著者
西川 輝昭
出版者
日本動物分類学会
雑誌
タクサ:日本動物分類学会誌 (ISSN:13422367)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.33-47, 2018-08-31 (Released:2018-08-31)
参考文献数
49

The history of the nomenclatural type concept and the principle of typification are outlined following examination of articles, recommendations and appendices in editions (and Japanese versions) of the International Code of Zoological Nomenclature (ICZN), the Règles Internationales de la Nomenclature zoologique, and the antecedent Stricklandian and Blanchard Codes. For family-group names, typification first appeared as a recommendation of the Stricklandian Code in 1843, subsequently becoming a criterion for availability following publication of the Blanchard Code in 1889. Typification of genus-group names also followed publication of the Stricklandian Code, being considered a criterion for availability since 1930. In species-group names, however, the explicit fixation of name-bearing types (holotypes and syntypes) has been included in the appendices of the Règles since 1913, being a recommendation in the first to third editions of the ICZN, and now (fourth edition), a criterion of availability of names published after 1999. Reasons are considered why the principle of typification was applied as a criterion for availability for species-group names far later than for family- and genus-group ones. The institution and development of public specimen registration systems in the UK and USA are also discussed.
著者
月村 太郎
出版者
JAPANESE POLITICAL SCIENCE ASSOCIATION
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.2_31-2_49, 2009 (Released:2013-02-07)

Ethnic Cleansing (EC) became a widely used expression during the Civil War in Bosnia in 1992-1995. But EC has a long history, and we can find examples of EC wherever violent conflicts happen on a large scale.   We may have various kinds of images regarding EC. For example, when we received information about EC in the case of Rwanda, we may have imagined a situation where “soldiers” carried out various atrocities, and ordinary people fanatically killed others. In the case of the Holocaust carried out by the Nazis, we may have quite a different image, for example that EC was dispassionately carried out under the direction of political or military leaders.   Why do we have such diverse images of EC? Firstly, EC is typically carried out by three different kinds of participants: (i)ethnonationalistic politicians, senior civil officials and military officers; (ii)individuals with lower status in the military, police, and paramilitary forces; (iii)ordinary people. Secondly, participants take part in EC for their own motive(s). Lastly, collective mentality has an influence upon the acts of participants.
著者
笠井 久会 荒井 克俊
出版者
北海道大学大学院水産科学研究院
雑誌
北海道大学水産科学研究彙報 (ISSN:24353353)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.113-118, 2020-12-23

The student handbook (Gakubu-Annai or Gakusei-Binran) is distributed to all the freshman students in Hokkaido University at the first guidance class. This book provides various instructions on daily student life as well as general information for academic programs given by different undergraduate schools or faculties. In the chapter related to the Department of Fishing Science (DFS), Faculty of Fisheries, precondition sentence, female students are not suitable for DFS or similar sentences, was continuously found in the student handbook from 1980 to 1992. Such a statement presumably gave negative influence on female students, when choosing the undergraduate program to study. Although two female students graduated the department of Food Science and Technology, Faculty of Fisheries, for the first time in 1953, female students who graduated DFS first appeared in 1978. They decided to study fishing science despite the influence of the statement. Here, we examined the relationship between descriptions in the student handbook and percentages of female students in undergraduate and graduate programs of the Faculty of Fisheries Sciences, Hokkaido University.
著者
今井 芳枝 雄西 智恵美 板東 孝枝
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.2_73-2_85, 2016-06-20 (Released:2017-01-27)
参考文献数
83

本研究の目的は「納得」の概念分析を行い,納得の定義を明確にし,納得を導く看護支援を検討することにある。研究方法はRodgersの概念分析を用いて「納得」の概念分析を実施した。その結果,対象文献74文献より,8つの属性,4つの先行要件,7つの帰結が抽出され,納得は『ある事象に対して自分のもつ価値や自分への利益を明確にすることで理解を深め,認知的にも感情的にも受容した状態であり,主体的かつ他者との信頼関係のなかで生み出される流動的な状態』と定義された。納得の概念は,利益,能動性,信頼関係の特徴があると考えられた。納得の概念分析より,治療を受ける患者に対して,主体性を尊重しながら,患者のもついままでの経験を踏まえつつかかわる重要性や,納得を支えるうえで,日々の看護師の行う日常生活援助が鍵となることが示唆された。
著者
高橋 学
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.504-517, 1996-07-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
32
被引用文献数
3 5

