著者
田中 淡 周 達生 宮本 長二郎 上野 邦一 浅川 滋男 郭 湖生 楊 昌鳴
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.223-239, 1990 (Released:2018-05-01)

東アジアから東南アジアにかけて集中的に分布する高床住居は,主として近年の発掘成果により,新石器時代の華南にその起源を求められつつある。そして,最近の研究によれば,先奏時代の華南に蟠踞した百越という1群の南方系諸民族が,初期における高床住居の担い手であった。本研究の対象となる貴州のトン族は,この百越の一地方集団であった駱越の末裔と考えられている。たしかにトン族は,雲南のタイ族や海南島のリー族とともに,高床住居を保有する代表的な民族であるが,これまでその高床住居に関する研究はほとんどされていない。したがって,百越の末裔たるトン族の高床住居を研究対象にすること自体に大きな意味があるといえるだろう。しかし,問題はそれだけではない。調査対象地である黔東南苗族とう族自治州には,トン族以外にもミャオ族,プイ族,スイ族,漢族など多数の民族が居住しているからだ。われわれの研究がめざすもう1つの目標は,このような多民族地域における文化の重層性と固有性を,住居という物質文化を媒介にして解明することである。これは,文化人類学における「文化の受容とエスニシティの維持」というテーマに直結する,重要な問題といえるだろう。今年度の調査は,次年度以降,継続的になされるであろう集中的な調査の予備的役割を担うものであり,自治州を広域的に踏査し,できうるかぎり多くの家屋を観察・実測することに主眼をおいた。その結果,トン族,ミヤオ族,プイ族,漢族の家屋を,合わせて50棟実測することができた。本稿では,以上の諸例を民族別・類型別に報告するとともに,民族相互の比較から,平面と架構について,トン族本来の形式と漢文化受容以後の形式の差異を論じ,また住居に現れた「漢化」の諸側面についても指摘している。来年度以隆は,調査対象を1か所に限定し,住み込みによる集中的な調査を行なう予想である。
著者
田中 淡 周 達生 宮本 長二郎 上野 邦一 浅川 滋男 島田 敏男 羅 徳啓 黄 才貴 郭 湖生 楊 昌鳴
出版者
一般財団法人 住総研
雑誌
住宅総合研究財団研究年報 (ISSN:09161864)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.405-420, 1992 (Released:2018-05-01)

88年度に行なった貴州省黔東南苗族トン族自治州での広域的な調査をふまえ,90年度には対象村落を1か所に限定して,トン族の集落に関する集中的調査を行なった。(天安門事件の影響で調査・研究のプログラムが丸1年延期された)。調査地は,第2次調査で最も斬新な知見をもたらした巨洞と同じ都柳江沿岸に位置する蘇洞上寨(住居散35・世帯数44・人口218)である。蘇洞は,従江県下江区の中心地である下江鎮に近接するため,巨洞などの僻地集落に比べるといくぶん漢化の様相が著しい。しかし,漢化もまた,トン族の文化を理解するうえでの重要なキーワードである。調査は建築班2班と民族学班1班に分かれ,建築班は集落内の主要家屋全戸の平面・断面の実測,民族学班は全世帯の家族構成・血縁および婚姻関係の把握を最低のノルマとし,余裕ができた段階で,村大工からの聞き取り,部材呼称の音声表記,通過儀礼・祭祀・禁忌に関する聞き取り,スケッチ・マップ調査などを相互協力のもとに進めた。本稿では,とくに龍脈に統制された集落の空間構造と,住居の平面・構造に映し出された漢化の様相に焦点をしぼって,蘇洞の住空間を素描してみた。
著者
冨山 誠彦 今 智矢 船水 章央 上野 達哉 羽賀 理恵 西嶌 春生 新井 陽 鈴木 千恵子 布村 仁一 馬場 正之
出版者
日本神経治療学会
雑誌
神経治療学 (ISSN:09168443)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.642-645, 2017 (Released:2017-04-30)
参考文献数
10

Istradefyllineはウエアリング・オフのあるParkinson病患者の運動症状を改善する.しかし実臨床ではistradefyllineが有効でないこともしばしばあり,どのような患者にistradefyllineが有用なのか迷うことも多い.そこでウエアリング・オフがあり,オン時の運動症状が軽度なParkinson病患者(オン時のUPDRSパートIIIスコアが15点以下)を対象にistradefylline 20mg/日の有効性をオープンラベル試験にて評価した.14例の患者が8週間の試験を終了できた.Istradefyllineの追加投与により,オン時のUPDRSパートIIIスコアが有意に低下し,オフ時間が有意に短縮した.そのうちの13例は試験終了時にParkinson病症状の改善を自覚しており,istradefyllineの内服継続を希望した.ウエアリング・オフがあり,オン時の運動症状が軽度でドパ反応性が保たれている患者でのistradefyllineの有用性が示唆された.
著者
赤川 優美 上野 晃弘 池田 淳司 石井 亘 宍戸-原 由紀子 関島 良樹
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.324-331, 2018 (Released:2018-05-25)
参考文献数
27
被引用文献数
4 5

