著者
中堀 豊
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1996

最近,ヒトのY染色体の解析が進むにつれY染色体上にも様々な遺伝子が存在することが分かってきた。特に,生殖細胞の分化,男性機能に関する遺伝子に注目が集まっている。我々は,ヒトY染色体の構造を研究してきたものであるが,Y染色体の構造異常と症状の検討から,無精子症遺伝子を長腕真性クロマチン部のもっとも遠位端に,また成長を規定する遺伝子を長腕の近位部にマップした。これらの遺伝子をクローン化し,その働きを知ることが本研究の目的である。Y染色体上には精子形成に関与するいくつかの遺伝子があると考えられている。外国の研究者がYRRM遺伝子,SMCY遺伝子,DAZ(deletion in azoospermia)遺伝子などを精子形成に関与している候補として発表した。現在までのところ我々の研究でも,他の研究室でもこれら候補遺伝子の点突然変異による無精子症は認められていない。したがって、これらとは別のより重要な遺伝子が存在すると考えている。Y染色体長腕欠失の父子例(父親が妊性があるのに息子は無精子)に注目し,欠失近位側の切断点を含む領域のYACからコスミドコンティーグを作成し、父子間の欠失の差を見つけだすことを目指した。しかし,この過程で我々が解析している長腕の領域には,短腕に相同な部分があり通常の解析では区別できない場合があることが分かった。今まで単一コピーのDNAとして解析していたものが、実は複数ある前提で解析を進めることにし,切断点を含むと考えられるYACyOX21から図のようなコスミドコンティグを作る一方,コンティグに含まれるコスミドの局在のチェックのためにFiber FISH法の導入を試みた。その結果,コスミドの全てが短腕に相同領域をもつこと,また長腕の比較的狭い範囲に同様の配列が4コピー以上あることが分かった。
著者
岡村 秀典 稲葉 穣 船山 徹 向井 佑介 菱田 哲郎 今井 晃樹 稲本 泰生 廣川 守
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

雲岡石窟の研究に関連して、480年前後に北魏王朝が造営した方山思遠寺址などの仏教寺院址とその出土遺物を調査し、北魏仏教寺院址の全体像を明らかにした。また、北魏孝文帝が481年に奉納した舎利文物が河北省定州市で発見され、そこから出土した金属器とガラス器について蛍光X線分析をふくむ考古学的・理化学的調査を実施した。その結果、仏教文化の東伝にともなって新しい青銅器やガラス器の制作技術が西から伝わったことを明らかにした
著者
酒井 麻衣
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

伊豆諸島御蔵島のミナミハンドウイルカは、胸ビレで相手をこする社会行動(ラビング)を、左ヒレで行う傾向がある。この現象が、イルカに共通して現れる行動形式なのか、後天的に獲得された行動が伝播した個体群特有の行動形式(文化)であるのかを明らかにする。そのために、ラビングの左右性の発達・個体群間比較・種間比較を行う。本年度は、御蔵島に約40日間滞在しミナミハンドウイルカの水中行動のビデオデータを収集した。また、能登島に定住する本種8個体に対し予備調査を行い、水中観察可能であることを確認した。篠原正典氏より本種の小笠原個体群の水中ビデオデータを借用し、ラビングの左右性を解析中である。鳥羽水族館のイロワケイルカ4個体(オトナオス1、ワカオス1、オトナメス2)を対象に、ラビングのビデオ撮影及び目視観察を行った。その結果、オトナオスは154例のうち97%、ワカオスは74例中81%で左ヒレを使用することがわかった。オトナメスは12例中42%、11例中82%で左ヒレを使用した。今後、メスのデータを増やす予定である。Kathleen Dudzinski氏より、野外の生簀に蓄養されているハンドウイルカ27個体の水中ビデオデータを借用し、ラビングの左右性を分析した。その結果、左ヒレを使用した例は735例中54%で大きな偏りはなかった。23個体の使用ヒレの偏りを検定したところ、1個体のみ有意に左ヒレを多く使用していたが、有意に右ヒレを多く使用する個体はいなかった。Kathleen Dudzinski氏より、バハマの野生マダライルカの水中ビデオデータを借用し、ラビングの左右性を分析した。その結果、左ヒレを使用した例は499例中53%で大きな偏りはなかった。18個体において使用ヒレの偏りを検定したところ、2個体のみ有意に左ヒレを多く使用していたが、有意に右ヒレを多く使用する個体はいなかった。今年度の解析で、使用ヒレの左右性は、種によって違いがあることが示唆された。
著者
佐々木 嘉三 田阪 茂樹
出版者
岐阜大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