現在,地震の発生を予知することは困難な状況にある.しかしながら,土地の履歴を知ることにより地震の被害を予測することは不可能ではない.埋蔵文化財の発掘調査に際し,過去の災害と土地開発の様子を詳細に検討することは,防災計画を考えるうえで重要なデータをもたらす. 兵庫県南部地震による神戸周辺の被害状況を概観すると,高速道路や鉄道,それに駅舎などの大型建造物と,木造一戸建て住宅とでは被災した場所の土地条件が異なる.大型建造物の場合には,硬軟の地盤の境目で被害が大きい.他方,木造一戸建て住宅の被害は,微地形や埋没微地形に由来する表層部数メートルの堆積物の状況と関係が深い.原型をとどめないほど激しく破壊された家屋は,旧河道や埋没旧河道にあたる部分に多く存在した.また,木造一戸建ての倒壊による圧死者も旧河道や埋没旧河道に集中する傾向が強い.
著者
曽我 洋二 黒川 学 衣川 広美 内野 栄子 白井 千香 河上 靖登
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.269-276, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
16

目的 病原体サーベイランスが経口生ポリオワクチン接種後の便中ポリオウイルスの保有状況を知る一指標として有用であるかを検討し,その現状を分析すること。方法 神戸市における報告例:2000年 1 月 1 日から2010年 6 月30日の10年 6 か月間に,便検体よりポリオウイルスが検出された例を抽出し,接種からウイルス検出までの期間,年齢,性別について検討する。  全国における報告例:2000年 1 月 1 日から2010年12月31日の11年間に,全国感染症サーベイランスの病原体検出情報システムに登録された糞便検体からポリオウイルスの検出報告があった例を抽出し,検出されたウイルスの血清型,年齢,性別を分析し,年齢とポリオウイルスの血清型別の関連についてさらに検討する。結果 神戸市における報告例:10年 6 か月間に,31症例33件の便からのポリオウイルス検出があった。年齢は 2 歳以下が96.8%を占め,性別では,女性が54.8%を占めていた。ポリオウイルスの検出は,ワクチン集団接種期間中および,接種後 2 か月間に限られていた。  全国における報告例:11年間に,全国感染症サーベイランスシステムの病原体検出情報システムに,852件の報告があった。年齢は 2 歳以下が97.3%を占め,性別では女性が54.6%を占めていた。ポリオウイルスの血清型の分布を年齢別にみると 0 歳代の群では 1 型,2 型,3 型がそれぞれ33.2%,44.8%,22.0%,1 歳代の群では22.8%,27.6%,49.6%と 1 歳を境に排泄されるポリオウイルスの血清型の分布に違いがみられた。1 歳以上の群では 1 歳未満の群に比べ,便からの 3 型の検出が有意に高かった(オッズ比3.4,95%信頼区間2.5–4.6)。結論 神戸市および全国の病原体サーベイランスのデータは,経口生ポリオワクチン接種後の便中ウイルス検出に関する知見と矛盾していなかった。病原体サーベイランスは比較的幅広い対象から集積されていることから,その結果を地域における経口生ポリオワクチン接種後の便中ポリオ保有状況の間接的な指標として捉えることができる。生ワクチン接種者からの二次感染の現状を重く受け止めるべきであるとともに,将来の不活化ワクチン移行に向けサーベイランスの精度の向上等が期待される。
著者
後藤 雄二 Ralf Seidl 中川 格
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.77, no.10, pp.675-684, 2022-10-05 (Released:2022-10-05)
参考文献数
33

