著者
酒井 哲夫 小野 正人 吉田 忠晴 佐々木 正己 竹内 一男
出版者
玉川大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

可動巣枠式巣箱による飼育法が確立したことにより,ニホンミツバチで初めてプラスチック人工王椀を用いた女王蜂の人工養成が可能になった。セイヨウミツバチのローヤルゼリー(RJ)を利用したニホンミツバチ女王蜂養成では,自種のRJでは高い生育率と女王蜂の分化を示したが,両種のRJの成分に生育に影響を及ぼす差があることが認められた。少数例ではあるが,女王蜂の人工授精が成功し,これからの選抜育種に明るい見通しが立った。ニホンミツバチとセイヨウミツバチの配偶行動については,14時30分頃を境に2種間の生殖隔離が行われ,ニホンミツバチ女王蜂は遅い時刻(14:45〜16:00)に長い飛行で交尾することが認められた。同一蜂場内に併飼したセイヨウミツバチ,ニホンミツバチの両種の花粉採集行動の季節的な変動パターンは,基本的に類似していた。花粉だんごの分析から訪花植物の種を同定すると,特に多くの植物の開花が見られる時期には違いが認められ,両ミツバチの花への嗜好性は異なっているのではないかと考えられた。両種の収穫ダンスを比較し,餌場までの距離とダンス速度の関係を解析した結果,ニホンミツバチの距離コードは同種の東南アジア亜種のそれより,むしろセイヨウミツバチのそれに近いことがわかった。また両種の採餌距離を推定した結果,ニホンミツバチの平均的採餌圏は半径2.2km,セイヨウミツバチのそれは3kmとされた。また貯蜜量の減少による逃去時のダンスはこれまでにないスローダンスであることが判明した。ニホンミツバチのミツバチヘギイタダニに対する行動を観察した結果,落下したダニの多くは触肢や脚に負傷しており,その割合はセイヨウミツバチより高かった。スズメバチに対するニホンミツバチの防衛行動に関しては,学習が関与していることが初めて明らかになった。
著者
有本 卓 平井 慎一 小澤 隆太
出版者
立命館大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

冗長自由度系に関するベルンシュタイン問題に挑戦し、手先拘束が無い多関節到達運動に関しては、作業空間における仮想スプリング・ダンパー仮説(Virtual Spring-Damper Hypothesis)に基づく方法が有効に機能することを、理論的かつロボットの腕を用いた実験により、実証した。この仮説は、運動生理学の分野において唱えられた平衡点仮説、仮想軌道仮説、および逆ダイナミクス生成仮説と異なり、逆動力学の不良設定性を解消することなく、従って人為的な最適化のためのコスト関数を導入する必要のない全く自然な運動生成法を導く。また、冗長関節系による書字作業のように、重力下で手先拘束がある場合、仮想スプリング・ダンパー仮説が有効に機能し得るか、検証した。この場合、二つの重力補償法を考案し、良好なシミュレーション結果を得たが、決定的な方法と断定するまでには至っていない。また、理論的な検証についても、現時点では結論し得ていない。本年度は、冗長関節系について、理想運動が繰返し学習によって獲得できることを理論的、かつ、実験的に示すことに成功した。この結果は、幼児の到達運動に関する学習の様式と対比させ得る。幼児が初めて、目の前の物体を取ろうとして手を伸ばすとき、腕や手の関節の動きを見ずに、手先のみを見ていることが観察されている。冗長関節系の場合、手先空間の次元は関節空間の次元より低くなる。この低次元作業空間で与えた理想軌道と学習更新則に基づいて、繰返し学習が有効に機能し得ることを見出した。しかも、低次元の作業空間のみに理想軌道を与えたとき、高次元の冗長な関節運動と理想の制御入力信号が一意的に定まることを理論的に示すことに成功した。この結果は、冗長関節系にも繰返し学習の理論体系があり得ること、また、これらの力学的本質が運動能力の獲得に関する発達心理学や脳科学の知見と対比し得ることを示唆する。
著者
櫻田 宏一
出版者
科学警察研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、神経ガス中毒治療における血液脳関門(BBB)通過可能な新たな解毒剤の開発を目的としている。はじめに、有機合成した種々のパム類似体の中から解毒作用の強いものを選択する上で、従来からAChE活性測定法として知られているアセチルチオコリン(ASCh)用いた方法では、2-PAMを含めたオキシム類が容易にASChを分解することが確認され、これまで報告された多くの活性データについては再検証が必要であることが明らかとなった。次に、合成したパム類似体の中で、INMP(sarin類似体)によって阻害されたヒト血球AChE活性の復活の程度が比較的強かった化合物6種類、2-hydroxyiminomethyl-N-[p-(tert-butyl)benzyl]pyridinium(これを2-PATBとする。他は略称のみ記載する)、3-PATB、4-PATB、4-PAPE、4-PAD、4-PAOOを選択し、ラット静注によるLD50(mg/kg)を求めたところ、4.3〜21.9mg/kgと、2-PAM(約150mg/kg)に比べて極めて毒性の強いことが明らかとなった。そこで、LD50の10%濃度をそれぞれ調製し、ラット尾静脈から投与後、ブレインマイクロダイアリシス法により、1時間ごとに3時間までの透析液をラット脳より回収した。これまで、2-PAMの検出にはHPLC-UVを用いていたが、投与したパム類似体はいずれもUV吸収が極めて低く、検出が困難であったことから、LC-MS/MSにより検出を行った。その結果、4-PAPEと4-PAOが透析液中に検出され、BBBを通過する可能性が示唆された。
著者
松山 春男
出版者
東京都立大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

