著者
丸山 治彦 菊地 泰生 倉持 利明
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

マンソン孤虫による通常の孤虫症と違い、芽殖孤虫は人体内で無性的に増殖し、感染は致死的に経過する。芽殖孤虫の無性増殖の謎を解明するため、マンソン孤虫と芽殖孤虫のゲノムを決定し両者を比較した。芽殖孤虫のゲノムサイズは653 Mb、マンソン孤虫は796 Mbで、芽殖孤虫のゲノムでは16の遺伝子ファミリーが増大し、26の遺伝子ファミリーが縮小していた。増大していた遺伝子ファミリーは既知の遺伝子と相似性が低かったが、増大したファミリーの遺伝子には臓器分化、シグナル伝達、アポトーシスに関連するものがあった。これは、宿主内という定常環境に生息し臓器を持たないプレロセルコイドの活動を反映したものと考えられた。
著者
澁谷 拓郎
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究では、南海トラフ巨大地震の発生や強震動の予測を高度化するために、巨大地震の震源域であり、破壊開始点であり、強い地震波の経路である紀伊半島の3 次元地震波速度構造を正確に推定することを試みた。沈み込むスラブが深さ30~40 kmに達するあたりの深部低周波イベント発生域は、低速度異常を示した。和歌山県北部の地震活動が活発な地域の下部地殻にも強い低速度異常域が存在することがわかった。これらは、スラブ内の含水鉱物が深部低周波イベント発生域付近で脱水分解して、その結果放出された流体がマントルウェッジや下部地殻に移動して、低速度域を作り出し、地震発生に関与していることを示している。
著者
厚谷 和雄 末柄 豊 山口 英男 石上 英一 坂本 正仁
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、中世地方寺院に伝来した聖教類としては、質・量ともに優れた中世聖教群と評価できる萩原寺所藏地蔵院聖教を素材とし、その本来あるべき姿への復元のため、聖教に関する史料学構築を目的としたもので、本研究に於ける成果の概要は、以下の通りである。地蔵院聖教について悉皆調査を行い、江戸時代前期までのデジタル撮影を完了するとともに、平安時代後期より安土桃山時代までの聖教類について、函号・名称・形状・員数・本文奥書等・備考・撮影番号等の項目で構成する『萩原寺所藏地蔵院聖教撮影目録』を刊行し、地蔵院聖教に関する史料学的研究の成果である「萩原寺所藏地蔵院聖教の概略」「萩原寺中興真恵年譜稿」を附載した。
著者
池田 敬子 小山 一 鈴木 幸子 辻本 和子
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

アミノ酸誘導体など食品や食品由来成分のもつ微生物不活化(消毒)活性を利用したスキンケアによい新しいタイプの消毒薬の開発を念頭に食品由来成分の探索とその作用機構の解析、ならびに実際の応用に向けたウイルス伝播力の解析を行った。塩基性アミノ酸のひとつアルギニンの持つ殺菌作用(ことに緑膿菌への)や梅酢ポリフェノールなどのウイルス不活化作用を見出し、ことに呼吸器感染症起因ウイルスへの消毒作用を明らかにした。また、医療環境を汚染したウイルスの持つ伝播力を汚染後の時間との関係において定量的に解析した。
著者
木村 嘉孝
出版者
公益財団法人宇部市常盤動物園協会
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