岐阜県北部の跡津川断層直近の東京大学宇宙線研究所神岡地下観測所奥の坑道で、ボ-リング孔より噴出している地下水を導水し、水中ラドン濃度の測定をしてきた。1990年12月以降の予備的観測および本年度の観測からは次のような成果が得られている。震央距離(△)50km以内,マグニチュ-ド(M)3.5以上の地震活動とラドン濃度の変化を対比すると,東側の北アルプスに沿う地震活動,すなわち烏帽子岳,焼岳,乗鞍岳周辺に発生する群発地震の活動に対しては,△が小さいにもかかわらず,ラドン濃度の変化は明確ではない。跡津川断層,午首断層に沿う地震活動では,Mが3.0程度のものも含めて、ラドン濃度に変化が現われるものもあった。特に,1991年2月28日のM=3.9の地震に関連した変化は,2日前から減少し,地震後の振動変化と増大、そして5日後に通常のレベルにまでもどっていることが分かった。さらに多くのデ-タを得るため,観測は現在も継続している。又,根尾谷断層に近い岐阜大学の上水道(地下水)についても断続的であるがラドン濃度の観測を行い,人工的原因による変動を検出し、その影響を除外することが可能となった。火山噴火予知の基礎的デ-タを得るため,活動の活発な桜島周辺で,大気中ラドン濃度の測定を鹿児島市内(鹿児島大学),と有村(桜島)で行なってきた。鹿児島市内では,12月16の噴火と降灰にともない2日間に渡って20%のラドン濃度増大があった。有村では,噴煙の降下に伴い,2倍にまで濃度が増加することが知られた。白根火山での11月の約10日間の観測では,噴気の高温ガスの冷却および導引方法を考慮した観測容器を製作し、1日以下の大気圧の短期変動とラドン濃度が逆相関にあるという結果を得た。又,トリウム系列のThC'も高濃度で検出され,ウラン系列のもとの対比等で,火山深部の活動情報が得られることも分ってきた。
著者
宮腰 哲雄 本多 貴之 吉田 邦夫 中井 俊一
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

歴史的な琉球漆器を科学分析したところ、日本や中国に生育するウルシの木の樹液やベトナムに生育するハゼノキ の樹液が利用され、これらはぞれぞれ単独に、あるいは混合して使われていた。琉球漆器からウルシオールが検出されたものは漆膜中のSr同位体比を分析したところ中国産の漆であることが分かった。また漆器の木質材料を分析したところ多くは中国産の杉「コウヨウザン」であることが分かった。このことから琉球の漆器作りは中国や東南アジアとの交流や交易の中で行なわれていたと考える。さらに琉球漆器の制作年代や加飾法の違いなどと漆の原材料の入手の関連を研究することが重要になってきた。
著者
田中 琢三 高橋 愛 中村 翠 福田 美雪
出版者
お茶の水女子大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は前年度に引き続きエミール・ゾラの作品におけるモニュメントの表象の分析を行うとともに、ゾラ以外の作家とモニュメントの関係について検討した。研究分担者の高橋は、パリのヴァンドーム広場にあるナポレオン円柱に着目し、ゾラの『ルーゴン・マッカール叢書』の小説、具体的には『獲物の分け前』『居酒屋』『壊滅』『愛の一ページ』における登場人物たちと、ナポレオン伝説のモニュメントといえるこの円柱との関わりに注目して、ナポレオン円柱に対する作中人物の多様な視線の意味を政治的、社会的な観点から検討し、その成果を学術雑誌に論文として発表した。そして平成29年10月29日に名古屋大学東山キャンパスで開催された日本フランス語フランス文学会2017年度秋季大会において、北海道大学准教授の竹内修一氏をコーディネーター、研究代表者の田中と研究分担者の福田をパネリストするワークショップ「パンテオンと作家たち」を実施した。このワークショップでは、第三共和政以降にパリを代表するモニュメントのひとつであるパンテオンで行われる国葬、つまりパンテオン葬を取り上げ、田中がヴィクトル・ユゴーの、福田がゾラの、竹内氏がアンドレ・マルローとアレクサンドル・デュマのパンテオン葬について報告した。これらのパンテオン葬の検討によって、フランスという国家と文学が取り結ぶ関係の変遷について明らかにした。その成果を踏まえたうえで、田中と福田はそれぞれ異なった視点からゾラのパンテオン葬を検討した論文を学術雑誌に発表した。
著者
木口 学
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

