著者
奈良 貴史 鈴木 敏彦
出版者
東北大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

アバクチ洞穴遺跡出土人骨は東北地方において初めての保存状態良好な弥生時代幼児人骨である。我々は、日本列島の人類史を解明する重要な手がかりになると思われるこの人骨の人類学的位置付けを早急に行わなければならないと判断し研究を着手した。弥生時代の日本列島には縄文人的な特徴を持つ人骨とアジア大陸からの渡来系の要素が強いとされる人骨の2系統が少なくとも存在していたことがこれまでの研究で判明している。研究分担者の鈴木の歯冠計測値による予備的な分析では、この人骨が渡来系弥生人に近いことが示された。これを踏まえて、その他の特徴においてもこの人骨に渡来系弥生人的な形質が認められるかどうかに主眼を置き、詳細な計測値および非計測的形質の記録を頭蓋骨、乳歯について行なった。また札幌医科大学、東北歴史資料館、東京大学、国立科学博物館、国立歴史民俗博物館、及び京都大学で比較対象となる縄文・弥生時代幼児人骨の計測、X線規格写真撮影等を行い、比較資料を収集した。その結果、眼窩ならびに鼻根部の形態および乳歯の非計測的な形質の一部に弥生人的な要素がみられることを確認し、弥生時代中期に、既に東北地方に縄文人以外の形質を持つ人々が流入していた可能性が示唆された。昨年11月に筑波大学で開催された第51回日本人類学会大会で、これまでの研究結果を「岩手県アバクチ洞穴遺跡出土弥生時代幼児人骨の形態学的検討」として発表した。来年度は縄文人と弥生人とでは四肢骨のプロポーションが違うとされていることから、アバクチ幼児人骨の四肢骨の計測を行ない、どの様な四肢のプロポーションを示したのかを明らかにする。また、顎骨内から摘出された形成途上の永久歯に関して、既知の縄文・弥生人の同様の幼若永久歯を用い、咬耗が進行した成人人骨の永久歯とは異なる視点からの比較を試みる。最終的に2年間で得られたデータの更なる統計学的検討を行う。
著者
森重 健一郎 竹中 基記 上田 陽子 鈴木 紀子 森 美奈子
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

卵巣がん細胞株TOV21, KOC-7CでRAS変異が確認され、OVISEでは確認されなかった。RAS変異のある細胞では、フェロトーシス誘導剤エラスチンを添加したところ、WST-1アッセイにより細胞死が誘導されていることがわかった。鉄のキレート剤であるDFO添加により、その細胞死が解除されたたため、エラスチン添加による細胞死は鉄依存性細胞死=フェロトーシスであることが考えられる。一方、RAS変異のない細胞株ではフェロトーシスは誘導されなかった。RAS変異のある卵巣がん細胞株でさらに検討したところ、エラスチン添加時に細胞内ROS量は上昇、GSH量は低下しており、その結果として細胞死が引き起こされていることが予想された。一方、RAS変異のない細胞ではエラスチン添加時にはROS量の若干の上昇が見られたが、元々の細胞内ROS量が高いためフェロトーシスに抵抗性があると考えられる。フェロトーシス誘導剤はいくつか報告されているが、その中でもアルテスネートは抗マラリア薬であるため、臨床応用が速やかに行える利点がある。現在、我々はアルテスネートを用いて上記同様の実験を行っている最中であるが、エラスチンとは効果が異なる点も見られ、同じフェロトーシスでも異なるメカニズムで作用していることが考えられる。引き続き検討していきたい。またフェロトーシス誘導時には膜の脂質酸化が引き起こされることが知られているため、脂質酸化マーカーであるBODIPYを用いたイメージング実験を試みているところである。
著者
関根 康正 杉本 良男 永ノ尾 信悟 松井 健 小林 勝 三尾 稔
出版者
日本女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1990年代以降のインド社会において宗教対立が深刻化しているが、それが経済自由化と平行現象であることに注目した。本研究は、近年のグローバリゼーションの進展と「宗教空間」の変容をどのように対応づけられるのかを、具体的な日常現場の調査を通じて明らかにすることをめざした。この基礎研究によって、日常現場から見えてくるHindu Nationalistとは言えない「普通」の人々の宗教実践から、政治的な場やメディアなどでの「宗教対立」の言説を、正確に相対化し、「宗教対立」問題を見直すのである。明らかになってきたことは、生活現場の社会環境の安定性の度合が、「宗教対立」現象に関与的な主要因子である点である。要するに、それが不安定になれば上から「宗教対立」の言説に惹かれて不安の由来をそこに読みとってしまう「偽りの投影」に陥りやすくなるのである。逆に、安定性が相対的高い村落部では現今の「対立」傾向を知りつつも生活の場での「共存・融和」を優先させている現実が明らかになった。各地の現地調査から共通して見出された重大な事実は、そうした村落部でおいてさえ、都市部ではなおさらであるが、宗教のパッケージ化が進んできていることである。これは、生活文化におけるローカルな知識の急速な喪失を意味し、それと入れ替わるように生活知識のパッケージ化が進行し、宗教面においてもしかりである。宗教版グローバル・スタンダードの浸透現象である。これは、「宗教対立」を起こしやすい環境を整えることにもなる。その意味で、私達が注目した宗教の裾野や周辺現象(スーフィー聖者廟、女神信仰、「歩道寺院」、村落寺院、地方的巡礼体系、部族的社会様態など)への関心とそれに関する詳細な実態報告は、それ自体パッケージ化やスタンダード化に抗するベクトルをもつものであり、そうしたローカルな場所に蓄積されてきた知恵を自覚的に再発見する環境づくりを整備することが、「宗教対立」という言説主導の擬態的現実構築を阻止し解体のためにはきわめて重要であることが明らかになった。
著者
関根 康正 鈴木 晋介 根本 達 志賀 浄邦
出版者
神奈川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

