著者
鈴木 彦四郎
出版者
日本英学史学会
雑誌
英学史研究 (ISSN:03869490)
巻号頁・発行日
vol.1979, no.11, pp.153-163, 1978-07-01 (Released:2009-09-16)

あらすじ-ミッションスクールで英語を学び, はじめは, 作家を志望したが, 第一次大戦の好景気時代に中学の英語教師となり, 各地を転々とし, やがて英語科主任となり, 暗い谷間の中で高等教員検定試験に挑み合格。高商教授となったが, 戦争に突入して敗れ, 進駐軍の通訳, 語学専門学校設立, 大学講師, etc.と浮沈を重ね, 眼疾とたたかいながらも研究への情熱を絶やすことなく, 日本語と印欧語の関連性を追求した学究の足跡の記録。
著者
高橋 元彦 丹 美香 木村 知史 池野 宏
出版者
The Society of Cosmetic Chemists of Japan
雑誌
日本化粧品技術者会誌 (ISSN:03875253)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.22-29, 2008-03-20 (Released:2010-08-06)
参考文献数
12

現代社会では, 多くの人が身体的, 精神的ストレスを感じている。ストレスの増加は交感神経の過剰な亢進をもたらすことから, 自律神経機能のバランスを崩しやすい状態にあると考えられる。このような状態は, 白血球分画の顆粒球の増加など生体防御機能にも影響を及ぼし, 生体においてさまざまな悪影響を生じせしめる可能性が高まることが安保らによって報告されている。一方, ニキビ病態においては, Propionibacterium acnesは炎症性誘発物質である好中球走化性因子を産生し, 毛胞に集積した好中球が活性酸素を放出し炎症反応が惹起されることなど好中球のニキビ病態への関与が報告されている。そこで, われわれはストレスによる好中球の増加あるいはリンパ球の減少によって, ニキビの発症しやすい状態あるいは悪化しやすい状態となるのではないかと考え, ニキビ患者群と健常者群における「ニキビができやすい状況」「生活習慣」「ストレス度」といったニキビとストレスとの関連性にかかわる意識調査および顆粒球の大部分を占める好中球, およびリンパ球の白血球中における割合を比較し, ストレスとニキビとの関連性について検討した。さらに, 好中球の増加は好中球由来の活性酸素の増加を招き, 血液の酸化度を上昇させるのではないかと考え検討を加え, フリーラジカル測定システムFRAS4を用いて, 酸化指標として抗酸化力 (BAP) および酸化ストレス度 (d-ROM) を測定した。意識調査からニキビ患者群は心身に負荷を感じたときに, ニキビを発症しやすいと感じていること, 生活習慣においても「不良」に分類される割合が健常者群より高いことが明らかとなった。また, 白血球分析からは, ニキビ患者群は健常者群に比べて好中球の割合が高くリンパ球が低かった。さらにニキビ患者群では, ストレスが多くないと感じている被験者に比べ, 多いと感じている被験者の方が好中球の割合が有意に高いことがわかった。血液酸化指標についても, ニキビ患者群で有意に抗酸化力が低下していることが見出された。以上の結果より, ニキビ患者はさまざまな負荷に対して多くのストレスを感じやすく, ストレスが炎症性の反応にかかわる好中球の増加を招き, 好中球由来の活性酸素を増加させることにより生体内の酸化を促進し, ニキビを悪化させている可能性が示唆された。
著者
遠藤 太郎
出版者
美学会
雑誌
美学 (ISSN:05200962)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.37-47, 2022 (Released:2023-09-28)

Yasuda Yojuro was a Japanese thinker of the Showa period. As earlier studies have demonstrated, early in his career, Yasuda was greatly affected by Marxism, the German Romantics, and Kinsei-kokugaku. However, these studies have not shown the process behind Yasuda’s growing interest in classical Japanese literature. This article aims to fill this gap by examining his early works, which were focused on this genre. First, it is important to note that Yasuda referred not to Japanese classical literature, but to classical Japanese visual artworks when he wrote about premodern Japan in his early works. Further, he associated classical Japanese visual artworks with his hometown, Nara. His major work about classical Japanese literature, Taikanshijinnogoichininsya was influenced by Munakata Shiko’s woodblock print, Yamatoshiuruwashi. This leads to the conclusion that Yasuda’s interest in classical Japanese literature was greatly affected by visual art.
著者
山本 佳奈 田淵 紀子
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.93-104, 2022 (Released:2022-06-30)
参考文献数
15