今年度は溶液内においてFe,Co,Ni,Pd,Pt,Rh遷移金属のナノ接合を電気化学STMを用いて作製した。その結果、水素発生条件のもとで超高真空、極低温と同様の量子化伝導を観測することに成功した。従来、室温ではこれら遷移金属の量子化伝導を測定した例は少なく、溶液内室温でナノ接合を安定化した意義は大きい。溶液内水素条件では擬似的に超高真空、極低温と同じような環境が実現したものと考えている。特にNi,Pdの場合は単原子ワイヤー形成を示唆する結果が得られた。金属の単原子ワイヤーはこれまでAu,Pt,Irなど一部の金属に限られ、遷移金属の単原子ナノワイヤー作製に成功した例はない。本研究の結果は、溶液内が新たなナノ構造形成の場となりうる事を示している。また昨年度まで作製法を確立した金属ナノ接合を利用して単分子の伝導度計測も今年度は行った。現在、分子エレクトロニクスヘの応用から単分子の伝導特性が注目を集めている。しかし分子の存在、架橋状態が不明、分子と金属の接合部がAu-Sに限定など単分子の伝導特性の研究には課題が多い。今年度、超高真空、極低温において単分子の振動スペクトルと伝導度の同時計測の研究をおこなった。そしてPt電極に架橋した水素、ベンゼンについて架橋状態を規定して単分子の伝導度を決定することに成功した。また溶液内において新たなアンカー部位の探索を目指して単分子伝導計測を行った。電極金属としてよりフェルミ準位の状態密度が高いPt,Ni、末端部位としてNC,NH_2,COOHなどに注目して実験を行った。その結果、Au-CN,Pt-CN,Pt-Sなどの新規接続部位をもつ単分子伝導計測に成功し、特にPt-Sでは従来のAu-Sより1桁高い伝導特性を示すことを明らかにした。
著者
矢野 秀武
出版者
駒澤大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究では、東南アジアのタイ国における政教関係に注目し、国家が宗教に介入するといった制度についての研究を行った。タイ国家は、単にナショナリズムをもとに国民を統合するというためだけに宗教を用いるわけではない。教育、福祉、観光、多文化・多民族社会の政策など、多様な目的に合わせて、宗教集団や宗教的シンボルを行政資源として用いている。このように宗教が行政とつながりを持つことで、宗教団体は活動の制約を課される一方、多様な公共的活動に参入できる可能性もあるということが明らかとなった。
著者
草野 圭弘 福原 実 高田 潤
出版者
倉敷芸術科学大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

備前焼作家により制作された金彩備前焼について、表層の結晶相について粉末X線回折および透過型電子顕微鏡観察により検討した。金色は、これまで燃料として用いられる赤松に含まれる炭素が作品表面に付着し、この炭素膜による干渉色によると考えられてきたが、炭素は検出されず、厚さが約100nmの酸化鉄(ヘマタイト、α-Fe2O3)が表面に生成していることが明らかとなった。また、メスバウアー分光測定においても、ヘマタイトの生成を確認した。このヘマタイトとガラス相の散乱光により金色に見える可能性があることがわかった。金彩および銀彩備前焼を制作されている備前焼作家に、金属光沢模様が現れやすい焼成条件について聞き取り調査を行った。稲わらを巻いた作品を登り窯にて酸化雰囲気下で昇温した後、過剰の薪または炭を加え、還元雰囲気下で冷却すると金彩や銀彩模様が現れやすいことがわかった。よって、備前焼表面の金属光沢は、稲わらと反応して生成した液相中に酸化鉄が析出することにより現れると考えられた。作家による焼成条件を基に、電気炉にて再現実験を行った。稲わらの主成分はシリカ(SiO2)であるが、カリウムが約13wt%含まれており、カリウムが備前焼粘土と反応してガラス相が形成すると考えられる。そこで、稲わらの代わりに炭酸カリウム(K2CO3)を用い、大気中にて1230℃まで昇温後、アルゴンガスに一酸化炭素を10%混合したガス中で冷却を行った。現在、生成相の検討および熱処理条件の最適化を行っている。
著者
横川 俊哉 上山 智 真田 篤志
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究は、従来実現されていないテラヘルツ帯の電磁波の発生を可能とする真空チャンネルトランジスタの開発を目的とする。テラヘルツ波は高速無線通信やイメージング、医療の分析など多くの応用が期待される。しかし数THzの高出力電磁波発生には課題が多い。窒化物半導体であるAlGaNは負の電子親和力を有しており、低駆動電圧が期待される。AlGaN半導体を用いた真空チャンネルトランジスタを新たに提案した。AlGaN半導体の基礎物性や電子放出機構を系統的に調べ、そのデータベースよるデバイス最適構造設計を行うことで、真空チャンネルトランジスタを実現し、低電圧駆動(低消費電力)を実証することが計画であった。今年度の研究実績としてAlGaN半導体を用いた真空チャンネルトランジスタの低電圧駆動でのデバイス動作を確認した。AlGaN系半導体の負の電子親和力を示すバンド構造、電子放出機構や基礎物性を系統的な実験によって調べ、デバイス設計のためのパラメータが得られたため、このデータベースを用いて真空チャンネルトランジスタのデバイス最適構造設計に取り組んだ。エミッタ部がAlGaN半導体で形成されたデバイスとなる。MOCVD法によりGaN基板上にAlGaN膜の成長を行った。そしてエミッターに使用可能な高品質のAlGaN結晶が実現できた。その後、AlGaN膜をドライエッチング加工し、エミッタ―とコレクターを対面するように形成した。その後、AlGaN膜上にゲート絶縁膜とゲート電極を形成した。これによりAlGaNエミッタ―を用いた真空チャンネルトランジスタを形成し、低駆動電圧を実現した。またAlGaNに形成したカーボンナノチューブ電極の効果も確認した。さらにデバイスシミュレーションによるプロセス設計ならびに最適構造設計も行った。
著者
塩野 寛 清水 惠子 松原 和夫 浅利 優 安積 順一 清水 惠子 塩野 寛
出版者
旭川医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

