著者
内藤 敦之
出版者
大月短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本年度は基本的な文献のサーベイを中心に研究を行った。第一に金融化論に関する文献の検討を行った。ポスト・ケインジアンによるものを中心に、金融化論において政策がどのような役割を果たし、どのような作用を及ぼしているかという点を検討した。第二に、マクロ経済レジーム論の検討を行った。ここでは、近年のボワイエなどによって展開されているレギュラシオン理論の金融主導型レジームと認知資本主義論のレジーム論を対象にサーベイを行い、政策がどのような機能を果たし、マクロ経済連関にどのような影響を与えているかを検討した。第三に、認知資本主義論の検討を行った。認知資本主義論はネグリ、ハートの影響の下、労働の変容とIT化が政治、社会に及ぼす影響だけでなく、経済に与える影響に関しても分析を行っている。ここでは、経済学的な分析におけるネオ・リベラリズム論への言及を中心にサーベイを行い、金融主導型レジームとネオ・リベラリズム政策の関係を考察した。第四にネオ・リベラリズム関係の文献の検討を行った。金融を重視した文献も含めてネオ・リベラリズムの概念を明らかにした上で、ネオ・リベラリズム政策の概要とその役割についてサーベイを行い、金融(化)との関係を中心に検討した。第五に、先駆的なネオ・リベラリズム研究であるフーコーの『生政治の誕生』を中心に、フーコーのネオ・リベラリズム観についての検討を行った。成果としては第一に、一般向けではあるが、「経済政策の哲学―ネオリベラリズムのフーコーによる分析―」(県民コミュニティーカレッジ、2017年10月25日、大月短期大学)という題で講演を行い、フーコーがネオ・リベラリズムをどのように捉えているかという点を検討した。第二に、ミンスキーにおける流動性選好説を検討した論文「ミンスキーと流動性選好」(『大月短大論集』第49号)を発表した
著者
斎藤 恭一 浅井 志保
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

研究代表者は、東京電力福島第一原子力発電所の汚染水の処理に適した吸着材の形態として繊維に着目した。市販のナイロン繊維を出発材料にして放射線グラフト重合法を適用し、極低濃度の放射性セシウムやストロンチウムを除去するために、無機化合物(それぞれ、フェロシアン化コバルトとチタン酸ナトリウム)を担持して繊維を開発してきた。この吸着繊維の性能が認められ、現時点で、サブドレンから汲み上げた汚染水や港湾内汚染水の処理の現場への適用や試験に至っている。
著者
黒田 敏史
出版者
東京経済大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では寄付市場のデータベースを構築し、生産性推定、並びに寄付市場における広告競争の構造推定モデルを構築し、寄付市場における広告競争の経済的効率性の改善に向けた提言を行うことを目標としている。29年度は構築した寄付市場のデータベース構築に基づいて生産関数の推定を行い、生産性の推移について分析を行う予定であった。しかし、データ収集が遅れており、引き続きデータの整備を継続している段階である。寄付市場のデータとして当初は開発途上国援助を行っているNGO等の財務データを利用する予定であったが、十分な情報が得られない組織が多く、他のデータを用いた分析を検討中である。他の候補として、地方自治体によるふるさと納税について、広告費とその他の費用、寄付額を十分な数だけ収集する事ができるのではないかと検討中である。また、構造推定を行う上で必要となる数値計算を行うためのツールとして、Rによる並列計算とRcppの利用について学習した。複数のハードウェアでPython、Juliaとベンチマークテストを行って、需要関数推定にかかる実計算時間についての評価を行ったところ、RではIntelCorei76950Xプロセッサの方が計算時間が短いが、PythonとJuliaではAMDRyzen1950Xプロセッサの方が計算時間が短い事を確認した。Rでの数値計算はハードウェア性能を利用し切れていない可能性があるため、引き続き数値計算手法についての技術向上を行う予定である。学会報告、論文執筆等はまだ行っていない。
著者
福田 崇 宮川 俊平 小池 関也 藤谷 博人 山元 勇樹
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