関根は、2018年8月~9月に英国現地調査を実施した。移民3世が登場する1990年代以降、インド系移民社会内部に新たに現象してきた「不可触民」差別に対する解放運動の実態について関係組織を訪問しインタビューを行った。また、ロンドン大学SOAS図書館で関係資料収集を行った。2019年1月の研究会でその成果を「英国・ロンドンでのインド系移民のアンベードカラトの反差別運動について」と題して報告をした。根本は2018年8月~9月および2019年2月~3月、インドのナーグプルで計4週間のフィールドワークを行なった。特に仏教僧佐々井秀嶺が現地に保管する不可触民解放運動史料の確認・整理に取り組みつつ、佐々井と仏教徒による創発的な宗教実践と当事者性の拡張について調査を実施した。これに加え、ナーグプルおよび近隣農村におけるダリト(元不可触民)活動家男性と上位カースト女性の異カースト間結婚の調査にも取り組んだ。鈴木は2019年2月にスリランカでのフィールドワークを行った。シンハラ仏教僧や在スリランカ・インド僧(Mahamevnawa僧院)への追加インタビューを通じて、南アジア上座部仏教圏におけるアンベードカライト的言説の評価の輻輳性の考察に資する言説データを蓄積するとともに、巡礼を中心としたインド、スリランカ両国仏教徒のトランスナショナル・ネットワークの実態に関する一次資料の収集に取り組んだ。志賀は文献研究として、アンベードカルによる『ブッダとそのダンマ』の第3部と『改宗(ヒンドゥー教からの離脱)』のテキスト分析と内容の比較を行った。定例の研究会においては、仏教徒のアイデンティティの二重性、改宗が持つ意味、仏教徒の行為主体性等について考察し報告した。また2019年3月にインド・ナーグプルを訪問し、トランスナショナルな仏教者ネットワークや仏教徒の行為主体性などについて現地調査を行った。
著者
荒堀 仁美
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

