著者
後藤 晋
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は(前年度までに開発した)複数の異なる境界条件下における乱流の数値シミュレーションプログラムを実行することで順調に研究を進展させることができた。具体的には、壁乱流の典型例である『平行平板間乱流』、『境界層乱流』、『滑らかな容器内乱流』の大規模数値シミュレーションを実行し、その動力学の解明に向けた研究を進めた。主な成果は以下の通りである。(1)高レイノルズ数の境界層乱流の数値シミュレーションを実行し、得られた乱流の粗視化解析によりこの乱流中の渦の階層構造を同定するとともに、その生成機構を渦力学を用いて解明した。とくに、対数層における小規模乱流渦の生成機構がレイノルズ数の増加とともに質的に変化することを示した。さらに、渦の階層構造の時系列解析(4次元解析)により、渦の生成過程の典型例を示すことができた。(2)平行平板間の発達した乱流を数値シミュレーションし、その渦の階層構造を同定した。また、各スケールの運動が保有するエネルギーと渦の階層との関係を明らかにした。これは壁乱流におけるエネルギーカスケードの物理機構を明らかにするための基盤を与える。(3)平行平板間乱流に輸送される微小固体粒子群の挙動を調べ、そのストークス数依存性を明らかにした。とくに、粒子群のクラスタ構造と渦の階層構造との間の関係を明らかにした。(4)歳差運動をする回転楕円体容器内の乱流の数値シミュレーションを世界で初めて実行し、その3次元の流れ構造を明らかにした。とくに、容器の微小な楕円率が維持される乱流構造に与える影響を明らかにした。
著者
山子 茂
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、閉じた曲面構造を持つ三次元状のπ共役分子を有機合成により合成するための新しい方法論の確立と共に、これにより得られた化合物を材料科学へ応用することを目的とする。その研究の中で、我々はすでに環状構造を持つπ共役分子であるシクロパラフェニレン(CPP)の合成と、そこからのジカルカチオンとジカチオンとを選択的に合成できることを明らかにしている。これらの活性種の生成機構や物性の解明は有機電子材料における伝導機構の解明とも関連する重要な課題である。本研究期間ではCPPの酸化過程における移動電子数と、電子移動におけるサイズ選択性の解明を行った。すなわち、CPPの電気化学測定では、パラフェニレン単位が7以上のCPPでは可逆的な一つの酸化波が観測されるのに対し、[5]CPPでは二つの酸化波が観測されることも明らかにしている。これらの結果とCPPのラジカルイオンおよびジカチオン生成の結果は、大きなサイズのCPPで観測された単一の酸化波が2電子移動を含むことを示唆しているが、その直接的な証拠はなかった。そこで、サイクリックボルタモグラムと回転ディスク電極を用いた電気化学的測定により、電極酸化反応に関与する電子数を直接見積もった。その結果、CPPのサイズによらず、いずれの場合も2電子酸化過程であることが示された。さらに、[6]CPPの対称性の悪い酸化波も2電子酸化であることが示唆された。さらに、一電子目の酸化がサイズの小さいCPPが起こりやすい一方、生成したラジカルカチオンからのもう一電子の酸化によるジカチオン生成は大きなCPPのほうが起こりやすく、そのタイムスケールが電気化学測定の時間分解能より早くなってしまうため、サイズが大きいCPPでは一つの酸化波しか観測できないことを明らかにした。
著者
山子 茂 梶 弘典 藤塚 守
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2016-05-31