目 的近年,日本において硬膜外麻酔分娩(以下,無痛分娩)は増加傾向を示しており,ニーズの増加が予想される一方,助産師の中には,無痛分娩に対して否定的で,受容しがたいと感じるものがいるとされている。本研究の目的は,無痛分娩に携わる助産師が,どのような思いを抱きケアを行っているかを明らかにすることである。対象と方法研究デザインは質的記述的研究である。無痛分娩に携わった経験のある助産師16名を対象に,半構造化面接を行った。得られたデータから逐語録を作成し,無痛分娩に携わる助産師の思いが語られている部分を抽出し,コード化し,カテゴリに分類した。結 果無痛分娩に携わる助産師の思いは,6のカテゴリに集約された。【無痛分娩にも良さがあるという実感】【無痛分娩を受け入れようとする思い】では,無痛分娩に携わる助産師だからこそ持つ肯定的な意見と,それゆえに無痛分娩の増加に対応していこうとする語りがみられた。一方,助産師は【分娩が安全かつ順調に進行するように支援する難しさ】【無痛分娩に関する知識不足による不安や難しさ】を抱いており,無痛分娩の支援の難しさを感じていた。【無痛分娩に携わることによる自然分娩の良さの再認識】では,無痛分娩と関わる中で生じる自然分娩の良さへの実感が語られていた。以上のカテゴリを背景に,【産婦の希望に沿い無痛分娩の支援をする中で生じる自身の助産師としての思いとの葛藤】がみられた。結 論無痛分娩に携わる助産師は,無痛分娩の良さや支援の難しさを感じ,葛藤していた。その中でも,妊産婦の希望に沿い,安全な無痛分娩となるよう関わっているということが明らかとなった。安全で満足度の高い無痛分娩を提供するためには,助産師が無痛分娩に関する正しい知識を身に付け,また妊産婦の希望や想いに寄り添い,その選択を支える姿勢で関わる事が必要である。
著者
竹村 和人 向川 均 前田 修平
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.4, pp.879-897, 2021 (Released:2021-08-20)
参考文献数
47

現在気候及び将来気候を対象とする大気大循環モデルによる大規模アンサンブルシミュレーションの結果を用いて、8月の北太平洋中央部におけるロスビー波の砕波頻度の将来変化、及びそれに関連する大気循環場の特徴を調べた。現在気候実験における北太平洋中央部での砕波頻度は、再解析データと同様に、エルニーニョ・南方振動と関連することが相関解析より示された。将来気候実験における北太平洋中央部での砕波頻度は、現在気候実験と比べて顕著に減少することが分かった。将来気候実験では、アジアモンスーン循環が顕著に弱化し、その結果としてアジアジェット気流が南偏する傾向が見られた。このアジアジェット気流の将来変化に伴って、北太平洋中央部ではジェット気流の分流・減速が弱化し、それは砕波頻度の減少と関連していた。また将来気候実験では、ユーラシア大陸及び北太平洋の中緯度でロスビー波の波束伝播が弱化する傾向が明瞭であり、このことは砕波頻度の減少と整合的である。相関解析及び頻度分布の解析より、将来気候実験における砕波頻度の減少は、フィリピンの東海上での積雲対流活動の弱化と関連することが示された。さらに、ω方程式を用いた診断より、砕波頻度の減少は、中部太平洋トラフの弱化及びそれに伴う力学的上昇流の弱化を通して、フィリピンの東海上での積雲対流活動の弱化に影響を及ぼすことが示された。
著者
大西 基代 戸田 静男 菅田 良仁 東家 一雄 黒岩 共一 木村 通郎
出版者
公益社団法人 全日本鍼灸学会
雑誌
全日本鍼灸学会雑誌 (ISSN:02859955)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.420-422, 1988-12-01 (Released:2011-05-30)
参考文献数
7

隔物灸は, その温熱刺激と隔物の作用を生体に与え, 治療効果を得ていると考えられている。そこで, 隔物の灸により溶出する含有成分の検出を thin layer chromatography を用いて行った。その結果, 隔物として用いた生姜, 大蒜より各々の含有成分の溶出が確認された。このことは, 隔物から溶出する成分の薬理作用が, 温熱刺激とともに重要な役割を持つことを示唆している。
著者
柴野 良美
出版者
日本経営学会
雑誌
日本経営学会誌 (ISSN:18820271)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.81-94, 2020 (Released:2021-09-01)
参考文献数
40
被引用文献数
1

