著者
岩敷 友梨加 蘭 悠久
出版者
日本顔学会
雑誌
日本顔学会誌 (ISSN:13468081)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.32-40, 2023-12-26 (Released:2023-12-26)
参考文献数
10

本研究の目的は、アイラインの色が顔画像の目と目を模した図形の知覚的な大きさに与える影響を検討することであった。本研究で用いたアイラインの色は、アイラインなし、黄、橙、桃、赤、紫、青、緑、茶、および黒の10種類であった。アイラインの引き方は上+下1/3条件と全周囲条件の2種類であった。実験参加者はアイラインなしの顔画像の目全体(あるいは図形)の知覚的な大きさを100としたとき、アイライン(あるいはアイラインを模した色)なしあるいはありの顔画像の目全体(あるいは図形)の大きさがどれくらいの大きさに見えるかをこたえた(マグニチュード推定法)。実験1の結果はアイラインの色が顔画像の目の知覚的な大きさに有意な影響を与えたことを示した。実験2の結果はアイラインを模した色が目を模した図形の知覚的な大きさに有意な影響を与えたことを示した。アイラインの色とアイラインを模した色が顔画像の目と目を模した図形の知覚的な大きさに与えた影響の傾向は異なった。アイラインの色が目の知覚的な大きさに与えた影響は顔に特有の現象であることが示唆された。
著者
尹 智博
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.109-116, 2011-10-01 (Released:2017-11-30)

本論は、近代以後の音楽に大きな影響を与えたウィーンの作曲家アーノルト・シェーンベルクの音楽やその作曲法のなかに見出される造形的概念としての「無重力」について研究するものである。1920年代に活躍したオランダの造形集団デ・ステイルは、彼らの造形実験と同様の実験を音楽領域で行った人物としてシェーンベルクを取り上げている。本研究は、デ・ステイルの造形実験と同様とされたシェーンベルクの音楽の分析を通して、その音楽や作曲法のなかに見出される造形的概念について考察を行うものである。1929年に、デ・ステイルの中心人物であったテオ・ファン・ドゥースブルフは、グループの活動をまとめた「新しい造形に向かって」という論文を発表する。ここで、グループの造形実験と同様の実験を音楽領域で行った人物として、グループ唯一の音楽家ジョージ・アンタイルと共にシェーンベルクが取り上げられている。シェーンベルクは、「十二音技法」の作曲法などによって近代以後の音楽に大きな影響を与えた音楽家であり、同時代の様々な造形芸術家達からも強い関心を有されていた。デ・ステイルは、様々な音楽活動や『デ・ステイル』誌の音楽に関する論文において、シェーンベルクの音楽を取り扱っており、そこではシェーンベルクの音楽について、「デ・ステイル音楽」、「構成主義的音楽」、「キュビスムの音楽」、「機械的音楽」などと造形領域の言語を用いて論じていた。一方で、シェーンベルクの音楽の特徴でもある長調や短調といった調のない「無調性」の音楽に対しては、音楽領域から、これは「無重力」と同じものであると論じられるなど、造形領域が自明のものとしている「重力」という概念との関係によっても、シェーンベルクの音楽が捉えられていた事が確認される。デ・ステイルとシェーンベルクは、双方が「無重力」の追及や「上下左右の消失」という言語を用いて各々の芸術空間において共通する概念を示していた。そこでは、それぞれの芸術領域が自明としている造形領域においては「重力」や音楽領域においては「調性」といったものに束縛されない、自由な表現を求める実験が作品に表現されていた。そして、この「無重力」や「上下左右の消失」という概念こそが、シェーンベルクの音楽における造形的概念を示すものであり、多くの造形芸術家達に影響を与える要因となっている事が考えられる。
著者
国広 悌二
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.9, pp.683-690, 2010-09-05 (Released:2020-01-18)
参考文献数
43

