著者
朴 祥美
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究は、「独特な日本文化」というような、日本文化を他国・他文化から切り離して捉える見方に挑戦し、日本文化政策史をトランスナショナルな文脈から再考する。一方で日本は、戦時期には欧州の文化政策の方法論を受容し、占領期にはアメリカの文化的浸透と競う中で、自国文化に対する自信を高揚させてきた。他方、高度成長期には、自らの文化政策の経験を解放後の韓国に教示してきた。本研究は、一見、一国にユニークな現象に見える「文化」というものが実は他国との関係から「政策」として形作られていくものであることを明らかにする。
著者
今西 貴之
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

Toll-like receptor(TLR)はマクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞上に発現し、病原体に特有の分子パターンを認識することにより、自然免疫系を活性化し、その後の抗原特異的な獲得免疫の活性化を誘導することが知られている。しかしながら、獲得免疫系のT細胞におけるTLRの役割は明らかになっていないため、その機能と分子機構を解明することを目的とした。まず初めに、ナイーブCD4+T細胞を種々のTLRリガンドで刺激したところ、活性化の誘導は認められなかったが、TLR3(Poly I:C)とTLR9(CpG-DNA)リガンド刺激による生存延長の誘導が認められた。さらに、T細胞受容体(TCR)とTLRの同時刺激により、TLR2(リポペプチド)、TLR3とTLR9リガンドに反応して、増殖や生存延長、IL-2の産生、c-Myc、Bcl-xLなどの遺伝子発現とNF-κBの活性化が相乗的に誘導された。そこでTLRの下流で必須の役割を果たすアダプター分子MyD88とTRIFを二重欠損したマウス由来のT細胞を用いて同様の実験を行ったところ、TCR+TLR2刺激によるT細胞の増殖とIL-2の産生の増強はMyD88/TRIF二重欠損T細胞で認められなかった。しかしながら、Poly I:CあるいはCpG-DNA刺激による生存延長の誘導とTCRとの共刺激による増殖とIL-2の産生増強はMyD88/TRIF二重欠損T細胞でも正常に認められた。以上の結果から、リポペプチド刺激によるT細胞の活性化の増強がTLR2を介して行われるのに対して、Poly I:CあるいはCpG-DNA刺激によるT細胞の生存延長の誘導と活性化の増強はTLR以外の受容体を介して行われることが示唆された。
著者
岩槻 幸雄
出版者
宮崎大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

この3年間で次の点が明らかとなった。全海洋域におけるタチウオ科タチウオ属魚類は,Trichiurus lepturusは、水産学上重要な魚種で、分類学的には多くの異論があったが、FAOのReviewにより全世界にNakamura and Parin(1993)によって1種とされた。その後も多くの異論がだされ、学名が混乱しているため国際間の漁業交渉では紛争の種となっている。申請者は、従来全く認知されていなかった小型類似種群タチウオ属魚類(全長700mm以下)の2新種を含む4種をまず幸晧し、従来知られる大型類似種群(全長1500mm上)には、形態学的に区別される10種を確認し、全海洋域におけるタチウオ科タチウオ属魚類の全種数と、その識別法および、正しい学名の検討を明らかにすることを務めた。初年度は,テンジクダチTrichiurus lepturusと同定されてきた標本を全世界の海域から生標本および固定標本を得るように全力を注ぎ、最も困難である西アフリカ、西部大西洋の生標本を手に入れることができたことにより、遺伝学的分析を行い、形態学的な違いと遺伝学的違いとが一致し、インド・西太平洋の種類と比較して、4種が遺伝学的にも強く別種である結果が得られた。その4種は以下の通りである。1,Trichiurus lepturus(western Atlantic type), 2,Trichiurus sp.2(yellow eye and yellow margin of dorsal fine membrane from Indo-Pacific), 3,Trichiurus japonicus(East Asian shelf type with long caudal fin), 4,Trichiurus sp.3(western African type with short pectoral fin)。
著者
清水 博幸 平栗 健史 木許 雅則 大田 健紘 進藤 卓也
出版者
日本工業大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

