著者
河野 重行
出版者
東京大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

申請者は,真正粘菌Physarum polycephalumで,ミトコンドリアプラスミド(mF)を見いだしている.本研究課題の目的は,(1)このmFプラスミドの起源とミトコンドリアへの侵入・伝播・成立の分子機構とその存在意義を明らかにするとともに,(2)mFプラスミドミの水平伝播能を利用し,ミトコンドリア用のベクター開発を目指すことにあった.mFは,mtDNAの一部(mID, 479bp)とほぼ完全に相同な領域(pID, 475bp)をもっており,この間の相同組換えによって,mtDNA内に組み込まれる.mIDがmtDNAに残されたmFの痕跡とすると(pID→mID), mFは,(i)P.polycephalumの種の確立する以前にミトコンドリアに侵入していたか,(ii)種の確立以後に極めて速やかに種全体に伝播したと考えられる.逆に, pIDがmtDNAに由来するものなら(mID→pID),(iii)mFは極最近になってP.polycephalumに侵入した可能性が高い.収集の結果,P.polycephalumの由来の異なる粘菌アメーバを30株以上を保有することができた.本年度は,それぞれのmIDとpIDの塩基配列決定を引き続き行うとともに,近縁種の収集にも力を入れた.1)PCR法を用いて,組換え型,pIDとmIDの有無を調べた.また,mIDとpIDは全て塩基配列を決定し,塩基置換の種類と有無によってmIDとpIDの系譜図を作成している.これによって,pID→mIDとmID→pIDのいずれかが決定できるものと思われる.2)P.polycephalumおよびその近縁種を用いて,mFプラスミドの水平伝播の可能性を探るとともに,mFプラスミドを改変し,mFプラスミドの伝播に果たす末端タンパク質(TP)の役割に注目し,薬剤耐性マーカーの付加やpID改変によるベクター化の可能性を探っている.
著者
石井 英也 小口 千明 大濱 徹也
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

青森県の下北半島に位置する脇野沢村は、江戸時代に能登半島を中心とする北陸の漁民や商人が、ヒバや鱈を求めてやってきて定住したしたことによって、その建設が促進された村である。そのため、脇野沢に住む住民達は、当初から明治初期頃までは水主を業とするものが多く、いとも軽々と周辺地域での他所稼ぎに従事してきた。その後、明治維新による山林の国有地化などによって、脇野沢住民の生業は鱈漁への傾斜を強めるが、鱈漁の季節性を埋め合わせるように、幕末以降発達しつつあった北海道鰊漁への他所稼ぎが多くなった。脇野沢村では、大正期以降に鱈漁が興隆し、それに北海道鰊場への他所稼ぎを組み合わせる一種の複合経営が成立する。それとともに、他所稼ぎの弊害も見られるようになるが、しかし、昭和戦前期までの他所稼ぎは、むしろ地域経済に利をもたらすものと肯定的にみられる傾向が強かった。第二次世界大戦後、脇野沢の鱈漁や、まもなく北海道の鰊漁も壊滅する。しかし、北海道はその開発が国の緊急課題となり、さまざまな基盤整備が行われるようになる。こうして脇野沢住民は、北海道での土木出稼ぎに従事するようになり、思いがけずに失業保険も手にするようになる。その出稼ぎは、高度経済成長期になると、とくに東京を中心とする関東にも向かい、まさに「出稼ぎの村」が形成される。この頃になると出稼ぎの量も質も、出稼ぎを引き起こすメカニズムも変質し、とくに昭和40年代以降にはさまざまな社会問題が注目されるようになった。その重要な問題の一つが、持続的社会の崩壊、つまり出稼ぎ者や年金生活者の増大に伴う地域そのものの空洞化であった。出稼ぎは、諸問題の発生や出稼ぎ者の高齢化や「出稼ぎは悪」という風潮のなかで、昭和末期以降急速に減少してきたが、村の再建が急がれる。
著者
志村 哲祥 井上 猛 高江洲 義和
出版者
東京医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

