著者
固武 慶 神田 展行 滝脇 知也 端山 和大
出版者
福岡大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本年度は、まず、データ解析に関する研究において、初年度に購入した重力波観測データ解析用計算機上に構築した超新星爆発からの重力波などの突発性重力波検出用の重力波探査用解析ソフトウェアを用いて、2020年2月から2020年4月にわたって行われたLIGOとVirgo、KAGRAによる共同観測で得られたデータの解析を行った。その中で特に、突発性重力波の探査について国際共同観測チームをリードして、解析を進めた。観測結果を論文にする上でも中心となって進めている。また、超新星重力波の円偏光についての検出可能性に関して、世界の独立したグループが行った3Dシミュレーションで得られた様々な重力波形に対して調べ、モデルには寄るが、コアの回転を持つモデルに関しては5kpc程度まで検出できることを示し、論文を投稿し、現在査読中である。また、前年度より準備されていた観測データの本研究のバースト解析サーバへの連続送信を稼働させた。国際観測網のデータを10秒前後の遅延時間で受信した。ラプラス変換を利用した短時間遷移信号の解析フィルタを開発し、重力波波形に対する基本的な挙動の評価も行った。理論研究のハイライトとしては、20太陽質量をもつ大質量星の空間3次元の一般相対論的磁気流体シミュレーションを行い、ニュートリノ加熱とともにコアの高速自転によって増幅された磁場が爆発を後押しする、磁気駆動爆発が起こることを示した。ジェット状の爆発に伴い、いわゆるメモリー効果を伴う重力波波形が生成されることを突き止め、現在、論文として発表準備中である。昨年度から引き続き星震学の線形解析法を原始中性子星に適応する手法を開発し、本年度は3本の論文で重力波のモードの擬交差を利用したモード同定について、流体計算の次元が重力波の周波数を変えるか、一般相対論的なメトリック摂動の自由度が重力波の周波数を変えるかなどについて詳しく調べた。
著者
小川 潤
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

ローマ帝国は一般的に、支配下にある都市の自治を尊重し、それら諸都市に統治の一端を担わせることで広大な領域の支配を可能にしたと考えられています。それゆえ、ローマ史研究ではこれまで、都市に注目した研究は多く為されてきました。しかし碑文などを読むと、都市より小規模な田園地帯の共同体も独自の行政機構を有し、広範な自治能力を有していたことがわかります。本研究はこのような共同体に注目し、都市よりもさらにミクロな視点からローマ統治の在り方を考える試みであり、ローマによる属州支配の一端を明らかにするものです。
著者
瀧澤 淳 尾山 徳秀 曽根 博仁
出版者
新潟大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

MALTリンパ腫の発症にIgG4関連疾患(IgG4-RD)が関与している可能性を考え、当科で診断したMALTリンパ腫69例を対象に、IgG4-RD合併の有無について検討した。69例中11例(16%)にIgG4-RDの診断基準を満たす病変が確認された。MALTリンパ腫の部位別では眼窩が41例中10例(24%)にIgG4-RD合併が確認され、他は肺MALTリンパ腫7例中の1例(14%)であった。IgG4-RD合併MALTリンパ腫11例中3例に、経過中部位の異なるMALTリンパ腫や形質細胞腫が続発したことから、IgG4-RDはMALTリンパ腫などB細胞性腫瘍の発症原因となる可能性が考えられた。
著者
上田 真保子 宮沢 孝幸 大保木 啓介
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

乳がん臨床試料から得た遺伝子発現解析で、レトロトランスポゾン由来の遺伝子である「Arc」と「Peg10」が高発現することを見出した。これらの遺伝子はレトロウイルスのGag遺伝子と相同で、ウイルス様の粒子(VLP)を形成し、乳がんの転移に関わる可能性が高い。またVLPを形成可能なタンパク質をコードする、レトロトランスポゾンがヒトゲノムに多数あることから、ArcやPeg10以外にもVLPを形成する遺伝子が存在する可能性がある。本研究では、乳がん試料からVLPを形成するレトロトランスポゾン由来遺伝子をすべて同定し、そのVLPが内包するRNAが乳がん治療に向けての新しい分子標的となりうるかを調べる。
著者
飯塚 舜
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

