著者
宮脇 慎吾
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

ハダカデバネズミ(naked mole-rat, NMR)は、マウスと同等の大きさながら、異例の長寿動物(平均生存期間31年)であり、未だ腫瘍形成が確認されていない癌化耐性齧歯類である。申請者は、NMR、ヒト、マウスおよびラットの4動物種での組織別遺伝子発現比較で同定した、心臓においてNMRで特異的に高発現するgene Xの解析を行った。報告のある動物種のなかで、gene Xが心臓で高発現しているのはNMRのみであった。gene Xは通常肝臓で発現して血中に分泌され、アリルエステラーゼおよびパラオキソゲナーゼとしての酵素活性を有する抗酸化酵素である。しかしながら、NMRの血清におけるgene Xの酵素活性を測定した結果、酵素活性は測定限界値以下であった。gene Xはカルシウム依存性の酵素活性を有するが、NMRの血中カルシウム濃度は検出限界値以下であったことから、NMRでは、他種とは異なるカルシウム非依存的な様式を有する可能性が考えられた。申請者は次に、細胞の癌化や個体の老化との関係が報告されている癌抑制遺伝子INK4aとARFのクローニングと機能解析を行った。NMRにおいては、INK4aとARFに種特異的な配列変化が存在することが知られている。この遺伝子の種特異的な機能・個体の癌化・老化耐性との関係を解析するために、抗体作製等の解析基盤を確立し、発現様式と遺伝子機能に関して解析を行った。結果として、マウスやヒトと同様に、細胞老化ストレス時の発現上昇、細胞周期を停止させる機能は保存されていることが明らかとなった。さらに、NMRからiPS細胞を作成して造腫瘍性の検証を行ったところ、NMR-iPS細胞はARF遺伝子の種特異的な発現制御により腫瘍化耐性であることを見いだしている。今後、これらの遺伝子の詳細な機能差、個体の癌化・老化耐性への寄与についての解明をさらに進めていく。
著者
安東 恭一郎 結城 孝雄 村上 尚徳 鈴木 幹雄 福本 謹一 山口 喜雄 天形 健
出版者
香川大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013

2015年度は、美術デジタル教科書活用の実施に向けて、デジタル教材の開発とその活用の為の理論構築、実践に向けての環境整備を行った。まず、デジタル教材を活用した学習モデルの構築として、デジタル教材として利用できるコンテンツの選定をおこない、美術教育の「鑑賞」領域に焦点を当てたデジタル教材開発を行った。同時並行に、これを裏付ける理論構築と実践に関する共同研究として、間テクスト性概念に基づいた学習活動の筋道を明らかにした。これらの研究成果を3学会で6本の発表を行い、そのうち2学会に4本の論文投稿を行った。
著者
一條 彰子 寺島 洋子 室屋 泰三 東良 雅人 奥村 高明
出版者
独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、国内外で行われている最新の美術鑑賞教育の理論と方法を整理したうえで、国内各地の美術館の所蔵作品を用いて、探求的な鑑賞プログラムを開発することである。研究初年度となる平成28年度は、国外(オランダ)美術館の先進的な取り組みを視察し、学校教育との関わりついて調査することができた。具体的には次のとおり。国外調査:オランダの主要な5つの美術館(アムステルダム市立美術館、ゴッホ美術館、アムステルダム国立美術館、ユトレヒト中央博物館、マウリッツハイス美術館)を訪問し、教育担当学芸員から次の点について説明を受け、ギャラリートークを視察した。1.鑑賞教育の理論と教授法、プログラムの種類、2.所蔵作品の特徴をどのように活用しているか、3.教育スタンダードをどのように反映させているか、4.学校連携のしくみや教員研修について、5.教育部の組織とスタッフ、6.課題と目標。さらにオランダで近年注目されているギャラリートーク理論「I ASK」について、発行元であるユダヤ歴史博物館よりハンドブックを入手し、オランダ語から翻訳を行った。これらのことから、オランダの美術館ではそれぞれのコレクションに明快に関連付けられた教育ミッションに基づき、ギャラリーでの鑑賞授業を、オンライン教材を用いた学校での事前学習や、美術館アトリエでの事後制作と組み合わせて展開していることが明らかになった。年度後半には、これらの調査成果を分析し、2年目以降に制作する鑑賞教材にどのように活かせるかを検討した。
著者
野村 良紀
出版者
大阪工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