ダウン症候群では成長障害を高頻度に合併するが、その機序は不明である。本研究ではダウン症候群児の疾患特異的ヒトiPS細胞を樹立し、軟骨細胞系へと分化誘導を行いその解析を行うことによって、成長障害の原因を明らかにする。出生前に診断されたダウン症新生児の臍帯血をもとにセンダイウイルスを感染させダウン症iPS細胞を作成、さらに軟骨細胞へと分化誘導することができた。一方で、トリソミー症候群の患者から得た皮膚線維芽細胞ではいずれも酸化ストレスの増大と細胞早期老化現象が認められ、染色体トリソミーがもたらすRNA/タンパク合成亢進により酸化ストレスが増大していることが引き金となっていることが示唆された。
著者
長嶋 祐二
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、3次元アニメーションによる日本手話の形態素語彙辞書の構築を行った。辞書に収録した3次元手話動作は、光学式モーションキャプチャにより収録した。辞書の単語は、提案しているNVSG要素モデルを用いて記述されている。記法結果はSQLiteフォーマットで蓄積し、形態素辞書データベースを構築した。その結果、日本語の意味が分からなくても手話の構成要から検索可能である。共通課題であった、解析ツールでは、MAを構築し手話の音素レベルからNVSG要素モデルを用いて3次元動作記述支援システムを開発した。更に、BVHデータからリアルタイムで3次元手話アニメーションを生成する3Dビューアを開発した。
著者
宮脇 陽一
出版者
電気通信大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本年度は、多様な物体画像が「いつ」脳活動に表現されるのかをスパースモデリングを用いて定量化する手法についての研究をさらに押し進めつつ、画像特徴量と物体カテゴリ表現ダイナミクスの関係性の検証を開始した。この目標達成のため、以下の項目を特に重点的に実施した。1.背景除去済み物体画像を用いたMEG計測実験:MEG信号からの物体カテゴリ予測成績をより高め、結果の信頼性を向上させるため、物体画像刺激に含まれている背景部分を除去した。この背景除去済み物体画像を用いて、新たにMEG信号計測実験を行った。2.MEG信号からの皮質上神経電流分布推定と物体カテゴリ情報の時間分解予測解析:背景除去済み画像に対して得られた新しいMEG信号を用いて皮質上神経電流分布を推定した。推定された皮質上神経電流分布の各時刻の信号をパターン識別アルゴリズムを用いて解析することにより、物体カテゴリの情報がいつ脳内に表現されているのかを同定した。3.皮質上神経電流分布推定の精度評価:皮質上神経電流分布推定結果の精度評価を行うため、人工データを用いた解析を行った。具体的には、本研究で主たる解析対象とする脳部位に人工的な神経電流源をおき、それをもとに頭皮上で計測される脳磁場信号をシミュレートし、シミュレートした信号から逆に皮質上神経電流分布を推定することで、どの程度正確に原信号を復元出来たかを厳密評価した。4.物体カテゴリ画像特徴量の定量化:コンピュータビジョンの分野で物体カテゴリの認識に大きな成果を挙げているDeep convolutional neural network(DCNN)を用いて、MEG信号計測実験で用いた物体画像刺激に対応する高次画像特徴量を抽出した。
著者
石井 健
出版者
独立行政法人医薬基盤研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

インフルエンザワクチンと一口に言ってもその形態によって弱毒化生ワクチン、不活化全粒子ワクチン、不活化スプリットワクチンの3種類に分類されるが、ウイルス感染免疫の研究に比べ各ワクチンによる免疫学的作用機序に関する詳細な検討はなされていなかった。今回、マウス、ヒト両方の実験系を用いて、スプリットワクチンでは自然免疫の活性化がほとんど見られないが、同じ不活化ワクチンでも、全粒子ワクチンでは、中のウイルスゲノム(RNA)がTLR7を活性化して、高い免疫原性(抗原特異的CD4T細胞、B細胞誘導能)を発揮することを示した。その効果に形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid DC ; pDC)が必須で、TLR7によるI型インターフェロンを介していること、生ワクチンはさらにRLR, NLRでもない未知の自然免疫シグナルを誘導することを示した(Koyama S et al Plasmacytoid dendritic cells delineate immunogenicity of influenza vaccine subtypes. Sci Transl Med. 2(25): 24ra25.(2010))。次に、臨床でもっとも長く、そして頻繁に用いられているアラムアジュバント(ミョウバン)の自然免疫メカニズムの一端として、アラムが、好中球遊走、その好中球の細胞死、そしてDNAを主成分とするネット状物質(neutrophil extracellular traps(NETs))を放出させることを明らかにした。そしてそのDNAがアラムのアジュバント効果、特にIgEの産生に重要で、炎症性樹状細胞(inflammatory DC)といわれる抗原提示細胞の細胞内DNA認識機構を介していることが明らかになった。実際TBK1、IRF3欠損マウスではアラムのアジュバント効果の一部が著名に減弱していた(Marichal T, et al DNA released from dying host cells mediates aluminum adjuvant activity. Nat Med. 2011 17(8): 996-1002.)。このようにアジュバント(因子)の分子メカニズムを免疫学的に明らかにできるようになり、ワクチンやアジュバントの開発研究において、その有効性や安全性の向上に寄与できることが期待される。
著者
福田 正己 町村 尚 平野 高司
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2002