生息環境展示は、動物の生息環境を来園者が理解することを目的とした展示法で、放飼場に植栽や自然物などが設置されているため、飼育動物の正常行動発現にも有効であると考えられていたが、従来の檻型施設と比較しても行動発現割合が変化しないことが報告されている。一方で、動物は成長過程の環境がその後の行動特性に影響を及ぼすことから、生息環境展示方式で正常行動を発現するためには、その場所で成長することが重要である可能性が考えられる。そこで本研究では、生息環境展示において生まれ成長したシロテテナガザルの若齢個体の行動を調査し、従来の檻型施設で生まれ成長した若齢個体との比較を行った。宇部市ときわ動物園において、生息環境展示方式で飼育されている雄個体(1頭)と、檻型放飼場で飼育されている雌個体(1頭)を供試個体とし、約1歳齢時において15項目の行動カテゴリー(採食飲水・休息・身繕い・探査・個体遊戯・位置移動・社会的探査・敵対・親和・社会的遊戯・社会的摂食・授乳吸乳・抱擁・母子遊び・その他)について, 1分間隔の瞬間サンプリング法による直接観察を、それぞれの施設で行った。行動調査の結果、両個体共に活動的な行動である位置移動は1日の約50%、非活動的な行動である休息は約20%発現し、施設間で差は認められなかった。さらに、観察を行ったすべての行動項目について、檻型放飼場と生息環境展示方式で大きな違いが認められなかった。本研究では対象個体が2個体のみであることから、今後も調査を継続して行う予定ではあるが、生息環境展示で生まれて成長した個体についても、檻型施設で生まれて成長した個体と同様の行動特性であったことから、飼育動物の正常行動発現のためには、生息環境展示方式をそのまま導入するだけでは効果が小さく, 環境エンリッチメント等の試みと併用して利用していく必要があると考えられた。
著者
岩上 はる子
出版者
滋賀大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

本研究の目的は、日本におけるブロンテ受容の歴史をたどることにある。ブロンテ姉妹が日本でどのように紹介され受容されたかを、明治の紹介の段階から昭和初期に全訳が出版されるまでを、文芸雑誌、学術雑誌、新聞その他の一次資料を基に跡づけ、最後に翻訳の検証を通して日本におけるブロンテ姉妹の受容の分析を試みた。『ジェイン・エア』を中心に取り上げた。明治期については『女学雑誌』におけるブロンテ関連記事を拾い、『ジェイン・エア』が良妻賢母思想を背景として紹介され、受容されてきたことを跡づけた。次に、水谷不倒による最初の抄訳「理想佳人」を検証し、不倒訳の換骨奪胎の視点が当時の日本の読者に馴染みのない個人の意識、自我、恋愛に向けられていたことを明らかにした。大正期については、『英語青年』『英語研究』などの専門誌に掲載された対訳・註釈を検討した。それらは欧・米における主だった批評動向を反映する一方で、日本独自のものとして訓詁学的な研究により、後の翻訳への道筋を開くことになる。なかでも岡田みつによる研究社英文学叢書のJane Eyreは、初めての女性によるもので、全編にわたっての正確で解釈に踏み込んだ註釈によって、後の全訳に大きな影響を与えたことを検証した。最後に十一谷義三郎の全訳『ジェイン・エア』を検討した。新感覚派の小説家として知られる十一谷が、一方で優れた英文学研究者でもあったことを明らかにし、強い自我意識をもつジェインの造形に「孤独」「自我」「生命への礼賛」などの十一谷文学の本質に通底するものがあることを指摘した。受容研究の一つの方法として翻訳の検証も有効であることが立証された。明治期の最初の出会いから昭和初期に全訳が完成するまでのほぼ半世紀のブロンテ受容史をたどることで、日本人がいかに異文化を受け入れ咀嚼し血肉化してきたかを概観でき、有益な研究であったといえる。
著者
浜田 雄介 石川 巧 山口 直孝 小松 史生子 谷口 基 志賀 賢子 金子 明雄
出版者
成蹊大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

探偵小説は〈近代〉とともに成熟してきた。政治的・社会的・性的存在として生きねばならない人間を微分し、欲望する主体としてのありようを的確に表象する方法のひとつとして、それはいまもなお拡大発展を遂げている。本研究では、「作家資料研究」「雑誌研究」「国際研究」「理論研究」の各部門から、作家の自筆原稿や雑誌を含むさまざまの資料について研究の基盤となるデータの集積を行うとともに、諸外国における研究や隣接領域の学術的成果や知見とも交流し、日本における探偵小説ジャンルの生成過程を明らかにする。
著者
山本 正雅 嶋 緑倫 志村 紀子
出版者
奥羽大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

