著者
井手 智仁
出版者
東京工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度は,昨年度合成した第1世代大環状化合物をテンプレートとして用いた,より大きな環サイズを有する第2世代大環状化合物の合成を行った.第1世代大環状化合物は,6個のベンジルアルコール側鎖を有しており,これが第2世代大環状化合物の骨格ユニットを取り付ける足場となる.この側鎖をメシル化した後,第2世代の骨格ユニットである,2,6位にフェニレンエチニレン2量体側鎖を有するフェノールを,Williamsonエーテル合成によって導入した.この2段階の反応によって,36%の収率で第2世代大環状化合物の前駆体を得ることに成功した.この前駆体の閉環は,擬希釈条件下において,大過剰量の銅塩を用いたGlaserカップリングにより行った.その結果,収率14%で第2世代大環状化合物を得ることに成功し,新規精密合成法を立証できた.得られた第2世代大環状化合物は,テンプレート部分も含めて分子量11636に達する,単一構造を有する巨大な化合物である.また,2重の環構造と,第1世代大環状化合物合成に用いたヘキサフェニルベンゼンテンプレートをコアに有しており,複数のπ共役系がアルキル鎖・エーテル鎖で隔離された,特徴的な構造を有している.このため,それぞれのπ共役系間でのエネルギーや電荷の移動が期待される.そこで,コアの最大吸収波長を励起波長として蛍光スペクトル測定を行ったところ,コアのテンプレート・第1世代の環骨格からの蛍光は微弱に観察されるのみであり,最も外側の第2世代の環骨格の蛍光が主として観察された.これは,π共役系間における蛍光エネルギー移動が起きていることを示唆する結果である.以上のように,大環状化合物をテンプレートとしてさらに大きな大環状化合物を得るという,新規精密合成法を実証することができ,また,合成した2重大環状化合物において,コアから外周部への放射状の蛍光エネルギー移動を見出すことができた.
著者
田中 朋弘
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本年度は、年度内に三回の研究会を開催し、1)田中朋弘「ベナーのケアリング論-規範倫理学的観点から」(『先端倫理研究』第12号、熊本大学倫理学研究室紀要、pp.27-42、 2018年3月)、2)田中朋弘、「生と死をめぐる倫理-「気づかい」を手がかりに」、『生と死をめぐるディスクール(仮題)』(脱稿・共著出版予定)、として研究成果をまとめた。以下に、研究成果1) の概略を記す。ベナーのケアリング論は、人間存在におけるケアリングの第一義性を出発点にして、ケアリング実践としての看護の本質について明らかにしようとした一連の議論である。ケアリング実践としての看護は、テクネーに関わる専門性とフロネーシスに関わる専門性に分けられ、卓越した実践者になるためには、それら両要素の熟達が必要となる。ベナーの議論に特徴的なのは、そうした構造を理解するために、「スキル獲得の五段階モデル」を採用して分析を行う点にある。実践は、その基盤として職業的なコミュニティを前提とし、実践に埋め込まれた諸善の達成が目標とされる。ベナーは、ケアの倫理を、いわゆる正義の倫理、手続き的な倫理、原理に基づく倫理よりも基底的と位置づけ、「達人レベル」に達した卓越した実践者は、そうした諸原理を文脈や関係性を飛び越えてただ無条件に適用するのではなく、実践に埋め込まれた諸善の達成を目標としながら、それをとりまく人間の関係性の中でそれらを位置づけることになる。ベナーは、自律は成人の発達の頂点ではなく、ケアと相互依存こそがその究極目標であると述べているが、それは自律を基底的な道徳的価値と見なす立場とは強い対照をなし、その点ではそれは「ケアの倫理」の系譜に位置づけられる。他方でベナーの議論は、「実践」や実践に埋め込まれた善を重視し、倫理的熟達や卓越性を重視するという点では、徳倫理学あるいは共同体主義的である。
著者
佐藤 岩夫 広渡 清吾 小谷 眞男 高橋 裕 波多野 敏 浜井 浩一 林 真貴子 三阪 佳弘 三成 賢次
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、法社会学・法史学・犯罪学専攻の研究者の学際的・総合的な共同研究を通じて、19世紀から現代に至るヨーロッパ各国の司法統計(裁判所組織統計・訴訟統計・犯罪統計等)の歴史的・内容的変遷を詳細に明らかにするものである。研究成果として、ヨーロッパの司法統計の歴史的発展および内容を包括的に明らかにした研究書としては日本で最初のものとなる『ヨーロッパの司法統計I:フランス・イギリス』および『ヨーロッパの司法統計II:ドイツ・イタリア・日本』を刊行した。
著者
永井 宏史 久保田 信
出版者
東京水産大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