くりこみ群方程式を用いた非線型方程式の漸近解析の方法を発展方程式の縮約への応用に焦点を絞り,初等的且つ明快な手続きとして解説する.そこでは,永年項を含む摂動解の包絡線として大域解を構成することで不変多様体の構成とその上での縮約された方程式の導出が達成される.くり込み群方程式が包絡線方程式として解釈できることを示す.くり込み群の方法に基づく縮約理論は,非線形振動子に対するKrylov-Bogoliubov-Miteopolskyや蔵本によって定式化された縮約の一般論によく対応することが強調される.
著者
小川 隆章
出版者
環太平洋大学
雑誌
環太平洋大学研究紀要 = BULLETIN OF INTERNATIONAL PACIFIC UNIVERSITY (ISSN:1882479X)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.83-88, 2022-03-31

豊臣秀吉による2度の朝鮮出兵(文禄・慶長の役,壬辰倭乱)に際して,朝鮮半島南部の海域で朝鮮水軍を率いて数々の勝利を挙げた李舜臣は韓国及び日本において人気の高い武将である。しかし,彼が海戦の勝利によって「制海権を保持した」とか,「日本軍の補給路を断った」とまで記述されているのは大げさであるように思える。本稿では史料・文献を精査したところ,日本の陸上軍が首都・漢城へ,さらに逃げる朝鮮国王一行を追って平壌へと進撃するのに合わせて日本水軍は海上を進み朝鮮西海岸を北上して,陸軍への補給をするという「水陸併進策」があったと多くの著作で主張されるが,それが真実かどうか,が重要であるようにみえた。李舜臣は一回目の侵攻(文禄の役)で日本水軍を閑山島海戦等で破り,この水陸併進策を挫き,2度目の侵攻(慶長の役)では鳴梁海戦でやはり水陸併進策を挫いたとみなされているようである。本稿ではこの水陸併進策について疑義を呈し,史料・文献を精査して考察を行った。
著者
石井 容子 伊藤 奈央 松村 優子 横山 孝子 青山 真帆 宮下 光令
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.283-291, 2023 (Released:2023-12-27)
参考文献数
16

【目的】緩和ケアの包括的な評価尺度であるIntegrated Palliative care Outcome Scale(IPOS)の非がん患者への適用を検討する.【方法】非がん患者と患者をケアする医療者, 各20名にIPOSの調査票へ回答してもらい,その調査票に対するコグニティブインタビューを行った.インタビュー内容は,質的分析手法である内容分析を用いて分析した.【結果】患者・医療者ともに約半数から9割がIPOSの全17項目に対して答えづらさやわかりにくさを感じなかったと回答し,表面的妥当性が確認された.また,分析結果を専門家で検討し,IPOSの内容的妥当性が確認され,非がん患者に特徴的なIPOSの項目も明らかになった.【結論】非がん患者に対するIPOSの表面的・内容的妥当性が確認され,IPOSは非がん患者の緩和ケアの包括的な評価ツールとして活用できることが明らかになった.
著者
Masaru USUI Yutaka TAMURA Tetsuo ASAI
出版者
JAPANESE SOCIETY OF VETERINARY SCIENCE
雑誌
Journal of Veterinary Medical Science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.84, no.9, pp.1292-1298, 2022 (Released:2022-09-12)
参考文献数
87
被引用文献数
5

The emergence and spread of antimicrobial-resistant bacteria (ARB) and antimicrobial resistance genes (ARGs) are a global public health concern. ARB are transmitted directly or indirectly from animals to humans. The importance of environmental transmission of ARB and ARGs has recently been demonstrated, given the relationships between compost, livestock wastewater, insects, and wildlife. In addition, companion animals and their surrounding environments (veterinary hospitals and homes with companion animals) should be considered owing to their close relationship with humans. This review discusses the current status and future perspectives of ARB and ARGs in animal-breeding environments.
著者
細田 暁
出版者
公益社団法人 土木学会
雑誌
土木学会論文集 (ISSN:24366021)
巻号頁・発行日
vol.79, no.12, pp.23-00037, 2023 (Released:2023-12-20)
参考文献数
12