現地観測の結果東シベリアヤクーツクのタイガ内に攪乱と不攪乱個所のキャノピーを超える観測タワーを設置し、水・熱・二酸化炭素収支の連続モニタリングを行った。そのための機器(CO2/H2Oアナライザー、超音波風速計、土壌水分計)を用いた。毎年4月末に現地入りし、2本のタワーを設置して10月までの連続観測を実施した。更にオープントップチャンバー法により土壌呼吸の連続観測を行った。永久凍土融解過程をモニタリングするために、対象サイトでボーリング調査を毎年実施した。伐採前にはNEPとして86mg/m2・dayの二酸化炭素が森林に吸収されていた。しかし伐採後には日射の増加で地中温度が上昇し、土壌中の有機物分解が促進されて大気側への二酸化炭素の放出に転じた。更に撹乱で地表面での熱収支バランスが乱れ、永久凍土の上部での融解が進行した。その結果地中への伝達熱が増加し永久凍土は約10%より深くまで融解した。こうした融解では上部に含まれるメタンガスの放出を促す。攪乱による温暖化の促進タイガの攪乱のおもな原因は森林火災である。本研究では森林火災の代わりに全面伐採による影響評価実験を行い、タワー観測・土壌呼吸観測・永久凍土融解観測を行った。それらの結果から地球温暖化へ多大の影響を与えることが明確になった。(1)火災時の直接的な二酸化炭素放出(2)火災後の土壌呼吸増加による二酸化炭素の放出(火災後数十年間)(3)火災跡地での凍土融解によるメタンガス放出(火災後数百年間)いずれも地球温暖化を加速させる効果となる。
著者
槇原 博史 四方 賢一 国富 三絵 土山 芳徳 四方 賢一 山地 浩明 林 佳子 槙野 博史
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