アミノ酸から誘導し配位子末端にカルボキシル基をもつ亜鉛(II)ジチオカーバマート錯体が架橋配位子として機能し,溶液中での亜鉛(II)イオンおよびニッケル(II)イオンとの反応によって柔軟な構造をもつ多孔性配位高分子を与えることを見いだした。さらに,これらの錯体とプロトン受容性官能基をもつポリビニルピリジンおよびポリビニルピロリドンとは,水素結合を介して分子間相互作用し,その結果,多孔質無機/有機複合体を形成した。また,高分子表面上での錯体の結晶成長の可能性を見出した。
著者
横井 俊夫 しゃ 錦華 陳 淑梅 亀田 弘之 楊 立明 大野 澄雄
出版者
東京工科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は当初の計画に従い以下の研究成果を得た。1.中国語音節片仮名表記法(jピンイン)の最適化中国在住の中国語母国語話者を対象とする聴取実験により、中国語音節の日本語仮名表記法(jピンイン)を体系として最適化した。なお、以下の研究成果はこの成果に基づき実現されたものである。2.日中対応表記辞書のコンテンツの作成と評価一般旅行者用観光ガイドブックの索引情報や中国資料集を素材として、一般観光客に有用な地名(観光地名477個、都市名80個)および主要な人名(姓51個、名45個)を網羅的に収集し、データベースシステムACCESS2000に格納した。また、学術的観点・実用的観点からの妥当性を確認した。3.知的検索支援システムの実装と評価中国語未学習の日本人でも比較的容易に入力できるように、ピンイン入力、偏や旁さらには画数による文字候補限定による入力の他に、図形的類似に着目する「日中類似変換」方式を提案し、知的検索支援システムとして実装し、学術的観点・実用的観点から妥当性を確認した。4.日中表記対応辞書のシステムとしての評価上記の中日表記対応辞書と知的検索支援システムとをHTML、php、VB、MySQLにより作成し統合した。中国語(GB2313コード)入力に関しては既存の日本語用IME(4,402文字)と上記4の方法(2,361文字)を併用する方式を採用した。5.Webサーパーの構築とWeb化の実験上述の成果をWeb形式で公開するためにWebローカルなサーバーを構築し、マニュアルのオンライン化を含めWeb化実験を行ない、初の計画通りの動作を確認した。6.システムの総合的評価最終年度統合した辞書・検索システムをアンケート形式で総合的に評価し、表示画面の構成、操作性、機能性に関し概ね良好であることを確認した。
著者
上田 信 金子 啓一 上田 恵介 阿部 珠理 佐々木 研一
出版者
立教大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1998

前年度から引き継がれた問題点前年度は、NGOに関する情報収集と、NGOに関心を持つ大学教員に対する聞き取り調査を行い、基本的な認識を得るように努めた。今年度は、研究の焦点を緑化NGOに定め、その行為に参画し、実践的に研究を進めた。(1) 緑化リーダー養成講座GENは中国の沙漠化地域の一つである山西省の高度高原において、現地の青年連合会とパートナーシップを組んで緑化活動を行っている。そのなかで、現地の植生の調査、育苗・植林技術の向上、病害虫被害の分析などにおいて、大学教員や元教員と連携を図っている。その主なメンバーを招き、「緑化リーダー養成講座」というタイトルのもと、講演会を開催し、そのNGO経験に関するデータを集めた。(2) ワーキングツアーチコロナイは北海道でアイヌ民俗が多く住むニ風谷において、アイヌ文化の基盤となる森林の再生を目的とするナショナルトラスト活動である。毎年、数度にわたり現地においてワーキングツアーを企画しており、上田が参加して大学とのパートナーシップの可能性を探った。その結果、ナショナルトラスト活動は自然と文化と生活とを総合的に考察する機会を与えるものであり、ワーキングツアーは有効な教育の場となりうることが明らかとなった。(3) 文学部集中合同講義「アジア・開発・NGO」大学の学生のNGOに対する取り組みを調べるために、文学部の集中合同講義にNGOを取り上げた。学生にNGOが企画したシンポジウムやイベントの情報を提供し、興味を持ったものに参加するように促した。その結果、学生のNGOに対する目を開かせるためには、きめの細かいサポートが必要であることが明らかとなった。(4) サポートセンターの必要性以上の研究・調査の結果、大学とNGOのパートナーシップを構築するためには、両者の事情に精通したものがマッチンキグさせるための第三者的なサポート体制をつくる必要があることが明らかとなった。今後は、そのサポートセンターの設立の条件などについて、実践的に研究を展開させてゆきたい。
著者
瀬川 拓郎
出版者
旭川市博物館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

