著者
坂東 昌子 和田 隆宏 真鍋 勇一郎 角山 雄一 中尾 麻伊香 尾上 洋介
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

社会調査G:アンケート項目を作成し、491人の放射線の研究者(10の学会、6のML)にアンケートを実施し、結果の分析を行った。その結果、交流人数が多い人は放射能汚染のリスクを低く評価していることが認められた。交絡因子によるものかどうかを精査することによって、これらの関係がより明確になるが、これはH30年度実施予定の項目を改善し、大規模で実施するアンケートで確かめていきたい。また、異分野交流の人数が多い人は放射線に関する知識量も多い傾向がみられた。参与観察G:環境科学研究所、ノースウエスタン大学に赴き、研究所(室)の概要についてのインタビューを実施した。また分野を横断する試みを行っている研究会(iCEM リトリート研究会等)に参加し、分野横断の試みについて調査した。歴史研究G:分野横断研究を行った研究者(和田昭允・永宮正治・安斎育郎))のインタビュー調査を行い、文章化し、推敲を行い、発表できる目処が立った。

4 0 0 0 OA 核生成

著者
木村 勇気 川野 潤 田中 今日子
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

核生成は物質形成の始まりであり、物理的、化学的なメカニズムの解明は多分野にまたがる非常に重要な課題である。本研究では、1)気相からの核生成実験、2)計算機シミュレーション、3)核生成の透過電子顕微鏡(TEM)中その場観察実験の3つのアプローチを行うことで、核生成と前駆体のかかわりを直接的に示すことを目的としている。本年度は、それぞれに関して、以下に記す実績が得られた。1)気相からナノ粒子が生成する場合であっても、初めに生成したクラスターが成長ユニットとなり、方位をそろえて接合しながら成長することで、最終生成物が形成することが分かった。結晶成長分野で最近注目されている多段階核生成の解明に迫る成果であり、論文としてまとめてNanoscaleに報告した。2)昨年成功した、最大1500万の希ガス分子(Lennard-Jones分子)を用いた長い待ち時間の計算による、気相から過冷却液滴への核生成と液滴からの結晶化という多段階核生成過程の再現をまとめ、Physical Review Eに報告した。3)コンクリートの劣化を防ぐ為に使われるシリカ粒子と水酸化カルシウム溶液を用いて単純化したコンクリート化の初期過程のTEM中その場観察実験を行った。その結果、まずシリカ粒子の膨潤によってコンクリート内の細孔が埋められていき、その後、カルシウムケイ酸塩水和物が形成して粒子同士をつないでいくことで固化が進むプロセスを捉えた。わずか0.03 nm/秒というシリカ粒子が膨潤する典型的な速度の実測にも成功した。溶液セルを用いたTEMその場観察実験により、他の手法では殆ど不可能である個々のナノ粒子の水和による膨潤や溶解、成長の微小な速度を求めることが可能になった。本成果を論文としてまとめ、Industrial & Engineering Chemistry Researchに報告した。
著者
小湊 卓夫 嶌田 敏行 淺野 茂 大野 賢一 佐藤 仁 関 隆宏
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

大学における教育では目標設定型の教育が求められている。そこにおいて重要なのは設定された目標に基づいて、どのように評価を行うのかである。そして教学マネジメントにおいては、それを全学的にどのように進めていくのかが課題であるが、米国でのInstitutional Effectivenessを参考に、定期的なプログラムレヴューとそれに基づいた改善計画を提出させる仕組みの構築が重要であることが分かった。
著者
中村 覚
出版者
東京大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究の目的は、オンライン上で複数のユーザが共同で史料を翻刻可能なシステムを開発することである。特に、IIIFやTEI等の国際標準規格に準拠することにより、汎用的・国際的に利用可能なシステムの構築を目指す。具体的には、IIIF準拠の画像を入力データとして、IIIF準拠で公開されている様々な史料を翻刻対象として登録可能とする。また、システムに登録されたテキストデータをTEI準拠の形式でエクスポートする機能を提供し、テキストデータの長期保存およびシステムに依存しない多様な利活用を支援する。さらに、東京大学柏図書館が所蔵する『平賀譲文書』を対象とした翻刻作業を実施し、システムの利用可能性を示す。
著者
三谷 博 深町 英夫 後藤 はる美 酒井 啓子 塩出 浩之 池田 嘉郎 平 正人
出版者
公益財団法人東洋文庫
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2019-04-01