This study considers the corporate philosophy of a company and attempts to verify the effect of organizational culture on corporate fraud through quantitative empirical analysis using text mining. The result of my empirical research using terms extracted by frequency analysis shows that companies with a stakeholder-oriented philosophy and a society-oriented philosophy have had reduced fraudulent activities. On the contrary, companies with a region-oriented philosophy have had an increase in fraudulent activities. The results of additional cluster analysis show that companies with social contribution and value creation philosophies have had a reduction in fraudulent activities. Companies with a philosophy of denying fraud do not show any significant fraudulent activities. The results of a quantitative empirical analysis indicate that corporate organizational culture may have an effect on corporate fraud. While previous research mainly analyzed the impact of governance systems on corporate fraud and recommended countermeasures, this research will make the following contributions. This study empirically shows that corporate culture can affect fraud. By using text mining of corporate philosophy as a proxy variable of organizational culture, the factors affecting corporate fraud were quantitatively analyzed. Further, it also empirically demonstrates what organizational cultures may have an effect. If corporate fraud is affected by organizational culture, simply changing corporate governance at the directorate level, such as to increase the total of outside directors is not enough to combat corporate fraud. I believe that the corporate culture of a company should be regarded as one of the governance mechanisms for the sustainable survival of the company.
著者
田井中 雅人
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.57-70, 2022-07-10 (Released:2023-07-10)
参考文献数
34

『放射線被曝の歴史』を著した神戸大教授・中川保雄(1943-91)は,広島・長崎への原爆攻撃による「効果」を調査したアメリカ軍合同調査委員会と原爆傷害調査委員会(ABCC)が,爆心地から2キロ以遠の様々な症例を被曝の急性症状から切り捨てるなど,恣意的な基準をつくって放射線被害の過小評価を定着させたことを突き止め,それはアメリカの原爆投下を正当化するためだったと論じた. 「マンハッタン計画」にあたった科学者たちは,「耐容線量」に替えて「許容線量」の概念を打ち出し,遺伝学者の懸念や世界的な反核世論を抑え込んだ. 放射線被曝防護をめぐる「国際的基準」について,中川は「核・原子力開発のためにヒバクを強制する側が,それを強制される側に,ヒバクがやむをえないもので,我慢して受忍すべきものと思わせるために,科学的装いを凝らして作った社会的基準であり,原子力開発の推進策を政治的・経済的に支える行政的手段なのである」と看破していた.福島原発事故後もそうした基準の押しつけが続いており,中川の研究の今日的意義が再評価されるべきである.
著者
村上 隆
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.64, no.5, pp.242-243, 2016-05-20 (Released:2016-12-27)
参考文献数
6

三角縁神獣鏡は,古代日本の最大の謎の一つである。邪馬台国の女王卑弥呼が,中国魏の皇帝から下賜された鏡100枚にあたるとする説もあるが,すでに500枚を超える出土がある。いつ,どこで,誰がどうやって作ったかもわからない謎の鏡なのである。三角縁神獣鏡に対するこれまでの研究は,裏面の文様の研究が主であり,鏡本来の機能を考察するには至っていなかった。古代鏡に対する材料科学的研究の一環として,三次元デジタイザで形状を計測し,さらに成分調整をした金属粉体を用いた3Dプリンタによって三角縁神獣鏡を精確に復原した。そして,その鏡面が太陽光によって「魔鏡現象」を起こすことを実証することができた。
著者
平井 良直
出版者
日本インテリア学会
雑誌
日本インテリア学会 論文報告集 (ISSN:18824471)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.65-73, 1995 (Released:2022-06-01)

幕末の横浜に建てられた揚屋建築のうち,最大かつ最も豪華なものが<岩亀楼>であり,そこには《扇の問》という座敷があった。その室内装飾は, [扇面散し]ないしは[扇面流し]といったインテリア・デザインの伝統を引くのみならず,横浜開港直後に幕府の政策に沿って建てられた異人揚屋であるという, <岩亀楼>の歴史的特異性をも反映しているように思われる。
著者
角 哲 角 幸博 池上 重康
出版者
日本建築学会
雑誌
日本建築学会計画系論文集 (ISSN:13404210)
巻号頁・発行日
vol.72, no.619, pp.165-172, 2007-09-30 (Released:2017-02-25)

