著者
竹内 孝治 加藤 伸一 芝田 信人 高田 寛治 田中 晶子 吉川 由佳子
出版者
京都薬科大学
雑誌
地域連携推進研究費
巻号頁・発行日
1999

ポリフェノールの一つとして、ウイスキー中に多量に含有されているエラグ酸(EA)が前年度までの検討により胃粘膜保護作用および抗酸化作用を有することが示してきたが、さらに今年度は、新たに開発された大腸デリバリー化のための圧感応性カプセルに封入したEAを用い、デキストラン硫酸(DSS)によって誘発される潰瘍性大腸炎の発症に対するEAの効果を検討した。1.圧感応性大腸デリバリーカプセルPressure-controlled colon delivery capsule(PCDC)の使用により、投与されたEAは盲腸部に到達した後に徐々にカプセルから遊離溶出することが判明した。2.ラットにDSSを7日間連続投与することにより、体重減少、大腸の短縮化ならびに下血および下痢を伴う重篤な大腸炎が発生した。DSSによる大腸炎の発生は、PCDCに封入したEA(mcEA : 1-10mg/kg)を1日2回、7日間連続経口投与することによって、用量依存的かつ有意に(>3mg/kg)抑制された。また、mcEAの投与はDSS処置下に認められる大腸の短縮化、脂質過酸化を正常レベルにまで低下させると共に、好中球の浸潤に対しても抑制傾向を示した。なお、DSS誘起大腸炎に対するmcEA(3mg/kg)の保護作用はスーパーオキサイドジスムターゼ(SOD : 30000units/kg×2)の直腸内投与で得られた効果と同程度であり、また同用量のEA原末と比べて有意に強いものであった。3.これらの結果は、EAがポリフェノールとして抗酸化作用により、臨床における潰瘍性大腸炎の治療に有効性を発揮する可能性が示唆された。
著者
丸山 工作
出版者
千葉大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

アクチン調節タンパク質No.1のβ-アクチニン(1965)は, 本申請者によって発見されたものであるが, アクチンフィラメントの自由端(即矢じり端)に結合すると1977年に報告した. ところが, ジョンズ, ポプキンス大学のグループは, β-アクチニンと同じサブユニットからなるタンパク質をニワトリ筋肉から純化し, 反対の反矢じり端に結合して, しかもZ線に存在することを示し, キャップZと命名した(1986-87). 本研究は, この違いを解明するためにおこなわれたものである.本研究において, まず明らかになったのは, ジョンズ・ホプキンスグループの方法で純化したキャップZは, たしかにアクチンフィラメントの矢じり端ではなく反矢じり端に結合すること, 35Kと32Kのサブユニットからなることである. 後者は, β-アクチニンのサブユニット(βIとβII)と同じサイズであり, しかも抗β-アクチニン抗体と反応することから, 同一とみなされる. すなわち, キャップZとβ-アクチニンは同じタンパク質にほかならない. すると, どうしてアクチンフィラメントの異なる末端に結合するのかが問題となる.ウサギやニワトリの筋肉からβ-アクチニンを調整すると, アクチンフィラメントの両端に結合しうることがわかった. その結合の方向性がぎのようにしてきまるのかは, なお不明である. また, 抗β-アクチニン抗体は, 筋原線維の2点ならびにM線ふきんに結合することが蛍光抗体法によって示された. 抗βII抗体はZ線にのみ局在するタンパク質と反応し, 抗βI抗体はM線近く)すなわちアクチンフィラメントの自由端)を染色した. そこで, β-アクチニンは, βIとβIIのなんらかの相互作用によって, アクチンフィラメントのどちらの端にも結合しうるのではないかと思われる. この点は, さらに研究を進めていきたい.
著者
林 則行
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

商用周波数領域において人体内部抵抗および体内電流密度分布の検討を行った。BMIが16.1~41.4 kg/m2の被験者26名に対して550 ~800Ωの人体内部抵抗値が得られた。これらの実測値は過去の同様な実測結果ともよく一致したが,詳細人体モデルを用いた数値解析値と比較すると1/3~1/2倍程度とかなり小さい。しかし,人体内部抵抗とBMIとの関係や電流経路に沿った相対的な人体内部抵抗の分布特性は数値解析値とよく一致した。また,BMI値が増加すると、人体内部抵抗値は減少すること,心臓周辺では、導電率の高い、肺や心臓などに電流が集中し、その電流の方向は感電経路に依存することが分かった。
著者
山田 薫
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

