人犯罪の現状の把握と対策,出入国管理の変遷,来日外国人犯罪における国際協力のありかたを検討した。その結果,(1)出入国管理体制の変化に伴い,外国人人口が急増し,それに伴い不法滞在者が増加し,入管法違反のみならず刑法犯も増加したこと,(2)来日外国人犯罪の増加が特に著しかった地域は,外国人就労者を多く雇用している企業が集中している地域であったこと,また(3)捜査共助,犯罪人引渡も相当数行われていることが明らかとなった。
著者
佐藤 忍
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

中東における建設ブームが生み出した海外雇用の機会は、資産形成の点でも、職業上の地位においても、魅力的な選択肢であり、国内における労働力利用率が3人に2人と低いフィリピンにとって、いわば千載一遇のチャンスであった。有力な後盾に恵まれた渡航チャンネルをもつ者のみが、この機会を享受しえた。1980年にはじまるフィリピン国内の経済危機は、海外雇用による外貨獲得を国際収支の救済策として浮上させた。すなわち、労働力輸出の開始である。1982年におけるフィリピン海外雇用庁創設は、その制度的な表現である。労働力輸出の本格化は、海外雇用の魅力が低下する過程でもあった。海外雇用は、生活維持のためのきわめて現実的な選択として一般化したのである。賃金水準は低下し、雇用期間は短縮した。73年時点で13万人にすぎなかった海外渡航者は、83年には40万人、91年には63万人へと雪だるま式に膨らんだ。渡航チャンネルをもたない者は、不正規のルートを開拓した。中東以外の渡航先として東、東南アジアの比重が高まった。同時に、海外雇用の女性化が進展した。海外雇用は、いまや2つのタイプに分極化している。船員、看護婦等の専門職種は、賃金水準や斡旋経費の負担といった点で、いまなお魅力を保持している。渡航者のおよそ3人に一人がこのタイプに属する。労働力輸出によって生み出された新型職種として、エンタテナ-やメイドといった不安定職種がある。渡航者の3人に一人を占めるまでになっている。不安定職種の危険性は、労働者保護への政策的な取り組みの緊要性をフィリピン政府に痛感させた。労働力輸出は、フィリピン経済の危機によって本格化し、海外雇用の変質と分極化とをもたらしたのである。
著者
松本 耕二 田引 俊和
出版者
山口県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、スポーツ活動に関わるボランティアの専門性を活動特性や活動意識との関係性に着目し類型化を試みことを目的とした。そこで障害者スポーツを推進する国際組織にかかわるボランティアを対象とした質問紙調査を実施した。スポーツにかかわるボランティアの活動特性(業務内容、活動期間、取得資格)と専門性(活動知識、活動適応感、報酬業務)との関連を分析した結果、地域で日常的かつ継続的に活動するコミュニティボランティアは、短期間、一過的な活動参加のイベントボランティアに比べ専門性意識が有意に高かった。また専門性意識には対象となる活動への興味・関心とスポーツ関連資格の有無が有意に関連していることが明らかとなり、関連資格取得がスポーツ・ボランティアの専門性に影響していることが示唆され、イベントボランティアとコミュニティボランティアの相違を確認した。
著者
斉田 智里 小林 邦彦 野口 裕之
出版者
茨城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

英語教育の効果を測定・評価するために、項目応答理論(IRT)と構造方程式モデリング(SEM)の使用が有用であることを実証的に示すことができた。IRTを用いた大規模テストで高校生や大学生の英語力を測定し、英語力の大きさや変化の要因をSEMを用いて検討した。その結果,学習指導要領の変遷や入試科目の変更、大学英語教育カリキュラムの変更が、高校生や大学生の英語力に大きな影響を及ぼしていることが示された。言語プログラムにおける教育評価情報の収集・分析・評価のシステムを構築した。
著者
前多 康男
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

劣後債のプレミアムの変化は,金融機関の財務状況を適確に反映していることが明らかになった.つまり,劣後債の規律付けに関しては,金融機関の財務内容を基本とするものとなっており,また,預金上昇率も金融機関の財務内容などのハードデータを反映するものとなっている.これらの実証結果から判断すると,我が国において市場規律は十分にその働きを期待できる状態にあると結論付けられる.
著者
石井 光夫 鈴木 敏明 倉元 直樹 荒井 克弘 夏目 達也
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