この研究は近代に起きた6つの革命を公論と暴力の関係に着目しつつ比較する。取り上げるのはイギリス・フランス・日本・中国・ロシア・中東の革命で、日本と外国の専門家が互いに緊密な議論を行い、最後は英文論文集を刊行する。革命では公論と暴力が同時に誕生するが、暴力が蔓延する条件を探るのが第1の問題である。また、革命の終わりには暴力が排除されるが、その後、公論が維持されて自由な体制が生まれるのか、公論まで排除されて専制体制が生ずるのか、その分岐要因の解明が第2の課題である。さらに、諸革命がどんな連鎖関係に立っていたのか、アジアなど後発革命の側から先行革命の利用の様子を明らかにする。
著者
劉 康志
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究は、ロバスト性能設計問題の最終解決を目標に研究を進めた結果、以下の研究成果を収めることができた。1.正実型の不確かさを有するシステムに対するロバスト性能設計理論を確立した。2.虚負型の不確かさを有するシステムに対するロバスト性能設計理論を確立した。3.不確かさの正実性、虚負性といった位相性質に加え、不確かさのゲイン情報も活用できるロバスト性能設計理論を確立した。4.実システムに応用した結果、不確かさのゲイン情報のみを利用する従来のロバスト制御理論より、ロバスト性能を格段に向上できた。本研究成果は、ロバスト制御理論を大きく前進させ、産業システムの高性能化に高く貢献できた。
著者
児島 将康 佐藤 貴弘 松石 豊治郎 岡本 伸彦 永井 敏郎 西 芳寛
出版者
久留米大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

本年はグレリンの遺伝子発現調節機構について研究を行った。グレリンの発現・分泌調節はグレリンの生理作用を調節する上で非常に重要であるが、グレリンの発現・分泌を調節する因子としては、現在のところ空腹シグナルしか知られていない。そこでグレリンの遺伝子発現調節に関与する因子を探索するために、ヒトグレリン・プロモーターシークエンスをルシフェラーゼ発現ベクターに組み込んだレポーターベクターを作成し、グレリン遺伝子発現を調節する転写因子の研究に取り組んだ。グレリン・プロモーター配列において、これまでに明らかでなかったグレリン遺伝子発現の抑制領域を見出した。グレリン・プロモーターの-1600領域付近まで削ったベクターでは、プロモーター活性が低下した。またコンピューターサーチによってグレリン遺伝子のプロモーター領域に結合する転写因子の候補を探索し、その中で入手できたものについて、プロモーター活性に及ぼす影響を調べた。その結果、グレリン遺伝子のプロモーター活性を調節する転写因子として、抑制性のNF-kBと促進性のNkx2.2が関与していることを見出した。グレリン遺伝子のプロモーター領域に抑制性の領域を見出した。この結果グレリン遺伝子は正負のバランスによって発現調節が行われていると考えられた。またリポポリサッカライド(LPS)投与によって敗血症性ショックに陥るが、このとき血中グレリン濃度の減少が見られる。LPS投与によってToll-like4受容体が活性化され、引き続いてNF-kBが活性化される。NF-kBによってグレリン遺伝子のプロモーター活性が抑制されることから、LPS投与による血中グレリン濃度の減少にはNF-kBが関与している可能性が強いと考えられた。
著者
大戸 茂弘
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2017-06-30