植物中より数多く単離されている天然ポリアミンアルカロイドは、いずれも光学活性なアザラクタム構造を有している。天然ポリアミンアルカロイドであるセラシニン及びホマリンのラセミ体は、ケイ皮酸エステルと環状ヒドラジンとの共役付加反応により得られるビシクロ体を、環元的に開環して得られる中員環アザラクタム(8員環あるいは9員環)から合成できることが報告されている。私達は、α位に不斉源として光学活性なカ-トリルスルフィニル基を有するケイ皮酸t-ブチルを合成し、環状ヒドラジンとの共役付加反応によるビシクロ体の不斉合成を検討した。また、得られた光学活性な中員環アザラクタムから光学活性なポリアミンアルカロイドの合成を行なった。S配置のb-トリルスルフィニル基を有するケイ皮酸のt-ブチルと6員環ヒドラジンとの反応を行ったところR配置のビシクロ体が得られた。逆にR配置の化合物との反応からはS配置のビシクロ体が95%の不斉収率で得られた。(THF溶媒中、室温での反応)またメタノールを溶媒に用いたところ、不斉収率は49%に低下した。このR配置のビシクロ体を開環し9員環アザラクタムを合成し、さらに環拡大反応により13員環アザラクタムに誘導し、R配置のセラシニンを合成した。得られた(R)-セラシニンは正の施光度をもち、また天然のセラシニンは負の施光度を有していることから、天然のセラシニンの絶対配置はS配置であることがわかった。次に5員環ヒドラジンとS配置のb-トリルスルフィニル基を有するケイ皮酸もt-ブチルとの共役付加反応について検討を行ったところ、R配置のビシクロ体が82%の不斉収率で得られた。このビシクロ体から光学活性な8員環アザラクタムを合成し、光学活性ホマリンへと誘導することができた。
著者
轟 孝夫
出版者
防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

ハイデガーや京都学派、和辻哲郎という20世紀を代表する哲学者は、彼らの近代批判的な思想に立脚して支持した体制が第二次世界大戦の終結とともに崩壊した後、政治的主張からは距離を取ったように見られることが多かった。それに対して本研究では、彼らが戦時中、ないしはそれ以前から、自身の近代批判に基づいて同時代の政治にどのように関わろうとしていたのかを分析した上で、彼らが戦後も基本的には政治-思想的立場を変えることなく、むしろその延長線上で同時代の政治的状況を捉えようとしていたことを明らかにした。
著者
五十嵐 庸 長岡 功
出版者
順天堂大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

骨芽細胞に対するグルコサミン(GlcN)の効果を検討したところ、石灰化が亢進した。また、その効果は、骨芽細胞の中期以降の分化を亢進することで、石灰化を亢進するものと考えられた。また、軟骨細胞におけるGlcNの標的遺伝子を探索したところ、サーチュイン(SIRT)1遺伝子が同定された。また、他の細胞では発現が変化しないことから、軟骨細胞特異的な標的遺伝子であることが示唆された。さらに、GlcN添加によりいくつかの下流遺伝子において発現の変化が認められ、これはSIRT1の発現上昇を介していることが示唆された。
著者
灘本 知憲 浦部 貴美子 川村 正純
出版者
滋賀県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