加速度計による頭部作用力の測定から、頭部衝突数において、1名の大学アメリカンフットボール選手で1回あたりの練習時と試合時の衝突数はそれぞれ14.3回と18.1回であった。また頭部衝突時の平均最大直線加速度は、練習時19.04±10.1G、試合時20.82±12.1Gであり、試合時は練習時よりも有意に高い頭部作用であることを本邦で初めて報告した。しかし、実際に脳振盪に至ったデータは収集できておらず、より多くのデータから衝突時の頭部作用を検討する必要がある。ひずみゲージを用いて衝突時の複数部位における頭部作用力を推定する手法を確立するにはヘルメットと模擬頭部の間の密着性を高めることが必要である。
著者
寺澤 優 (2016) 奈良 優 (2015)
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

戦前日本の都市(東京)性風俗を分析し、当時の風俗管理の社会的意義を考察する本研究は、今年度は当初の予定を多少変更し、前年度の成果のアウトプットとともに、芸妓の実態把握・分析と1930年代に高揚する廃娼論の検討を進めた。芸妓については、先行研究を通読した上で、1930年代までの花街が内部でどのように構成され、いかなる問題を抱えていたのかという分析はいまだなされてこなかった事に着目し、それを解明することに努めた。その結果得られたのは、1920年代までに東京の各花街では内部紛争が頻発しており、死者が出るような抗争がおきていたという事実であった。この内部紛争は関東大震災の復興過程で花街指定地と新規参入業者の増加により同者間競争が激化したこと、そしてそれまでの秩序が乱れはじめたことが主な要因であった。つまり、1930年代の芸妓と花街の衰退はカフェーの台頭以前に、すでに内部で大きな構造的問題を抱えており、単純にカフェーの台頭が性風俗産業界の変化をもたらしたのではなかったと結論付けた。また、研究目的の一つである官憲による管理統制は芸者に関しては、非常に緩い取締しか行われておらず、売買春を黙認しているような状態であったということも明らかになっている。次に廃娼論については、労働運動の傍ら大正期に花街・遊郭遊びを経験しながらも、1930年代には廃娼論者となった村嶋帰之の思想を彼の著作を使って追跡した。遊興を通じて、芸妓がブルジョアジーに独占されていることに対し、憤慨しつつも娼妓買い、芸者遊び止められなかった村嶋が遊興を止めるに至ったのは、自身の病気と「遊興が虚弱体質をつくる」という優生学的見地に触れたことであった。そして、「絶娼論」を唱えるが、1930年代のカフェー女給に関しては融和的な姿勢をとり、部分的支援を行ったことが明らかになった。その成果は研究会等で報告した。
著者
田中 雅一
出版者
京都大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

本研究は、現代日本社会における売買春(セックスワーク)を核とする性産業をグローバル化との関係で考察することを目的とし、性産業に従事する女性に聞き取りをして、顧客との関係には複雑な感情労働が存在することを明らかにした。世界各地の地位向上運動に携わる関係者やイベントに参加して、その実態や国別の相違などを明らかにした。国際ワークショップ「グローバル化するセックスワーク」やSexuality, Trauma and Social Suffering in East Asiaの開催を通じて研究者のネットワークを確立した。また緊縛などの世界普及について調査をし発表した。
著者
丹羽 美之 伊藤 守 林 香里 藤田 真文
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

日本テレビ系列の全国29局が制作するNNNドキュメントは、日本のテレビで最も長い歴史を持つドキュメンタリー番組である。1970年の放送開始以来、これまでに放送された本数は約2200本にも上る。これらは日本の現代史・放送史の貴重な記録である。本研究では、これらの記録を次世代に引き継ぐために、NNN各局の全面的な協力のもと、全番組をデジタルアーカイブ化し、詳細な番組データベースを作成した。またこれらを活用して、テレビが戦後日本の転換期をどのように記録してきたかを明らかにした。その成果は『NNNドキュメントクロニクル(仮)』として2019年に東京大学出版会より出版予定である。
著者
芥川 一雄
出版者
静岡大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