シクロパラフェニレン(CPP)を母骨格とする環状π共役分子の材料への応用を見据えた大量合成法の確立とその応用と、CPPの反応性の解明に基づく後修飾法によるCPP誘導体の合成について検討を行った。前者では、ウェットプロセスを用いた有機電子デバイスへの応用に向けて問題となっていたCPPの溶解度の解決を図った。テトラアルコキシ[10]CPPにおいて異なるアルキル置換基を持つ誘導体を前年度ダイハツ下方法でグラムスケールで合成し、溶解度の確認と、ウエットプロセスを用いた薄膜作成について検討を行った。その結果、アルキル置換基を選ぶことで[10]CPPの薄膜を作成することに成功した。さらに、作成したCPP膜の光学特性と電荷移動度とを始めて測定することに成功した。その結果、CPP単体の分子軌道エネルギーからの予想とは異なり、n型半導体特性を示すことを明らかにした。ブトキシ[10]CPPのSCLC領域(0.7 MV cm-1)における電子移動度は4.5 x 10-6 cm2 V-1 s-1と高いものではなかったが、今後のCPPのデバイス研究におけるベンチマークとなるものと考えている。後者では、芳香族化合物の代表的な反応である求電子置換反応について、臭素化反応について検討した。その結果、サイズの小さなCPPでは、2分子の臭素がCPPに付加反応を起こすことを見出した。反応は選択的にCPPにおける二つのパラフェニレン単位のイプソ位のみで起こると共に、反応するパラフェニレン単位の場所も厳密に制御され、いずれの反応においても単一の生成物が得られた。さらに、理論計算から反応性および位置選択性が熱力学的安定性により支配されており、付加による芳香族性の解消とひずみエネルギーの緩和とのバランスで決まっていることが分かった。さらに、付加体から種々のCPP誘導体へと選択的に変換できた。
著者
松添 博
出版者
佐賀大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は情報幾何学に現れる幾何構造を再検討し,その基礎理論を構築することであった.従来の情報幾何学と微分幾何学の一般論を統合することにより,複素統計多様体上にコントラスト関数を構成し,複素多様体上の様々な共形構造の解明を目標とした.特に今年度はHermit計量を持つ統計多様体上にコントラスト関数を構成し,その幾何学的性質を解明し,さらにその結果を応用することであった.Hermit計量を持つ複素多様体上にコントラスト関数を構成することは今一歩で結果が出ていないが,今年度はコントラスト関数の応用については数多くの結果が得られた.まず第1の結果として,コントラスト関数から決まる距離型の関数を用いて,(-1)-共形平坦な統計多様体上にVoronoi図を構成した.これは,コントラスト関数から自然に決まる曲率型のテンソルと,統計多様体の共形平坦性、具体的なVoronoi図構成のアルゴリズムの性質など,様々な要因が非常に上手く合さった結果であり,大変に有意義なものと思われる.また,ガンマ分布族のなす統計多様体について,その幾何学を解明した.特に幾何学的なダイバージェンスと統計学的なダイバージェエンスの関係,エントロピーの幾何学的意味など,多くの結果が得られた.今回得られた結果は,統計的推論や検定理論,情報理論などへのさらなる応用が期待されている.今後の研究が待たれるところである.Hermite計量を持つ統計多様体上のコントラスト関数も,近日中に結果が得られるものと期待している.
著者
鈴木 邦明
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

骨芽細胞様細胞株であるMC3T3-E1細胞は、コンフルエンス後石灰化基質を分泌し、石灰化部位形成時期にかけて蛋白質チロシンホスファターゼ(PTP)活性、蛋白質チロシンキナーゼ(PTK)活性、分子量263,224,29.5,28.2kDaの蛋白質のリン酸化チロシンレベルが上昇した。PTK,PTPは、細胞の増殖、分化に重要な役割を果たしているとされており、その中の石灰化過程におけるPTPの役割を調べるため、MC3T3-E1細胞のPTPの精製を試み、性質を調べた。MC3T3-E1細胞の細胞質画分から3種類のPTPを部分精製した。そのうち2種類はイムノブロッティング法により抗PTP1B,PTP1D抗体と反応し、PTP1B,PTP1Dと判明した。これらPTP1B,PTP1Dは細胞が増殖、分化し、基質を分泌し石灰化する過程で発現量が増加し、またオリゴマーとして存在していることが推測された。市販の抗体と反応しなかった他の1種類のPTPの精製を試み、カラムクロマトグラフィーにより全細胞ホモジネートに比較して、4779.1倍精製した標品を得た。この標品の分子量はSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により33あるいは39kDaであり、またゲル濾過による見かけの分子量は933kDaであった。PTP活性の至適pHはpH6付近であった。活性は一般的なPTPの阻害剤であるバナジン酸、モリブデン酸、亜鉛によって阻害され、セリン/スレオニンホスファターゼの阻害剤であるオカダ酸によっては阻害されなかった。また、マグネシウムによって活性が増強され、EDTAによって活性が阻害された。以上の結果からPTPが石灰化過程においてMC3T3-E1細胞の細胞増殖、基質合成に深く関わっている可能性と、MC3T3-E1細胞が新種のPTPを有している可能性が示唆された。
著者
佐々木 直人
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