刺胞動物門に属するクラゲはすべてが刺胞毒を有し、そのうち強力な刺胞毒を有するいくつかのクラゲは世界中で海水浴客や漁民に刺傷被害を与え、死亡例も報告されている。クラゲの毒素の化学的性状の解明についてはほとんど手つかずの状況であった。これは、それまで研究されたすべてのクラゲ毒素が非常に不安定であることに主に起因していた。このような状況のもと、我々は非常に不安定なクラゲタンパク質毒素を比較的安定に取り扱う方法を見出し、クラゲ数種からタンパク質毒素を活性を保持したまま単離することに成功した。さらに分子生物学的手法を用いてアンドンクラゲ(Carybdea rastoni)、ハブクラゲ(Chiropsalmus quadrigatus)、Carybdea alataの計三種の立方クラゲのタンパク質毒素の全アミノ酸一次配列の解析に成功した。これはクラゲ毒素類の化学的性状が明らかにされた初めての例である。これら立方クラゲ類の毒素同士は相同性があるが、既知のタンパク質とは全く相同性を有していなかった。つまり、我々の研究により新奇な生理活性タンパク質ファミリーの一群を見出すことができた。
著者
塩崎 謙
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本年度は,前年度に引き続きトポロジカル結晶絶縁体・超伝導体の分類問題について取り組んだ.トポロジカル結晶絶縁体・超伝導体とは固体結晶が有する空間群の対称性によって守られた自由フェルミオンのトポロジカル相である.時間反転対称性,粒子・反粒子対称性といった基本的な対称性と空間群対称性が絡み合うことにより,莫大な数の独立な対称性クラスが存在する点に問題の難しさがある.固体物質のトポロジカル分類表の確立に向けて網羅的かつ系統的な分類問題の解決法を見出すことは早急に解決すべき課題である.本研究ではまず,空間群の対称性のみによって守られたトポロジカル結晶絶縁体に注目した.バルクのトポロジカル非自明性に起因したギャップレス表面状態の保護に寄与できる空間群対称性は,表面の存在と両立する2次元的な空間群対称性に限り,17種類の異なる2次元空間群が存在する.数学のK理論を用いることにより17種類の2次元空間群に対するトポロジカル結晶絶縁体の分類の計算を行った.その結果,いくつかの非共形な空間群対称性(点群操作に半端な並進を伴う空間群)によって守られたトポロジカル結晶絶縁体はZ_2の分類を示すことが新たに分かった.また対応する表面状態は,2つの自由度がある種のメビウスの帯のような構造を取っており,メビウスの帯がねじれる点において縮退が守られているといった新しいタイプの機構により表面状態が守られていることが分かった.
著者
森島 邦博 大城 道則 中野 敏行
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では原子核乾板を用いた宇宙線ミューオンラジオグラフィ(宇宙線中に含まれるミューオンを利用する事で巨大な物体内部をX線レントゲン撮影のように非破壊で可視化する技術)の開発を行った。実施した各種基盤技術開発および実証実験により宇宙線ミューオンラジオグラフィ技術の高度化および多分野への応用が急速に広がり、エジプトのクフ王のピラミッドの観測では新空間の発見、浜岡原子力発電所2号機の原子炉底部の可視化、中空床板の空洞可視化などの成果を上げた。これらの結果は、考古学調査、工業用プラント診断、インフラ点検などにおける新しい技術として適用可能である事を実証したものであり、更なる波及効果が期待される。
著者
大園 享司
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

南西諸島の亜熱帯から本州の暖温帯に至る常緑広葉樹林において、落葉の漂白に関わる菌類の多様性、漂白部の化学組成およびその落葉分解にともなう変化、そして落葉漂白菌類の地理的分布を実証した。沖縄本島北部の亜熱帯林における継続観察により8属の菌類が漂白に関与しており、落葉中のリグニンの選択的除去が炭素と窒素のターンオーバーを促進していることを示した。石垣島から佐渡島に至る20地点では計62種の菌類が漂白に関与しており、落葉上の漂白面積率は年平均気温の低下にともなって減少した。以上により、リグニン分解に関与する菌類の多様性と機能の点から、本邦亜熱帯林の土壌分解系について新規性の高い成果が得られた。
著者
小竹 佐知子
出版者
山梨県立女子短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