本研究は,雷撃時の衝撃波によるシイタケ発生のメカニズムの解明と栽培促進技術の向上を目的とし,第1段階「先行研究の再現性確認」と第2段階「衝撃波による効果とメカニズム解明」に分けて検討を進めている.これまでの実験結果から,シイタケ原木へ直接の雷撃印加をせずとも,シイタケ子実体の発生の促進効果がみられることを示している.これを踏まえ,シイタケ子実体の発生促進には,電界や電流ではなく,「音圧」が鍵となるとの仮説を立て,2019年度に,雷撃時に発生する音をサンプリングし,この音を高出力アンプとスピーカで発生させる音波システムの構築を行っている.2020年度は,音圧印加によるシイタケ子実体の増産効果を調査するため,この音波システムを用いた.スピーカと榾木の設置位置を調整し,それぞれ,115dB,110dB,100dB,90dBとなるように配してスピーカから雷撃音を印加し,音圧を印加しないの榾木と音圧印加した榾木(115dB,110dB,100dB,90dB)において,シイタケ子実体の発生量の比較を行った.その結果,実験条件で最も大きな音圧である115dBでは,無印加とほとんど変わらないシイタケ子実体の発生量であったのに対し,90から110dBでは順に発生量が増加する傾向がみられた.このことは,シイタケ子実体の発生に効果を及ぼす音圧レベルには,閾値が存在することを示唆している.2020年度の研究の成果としては,査読付き論文:採択1件,解説記事1件の発表を行っている.
著者
栗島 義明
出版者
明治大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

縄文時代中期に東日本地域に広域的に分布するヒスイ製品は当該期の広域的な交易存在の証拠とされてきた。糸魚川周辺で製作されたヒスイ製品は中部地方だけでなく、広く関東や東北地方にも広がっており、注視すべきは大型のヒスイ製品の出土は各地の拠点的集落にのみ限られていることにある。所謂、環状集落だけからヒスイ製品が検出されているのである。しかも注目すべき点は、ヒスイ製大珠が出土するのは集落内に作られた墓域内でも中心部に構築された墓に副葬されている場合が殆どである。ヒスイ製大珠は出土数や出土状況から判断して、集落のオサが所有し佩用したものだった可能性がたかい。
著者
棚橋 薫彦
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

1 クワガタムシ科における微生物共生関係の解明クワガタムシ科の共生酵母は,雌成虫の菌嚢を介して次世代に伝達され,幼虫が食べる木質バイオマスの消化に密接に関連していると考えられる.本研究では、日本産クワガタムシ科の約40種のうち一部の離島固有種を除いた計32種について,成虫の菌嚢または幼虫消化管に存在する共生酵母を解析・同定した.クワガタムシ科の共生酵母の大半はScheffersonyces属のキシロース醗酵性酵母であったが、特殊な生態を持ついくつかの希少種クワガタムシからは、これまでに知られていない全く新規の酵母群が発見された。また,酵母以外の微生物との共生についても新規の知見が得られた。例えば、フィリピンに生息するクーランネブトクワガタの成虫腸管からはツリガネムシ類に近縁な繊毛虫が見出された。陸上生物に繊毛虫が共生あるいは寄生する現象は大変珍しく、この発見については当年度内に論文化をおこない、Zoological Science誌に受理された。2 共生酵母の地理的分化と遺伝的多様性クワガタムシ共生酵母の大半を占めるScheffersomyces属酵母について、詳細な系統解析を行った。これまで酵母の系統解析に汎用されてきた26SリボソームRNA遺伝子やITS領域はScheffersomyces属内の変異が少なく,共生酵母とホスト昆虫の間の種特異性や,酵母の地理的分化などを調べるためには,これらに替わる新たな分子マーカーを開発する必要があった.そこで,日本産と韓国産のルリクワガタ属の共生酵母を対象として,東京大学および韓国の研究者と共同で,核リボソーム遺伝子のIGS領域における分子マーカーを開発し,その有用性について検討した.また、開発した分子マーカーを用いて、東アジアのルリクワガタ属共生酵母の遺伝的分化について調べた。これらの内容については論文査読中である。
著者
市原 耿民
出版者
北海道大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1997