『人間本性論』におけるヒュームの理論哲学を、虚構主義を打ち出す先駆的な議論として再解釈する。対象とするのは観念説経験論と呼ばれる方法論と、とりわけユニークな議論と評価される因果論である。本研究は2つの部分から成る。一つは、伝統的に懐疑論として理解されてきた因果論を虚構の積極的な側面を論じたものと解釈し、虚構を可能にする枠組みを与える方法論と併せて歴史的に再構成することである。もう一つは、ヒュームの言う虚構が、対象を文字通りではない何かとして扱うという構造を持つ点で現代の「解釈的虚構主義」に通じる点に着目し、彼の因果論及び方法論を現代においてなお魅力的な議論として合理的に再構成することである。
著者
三浦 弘之 泉本 勝利 三上 正幸
出版者
帯広畜産大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

と殺後の家畜の枝肉を早期に冷却することによって食肉の品質劣化を防ぐいわゆるコールドチェーンは流通上のメリットとして一応は定着したが、一方においては急速に冷却されることによって食肉の熟成に関与する様々な酵素系が抑制され、例えばATPの分解が遅れるために死後硬直の最中に食肉を流通させるところから肉が"かたい"とか"うまみに欠けている"とかの評価を受ける様になって来た。本研究ではと殺後の家畜に低電圧電気刺激を行って種々の酵素系を活性化させ、いわゆる熟成を人為的にコントロールしようというものである。昭和61年度においては羊を供試動物とし、直接電圧で3.2〜3.8Vの低電圧で30秒、60秒、90秒、180秒の電気刺激を行って生化学的変化を調べることで肉質変換の機構を明らかにした。昭和62年度においては同様のことを3.2〜3.8V、13.8Hzで30秒、60秒、90秒、電気刺激を加えたホルスタイン肥育牛について生化学変化的変化を調べることで肉質変換の機構を明らかにした。昭和63年度においては最終まとめの年にあたるため研究もれの事項をホルスタイン肥育牛とホルスタイン経産牛をつかって精査し、特に電気刺激によって変換する肉質のうちタンパク質画分、ペプチド画分、アミノ産画分の変化について明らかにした。この3年間の研究成果によって、低電圧電気刺激によって起こる生化学的変化は、食肉色調の鮮明化、肉の軟化、トロポニンTの早期消失、3万、3.2万、3.3万ダルトンバンの出現による食肉の熟成などがみられ、肉質の変換が起こることを明らかにし、低電圧電気刺激は60秒間の刺激時間が最適であることを証明した。
著者
奥山 誠義 水野 敏典 河崎 衣美 北井 利幸 岡林 孝作 加藤 和歳
出版者
奈良県立橿原考古学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究では古墳時代における繊維製品の材料学的・構造的研究方法の基礎的研究を行い、ヤマトにおける古墳時代繊維製品の具体的な変遷の把握を試みた。考古学および文化財科学における新たな価値を生み出す研究を大きな目標として研究を進めた。本研究では、ラミノグラフィおよびX線CTと呼ばれる非破壊調査法により非破壊的に織物の構造調査が可能であること、光音響赤外分光分析が非破壊的に素材を知る手段として有効であることが確認できた。考古学的には新沢千塚古墳群から出土した染織文化財を例として、統計分析をおこない織密度や織物の種類や古墳の墳形、規模との相関について研究した。
著者
高橋 あやの
出版者
関西大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は天文占書を対象とする。『霊台秘苑』や『観象玩占』のテキスト調査をし実態を明らかにした上で、利用可能な資料とすることを目的とする。本研究の研究成果として、以下の4点を挙げることができる。(1)『霊台秘苑』の2系統のテキストの実態解明、(2)『観象玩占』の朝鮮刊本の分析と日韓の受容の比較、(3)天文占書フルテキストデータベースの充実、(4)国際シンポジウム開催、である。(1)と(2)の成果は、学会発表や論文により公開予定である。
著者
渕上 竜也 神里 興太
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2021-04-01