初めに、高校生において睡眠へ影響を与えている生活の要因を調査しました。たとえば、カフェインを夜に摂取すると2倍、寝床の中でスマホを使用していると3倍、睡眠の問題が生じやすく、また、欠席には起床時刻の影響が大きいことが明らかになりました。次いで、睡眠の問題があり欠席の多い高校生へ、上記の知見をもとにした睡眠指導をする群としない群に無作為に割り当てたランダム化比較試験を行いました。その結果、睡眠指導をした群では睡眠が有意に改善すると同時に、欠席率が半減し、退学者も大幅に減少しました。本研究により、学生の欠席や退学を、睡眠という観点から改善させることができることが明らかになりました。
著者
伊原木 大祐
出版者
北九州市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、1960年代以後に優勢となるフランス現象学思想の一群(レヴィナス、アンリ、マリオン)を宗教哲学の高度な発展形態と捉えつつ、そこに表れた二元論的構成に着目することで、20世紀におけるフランス宗教哲学への新しい見方を提唱している。その結果、この思潮が形を変えながらショーペンハウアー哲学や20世紀のドイツ・ユダヤ思想にまで及んでいることを発見すると同時に、現代におけるマルキオン主義の政治的ラディカリズムを確認することができた。
著者
梅木 佳代
出版者
北海道大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2020-09-11

本研究は、明治時代以前のエゾオオカミと人の関係性を再検討することを目的とする。かつて北海道に生息したエゾオオカミは明治時代に絶滅したが、絶滅以前の人との関係性については曖昧な議論が続いており、いまだ明確化されていない面が多くある。本研究では文献調査を通じて新たに検討・分析の対象となる事例を拡充したうえで議論に取り組む。北海道でエゾオオカミと遭遇した際の人々の思考や対応を分析し、当時のオオカミ観を把握することを目指すと同時に、北海道における人とエゾオオカミの関係性について、時期、地域、民族ごとの差違の有無を明らかにする。
著者
藤代 節 庄垣内 正弘 角道 正佳 岸田 文隆 菅原 睦 澤田 英夫 橋本 勝 岸田 泰浩
出版者
神戸市看護大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究課題は、ユーラシアのアジア地域を中心に、広域にわたって生じた言語接触の研究を目指したものである。各メンバーが各々携わってきた地域にみられる言語の接触状況を把握し、当該地域における社会言語学的情報を考慮しつつ、言語地域のダイナミズムを提出することをまず第1段階とし、次に個別に研究してきた言語の関与する言語接触の様相がユーラシア各地に分布する他の地域のそれと比べてどのような類似点あるいは特異点をみせているかを考察した(第2段階)。さらに、言語接触研究において従来、提出されている諸現象及び接触前段階まででみられる諸現象がアジア地域の言語接触についても頻繁に見られるか、それら諸現象の出現を条件付ける要素は何であり、何処に起因するか、等に考察を及ぼした。その上で、言語接触のあり方を整理し、ユーラシア各地の言語地域について、各領域の言語から多角的に検討してきた。本研究課題に参加したメンバーが、研究目的にそって、研究に従事した三年間の実施期間にまとめた成果の一端をApproaches to Eurasian Linguistic Areasと題した論集にまとめ、Contribution to the Studies of Eurasian Languages seriesの第7巻として刊行した。それぞれにユーラシア言語地域に分布する言語接触の諸相を扱った論考をあつめ提出できた。なお、本研究課題の参加メンバーは、その成果をふまえ、「言語接触のその後」を探る研究と位置づけた研究課題『ユーラシアの言語接触と新言語の形成-新言語形成のメカニズム解明に向けて-』に新たに取り組む予定である。
著者
永吉 秀司
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