11~12世紀に平泉を拠点に権勢を誇った奥州藤原氏の財政基盤は、オオワシの尾羽や海獣皮といった北海道の産物と、北上産地をはじめとする北東北の砂金にあったとされる。しかし、具体的な砂金産地やその生産実態はもとより、北海道集団との交流の実態解明もほとんど行われていない。本研究では、奥州藤原氏と古代北海道集団の関係を明らかにするため、砂金を手がかりとし、化学分析により北海道と東北北部の砂金の成分的な異同を比較検討して、北海道産砂金が平泉に流通した可能性を検証した。平成26年度には次の調査・研究を実施した。1)東北各地31カ所の砂金サンプルについて研究協力者から提供を受け、函館高専において化学分析を実施した。その結果、微量元素の構成で北海道と東北の砂金に有意な差は認められなかったが、専門家のアドバイスを受け、今後比較検討する微量元素の数を増やすとともに、より精度の高い分析機器による分析を検討することになった。2)奥州藤原氏関連遺跡から出土している坩堝など金付着関連遺物について26年度に化学分析を行う予定であったが、平泉町教育委員会と協議を行い、来年度にこれら資料の化学分析を実施することになった。3)北海道厚真町では、常滑焼など奥州藤原氏関連遺物が出土し、近年奥州藤原氏の移住の可能性が指摘されていることから、移住と砂金の関係を明らかにするため、これまで砂金産出の記録がない同町の厚真川において26年度には砂金調査を2回にわたって実施し、砂金を得た。4)上記の東北各地砂金サンプルの化学分析結果とこれまでの研究遂行状況について、3月に函館高専において報告検討会を実施した。
著者
松尾 七重
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究の目的は,図形の概念形成を促進する学習指導の方法を確立することである。本研究では,図形の概念形成を促進する学習指導の方法を明らかにするために、既に理論的に抽出されている理解の状態向上を促す要因を考慮して授業を実施することにより、その要因の妥当性及び実行可能性を検証した。その結果に基づいて、小学校2年生、5年生及び中学校2年生における学習指導の方法を以下のように示した。小学校2年生においては、長方形を定義した後に,正方形以外の長方形をひし形や長方形以外の平行四辺形と比較する活動を行うことで,長方形の角が直角であることに気づくようにすること、紙を折って長方形をつくる活動や,三角定規を用いて長方形をかいたり,直角であることを確認したりする活動を行い,長方形の4つの角が直角であるという関係を理解できるようにすることが示された。小学校5年生においては、図形の面積を求める際に,その図形の概念の性質に着目できるようにすること,平行四辺形,ひし形や正方形の面積を求める際に既習図形の求積に関連づけることを促し,図形の概念及びそれらの関係を活用して求める方法を確認することが示された。中学校2年生においては,図形の概念の定義を的確に捉えていることにより,図形の概念間の包摂関係を理解できるようになり,概念形成が促進されるということから,概念形成を促進させるための定義の学習指導のあり方を考えることが重要であることが明らかになった。具体的には、定義の学習指導において否定的な表現をなくすようにすること、否定的な表現が含まれない理由について話し合うことという方法が示された。
著者
久木田 洋児
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