In this paper, we examine the residential area of Oji Paper Co. Ltd. Tomakomai factory. The residential area had located around the factory. Officers area located near the main office, and the welfare buildings had a high amenity for officers. Worker's area located around officers. Officers area didn't expand but got number of residence increased. Almost all the houses made from wood, and served out by the company until WWII. The structure of the houses changed into concrete blocks or RC. after the war. Many welfare buildings were there in this company town, buildings for officers, like club-house, were built led to workers before 1933. After that, the welfare buildings were served for all employees without difference of class after 1933.
著者
安間 了 山本 由弦 下司 信夫 七山 太 中川 正二郎
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.120, no.Supplement, pp.S101-S125, 2014-08-31 (Released:2014-12-26)
参考文献数
65
被引用文献数
1 3

世界自然遺産・屋久島の生物多様性を支えるのは海洋性の環境の中に現出する高山地形である.多くの海洋島が火山からなるのに対して,屋久島の基盤を構成するのは四万十帯の砕屑性堆積岩類と屋久島花崗岩である.本巡検では高山を形成する屋久島花崗岩の貫入機構を,正長石巨晶の定方向配列,岩脈の分布,貫入に伴う母岩の変形と接触変成作用の観察を通して議論する.母岩の四万十帯の地層や枕状溶岩の産状,付加体中での圧密,メランジュやデュープレックス構造の形成,地震による液状化構造がどのような順序で発達したかを観察し,付加体の変形史とメランジュの認定基準について議論する.また鬼界カルデラの噴火に伴う火砕流堆積物の産状,噴火による地震が引き起こした液状化などの構造を観察し,海中における爆発的噴火がもたらしうる災害のシナリオを検討する.
著者
突沖 満則 松三 昌樹 水川 俊一 阿部 晋也 板野 義太郎 小坂 二度見
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.263-269, 1984-07-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
27

血清亜鉛は, 熱傷, 心筋梗塞, 手術侵襲および急性感染症などにより減少することが報告されている. 今回われわれは, 吸入麻酔下に予定手術を行なった24例について, 術後7日目までの血清亜鉛を測定したので報告する.大手術群16例の平均血清亜鉛は, 術前101±15.5μg/100mlであったものが, 術後2時間で57±10.6μg/100mlと最低となり, その後漸増し, 術後3日目には94±24.6μg/100mlと術前のレベルに回復した.一方, 小手術群8例の平均血清亜鉛は, 術前104±22.8μg/100mlから, 術後1日目に78±18.0μg/100mlと最低となり, 以後漸増し, 術後3日目には84±16.7μg/100mlと術前のレベルに回復した.術後1時間および2時間の血清亜鉛を大手術群と小手術群で比較すると、大手術群で有意に低値を示した.このように, 血清亜鉛減少の開始時期と程度は手術侵襲の大きさに相関していると考えられるが, 血清亜鉛が術前のレベルに回復するまでの期間は, 大手術群と小手術群で有意差はなかった.
著者
井口 昭久
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.85-90, 1996-02-29 (Released:2011-03-02)
参考文献数
46
被引用文献数
1
著者
清水 邦彦
出版者
金沢大学地域連携推進センター
雑誌
金沢大学サテライト・プラザミニ講演
巻号頁・発行日
2009-05-17

金沢大学人間社会研究域人間科学系
著者
魚里 博
出版者
JAPANESE ASSOCIATION OF CERTIFIED ORTHOPTISTS
雑誌
日本視能訓練士協会誌 (ISSN:03875172)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.61-66, 2006-08-31 (Released:2009-10-29)
参考文献数
9
被引用文献数
1