除草剤として世界的に広く使用されているパラコート(PQ)は、急性毒性として肺及び肝腎障害を生じ、慢性毒性(環境毒性として)では中枢神経障害を生じることがしられている。マウスを用いた実験から得られた生存曲線より、各種抗酸化剤及びACE阻害薬は、PQ毒性を抑制し生存率の向上が認められた。一方、PQによる中枢神経障害を抑制したドパミン作動薬やドパミントランスポーター阻害薬は、肺障害にはむしろ促進的に作用した。ACE阻害薬は、抗酸化作用があることが知られている。ACE阻害薬によるPQ毒性軽減には、酸化的ストレス抑制が関与していると考えられる。そこで、この機構を解明するために、PQ投与後2日及び4日後の肺組織ホモジネートについて、SDS-PAGEを行った。Cleaved caspase-3及びnitrotyrosine抗体によって、ウエスタンブロットを行い、抗体で染色された蛋白量はアクチンを指標として半定量化した。PQによって、nitrotyrosine抗体に反応する蛋白質が著明に増加し、PQ肺毒性に一酸化窒素による酸化的ストレスの関与が示唆された。このnitrotyrosine抗体に反応する蛋白質を免疫沈降法を用いて精製したところ、Mn-SODと考えられた。Mn-SODは、活性中心tyrosine残基を有し、ニトロ化されると活性を消失することが知られている。従って、PQによる酸化ストレスはさらに増大されることが示唆された。一方、アポトーシスの指標であるCleavedcaspase-3は、PQによって、わずかに検出された。この変化はPQ投与後2日後から著明に観察された。Captoprilによって、これらの蛋白質の出現が著明に減少した。従って、ACE阻害薬はPQによる酸化障害を防御し、PQ中毒時の治療薬として期待できる可能性が示唆された。
著者
黒木 伸一郎 Zetterling Carl-Mikael Östling Mikael
出版者
広島大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化)
巻号頁・発行日
2016