山口県の品質確保システムにおける橋台のコンクリート施工記録を活用して,ひび割れ発生確率曲線を作成し,示方書に示される曲線との比較や考察を行った.示方書の曲線と比較し,明らかに左にシフトしたものが得られ,解析に用いた熱膨張係数が,山口県のコンクリート工場群で作製した供試体の計測から得られた熱膨張係数よりも大きいことによると考察した.実験で計測された熱膨張係数を用いて作成した曲線は示方書の曲線とほぼ重なることが確認された.コンクリート施工記録の全てのリフトのデータを用いた場合,正規分布を仮定して曲線を作成する際の引張強度,引張応力の変動係数が19%と既往の研究に比べて大きくなり,2010年以降のデータのみの場合の変動係数は12.5%と小さく,施工の基本事項の遵守が浸透したことで,品質が向上したと考察した.
著者
竹上 賢吾 古屋 長一
出版者
公益社団法人 電気化学会
雑誌
Electrochemistry (ISSN:13443542)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.825-827, 2006-10-05 (Released:2012-03-20)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

Zinc negative electrode has high energy density and less expensive materials for battery in general. However, it generates dendrite when it charged as electrode for secondary battery, therefore, the use for secondary battery is difficult. At this opportunity we would make secondary battery using zinc with aqueous electrolyte. We discovered the dendrite is controlled by glycerin and saccharin in ZnSO4 solution. Lithium manganate is one of opposite electrodes that performed in this condition. In this study, we made aqueous lithium ion-zinc secondary battery with those electrodes and electrolyte, and evaluated then optimized that performance. This battery has approximately 100% charge-discharge efficiency. Their charge and discharge cycle performance depends on concentration of ZnSO4 and mass of LiMn2O4. The density of most suitable ZnSO4 for LiMn2O4 of each mass may be existing. Relatively higher percentage of LiMn2O4 mix has better performance. This battery performed more than 400 charge and discharge cycles as maximum and 70 mAh·g−1 as maximum of discharge capacity was provided. Furthermore, we can expect future improvement of performance as a secondary battery by optimizing these conditions.
著者
大谷 直子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S29-4, 2021 (Released:2021-08-12)

腸内細菌の産生する代謝物質はそのほとんどが、吸収され門脈等を介して肝臓に運ばれ、さらに肝臓で様々な代謝を受けたのち、通常無害な状態となって全身循環系へ移行する。このように腸と肝は解剖学的にも生理学的にも密接に関係していることから、この関係性は「腸肝軸」と呼ばれ、腸内細菌の産生する代謝物質の肝臓病態への影響が注目されている。肝性脳症は肝硬変の末期合併症で、著しい肝機能障害のため、ウレアーゼを有する腸内細菌が産生するアンモニアが肝臓で無毒化されないまま、シャント血流により全身循環系に流れ込み、高アンモニア血症となる病態で、アンモニアは血液脳関門を通過し、脳障害をおこすために脳症が生じる。今回、私たちは、肝性脳症患者の腸内細菌叢を解析するにあたり、特に高アンモニア血症の治療薬として用いられる難吸収性抗生剤、リファキシミンの応答性に着目し、腸内細菌叢の16SrRNA遺伝子の次世代シーケンス結果を用いてQiime2解析を実施し、Lefse解析によって、健常者と比べて、リファキシミン著効例、非著効例で有意に多く存在する肝性脳症の原因となりうる腸内細菌種を探索した。その結果、リファキシミン著効例(高アンモニア血症の改善例)とリファキシミン非著効例(高アンモニア血症が改善しなかった症例)で、異なる菌が抽出された。リファキシミン著効例で同定した菌を、四塩化炭素投与による肝硬変モデルマウスに2週間服用させたところ、高アンモニア血症が生じ、この菌が高アンモニア血症の原因菌のひとつであることが明らかになった。興味深いことにこの菌は、もともと口腔細菌として知られており、プロトンポンプ阻害薬を内服している患者の腸内で顕著に増加してしており、胃酸バリアを突破して腸内で生着した可能性が示唆された。
著者
澤井 秀次郎 福田 盛介 坂井 真一郎 櫛木 賢一 荒川 哲人 佐藤 英一 冨木 淳史 道上 啓亮 河野 太郎 岡崎 峻 久木田 明夫 宮澤 優 植田 聡史 戸部 裕史 丸 祐介 下地 治彦 清水 康弘 芝崎 裕介 島田 貞則 横井 貴弘 藪下 剛 佐藤 賢一郎 中村 和行 久原 隆博 高見 剛史 田中 伸彦 古川 克己
出版者
一般社団法人 日本航空宇宙学会
雑誌
航空宇宙技術 (ISSN:18840477)
巻号頁・発行日
pp.JSASS-D-16-00050, (Released:2017-08-03)
被引用文献数
8 7