視力や屈折などの視機能の測定は、眼科検査の最初の必須項目であるが、その評価手順は簡単ではなく生理学的および心理学的な多くの要因の相互作用も要求される。瞳孔径はこのような屈折や視力などの視機能検査に関係する重要な因子であるが、その効果は複雑である。我々は瞳孔径や収差が両眼視下や単眼視下の視機能検査に及ぼす影響を検討した。視力やコントラスト感度測定中における瞳孔径を経時的に連続測定した。収差測定はOPD-Scanにより行い、得られたゼルニケ係数をSchweigerling法により両眼視下あるいは単眼視下の瞳孔径に合わせた径で再計算した。両眼視下のコントラスト感度(logCS)は単眼視下のものより有意に高い感度を得た。両眼視下の視力は単眼視下より有意に良好であった。平均瞳孔径は両眼視下で単眼視下よりも有意に小さかった。瞳孔径が減少するに従い、光学収差は有意に増加した。このことは、単眼から両眼への瞳孔径の減少(縮瞳)は、眼球光学系の光学収差を減少させ、ひいては自覚的な視機能を改善するのに貢献していると考えられた。単眼視から両眼視下あるいはその逆に伴う瞳孔径の変化は、日常臨床における各種視機能検査へ重要な影響を与えることを常に考慮すべきである。
著者
後藤 喜広
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.2_245-2_259, 2022-07-20 (Released:2022-07-20)
参考文献数
44

目的:総合病院に勤務する男性看護師が経験するセクシュアル・ハラスメント(以下SHと略す)の内容の類型,およびSHに対する対処行動について類型,分析し,その特徴を明らかにする。方法:A団体に所属する総合病院で働く男性看護師9名を対象に,半構造化面接で得られたデータを質的に分析した。結果:男性看護師が経験するSHの内容は【看護業務が発生に起因する】【男性性が意識されて発動する】【身体が軽々に扱われる】【経過のなかで加害者が複数化する】の4つのカテゴリー,SHに対する対処行動は,【個人のみで行う対処行動】【他者が介在する対処行動】の2つのカテゴリーに分類された。結論:看護師の業務の特殊性および権力構造を背景としたSHが発生していたことから,看護の職場環境においては,性別および被害者,加害者という一義的な立場ではなく,双方的,多面的な立場の理解が得られるような倫理教育の必要性が示唆された。
著者
萩原 綾希子 小田 浩之 牧野 綾 合田 由紀子 松山 茂子 長尾 知哉
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.323-326, 2020-10-25 (Released:2020-10-28)
参考文献数
11

症例は虫垂がん,腹膜転移根治術後の20歳代女性で,2年4カ月間明らかな再発を認めなかった.治療過程でフェンタニル口腔粘膜吸収剤[以下,OF(oral fentanyl)]を使用していたが,次第に回数が増加し,800 μg/回のOFを1日に10回以上使用するようになった.OF処方を過剰に要求し,希死念慮も出現したため入院管理下に減量・中止が計画された.1,800 μg/日まで減量されたが,それ以上の減量が困難となったため,薬剤調整目的に当院に紹介となった.精神科病棟に入院させ,本人の同意を得てOFをメサドン10 mg/日へ置き換えた.当初はOF使用を強く要求したが,クエチアピンの投与やスタッフによる支持的精神療法を行ううちに要求は減少した.入院15日目にはブプレノルフィン貼付剤に切り替え,25日目にオピオイド使用を完全終了した.入院経過を通じて身体離脱症候は認められなかった.OFの断薬には,精神療法・支持療法とともにメサドン・ブプレノルフィンへの切り替えが有効であった.
著者
網中 昭世
出版者
独立行政法人 日本貿易振興機構アジア経済研究所
雑誌
アフリカレポート (ISSN:09115552)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.34-46, 2023-08-24 (Released:2023-08-24)
参考文献数
28

本稿の目的は、避難先から出身国に帰還した元難民と、避難先に残留した元難民の経験を比較し、難民問題の恒久的解決策のひとつとして難民が帰還を望むことを前提に立案される帰還支援プログラムの妥当性を検討することである。具体的に検討する事例は、1980年代から1990年代にかけてモザンビーク内戦の過程で南アフリカに流入した元難民である。この難民に対する帰還支援プログラムはUNHCRによって1994年から翌年にかけて実施されたが、モザンビーク南部出身者に関してはUNHCRの期待に反して利用者が少なかった。本稿では、その実施からほぼ25年が経過した時点でモザンビークおよび南アフリカで実施した聞き取り調査に基づき、難民が帰還を選択しなかった要因として、対象地域の歴史的な生計活動と帰還支援プログラムが実施された当時の政治環境を挙げる。本稿の事例は、帰還支援プログラムが一様に実施されようとも、難民がそれを利用して帰還するか否かは、地域・時代特有の政治経済環境に大きく影響を受けることを明らかにしている。それは「帰還」を前提とした難民問題への対処に再考の余地があることを示している。