現在福島第一原発の廃炉活動が進められているが、その廃炉工程には高放射線環境での作業が必要であり、ロボットの投入による速やかな廃炉活動が求められている。しかし通常ロボットの頭脳であるシリコン半導体集積回路は、放射線耐性が低く、高い放射線環境下では破損する。そのためシリコンとは違う半導体による耐放射線集積回路の構築が求められている。本研究では4H-SiC半導体による放射線耐性に優れたCMOS集積回路のための研究を行い、デバイス・小規模回路の研究、デバイス高性能化の研究、極限環境応用のための研究を国際共同研究として推進した。
著者
中山 裕一郎 田島 達也 齊藤 忠彦
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では,音カメラを用いて声の視覚化を試みた。声は,口や胸部を中心に放射しており,正面のみならず,側面や背面からも放射している状況を視覚的にとらえることができた。声楽熟達者の声は,初学者と比べて,胸部を中心とした声の放射範囲が広くなり,倍音成分を多く含むことを明らかにした。二人で同じ音の高さの声を出し,二人のピッチが合っている状態のときには,二人の間の空間に,音がつながって見える現象を捉えることができた。なお,音カメラは,現段階では高額な装置で,一般に普及していないことから,実際の指導場面におけるNIRSによる検証は研究途上にある。
著者
小野 亮
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本年度は、マウスの皮下に作成した癌腫瘍にプラズマを照射したときに、どのような経路でマウスの癌に対する免疫が活性化しているかを調べるため、プラズマ照射した癌腫瘍の病理解析を行った。マウスの皮下に皮膚癌メラノーマB16F10細胞を注射して腫瘍を作成し、そこにナノ秒パルスストリーマ放電を照射した。その後に腫瘍を切除し、細胞染色とフローサイトメトリーを用いて解析を行った。その結果、プラズマを照射した腫瘍には、免疫の活性化を表すキラーT細胞の発現を示すCD8と呼ばれる細胞表面マーカーが多く観測された。これは、プラズマ照射によって免疫が活性化したことを表す一つの証拠となる。フローサイトメトリーを用いた病理解析は今年度開始したばかりであるが、この手法を導入したことで、プラズマ照射による抗腫瘍効果のメカニズムを解明するための手段を獲得することができた。本年度は、メラノーマ以外の種類の癌に対するプラズマの効果の有無を調べる実験も開始した。具体的には、マウスの大腸癌細胞CT26をマウスに皮下注射して、先のメラノーマと同様にナノ秒ストリーマ放電を照射する実験を行った。本年度は、CT26の腫瘍の成長度合いやプラズマ照射後の影響をおおまかに見る予備実験を行ったため、来年度から本格的な実験を開始する予定である。動物実験以外に細胞実験も行った。プラズマのどの活性種が細胞に影響するかを調べるため、我々が開発した真空紫外光法とよばれる手法で所望の活性種を生成し、これを培養した癌細胞に照射した。その結果、H2O2の培養細胞に対する効果を定量的に測定することができた。プラズマの活性種をレーザー計測する実験も行った。プラズマ医療に用いられるストリーマ放電とヘリウムプラズマジェットに対して、プラズマ医療で重要と考えられているOHラジカルの密度をレーザー誘起蛍光法で測定した。
著者
山中 康裕
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2019-06-28

近年、科学と研究者の理想が無いままに、被引用数やインパクトファクターを安易に評価 指標とした歪みとして、組織や研究者の業績評価における論文崇拝主義や、直接的な課題解決を得意とする学問分野への偏重を招いている。本研究では、研究者コミュニティーが、自ら研究活動を評価し、それに基づく社会への説明責任を果たす文化を創造することを目指す。社会の中の科学の縮図として、地球科学分野を取り上げる。研究活動の把握(IR)として、国内各研究者への情報収集、聞き取りやアンケートにより「知の創造」に対する価値基準の国際比較を行う。チューニングの概念にもとづき、社会と研究者コミュニティーが納得する評価指標を提案する。
著者
今井 正治
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