陽子は高エネルギーにおいて量子色力学(QCD)に基づきクォークとグルーオンから構成されると理解されているが,陽子のスピン量子数1/ 2をその構成要素から説明することは長年の課題である.陽子のもう一つの量子数である電荷+1は3つの価クォーク電荷の総和でうまく説明できるため,陽子のスピンも同様に価クォークのスピンが担うと思われた.実際に高エネルギー偏極レプトン散乱実験でクォーク・スピンの寄与を測定してみたところ,現在までにその寄与はせいぜい30%程度であることが判明している.これは「陽子スピンのパズル(謎)」と呼ばれ,高エネルギーQCD分野における未解決問題の一つである.では残りの70%はどこから来ているのだろうか? ここで浮上してきたのが,グルーオンのスピンである.陽子はクォークとグルーオンで構成されているから,クォーク・スピンで説明がつかない分はグルーオン・スピンの寄与で補われるのだろうと予想された.クォーク・スピンの寄与の特定に華々しい実績を残してきた高エネルギー偏極レプトン散乱実験だが,レプトンが散乱される際に交換される仮想光子は,陽子内のグルーオンと直接相互作用をしないため既存のレプトン散乱実験ではグルーオンに対する感度は余り高くない.そこで米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)では,世界で唯一の高エネルギー偏極陽子–陽子衝突型加速器を用いてグルーオン・スピンの寄与の測定に挑んだ.2001年から10年以上に及ぶ実験で,ようやくグルーオン・スピンの寄与はゼロではなく,おおよそクォーク・スピンの寄与ぐらいである証拠を掴んだ.まだその精度は十分と言えるほど高くないが,クォークとグルーオンのスピンの寄与を足し合わせても,陽子のスピン全てを説明することはできない可能性が出てきた.陽子の構成要素はクォークとグルーオン以外にないのだから,それらのスピンの寄与を足し合わせて陽子スピンにならなければおかしいのではないか? 何か見落としはないか?クォークとグルーオンは陽子という閉じられた空間内で運動をしているので,それらの軌道角運動量も陽子スピンに寄与できる.つまり陽子スピンには,クォークとグルーオンのスピンの寄与とそれらの軌道角運動量の和で与えられる「スピン和則」が成り立つ.軌道角運動量の測定を目的とした実験も既に多く存在するが,測定した観測量と軌道角運動量を関連付けるのは一筋縄ではいかないため,現時点では軌道角運動量の寄与はあまりよくわかっていない.しかし近年実験手法もより洗練され,理論の発展も著しく,軌道角運動量を特定する土台が急速に整備されつつある.陽子スピン1/ 2を構成要素から説明する研究は,陽子スピンに寄与しうるそれぞれの成分を一つ一つ高精度で測定し,最終的にスピン和則が満たされることを確かめるのがゴールである.そのためにはクォークとグルーオンのスピン,及び軌道角運動量の寄与をそれぞれ精密に測定しなければならない.スピンパズルは偏極陽子–陽子衝突実験で解決まであと一歩のところまで追い詰めた.この追求のバトンは,2030年頃にBNLで実験開始が予定されている世界初の電子–イオン衝突型加速器に引き継がれる.
著者
太田 英利 増永 元 佐藤 寛之 安川 雄一郎
出版者
日本爬虫両棲類学会
雑誌
爬虫両棲類学会報 (ISSN:13455826)
巻号頁・発行日
vol.2003, no.2, pp.78-87, 2003-09-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
32

A book entitled “A Photographic Guide; Amphibians and Reptiles in Japan” (coauthored by Ryu Uchiyama, Norio Maeda, Kenji Numata, and Shintaro Seki; ISBN4-582-54232-8; soft bind.; modified A 5 size; 336 pp.; 2800 JY exclusive of tax) was published in 2002 from Heibonsha, Tokyo. While showing with mostly attractive photographs all amphibian and reptile taxa known from Japan to the present (i. e., native Japanese taxa plus exotic taxa now having feral populations in Japan), the book also attempts in text to summarize up-to-date information regarding the diversity and natural history of Japanese herpetofauna. The first print, dated in colophon as 20 September 2002, however, has numerous errors of various categories, such as erroneous identifications of animals photographed, misleading statements regarding morphological and ecological features of taxa, and adoptions of obviously inappropriate classifications and scientific names. Many of these errors were corrected in the second version, which, despite its rather substantial changes from the original edition, was published simply as “the second print of the original edition” on 25 November of the same year (according to the date printed in its colophon). Obviously publication of this “second print” much preceded sellout of the first print, and surprisingly the first print was still in sell after publication of the second print despite its numerous errors. Such an attitude of the publisher should be severely criticized from an ethical point of view.
著者
大場 あや
出版者
「宗教と社会」学会
雑誌
宗教と社会 (ISSN:13424726)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.17-31, 2021-06-05 (Released:2023-06-24)
参考文献数
39