植物病原菌由来の植物毒素類は病徴の発現に関わるばかりでなく、植物調節物質など多様な生理活性を示すことで注目されている。具体的にはバレイショ細胞の肥大や塊茎誘導活性を持つコロナチンやトマトの宿主特異的毒素であるAAL-毒素を対象にこれらの高効率合成法の開発を目的として以下の成果を上げた。コロナチンは牧草イタリアンライグラスかさ枯病菌の産生毒素で、他の数種の細菌病菌も同じ毒素を生産している。コロナチンの化学構造は分光学的データ、化学反応、合成、X-線構造解析などにより決定したが、インダノン骨格を有するコロナファシン酸とアミノ酸であるコロナミン酸がアミド結合した特異な化合物である。最近コロナチンは植物ホルモンとして認識されつつあるジャスモン酸との構造ならびに生理活性との類似性が指摘され、コロナチンの方が高い活性を示すことから、ジャスモン酸の関与する生理現象を解明するための最も重要なプローブ化合物と考えられる。応用面ではセイヨウイチイの植物体をコロナチン処理することにより、抗癌剤タキソ-ルの生産性向上に役立つことも明らかとなった。シクロペンテノンを出発物質として、柴崎らの開発した不斉マイケル反応により9段階、通算収率25%で光学純度98%以上のコロナファシン酸を得ることに成功した。コロナミン酸はRーリンゴ酸より環状サルフェートを経て通算収率30%で(+)-コロナミン酸を得ることが出来た。最後にコロナファシン酸とコロナミン酸を水溶性ジアルキルカルボジイミドを縮合剤としてアミド化し、保護基を除去して高収率でコロナチンを合成した。この合成法により幅広い生物活性試験が可能となった。
著者
橋本 健二 佐藤 香 片瀬 一男 武田 尚子 浅川 達人 石田 光規 津田 好美 コン アラン
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2015-04-01

市区町村および地域メッシュ単位の統計と質問紙調査の結果から、以下の諸点が明らかとなった。(1)1990年から2010年の間に東京圏の階級・階層構造は、旧中間階級とマニュアル労働者が大幅に減少し、新中間階級とサービス産業の下層労働者が増加するという2極化の傾向を強めた。(2)この変化は、都心部で新中間階級と高所得世帯が増加し、周辺部では非正規労働者と低所得世帯が増加するという空間的分極化を伴っていた。(3)しかし、都心の南西方向では新中間階級比率と所得水準が高く、北東方向では低いという、東西方向の分極化傾向は維持された。(4)空間的な分極化は住民の政治意識の分極化を伴っていた。
著者
山本 敏充 玉木 敬二 打樋 利英子 勝又 義直
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

ヒトY染色体上のDNAマーカーであるY-STRs (short tandem repeat)やY-SNPs (一塩基多型:single nucleotide polymorphisms)は、法医学で、同胞鑑定や性的事件などにおける男性由来の型を検出する目的として利用されつつある。アメリカ合衆国NISTが開発した10ローカス(DYS436、DYS439、DYS435、DYS19、DYS460、Y GATA H4、DYS391、DYS392、DYS438、DYS437)のY-STRをマルチプレックス法により型判定できるシステム(10-plex)及び市販のY-PLEX6キット(DYS393、DYS19、DYS389、DYS390、DYS391、DYS385)を用いて、日本人(名古屋207名、沖縄87名)及びタイ人(117名)について、共通な2ローカスを除く14ローカスのハプロタイプ解析を行った。また、非常に情報量が少ないDYS436をMinimal Databaseに含まれるDYS389Iに入れ換え、改良型の10-plexシステムを作製した。この改良型10-Plexによる14ローカスを用いて、父子関係が証明されている日本人の161組の父子DNA試料から型判定したところ、5例の突然変異が観察された。その内訳は、DYS389I、DYS439、Y-GATA-H4及びDYS389IIローカスで、1リピートの増加、DYS391ローカスで、1リピートの減少であった。このY-STR全体の突然変異率は、0.22%/ローカス/減数分裂(95%信頼区間0.09-0.51%)で、ヨーロッパ人とほぼ同じ値であることが示唆された。本研究での目的の一つである日本人におけるY染色体上のDNAマーカーの突然変異率を算定することは達成できた。
著者
伊藤 公紀 田中 博
出版者
横浜国立大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

最近見出した太陽風パラメータと地表気温および北極振動との相関を手がかりとして、太陽磁気活動-気候相関のミッシングリンクに迫ることを目指した。成層圏気温と太陽風パラメータの相関を生む原因として、成層圏オゾンデータを利用した太陽風粒子降着についての検討が可能と判断された。そこでオゾン量の全球グリッドデータを用い、太陽風との相関を調査し、太陽風粒子が電離圏で生成するNOが成層圏に運ばれ、オゾンを減少させることにより、成層圏の気温を変調するという機構を提案した。
著者
虫明 眞砂子
出版者
岡山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