最近では、生理的な効果を持ち、しかも環境に安全な天然物の利用に関心が寄せられている。野草は至る所に自生しているため、容易にそして安価に手に入れやすく、幅広い利用が考えられる。そこで、本研究は(1)野草の防臭あるいは消臭効果の検索(2)抗菌性試験系と消臭活性試験系とによる効果の確認(3)防臭あるいは消臭効果を有する野草の有効成分の検討(4)食品への適用の有効性、の目的にしたがって検討を行った。得られた結果は次に示すとおりである。1.悪臭発生のモデル食品としてブタ小腸を用いて野草の防臭効果を検討した結果、ブタ小腸に存在する嫌気性菌の増殖を著しく抑制し、悪臭の発生を顕著に抑える野草として、タンポポを見出すことができた。2.メチルメルカプタンを指標として野草の消臭力を測定した結果、高い消臭効果を有する野草を見出すことができた。中でも消臭率の高かった8種類の野草(タカサブロウ、セイタカアワダチソウ、ホウキギク、ヨモギ、アメリカセンダングサ、タンポポ、ノアザミ、オニノゲシ)は、いずれもキク科植物であった。3.Proteus mirabilisに対する野草の抗菌力を測定した結果、強い抗菌力を示す野草として、タカサブロウ(キク科)とイタドリ(タデ科)を見出すことができた。4.消臭効果の顕著であったドクダミとタンポポから、それぞれ消臭性成分を分離することができた。ドクダミとタンポポは薬用植物として、また食べられる野草としても利用されている。そのため、安全性については比較的高いものと考えられる。
著者
吉田 幸司
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本年度は、前年度までの、F.H.ブラドリー、W.ジェイムズ、A.N.ホワイトヘッドの形而上学研究、およびそれらと現代英米哲学の主潮との比較研究を継続しつつ、価値経験や宗教的経験のような個別的経験と科学知を統合的に論じた形而上学としてホワイトヘッド哲学を評価し直す研究を遂行した。1.現代英米哲学の主潮、特にクワインの自然主義と、ホワイトヘッド哲学の方法を比較研究した。その結果、両者とも科学と形而上学の境界は曖昧だと考える一方、ホワイトヘッドは「よりよい理解」を通じて「よりよい生」へ冒険する働きを「思弁」に見出す点で自然主義と一線を画すことが明らかになった。2.むしろ、ホワイトヘッドにとって哲学が例証を見出す事実は、科学が扱う経験的事実だけでなく、情感的経験や宗教的経験の事実でもあった。本研究は、ホワイトヘッドが、科学史や哲学史を解体しロマン主義的自然観を取り入れる中で独自の術語群を作り出し、世界に関する「よりよい理解」を獲得するとともに、科学・哲学・芸術を有機的に結びつけたことを明らかにした。3.彼の形而上学における神の記述も、本研究では、神学ではなく、S.アレグザンダーらの創発的進化論や哲学的人間学の脈絡のうちで展開した。これにより、生の意義や神的経験に関する形而上学的記述を我々の具体的経験に即して論じ直すことに成功した。4.さらに、ジェイムズの『宗教的経験の諸相』やブラドリーの方法論、現代スピリチュアリティ思想や脳科学研究を参照しながら、宗教的経験の意味に対する科学・哲学・宗教のアプローチの違いを研究した。その際にプラグマティズムを発展的に応用し、意味の世界を支えているがそれに先立つ基準の転換として宗教的経験の宗教性を捉える新たな提案を行った。5.また、科学者やアーティストとの学際的な研究活動・報告も積極的に行い、哲学を実践において活かす様々な提言をすることができた。
著者
谷口 宏充 伊藤 順一
出版者
大阪府教育センター
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究では火山噴火によって発生する爆風過剰圧などの物理量を計測し、同時に、付随する火山災害・噴出物の分布を調査し、両者の定量的な関連づけと爆発エネルギー量の決定を行おうとするものである。爆発的な噴火現象によって発生する火山災害や地質学的諸現象の分布は、爆発エネルギー量によって束縛されていると考える。もしこの考えが正しいなら、私たちは爆発エネルギーという只一個のパラメーターを定めることによって、他の全ての災害・地質現象の広がりや強度は数値シミュレションによって求めることができることになる。このことを実証するために、実際の火山噴火における爆発エネルギー計測方法の開発、実施、地質調査そして文献調査にもとづく災害・地質の諸現象と爆発エネルギー量との関連づけを試みる。1.爆発に伴う火砕流の最大到達距離は爆発エネルギー量によって規制されている。2.火口の直径は爆発エネルギー量の1/3乗に比例し、核爆発やTNT爆発などと同一の実験式によって記述される。3.マグマ噴火における熱エネルギーの爆発エネルギーへの変換効率は0.01〜0.4%、マグマ水蒸気爆発の場合には0.4〜7%程度であり、両者の間に明瞭な差がみられた。4.従って、火口直下に蓄積されている熱量や地下の帯水層に関する情報が地磁気学的な手法などによって与えられるなら、可能性のある最大爆発エネルギー量は評価され、数値シミュレションなどによって、火山爆発に伴う災害や噴出物の分布は予測できることになる。また過去の噴出物の地質学的調査を行うことによって、災害や噴出物分布についての統計的な予測をすることが可能になるかも知れない。5.阿蘇火山における1994年9月〜1995年2月までの計測結果によれば、各計測期間内における最大爆発エネルギー量は5×10^<15>erg程度であった。
著者
宇佐美 こすも
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

