著者
二瓶 真理子
出版者
松山大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

科学的知識の客観性=「価値自由」という見方は、近年科学哲学上でも影響力を失いつつある。科学は、社会のなかの一事業として、様々な諸価値や状況からの影響をうけざるをえない。しかし、同時にそれは、特定の個人や立場のみに占有されるのではなく、社会全体に共有される公共知でもあるべきだ。こうした新しいいみでの「客観性」概念を担保するひとつの要素として、近年、科学者共同体内部の価値観、信念背景、立場、観点などの「多様性」を重要視する見方が、提起されている。さまざまな観点をもつものによる共同体部の相互批判により、科学知のステイタスを確保するという見解だ。本研究は、このような見解の是非と意義を理論的に検討する。
著者
土山 希美枝 南島 和久 高野 恵亮
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究は、2015年5月に85歳で逝去した政治学者・松下圭一の政治理論が社会科学と社会に与えた影響を可視化し、包括的に把握することを目的とする。松下の政治理論は社会科学にも社会にも大きな影響を与えた。地方自治、行政学、政治学の分野での活動は、革新自治体、2000年地方分権改革の理論的支柱となった。松下は、丸山眞男と並び「その理論が社会を動かした」研究者だが、影響が広範なために分野ごと時代ごとで分断され、体系的・包括的な把握や評価がなされていない。本研究で、関係者のヒアリングや資料を用い、松下圭一の「社会科学と社会に与えた影響」を、高度成長期以降の現代史的視角とともに進め、明らかにしていく。
著者
吉田 祥
出版者
大阪医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本来ドーパミンは覚醒誘発に関与するが、逆説的にドーパミン受容体作動薬により突発的な眠気が生じることが問題となっている。ドーパミン受容体作動薬により睡眠と覚醒の相反する現象が生じうることについて、その脳内機構の解明のための研究をラットを用いて行った。その結果、動物の活動期(暗期)において、高用量では覚醒を誘発するが、低用量では逆説的に睡眠が増加することが判明した。
著者
樋渡 展洋
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究の目的は、通説的な選挙制度改革が日本の政党変容を規定したという政治制度的理解に代わって、新たに政治経済的解釈を提示し、それを実証することにある。その要諦は、現在の状況を、政策競合政治への変容過程での一党優位支配と規定し、その原因を経済停滞下、有権者の信託を得た経済政策課題の解決の必要性に対する自民、民主両党の脱皮度の違いに求めている。政権党の経済改革の必要性は、各党内において成長指向路線と地域利益配分指向との対立を激化させ、そのことが激震的な選挙変動を媒介に、自民党と民主党では非対称的な適応性に帰結した、というものである。
著者
オマ-ル オスマン 奥田 隆明 中村 英樹 林 良嗣
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、日本では従来より実施されてきた車検制度が、自動車の大気汚染物質排出を抑制する効果の分析手法を開発するとともに、その効果の事後的分析への適用をはかった。さらにその結果を踏まえ、車検制度を今後の発展途上国での交通公害対策として導入するにあたっての効果および課題について整理を行った。車検制度が自動車の大気汚染物質排出抑制に及ぼす効果には、1)代替促進効果:車検費用の賦課によって、車齢の高い車から新車への買い換えを促進させ、低排出車が早く普及する効果、2)車両整備効果:車両の劣化によって排出レベルが基準を上回るようになった車両に対し、整備によって排出レベルを低下させる効果、の2つがある。以上の効果を推計するために、まず1)については、車保有者の車両存廃選択行動を、集計ロジット型のモデルにより表現した。説明要因として、各車両の車齢に依存する維持・車検費用と、新車購入費用を組み込んだ。また2)については、運輸省が実施した排出ガス実態調査を利用して、車両の加齢による汚染物質排出量変化を車検制度がある場合とない場合に分けて推計るモデルを構築した。以上の計量モデルによる分析例として、日本の全乗用車を対象に車検制度による大気汚染物質削減効果を推計した。その結果、1989年においては、一酸化炭素については23.4%、炭化水素については16.0%、一定の削減効果があることが把握できた。また、両物質ともに、2)車両整備効果による削減が全体の95%以上を占めることも明らかになった。一方、発展途上国の車両整備制度に関する調査を行った結果、日本よりかなり緩やかであることが分かった。したがって、日本と同レベルの車検を実施した場合には、その効果は日本以上に得られることが予想される。
著者
倉田 玲
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

伝統的な強制投票制度に漏れが生じるのを容認しはじめたオーストラリア高等法院や棄権を繰り返すと投票できなくなる制度を容認しはじめた合衆国最高裁判所の判例を対照するなどの新規の方法により,選挙の公正を前提とする特殊な権利でありながら行使の自由も必須の要素とする権利として選挙権を再定義するとともに,そこに必須の棄権の自由を選挙運動の自由と無理なく統合して自由選挙の原則を理論的に再構成する。
著者
砂川 正隆
出版者
昭和大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