合唱表現における合唱指揮の役割は重要であると思われるが,日本には欧米の音楽系大学の合唱指揮科のような合唱指揮者の養成機関が少なく,合唱指揮は,個々の指揮者の力量に委ねられている。合唱指揮者によって,合唱者の歌声や表現が大きく変化することに着目し,本研究では,「合唱指揮」が演奏にどのように影響を及ぼすのかを可視化装置による実験,合唱指揮者・合唱者へのアンケート調査や聞き取り調査等を用いて分析する。それらをもとに,合唱曲作者の意図を汲み取り,豊かな表現に結びつける,演奏者にとってわかりやすい,合唱指揮法を検討する。
著者
高橋 義人
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

戦後の日本におけるゲーテ受容について語るとき、最も重要なのは、『ファウスト』である。ゲーテの『ファウスト』の中核には悪魔との契約譚がある。したがって日本の作家が『ファウスト』文学を受容するときには、「悪魔との契約」という主題を日本の風土に馴染ませなければならない。ところがこれは決して容易なことではない。というのも日本人の多くは、「悪魔との契約」はもとより、悪魔の存在そのものを信じてはいないからだ。遠藤周作は小説『真昼の悪魔』(1980年)のなかで、日本人にとっての悪魔の間題に真正面から挑んだが、その試みは成功したとはいえない。これに対して三島由紀夫は「悪魔」ではなく「通り魔」のような「魔」を間題にし、より日本の現実に即した考察を行なった。しかもその「魔」の考察を三島はゲーテの『ファウスト』と結びつけ、三島の「わがファウスト」を書いた。それが彼の『禁色』と『卒塔婆小町』である。この2作品の中核をなすのは、美と醜の対立であり、メフィストには「醜」の役が与えられている。石川達三は『四十八歳の抵抗』において、ゲーテの『ファウスト』を下敷きにしながら、現代日本のサラリーマンの悲哀に満ちた生活をパロディ風に描き出した。ファウストのように人生をやり直そうと試みた主人公の試みは挫折せざるをえない。ファウストのように生きることは、現代の日本においては不可能だということを石川達三は示した。手塚治虫は生涯に3度、ゲーテの『ファウスト』を漫画化している。彼の諸作品の中心にあるテーマは、科学技術による地球環境の汚染であるが、このテーマは遺作の『ネオファウスト』に明瞭に表れる。ゲーテの『ファウスト』に出てくる人造人間ホムンクルスを手塚はクローン人間に置き換え、大量生産されたクローン人間による軍隊によって地球が壊滅する。『ネオファウスト』によって手塚は、漫画がどれほど強い時代批判力を持っているかを示すことに成功した。
著者
椎名 貴彦 志水 泰武 椎名 貴彦
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

ニワトリを始めとする鳥類は、空腹時であっても300mg/dl以上の高血糖を維持しているにもかかわらず、循環系、神経系の障害といった糖毒性が発生しない。本研究では、まず、鳥類の血糖値が高いことに関しては、積極的に高いレベルにコントロールしているのか否かについて検討した。ニワトリに血中グルコース負荷試験を行い、グルコース消失速度を調べたところ、上昇した血糖値は極めて速やかに投与前のレベルに回復することが判明した。このことは、充分な制御がかかった上で高血糖を維持していることを意味する。しかしながら、哺乳動物でインスリンの作用に不可欠な4型グルコース輸送体の存在が骨格筋および脂肪組織において検出することができなかった。また、インスリン刺激後に骨格筋におけるインスリン受容体の自己リン酸化やIRS1-4のチロシンリン酸化を調べたが、いずれも応答は認められなかった。従って、ニワトリの血糖降下機序が、哺乳動物とは本質的に異なることが示唆された。次に、哺乳動物の糖尿病時に糖毒性による障害を受ける血管系について、電気生理学的解析を行った。ニワトリ前腸間膜動脈縦走平滑筋は、ATPを神経伝達物質としたプリン作動性神経の強い支配を受けており、哺乳動物とは異なる非常にゆっくりとした脱分極反応が記録された。また、ニワトリ前腸間膜動脈輪走平滑筋については、プリン作動性神経と内皮細胞の相互作用によって、ゆっくりとした過分極反応が誘発されることが明らかになった。さらに、ニワトリの血管系の神経支配は、成長に伴って変化することも明らかにした。これらの結果は、ニワトリの血管系が哺乳動物とは異なる神経支配を受けていることを示唆している。このことは、ニワトリの血管系が糖毒性による障害を受けないことと考えあわせると、非常に興味深い知見と言える。
著者
木庭 顕 桑原 朝子 松原 健太郎 中林 真幸 山本 隆司 加毛 明 金子 敬明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