野生型WTマウスまたはDrug A受容体KOマウスを行動解析装置に7日間飼育した後、明期を8時間前進させ明暗周期サイクルの変化に対する行動シフトに及ぼすDrug A受容体欠損の影響を検討した。Drug A受容体欠損マウスでは、明暗周期変動に対する行動リズム変化が野生型と比較し遅延していた。両マウスを行動解析装置に7日間飼育した後、明期を8時間前進させ、その後、恒暗条件下で飼育した際の行動の変化に及ぼすDrug A受容体欠損の影響を検討した。Drug A受容体欠損マウスでは、恒暗条件下の行動リズム周期が野生型と比較し長いことからSCNに存在する時計遺伝子の発現リズムに何らかの機能的変化が生じていると考えられる。両マウスSCNの時計遺伝子をIn situ hybridization法を用い測定した結果、時計遺伝子のCry1の発現リズムが変容していた。両マウスを行動解析装置に7日間飼育した後に、常に照明をOFFにした恒暗条件下で飼育した自律的行動リズムの位相と周期に及ぼすDrug A点眼時刻の影響を検討した。両マウスにDrug AをCT14に点眼し、自律的行動リズムに及ぼす影響を確認した結果、WTマウス行動リズムはDrug AのCT14点眼により位相が後退したが、Drug A受容体KOマウスにおいてはその効果は認められなかった。恒暗条件下の行動リズムに及ぼすDrug A点眼により行動リズムの周期が変容したことから、時計中枢SCNの時計遺伝子Per1、Per2発現量に及ぼすDrug Aの影響を検討した。野生型ではDrug A点眼後にSCNのPer1、Per2の発現量が変容したが、Drug A受容体KOマウスでは影響しなかった。恒暗条件下飼育マウスに光を照射する条件またはDrug A点眼後に光照射を併用する条件下、SCNの時計遺伝子発現量に及ぼすDrug A受容体ノックアウトの影響を検討した。野生型マウスでは発現量が変化していたが、Drug A受容体KOマウスでは顕著でなかった。
著者
黒田 航 阿部 慶賀
出版者
杏林大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

H29年度は予備実験を次の要領で実施した.1. 刺激文: 33種類の原典とそれらの変異版を合わせて合計200種種類の刺激文を作成し,それら無作為に20文のセットに10分割し,それぞれのセットには提示順序を無作為化したA, B, C, D版を用意した.33の原典文の作成では,次の4種類の構文パターンP1, P2, P3, P4 と次の11種類の動詞を使った: P1: _-が _-で _-に _-と V-(し)た,P2: _-が _-で _-に _-を V-(し)た,P3: _-が _-で _-を _-に V-(し)た,P4: _-が _-で _-から _-を V-(し)た; V22. 行く,V26. 知る,V40. 教える,V44. 感じる,V131. 探す,V116. 答える,V326. 黙る,V338. 負ける,V377. 伝わる,V1147. 知り+合う,V1197. 感染+する.2. 実験: 東京,岐阜,福岡の三ヶ所で,合計251名の被験者から反応を取得した (東京で93名,岐阜で109名,福岡で49名).その逸脱反応の除去により,有効反応数は216名分となった.容認度評定と同時に次の評定者の社会的属性10個を入手した: A1. 年齢 [数値],A2. 性別 [男/女/その他],A3. 生誕地 [県名のコード],A4. 母語が日本語かどうか [はい/いいえ],A5. 一年より長く国外に住んだ事があるか [はい/いいえ],A6. これまでに学んだ異国語の数 [数値],A7. 異国語を学んだ延べ年数 [数値],A8. 日本語を話さない人と頻繁に接触するか [はい/いいえ/わからない],A9. 1ヵ月に読む本の数 [数値],A10. 教育を受けた年数 [数値].3. 解析結果の報告: 上のデータの解析結果を言語処理学会第24回年次大会で発表した.
著者
志水 紀代子 山下 英愛
出版者
追手門学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

アーレントの「世界愛」をヒントに、東北アジア地域に平和をもたらす「和解」の具体的な条件を探ろうとしてきたが、最終的に、「慰安婦」問題の真の解決に向けて、「国民基金」設立によって分断され、対立してきた支援運動関係者が、対等に議論する場を構築することが出来て、新たな一歩を踏み出した。
著者
谷口 真由美
出版者
大阪国際大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

日本の少子化が進行している背景の一つには、「リプロダクティブ・ライツ」が保障されていないことが挙げられる。また、何故それが保障されていないのかといえば、「リプロダクティブ・セキュリティ(性と生殖の安全保障)」が確保されていないからであると考える。女性やカップルは、子どもを「産まない」という理由だけではなく、「産めない」(産みたいのに産めない・産んでも育てられない)という事情がある。安心して産める・生んで育てられる社会とはどのような社会なのか。リプロダクティブ・ライツやリプロダクティブ・セキュリティの観点から明らかにする。
著者
青井 未帆
出版者
学習院大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、私が現在取り組んでいる研究であるところの、「司法権の憲法保障機能」に関する研究の一部をなすものである。本研究が目的とした次の二点、(1)憲法判断の客観的性質の主張論証と、(2)憲法判断の、具体的な事件からの独立性の主張立証につき、予定通りのスケジュールにて、予期された結論に達しえた。成果は論点ごとに公表したが、目下、全体をモノグラフにまとめるべく準備中である。また、本研究期間中に複数の訴訟案件で相談を受け、何点か意見書を執筆する機会をもった。これによって、当研究の副題「市民感覚を反映する」へ、実務的な観点からも示唆を得た。
著者
栃内 新
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