異常な筋肉運動であるジストニアを生じるジストニアマウスを用いた研究を実施し、ジストニアマウスにグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD65)と小胞GABAトランスポーター(VGAT)という2種類のタンパク質を多く発現させることで以下の研究を実行する計画である.①アデノ随伴ウイルス( AAV9 )を利用した新しい遺伝子導入技術(軟膜下注入法という新たな手術手技)によるGAD65/VGATの過剰発現による異常運動の改善②大脳運動野・頸髄におけるGAD65/VGAT増加確認:免疫組織学的検討,分子生物学的検討③脳脊髄における抑制性神経伝達物質の増加:分子生物学的検討,免疫組織学的検討
著者
小出 英夫 千葉 則行 神山 眞 秋田 宏 沢田 康次
出版者
東北工業大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

以下の研究成果を得た。①国土地理院GEONET提供のF3データやRINEXデータを用いて、東北地方を中心とする国内の地殻変動を観察するためのシステムの基礎を構築した。②プレート境界型の巨大地震における、発生数日前からの「プレスリップ(予兆すべり)」の2次元有限要素法による数値シミュレーションを実施する過程において、両プレート間の摩擦係数の時間的・空間的変動の考慮の必要性が明確になった。③過去10年間に発生した東北地方における8個の被害地震では、その地殻変動の時間履歴にプレスリップに関係すると思われる本震直前の2~3日前頃に水平変位の方位角の日変動に変化が生じることがわかった。
著者
神谷 亘
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

SARSコロナウイルスのnsp1タンパク質は、宿主RNA分解促進と40Sリボゾームに特異的に結合することでタンパク質合成を阻害する。nsp1タンパク質によるRNA分解には宿主のRNA分解機構が関与していると考えられる。さらに、SARSコロナウイルスは、nsp1タンパク質によるRNA分解促進や翻訳阻害の存在下においても、効率よく増殖することができる。そこで、SARSコロナウイルスによるnsp1タンパク質のRNA分解促進や翻訳阻害からの回避機構を検討した。その結果、nsp1タンパク質は、ウイルスRNAの非翻訳領域と特異的に結合し、ウイルス由来のRNAと宿主由来のRNAを区別することで、宿主特異的なRNA分解促進と翻訳阻害を引き起こしていることが明らかとなった。
著者
河野 保博
出版者
京都芸術大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2022-08-31

日本列島各地に定着した馬匹文化はその後の社会の基層を支えるインフラとなり、馬は人びとの生活に欠かせない生き物としての存在を確立した。古代の列島全域への馬匹文化の拡散は中央集権体制の構築のなかで進められた国家的な生産が大きな役割を果たした。その拠点となるのが列島各地に設置された「官牧」である。本研究は古代国家によって設置された官牧の存在を検証し、地方支配や馬匹生産の展開、古代の地域空間を考えるための基礎を明らかにしようとするものである。そのため、列島各地の官牧想定地を実地調査し、馬の移動や利用という観点から交通路や地域支配の拠点との関係性を検証しながらその立地環境を明らかにしていく。
著者
浜中 耕平
出版者
横浜市立大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

クリッペルフェイル症候群は頸椎癒合などの骨の症状を呈する遺伝性疾患であるが、その原因は特定されていない。我々は過去の研究において、本症候群を呈する家系に染色体転座を同定した。染色体転座はその周辺の遺伝子の発現を変えることで疾患を起こすことが知られている。本研究では、オミクス解析により本転座の周辺の遺伝子の発現を網羅的に解析し、発現が変化している遺伝子を同定する。次にその遺伝子の骨分化に与える影響を解析し、クリッペルフェイル症候群の病態メカニズムを明らかにする。これらの解析により、本研究はクリッペルフェイル症候群の原因を明らかにし、その診断や治療の開発に貢献するだろう。
著者
加治木 政伸
出版者
筑波大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2022-08-31