制御性T細胞(Treg)は、病的な免疫応答を抑制することにより、動脈硬化性疾患において抑制的に働くことが示された。また、マウスにおいて、全身でTregの数を増やしたりその抑制能を増強させることにより、動脈硬化の進行は抑制され、一旦形成された動脈硬化病変は退縮し、大動脈瘤形成は抑制されることが明らかになった。
著者
落合 一泰 WINCHESTER MarkJohn
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

平成24年度の成果としてまず、研究分担者(ウィンチェスター)が執筆した<アイヌ>という生体験を近代の意味との関連で思想的に考察する長編論文が英字ジャーナル「Japan Forum」(Routledge)に出版された。同論文は、近代をめぐる時間の哲学思想が現代における新しい時空間の経験のあり方、またはそれが<アイヌ>という生体験にいかなる影響を及ぼしてきたのかについて触れている。また、3月2日~3日に、ウィンチェスターは「『民族問題』の回帰」という研究ワークショップを一橋大学で開催した。ワークショップ参加者は、カナダ(マギル大学)、米国(ファーマン大学、コーネル大学)、日本(同志社大学、一橋大学)から来た。報告題目は次の通りである。「民族問題と資本」、「Female Weavers Refusal of Real Subsumption in Early 20^<th>Century Okinawa」、「原始的蓄積とりベラル・ヒューマニズム」、「帝国の人種主義:琉球民族の民族問題について」、「『主体の無理』の時間性をめぐって」。植民地主義の歴史の、その取り返しがつかない現存こそが、現在のわれわれの生を制約しているものの一つという観点にたったこのワークショップでは、労働力産出における民族的差異の役割、グローバリゼーション下での国家の暴力が世界的に暴露している象徴としての(先住・少数)民族の回帰、対抗権力の問題、宇野弘蔵の「無理を通す機構」をめぐる思想的側面、プロレタリア化と民族問題、ルイ・アルチュセールの重層的決定と構造的因果性やジャック・ラカンの同一化の問題、発話の身体性とその時間性などをめぐって活発に議論が出来、今回の研究成果のさらなる発展の可能性が明らかになった。
著者
佐々木 琢磨 米田 文郎 宮本 謙一 前田 満和 川添 豊 兼松 顕
出版者
金沢大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1990

前年度に引続き2'ーdeoxycytidineの2'ーarabino位への置換基の導入を検討し、2'ーazido体(Cytarazid)の簡便、大量合成法を確立すると共に2'ーシアノ体(CNDAC)をラジカル反応を用いて新たに合成した。種々のヒト固型腫瘍由来細胞に対しCytarazid及びCNDACはともに強い増殖抑制効果を示した。また、podophyllotoxin型リグナン類の合成をDielsーAlder反応を用いて合成し、強い抗腫瘍活性を有する化合物を得ることができた。ブレオマイシンの細胞毒性は、ポリアクリル酸と撹拌すると増大するが、この時の細胞死は未知の致死機構によるものと考えられ、休止期細胞や耐性細胞にも同等に作用することを見出した。白金錯体を酸性多糖に結合させた高分子マトリックス型錯体を合成し、それらがB16ーF10メラノ-マの肺転移を抑制することを見出した。酸化還元代謝調節能を有するフラビンや5ーデアザフラビンの誘導体を合成した。これらの中でもNO_2基やCOOC_2H_5基を有するものが強い抗癌活性を示した。次に生元素の一つであるセレンを骨格内に導入した5ーデアザー10ーセレナフラビンを合成し、この化合物もかなり強い抗癌活性を有することを見出した。一方、ヒト腫瘍に対する簡便で能率の良い転移治療モデルとして、鶏卵胎児の転移多発臓器のおけるヒト腫瘍の微小転移巣に含まれるヒト腫瘍細胞の特定遺伝子をPolymerase Chain Reaction法により定量的に検出する我々独自の方法を用いて、転移抑制及び治療に有効な物質をスクリ-ニングした。その結果、本研究班で合成したDMDC(2'ーdeoxyー2'ーmethylidenecytidine)とCNDACがヒト線維肉腫HT1080の肝・肺の転移巣を顕著に抑制することがわかった。選択性の高いプロテインキナ-ゼ作用薬を得るために新しくデザインされたイソキノリン誘導体の細胞周期及び制癌剤多剤耐性に及ぼす影響を検討した結果、in vitroではあるが、P388/ADRの耐性解除作用の強い物質を見出した。
著者
桜井 弘 今倉 康宏 田和 理市
出版者
京都薬科大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