今年度は学会発表1件、論文掲載2件の成果を得た。学会発表は今年も東大比較文学比較文化研究室主催の大澤コロキアムにて、英語で口頭発表を行った。同研究会には修士進学以来5度目の参加で、毎年刀剣に関する研究発表を行っている。日々の研究活動で英語を必要としない一方で、留学生や海外研究者の関心が高い分野であるので、毎年この機会を活用して外国語でも研究発表ができるよう意識的に練習ができたと思う。本年の大澤コロキアムの発表内容をもとに体裁を整えたものが、本年受理された論文の1つである。英語で日本史の論を展開するにあたって、課題としては古記録の扱い方や古文書等の出典の書き方、専門語に対し適切な翻訳を施すなどいくつかあるが、引き続き練習してゆきたい。本年度に掲載決定したもう一つの論文は、日本美術刀剣保存協会の『刀剣美術』に投稿した。内容は、室町時代の上流階級で贈答されていた刀剣の拵とその使い分けを、日記をもとに明らかにし、それをもとに室町将軍と天皇家・公家との関係を考察したものだ。当初は文献史学系の雑誌に投稿しようと計画していたものの、用語解説や補足説明に紙幅をとられ十分な議論展開ができないと考え日本刀専門誌に投稿した。幸いなことに、既に多くの反響をいただいている。とりわけ刀身の鑑定・鑑賞が主だった刀剣研究を、政治史・文化史に結び付けようとする拙稿の視点を高く評価してくださり、調査協力を申し出ていただいている。
著者
中野 等
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は豊臣家・豊臣政権の文書論構築を目指したものである。秀吉の文書は単独で機能することもあるが、多くの場合奉行の副状あるいは奉書を伴っており、これらの副状や奉書が具体的かつ詳細に政権の指示を伝達することがある。本研究の大きな成果は単著『石田三成伝』(平成29年1月、吉川弘文館)の刊行である。また、平成28年9月に早稲田大学で実施された日本古文書学会での報告が、大きな成果としてあげられる。これは「豊臣政権の奉行発給・受給文書に関する一考察」と題して、政権論の中で大きな比重をしめてきたいわゆる「取次論」について、文書機能論の立場から再考を促すものである。
著者
後藤 泰宏 由井 典子
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では,正標数の体上で定義された3次元カラビ・ヤウ多様体について,その形式群に焦点を当てつつ数論的性質を考察した。主たる研究対象は,3次元重さ付きデルサルト型多様体とBorcea-Voisin型多様体であり,それらの形式群の高さについて多くの新しいデータを得るとともに,ホッジ数をはじめとする多様体の幾何学的性質と形式群の高さとの関係性を調べた。また,その応用としてミラー対称なカラビ・ヤウ多様体の形式群について考察した。
著者
青木 正博 梶野 リエ 小島 康 藤下 晃章 佐久間 圭一朗 竹田 潤二
出版者
愛知県がんセンター(研究所)
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究では、マウス生体での機能に基づいた探索により大腸がんの転移制御因子の同定を試み、HNRNPLLというRNA結合タンパクを見出した。大腸がん細胞でHNRNPLLの発現を低下させると転移能や浸潤能が亢進した。さらにHNRNPLLは、(1) CD44というタンパクをコードするpre-mRNAの選択的スプライシングを調節して大腸がん細胞の浸潤を抑制すること、(2) 大腸がん細胞の上皮間葉転換の際に発現が低下すること、(3) DNA複製因子をコードするmRNAの安定性を高めて大腸がん細胞の増殖を促進することを明らかにした。
著者
小宮山 敦 樋口 司 小池 健一
出版者
信州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1996