当科学研究課題の目的は、スカラー曲率が正の山辺計量の収束・退化の解析とその低次元多様体への応用であった。具体的研究成果は下記の通りである。(1)山辺不変量正かつ体積1の山辺計量を持つn次元多様体の族Y(n)を考え、さらにある種の曲率積分有界の条件下で、収束・退化に関する成果を得た。これは、"11.研究発表の3番目の論文"の主結果の一般化である。(2)山辺計量の族Y(n)を考え、(1)とは別のタイプの種々の曲率積分有界の条件下で、それらのコンパクト性定理や正の定曲率計量に対するピンチング定理を得た。特に新しいタイプの定理としては、3次元閉多様体上の平坦な共形構造に対するピンチング定理を得た。以上(1)、(2)の研究成果は、次の論文にまとめており現在投稿中である。"K.Akutagawa,Convergence for Yamabe metrics of positive scalar curvature with integral bounds on curvature."またこれらの研究過程において、スカラー曲率が正の山辺計量は、トポロジーへの応用上、3次元の場合が特に有用でありかつ幾つかの予想問題が自然に提出されることがわかった。4次元の場合においても、反自己双対共形構造に対象を制限すれば、山辺計量の収束・退化の研究はそのモデュライ空間の研究に有用である(この場合には、山辺不変量の符号の条件は不必要となる)。実際"Sobolev半径"と言う概念が導入でき、それを物差しとして、反自己双対的山辺計量の収束・退化の解析はある程度可能であることもわかった。この対象においては具体例が豊富で、今後の研究は反自己双対的山辺計量の収束・退化の研究を中心に進める予定である。上記の研究において、研究費補助金による研究連絡は極めて重要であった。
著者
増田 一男 宮岡 礼子 小島 定吉 岡 睦雄 森田 茂之 丹野 修吉
出版者
東京工業大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

多様体の葉層構造の葉の法方向に関しては色々な不変量が定義されて多くの研究があるが、葉の接方向に関する研究は余り多くない。接方向にアファイン構造を持つ場合には各葉がアファイン多様体になり、その上のアフィン関数が考えられるが、最も基本的なトーラスの場合、アフィン関数はコンパクト葉の上の値で完全に決定され、関数空間の次元がホロノミーによって決まる状況がほぼ完全に解明された。シンプレクティク多様体のラグランジ部分多様体による葉層構造の各葉は接方向にアフィンであり、任意のアフィン多様体はこのようにして実現される。又、コンタクト多様体のルジャンドル部分多様体による葉層構造の各葉は接方向に射影構造を持ち、任意の射影多様体はこのようにして実現される。これらのことが同次座標を使うことにより平行して見通しよく示された。コンタクト多様体の典型的な例であるリーマン多様体の単位接束はCR構造を持つがこれのある(1,3)型のゲージ不変量が消えるための必要十分条件は、リーマン多様体が定曲率-1であることが示された。葉層構造の不変量として最初に発見されたGodbillon-Vey不変量は位相不変が、又G-Vが0なら葉層構造が0に同境かという2大問題はC^<1+α>、P.L.葉層にまでGVを拡張し、かなり研究が進展した。一次元葉層構造と考えられる力学系に関しては、平面の位相同型写像が力学系(=流れ)にうめ込めるかという問題が、写像の非ハウスドルフ集合と関連して研究された。又3次元多様体上の法方向にアフィンである流れで完備であるものについて古典的なり一群を用いて多くの例を構成し、ほぼ分類が完成された。
著者
桜井 武 山中 章弘 後藤 勝年
出版者
筑波大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