前年の成果を踏まえて、本年度は、ポドフィロトキシン関連化合物として、シリンガ酸(SA)およびデメチルエピポドフィロトキシン(DEPD)の選び、これらの銅(II)錯体によるDNA切断反応を検討した。まず、アガロースゲル電気泳動法によりM13mp18ssDNAを用いて、銅錯体によるDNA切断反応が生ずること、及び銅(II)単独又は薬物単独ではDNA切断は生じないことを確認した。次に、同じ系によりポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いてシークエンス反応をおこなった。その結果、SAーおよびDEPDー銅錯体によりDNA切断反応は塩基特異的に生じていること見い出した。すなわち、同系によるDNA切断反応は、シトシン(C)部位で切断が優先的に生じていることが明かとなった。また、チミン(T)やグアニン(G)部位においても切断が見られたが、C部位と比較するとその程度は低かった。アデニン(A)部位ではDNA切断はほとんど生じていないことが判った。次に、ポドフィロトキシンに鉄(III)を共存させ、紫外線照射を行うとDNA切断反応が増大し、かつ反応中に・OHの生成が認められるため、本反応における酸化生成物の同定を試みた。反応を行った後、薄層クロマトグラフィー及び液体クロマトグラフィーにより化合物を分離精製し、NMRを用いて構造解析を試みたところ、現在、4種の化合物を同定することができた。しかし、まだ十分量を得ることが困難であるため、詳細な物性やDNA切断反応を行っていない。この検討を続け、十分量得ること、さらに未同定の化合物の構造決定を行いたいと考えている。これらの知見により、詳細な紫外線照射下における活性酸素生成に関する考察を行うことを計画している。
著者
杉山 武敏 濱崎 周次 逢坂 光彦 羽賀 博典 杉山 武敏 嶋田 俊秀
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

ラムダ・ファージDNA(λDNA)を10%ホルマリンで固定するとDNAは小分子量化を来す.このホルマリンによるλDNAの小分子量化は,固定時の温度,固定液のpH,塩濃度等の影響を受けることが明かとなった.塩を含む中性緩衝ホルマリン固定で,λDNAの小分子量化を完全に防ぐことが出来た.マウス肝臓組織を用い,ホルマリン固定の組織DNAへの影響を検討したところ,10%ホルマリン,12時間室温固定した組織より抽出したDNAでは小分子量化が見られた.この小分子量化には固定時の温度,固定液のpH等が影響を及ぼした.中性緩衝ホルマリン,4℃固定で組織DNAの分解をある程度抑制することができた.室温で中性緩衝ホルマリン固定したλDNAを制限酵素で消化すると,不完全消化を示すバンドが電気泳動上認められた.この制限酵素処理の際の不消化現象は,制限酵素の種類,酵素量や消化時間に依存せず,また不消化を起こす特定の塩基配列も認められなかった.4℃,中性緩衝ホルマリン固定では不消化を示すバンドは認められず,不消化現象は固定時の温度に依存していると考えられた.一方,固定液の塩濃度は制限酵素不消化現象に対して影響を及ぼさなかった.ホルマリン固定したλDNAを鋳型としてpolymerase chain reaction(PCR)を行い,固定のPCR増幅への影響を検討した.10%ホルマリンでは固定後14日以降でPCR効率の低下が見られた.一方,中性緩衝ホルマリンでは,28日間固定したものでもPCR効率は低下せず,PCR産物の塩基配列にも影響は見られなかった.ヒト剖検例の肝(10%ホルマリン,室温固定)からDNAを抽出しPCRでK-rasコドン61を含む128bpを増幅したところ,固定期間が6ケ月を過ぎるとDNAの増幅は困難であった.以上から中性緩衝ホルマリン,4℃固定がDNA保存及び解析に望ましい固定法であると考えられた.本研究は成果をあげ修了した.
著者
井田 齊 林崎 健一
出版者
北里大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