腎組織へのマクロファージの浸潤は、白血球表面に発現する細胞接着分子が糸球体と間質の小静脈の内皮細胞に発現するICAM-1やセレクチンなどの細胞接着分子と結合することによっておこる。本研究では、糸球体腎炎や糖尿病性腎症の腎組織における細胞接着分子発現のメカニズムを明らかにするとともに、これらの細胞接着分子の結合を阻害してマクロファージの浸潤を抑制する新しい腎疾患治療法(抗接着分子療法)の開発を目指した。本研究の結果、1)糸球体腎炎および糖尿病性腎症患者の腎組織にはICAM-1、E-セレクチン、P-セレクチンが糸球体と間質に発現し、マクロファージやリンパ球の浸潤を誘導していることを示した。2)糸球体過剰濾過により糸球体内皮細胞にICAM-1の発現が誘導され、マクロファージの浸潤を誘導することを示した。3)尿細管上皮細胞に存在するL-selectinのリガンドが尿細管障害にともなって間質の小静脈壁に移動し、マクロファージに発現するL-selectinと結合することによって間質へのマクロファージの浸潤を誘導するというユニークなメカニズムを明らかにした。さらに、このL-セレクチンのリガンドの一つがsulfatideであることを示した。4)L-およびP-セレクチンのリガンドであるsulfatideを投与することにより、腎間質への単核球浸潤と組織障害が抑制できることを示した。5)prostaglandin I2がICAM-1の発現を抑制することによってラットの半月体形成性腎炎に対する治療効果を示すことを示した。これらの結果より、ICAM-1やP-およびL-selectinが腎組織へのマクロファージとリンパ球の浸潤に重要な役割を果たしており、接着分子の結合を阻害することによって糸球体および間質への単核球の浸潤を抑制できることが明らかになるとともに、腎疾患に対する抗接着分子療法の臨床応用の可能性が示された。
著者
大塚 毅 出原 賢治 田中 洋輔 山岡 邦宏 新納 宏昭 中島 衡
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1. IL-10とIL-4は単球・マクロファージさらには好中球を標的として多彩な向炎症性物質産生を抑制し抗炎症作用を発揮することを明らかにした。とくに、シクロオキシゲナーゼ(COX)活性とプロスタノイド産生を観察し、両サイトカインの作用機構を細胞内シグナル伝達の系を通して明らかにした。2. 単球・マクロファージならびに好中球の活性化におけるMAPキナーゼ(MAPK)の同定と機能発現への関与(1) LPSによる活性化にて、MAPK中のERK2とP38MAPKのリン酸化ならびにキナーゼ活性が上昇した。(2) サイトカインとプロスタノイド産生においてこれらのMAPKの活性化が関与していることが判明した。(3) IL-10とIL-4によるMAPK活性化への異なる制御機構が判明した。3. ヒト単球に対するLPS刺激時にはSTAT5が活性化され、GM-CSF遺伝子発現などの関連している。IL-10はSTAT5を抑制することによって、COX-2遺伝子発現を制御している可能性がある。4. RA患者の好中球における機能変化(1) RA患者において末梢血ならびに関節液中の好中球からのサイトカインならびにプロスタノイド産生が健常人に比べて増強していることが判明した。(2) その機能発現にMAPK経路の関与が示唆された。5. IL-10等のサイトカインのシグナル伝達系が疾患発症の感受性に影響する可能性を今後検索していくために、RT-PCR-RFLPによる多型解析を行い、実験系を確立した。現在、自己免疫疾患を中心に解析し興味ある結果が得られてきた。
著者
二文字屋 脩 才田 春夫 伊藤 雄馬
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本研究の目的は、タイ北部で唯一の狩猟採集民と知られるムラブリを対象に、ムラブリの文化的特質を学際的なアプローチから明らかにすることで、今日の東南アジア山地研究(ゾミア論)の学問的空白を補うとともに、「森のゾミア」論を構築することである。この目的を達成するため、初年度は、2018年6月に富山国際大学にて共同研究者全員で本研究課題の内容と方向性を改めて相互に確認するとともに、それぞれの研究課題と研究調査スケジュールについて検討を行った。また、DropBoxを用いて本科研用のストレージを作成し、円滑な情報共有を行えるようにした。タイ北部ナーン県での現地調査は各研究者がそれぞれ実施し、自身の研究課題に沿った研究調査を行なった。人類学班は、遊動と社会性の関係について調査を行い、言語班はムラブリ語の方言差と語派内の特異性について調査を行なった。農学班はムラブリが利用する森の植物性資源について生態学的・栄養学的観点から調査を行うとともに、食用や医療用に用いられてきた有用資源の利用と効果の検証を行った。なお、これらの調査は、被調査者の同意を得て行われた。だが初年度は資料収集がメインだったこともあり、論文や学会発表を通じた成果の発表、そしてフィールドで得られた知見の理論化に十分な時間を割くことができなかったと考える。だが各自2回ほどの現地調査を行ったことで、予想もしていなかった新たな資料などを得ることが出来、調査の成果は十分にあったと考えている。なお、2019年3月には、フィールドにて共同研究者全員が集まり、初年度の成果を共有するとともに、2年目の予定について話し合った。
著者
吉岡 伸輔
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

慣性センサ(加速度・角速度・地磁気センサを組み合わせたセンサ)を用いた新たな動作計測システムが近年開発され、普及してきている。本システムは広範囲動作計測を可能にする一方、遠心力環境下や地磁気が乱れている環境下では使用できない短所をもつ。スキーは、この様な環境におかれるため、計測できない。そこで、スキーの動作計測が可能な広範囲動作計測システムを構築することを目的として研究を実施した。本研究ではジャイロセンサのみの計測システムを開発し、遠心力や磁場の乱れに影響されないシステムを構築した。本手法はスキーのみならず動作計測の幅を拡げるものであり、スポーツ研究の発展に寄与するものである。
著者
佐藤 泰弘
出版者
甲南大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本年度は昨年度の継続として、東大寺文書の帳簿類を収集・検討するとともに、『鎌倉遺文』に収録されている帳簿類の検討を行った。荘園の帳簿を総括的に論じるために、昨年の検討によって手懸かりを得た東大寺領の河上荘など、いくつかの荘園を取り上げた。河上荘では中世後期にはほぼ同じ書式の三斗米の収納帳簿が継続して用いられている。これは収納担当者(納所)が前任者の帳簿を引き継いで、担当年度の帳簿を作成するためであると思われる。このような帳簿様式の継続は、他にもあった可能性が高い。しかしとくに当荘は寺僧による管理が行われ、納所が毎年交替することが、かえって帳簿様式の画一性を高めたのではないかと思われる。また寺僧の管理は平安時代以来の伝統であると考えられること、作職の宛行などもそれを裏付けると思われることなど、当荘の性格を考える上での手懸かりを得た。また当荘に関係して残された多数の売券の検討が必要であることが分かった。当荘の売券については、すでに先行研究があるが、見落された文書もあるため、改めて検討する必要がある。典型的な検注帳のほかに、寺領経営のために作られた種々の坪付類についても考察を広げた。その一つとして東大寺の華厳会免田に関する史料を整理するなかで、赤袈裟著用に関する未紹介の史料を見出した。これは一一世紀末期・一二世紀初期における東大寺の興隆を明らかにするための興味深い史料と思われるため、史料紹介を兼ねた原稿を作成中である。
著者
栗原 大輔
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