研究成果報告書情動を作り出すために重要な役割を果たしている扁桃体内における情報の伝達機構については、よく解明されていない。その原因は局在する神経伝達物質とその生理学的な意義に関する情報が乏しいことによると思われる。本研究では、扁桃体に関連し、情動をつかさどる物質を解明することにより、不安神経症、パニック障害や自閉症など、認知と情動の表出にまつわる精神障害の病態生理や治療法に結びつく知見を得ることを目的とした。とくに申請者らが近年同定したNPWとNPBの受容体GPR7は扁桃体の出力系の中継核である中心核に局在している。また、オレキシン産生神経は視床下部に局在するが、扁桃体からの入力があることがわかったため、これらの機能を遺伝子操作マウスを使用して検討した。方法:(1)GPR7のノックアウト(KO)マウスをもちいて、不安や恐怖に関連する行動実験を行った。行動実験にはオープンフィールドテスト、高架式十字迷路、明暗箱、Cued and contextual fear conditioningを行った。(2)ヒトオレキシンオレキシンプロモーターをもちいて、破傷風毒素の断片を逆行性のトレーサーとしてオレキシン神経に発現させることによりオレキシン神経の入力系を明らかにした。またその生理的意義を明らかにするためにオレキシンKOマウスやオレキシン神経除去マウスを用いた解析を行った。結果:GPR7を欠損させたマウスにおいては空間記憶に問題ないものの、不安行動の亢進、文脈による恐怖条件づけに障害が見られることを見出した。従って、NPB、NPW-GPR7の系が不安の表出、恐怖という情動の生成、情動記憶の生成に重要な役割を持っていることが明らかになった。一方、オレキシン神経の電気生理学的解析および、逆行性トレースの結果、オレキシン神経に辺縁系からの入力が豊富にあることが明らかになった。さらに、オレキシン神経を欠損させたマウスにおいで情動に伴う自律神経系反応の障害があることを見出した。このことにより、オレキシンと情動-自律神経系作用との関係が明らかになった。
著者
池本 幸生 松井 範惇 佐藤 宏 峯 陽一 尹 春志 寺崎 康博
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究の課題は、アジアおよびアフリカの貧困問題にケイパビリティ(潜在能力)アプローチを応用し、経済中心の開発思想から人間中心の開発思想へと転換させることにあった。ケイパビリティとは、アマルティア・センとマーサ・ヌスバウムが人の暮らし振りのよさ(Well-being)を適切に捉える概念として提唱しているものである。ケイパビリティは日本でも多くの人が言及しているにもかかわらず、その訳語である「潜在能力」から勝手なイメージが作り上げられている。この点を明らかにするために日本でのケイパビリティの使われ方をサーベイし、どこが間違っているのかを指摘した。このような研究によってケイパビリティの誤った理解を正す一方、ケイパビリティの正しい理解を普及させるため、論文等を書いたり、セミナー等を行ったりした。ヌスバウムの『女性と人間開発』の翻訳もその活動の一環である。この理論的研究の延長として、センの正義論などについても研究を行い、貧困という「善さ」に関わる領域から「正しさ」に関わる領域へと研究を展開した。実証研究としては、ベトナム(池本)、バングラデシュ(松井・池本)、中国(佐藤)、アフリカ(峯)、韓国(尹)を取り上げ、それぞれの国に関して数多くの論文が公表された。さらに、ケイパビリティ・アプローチが先進国の問題をも適切に分析することができることを示すために日本の不平等の問題についても研究を行った。本研究における成果の発表については国際ケイパビリティ学会(HDCA)などの国際学会で毎年、発表を続ける一方、HDCAの主要メンバーやアジア・アフリカ地域の共同研究者を日本に招いて国際会議を開催した。予想を超えた反応は、経済以外の分野、例えば、公共哲学、国際保健、教育、総合人間学、幸福論、農村開発など様々な分野でケイパビリティ・アプローチに対する関心が高いことであった。今後の発展が期待できる分野である。
著者
漆谷 真 守村 敏史
出版者
滋賀医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

我々は以前に筋萎縮性側索硬化症の原因蛋白質であるTDP-43の2つのRNA認識部位(RRM1とRRM2)内の配列を抗原とし、異所性局在型や凝集体形成型のTDP-43のみを認識する抗体を作出した。本研究ではこれらの抗体を用いて、TDP-43凝集体の形成を阻止する低分子化合物の同定や一本鎖抗体(scFv)を作製し細胞内のTDP-43凝集体の除去効果を検証した。RRM1抗体を用いた競合ELISA法によってTDP-43の異常会合界面に結合し凝集体形成を阻止する化合物を同定した。RRM2を抗原とし蛋白質分解シグナルを持つscFvはTDP-43凝集体と特異的に結合し分解促進し細胞死を抑える成果が得られた。
著者
坂本 成司
出版者
鳥取大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