ホルマリン中に長期保存されていた魚類標本からDNAの回収と増幅が可能となれば、過去に蓄積された標本を再利用して遺伝学的検討を行うことができ、水産学のいろいろな分野への応用が可能となる。しかし、ホルマリン固定標本では、保存中にDNAが断片化されており、また、組織の溶解も困難であると考えられる。それゆえ本研究では、断片化されたDNAを効率よく回収することを主眼として、DNA抽出手法の改良を行った。また、本手法を用いて回収されたDNAがどの程度利用可能かをPCR増幅可能長を基準として検討を行った。実験には約20年前までのシロザケ稚魚ホルマリン標本(ホルマリン固定後エタノールに置換したものも含む)の体側筋を用いた。組織の融解に関しては、高濃度の尿素をふくむTNESバッファー中でproteinase Kの連続添加が有効的であった。また、フェノール抽出の際には、遠心後の有機層からの逆抽出を行うことにより断片化したDNAを効率よく回収することができた。回収されたDNAのサイズを電気泳動により比較したところ、ホルマリン固定後数カ月を経過した後は、断片化の程度と保存期間の長短との関連は明確でなく、むしろ固定時の条件に左右されたものと考えられた。PCR増幅に関しては、ホルマリン標本はRAPD法には適さないことが明らかとなった。しかし、mtDNAのcytochrome b領域に関しては、約400塩基対まで増幅が可能であった。さらに、増幅産物をsequencingに供することも可能であったことから、魚類のホルマリン標本を用いてのDNA解析は、一般に困難ではあるが、抽出手法を改良することにより、短い領域を対象とすれば可能であることが明らかとなった。
著者
倉田 敬子 上田 修一 松林 麻実子 三根 慎二 酒井 由紀子 加藤 信哉 森岡 倫子 林 和弘 國本 千裕 横井 慶子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

イーリサーチと呼ばれる研究プロセスの特徴,および学術コミュニケーションのデジタル化とオープン化の現状を明らかにすることが本研究の目的である。研究計画ごとにインタビュー,質問紙調査,ウェブの検索・データ収集などの多様な方法により調査を行った。主要な成果は,日本人研究者のデータを巡る実践と意識のモデルの構築,日本の学術雑誌のデジタル化の現状の把握,生物医学分野のデジタル化現況,一般人の医療情報等専門情報のニーズと探索の実態の把握である。
著者
川島 光郎
出版者
筑波技術短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