①まずは,健常ラットに漢方薬(抑肝散,加味帰脾湯)を投与することによって,中枢あるいは末梢におけるオキシトシン分泌の変化を調べる。②ストレスモデルラットを用い,漢方薬の抗ストレス作用を検討し,この効果がオキシトシンの分泌を介したものであるか検討する。③オキシトシンの分泌異常が関与する他の疾患モデル動物に対して,漢方薬が有効であるかを検討する。
著者
札埜 和男
出版者
岡山理科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

研究代表者(札埜和男)は、社会科の模擬裁判実践が法的な考え方の育成に傾き人間不在になりがちなのに対して、「人間を深く知り、想像力を駆使して様々な角度から論理と言葉を紡ぐ」国語科で行う模擬裁判の特性を生かし、「国語科」の視点を取り入れた、新科目「公共」の模擬裁判の実践方法を開発したいと考える。具体的には与えられたシナリオを改良する型、与えられたシナリオ通りに演じる型、「公共」担当の教員でも対応可能な国語科定番の文学作品(『羅生門』、『高瀬舟』、『こころ』等)を教材とした型の、3つの実践方法を確立することで、どの学力層の学校でも教員単独でできる模擬裁判の実施方法を開発する。
著者
漆原 尚巳 杉山 大典 佐藤 泉美 橋本 梓 岩上 将夫 米倉 寛
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

医療分野におけるICTの急速な進展により、近年大規模健康情報データベースの疫学的研究への利用が可能になったが、データベースに含まれるデータは、評価したい事象を必ずしもそのまま示すものではない。そのため、各々の研究で評価すべき項目である重要なアウトカム(疾病診断や診療内容、医薬品の使用など)は、診療報酬請求上用いられる単一又は複数のコードなどを組み合わせて規定されており、この定義をアウトカム定義という。本研究では各々の研究で用いられたアウトカム定義に関する情報を蓄積し、研究者間および利害関係者にて共有し研究の透明性を高めるためのレポジトリを構築し、恒常的な運営に繋げることを狙いとする。
著者
今井 宏平 岡野 英之 廣瀬 陽子 青山 弘之
出版者
独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

本研究では、国家をもたない世界最大の民族と言われ、イラク、イラン、シリア、トルコに跨って居住しているクルド人に注目し、クルド人の非政府主体が現在の国際秩序に与えるインパクトを検討した。本研究は研究目的達成のために実証分析と理論分析の2段階で検証を行った。実証分析に関しては、クルド人の活動に関する詳細な分析、そして武装組織の実態、紛争解決に向けた手段、そして紛争後の和解に至るプロセスに関する分析を行なってきた。また、国際関係論、政治学、社会学の理論もしくは概念を実証研究のために掘り下げた。本研究の最終的な成果が『クルド問題:非国家主体の可能性と限界』(岩波書店、2022年2月)である。
著者
森脇 愛子 藤野 博 生駒 花音
出版者
東京学芸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の児童が適応的な仲間関係構築に至る様相とそれを支える支援法を“過程志向的”に検討するものである。本研究の3つの成果は①ASD児の仲間関係構築を相互作用の変容過程から定量的かつ効率的に把握する最適な評価手続きを精査したこと、②評価手続きを用いた2人組の相互作用量および質の時系列データを活かし、ASD児の関係構築傾向と支援介入の示唆が得られたこと、③仲間関係支援が及ぼす効果が確認されたことである。これらの成果により、ASD児は対人行動の非典型特性を持ちながらも、適切な支援環境下では本人が満足できる親密な仲間関係を構築できるという実証に寄与したと考えられる。
著者
真下 厚
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

日本上代文学を日本及び東アジア各地の声の文芸と比較することによって、文学発生の様相、東アジアの基層文化(神話や歌掛けなど)と上代文学との関わり、文字表現の背後に広がる声の生態、声の表現の文字化などのような、上代文学における声と文字との関わりの諸相について考究した。
著者
武田 重信 小畑 元 佐藤 光秀
出版者
長崎大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

西部北太平洋に降下する黄砂などの大気エアロゾルから溶け出す微量金属元素が、海洋植物プランクトンの増殖に及ぼす影響について調べた。大気エアロゾルがアジア大陸から北太平洋に輸送される過程で人為起源物質の影響を受けると、鉄など微量金属元素の溶解率が高くなり、溶解した鉄の濃度に応じて植物プランクトンの増殖が促進されること、火山灰も大気から海洋への微量元素の供給源として重要であることなどが明らかになった。
著者
堀 将太
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