現在、住職不在の文化財に相応する神社仏閣も数多く存在し、将来文化財として大切にされるべきものが風化にさらされ、危惧する状況にある。このような状況は、地方行政の財政と文化財の再現で必要とされる予算の金額に齟齬が生じている現状があり、その改善方法として、流通性のある建築建材を活用しローコストな支持体による壁画の再現方法を提案するものである。尚、事業協力する寺院は、弘長年間(1261~1264年)に創設された弘長寺で、過去の修繕において壁画を撤去し白壁で塗り替えたという経緯がある。そこでその壁面を中心に脱着可能なパネル型素材を活用して来迎芸術壁画を再現し、新たな地域資産創出の役割も担うものとする。
著者
北村 和哉 飯田 宗穂
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

潰瘍性大腸炎は原因不明の腸管の慢性炎症性疾患であるが、その一因に腸内細菌叢の乱れが存在する。この乱れを是正する方法として糞便細菌叢移植がある。糞便細菌叢移植を成功させる要素として、移植細菌の患者粘膜への生着が重要である。本研究では、移植細菌が患者粘膜に生着する免疫学的機序を明らかにすることを目的とした。今研究の結果、糞便細菌叢移植の移植細菌の生着に、ステロイドが負の役割を果たすことが明らかとなった。このステロイドの作用は、主に粘液中のMUC2の発現抑制によるものであり、外的に粘液を投与したり、内的な粘液分泌を促すレバミピド投与で、移植細菌叢の生着が改善することが明らかとなった。
著者
則武 厚 揚妻 正和
出版者
生理学研究所
雑誌
学術変革領域研究(B)
巻号頁・発行日
2022-05-20

則武らは、高い社会性を持つ非ヒト霊長類マカクザルを用いた実験により、前頭前野において、嫉妬の基盤となる自己と他者の報酬情報が独立に表現される情報処理様式を発見した。これを発展させ、自他情報の比較および嫉妬情動表象へと導く演算を担う神経回路と情報処理過程を明らかにすれば、嫉妬生成の仕組みの理解に大きな一歩となる。そこで本課題では、自他比較に焦点を当て、嫉妬神経機能モジュール解明とモデルの導出・実証を推進する。
著者
櫻庭 美咲 荒川 正明 野上 建紀 大橋 康二 西田 宏子 藤原 友子
出版者
神田外語大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、アウグスト二世(通称アウグスト強王)が、「日本宮」のために収集した大規模な陶磁コレクション(ドレスデン国立美術館磁器コレクション館所蔵)の悉皆調査を軸に、研究を進めた。同コレクションの総目録編纂にむけた大規模な国際共同プロジェクトへの参加を通じ、日本磁器約800点を熟覧して得た結果をデータベース化し、総目録の英文作品解説約440点分を完成、文様の図像研究にも知見を得ることができた。これらは総目録の一部として公開予定である。受容史的な観点からみた「日本宮」における日本表象の変遷についても、建築図面等の文献研究・磁器作品研究の両面から確認することができた。
著者
高橋 秀雄 江藤 盛治 芦沢 玖美 江藤 盛治 高橋 秀雄
出版者
独協医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1969年から1984年の間に,10年以上にわたって毎年1回左手および手根部をX線撮影することのできた東京都内の5歳から18歳までの女子65名について,TW2骨成熟と成長を調べた.1.骨成熟(1)イギリス基準との比較:RUS成熟は全般により速く進行し,1年早い15歳で完熟する.Carpal成熟はイギリス基準とかなりよく一致して進行し,13歳で完熟する.(2)日本人標準との比較:RUS成熟は全般により速く進行するが、完熟に達するのは同じ15歳である.Carpal成熟の完熟は1年早く,13歳である.20-Bone成熟は同じ15歳で完熟する.2.思春期成長42名の初経年月日,身長,体重,胸囲が毎年記録されている者の成長と骨成熟のスプライン平滑化速度を解析した.(1)成長速度の解析:平均して,身長増加のピークは11.1歳に出現し,その8か月後に体重と胸囲のピークが現われた.初経年齢は身長ピークの1年4か月後,12.4歳である.初経時は身長150.3cm,体重41.8kg,胸囲73.6cmであった.また最終身長は157.9cmであった.(2)骨成熟速度の解析:Carpal成熟のピークの出現は最も早く,9歳である.RUS成熟のピークは初経年齢に最も近く,11歳10-11か月に出現する.(3)成長と骨成熟の関連:1)平均初経年齢は12歳3,4か月,身長のピークは初経の1年3か月前,RUS成熟のピークは初経の4,5か月前である.2)初経の早い少女では,身長とRUS成熟のピーク年齢が低く,ピークの強さ(量)が大きい.そして初経時の身長とRUSスコアは低い.3)最終身長が高い少女はピーク時の身長と初経時の身長も高い.また最終身長は思春期の身長成長およびTUS成熟とは無相関である.
著者
土屋 貴志 佐金 武 野末 紀之 新ヶ江 章友 石川 優 濱野 千尋
出版者
大阪公立大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2022-06-30