昨年度に予告したとおり本年度は公共団体の問題に活動を集中した。その集大成は3月にKinch HoekstraとLuca Ioriを迎えて行われた「ホッブズとトゥーキュディデス」に関する研究会であり、事実上の締めくくりとなるに相応しい濃厚な二日間であった。つまり古典古代と近代をまたぎ、また国際間の衝突もテーマであったから国家間の問題、近代国家共存体制外の地域の問題、をも視野に入れた。ホッブズはまさに枢要な交点である。そのポイントで、公共団体立ち上げの条件を探った。ゲスト二人の報告は或る雑誌に翻訳して発表の予定である。また、研究代表者自身、この研究会に至る中で同時並行して一本の論文をまとめ、『国家学会雑誌』に発表した。後者は、このプロジェクトが深くかかわってきた法人理論がホッブズにとって有した意義をも論ずるものである。また、ともに、自生的な団体と深く関係するメカニズムである互酬性を、そのメカニズムの極限的なフェイズをホッブズがいかに利用しつつ克服するか、を追跡した。こうした考えをホッブズはトゥーキュディデス読解を通じて獲得した。彼が同じく翻訳したホメーロスを含め、ギリシャの社会人類学的洞察をバネにしたことになる。こうした見通しは、本研究会が遂行してきた広い比較史的視野を有して初めて持つことが可能になる。その意味では、今回の成果は、公共団体をターゲットとしてきた本年度の活動のみならず、全期間の活動の凝縮点である。付言すれば、教育目的ながら野心的な内容を含む拙著『現代日本公法の基礎を問う』も同一の軌道を回る惑星である。
著者
宮地 泰士 杉原 玄一 中村 和彦 武井 教使 鈴木 勝昭 辻井 正次 藤田 知加子 宮地 泰士
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

自閉症の特徴の一つである「対人的相互作用の障害」は共感性の障害に基づくと考えられている。本研究では、自閉症の共感性の障害の神経基盤を探る目的で、機能的磁気共鳴画像(fMRI)により共感が惹起された時の前部帯状回の活動を計測し、自閉症との関連が指摘されているセロトニン・トランスポーター遺伝子多型との関連を検討する。平成21年度は、以下のように研究を進めた。平成20年度において選定した成人自閉症者5例、健常対照5例を対象に、他者の痛みを感じるような画像刺激を提示し、fMRIを撮像した。撮像プロトコルはTE=40msec,TR=3000msec,In-planere solution=3.1mm,スライス厚=7mm,ギャップ=0.7mm,18スライスとした。その結果、「身体的な痛み」、「心の痛み」のいずれを惹起する課題においても、活性化する脳領域に両群で有意な差はなかった。この結果には、例数の不足による検出力低下が影響していると考えられる。今後、さらに対象者を募る予定である。また、共感性の障害において前部帯状回と深く関係する脳部位の一つに海馬があるため、成人自閉症者の海馬における代謝物量を磁気共鳴スペクトル法により測定した。その結果、自閉症者の海馬ではクレアチン、コリン含有物が健常者に比べ増加しており、その増加は自閉症者の攻撃性と有意に正相関することを見出した(Int J Neuropsychopharmacol誌に公表)。
著者
寺田 小百合
出版者
山形大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2020-04-01

近年、強大音暴露による一過性聴覚障害後に、通常の聴力検査は正常であるにも関わらず、騒音下での聞き取りが著明に低下するhidden hearing lossという病態が注目されている。この原因として、これまで聴覚障害の原因とされていた有毛細胞の障害より先に、内有毛細胞と聴神経間のシナプスが障害されることが考えられており、このことから、今後は有毛細胞のみならず、聴神経の再生治療の開発が必要である。本研究では近年、自己の骨髄MSCの誘導を介して組織修復に働く蛋白として注目を集めているhigh-mobility group box 1を用いた聴神経再生による感音難聴治療の開発を目指す。
著者
谷村 弘 内山 和久 石本 喜和男 OCHIAI Minoru TUJI Takeshi IWAHASHI Makoto 岩橋 誠
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