本論文は、戦後の新生活運動および生活改善を掲げた諸活動が、地域社会における冠婚葬祭の慣習にどのような影響を及ぼしたのか、山形県を事例に検討するものである。冠婚葬祭の簡素化は最も多く取り組まれ、重要視された項目にもかかわらず、ほとんど成果がなかったとされてきた。そこで実践報告・広報紙等を手掛かりに、最上町における運動の展開と冠婚葬祭をめぐる取り組みを精査した。当時盛り上がりを見せていたまちづくりの一環として町を挙げて着手されたものの、住民の立場や世代等による温度差が次第に浮き彫りとなり、儀礼の簡略化・贈答返礼慣行の「廃止」運動は行き詰まる。方向転換した住民らは衣装・用具・設備の「共同化」を進めるが、それは図らずも「外部化」へと繋がるきっかけとなる。1950年代、新生活運動の文脈において伝統的な冠婚葬祭が客体化されることで、高度経済成長期以降の専門業者普及による変容の前段的過程が用意されたと言える。
著者
佐々木 温子 西澤 美幸 佐野 あゆみ 佐藤 等 阪本 要一 池田 義雄
出版者
公益社団法人 日本人間ドック学会
雑誌
人間ドック (Ningen Dock) (ISSN:18801021)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.530-536, 2017 (Released:2017-12-22)
参考文献数
14
被引用文献数
1

目的:東京衛生病院の減量ステップアップ講座参加者に対して呼気アセトン濃度を測定し,減量の補助的指標としての有用性について検討した.方法:対象は2011年1月から2014年7月の期間中,東京衛生病院の減量講座(週1回,計6回)を受講した45名である.食事内容,体重変化,歩数,活動量を記録させ,毎回体重,体組成およびセンサガスクロSGEA-P1による呼気アセトン濃度を測定し,初日と最終日に血液生化学検査を施行した.結果:減量講座終了時には,行動変容の改善に伴い,肥満関連検査項目である身体計測値,血圧,糖・脂質代謝,肝機能の検査値の有意な改善がみられ,血中総ケトン体,呼気アセトン濃度は有意に増加した(血中総ケトン体:開始時73.6±59.2 μmol/L ,終了時240.5±193.8 μmol/L,p<0.001,呼気アセトン濃度:開始時529.2±150.8 ppb,終了時1,156.6±590.9 ppb,p<0.001).体重と体脂肪量は講座の回数を重ねるほど有意に減少し,呼気アセトン濃度は有意に増加し,特に5週目以降で著明な増加を示した.結論:減量経過において呼気アセトン濃度測定は脂肪燃焼を示唆する補助的指標として有用であると考えられた.
著者
石川 菜央
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.77, no.14, pp.957-976, 2004-12-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
84
被引用文献数
8 3

宇和島地方において闘牛が存続してきた要因を,担い手の生活や行動に注目して分析した結果,以下の3点が明らかになった.第1に,生業における牛の必要性が農民の娯楽としての闘牛を生み出した.ゆえに農業が機械化されると闘牛は消滅した.しかし第2の要因である観光化と担い手の組織化が,これを復活させた.宇和島市・南宇和郡の各組織が観光化と地域の状況に対応しながら大会を維持してきたことは,現在の共存関係につながっているといえる.組織を支える第3の要因として,担い手の中心である牛主や勢子,それを支えるヒイキなどが組織内で育まれていることが最も重要である.彼らは勝負の時だけではなく,牛の世話や飲食など日常生活を通して交流し,確固たる人間関係を築いており,そこから次の担い手が再生産されている.闘牛は伝統行事であると同時に,現在においても担い手の生活の核となり,新たな人間関係を生み出しているのである.
著者
稲田 竜太 井上 裕貴 安浦 優佳 出水 精次
出版者
一般社団法人 大阪府理学療法士会生涯学習センター
雑誌
総合理学療法学 (ISSN:24363871)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.25-33, 2022 (Released:2022-06-30)
参考文献数
30