粘稠性のある食品のモデル系試料として、0〜15%濃度のデンプンゾル(粘度3.7Pa s以下)および油相体積分率0.3に調製して粘度を変えたエマルション(粘度2.1Pa s以下)を用い、香気成分には油-水間の平衡分散係数K_<ow>と空気-水間の平衡分配係数K_<aw>が大きく異なるdiacety1(K_<ow>=0.3、K_<aw>=1.6×10^<-3>)および2-heptanoe(K_<ow>=52.0、K_<aw>=11.6×10^<-3>)の2種類を、各モデル試料での濃度が0〜20ppm濃度となるように添加した。各試料5mlをパネルに供試して0〜2分間咀嚼させ、咀嚼中の放散香気をテナックスチューブ(2,6-diphenyl-p-phenylene oxide、35/60mesh)に補集し、ガスクロマトグラフィー(Carlo Erba MEGA 5300、検出器 FID、カラムSupelcowax 10(60m×0.25mm i.d.)、温度40℃4分間→95℃(2℃/min)→272℃(6℃/min)、ガス流量He 1ml/min)により放散量を測定した。両香気成分とも咀嚼時間に伴って放散量は増加しており、香気成分の違いによる放散量の違いは従来の報告と同様の傾向であったが、パネルにより放散量は大きく異なっていた(咀嚼2分時diacetyl低粘稠試料最低値300〜最高値800ng、高粘稠試料750〜2250ng、2-heptanone低200〜1750ng、高700〜1900ng)。同事に測定した分泌唾液量にもパネル間において大きな差が認められた(低0.3〜2.0g、高0.4〜2.8g)。これらの違いには男女差や年齢、人種による傾向は認められなかったが、分泌唾液量が多いほど試料媒体の希釈により、香気放散量の少ないことが認められた。
著者
高橋 正明
出版者
帝京大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

本研究は、主にアメリカ及びカナダの議論を手掛かりとして、社会構造上の差別の是正のあり方に焦点を当てつつ、憲法上の平等原則の解釈論の再構成を試みるものであった。具体的には、まず、社会構造上の差別の是正を憲法上の責務として捉える学説の意義と課題を解明した上で、我が国の憲法理論への受容可能性を意識した理論枠組を提示した。さらに、社会構造上の差別の一類型である「私人による差別行為」の規制のあり方について考える上では、「市場独占の排除」や「社会空間の公共性の維持」という観点から、私法秩序における憲法上の平等原則の作用を把握することが有用ではないかとの知見を得ることができた。
著者
橋田 充 山下 富義 西川 元也 川上 茂
出版者
京都大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

癌細胞の動態、存在状態の多様性および治療薬の癌病巣への到達性の制御の困難さのため、普遍的に適用可能な治療法は未だ確立されていない。本研究では、まず、癌増殖・転移過程の非侵襲的解析に必要不可欠な基盤技術であるバイオイメージングによる可視化および定量法を確立した。さらに、DDSのコンセプトに基づき、有効な癌治療薬および遺伝子医薬品の送達システムの開発および治療への応用を行った。
著者
小橋 浅哉 谷川 勝至
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