暑熱下運動時には、熱放散反応である皮膚血管拡張と発汗が生じ、過度の体温上昇を防いでいる。この熱放散反応についての理解を深めることは、熱中症予防策を確立する上で重要であるが、ヒトの熱放散反応の末梢メカニズムについては、不明な点が多く残されている。本研究では、生体への刺激を感受するセンサーの1つであるTRPV3チャネルに着目し、ヒトの熱放散反応におけるTRPV3チャネルの役割を解明する。
著者
荒 桃子 家入 里志 西澤 祐吏 本多 昌平 渡邊 祐介
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2022-04-01

鎖肛に対する肛門形成術は様々な術式が開発されているにも関わらず,術後の排便機能は必ずしも十分なものとは言えず,就学や就労といった社会活動に影響を与え,成人に至ってもQOLを損ねる要因となり得る.本研究では,鎖肛術後の排便機能の改善を目指し,患児が自宅で継続できる簡易バイオフィードバック装置の開発を目的としている.肛門内に安全に挿入できる筋電図センサーの作成と,これと連動するスマートフォンアプリケーションの開発を行う.約1年かけてセンサー,アプリケーションの開発を行い,次の2年間で臨床試験を行い,その効果を検証する.この研究により鎖肛術後患児の排便機能改善に貢献するものと考える.
著者
榎 牧子
出版者
東京海洋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

海藻凝集剤と植物凝集剤は助剤を必要とする二液型の凝集剤であり、その性能は合成系高分子凝集剤に比べて劣るものである。本研究では、酵素によるタンニンの複合化反応、または金属塩を用いて、海藻凝集剤および植物凝集剤を一液型とすること、および、タンパク質吸着能の付与などの高性能化を目指した。金属塩の試験ではマグネシウム塩とカルシウム塩について検討し、いずれの場合も一液型化が可能であったが、比較的低濃度のカルシウム塩を所定の方法で加えることで、海藻の凝集作用成分であるアルギン酸を効果的に一液型とすることができた。また、得られる一液型凝集剤は高い凝集性能を示すことがわかった。
著者
藤野 英己 近藤 浩代 植村 弥希子 中西 亮介
出版者
神戸大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2020-10-27

再生医療は幹細胞を患部に移植をすることで完了するのではなく,移植後の微小環境が重要であり,再生を促進するための微小環境の管理が必須である.本研究では微小環境形成に関与すると考えられるエクソソームに焦点を絞り,骨格筋に対する物理的刺激で放出されるエクソソームがニューロン再生を促進させ脊髄損傷後の運動機能回復に有効であるかを検証するのが目的である.特に再生微小環境の形成には毛細血管ネットワークの退行予防と血管新生促進が不可欠であると考え,骨格筋から放出されエクソソームが脊髄の毛細血管網の構築に関与するかを検証し,再生医療における神経再生の管理のためのリハビリテーションを開発する.
著者
漆畑 保
出版者
聖マリアンナ医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