ワクチン療法はアルツハイマー病(AD)の現在最も有効な根本的治療法と考えられている。その有力なメカニズムとしてsink仮説が広く受け入れられているが、これまで抗体が実際に血中でAβの引き抜き(sink)効果を示すかについては、実験的に確かめられていなかった。そこで抗Aβ抗体の受動免疫とBEI法を組み合わせ、sink仮説の実験的検証を試みた。マウスに抗Aβ抗体m266を受動免疫した後にBEI法を行い、抗体の存在下でAβの脳からの排出速度の変化を観察した。その結果、m266の投与によって引き抜き現象は生じず、Aβの排出速度が逆に遅延していることを見いだした。さらにこれまで末梢血中で機能すると考えられてきたm266が脳内に一部移行し、Aβと結合することを見いだした。この結果はm266はAβ引き抜き作用以外のメカニズムで作用していることが示唆するものであった。そこでワクチン療法における抗Aβ抗体の新たなメカニズムを明らかにするために、脳内にAD様のアミロイド蓄積を再現するAPPtgマウスを利用し、m266を投与した場合の脳内のAβの存在様式を調べた。Aβモノマーは構造変化を起こしてアミロイド線維化する過程で、Aβオリゴマーを形成し、それが神経細胞障害性を有すると考えられている。申請者はモノマーAβを特異的に検出するELISA系を樹立し、これを利用して、m266抗体を投与したAPPtgマウスの脳内のAβ量を測定すると、抗体の投与により、Aβのモノマーとオリゴマーの総和は変化しないにも関わらず、毒性のないモノマーAβが増加していることを見いだした。この結果から、抗Aβ抗体は脳内においてAβを毒性のないモノマーの状態で安定化することで構造変化を抑制し、毒性分子種Aβオリゴマー形成を阻害するという結論に至った。
著者
福田 宏 姉川 雄大 河合 信晴 菅原 祥 門間 卓也 加藤 久子
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究は、社会主義期の旧東欧諸国を事例として権威主義体制の強靱性を明らかにしようとするものである。従来の政治学の議論では、全ての国や地域は民主化されるべきであり、実際においても、その方向に向かっているという暗黙の了解が存在した。ところが、2010年代半ば頃より、民主主義の「後退」や権威主義体制の「しぶとさ」が盛んに議論されるようになってきている(例えば、モンク『民主主義を救え!』2019)。その点において、東欧の権威主義体制は今こそ参照すべき歴史的経験と言える。本研究では、史資料の公開やオーラルヒストリーによって急速に進みつつある歴史学上の成果を活かしつつ、当時における体制の内実に迫りたい。
著者
岡田 正則
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、日本における行政救済制度(行政事件訴訟および国家賠償訴訟・損失補償訴訟)の形成過程の通史を比較法制史の視角からまとめること、を目的とした。具体的には、(1)公法学における歴史研究の基本的な視点と方法論を明らかにした、(2)国の損害賠償責任の範囲と「行政処分」概念との関係史という視点から、憲法・行政法・民法理論と判例の歴史的分析を行った、(3)経済行政法理論の形成史および裁判制度史の視点から行政争訟法制度の歴史的位置づけと変遷過程の分析を行った。これらの研究の成果として、いくつかの学会報告を行うとともに、10本の論文等を公刊した。
著者
前橋 健二 久保田 紀久枝
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

味と香りの複合刺激並びに単一物質の複雑味の分子機構を明らかにするために、香気物質が味覚受容体の味応答に及ぼす影響、並びに単一味物質による複数味覚受容体への作用を調べた。官能評価によってカルダモン香気成分は匂閾値以下の濃度で茶カテキンEGCgの苦味を有意に抑制した。さらに、HEK293細胞を用いたセルベースアッセイにおいて、カルダモンの香気成分存在下ではEGCgに対する苦味受容体T2R14発現細胞の応答が抑制されることが示された。また、セルベースアッセイによって、清酒の甘味成分であるα-エチルグルコシドが甘味受容体T1R2-T1R3だけでなく各種苦味受容体も活性化することが見いだされた。
著者
一谷 智子
出版者
西南学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

現代社会は、環境問題をはじめ、貧困、テロ、戦争など、もはや国民国家の枠組みでは対応が困難なほどグローバル化した危機を抱えている。本研究は、そうしたグローバル・リスクの一つである(核兵器と原子力発電の両方を含む)核問題を描いたアメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスを中心とする英語圏の文学と日本の文学を横断的に分析・考察することを通して、人類共通の危機を回避するための国や文化を越えた連帯の可能性と、持続可能な社会を構築するための地球規模の環境的想像力の意義を明らかにした。
著者
宇南山 卓 高橋 悠太
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2019-04-01