紙は、植物を原料として製造されるパルプを主な成分としている。紙類に含まれる放射能のレベルや紙類をめぐる放射性核種の動態を明らかにするため次のような研究を行った。1 書籍中の^<137>Cs濃度の発行年に伴う変化は、^<137>Csフォールアウト降下量の年変化のパターンによく似ている。その原因を明らかにするために、国内で1960年代に印刷された書籍について、中身と表紙に分けて^<137>Csの含有量を測定した。中身はほとんど^<137>Csを含んでいなかった(0.2 Bq kg^<-1>以下)。表紙については、芯材の板紙が稲わらを原料とする黄ボールのものは^<137>Cs濃度が高く(1.0-5.7 Bq kg^<-1>)、チップボールのものには^<137>Csは検出されず、半黄ボールのものは両者の中間の濃度を示した(0.2-1.0 Bq kg^<-1>)。このことから書籍に含まれる^<137>Csは、ほとんど稲わらから来たことがわかった。書籍中の^<137>Cs濃度と^<137>Csフォールアウト降下量の年変化の類似は、稲わらの^<137>Cs含有量の年変化および1960年代半ばからの表紙の板紙の種類の変化により説明できる。2 国内で1990年代に発行された新聞および情報用紙について、天然放射性核種(^<226>Ra、^<228>Ra、^<228>Th、^<40>K)およびフォールアウト核種(^<137>Cs)の放射能を定量した。新聞試料中の天然放射性核種の濃度は低かった。情報用紙の一つには、30 Bq kg^<-1>もの濃度の^<228>Raおよび^<228>Thを含んでおり、これらの核種は、填料のカオリナイトによってもたらされたと推定された。^<137>Csは、情報用紙においては検出されなかったが、新聞については全試料において検出された(0.1-0.2 Bq kg^<-1>)。新聞用紙については、使用されている機械パルプに原料木材に含まれていたフォールアウトの^<137>Csの一部が残っているため、^<137>Csが検出されたと推定された。紙類に含まれる放射能の測定データをもとに、紙類の燃焼に伴いごみ焼却場から排出される放射能の影響について、石炭との比較により考察した。
著者
原田 静香 櫻井 しのぶ 中山 久子 岡本 美代子 齋藤 尚子 南 唯公
出版者
順天堂大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究の目的は、保健師教育における学生の学習プロセスをディープラーニングへと導くためのコースデザインの開発を行い、その効果を測定するものである。コースデザイン案に関しては、公衆衛生看護学の保健師活動方法において基本的な内容である「地域診断」を選択した。それは、支援の対象者や担当地域を把握するために始めに求められる基礎的な学習内容であることに加え、地域診断は、多角的な情報を集め、対象の特徴を縦断的に解析するプロセスを踏むうえで、学んだ知識を関連付けて理解したり、情報を精査したり、問題を見出して解決策を考えたり、自身の考えを創造したりといった学び方が必要であり、学生がディープラーニングを行うことが必要不可欠であると考えたからである。開発したコースデザイン案は、協働学習技法・ポートフォリオ・ICEモデル等を導入している。平成29年度の実績としては、開発したコースデザイン案を実際に用いて講義と演習を実施した。開発したコースデザインがディープラーニングを導くものとなっているかを評価するために、コース終了後に受講生への調査を実施した。開発したコースデザインによる学習プロセスの中で、学生がどのような学びの認知プロセスがあったのかを明らかにし、ディープラーニングを踏襲した学習経験を経ているかを確認するものである。調査対象者は本研究にて開発したコースデザイン案による地域診断演習を受講し、本調査への協力に同意が得られた者とした。調査期間は平成29年8月~。調査方法は半構成的インタビュー調査法を実施し、対象者は15名であった。分析方法はグラウンデッドセオリー法を用いている。現在分析を進めているところであるが、抽出されたコードの中には「学んだ内容のつながりに気づく」や「浅い認識に気づく」「住民の立場で解決策を考える」といったディープラーニングを踏まえたkey wordsが散見されている。
著者
蝦名 敦子
出版者
弘前大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

一年目の研究として、子ども達の実践的考察を次の二つの観点から行う。一つは学校教育における図画工作の表現である、造形遊びと絵や立体・工作について。二つ目は学校外で実施した展覧会である。一つ目は、これまでの実践から、子どもの造形活動と空間の問題を振り返った。子どもは自らの身体感覚を働かせながら,造形空間を感じ取り認識していく。造形遊びではそれが顕著で,場所の空間を確かめながら,より大きな造形空間が把握されている。絵や立体・工作では,主題に応じて造形空間が作品とともに見出されていく。共同製作ではさらに充実した展開を見せた。同じ造形活動によって意識される「空間」であっても,そのプロセスに異なった方向性が見られる(「子どもの造形活動による空間把握の特性―実践的考察を通して―」「弘前大学教育学部研究紀要クロスロード」第22号に掲載)。二つ目の学校外での実践では、2017年8/4~6にかけて開催した「みんなでつくる形と空間」展の内容について、これまで実施した展覧会と対比的に考察した。課題を明確にし、次の展覧会に向けての方向性を探った。「空間」について定義づけながら、これまで筆者が先に行った3つの展覧会と比較して、本展覧会の成果と課題について考察したが、特に子どもの造形活動と空間の問題に注目して、造形空間と展示空間が論点となる。その切り口からそれぞれの展覧会の特徴について整理すると、本展覧会は遊具を設置した展示空間でありながら、光と影の造形空間を創り出すことができた点が特徴的である。今後は「形をつくる」方向をさらに強め、イメージの問題に関連づける。造形遊びからよりイメージに訴え、仕掛けによる展示空間を準備しながら、その空間を造形空間として創っていくような場が課題となる(「『みんなでつくる形と空間』展の成果と課題―ワークショップ型展覧会の比較考察を通して―」「芸術文化」第22号に掲載)。
著者
宮地 泰造
出版者
東海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