我々はこれまでに、高脂肪食摂取が12α水酸化胆汁酸(12αOH)を増加させることを明らかにしてきた 。本研究では、ラットにおいて高脂肪食摂取が胆汁酸前駆体であるコレステロール蓄積を引き起こし、胆汁酸合成の律速酵素CYP7A1および12αOH合成を司るCYP8B1の遺伝子発現レベルを増加させることで12αOHを増加させる事を明らかとした。さらに、12αOHの増加が肝臓脂肪蓄積と相関することを見出したことから、肝臓で合成される12αOHであるコール酸(CA)をラットに与える事で12αOHの脂肪肝への影響を調べた。その結果、12αOHの増加が摂取エネルギー量と無関係に脂肪肝を発症させることを示した。このとき、興味深いことに、 肝臓脂肪蓄積に関与する肝臓鉄濃度がCA摂取によって低下することを新たに発見した。さらに、バンコマイシン(VCM)投与によって腸内細菌による二次胆汁酸生成を抑制してもCA摂取は肝臓鉄濃度を低下させること、CA摂取による肝臓鉄濃度の低下は食事鉄摂取量および吸収率とは無関係であることも明らかとした。驚くべきことに、肝臓鉄代謝に関わる遺伝子発現を網羅的に解析したところ、鉄輸送に関与するリポカリン2(LCN2)の遺伝子発現レベルがCA摂取によって特異的に増加することを見出した。肝臓がLCN2を産生する主要な臓器である知見と一致して、CA摂取はVCM投与の有無に関わらず肝臓LCN2の遺伝子発現レベルおよび血中LCN2レベルを上昇させた。肥満や脂肪肝患者は鉄欠乏状態に陥るリスクが健常なヒトに比べ高い事が報告されていることから、血中12αOHの増大がLCN2を介して鉄欠乏状態のリスク上昇に関与している可能性がある。
著者
小林 直樹 佐藤 亮介 五十嵐 淳 塚田 武志 吉仲 亮 海野 広志 関山 太朗 佐藤 一誠
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2020-08-31

プログラム検証とは、プログラムが正しく振る舞うかどうかを実行前に網羅的に検証する技術であり、ソフトウェアの信頼性向上のために欠かせないものである。本研究課題では、近年の機械学習技術の台頭とそれに伴うコンピュータによって制御されたシステムの社会への普及を踏まえ、(1)代表者らがこれまで研究を進めてきた高階モデル検査などの自動プログラム検証技術や理論をさらに発展させるとともに、(2)プログラム検証技術のさらなる飛躍のために機械学習技術を活用し、さらに(3)機械学習技術の台頭に伴うソフトウェアの質と量の変化に対応するための、新たなプログラム検証技術の確立を目指す。
著者
塚田 武志 末永 幸平 海野 広志 関山 太朗
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2022-04-01

本研究では,近年著しい発展を遂げている機械学習技術を数理論理学的な問題に応用して,高効率な演繹的推論エンジンを構成することを目指す.機械学習技術は画像認識やゲームAIを含む様々な分野で著しい成功を遂げているが,証明などの演繹的推論が関わる分野には未だに古典的な演繹的推論技術が機械学習技術に優位である問題が多い.これまでの研究では解きたい問題を直接解く機械学習モデルを作る End-to-End の方法が主流であったが,本研究では解きたい問題ではなく機械学習に適した問題を学習させて,学習結果を演繹的推論エンジンで活用する.
著者
杉田 昭栄 前田 勇 蕪山 由己人 佐藤 雪太 青山 真人 加藤 和弘 竹田 努
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では、カラスの病原体と感染症のキャリアの可能性を探るため保有病原体や飛翔の動態について調べた。多くのカラスが鳥マラリアHaemoproteus属とLeucocytozoon属原虫に感染していた。また、腸内細菌叢は、Caulobacteraceae、Bradyrhizobiaceae、Streptococcaceae、Helicobacteraceae、Leuconostocaceaeであることが分かった。GPSの解析結果、カラスの飛翔速度は時速10~20kmであり、その多くは4~5km圏内で生活していた。また、畜産農家の多い地域では、畜舎から畜舎と移動して採餌していることも分かった。
著者
大伴 潔 林 安紀子 橋本 創一 菅野 敦
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

幼児期から学齢期にかけての言語・コミュニケーションスキルの変化を縦断的に追跡し、学齢期での支援ニーズを予測する関連要因について検討した。併せて環境的要因としての家庭での語りかけの豊富さや読み聞かせの頻度等についてアンケート調査も実施した。その結果、幼児期の総合LC指数は学齢期のLCSA指数と有意に相関し、幼児期の言語発達面の課題は学齢期の困難を予測することが示されるとともに、環境・生活要因の影響も明らかになった。幼児期の支援としては、間接的な方法としての言語環境の調整と、より直接的な介入として語彙面、統語面、対人交渉場面でのコミュニケーション面の指導に整理された。
著者
田中 敏郎 平野 亨
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

フラボノイドの適切な摂取によるアレルギー疾患に対する食事療法の開発を目指し、以下の事を明らかした。・スギ花粉症患者を対象として、2重盲検プラセボ比較対照試験において、プラセボと比較して酵素処理イソケルシトリン(ケルセチン配糖体)100mg/日摂取群においては、結膜炎症状が軽減することが明らかとなった。・喘息及びアトピー性皮膚炎モデルマウスにおいて、酵素処理イソケルシトリンの経口投与で、それぞれ気道過敏性と皮膚炎症が低下する傾向が観察された。