チェルノブイリ原発事故の放射線汚染による免疫異常と発がんとの関連性を明らかにする目的で、ベラル-シ共和国の高汚染地域住民について疫学的検査を行うとともに、がん発生の調査を実施した。1.免疫学的検査成績(1)白血球数(好中球、リンパ球)はほぼ正常であり、新たな数的変化はなかった。免疫グロブリンおよび補体にも明らかな低下傾向はみられず、一部の小児ではかえって高値を示した。(2)NK細胞上の接着因子(CD2、11a、18、69)の発現は正常であった。(3)NK細胞活性は、これまでと同様に、住民の約30%において低下または亢進を示していた。したがって、NK細胞機能異常が急速に進行してる兆候はなかった。2.染色体脆弱性やがん遺伝子検索のためにリンパ球を採取し保存できた。3.小児白血病発生の状況チェチェルスク地区の小児のなかで、1992年からNK細胞の異常が見いだされており、1997年に健康調査できた12名では、白血病などの小児がんの発生はなかった。ゴメリ州立病院小児血液部門における小児白血病発生頻度は、1997年度に明らかな変動はみられなかった。4.この研究調査と並行して、現地における小児白血病治療の一層の改善を目指して、末梢血幹細胞移植の実践指導を2例について行った。
著者
篠川 賢 鈴木 正信
出版者
成城大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

国造制と伴造制は七世紀以前における大和王権の地方支配の中核をなす制度であり、大和王権の権力構造および古代国家の成立過程を解明するために不可欠な研究テーマである。本研究では、「伴造関係史料集」および「伴造関係文献目録」の作成と、「国造・伴造研究支援データベース」構築のためのテキストデータの作成を行った。また、国造制と伴造制の関係性に関する研究を実施した。
著者
松本 忠夫
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

野外調査:昭和62年6月15日から6月21にかけて, 沖縄県の西表島・石垣島・沖縄本島に出かけ, クチキゴキブリ及びオオゴキブリの生息状況調査を行った. 調査項目は, コロニー組成, 天敵相, 巣構造, 生息地の環境条件などであった. この調査には研究補助者として大学院生1名を同行させた. クチキゴキブリのコロニーについては約100ユニット, オオゴキブリのコロニーについては約20コロニーを採取し, その組成を詳細に調べることができた.飼育実験: 現地より採取して実験室に持ち帰った昆虫に関して下記のような行動実験を行った.(1)成虫と子虫の間の行動上の関係:クチキゴキブリの初齢幼虫は自分の親の回りに集まるが, オオゴキブリではそのような傾向を持たない事が分った.(2)成虫の防〓行動/捕食者のムカデに対拠させたところ, クチゴキブリの成虫は積極的に子虫をまもる行動に出るが, オオゴキブリにはそのような性質を持たない事が分った.(3)雌雄の配偶行動/クチキゴキブリ類の〓成虫の雌と雄がペアーを作ったところ, 相互に翅を食い合うという大変特異な行動様式が観察された.(4)子虫の成長/両種とも成虫に至るまで7齢を経る事が分った. また, クチキゴキブリの初齢幼虫は親より隔離すると充分成長できない事が分った
著者
成田 孝三 藤田 昌久 岡田 知弘 足利 健亮 石川 義孝 金田 章裕 金坂 清則 石原 潤 応地 利明
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