聴覚障害者への音楽リズム情報の伝達手段として新しく皮膚電気刺激を取り上げ,手軽に利用できるパソコンベースのシステムを作成し,その基本的性質を調べた.すなわち,刺激電圧パルスの波形と強度,皮膚電極形状とその装着位置,電極装着個数と音楽リズムの複雑さ、感度や不快感などとの関係を調べた.また,リング状の電極を指につけた場合について,MIDIキーボードを弾く例を取り上げ,音や光など他のリズム伝達方法と比較した.これらの結果から,パルス幅0.2〜2ms、印加電圧20〜80Vの範囲で各人の特性により調整することにより、痛みなどの不快感を最小限にとどめ,音楽信号の伝達方法の1つとして使用可能であることが分かった.従来,聴覚障害者への音楽同期情報は,残存聴力を利用する通常の音響出力や機械的振動,あるいは映像やランプなどの視覚情報が用いられて来たが,この直接電気的に感覚神経を刺激する方法は応答時間が早く,顔の向き(視線方向)に左右されない情報伝達手段として,低周波音響や機械的振動に替わり,とくに合奏やダンスなどの集団動作の同期をとる場合に有用である.障害者個々の特性に応じ他のマルチメディアと併用して利用するのが実際的と考えられる.またこの方法は体性感覚を使うことから視聴覚に重複障害をもつ人々のコミュニケーション手段としても利用が可能で、今後この分野でも開発が期待できる.
著者
堀内 基広
出版者
帯広畜産大学
雑誌
特定領域研究(C)
巻号頁・発行日
2001

病原性プリオン蛋白質(PrPSc)と正常型プリオン蛋白質(PrPC)が直接会合することが、PrPScの増殖の第一段階である。そこで、PrPCとPrPScの結合に関与するPrP分子上のドメインを調べることを目的として、各種PrP合成ペプチドがPrPC-PrPSc間の相互作用を阻害するか否かについて検討した。PrPCがPrPSc存在下でPrPSc様のProteinase K(PK)抵抗性分子(PrP-res)に転換する試験管内転換反応で、PrP合成ペプチドaa117-141、aa166-179、aa200-223はPrPCがPrP-resに転換するのを阻害した。これらのPrPペプチドはPrPCと結合することにより、PrPCとPrPScの結合を阻害することが判明した。結合阻害活性を示すPrPペプチドは反応条件下ではβシート構造をとる傾向があることから、PrPペプチドがPrPScのPrPCへの結合ドメインを模倣することでPrPCと結合し、PrPC上のPrPSc結合ドメインを占拠する結果、PrPCとPrPScの結合を阻害する可能性が示唆された。PrPCとPrPScの分子間相互作用を解析する道具として、PrP分子に対するモノクローナル抗体(mAb)パネルを作製した。計34のmAbは認識するエピトープから9群に分類された。グループI〜VIはPrP分子上のリニアエピトープを認識する抗体、グル-プVII、VIIIはPrP分子上の構造エピトープを認識する抗体であった。また、グループIXはPrPSc特異的エピトープを認識する抗体である可能性が強く示唆された。aa59-89のリニアエピトープを認識するmAb、aa143-151を認識するmAb、およびaa1555-231領域内の構造エピトープを認識するmAbはプリオン感染細胞におけるPrPScの合成を阻害した。これらの抗体は細胞膜上に発現するPrPCと強く反応することから、抗体が細胞膜上のPrPCと結合することで正常なPrPC代謝経路が影響を受けるために、PrPSc合成の基質となるPrPCの供給が阻害された結果であると考えられる。
著者
佐々木 崇
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

平成14年度の研究では、クワインの哲学から汲み取られる諸問題を掘り下げて考察するために、重要な哲学者との比較や、現代哲学における議論の展開を検討することに重点を置いて研究を行った。また、クワインの存荘論に関して、その議論の形式的な側面と内容的な側面に関する研究を行った。そして、その成果を論文にまとめ、学術雑誌への投稿や学会での口頭発表という形で明らかにした。まず、クワインの哲学上の重要な主張である自然主義の論点を、パースの哲学と比較することによって検討した。パースの哲学を取り上げたのは、パースが、クワインにつながるプラグマティズムの思想を打ち立てながらも、自然主義に対しては対立する主張を行っており、この両者の主張を比較検討することで、自然主義を考察する上で有意義な手がかりが得られると考えら、れるからである。この研究によって、自然主義に関する両者の主張の背景には、人間の本性に関する把握の仕方の相違があることを明らかにした。次に、クワインの哲学における根本的な問題に焦点を絞ってを研究した。一つは、論理的真理に関する認識論、的問題である。この問題を、現代に行われている議論を検討することを通じて掘り下げて考察するとともに、クワインが用いる内在性と超越性という対概念に着目することで難点を明らかにした。もう一つは、存在論に関する問題である。この問題に関しては、形式的な側面から、他の論者との比較を通じて検討するとともに、内容的な側面から、クワインの初期から後期までの主張の流れを跡付けた上で、難点を指摘した。他の哲学者との比較とクワイン自身の議論の一貫性の検討を中心に行った、こうした一連の研究によって、クワインの哲学を掘り下げて理解するとともに、今後に取り組むべき課題を汲み取ることができた。
著者
野村 正雄
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