・本研究は,中国,韓国,台湾,香港,シンガポールなど,いわゆる中国文化圏に属する東アジア諸国・地域を対象に,大学入試の多様化という視点から,その制度や改革動向を調査分析したものである。・我が国が過度の受験競争などへの対策として「選抜方法の多様化」「評価尺度の多元化」を方針の下に大学入試改革を展開してきた経緯から,同じような問題を抱え,改革を試みているこれらの国・地域の大学入試と我が国のそれとを比較検討することによって,我が国の入試改革に参考となる視点を得ることが本研究の狙いであった。・本研究では,実地調査や文献調査によって1)一般選抜における選抜方法・判定基準,2)特別選抜(推薦入学や我が国のAO入試に類似する大学独自の選抜等)における選抜方法・判定基準,3)高等学校との連携協力(広報活動,高大連携活動)のそれぞれの項目を柱に,政策方針,制度改革等のあらましを把握したのち,とくに「入試の多様化」という観点から,改革の背景や経緯,改革の具体的措置,個別大学の入試実態等を明らかにするとともに,各国・地域における共通性や特徴,問題点などを整理分析した。・報告書においては,とくに入試多様化を精力的に進める中国,韓国,台湾について,その共通点と相違点を比較分析し,我が国入試改革にとっての新たな視点をいくつか提示した。結論としては,我が国及びこれらの国・地域では同じような動機・目標を持って入試の多様化を進めており,多様化の度合いにおいては我が国は進んでいるとみられるものの,学力の担保,公平性確保のための情報公開になお課題をもつことを指摘した。また,我が国の入試改革にみられない「教育格差・社会経済的に恵まれない層への配慮」といった観点を韓国や台湾などの例によって指摘した。
著者
与謝野 有紀 林 直保子 都築 一治 三隅 一百 岩間 暁子 佐藤 嘉倫
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、経済資本、人的資本、文化資本に続く第4の資本としての社会関係資本の形成プロセスと機能について、社会的諸資源、近隣ネットワークや社会参加といったライフスタイルとの関連で理論的、実証的に明らかにしようとするものである。手法としては、質問紙調査、実験、コンピュータ・シミュレーション、フィールドワークをもちいた。また、2004年1月に面接調査法による調査を行い、ランダムにサンプル1000ケースに対して707ケースの回収をみた。日本での社会関係資本に関する本格的な面接調査は本調査が最初であり、日本の社会関係資本の状況を知る上での基礎データを提供するとともに、他の手法と補完しながら、以下の知見を最終的に得た。(1)社会関係資本の主要素として一般的信頼感に焦点を絞って解析した結果、信頼の生成メカニズムに関する現行の主要理論(「信頼の解き放ち理論」)のプロセスは、日本では一切確認されない(2)一般的信頼感の生成のためには、近隣ネットワーク、自主的な参加を前提とするクラブへの参加など、中間集団に対するコミットメント関係の形成が重要であり、これらの中間集団において醸成された個別的な信頼感は、他者一般に対する信頼感を形成する重要な基礎となる。また、この知見は共分散構造分析によるデータ解析とコンピュータ・シミュレーションによって同時に確認されており、頑健性が高い。(3)社会関係資本の形成のための投資と回収のプロセスを「社会関係基盤」概念を提出することで定式化し、さらに近畿調査データを用いて、この点を実証し、社会関係資本のセーフティーネットとしての機能と階層固定化機能の両者を確認した。(4)社会関係基盤については、フィールドワークからも投資、回収概念の高い適用可能性が確認された。これらの研究成果については、論文、著書のほか、日独先端科学技術会議(学術振興会・フンボルト財団共催)や本研究を中心に企画された第39回数理社会学会シンポジウムで報告されている。
著者
上川 一秋
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

成果は、社会資本理論を、修正するかたちで発展させたことである。学校組織において、教師間の連帯は、生徒を教育的によい方向に導くことができる、という仮説を米国の2次的データをもちいて検証した。また日本の教師とのインタビューをも参考にした。社会資本理論によれば、個人間の連帯は情報の交換を促し、個人間の信頼関係を強める。学校という場においては、教師間の連帯が強いほど、教師が生徒ともつ関係の効果が強い、という仮定から本研究はスタートした。結果は逆であった。同僚関係の薄い教師ほど、生徒をよい方向に導いていることを分析が示した。いわゆる「一匹狼的」な教師(同僚とあまり話をしない教師)ほど、生徒の問題行動を制御し、また大学進学率をも高めている様子がデータによって示された。文献調査は、教師の仕事は生徒との関係が主であり、同僚関係を密にすることが教師の関心事ではないという知見を与えた。多くの教師にとって、生徒とのかかわりが仕事の楽しみである、という「教師という職業の特徴」を理解することの重要性が分かった。またデータ分析によると「一匹狼」的教師ほど、・関わりのある生徒に対しては強いコミットメントをもっている。・生徒と関わるさいに、同時に親やカウンセラーともかかわる率が高い。・教えがいがあり見込みのある生徒を選んで、コミットする度合いが高い。米国、日本両方で、学校改革が盛んななか、教師はこれまで以上に同僚同士の協力関係を結ぶことを求められている。例えば、ティームティーチングや、共通の基準に基づいたカリキュラムを作成するうえで、教師は同僚とともにすごす時間が長くなることが考えられる。とすれば、学校改革自体が教師という職業に与える影響をも視野にいれた研究が必要となるであろう。従来、学校改革研究は同僚間協力が絶対善としがちである。確かに、教える技術を磨くための同僚関係は重要であろう。しかし、生徒に人間的に働きかけ、生徒の進路や生活指導をするうえでは、個人の教師が、個人の生徒にコミットしつつ働きかけることが有効なのかもしれない。本研究の理論的貢献は、社会資本論を学校という場の理解に応用するさいに、教師文化の特質を理解することの重要性を訴えた点である。
著者
住友 元美
出版者
奈良女子大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

本年度は、主に、近現代日本の高等教育における女子大学の位置づけに関して、以下の研究を行なった。I、1、戦後に新たな家政学樹立の必要性を輪じていた今和次郎の「家政論」およびその後の「生活学」研究について史料解読を行なった。2、戦前・戦後に展開された女子高等師範学校および女子専門学校による大学昇格運動について史料の分析を行なった。3、戦後に誕生した新制大学における「一般教育」導入の意義について史料調査し、先行研究の検討を行なった。以上から、戦後の新制大学創設期に学問として独立していく(させられていく)家政学と今が提唱した「新しい家政学」とを比較検討して、戦後家政学の確立と女子大学誕生との関係を明らかにし、戦後女子大学(「家政学部」を女子大学の特徴として掲げる大学)が、戦後新制大学の規範的存在となる可能性を持つものであったことを示して、日本高等教育における女子大学の意義について言及した。(「戦後日本の高等教育における女子大学誕生の意義-今和次郎の「家政論」をてがかりに-」)II、Iに引続き、今の「家政論」を主なる史料として、戦後日本の復興(民主主義化)と新たな家政学樹立および「一般教育」との関係について検討した。(論文作成中)