家計簿アプリにより収集されたデータによって、新たな家計データを構築する。家計簿アプリとは銀行口座の出入金情報を自動的に収集するウェブサービスで、家計の収入・支出を自動的に記録するサービスである。誤記や記入漏れが発生せず、より正確な家計収支や資産保有の情報が把握できる。さらに、アプリ利用者を対象に、独自調査を実施して世帯属性を把握する。通常の統計調査では協力を得ることが難しい世帯行動・取引項目を把握することができる。構築されるデータは、家計内分配、消費税引上げの影響、家計の資産保有と消費の関係、などの分析に活用される。
著者
高木 康博
出版者
東京農工大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

拡張現実(AR)技術の表示デバイスとして、現在はシースルー型ヘッドマウントディスプレイが用いられている。本研究では、究極のAR用表示デバイスとして、コンタクトレンズ型ディスプレイをホログラム技術を用いて実現した。コンタクトレンズ型ディスプレイの実現では、ディスプレイをコンタクトレンズ内に置くと目がピント合わせできないことが問題となるが、ホログラムにより目から離れた位置に立体表示することでこれを解決した。本研究では、スケールアップ光学系を作製して、提案した表示原理の有効性を確認した。また、コンタクトレンズに組み込むために必要なレーザーバックライトを開発し、実際のホログラム表示に用いた。
著者
岡本 卓
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

日本列島には,3種4系統のトカゲ属(Plestiodon,トカゲ科,爬虫綱)が側所的に分布し,4箇所に接触帯を持つ.これらのうち未記載種だったものを新種として記載し,八丈島における外来・在来個体群の分布と交雑の状況を明らかにした.また,分子系統解析により各系統が約600~200万年前に分岐したと推定された.そして,新たに開発したマイクロサテライトマーカーと既知の遺伝子マーカーを使用した集団遺伝学的解析により,交雑帯によって遺伝構造が異なることが示された.これは,交雑帯の形成に関わる歴史の違いを反映した生殖隔離機構・強度の違いによるものと推測される.
著者
甘利 航司
出版者
國學院大學
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

性犯罪者を一定の場所に住まわせないという「居住制限」がある。しかし、対象者は居住場所を追われるだけであり、それが再犯防止効果をもたらすわけではない。そして、日本でも広く知られた、「登録・通知制度」がある。これは、対象者の居場所等を警察が把握し(登録制度)、場合によっては、その情報に一般の人がアクセスできるという制度である(通知制度)。しかし、この制度も同様に再犯防止効果がない。そこで、GPSを対象者に付加するという制度がある。これについては、再犯防止効果があるという実証研究と、そのようなものはないとする実証研究があり、今後の研究が必要な領域である。
著者
有村 誠
出版者
金沢大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

南コーカサスにおける完新世初頭の遺跡の動態については不明な点が多い。本研究では、完新世初頭から中頃(前10000~5000年)までを対象に、アルメニアにおける先史文化の解明に取り組んだ。アルメニア北東部のイジェヴァンを中心として調査を行った結果、完新世前半の洞窟・岩陰遺跡が数多く存在していることが明らかとなった。また、それらの物質文化はアララト盆地の農耕村落遺跡群のそれと大きく異なることから、文化伝統の異なる集団が残した遺跡であることが推測された。完新世初頭のアルメニアには、生業、文化系統を異にする複数の集団が併存していた可能性が高い。
著者
岸本 宗和 柳田 藤寿 横森 勝利
出版者
山梨大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

マスカット・ベーリーA(MBA)種赤ワインの品質向上を目的として、市販ワインにおけるγ-ラクトン類およびフラネオールの香気成分含有量を調査するとともに、γ-ラクトンの生成機構の解析およびワインの含有量に及ぼす醸造条件の影響について検討した。γ-ノナラクトンは、ブドウ品種間のリノール酸含有量の差異、発酵工程における果皮および種子の浸漬、ブドウの収穫時期および発酵に用いる酵母菌株の影響を受けて含有量が異なると推測される。さらに、新たに開発したMBAの副梢果房を用いる赤ワインの醸造方法は、γ-ノナラクトンおよびフラネオールの含有量を高め、ワイン品質の向上に有効であることを明らかにした。
著者
岩崎 宏之 仲地 哲夫 並木 美太郎 桶谷 猪久夫 柴山 守 勝村 哲也 星野 聰 石上 英一 高橋 延匡 梅原 郁 石田 晴久
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1994