同じ個体が有性生殖と単為生殖を使い分けるミジンコの単為生殖過程では、'減数しない減数分裂'により2倍体となった卵が発生を開始することがわかった。卵巣では、成熟卵が第1減数分裂中期で受精を待ち、精子の侵入がないまま排卵されると分裂を途中で停止し並び直した染色体が次の分裂を行い、単為発生する。一方、受精が起こると減数分裂が進行し、卵核と精子が融合して2倍体となって発生するという仮説を立て、検証中である。
著者
小林 真二
出版者
北海道教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究では、亀井勝一郎が最も函館らしい作家として名を挙げた3名の作家、長谷川海太郎(筆名・牧逸馬、谷譲次、林不忘)、久生十蘭、水谷準の文学の背景をなす大正期函館モダニズム文化について調査・研究を行い、長谷川海太郎が函館中学校時代の先輩グループ、宣教師、家庭教師などとの文化的ネットワークの中で文学・思想・渡米意志などを育んだことや、阿部回漕店に生まれた久生十蘭が海運都市・函館を背景に「船」「ロシア」「海難」などのモチーフを文学に活かしたこと、そうした二人の先輩に導かれて水谷準が文学者として成熟していったことなどを明らかにすると共に、従来埋もれてきた彼等の新資料を多数発見することができた。
著者
柳澤 修
出版者
上武大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

【目的】野球の指導現場では,投手の球速を向上させるために,下肢機能の強化を目的としたトレーニングが頻繁に行われている.しかしながら,上肢に比して投手の下肢機能に関する報告は少なく,球速との関連性は十分に明らかにされていないのが現状である.そこで,本研究は投手の下肢機能と球速の関連性を明らかにすることを目的とした.【方法】大学生の上手投げ投手15名を対象とした.投手の下肢体力項目として,等尺性股関節筋力(内転・外転・内旋・外旋),他動的股関節可動域(内転・外転・内旋・外旋),ジャンプ能力(腕振りなしスクワットジャンプ;跳躍高,ピークパワー),そして片脚バランス能力(Y-バランステスト)を測定した.加えて,スピードガンを用いて,直球の最高球速を計測した.ピアソンの相関係数を用いて,上記の体力要素と球速の関連性を評価した.なお,有意水準は5%未満とした.【結果】最高球速(136.1±4. 5 km/h)は,軸脚の股関節外転(r = .60,p<0.05),内転(r = .59,p<0.05)筋力と踏み込み脚の股関節外転(r = .68,p<0.01),内転(r = .63,p<0.05),外旋(r = .58,p<0.05)筋力と有意な正の相関関係を示した.しかしその一方で,軸脚および踏み込み脚の股関節可動域と片脚バランス能力は,最高球速と有意な相関関係を示さなかった.また,ジャンプ能力(跳躍高とピークパワー)と最高球速の間にも有意な関連性は認められなかった.【結論】本研究の結果から,投手の両脚の股関節筋力が球速と密接な関係にあることが示唆された.
著者
橋本 雄
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の課題は、室町期の日本がどのように東・東南アジアの異文化を摂取したかを究明することにある。対外関係史はもっぱら接触交流面に注目してきたが、そこで行き交う文物や思想がどこにどのように辿り着くのか、そこまで見通すことを目指している。というのも、ある外来の文物が日本に移入・翻訳され、既存の日本文化と融合していく様が分かれば、当時の価値観や世界観が却って浮き彫りとなるからである。具体的には、(1)貴金属の生産・贈与・流通、(2)禅宗の理念と足利家肖像との関係、(3)鉄炮伝来の契機や時期、(4)画僧雪舟の入明の史的評価など、様々な文化現象に着目し、もって政治社会史を豊かにするように努めてきた。
著者
齋藤 久美子
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