【目的】ヒト末梢単核球をSPYMEG細胞とPEG法で融合しヒト抗体産生ハイブリドーマを作製する方法によりヒトインフルエンザウイルスに対する抗体作製が可能であることを示してきた(BBRC387(2009)180-185)。本法を用いて、血友病A患者に発生したインヒビター抗体の作製を目的とした。【結果】細胞融合には化学的なPEG法を用いた。コロニー形成率は10~30%と低かった。ハイブリドーマ培養上清の抗体をELISA法によりスクリーニングしたがインヒビター陽性ウェルは確認できなかった。感染症患者から抗インフルエンザウイルス抗体を作製したようにはインヒビター抗体が得られなかったことから、改善が必要と考え、(1)血中抗体の力価の差、(2)融合効率の改善、(3)抗体産生細胞の濃縮に関し検討した。(1)は高力価の患者を利用することで対応可能とした。(2)の対応は、電気的融合法を検討した。電気的手法は細胞への傷害が少なく、PEG法より高効率で抗体作製ができるとされる。SPYMEGでは電圧を400V以上にすることにより融合効率をPEGと同程度(100%融合率)に高めることに成功した。しかし本条件下では抗体産生率がPEG法に比べ約1/2と著しく低くPEG法を踏襲した。次に(3)であるが、血友病A患者からの融合成績では、融合初期に陽性クローンが確認できたが、培養途中で産生能を失うことが主な原因であった。そこで、抗原をコーティングした磁気ビーズを用い、抗体産生細胞を選択する方法を検討し、細胞を特異的に好成績であった。【考察】電気融合法はPEG法を超えなかったので、PEG法にて血友病A患者からのインヒビターの作製を試みたが、最終的に陽性クローンは得られなかった。今後、さらなる改善策として、磁気ビーズによる細胞の濃縮と、ウアバインなどによる遺伝子の脱落を抑えるなどの処理を行い、抗体産生を安定化させ、高力価のインヒビター陽性患者からの末梢単核球を調製し例数を多く試みる必要がある。
著者
色川 俊也 黒澤 一
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

「化学物質過敏症」の病因を解明する目的で、気道の先天的生体防御反応である気道分泌との関連から検討を行った。気道での曝露刺激感受性部位と推定されるTRPV-1受容体を介した気道分泌物に注目して、可視的定量法を用いMCS患者の気道分泌による防御機構を検討した。 我々の実験結果から、TRPV1のアゴニストであるカプサイシン(10uM)の粘膜側添加は、軽度の分泌更新をもたらすこと、また、粘膜面をホルマリン(20ppm30-60分)に暴露した気道では分泌が一時的に亢進していルことが示された。これらのデータは、MCS患者の気道分泌が一時的に亢進している可能性を示唆している。
著者
柳澤 幸雄 坂部 貢 熊野 宏昭 熊谷 一清
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

化学物質過敏症患者に対して、呼気中化学物質の測定及びTVOC 曝露濃度と心拍変動のリアルタイムモニタリングを行った。呼気分析では、日常生活での曝露を示す体負荷量がわかり、身体状況との関連が確認された。また、曝露濃度と心拍変動のリアルタイムモニタリングでは、曝露濃度と自律神経機能の関連が示唆され、患者によって異なる傾向が得られたことから、患者個々の病態を客観的に捉え、症状の予防対策を提言するために役立つと考えられた。
著者
中山 一麿 落合 博志 伊藤 聡
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