かつて琉球は、東アジア世界における地域間交流の要、「万国之津梁」として繁栄した。この沖縄の地理的重要性は、今日においても変るところがない。沖縄は今も日本、中国、台湾、朝鮮半島、さらには東南アジアの諸地域を包む環東シナ海世界の要である。沖縄をそのような国際社会のなかに位置付けて地域間交流の具体的様相を歴史的に考察し、東シナ海を取り囲む諸民族、いわゆるアジアニーズの歴史的変貌を明らかにすることを課題として重点領域研究「沖縄の歴史情報研究」は平成6年度より同9年度までの4年間の研究期間をもって遂行された。本研究は、領域研究の成果を取りまとめて研究成果報告書を作成し、領域研究の成果である琉球・沖縄史と環東シナ海地域間交流史に関する各種歴史情報を、学界はもとより広くインターネット等を利用して一般に公開・利用に供することを課題とした。琉球・沖縄史と環東シナ海世界の地域間交流史に関する多種多様な歴史資料をいかにして情報化するか、本領域研究では、(1)各種研究文献の統合的把握のための歴史情報の集積と検索システムの開発、(2)古文献、古文書資料など琉球・沖縄に関する歴史資料が、どこに、どのようなものがあるか、各種歴史資料の所在に関する情報の集積と検索システムの開発に関する研究、(3)本領域研究で調査・収集した琉球・沖縄史と環東シナ海世界の地域間交流史に関する基本的史料の画像情報の検索システムの開発とこれら各種資料をインターネット上で広く公開・利用するためのシステムの開発、(4)琉球王朝期の外交文書集「歴代宝案」や琉球家譜、「明実録」「清実録」「島津家琉球外国関係文書」など、琉球・沖縄史研究にとっての基本的文献の全文テキスト・データベースや環シナ海地域間交流史に関する各種の文献史料の情報化、を進めた。計画研究・公募研究の各研究班によって行なわれたこれらの情報化資料はすべて総括班に集積された。本研究課題は、これらの情報化資料の統合、ならびにその検索システムの開発等に関する各種の研究成果の取りまとめを行ない、またこれら収集・集積した各種歴史情報を筑波大学付属図書館の電子図書館サーバーからインターネットに公開・提供するための整備作業を進めた。平成10年8月には、本領域研究の全体を総括した総括班研究成果報告書「沖縄の歴史情報研究」を刊行した。また、本領域研究で収集されたマイクロフィルム等各種歴史情報は、東京大学史料編纂所、筑波大学附属図書館、大阪市立大学学術情報総合センター、沖縄国際大学南島文化研究所等に寄贈し、ひろく学界の利用に提供することにした。
著者
大沼 正寛
出版者
東北工業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

本研究は、天然スレート民家建築の分布状況とその普及プロセスを明らかにすることを目的としたフィールド調査研究である。東日本大震災直後の混乱により調査は難航したが、天然スレート生産の嚆矢となった旧桃生郡十五浜(石巻市雄勝町付近)を中心に、陸前北上地方を捜索して地理情報システムで整理した。また、硯と石盤に始まった地域産業と洋風建築特需の栄枯盛衰、二次良品地消システムともいうべき地元普及プロセスと背景にある復興産業史を描くことができた。さらに民家遺構の具体例を実測調査し、気仙大工系技術者の軸組架構や周辺民俗遺構などにも考察を寄せ、広域文化的景観を形成した歴史地理を把握することができた。
著者
谷川 建司 小川 順子 小川 翔太 ワダ・マルシアーノ ミツヨ 須川 まり 近藤 和都 西村 大志 板倉 史明 長門 洋平 木村 智哉 久保 豊 木下 千花 小川 佐和子 北浦 寛之
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究は、日本映画史上最大の構造的転換期・構造的変革期をなす1960年代末~70年代を対象とし、その社会経済的実態を次に掲げる問題群の解明を通して明らかにし、その歴史的位相を確定する。即ち、①スタジオ・システムの衰退・崩壊の内実とその産業史的意味、②大量宣伝・大量動員手法を確立した角川映画の勃興、③映画各社が試みた経営合理化と新たな作品路線の模索、④「ピンク映画」の隆盛の実態とその影響、⑤異業種からの映画産業界への人材流入の拡大とそのインパクト、である。上記の五つの括りに因んだ映画関係者をインタビュイーとして抽出し、研究会一回につき1名をゲストとして招聘し、精度の高いヒアリングを実施する。
著者
高宮 利行 松田 隆美 アーマー アンドルー 鷲見 洋一
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