【背景と目的】集中治療患者では安静による筋力低下が大きい。なかでも特に下肢の筋力や運動を維持することは下肢の血流を保つのにも重要で、下肢静脈血栓症の予防にもつながる。しかしながら、集中治療患者では鎮静剤により自発的に筋肉を動かすことができない。これに対してEMS(電気的筋肉刺激)を用いることにより、自発運動の低下した患者でも筋肉を動かし、下肢の血流を保つことができるか調べる。【方法】健常成人男性9名を対象に右大腿静脈血流速度を超音波ドップラー法で測定し、安静時の最大血流速度に対して(1)自発的に下腿筋肉を収縮させた時、(2)下肢静脈血栓予防のための間欠的空気圧迫装置使用時、(3)EMS(電気的筋肉刺激)を下腿筋肉に使用時、それぞれの最大血流速度増加を比較した。【結果】右大腿静脈の最大血流速度は安静時に比べ、(1)下腿の等尺収縮時は2.7倍、足の底屈時は2.9倍、(2)間欠的空気圧迫時は2.3倍の有意な増加があった。(3)EMS(電気的筋肉刺激)では1.3倍となったが、有意な増加とは言えなかった。【考察】下腿に対するEMS(電気的筋肉刺激)による右大腿静脈の最大血流速度増加は当初想定していたほどの効果は見られなかった。自発的な下腿筋肉の収縮や間欠的空気圧迫装置による血流増加は瞬間的に起こるのに対して、実験に用いたEMS(電気的筋肉刺激)は時間が長く持続的な刺激であるため、瞬間的な血流増加が起きなかったものと考えられる。被験者の感覚としても自発的な収縮とEMS(電気的筋肉刺激)による刺激では筋肉の収縮パターンが違うとのことであった。また、今回の刺激ではEMS(電気的筋肉刺激)による筋肉の動きが小さい割に、被検者の痛みや不快が大きかった。今後はEMS(電気的筋肉刺激)パターンを工夫することにより、自発的な筋肉収縮と近い刺激を調べる必要がある。
著者
浅野 雅秀 吉原 亨
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

高次脳機能における糖鎖の役割を明らかにするために様々な糖鎖遺伝子の改変マウスを用いて,行動実験を中心に解析を行なった。β4GalT-2欠損マウスやC6ST-1 Tgマウスでは新奇刺激に対する過敏性や注意機能の異常が認められ,ドーパミン系の異常が示唆された。脳特異的β4GalT-5とβ4GalT-6欠損マウスでは活動性の変化や注意機能の異常が見られ,ミエリン形成の異常が示唆された。このように糖鎖は高次脳機能に重要な役割を持っていることが明らかとなった。
著者
森口 郁夫 松下 泰雄 広野 修一
出版者
北里大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