角運動量理論、即ち、ウィグナー・ラカー代数としての回転群について一大拡張をした。発展させた数学的技法は量子群代数に関するものである。物理空間は、通常の可換な空間を拡張したもので、量子空間と呼ばれている非可換空間を採った。著しい成果は、全ての物理量と関係式が擬共変性を満足するよう理論を構成できたことである。これは、全ての観測量(遷移確率)は量子空間での或種の一次変換(擬一次変換)に不変という要請に沿うものである。擬共変性により、全ての量を一般化された意味のスカラー、ベクトル、あるいはテンソルとして規定することができる。ウイグナーとエッカートによる基本的定理を、一般化されたウイグナー・エッカート定理として捉えた。また、一般化単位テンソルという概念にも到着した。回転群表現論で重要である種々の関数、例えばクレブシュ・ゴルドン係数 ラカー係数(一般的にn-jシンボル)の拡張形を研究し、その拡張形相互の関係式を確立した。これらの関数がフエイス型とヴァテックス型のYang-Baxter関係式を構成する一基本関数系をなすことを指摘した。ついで、この共変形式のもとで、フェルミオン・ボソンの生成消滅演算子の自然な拡張を見いだしそれらの交換関係を規定した。一般化スピノールと生成消滅演算子を対応させるのに何通りもある。その一つとしてBCS・ボゴリューボフの定式化の量子群的拡張をした。この拡張を用いて、Symplecton代数で知られる角運動量代数を、量子論的拡張した。さらに、この共変理論をSU_q(n)の理論に拡張した。ヤング図表についての新しい拡張も見いだしている。
著者
岡澤 敦司
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

我々は,進化的に光合成能を失った全寄生植物および腐生植物について,その光シグナル伝達経路を光合成を行う植物と比較した場合に,どのような相違点が存在するかを明らかにすることを目的として研究を行っている.その相違点は,これらの植物が光合成能を失ったことに関連する遺伝子の変化によってもたされていると考えられ,この遺伝子の変化を明らかにすることによって,植物の光シグナル伝達経路に重要な情報が得られると期待されるからである.本課題では,特に光シグナル伝達経路の最上流に位置する光受容体,フィトクロムA(PHYA)に着目して研究を行った.三種の寄生植物および一種の腐生植物についてそのcDNAをクローニングし,光合成を行う高等植物との配列比較を行った.その結果,光合成植物では保存されているアミノ酸において残基の置換が観察された.特に,実験室レベルでも栽培が可能であるヤセウツボのフィトクロムA(OmPHYA)についてさらに詳細に研究を行った.その結果,OmPHYAは光合成を行う植物のPHYAと同様に,光によってその発現量ならびに局在が制御されていることが明らかになった.さらに,OmPHYAの機能を調べるために,これをシロイヌナズナのPHYA欠損変異株より調整したプロトプラスト内で一過性に発現させた.このプロトプラストに遠赤色光を照射し,この条件でPHYAによって誘導される遺伝子の発現量を測定した.この結果,OmPHYAは一部の転写因子の発現を誘導出来るが,PHYA二よって誘導される光合成関連の遺伝子の発現を誘導出来ないことが明らかになった.これらの実験によって,光合成能の喪失に伴う,PHYAの機能変化が明らかになり,光シグナル伝達経路の解明に光合成を行わない植物を用いることの有用性が示された.
著者
柳原 正治
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