昨年度後半から本格始動させた覚城院の調査であるが、調査が進むにつれて新たな発見があり、多義に亘る史料の宝庫として、その実態把握を加速させている。字数制限上、覚城院に関する主たる成果のみ以下に記す。6月には、中山一麿「寺院経蔵調査にみる増吽研究の可能性-安住院・覚城院」(大橋直義編『根来寺と延慶本『平家物語』』、勉誠出版)において、新出の増吽関係史料を中心に、増吽やその周辺の研究を進展させると共に、聖教調査研究が新たな発展段階にあることを示唆した。9月には本科研を含めた6つのプロジェクトの共催で、「第1回 日本宗教文献調査学 合同研究集会」が行われたが、中山はその開催に主導的役割を果たし、二日目の公開シンポジウム「聖教が繋ぐ-中世根来寺の宗教文化圏-」では基調報告として「覚城院所蔵の中世期写本と根来寺・真福寺」を発表し、覚城院から発見された根来寺教学を俯瞰する血脈の紹介を交えつつ、覚城院聖教が根来寺・真福寺などの聖教と密接に関係することを報告した。加えて、同時に開催された寺院調査に関するポスターセッションでは、全29ヵ寺中、本科研事業に参加する研究者5名で計10ヵ寺分(覚城院・安住院・随心院・西福寺〈以上中山〉・木山寺・捧択寺〈以上向村九音〉・善通寺〈落合博志〉・地蔵寺〈山崎淳〉・薬王寺〈須藤茂樹〉・宝泉寺〈中川真弓〉)のポスターを掲示した。3月には「第1回 覚城院聖教調査進捗報告会―今目覚める、地方経蔵の底力―」を開催し、覚城院調査メンバーから9名の研究者による最新の研究成果を公表した。同月末刊行の『中世禅籍叢刊 第12巻 稀覯禅籍集 続』(臨川書店)においては、覚城院蔵『密宗超過仏祖決』の影印・翻刻・解題を掲載し、翻刻(阿部泰郎)・特論(中山一麿)・解題(伊藤聡・阿部泰郎)がそれぞれ担当して、本書の持つ中世禅密思想上の意義やその伝来が象徴する覚城院聖教の重要性を論じた。
著者
海野 千畝子
出版者
兵庫教育大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では,情緒障害児短期治療施設の被虐待児童を対象とした動物介在療法(ドッグプログラム)を愛着形成という側面から臨床的に検討した。ドッグプログラム前後において児童の情緒と行動の様相を比較した。結果,本来の施設側の治療に加えてドッグプログラムを行った介入群の児童らと施設側の治療のみの介入無群の児童らとの群間比較で, 児童らの愛着形成を阻害する解離症状の数値は,介入群がドッグプログラム前後で有意な差を認めた。犬との安全な皮膚接触を通した触れ合いを含むドッグプログラム(DOG-P)が,被虐待児童らの解離された感覚を統合し,必要な愛着形成を促進することが示唆された。
著者
佐藤 努 廣吉 直樹 小暮 敏博
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

産地の異なる汚染土壌の約4万粒子を詳細に調べたところ、放射性セシウムを濃集している粒子の割合はわずか0.3%であった。また、これら濃集粒子は、風化雲母の凝集体、有機物と風化雲母の複合体、風化雲母片であり、様々な構成鉱物の中で風化風雲母片が最もセシウムを濃集できることは、吸着実験結果とも整合的であった。観察した土壌からはガラス球状物質は見出されなかったので、セシウムの主たるホストは風化雲母と結論された。この風化黒雲母は磁気分離可能なことから、ポールミルや超音波等により風化黒雲母片を解砕し、磁選によって効率的に回収することで、合理的な減容化が可能となることが判明した。
著者
杉浦 和子 水野 一晴 松田 素二 木津 祐子 池田 巧
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

1.白須淨眞氏を講師として招き、20世紀初頭のチベットをめぐる緊迫した国際情勢と大谷光瑞とヘディンの関係についての研究会を開催した。ヘディンのチベット探検に対して、大谷光瑞が政治的・財政的な支援を行ったこと、ヘディンの日本訪問には大谷光瑞へ謝意を伝える意味があったことを確認できた。2.チベットでの撮影を写真家に委託した。第3回探検でヘディンが踏査したルートの文物、風俗、風景、建造物等を撮影してもらった写真家を講師として招き、画像上映と現地の状況説明を聴くための研究会を開催した。1世紀の時間を隔てて、変化したチベットと変わらないチベットの諸要素を確認した。3.公開国際シンポジウム「近代日本における学術と芸術の邂逅―ヘディンのチベット探検と京都帝国大学訪問―」(京都大学大学院文学研究科主催)を開催した。6人による報告を通じて、ヘディンの多面的な才能、チベットという地への好奇心、絵という視覚的な媒体といった要素が相まって、学術や芸術のさまざまな分野を超えた出会いと活発な交流を刺激したことが明らかにされた。シンポジウムには学内外から80名を超える参加があった。4.展覧会『20世紀初頭、京都における科学と人文学と芸術の邂逅―スウェン・ヘディンがチベットで描いた絵と京都帝国大学文科大学に残された遺産』(文学研究科主催、スウェーデン大使館後援)を開催し、2週間の会期中、2100名を超える来場者があった。新聞4紙でも紹介され、近代日本におけるヘディン来訪の意義を伝えることができた。会期中、関連の講演会を開催し、40名を超える聴衆が参加した。5.報告書と図録の刊行に向けて、論文執筆や解説等、準備を進めた。
著者
堀越 宏一
出版者
東洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