化学物質の毒性が化学構造から予測できれば、製品開発、環境汚染等の面でその恩恵ははかり知れない。本研究は、ヒト経口急性毒性(以下、ヒト毒性)および魚毒性の予測について適応最小二乗法(ALS81)、ファジイ適応最小二乗法(FALS88)を用いて検討を行った。1.データソース:ヒト毒性は、CTCP(5版)、RTECS(1981-82版)および日本薬局方等から収集し、総数504個、魚毒性はRTECSから329個の有機化合物に関するデータを収集し、各々毒性の強さに従って3等級に分類して用いた。2.構造記述子:化合物の化学構造の特徴を表すものとして、ヒト毒性は分子量、特定の原子(C、O、S等)、環(ベンゼン、キノン、等)、各種官能基、特徴的な部分構造については数、又は準数量変数、魚毒性は数、又はダミー変数であり、検討した記述子は各々60および63種である。3.構造・毒性相関モデルの生成:計算は東大計算機センターの電算機およびNEWSで行い、得られた最良の識別関数には、ヒト毒性では41種(ALS81)および40種(FALS88)、魚毒性では35種(ALS81)の記述子が含まれている。4.識別・予測の信頼性:識別関数による毒性等級の識別計算は、ヒト毒性ではALS81、FALS88とも439個(87.1%)および魚毒性では280個(85.1%)が正しく識別され、スピアマン順位相関係数(Rs)は0.858、0.860、および0.825であった。またリーブワンアウト法による予測計算は、411個(81.5%)、412個(81.7%)および256個(77.8%)の化合物の等級が正しく予測された。以上の識別・予測ともすべて0.1%の危険率で有意であり、所期の目的が達成できたと考えられる。
著者
大海 雄介
出版者
名古屋大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ガングリオシド欠損に伴うグリア細胞の異常活性化とグリア細胞の分別的役割を検討するために以下の検討を行った。野生型(WT)及びガングリオシド欠損マウスの脳組織切片を用いて、ミクログリアの異常活性の検討を行った結果、ガングリオシド欠損マウスにおいて、ミクログリアの集積が認められ、さらにM1型マーカーのiNOS抗体で多くのミクログリアが染色された。これによりガングリオシド欠損マウスで集積する活性化ミクログリアは炎症を誘発するM1型という事が示唆された。WT初代培養アストロサイトに発現するガングリオシドのprofileをflow cytometryにて検討した結果、初代培養アストロサイトではガングリオシドGM1, GD1a, GD1b, GT1bが高発現することが明らかになった。ガングリオシド欠損アストロサイトの炎症性サイトカインへの反応性を検討したところ、IL-6による刺激によって、TNF-αの発現が亢進し、さらに抗炎症因子であるSOCS3の発現低下が認められた。以上により、アストロサイトにおいてガングリオシドが炎症性サイトカインに対する反応およびそれらの発現を制御していることが示唆された。また、ガングリオシド欠損アストロサイトにおける細胞膜機能の異常を明らかにするため、[3H]グルタミン酸をWTまたはガングリオシド欠損アストロサイトに添加し、グルタミン酸の取り込み能を検討した結果、ガングリオシド欠損アストロサイトではグルタミン酸の取り込み能の低下が見られた。これはガングリオシドの欠損によるミクロドメイン上の構造変化がグルタミン酸トランスポーターであるEAAT1/2の局在変化を惹起し、グルタミン酸の取り込みを低下させたためと考えられた。さらに、ガングリオシドの欠損は、現在迄に判明していた小脳だけでなく脊髄などの他の部位でもグリア細胞の活性化と神経変性を惹起することが明らかになった。上記結果の一部はJournal of Neuroinflammationに掲載された 。
著者
玉木 七八 堀川 陽子 松田 広一 坂田 成子(藤本 成子)
出版者
神戸学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