壁塗り用石膏に関して、前年まで研究で、当時石膏焼きの際、過焼成によりプラスターに無水石膏が混入していた可能性を指摘したが、これが現在までに二水石膏部分をも無水化させた原因ではないかと考え、半水石膏と、半水石膏と無水石膏の混合物をそれぞれ水和させ、変化を観察した。1年半にわたり湿度30〜40%の状態に置き、定期的に石膏の脱水の有無を調べたが、両者とも脱水は見られなかった。さらに、温度など壁画が置かれていた環境も検討し、長期的な観察を行う必要がある。顔料については、壁画には銅を発色源とするエジプシャン・ブルー、土器の彩色にはコバルトを発色源とするコバルト・ブルーという使い分けが行われていた理由を実験により検証した。分析結果に基づき合成したエジプシャン・ブルーと、出土したエジプシャン・ブルーの塗られた壁画片を、土器を焼く温度で輝いてみたところ、ともに黒く変色した。エジプシャン・ブルーは熱に弱く土器には使えなかったものと考えられる。コバルトブルーの製法については、同じくコバルトを使用していたガラスの製法、及びコバルト・ブルーより二千年以上前から作られていたエジプシャン・ブルーの製法と比較してみた。成分分析の結果、ガラスに比べて、コバルト・ブルーには多量のアルミナが含まれていた。分析結果に基づいて合成実験を行ったところ、アルミナが多いと融解温度が高くなるため、当時ガラスが作られていた温度ではガラス化が困難であり、ガラス製法そのままではコバルト・ブルーは作れないことがわかった。また、エジプシャン・ブルーともガラス質部分の配合が異なり、伝統的な顔料製法を用い、新たに導入された原料であるコバルトを単に銅に置き換えただけではないことが判明した。当時の技術体系の複雑さが伺える。顔料に関する実験の成果の一部を、6月に行われた日本西アジア考古学会第10回大会で発表した。
著者
宗原 弘幸
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

行動観察、受精生理および遺伝学的手法により、本課題を遂行した。その結果、ヨコスジカジカは産卵後に雄が卵に放精する、非交尾種であることが判明した。しかし、精子の運動活性は海水中よりも体液と等張でNa^+存在下で最も高く、特に卵巣腔液中では極めて長期間活動する。媒精、受精は産卵時に放出される卵巣腔液中であることから、非交尾カジカはすでに交尾への準備が進んでいることが示唆された。また、卵巣腔液中で受精可能な点は体内配偶子会合型の交尾種と相違した。その要因は卵巣腔液中のCa^<++>濃度の違いで、カジカ類では交尾習性の進化の際に、卵巣腔液中のCa^<++>濃度を下げる生理的メカニズムの変化があったことが示唆された。卵巣腔液の役割として精子の貯留や活性保持の他に、ケムシカジカでは交尾の際の精子受け渡しの媒介となることが水槽内観察より明らかになった。本種の交尾行動は、一連の求愛儀式を経た後、雌の生殖口から管が出され、さらにそこからゼリー状卵巣腔液が放出され、そのゼリーの向かって放精されるというもので、精子が絡みついてゼリーの一部が再び雌の卵巣内に収納されることで交尾が完了する。ペニスがないカジカも交尾をするという、本行動観察結果は、カジカ科魚類にはかなり交尾をする種がいることを示唆した。交尾行動は繁殖生態の上で、父性のあいまいさをもたらす。特に雄が卵を守るニジカジカの場合、重要な問題である。そこでDNAフィンガープリントで、保護雄と卵の父性およびいつ交尾した雄が有利かを調べた。その結果、繁殖期の終期では雄と卵には父性がないこと、および最初に交尾した雄は多くの子を残せることが分かった。本研究結果は、卵の保護は雄にとって直接的な利益が無いことが示され、卵保護の進化に父性の信頼性は必ずしも平行しないこと場合があることが分かった。最後に、配偶子会合型、交尾種の地理的出現を調査する準備段階として、アラスカ産のカジカ類の繁殖期を把握する目的で、キナイ半島リサレクション湾の仔稚魚サンプルを調べ、春季に10種のカジカ科魚類が出現することが分かった。
著者
吉田 弥生 細井 尚子
出版者
文京学院短期大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2011

ともに日本で生まれた音楽劇である歌舞伎と宝塚歌劇の影響関係を作品分析を通じて考察し、日本演劇史の一水脈の視点をもって考察した。演者のジェンダー、座付作者の存在、スターシステムの在り方など、相反しながらも共通性をもち、劇場提供、技術提供などの面で密なる関係性も持つ百年であったことが具体的に解き明かすことが出来た。さらには近代における日本演劇に置いて、東アジア演劇世界における位置も確認出来た。