SLIM (Smart Lander for Investigating Moon) is the Lunar Landing Demonstrator which is under development at ISAS/JAXA. SLIM demonstrates not only so-called Pin-Point Landing Technique to the lunar surface, but also demonstrates the design to make the explorer small and lightweight. Realizing the compact explorer is one of the key points to achieve the frequent lunar and planetary explorations. This paper summarizes the preliminary system design of SLIM, especially the way to reduce the size.
著者
丹羽 英之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.2113, 2022-04-15 (Released:2022-06-28)
参考文献数
16

水生植物の生育域は人為的な影響を受けやすいエリアであり、外来生物の侵入が顕著になっている。水生植物の動態を理解し保全していくためには、空間スケールに応じたリモートセンシング技術の確立が重要となる。そこで、 Pole photogrammetryを応用した水生植物の詳細な植生図作成方法を提案し、湧水域で水生植物分布を定量的に把握することで、その有効性を実証することを目的とした。淀川水系桂川の犬飼川の合流点上流の河道内にみられる湧水流を調査対象地とした。カメラスタビライザーに取り付けたカメラで水域を撮影した。撮影した動画を SfM-MVS Photogrammetryで処理し、オルソモザイク画像を作成し、目視判読により種ごとのパッチポリゴンを作成した。作成したオルソモザイク画像の地上分解能は高く混生する種を識別することができた。オルソモザイク画像の判読により植生図データを作成することで、種ごとの分布面積が算出でき、定量的な分析が可能になる。さらに区間に分割して分析することで水生植物の流程分布を把握することができた。調査対象とした湧水流は出現種数が多く希少な湧水域の 1つだといえる。しかし、同時に外来種の侵入もみられることから、流程分布を考慮した生態系管理を実践していくことが重要である。
著者
Yasuko Okamoto Takanori Sakaguchi Yoshito Ikematsu Toshikazu Kanai Kazuhisa Hirayama Hiroaki Tamura Tadataka Hayashi Yoshiro Nishiwaki Hiroyuki Konno Katsunori Aoki
出版者
The University of Tokushima Faculty of Medicine
雑誌
The Journal of Medical Investigation (ISSN:13431420)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3.4, pp.325-333, 2023 (Released:2023-11-09)
参考文献数
37
被引用文献数
1

The effects of early enteral arginine-rich nutrition (EAN) were analyzed among patients undergoing curative-intent total gastrectomy for gastric cancer. There were 19 patients in this prospective study, all randomly assigned to either a parenteral nutrition (PN) group or an EAN group for the first seven days after surgery. The EAN group received 1.8-fold greater arginine (10.1 g/day) compared with the PN group, which was administered through an enteral tube inserted into the jejunal loop. Both groups were provided almost identical amounts of total amino acids (54 g/day), and the total energy was set at 65% of the total requirement (25 kcal/kg/day). No significant differences were observed between the two groups in postoperative complications, length of hospital stay, oral intake, nutritional status, or body weight. The serum arginine profile was similar in the two groups, as it decreased significantly on postoperative day (POD) 1, and gradually returned to preoperative levels by POD 7. The nitrogen balance remained negative until POD 7 in the PN group, but turned neutral at POD 7 in the EAN group. While we could not confirm body weight loss improvement, these results suggested that early arginine-rich enteral nutrition could improve the nitrogen balance after total gastrectomy. J. Med. Invest. 70 : 325-333, August, 2023
著者
矢貴書店
出版者
矢貴書店
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, 1950-08
著者
近藤 宗平
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.118-126, 1974-05-25 (Released:2009-05-25)
参考文献数
45
被引用文献数
1 1

Recent knowledge of DNA repair is reviewed in perspective with emphasis on Escherichia coli. Enzymatic phtoreactivation is the simplest and the most general among the three major DNA repair systems. Excision repair is also common from microorganisms to human and yet its molecular mechanism is not universal. Tolerance repair, i.e., post-replication repair, is effective for the widest variety of DNA damage and rather different between lower and higher forms. From these characteristics, it is proposed that DNA repair mechanisms evolved in the order of photoreactivation, excision repair and tolerance repair after the primary living systems were created by solar ultraviolet.