複数の超音波ビームの交差点に、可聴音が外部にほとんど出ない小さい音空間球を生成する新方式を開発する。音生成素子群において、隣接する素子の位相差を180度にする手法を導入した.これに基づく3つの方式(1)音空間外への可聴音の生成を大幅に削減する、(2)同心円状の配置により可聴音の生成を弱める、(3)超音波の方向を内側に集めると、それらの相乗効果において、大きな進展があった。
著者
FEDOROVA ANASTASIA
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

京都大学で執筆した博士論文 “Japan’s Quest for Cinematic Realism from the Perspective of Cultural Dialogue between Japan and Soviet Russia, 1925-1955”を単行本として纏めるにあたって、これまでの研究成果を再吟味した上で、新たな一次資料の調査・収集を行い、戦後の東アジアにおけるリアリズム映画の比較研究をさらに発展させた。2016年9月1日 ~ 2017年5月31日にかけては、イェール大学(アメリカ)のEast Asian Languages and Literatures学部に客員研究員として籍を置き、東アジア諸国における映画関係資料が豊富に所蔵されているコロンビア大学東アジア図書館(Makino Collection)や、左翼系の映画運動史に関する資料が集められたニューヨーク大学図書館(Tamiment Library & Robert F. Wagner Labor Archives)での資料収集を行った。このとき得られた研究成果は、英語でまとめた上で、世界最大規模のアジア研究学会であるAAS (Associatio for Asian Studies) で口頭発表を行った。去年から本年度にかけては、戦後の日本で刊行された唯一のソビエト映画専門誌である『ソヴェト映画』(1950年~1954年)の復刻版の作成にも携わってきた。雑誌『ソヴェト映画』の総目次や索引を作成し、『ソヴェト映画』の刊行と廃刊の裏にあった歴史的背景、戦後のソビエト連邦における映画制作事情、戦後の日本におけるソビエト文化の受容形態を考察した解説文を執筆した。これらの総目次と解説文を所収した『ソヴェト映画』の復刻版は2016年7月に不二出版から発行された。
著者
上床 輝久 藤原 広臨
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究は、発達障害の傾向を持つ大学生において、社会的能力やコミュニケーション能力のアンバランス等の特性が就職および就労能力に与える影響について、その精神的健康における要因及び環境的な要因を明らかにすると同時に、特性や能力に応じた就職/就労支援プログラムを開発し、その効果を科学的に検証することを目的としている。本年度も、引き続き健康診断会場での質問紙調査および二次面接調査を実施し、大学生における心理発達傾向と修学状況、就職活動・就労への不安および期待、必要な支援環境等についての調査を行った。二次面接調査については、来年度以後も引き続き実施すると共に対象者を追跡し、長期的な結果について観察を継続する予定である。また、これまで集積した知見を通じて、具体的な支援プログラムとして、スマートフォンを活用した認知行動療法に焦点を当て、京都大学医学研究科との共同研究を通じてその効果検証を行うことを目的とした介入試験を開始した。さらに、集団による心理教育および研修からなる支援プログラムの実施については、引き続き学内外の支援機関との協力を元に介入試験の実施準備を進めている。本年度までの研究成果として、昨年度実施した就労支援機関における予備研究の結果について、共同研究者と共にその成果を日本児童青年精神医学会にて発表した。また、日本学生支援機構および発達障害学生修学支援体制構築に関する合同研究協議会の招聘講演において、研究結果の一部を発表するとともに、支援関係者との情報交換を通じてより効果的なプログラム開発に向けての知見の収集及び協議を行った。次年度は、本研究計画を総括し、その成果を学術集会等にて発表し、学術誌等への公表を行う予定である。
著者
吉田 宗平 河本 純子 紀平 為子
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