今年度は、ゲーム木探索の並列化に関する研究を中心に行った。その結果、次のような成果が得られた。チェス、将棋、囲碁等の完全情報2人零和ゲームはminimaxゲーム木で表現され、ゲーム木を解くことで両者が最適な手を選んだ場合の結果を知ることができる。この目的のためにα-β法、SSS*法などの探索法が提案されている。これらの探索法を用いても、ゲーム木探索に要する計算量は、ゲーム木の高さに応じて急速に増加することは避けられない。そこで、複数の処理装置を持つ並列計算機を用いることにより、探索時間を減少させる方法が考えられる。本研究では、それらをm台の処理装置を持つ並列計算機上で実行することを考え、並列計算機向きの5種類の並列探索法を提案した。また、これらの探索法の計算時間が処理装置の台数mとともにどのように変化するかを理論的に調べた。その結果、1台の処理装置の場合に対する速度向上比がmより大(加速異常)になり得ること、および1より小(減速異常)になり得ることが知られた。また、本論文で考察した5種類の探索法では減速異常は生じないことを証明した。次に、探索法の全般的な挙動をシミュレーション実験によって評価した。その結果、処理装置の台数mの増加に伴い、計算時間が常に減少することは確認できたが、速度向上比はmよりかなり小さくなることも明らかになった。しかし、探索法によって、速度向上比にかなり変動がみられるので、並列化により適した探索法を工夫することで、速度向上比をさらに改善し得る可能性がある。本研究で試みた探索法の中では、有資格探索が探索時間の大きさと速度向上比の両方の観点から、他に比べ良い結果を与えることが知られた。
著者
藤永 壯
出版者
大阪産業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究では「帝国」日本の直轄植民地であった台湾と朝鮮において、公娼制度が成立する過程を検討した。両者の制度成立に至る事情は大きく異なっているし、また内容においてもさまざまな違いが見られる。しかし日本の公娼制度を祖型とし、性病検診制度や集娼政策の実施など、基本的性格を貫徹させている点は共通していた。植民地期台湾への公娼制度の導入は、日本の領有直後の1896年からはじまり、1900年前後には自由廃業運動の影響を受けた制度の手直しが実施された。当初、貸座敷・娼妓に対する取締法令は地域ごとに違っていたが、1906年に全島的に統一された。一方、植民地化以前の朝鮮においては、日本人居留民を対象とする公娼制度・密売春取締政策が日本領事館により実施されていた。朝鮮保護国化後には、「貸座敷」「娼妓」などの語の使用をさけつつ、実質的に公娼を許容する制度が実施された。台湾と同様、朝鮮の公娼制度も各地域で違っていたが、「併合」後の1916年に統一された。公娼制度の確立にともない、朝鮮人接客女性は日本警察当局の定める「芸妓」「娼妓」「酌婦」という分類にあわせて再編成された。朝鮮において公娼制度が確立した第1次世界大戦の時期に、朝鮮人接客業者が朝鮮外に移動する現象が起こっていた。1920年代初めから、朝鮮人娼妓は台湾へも渡航をはじめ、台湾の朝鮮人娼妓数は1930年には台湾人を上回り、40年前後には台湾全体の娼妓数の約4分の1を占めるに至った。娼妓許可の最低年齢が16歳と最も低年齢であった台湾に、日本人だけでなく朝鮮人の女性たちも渡航していったのである。そして台湾における朝鮮人接客業の存在は、やがて日中戦争期に、大量の朝鮮人「慰安婦」が台湾を経由して華南地方の戦地に送り込まれる状況を生み出すことになる。
著者
橘 健一 渡辺 和之
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

ネパールの諸民族・カースト集団における動物認識を調査し、それらに見られる人間/動物の分割線や接点のあり方を明らかにすることを目指した。先住民チェパンにおいてはシカやトラが他者として排除される一方、人間自身にもそれらの力が結びつけられていることを確認した。グルンにおいては昆虫のナナフシが祖先霊として恐れられ、山地ヒンドゥー教徒のあいだではカマキリが死をもたらす存在として忌み嫌われることがわかった。ネワールにおいては虫の様な小さな存在が排除されつつ自己に結びつけられることを、タルーにおいては動物を呼ぶ媒介者が恐怖されていることがわかった。こうした動物認識から、動物の排除と包摂の状況が確認された。
著者
蔡 毅
出版者
南山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は日中文化交流の「逆輸入」という特別な視点から、従来ほとんど顧みられることがなかった日本漢文の中国本土へのフィードバックの状況を全面的に検討した。唐代から清末までの中国の典籍に著録されている多くの日本漢文作品を確認し、その時代背景と作者の経歴、作品成立の経緯および中国での反響等を考察することによって、日本文化の世界に向けての発信の歴史ないし東アジア漢字文化圏における文学往還の事象を、新たな角度から照らし出すことができ、日中文化交流史研究の新しい一ページが開かれたと言えよう。
著者
渡辺 隆行 茂田 正哉
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

プラズマ中に豊富に存在するOHラジカル,酸素ラジカル,水素ラジカルを用いた廃棄物分解システムを開発した。このシステムは直流放電にて水のみから成る熱プラズマを用いて,有機系物質を分解するシステムである。排水処理を目的としたフェノール水溶液の分解,および難水溶性物質の1-デカノールをエマルションとした分解実験を行った。これらのプロセスは1万℃のプラズマ中における分解プロセス,1千℃程度における副生成物の再合成プロセスの反応機構に分けられる。有機物は水プラズマ中で迅速に分解されるが,その中間物質としてCHラジカルとCH3ラジカルの生成を確認し,これらが副生成物発生に重要な役割を果たすと考えられる。