改良型NOIR-SeqSの臨床検体における性能評価を行うため、膵癌検体解析用に設計した遺伝子パネルの標的領域について、膵癌患者/健常者集団(第1コホート.膵癌57人、健常12人.)から抽出した血漿DNAを解析した。その結果、膵癌患者31人(54%)、健常者5人(42%)から変異を検出した。最近、癌に特異的な変異以外に、試料の保存中に生じたDNA損傷に由来する塩基変化や正常細胞中に生じた癌に関与しない体細胞変異の存在が指摘されており、健常者で見つかった変異はそれらに該当すると考えられた。癌に特異的ではない変異は癌患者検体の変異検出解析の障害になるので区別して除く必要があり、それを可能にする情報学的なフィルターの開発に取り組んだ。第1コホートを学習データとして扱い、癌体細胞変異を網羅しているCOSMICデータベースから独自基準に従って癌特異的変異を選択し、癌に特異的ではない変異を除くCV78フィルターを考案した。CV78フィルターを使って再解析すると、変異が検出された人数は、膵癌患者19人(33%)、健常者0人となり、癌と関係のない変異を除くことが出来た。この結果を検証するために、前出集団とは別の第2コホート(膵癌患者86人と良性の膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)患者20人)を解析した。改良型NOIR-SeqS単独解析では、膵癌患者62人(72%)、IPMN患者10人(50%)で変異が検出されたが、CV78フィルターを用いると、32人(37%)、1人(5%)になり、CV78フィルター後の変異検出率は独立した上記2集団で同様になった。また、膵癌患者のKRAS変異検出率は他方法を用いた他グループからの報告と同等であったことから、今回開発した改良型NOIR-SeqSとCV78フィルターを組み合わせた変異検出システムが臨床検体の解析に有用であることを確認することが出来た。
著者
牧野 英二 白 琮鉉 李 美淑 韓 慈卿 李 京珪 李 秋零 廖 欽彬 張 政遠 李 明輝 彭 文本 近堂 秀 相原 博
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は、次のような研究成果を挙げた。第一に、日本、韓国、中国・台湾の漢字文化圏におけるカント哲学の翻訳・受容の現状と課題を解明した。第二に、日本、韓国、中国・台湾におけるカント哲学研究の国際的なネットワークを構築することができた。第三に、日本、韓国、中国・台湾におけるカント哲学の翻訳・受容の影響作用史の課題を解明することができた。 最後に、本研究の一部は、すでに『東アジアのカント哲学』に発表された。
著者
和方 吉信 伊賀 啓太
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

黒潮流量の経年変動の仕組みを調べる事を目的とし、海洋大循環数値モデルや人工衛星海面高度計データを用いた研究を行った。中緯度域の解析では、黒潮流量の変動を傾圧ロスビー波の伝播応答として理解することができたが、亜熱帯反流が存在する海域ではこの説明では難しく、不安定波の効果も更に考慮にいれる必要があることがわかった。黒潮の源流は、熱帯域の北赤道海流に続く。熱帯域には、赤道域に捕捉されたロスビー波やケルビン波などの赤道波の存在が知られていおり、これらの波動の挙動は黒潮源流に影響を与えている。これらの波動について、衛星海面高度計データを用い解析を行った。海面高度変動に対し、最良適合法を用い赤道波モードへの展開を行った。得られたモードに対し、波数と振動数に関するパワースペクトル密度(PSD)を求め、PSD分布と理論分散曲線との比較を行った。その結果、低次ロスビー波のPSDは理論分散曲線よりいくぶん低い振動数域に分布したが、ケルビンモードや高次ロスビーモードは理論分散曲線近くに集中し分布した。この事から、特に季節内変動程度の短い時間スケールでは、赤道近傍の波動擾乱は赤道波の性質を有していることがわかった。海洋大循環数値モデルによる数値計算を行い、特に黒潮の流れる東シナ海の海面高度の変動要因を考察した。海面高度は夏季に高く冬季に低い傾向を再現できた。衛星観測やモデルの海面高度の季節進行は渤海や黄海北部において早く、中国東岸の東部では遅い傾向にあった。熱膨張効果による海面高度の季節変化を計算を行ったが、この効果のみからこれらの特徴を説明できなかった。そこで、別の要因として風の効果が挙げらる。冬季の北からの季節風の吹き出しは、黄海北部から海水を南に押し出し、海面変動の振幅を増大させ位相を早めると考察した。
著者
中村 彰宏
出版者
茨城大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2017-08-25