平成10年〜11年において、まず第1に、紀伊半島全体のALS患者頻度の動向と多発地の状況を把握するため、1973-94年紀伊半島三県の人口動態死亡票データにより死亡頻度の変遷を解析した。この22年間で紀伊半島三県において799例(男性472/女性327名 ; 男女比1.44 : 1)を得た。死亡年齢の高齢化と共に、平均年間死亡率(年齢調整)は和歌山県では最高値から漸次低下を示し、紀伊半島全体としては近年0.9人/10万人へと均一化する傾向が見られた。しかし、和歌山県牟婁郡ではなお高率が保たれていた。第2に、和歌山県における河川・飲料水、特に多発地区古座川町と対照地区串本町大島を中心に、主な微量元素の含有量を分析した。古座川水系の河川・上水道のCa,Mg含有量(平均Ca2.3, Mg0.75ppm)は最も低く、この傾向は日高郡以南のALS多発地帯に見られるが、紀伊半島最南端の離島串本町大島の井戸水のみは(Ca13.3, Mg4.3ppm)と全国平均レベル(Ca8.8, Mg1.9ppm)を上まわった。第3に、house-to-house studyを施行するため、特定疾患医療受給者情報を利用し、地域医療機関や保健所の協力を得て古座川・大島地区の予備調整を行った。1990-99年の10年間で古座川町では、ALS2名、PDC-ALS2名の計4名の発症が確認された。このうちPDC-ALS2例の家系には、共にALSの発症が確認され家族性例であることが判明した。過去この地区にはPDC-ALSの発症の記載はない。古座川の平成12年1月1日現在の時点有病率は、71.5人/10万人であったが、大島にはなお患者は確認されていない。現在、当初のALSのみを対象としたhouse-to-house surveyの計画を再考して、PDCを含めた家系および環境要因分析を中心とした研究課題として考慮中である。
著者
西田 基宏
出版者
大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設)
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

我々は硫化水素(H2S/HS-)が心筋梗塞後に生成される親電子物質を求核置換反応により直接消去し,慢性心不全を抑制する可能性を明らかにした.しかし,H2S/HS-が求核シグナルとして働く分子実体かどうかについては不明であった.本研究では、内因性活性硫黄の分子実体を明らかにし,硫黄蓄積を主眼とした慢性心不全治療法の有効性を確立させることを目的とした.その結果,タンパク質などに含まれるシステインのポリ硫黄鎖が活性硫黄の分子実体として働くことが明らかとなった.さらに,ポリ硫黄を多く含む食品をマウスに摂取させることで,H2S/HS-よりもはるかに強い心筋保護効果が得られることを確認した.
著者
大谷 信介 後藤 範明 木下 栄二 小松 洋 永野 武
出版者
関西学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

研究成果の概要:住民基本台帳などの公的名簿の使用制限によって困難となっているサンプリングの現状を打開するため、「住宅地図」を用いたサンプリング手法の開発と問題点を考察した。高松市調査によって、一戸建てを対象とした社会調査では「住宅地図」サンプリングは使用可能性が高いことが証明された。西宮市調査では、アパート・マンションを対象とした調査を実際に実施し、どのような問題点が存在しどのような工夫が必要となるかを検証した。
著者
遠藤 芳信
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

本研究課題名は「近代日本の要塞築造と防衛体制構築の研究」ということで、1910年要塞防禦教令の成立過程を中心に実証的に考祭を深めてきた。この結果、3年間にわたる本研究の実績と成果としては、下記の4点をあげることができる。第一に、1910年要塞防禦教令はその頒布(限定部数、閲覧者制限等)と保管自体が厳密な機密保護体制の下に管理されてきたので、参謀本部及び要塞司令部の限定された業務従事者のみが閲覧・調査・審議等の対象にすることができただけである。これによって、近代日本における要塞防禦の意味等の公開的な議論・研究はほぼ完全に閉ざされてきたということができる。これに対して、本研究は、1902年要塞防禦教令草案と1910年要塞防禦教令の各款項等が意味する内容を初めて解明・考察したことになる。第二に、1910年要塞防禦教令は日露戦争前の1902年要塞防禦教令草案の特に「編冊草案」の記載事項と比較するならば、戦備を基準にして、戦備実施、要塞守備隊配置、防禦戦闘等に関してかなり整理・整備した規定を示したことである。第三に、1910年要塞防禦教令は要塞内の民政・警察事項等の規定においては、1882年の戒厳令制定段階においては特に合囲地境内の具体的な戒厳業務が必ずしも明確でなかったのに対して、軍隊側の戒厳業務内容(地方行政機関との関係、治安維持対策、住民避難、給養・衛生、住民の軍務従事等)の具体的な考え方を示したことである。第四に、クラウゼヴィッツが指摘するように、常備軍建設以降には要塞の自然的な住民保護の自的が忘れ去られていくが、1910年要塞防禦教令の成立過程をみると、日露戦争後直後には、部分的には要塞の自然的な住民保護の議論は潜在化していたものと考えてよい。