喉頭は、発声を一つの機能とする器官であり、この組織を構成する上皮細胞は性ステロイドに対し感受性を有する。このことは音声の男女差に影響していることを意味し、また一方喉頭における新生物発生頻度は男性に多く、この組織における内分泌感受性という観点からの研究の必要性が存在する。性ステロイドによるこれら構成細胞内における作用機構の解明は、細胞活性の制御する上で重要な点である。このことを研究対象とし細胞モデルとして培養喉頭癌細胞を使用し、各種ステロイドに関して感受性実験の結果、胞喉頭上皮細胞が性ステロイド感受性の存在があり、性ステロイドに依存し細胞増殖抑制および細胞死が誘導されることが明らかとなった。なお、その細胞死の際において性ステロイドに対する特異受容体蛋白の発現することは無い(翻訳の不存在)。しかし、男性ホルモン受容体(AR)の翻訳がありそのRNAの選択的阻害により細胞増殖が促進する現象は存在する(転写の存在)。この転写の際、AR遺伝子発現の共役因子であるCBP、SRC、TIF2について検討し、その結果TIF2の転写が確認されずにAR蛋白作用に必要となるP-160の関与を否定しうる結果となった(細胞内シグナルの一部欠転写欠如)。また性ステロイドによる喉頭癌細胞死誘導の際、特異的に上昇する遺伝子発現を確認するため人遺伝子発現に関与する。更にこのことに関しマイクロアレー法により検討したが、ARに関与すると考えられる遺伝子の転写は一切発現していない事が確認された。また、RNA調節に系る段階によるこの細胞死誘導への関与を調べるべくiRNA発現に関してマイクロアレー法を用いて検討した。その結果hsa_miR_27a、hsa_miR_21、hsa_miR_23a、hsa_miR_16、hsa_miR_30c、hsa_miR_30a_5p hsa_miR_30d、hsa_miR_19b、hsa_miR_30e_5p、ambi_miR_7086、hsa_miR_17_5p等が性ステロイドによる喉頭がん細胞死誘導の際に有意に細胞内に上昇するiRNA群であることが確認された。しかし、そのAR遺伝子そのものまたは共役遺伝子に又は関係すると考えられる遺伝子等と基配列において相補的なものはまったく確認されなかった。そこで本研究の対象とする細胞がHPV感染細胞であり、HPV遺伝子が細胞増殖のサイクルに関与していることは確認されており、喉頭癌症例の数パーセントでその感染症例が示されており、そのウイルス存在又はその活性を含めウイルスの発現との性ステロイド関連遺伝子のiRNAとの相互調節も含め検討が必要であり、今後このことを含め更に研究する必要性がある。以上
著者
太田 成男 大澤 郁朗
出版者
日本医科大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

組織が虚血再灌流(I/R)に曝露されると、再灌流の早期段階でROSが大規模に生成され、肝、脳、心臓および腎など様々な臓器の組織に深刻な障害を引き起こす。これまで酸化ストレスによる1/R傷害は基礎研究および臨床研究の重要な焦点とされてきた。I/R誘発性臓器障害の考えられる基礎的な機序は、多くの因子が関与し、相互依存的であり、低酸素症、炎症反応およびフリーラジカル障害に関与している。I/R傷害の病因は未だ解明されていないが、酸素フリーラジカルが重要な役割を担っていることは明らかである。それゆえI/R傷害への臨床的対応としては、フリーラジカル・スカベンジャーが実用的であると考えられている。実際に、これまでにもnicaraven, MCL-186,MESNA,およびαトコフェロールとGdCl_3などの多くの薬剤が、I/R傷害を予防するためのスカベンジャーとして試みられてきた。私たちは、2007年に水素分子がラットの中脳動脈閉塞モデルを用いた研究で、水素分子が治療的抗酸化活性を呈することを報告した。また、昨年は、肝臓の虚血再灌流障害が、水素ガス吸引によって軽減されること、ヘリウムでは効果がなかったことを示した。虚血再灌流障害で、最も患者が多く、適用可能性が高いのは心筋梗塞であると予測されるので、心筋の虚血再灌流障害に対する水素ガスの吸引効果をラットモデルを用いて調べた。結果は、水素ガスを吸引させると虚血状態でも心臓内に水素が浸透しることが確認できた。また、心筋梗塞モデルラットで水素ガスを吸引させることで、梗塞層が小さくなり、心機能の低下も抑制された。分離した心臓を用いても虚血再灌流障害を水素は抑制することが明らかとなった。
著者
嵯峨 智
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は,情報化された仮想物体への直感的な双方向触覚インタラクションを実現する触覚提示手法の確立である.静電気力ディスプレイでは,触覚の知覚強度の評価実験を行うことで入力波形と知覚刺激との関連性や,オノマトペの関係を調査した.また,剪断力触覚ディスプレイでは,振動方向の独立制御により,再現性の高い触覚提示を実現した.また,空間中での熱放射による錯触覚提示システムとして,レーザ光源を用いたシステムなどを作成した.これにより多自由度かつ拘束なし,高速な応答性をもつ力覚ディスプレイのプロトタイプを完成させた.このように,多自由度双方向触覚提示手法の系統的な理論を構築した.