本研究においては、18世紀後半から20世紀初頭にかけての、さまざまな国際法学者の「国家」論、「国家結合」論、さらには「国際社会」論の検討を行った。とりわけ、ヴァッテルの「主権国」概念、及び、1770年代から19世紀のごく初頭にかけて唱えられた「ドイツ国際法論」の綿密な研究を行った。その中で、この時期、「(完全)独立国」、「(完全)自由国」、「現実の国家」、「主権国」、「半主権国」など、さまざまな国家概念が用いられていること、しかもそれらはいずれも、いわゆる「近代国際法」のキ-概念としての、「最高独立の権力ないし意思」としての「主権国」と異なること、などを明らかにできた。現代のわれわれが考えるような、国際法と国内法の截然たる区別、対内主権と対外主権の明確な区別を前提とする「主権国」概念についての理論化は、実は19世紀のごく末か、20世紀のごく初頭まで待たなければならない。そうした中で初めて、伝統的な「国家結合論」も成熟していったのである。また、この研究の延長線にあるものとして、グロティウスの「国家間の社会」概念をめぐる、その後の多くの学者たちの論争も研究対象とした。その中で、ときに「国際連盟」のモデルといわれるヴォルフの「世界国家(civitas maxima)概念も、この論争を踏まえたものであったこと、もっともその内実は、ヴォルフ固有の考えに基づくものであったこと、を明らかにできた。そして、その基礎にある「国家」理念は、現代の「主権国」概念とはかけ離れているのであって、そのことを十分理解しないかぎり、ヴォルフの世界国家概念と国際連盟の混同という誤解が生じることになることをも論証した。
著者
高田 秀志
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

小学生を対象としたプログラミング学習を対象として、ビジュアルプログラミング環境を用いた協調的な学習環境について研究を推進している。本研究では、実際にプログラミング学習を行う場で用いることを想定した教材を開発し、地域の小中学校やNPO法人と連携して実施している休日のワークショップで実適用を行っているが、前年度に適用を行う中で、プログラミングをした後の動作検証を十分に行わず、帰納的な学習が十分に行えていない場合があることが明らかになってきたため、プログラミング課題をスモールステップ化し、動作検証を子ども達が相互に行うことで協調的にプログラミングを進めることができるように支援するシステムを開発し、その検証を行った。その結果、子ども達同士で正しくプログラムが動作しているかどうかを確かめながらプログラミングを進める様子が観察され、一定の効果があることが分かってきた。さらに、ワークショップ等で作成したプログラミング作品に対してプレゼンテーションを行う場面において、プログラミング作品の発表に適したプレゼンテーションになるように支援するシステムを開発し、実際のワークショップで検証を行った。これにより、教室内での協調学習がより効果的に進められるようになると考えている。これらの成果は、今後国内外の学会において発表を行っていく予定である。一方、協調的なプログラミング学習を支援する環境として前年度に開発した教室内SNS(Social Networking Service)システム、および、ビジュアルプログラミング環境の実行画面を共有可能なシステムについては、国際学術誌に論文が掲載された。また、プログラミング学習に関する研究を進める中で得た知見を実際の初等教育の現場に活かせるよう、連携先の小学校を5校に拡大した。
著者
山下 英俊 寺西 俊一 大島 堅一 石田 信隆 寺林 暁良 山川 俊和 藤谷 岳 西林 勝吾 藤井 康平 浅井 美香 石倉 研
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

日本において、地域主体型の再生可能エネルギー事業を促進するために求められる政策を明らかにするため、全国の導入事例の中からコミュニティ・パワーの基準に該当する事業を抽出し、事業の意思決定、資金調達、利益配分などの実態を調査した。その結果、地元自治体との関係性が事業化の鍵となることが判明した。そこで、全国の基礎自治体を対象とした再生可能エネルギーに対する取り組みに関する実態調査を実施し、積極的に推進しようとしている自治体の特徴を明らかにした。特に、地域活性化の観点から太陽光発電以外の事業に取り組んでいる自治体の果たしうる役割は大きく、こうした自治体を支援する制度的枠組みの必要性が確認された。