本研究は、従来の化学的、物理化学的手法では煩雑な操作と時間を要した多糖類の分子構造を原子間力顕微鏡(AFM: Atomic Force Microscope)を用いて短時間且つ高精度に解析し、同時に多糖類の食品における物性機能を解析することで、分子構造と機能の相関図を作成するものである。本年度の研究では、世界で広く栽培される豆類を入手し、エンドウ豆、インゲン豆、並びにレンズ豆から豆類多糖類を抽出する条件の検討を行った。まず、豆を水浸漬して膨潤し、内皮を除去した後、ホモミキサーで高速撹拌して豆乳を得た。豆乳を遠心分離して多糖類を含む繊維質(細胞壁成分)を回収した。この食物繊維を原料にpH3-9の条件下で多糖類の抽出を行った。多糖類の抽出は、繊維に混在する蛋白質の性質の影響を受けるが、pH4-5, 110-120℃の高温加圧条件下で、繊維あたり30-45%の高収率で抽出できることを見出した。また、AFMを用いて抽出した豆類多糖類の分子構造の解析を行った。本年度は、エンドウ豆多糖類とインゲン豆多糖類のAFMによる構造解析の条件を確立し、分子構造に関する新しい知見を得た。エンドウ豆、インゲン豆ともに大豆と同じく多分岐構造を持つ。エンドウ多糖類は大豆多糖類と同程度の分子サイズであり、直径50nm、推定分子量30万であった。一方、インゲン豆多糖類は直径110nm、推定分子量120万の巨大分子であると推定された。更に、インゲン豆多糖類は巨大な多分岐多糖類に加え、直鎖構造を持つ多糖類も混在し、極めてヘテロな構成を持つことが明らかになった。現在、レンズ豆多糖類のAFMによる構造解析を進める同時に、これら豆類多糖類の物性の解析、並びに、食品での物性機能として乳酸菌飲料の乳蛋白質の凝集抑制と分散機能について解析を進めている。
著者
森永 力 田沢 栄一 室岡 義勝
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1993

コンクリートの腐食劣化といえば従来,酸,アルカリ,塩類などによる化学的腐食を示すのが一般的であった.しかし,近年国内においてコンクリート構造物の微生物腐食が下水道関連施設などで相次いで報告されるようになってきた.そして,この劣化の機構は以下のとおりである.下水中の有機物が微生物により分解され酵素が消費されて下水が嫌気性になると,偏性嫌気性菌である硫酸還元菌の活性が高まり,下水中に含まれる硫酸塩を硫酸還元菌が還元して硫化水素を多量に生成する.生成した硫化水素は気相中に放出され,結露水や飛沫水中に溶解し,硫黄酸化細菌によって酸化されて硫酸となり,この硫酸によりコンクリートが腐食,劣化するというものである.我々の研究の結果,これらの機構とは異なった機構でもコンクリートの劣化の起こることが明らかとなった.すなわち,本研究の結果,好気的条件下で分離,培養した硫化水素生成細菌および硫黄酸化細菌の作用によりモルタル供試体からカルシュウムが溶出することが明となった.また,本研究で用いた微生物において,これらの溶出を引き起こす因子は主に酢酸およびプロピオン酸,炭酸であることが明かとなった.嫌気性細菌が一因を担う,下水道関連施設で問題になっているようなコンクリートの激しい劣化は再現することができなかったが,コンクリート構造物が微生物活性の高い環境下におかれることによって,好気的な条件だけでも微生物の呼吸作用を含めた代謝産物によりコンクリートが劣化することが明かとなった.
著者
井埜 利博 岡田 了三 太田 光煕 高橋 和久 稀代 雅彦
出版者
群馬パース大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