症例1は59歳女性.特発性好酸球増多症に対しプレドニゾロンを内服中.脳MRI病変に軽度の造影効果が認められ,炎症の存在が示唆された.症例2は30歳女性.全身性エリテマトーデスに対し免疫治療中.脳生検が実施され,CD4およびCD8陽性細胞の均衡がとれたリンパ球浸潤を認めた.両症例とも神経症状発症早期に進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy; PML)と診断し,メフロキン,ミルタザピン,リスペリドンによる治療を行った.症例1は発症から24ヶ月,症例2は45ヶ月経過しているが,症状改善し生存している.PMLの予後は不良とされているが,JCウイルスに対する制御された免疫応答を有する症例では薬物治療が有効である可能性がある.
著者
上野 茂昭 菊地 愛未 島田 玲子
出版者
一般社団法人 日本家政学会
雑誌
日本家政学会誌 (ISSN:09135227)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.508-512, 2016 (Released:2016-09-17)
参考文献数
10

Cottage cheese like milk aggregated products can be made at home from milk and acidic compounds such as vinegar and lemon juice. However, the recipe used with acidulants (vinegar and beverages) with different pH values and material contents remained unclear. We investigated in this study the volume of an acidulant with a pH value of 4.6 for making cottage cheese like milk aggregated products. The volume of an acidulant with lower pH value required for aggregation was smaller than that for a higher pH acidulant, excepting Chinkou Kouzu vinegar, blueberry black vinegar and pomegranate black vinegar. These three acidulants contained salt and other components which would have affected the aggregation process. The color difference value between the acidulant and cottage cheese like milk aggregated products made from blueberry black vinegar, Balsamic vinegar or Chinkou Kouzu was small, while that made from cereal vinegar, rice vinegar or white wine vinegar was larger.
著者
武田 誠一 上野 公彦 山口 繁 萩田 隆一 内田 圭一
出版者
日本水産工学会
雑誌
水産工学 (ISSN:09167617)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.55-64, 2003-07-15
参考文献数
10

2001年台風第15号,および2002年台風第21号が東京湾を通過する際に実海面で得られた資料を基に,波高の短期統計量等について解析を行った。資料は,東京水産大学練習船海鷹丸ならびに神鷹丸に設置されている,マイクロ波式波高計により計測されたものである。解析の結果,一般船舶や漁船の安全運航に対して,有義波高や最大波高を推定する従来の方法が,台風通過時においても有用であることが確認された。一方,台風通過時の海面においてもP-M型スペクトルで一様に近似して表現することが難しいことが確認された。
著者
上野 太郎 粂 和彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.3, pp.134-139, 2015 (Released:2015-03-10)
参考文献数
23

睡眠の基礎研究は古くから哺乳類を中心に行われ,その評価は脳波により生理学的に判定されてきた.近年,遺伝学のモデル動物として広く用いられるショウジョウバエにおいて,行動学的な睡眠が定義されることにより,睡眠の分子生物学が発展している.ショウジョウバエを用いた睡眠研究により,睡眠制御の分子メカニズムが昆虫と哺乳類で共通していることが示され,豊富な遺伝学的ツールを用いることで睡眠を制御する神経回路が同定されてきている.我々は,ドパミンの再取り込みを担うドパミントランスポーターの変異体(fumin変異体)が短時間睡眠を示すことを発見し,ショウジョウバエにおいてドパミンシグナルが哺乳類と同様に睡眠覚醒を制御することを明らかにしてきた.ドパミンは睡眠覚醒や学習記憶など様々な生理機能をもつが,それら複数の生理機能がどのようにして実現されているかはこれまで不明であった.ショウジョウバエの遺伝学を駆使することにより,独立したドパミン神経回路が学習記憶と睡眠覚醒を制御することが一細胞レベルで明らかにされた.ドパミンはシナプス終末から放出されると古典的なシナプス伝達に加えて,拡散性伝達により,神経間情報伝達を行うことが知られている.ドパミンの再取り込みを担うドパミントランスポーターに注目し,睡眠ならびに記憶の表現型を解析することにより,ドパミントランスポーターによる拡散性伝達制御が明らかになった.本総説では我々がこれまで明らかにしてきたドパミンによるショウジョウバエの睡眠制御機構について解説する.これまでに明らかになった睡眠の分子基盤・神経基盤をもとに,進化的に保存されてきた睡眠の共通原理の解明が進むと考えられる.
著者
上野 健爾 杉江 徹 森脇 淳 河野 明 神保 道夫 丸山 正樹
出版者
京都大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