GABAアミノ基転移酵素(β-AlaATI ; EC2.6.1.19)は脳ではGABAの代謝に、肝臓、腎臓ではシトシンやウラシルの代謝産物β-アラニンの分解に関与している。GABAは脳の抑制性神経伝達物質であることはよく知られている。アルコール(エタノール)は少量で中枢神経を興奮し、多量では抑制を示す。アルコールはチロシンアミノ基転移酵素(TAT)を非常に有意に増加させることが知られているので、β-AlaATIについても何らかの影響を示すのではないかと考え本研究を始めた。アルコールの血中濃度を長時間持続させる目的で嫌酒薬ジスルフィラム投与ラット用いた。TAT活性は顕著に増加するに対し、β-AlaATI活性は逆に減少した。時間の経過に対し指数関数的な減少の様子を示した。アルコールやジスルフィラム単独ではβ-AlaATI活性に効果を示さなかった。また、アルコール脱水素酵素阻害剤ピラゾール前投与もβ-AlaATI活性にアルコールの効果を与えなかった。生体内でジスルフィラムはジエチルアミンと二硫化炭素に分解される。二硫化炭素前投与ラットにアルコールを投与してもβ-AlaATI活性に影響を与えなかった。エタノールアミン-○-サルフェートがβ-AlaATIの自殺基質であることから、アルコールとジスルフィラムの同時投与がエタノールアミタン-○-サルフェートの様な代謝産物を生じβ-AlaATI活性を抑制したのではないかと考えられる。β-アラニン・ピルビン酸アミノ基転移酵素についてジスルフィラムとアルコールの影響について検討したが酵素活性を抑えるもののβ-AlaATIの場合のように顕著な作用を示さなかった。
著者
小田 豊 秋田 喜代美 芦田 宏 鈴木 正敏 門田 理世 野口 隆子
出版者
独立行政法人国立特殊教育総合研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成16年度から18年度までの3年間に渡って採択された科学研究費補助金(基盤研究(B)(1))「幼児教育における教師の保育観の日米比較文化研究:ビデオ刺激法による検討(課題番号16402042)」において、まず、多声的エスノグラフィー法を援用したビデオ再生刺激法の開発が挙げられる。その研究方法に基づいて、以下の2点を主たる研究成果としてここに記す。◆良質の保育を保育実践に照らし合わせて検証する本研究を通して、日独米の保育者それぞれが考える【良い保育】の要素が導き出された。「保育者の持つ"良い保育者"イメージに関するビジュアルエスノグラフィー」(質的心理学研究第4号/2005/No.4/152-164)では、日本の保育者を対象に"良い保育者"イメージを明示化することを試みた。その結果、"良い保育者"イメージは『子ども中心』志向と密接に結びついていることが示唆された。◆保育実践文化における保育者の暗黙的実践知・信条を描き出す海外での発表を数多くこなすことで、色々な分野や文化背景を持つ研究者から教示を得ることができたが、研究協力者であるドイツ人研究者からは色々な刺激を受けた。彼らと共有し合ったデータを用いた「多声的エスノグラフィー法を用いた日独保育者の保育観の比較検討一語頻度に注目した実践知の明示化を通して一」(教育方法学会掲載)では、ビデオ映像を用いた多声的エスノグラフィーの手法によって、日独の保育者の暗黙的な実践知として作用している保育観を明示化し、比較検討することを試みた。ビデオ視聴における保育者の語りを語頻度を軸に分析し、3つの共通点「子どもたちの自主性、主体性の尊重と、指導することへの抵抗感」「社会性の育ちを重視する視点」、そして「安全への視点」を見いだしたが、その内部構造は日独で異なっているという知見が得られた。
著者
川戸 佳
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

成獣ラットの脳の海馬において、女性ホルモンや男性ホルモンのみならず、コルチコステロン(ストレスステロイド)も独自に合成されることを発見した。質量分析で測定した女性・男性ホルモンは、海馬の方が血中の濃度よりかなり高かったので、海馬の女性ホルモンと男性ホルモンの方が、神経シナプスに及ぼす影響は大きいことが推測できた。海馬コルチコステロンは副腎の影響を排除するため副腎摘出ラットで測定した。海馬の神経シナプスをこれら性ステロイドやコルチコステロンがモジュレ-ションする様子を神経スパイン可視化解析と電気生理で解析した。1-10 nMの女性ホルモンや男性ホルモンは、双方ともに2時間で急性的にスパインを増加させることを見出した。この現象がシナプスに存在する受容体ERαやARを介して、MAPK, PKA, PKCなどの蛋白キナーゼ系を駆動して起こること、を発見した。コルチコステロンは1時間程度でシナプスの長期増強を抑制するが、1nMの女性ホルモンがこの抑制を無くして正常状態に戻す力を持つことを発見した。シナプスに存在する受容体GRやERαを介してMAPKなどが働いていることがわかった。以上の結果を総合すると、脳海馬において女性ホルモン・男性ホルモンやストレスステロイドが合成され、これらがERαやGRなどの受容体を介して蛋白キナーゼ系を駆動し急性的に神経シナプス可塑性を制御することがわかった。