8年度は、1.都市を中心とするシステムについて欧米、日本、アジア・アフリカに関する比較研究を行う、2.地理学の空間分析、マルクス経済学の構造分析、近代経済学の計量分析の統合を目指す、3.日本のシステムについて動態的研究を行なう、という研究の枠組みと分担を決定した。9年度はそれに従って各自がフィールド調査を実施し、報告書の研究発表欄に掲げた成果を得た。10年度は統合の実を挙げるために、近畿圏を共通の対象として研究し、次の知見を得た。1.古代国土システムの構成要素としての近畿圏は、従来説の大化の畿内と天武の畿内の間に、近江を中心とする天智の畿内が存在し、それは三関の範囲に合致する軍事的性格を帯びており、中国の唐制に類似する。2.古代畿内の首都は孤立した一点ではなく、複数の首都ないしは準首都によって構成されており、それは現代の首都移転論をめぐる拡都論にも通じる状況である。3.中世期末畿内の構造変化を本願寺教団の教勢の進展を通じてみると、それは近江・京都・大阪を中核とし、奈良・三重・北陸に広がり、最後に兵庫・和歌山に伸びて現代の近畿圏を覆った。近江が中心となった理由はその生産力と交通の拠点性である。4.五畿七道の区分を踏襲してきた幕藩体制から近代国家体制への転換に伴って、府県を単位とする地方区分が確立した。近畿の範囲は6府県を核とし、場合によっては三重や福井が加わるという形をとった。この構成は現代にもつながっている。5.現代の大阪圏は初め西日本に広がっていたが、次第に縮小して上記の近畿圏に収斂しつつある。また近畿圏の構成単位である各日常生活圏の完結性が弱まり、大阪と京都を中心とする圏域に統合されつつある。それに伴って各種行政領域と日常生活圏との整合性が崩れ、その〈地域〉としての有意性が損なわれるおそれがでてきた。なおバブル崩壊後、中心部の都市地域と周辺部の農村地域との格差が拡大しつつある。
著者
岡 敏弘
出版者
福井県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

福島第一原発事故によって放出された放射性セシウムによる食品汚染に対してとられた規制政策の効果と費用とを評価し、費用便益分析を行い、効率的な規制のあり方を示した。規制に対応する対策として、出荷や生産の制限と農業における放射性セシウム低減対策を取り上げ、その費用を測った。また、政策の効果は、規制によって消費者が摂取する放射性セシウムの減少によるがんのリスクの低下によってもたらされる損失余命の減少によって測った。損失余命1年減少の便益を2000万円とした時、米の効率的な基準値は390Bq/kg、あんぽ柿の効率的な基準値は3600Bq/kg、または徐々に厳しくなる基準値であることが明らかになった。
著者
譲原 晶子 奥 香織
出版者
千葉商科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

平成28年度からの課題を引き続ぎ、以下に示すような次のステップの準備をすることができた。① 18世紀におけるオペラ・コミックと劇的バレエの関連について分析する。初期のバレエ・ダクシオンには、人気のオペラ・コミックをもとにつくられたものが多いが、オペラ・コミックをバレエ化することのバレエ側のメリットとして、これまで、「音楽の言語的機能」という点が指摘されてきた。これに対して本研究では、両ジャンルが「劇構成」において共有している点を明らかにすることで、両者の関連について考察する。② オペラ・コミックはその成立過程からみてもパントマイムを重要な要素としてきたが、オペラ・コミックの台本作家のなかには、台本にト書きを書き、劇作家は台詞を書くのみならず自ら演出を行なうべきである、と考える者が現れるようになった。本研究は、オペラ・コミックのこうした動向を、ディドロの「演劇タブロー」の理論との関連から考察する。これによって、この時代に「演出」を見据えた劇作法が確立していく様相を理論と実践の両面から把握し、そのバレエへの影響を明らかにすることを目指す。③ バレエの主要概念のひとつ「アラベスク」が絵画(装飾)藝術の概念でもあることに注目することで、18世紀フランスにおける絵画と舞踊の関連性について考察する。バレエの「アラベスク」が現代のようにポーズの概念となったのは19世紀になってからであるが、舞踊藝術は、舞台美術家ベランの活動やボーシャン=フイエの舞踊記譜法を通して、17世紀より「アラベスク画/グロテスク画」の影響を受けてきたと考えられる。18世紀において舞踊の「アラベスク」の捉えられ方、またその変遷を探究することにより、この時代の絵画と舞踊の関係について新たな視点を導入する。
著者
中田 章史
出版者
北海道薬科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

福島県の放射線汚染地域に生息しているアカネズミの放射線影響評価を行なうことを目的として、個体群調査、染色体異常の頻度、個体被ばく線量を調査した。福島県の警戒区域内において福島第一原子力発電所事故発生時期に出生した個体が少ないという結果を得たが、新生個体も確認されているため、放射線汚染地域のアカネズミ個体数は回復していると考えられる。また、放射線被ばくによる生存個体の成長遅滞は認められなかった。染色体解析では、放射線に特異的な染色体異常は認められず、放射線汚染地域および対照地域との間で有意な差は検出されなかった。アカネズミの個体被ばく線量は、環境中よりも吸収線量が下回っていることを明らかにした。