【背景】妊娠中に喫煙した母親から生まれた児は肥満になると報告されているが、他の?絡因子から独立した危険因子かどうか不明である。今回、受動喫煙検診および小児生活習慣病検診を受けた児童において母親の妊娠中喫煙と児童の体格変化について横断的調査を行なった。【対象・方法】対象は小学校4年生1366名(男女比1.1:1.0、年齢は9~10歳)。全例、受動喫煙検診および小児生活習慣病検診を受診した児童で、尿中コチニン濃度および生活習慣病検診項目(体重、身長、肥満度、BMI、脂質検査および受動喫煙・生活習慣アンケート調査)などについて、母親の妊娠中喫煙の有無との関連性を調べた。また、一部症例については尿中80HdG濃度を測定し、酸化ストレスとの関係についても検討した。【結果】母親が妊娠中喫煙している児はBMIおよび肥満度が増加しており(BMIは17.2±2.7kg/m^2vs16.9±2.5kg/m^2,p=0.016、肥満度は2.7±14.3%vs0.4±14.0%,p=0.003)、妊娠中の喫煙期間が長い程、増加の程度が大きかった。そのBMI・肥満度の増加は身長の低下および体重の増加によるものであった。児の?絡因子との関係では「家族と一緒の朝食」「夕食時のテレビ」「就寝前飲食」「テレビ視聴≧2時間」「睡眠時間<8時間」「スポーツの有無」などの項目で有意差があった。しかし、母親の妊娠中喫煙はそれぞれの?絡因子ごとにBMIおよび肥満度の有意差をみとめた。一方、受動喫煙を受けている児では尿中80HdGとBMIは負の関係があり、BMIが低い方が基礎代謝が高いことを示唆していた。【結論】母親の妊娠中喫煙は児が9~10歳になった時に、BMIおよび肥満度の増加をもたらす危険因子であり、他の?絡因子の影響を受けない独立した因子であると考えられる。妊娠年齢の女性は妊娠の有無に拘わらず喫煙しないことが望ましい。
著者
金 美景
出版者
広島市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

今まで雑誌論文計7件(単独)、図書計2件(単独)の出版や8件の学会発表(単独)がある。
著者
橋川 裕之
出版者
静岡県立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究はビザンツ帝国のキリスト教、すなわち正教の信仰生活に関連して成立した、ヘシカズムと呼ばれる神秘主義について、その起源と展開の解明を目指したものである。本研究の主たる成果は、心身技法をともなう形式の神秘主義的霊性がアトスのニキフォロスによりテクストにおいて定式化された13世紀半ばよりも前に、何らかの、具体的には明かされない神秘主義的実践の伝統があったことを示した点にある。
著者
楠田 哲士
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

希少食肉目動物の飼育下個体を対象に,糞中の性ホルモン動態のモニタリングから繁殖生理の解明を行うと共に,糞中DNAとホルモンの解析により排泄者を特定する方法を開発し,その種の保全に役立つ繁殖生理生態調査法を確立することを目的とした。1.ネコ科とクマ科の希少種7種の飼育個体から,糞を定期的に採取保存し,繁殖生理の解明に必要な試料を蓄積した。2.糞中性ステロイドホルモン動態のモニタリングにより,特にトラとヒョウの繁殖特性を明らかにした。トラでは,卵胞活動の指標として糞中エストラジオールー17β(E2)またはアンドロステンジオン(AD),黄体活動の指標として糞中プロジェステロン(P4)の測定が有効であった。発情期に雄からマウントまたは交尾を受けた雌では,交尾後発情兆候が消失し,P4値が急激に上昇した。その後,出産がみられなかった場合には交尾後2ヶ月以内に基底値まで減少し発情兆候が回帰した。発情期に交尾がみられなかった場合や単独飼育された場合は,いずれもP4含量は基底値を維持し,E2,ADまたは発情兆候に約1ヶ月の周期性が認められた。しかし,稀に交尾・マウントがなくP4値の上昇が認められた。以上のことから,トラの排卵様式は交尾排卵型である可能性が高いが,稀に交尾刺激なしでも排卵する場合があることが明らかとなった。ヒョウでは,ローリング行動が観察された時期に一致して,E2またはADが上昇する傾向が認められ,ローリング行動がヒョウの発情行動の一つと考えられた。調査期間中P4値に明確な上昇が数回確認されたが,これらの個体は雄と同居させていなかったことから,ヒョウは交尾刺激を伴わずに排卵する確率が高いことが明らかとなった。3.動物種や性判別などの排泄者情報を糞から特定するための方法を確立するため,糞からDNAを抽出・増幅するために必要な実験設備体制を整えた。
著者
飯田 弘之
出版者
北陸先端科学技術大学院大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は詰将棋を題材としてコンピュータによる自動創作とその美観評価を探求した.深層証明数探索アルゴリズムを考案し,証明数を用いた詰将棋の感性評価実験を実施した結果,問題の難易度が評価に大きな影響を与えていることをつきとめた.美観評価の高い問題の自動創作に際して,名作と呼ばれる詰将棋の初期局面を形状保持するヒューリスティックを考案し,評価実験により提案手法の有効性を示した.感性評価の新たな方法としてゲーム洗練度の指標を用い,パズルや思考ゲーム等を対象とした評価実験の結果,長い歴史の中で洗練されいまなお親しまれているゲームやパズルは,ゲーム洗練度の値がほぼ同じであることを確認した.
著者
横溝 岳彦 佐伯 和子 奥野 利明
出版者
順天堂大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-04-01