本研究ではヒストンH3リン酸化の可視化により、染色体構造構築メカニズムの解明を目指したが、平成20年度は植物におけるヒストンH3 Thr3をリン酸化するHaspinのシロイヌナズナホモログの細胞分裂期における機能解析、またヒストンH3 Ser10およびSer28をリン酸化するAtAUR3について植物体における機能解析を行った。昨年度までにAtHaspinがvitroにおいてH3 Thr3およびThr11をリン酸化することを明らかにしていたが、タバコ培養細胞BY-2において、AtHaspinを過剰発現したところ、分裂期にH3 Thr3のリン酸化パターンがより広がることが明らかになった。このことはAtHaspinが少なくとも細胞内においてもH3 Thr3をリン酸化することを示唆している。またAtAUR3の機能を明らかにするために、RNAi法を用いてAtAUR3を発現抑制したシロイヌナズナ形質転換体を確立し解析したところ、野生型と比べて根の伸長速度が遅くなっていた。また根の細胞を顕微鏡観察したところ、細胞分布が野生型とは異なっていた。また、AtAUR3は胚においても発現が見られることが予想されたため、胚において染色体が可視化できるH2B-tdTomato形質転換体を構築し、Auroraキナーゼ阻害剤によってAtAUR3を機能阻害したところ、全ての染色体が正常に赤道面に整列する前に染色体が分離するという染色体分離異常が認められた。このように本研究では、遺伝情報を均等に分配するという,生命の根幹をなす過程である細胞分裂において重要な染色体動態に、ヒストンH3をリン酸化するAtAUR3およびAtHaspinが植物において重要な役割を担っていることを明らかにした。
著者
伊東 明俊
出版者
東京電機大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

微生物を行動制御して生きたマイクロマシンとして利用するには,微生物用の作業用具を作成し,それを使う必要がある.本研究は,行動制御が可能なゾウリムシとミジンコに対して,作業用具を開発した.ゾウリムシに対しては,ポリプロピレン薄膜を使ったワッシャ状作業用具を開発し,それを取り付けることで,物体の搬送効率を向上させられることを実験的に示したが,その装着作業はとても困難で,今後解決する必要がある.ミジンコについては,接着した針で風船をパンクさせたり,ミジンコ用の注射器を作成し,それによりゼリーに薬液を注射させることに成功した.
著者
内田 九州男 松原 弘宣 寺内 浩 山川 廣司 藤田 勝久 加藤 國安
出版者
愛媛大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

[資料収集と現状把握](1)日本国内。2700件余の四国遍路関係資料・文献のデータを収集し、原資料では、納経帳等愛媛県歴史文化博物館蔵の資料、また接待資料や『四国霊験奇応記』、伊予小松藩会所日記等の写真を収集した。(2)海外。中国、チベット、スペイン、イギリスへ出張し、巡礼の現状、旅行・宗教のルート等の調査を実施した。[口頭発表](1)愛媛大学公開講座または愛媛大学法文学部開放講座を3年間で3回(年に1回)実施し、合計22本の講演を行った。(2)平成15年度に「四国遍路と世界の巡礼-その歴史的諸相の解明と東西比較-」(国内シンポジウム)を開き、12本の報告を行った。16年度はフランスから巡礼研究者2名を招き「四国遍路と世界の巡礼-歴史的諸相の解明と東西比較-」(国際シンポジウム)を開いた。このシンポジウムに国内からは11本の報告を用意した。また個人による個別の口頭発表を約20本おこなった。[学会誌その他の発表]遍路・巡礼・旅・いやし等多方面からの研究成果を50編余の論文・小論等にまとめ発表した。[印刷物]研究成果を以下のように刊行した。『四国遍路と世界の巡礼 平成15年度愛媛大学国内シンポジウムプロシーディングズ』(平成16年2月)、『愛媛大学「四国遍路と世界の巡礼」国際シンポジウム』(平成16年10月)、『愛媛大学「四国遍路と世界の巡礼」国際シンポジウムプロシーディングズ』(平成17年3月)。また個人の関係著書は9冊に及んだ。3ヶ年の研究活動を通して、国内の四国遍路や六部研究を初め古代ギリシャや近世イギリスの巡礼等、諸巡礼とその時代環境の解明等の個別研究を大きく前進させたと同時に、その国際比較の基礎を築いたと評価できる。
著者
松井 英則
出版者
北里大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