西洋中世写本及び初期印刷本のデジタル撮影をするにあたって、研究素材への物理的負担を最小限にとどめさらに短時間で高精細の全ページデジタル・ファクシミリを製作するための撮影環境を整備するために、独自のデザインによる専用撮影架台を制作し、撮影対象ページの平面性やサイズの同一性の確保のために実験を重ね、短時間で均質な高精細画像の取得が可能となった。その環境で通常のアナログカメラ(4×5及び6×7)と2048×2048pixelの画像の撮影が可能なSHD View-2デジタルカメラ(NTT/オリンパス製)の両方を用いて、稀覯書のデジタル化作業を進めた。その結果、慶應義塾大学内はもとより、海外の大学や研究期間との国際的協力のもとに、2年間で「グーテンベルク聖書」(慶應義塾大学所蔵、マインツ市、グーテンベルク博物館所蔵、英国図書館所蔵)、チェーザレ・リーパ『イコノロジーア』全5巻(1764-67)、西洋中世写本零葉コレクション、15世紀の時祷書写本(以上、慶應義塾図書館所蔵)などをデジタル撮影して、その経過をウェブサイト(http://www.humi.keio.ac.jp)やCD-ROMで公開した。またネットワーク上でデジタル画像を用いて書物文化研究を遂行するための研究環境の整備につとめ、オンライン比較校合、初期印刷本へのOCRの応用、画像のデータベースのキーワード検索、画像比較のための部分拡大などの実験を、ケンブリッジ大学などの協力を得ておこなった。デジタル撮影、デジタル画像のデータベース化、ネットワークを介した公開、ネットワークを利用した研究環境の構築をひとつの流れとして確立し、その環境の物で各研究分担者及び研究協力者は、初期印刷本の印刷行程に関する書誌学的研究、写本および初期印刷本におけるテクストと挿絵の相互作用に関する研究、デジタル撮影美術のさらなる改良などの個別研究を推進した。
著者
住本 規子
出版者
明星大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本課題はシェイクスピア・フォリオを中心として、現存するシェイクスピア戯曲の初期近代における出版物に残された当時の、特に17世紀の所有者/使用者(読者)の書き込みを読み解くことを目指しています。本年度は、ニューヨーク公共図書館にて、ファーストフォリオ(F1)2冊、セカンドフォリオ(F2)10冊、サードフォリオ(F3)3冊、フォースフォリオ(F4)4冊、同図書館バーグ文庫にてF1を1冊、F2を2冊、F3を2冊、F4を2冊、モーガン図書館にてF1を2冊、F2を3冊、F3を2冊、F4を2冊、フィラデルフィア自由図書館にてF1、F2,F3,F4を各1冊、さらにはストラットフォード・アポン・エイヴォンのシェイクスピアセンター図書館にて、F1を1冊、F2を6冊(うち1冊は非完全本)、F3を4冊(うち2冊は非完全本)、F4を4冊 および、12冊の初期クオート本の閲覧調査を実施することができました。すべてのフォリオに何らかの書き込みが見られました。また、書き込みが作品テクスト部分にないコピーでも、作品によりページの摩耗の違いが観察されるものがあり貴重な資料となる可能性があることに新たに気づくことができました。本課題にとってとりわけ注目すべきフォリオは、ニューヨーク公共図書館のF1のうちの一冊で、欄外の「名言なり」の意と考えられている'ap'という文字とテクストへの下線がセットになった書き込みを持つという点でも、複数サイズのページが混在するかたちで製本された寄せ集め本という点でもグラスゴー大学所蔵のF1によく似たケースであることが判明しました。コモンプレイシングマーカーは読者により様々な形をとり、しかもときどきで変化するゆたかな読書体験のあかしですが、その豊かな世界を記録する方法をみつけることに挑戦していきたいと考えています。
著者
中尾 佳行 地村 彰之 佐藤 健一 大野 英志
出版者
福山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

話法の研究は、近代の小説が中心的に行われ、その発達過程の調査は少ない。中世の韻文は殆ど扱われず、特に意味論では、Fludernik (1993, 1996)やMoore (2015)により部分的な検証がある程度で、チョーサーでの体系立てた調査は殆どなされていない。話法の設定の切り替えは、多くの場合その言語の意味を変容させ、話法は本質的に意味論の問題である。本研究では、話法を意味付けるタグを精緻化し、そのタグを多様な社会層の巡礼者が話をし、話法の多様性が見られる『カンタベリー物語』、これまでの研究で作成した電子化された4テクスト、Hg, El写本及び刊本に付加し、話法の意味論コーパスを構築する。