【目的】膝前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament:以下,ACL)再建術後症例におけるSingle leg hop(以下,SLH)の性別・年代別の基準値を検討すること。【方法】ACL再建術を施行した687症例を対象とした。スポーツ復帰時のACL非損傷側(以下,健側)と再建側(以下,患側)のSLHの跳躍距離と身長で正規化した値(以下,身長比)を調査し,性別・年代別(10代 20代 30代 40代 50代)の平均値 ± 標準偏差をカルテより後ろ向きに調査した。また,男女別に年代毎のSLH基準値の違いも検討した。【結果】SLHの跳躍距離と身長比の健側および患側の性別・年代別の基準値が明らかとなった。年代別のSLH基準値は,男女ともに10代 20代で高値であり,30代 40代 50代にかけて小さくなる傾向にあった。【結論】SLHの性別・年代別基準値が明らかとなり,健患比評価が困難な両側ACL同時再建症例や反対側ACL損傷症例に対しての指標になると考える。
著者
鈴木 眞一
出版者
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会
雑誌
日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 (ISSN:21869545)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.17-22, 2022 (Released:2022-05-24)
参考文献数
18

2011年の東日本大震災に伴う原発事故後行われた甲状腺検診によって発見された甲状腺癌について臨床病理組織学的所見について解説した。平均年齢は17.8歳で性差は1:1.8であった。術前リンパ節転移陽性例は22.4%にもかかわらず術後は77.6%と増加しその大半が気管周囲リンパ節であった。術後の被膜外浸潤例が39%と高率であった。M1は2.4%であった。術式は全摘8.8%,片葉切除91.2%でありリンパ節郭清は全例に施行された。病理組織は98.4%が乳頭癌でその大半が古典型であった。また遺伝子変異では69%がBRAF変異で,再配列異常は少なかった。RET/PTC3や充実型亜型は少なくチェルノブイリとは全く異なる結果であった。以上より,福島での甲状腺癌はチェルノブイリとは大きく異なる一方,性差以外では通常の臨床で扱われていた小児甲状腺癌と差は認めなかった。
著者
渡辺 茂
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3+4, pp.109-117, 2017 (Released:2018-04-12)
参考文献数
16

【要旨】本稿では動物における共感とはどのようなものであるかを述べ、特に共通経験の役割を論ずる。他個体の嫌悪の表出は観察個体に、いわば生得的に負の情動を起こす。しかし、観察個体にも同じ嫌悪経験がある場合にはその共感が増強される。薬物で誘導される快感でも他個体が一緒に薬物投与を受けると薬物強化効果の社会的促進が見られる。しかし、拘束ストレスなどでは他個体と一緒に拘束されるとストレスは減弱する。つまり、この場合、共通経験は抗ストレス作用を持つ。動物でもヒトと同様に、自分が他者と比べて不公平に不利益な状態に置かれると不公平嫌悪が見られる。しかし、自分が不公平に利益のある状態では嫌悪が弱いか、全く見られない。このことは嫌悪的な事態(拘束など)でも、好ましい事態(摂食など)でも見られる。これらのことは、動物の情動状態が自分の状態そのものより他個体の状態との比較に依存することを示唆する。
著者
高野 祐一 宮代 隆平
出版者
一般社団法人 日本統計学会
雑誌
日本統計学会誌 (ISSN:03895602)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.343-362, 2021-03-05 (Released:2021-03-05)
参考文献数
57

回帰モデルの変数選択は,統計分野で古くから重要な課題として認識されており,扱うデータ量の増大を背景として,近年はデータマイニングや機械学習などの分野でも盛んに研究されている.この変数選択問題に対して,数理最適化問題として定式化し分枝限定法を用いて求解する,混合整数最適化によるアプローチが新たな注目を集めている.混合整数最適化の最大の利点は,目的関数として設定した回帰モデルの評価指標に関して,最良の変数集合を選択できることにある.筆者らはMallowsのCp規準,自由度調整済決定係数,情報量規準,交差確認規準などの各種の統計規準に基づいて,線形回帰モデルの選択変数の集合と基数を同時に最適化する定式化を考案してきた.本論文では,線形回帰モデルの最良変数選択問題に対する,混合整数最適化による各種の定式化を解説する.