10世紀末から北フランスで建設が始まった初期の石造城砦を調査・研究の対象として、その生成の過程と、城が有していた社会機能を多角的に明らかにした。そこでは、古代ローマの建築様式の影響を受けて建てられた最初期の方形の天守塔が、城砦としての防衛機能を追求した結果、13世紀初頭までに、円筒形天守塔(「フィリップ式天守塔」)となり中世的頂点を迎えた。しかし、城の完成とその結果としての統治の安定の結果、円筒形天守塔に欠けていた居住性を求めて、統治のための公的空間である大広間と城主の居住空間は、城壁に内接する方形の館に移ることとなった。天守塔には、政治的象徴性だけが遺されることとなる。中世の城は、個々の城の軍事的機能と政治ないし統治機能の必要性に応じて、多様な形状を取ることになるのである。
著者
永岡 崇
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

アジア・太平洋戦争において、天理教の信徒たちが行ったひのきしんがもつ意義を、帝国日本というより大きな文脈に位置づけなおすため、1940年代前半の代表的ひのきしん論である諸井慶徳『ひのきしん叙説』と、帝国日本による「聖戦」の教義を端的に示すと思われ、天理教のひのきしん隊も多数参加した橿原神宮神域拡張事業において語られた言説との比較を試みた。天理教信徒にとって、「聖戦」の教義はひのきしんの教義と深いところで響きあっており、前者を後者に手繰り寄せる形で総力戦の遂行を主体的に担っていったと思われる。また、「聖戦」の教義がひのきしんのような宗教思想・信仰と親縁性を有し、それへの読み替えを通じて実践されたことを明らかにし、アジア・太平洋戦争の宗教戦争としての性格を改めて見直し、その宗教性の受け皿となった宗教教団や社会集団の思想・実践との比較を行うとともに、それらとの接触の様相を分析していく必要性を提起した。これまで遂行してきた作業によって、戦後の宗教教団にとって非本来的で否定的なものとしてのみとらえられがちであったアジア・太平洋戦争期の経験を、現代の教団、またその教義や信仰のあり方を構成する重要な要素として位置づけ、負の側面へと深化していく宗教性のありようを積極的にとらえる歴史-宗教学的考察の領域を切り開くことができた。
著者
石崎 博志
出版者
琉球大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本年度の研究は、朝鮮語・漢語・ヨーロッパ言語など外国語資料による琉球語研究がこれまで如何なる形で行われてきたのかを振り返り、それらを批判的に検討を加えることによって外国資料が示す琉球語の音韻体系が如何なるものであったかを明らかにすることを目標とした。現在、その存在が知られる琉球語を記述した外国語資料には、朝鮮語(ハングル)による資料、漢語(漢字)による資料、ヨーロッパ言語(ローマ字)による資料の三つのタイプがあるが、これら一次資料とこれらを使った琉球語研究に関する先行研究を広範に網羅し、「外国語による琉球語研究資料」および「琉球における官話」文献目録」(『日本東洋文化論集』第7号2001)と題してその成果をまとめた。ここでは、これまでの琉球語研究史を扱った文献目録から除外されてきた外国語資料による琉球語資料とその研究論文を新出資料も交えて盛り込んだ目録である。「漢語資料による琉球語と官話研究について」(『日本東洋文化論集』第7号2001)は、外国語、ことに漢語による琉球語研究の歴史及び琉球で学ばれた漢語の研究史を振り返るとともに、これまでの研究の特徴や問題点を指摘し、そこに新たな知見を加えたものである。中国資料に関しては、「琉球館譯語」と陳侃『使琉球録』所載の「夷語」成立時期の先後関係について、「琉球館譯語」が最も早期の琉球語資料であるとの説を批判的に検討し、さらに「日本館譯語」と陳侃「夷語」との関係について論じた。そして、琉球官話と呼ばれる一群の琉球における漢語資料についてはこれまでの「官話」の基礎方言に関する議論を展開しながら、中国における官話研究の状況と併せて論じた。