性行動の実証的調査および文献テクスト分析を踏まえ「性愛および『性的倒錯』とはそもそも何なのか」という問題について考察する。「性的倒錯」とは (i)「本来の性愛」からの逸脱、(ii)性愛に関する社会・文化的規範に対する違反、を含むが、両者は必ずしも重ならない。また、「本来の性愛」なるものを疑う立場もあれば、「本来の性愛」の普遍性から社会・文化的規範の恣意性を批判する立場もある。本研究では、従来のセクシュアリティ/ジェンダー研究の成果も踏まえつつ、性愛をとりまく社会・文化的背景について深く考察すると同時に、性愛および「性的倒錯」それ自体を問題とする根柢的な探究を行う。
著者
太田 彦人 大津留 修
出版者
科学警察研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

1.トリカブト毒国産トリカブトから、トリカブトの既知猛毒成分アルカロイドアコニチン類6種を全て得た。これらの代謝物(8-ヒドロキシ体)6種及び最終代謝物(8,14-ヒドロキシ体)4種を全て合成した。さらに定量用内部標準物質として、8-アルコキシアコニチン類数種、及び現在最も定量精度が高いとされる重水素化アコニチン類も併せて合成した。以上の化合物を用いて、市販のOasis HLBカートリッジを用いた、血液や尿等の生体試料からの迅速固相抽出法を開発した。さらに、安価に普及しているODSカラムを用いたLC-ESI-MS/MS高感度一斉微量分析法も開発し、生体試料より迅速かつ容易にトリカブト毒及びその代謝物を検出・同定・定量することが可能となった。各成分の検出下限はng/mLオーダー以下であった。2.バイケイソウ毒国産バイケイソウより、幼若アルカロイド、催奇形性有毒アルカロイド、エステル型猛毒アルカロイド計11種を得た。これらを用い、トリカブト毒同様の固相抽出-ODS-LC-ESI-MSIMS分析法を用いて、血液や尿等の生体試料から全成分を迅速に分離検出・定量できる分析法を開発した。内部標準物質はメチルリカコニチンが最も適切であった。各成分の検出下限はng/mLオーダーであった。3.アセビ毒古来より有毒植物として知られるアセビの毒もまた、分析の困難なテルペノイド系神経毒である。アセビ毒を経口服毒した事例において、服毒したアセビについて、植物粉砕粉末化装置を応用してアセビ毒を検出定量することができ、また世界で初めてヒト胃内容からアセビ毒を検出・定量し、さらにヒト胃液中におけるアセビ毒の変化及び強毒化の様子を明らかにした。
著者
西田 拓洋
出版者
高知大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

認知症疾患診療は、認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)の段階で診断し、治療開始することが望まれている。しかし近年MCIの中に児童青年期までに診断されなかった発達障害者に、加齢性の認知低下が加わった状態の人が混在している可能性が指摘されている。本研究では、神経画像検査やCSF中のADバイオマーカー検査、発達障害評価を実施し、AD、DLB、ASD、ADHD等の原因疾患同定のための鑑別診断を行い、発達障害MCIと認知症MCIの割合を計算する。また認知機能や巧緻運動評価を実施し、その結果を2群間で比較した上で有意差が認められた検査項目に対し判別分析を行い、判別式を作成することで臨床に役立てる。