炎症性腸疾患における食物繊維の意義は、いまだ未解決のままである。われわれは、その原因は、食物繊維の特性の違いを無視した検討がなされてきたためであると考える。そこで、特性のことなる2つの食物繊維(15%セルロースと10%フラクトオリゴ糖)と無繊維食、普通食をラット、デキストラン硫酸ナトリウム誘発潰瘍性大腸炎モデルに投与し、糞便中短鎖脂肪酸、腸内細菌叢、病理組織学的検討を行い、食物繊維の炎症予防効果、治癒促進効果について検討した。その結果、同じ食物繊維でもセルロースに代表される不溶性で、刺激性の強い食物繊維は、むしろ炎症を助長するが、フラクトオリゴ糖では、腸内細菌叢を早期に改善し、短鎖脂肪酸を増加させ、腸内環境をいちはやく改善し、炎症予防・治癒促進の両面の作用を有することが判明した。この理由としては、まず第一にフラクトオリゴ糖が水様性で、発酵性に富み、なかでもビフィズス菌に選択的に利用される特性からビフィズス菌優位の腸内細菌叢を作り出し、短鎖脂肪酸代謝を活性化するためであると考える。短鎖脂肪酸は、大腸粘膜細胞のエネルギー源であり、細胞回転率を高め、粘膜血流を増加させ、水分や電解質の吸収を調整し、腸管の蠕動運動を高める作用がある。このような作用が抗炎症的効果を産み出したものと考える。また臨床例においても、フラクトオリゴ糖10〜30g/日を投与した結果、腸内細菌の改善や短鎖脂肪酸の増加に有用であり、そのような症例では、便性の改善や臨床症状の改善が認めれ、新食物繊維としてのフラクトオリゴ糖の有用性が確認された。
著者
張 民芳
出版者
国立研究開発法人産業技術総合研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

カーボンやナノホーン(CNH)などのナノカーボンを使用した医療応用研究が盛んになっている。しかし、ナノカーボンは毒性が低いものの、肝臓や脾臓などの組織に集積され易いことが分かっている。実用化するには、ナノカーボンは組織内で分解、体外へ排出されなければならない。本研究では、CNHの生分解可能性を明らかにするため、CNHの近赤外光吸収特性を利用し、細胞内および生体組織内のCNHの量を測定する方法を開発した。この方法を用い、異なったサイズおよび表面修飾したCNHの生分解率を測定し、生分解可能なCNHの複合体を作製した。そして、細胞及び動物実験により作製したCNH複合体の分解性を確かめた。
著者
坪田 敏男 下鶴 倫人
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、なぜクマは体脂肪率30~40%の肥満状態でも脂肪肝や高脂血症を発症しないのか、その特徴的な体脂肪蓄積メカニズムを明らかにすることを目的に、秋田県北秋田市マタギの里阿仁クマ牧場において、ツキノワグマを用いて行われた。麻酔下で血中糖および脂肪濃度測定、静注糖負荷試験ならびに脂肪組織バイオプシー等の実験を行った。その結果、ツキノワグマにおける冬眠前時期の体脂肪蓄積の増大は、単に摂食量だけでなく、生理・代謝機構によっても調節されていることが明らかとなった。
著者
金田 眞理 望月 秀樹 前田 真一郎 小池・熊谷 牧子 中村 歩
出版者
大阪大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2022-06-30

結節性硬化症(TSC)はmTORC1(エムトールC1)の恒常的活性化で、全身に腫瘍やてんかんを発症する遺伝性疾患である。TSCの皮膚病変治療薬である、mTORC1阻害薬シロリムスの塗り薬を使用していた患者の中に、皮膚への少量塗布で血中シロリムス濃度の上昇なく、てんかんが改善する患者が現れた。そこでてんかんを有するTSCのモデルマウスで検討したところ、マウスでも同様の結果が得られた。皮膚塗布により、シロリムスが血液を介さずに、脳へ輸送された可能性が考えられた。本研究ではその機構の解明を行う。