BLT2は上皮細胞に発現し、腸管バリア機能の維持や皮膚創傷治癒に必要な受容体であることが分かった。BLT2アゴニストは難治性皮膚潰瘍の治療薬候補と考えられた。アスピリンはBLT2リガンドである12-HHTの産生を抑制することで創傷治癒を遅延させた。BLT1、BLT2はゼブラフィッシュの胚発生に必須の遺伝子であった。遺伝子欠損マウスの解析から、BLT1が多発性硬化症を増悪させたり、脊髄損傷の回復を遅らせること、BLT2が気管支喘息の反応を抑制していることも分かった。
著者
松井 理生
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

○調査目的:オオワシとオジロワシは、その多くが冬季に北海道に南下して越冬する冬鳥であり、主に魚食であるため、ほとんどの越冬個体は海岸沿いに生息している。しかし、近年、両種が北海道の内陸部でもたびたび飛来し越冬していることが確認されるようになった。その理由として1990年代以降エゾシカの個体数が増加し、その死肉を餌資源として利用するワシが増えたことが考えられる。本調査では北海道の中央部に位置する富良野市の東京大学北海道演習林周辺において、その飛来実態をエゾシカの存在とともに明らかにした。○調査方法:調査は観察地を5箇所設定し、各調査地で定点観察を行い、ワシ類を確認したら種を同定し、成長度などの状況を記録した。調査地の2箇所は鳥獣保護区、2箇所は可猟区、1箇所はカモ類などの水鳥が多く越冬する自然沼で行った。それぞれ11月から3月まで、1回の調査で1時間以上の定点観察を各月に1調査地で2回以上行った。また、内陸部との比較のため、沿岸部の大規模越冬地においても1月と3月に同様の調査を行った。沼を除く4調査地においてエゾシカの存在を把握するため、調査地の近くにある林道上に1kmの調査コースを設け、コース上を横断にしたエゾシカの頭数を1~3月までの各月に1回カウントした。○調査結果:5調査地において総観察時間74時間にわたる定点観察の結果、のべ個体数で70羽のワシ類を確認し、1時間当たりの確認個体数は0.95羽であった。そのうちオオワシ25羽、オジロワシ42羽、種を同定できなかった個体3羽だった。飛来したワシの成長度では、オオワシ、オジロワシともに79%が成鳥、21%が若鳥であった。調査地別にワシの確認数とエゾシカの生息数との関係をみると、エゾシカが0頭/1kmと1頭もいなかった鳥獣保護区の調査地でワシの確認個体数が0.15羽/1hと最も低く、エゾシカが93.2頭/1kmと最も多かった可猟区の調査地で1.74羽/1hと最も高い結果となった。このことから、エゾシカの存在がワシの個体数に大きく影響していることがわかった。水鳥の越冬沼の調査地ではオジロワシしか確認されず、オオワシの方がエゾシカにより依存していることが示唆された。沿岸部での大規模越冬地における調査では、オオワシ214羽、オジロワシ194羽を確認した。そのうちオオワシの63%、オジロワシの55%が成鳥であった。これらのことから北海道の内陸部に飛来するワシ類は、オジロワシの方が比較的多く飛来し、成鳥の割合が高い傾向にあり、いずれの種もエゾシカを餌資源として高く依存していることが本調査からわかった。