鳥肌胃炎の患者から分離した難培養性のヘリコバクター・ハイルマニイ(H. suis SNTW101株)の全塩基配列を解明した。ゲノム解析からH. suis特異的な外膜蛋白質遺伝子を発見し、hsvA遺伝子と命名した(全長約9 kb)。HsvA蛋白質に対する血清抗体を標的とするペプチドELISA法を開発した。一方、乳酸菌(Lactobacillus plantarum)によるリノール酸の飽和化代謝の中間体である水酸化不飽和脂肪酸(10-ヒドロキシ-シス-12-オクタデセン酸;HYA)のヘリコバクターやカンピロバクターに特異的なメナキノン生合成経路(フタロシン経路)を標的とする阻害活性を明らかにした。
著者
保科 克行 重松 邦広 岡本 宏之 宮田 哲郎 大島 まり 山本 創太 山本 晃太
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

われわれは大動脈瘤の破裂しやすさをモデルを用いて検討してきた。嚢状瘤は破裂リスクが高いとされるがその定義はされていない。瘤を仮想楕円にあてはめて、「横長」のもの、またフィレット半径(大動脈と瘤のつなぎ目に当てる円)の小さい縦長のものは、頂点において応力が高く破裂しやすく、嚢状瘤の定義の一部としてよいのではないかという結論になった。これは胸部大動脈瘤において拡張速度の検討が行われたがはっきりとした臨床上の裏づけができなかった。今回、腹部大動脈瘤の破裂症例を集積し、コントロール群とマッチングを行って検討した。破裂群は、瘤が横長であること、またフィレット半径が小さいことにおいて、有意に差があった。
著者
今井 一雅 冨澤 一郎
出版者
高知工業高等専門学校
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1995

木星からのデカメートル波領域における自然電波放射は、惑星探査機ボイジャーによる直接観測にもかかわらず、その電波放射源の位置は未だにあきらかとなっていない。これは、デカメートル波領域という電波天文学においては極めて長い波長であるために、マイクロ波領域のように簡単にアンテナの指向特性をあげて電波源の位置を測定するという技術が使えないためである。地上観測の場合には、地球の電離層がこのデカメートル波領域の電波に対して非常に大きな影響を与えることになり、さらに状況が悪くなってしまう。一方、今までの観測・研究によると木星デカメートル波放射の右旋円偏波成分と左旋円偏波成分とは、異なった位置の電波源によるものであることがいわれているので、偏波という観点から見たVLBIによる電波源の位置変動の観測は木星電波の放射機構を解明する上で非常に重要である。本研究においては、従来行われなかった右旋・左旋円偏波の独立したVLBIを同時に行うことにより、偏波特性から見た木星デカメートル波放射源の位置変動を観測しようというものである。すなわち、今までに行われてきた木星電波のVLBIは、すべて直線偏波の成分のみを扱っており、得られる情報としては木星電波源の大きさの上限のみであった。ところが、右旋・左旋の両円偏波成分を同時に観測し干渉させれば、両円偏波成分の放射源の位置が同じであれば同じ干渉出力を得ることができるし、もし違えば異なった干渉出力を得ることができるわけである。実際に開発した観測システムにより観測されたデータを解析したところ、右旋・左旋円偏波の電波源の干渉パターンの位相角の差がほとんど同じ観測例を見いだすことができた。これは、右旋・左旋円偏波の電波源は同一の場所であることを示唆しており、非常に貴重な情報を得ることができた。