代数多様体,複素多様体は近年理論物理学との密接な関係が見出され、従来の数学研究とは違った観点からの興味ある現象が見出され、数学そのものの再編成が行われつつある。本研究もこうした新しい観点から研究を行ったものである。以下得られた主要な成果を記す。1.Z上の共形場理論と複素コボルディズム環桂利行,清水勇二との共同研究において,自由フェルミオンの共形場理論が整数環Z上定義できること,ボゾン化によってZ上の無限変数の多項式環が生じることを示したが,本年度さらに共同研究によって,理論は複素コボルディズム理論と密接な関係を持つことが明らかになった。特に,複素コボルディズム環でチャ-ン類を取る操作とシュ-ア多項式の関係を明らかにし,複素多様体の特性類とKP方程式系のτ函数との関係も明らかにした。2.非ア-ベル的共形場理論の算術化土屋昭博,山田泰彦との共同研究によって得られた単純リ-環をゲ-ジ対称性に持つ共形場理論が,有理数体上定義され代数曲線のモジュライ空間上の数論的代数幾何学として展開できることを示した。さらに種数Oの代数曲線上の共形場理論に限ると,さらに理論は整数環Z上定義されることを示した。3.ベクトル束および連接層のモジュライ空間の研究丸山正樹は射影的代数多様体上の放物的安定層の概念を導入しモジュライ空間を構成することに成功した。また森脇淳は準安定偏曲ファイバ-空間の概念を導入し,ボゴモロフ・ギ-ゼカ-不等式を一般化することに成功した。これはモジュライ空間の研究に応用が見込まれている。
著者
丹羽 壮一 片山 信 関本 千恵子 Soichi Niwa Nobu Katayama Chieko Sekimoto 鈴鹿短期大学学術研究会 市邨学園短期大学 三重県上野保健所 SOCIETY OF SCIENCE RESERCH OF SUZUKA JUNIOR COLLEGE Ichimura Junior College Ueno Health Center Mie Prefecture
雑誌
鈴鹿短期大学紀要 = Journal of Suzuka Junior College (ISSN:09158421)
巻号頁・発行日
pp.27-58, 1980-12-01

三重県において,脳卒中死亡率の高率地区であり,かつ,米単作地帯の大山田村住民の40~46才の年令層を対象とし,血圧測定をおこなった。ついで,その成績を基礎として,高血圧出現頻度が比較的多かった阿波地区を対象とし,男子の高血圧者在宅世帯および非高血圧世帯のそれぞれの代標本として,各世帯を任意に抽出し,その栄養摂取状態についてしらべた。(1)血圧状況では,全国平均よりも高い値を示した年令層は最高血圧値においては,男子群の45~49才,女子群の40~44才で,最低血圧においては,男子群の45~49才のみであった。また,全国平均よりも低い値を示した年令層は,最低血圧において,男子群の50~59才,女子群の50~54才であった。これらの年令層は,より血圧に関心が深く,栄養改善思想に浴することが多く,このことに長く努力を持続している人々であろう。(2)栄養摂取量では,動物性タンパク質において,高血圧世帯と非高血圧世帯との間には1%の危険率で有意差がみられ,とくに非高血圧世帯が高い値を示したが,それらの値は,両世帯とも標準量を上回り,かつ,昭和39年の栄養調査の値よりもいちじるしい向上がみとめられた。糖質についても,高血圧世帯と非高血圧世帯との問には,1%の危険率で有意差がみとめられ,非高血圧世帯では,かなりの糖質摂取の減少傾向がみられたのに反し,高血圧世帯では,糖質の多量摂取傾向が目立った。つぎにカルシウム,ビタミンAおよびビタミンB_2は,両世帯ともに不足がちであることがわかり,とくに,ビタミンB_2は高血圧世帯において,それがいちじるしかった。(3)食品群別摂取量では,魚介類および獣鳥肉類は,高血圧世帯と非高血圧世帯との間に有意差がみられ,非高血圧世帯は,高血圧世帯よりも高い値を示したが,それらの値は,両世帯とも,それぞれの目標量を上回るとともに,昭和39年の栄養調査の値よりもかなり改善されていることがわかった。この動物性食品の摂取増加と本村における昭和42年からの脳卒中訂正死亡率の低下傾向とは決して無関係とはいえない。つぎに,高血圧世帯と非高血圧世帯との間に有意差はなく,かつ,目標量をはるかに下回っていた食品群は,乳卵類および緑黄色野菜であった。(4)食塩摂取量は,高血圧世帯では16.4g,非高血圧世帯では14.4gであり,両世帯との間に有意差は認められなかったが,両世帯とも決して少ない値ではなかった。(5)兼業を除いた農業労働のみにおいては,高血圧世帯と非高血圧世帯との問に有意差はみられなかった。(6)阿山郡大山田村の郷土食については,穀類では「茶がゆ」の摂取は飯高町のそれよりも摂取頻度が少なく,白がゆに煎った大麦を粉にした「こうせん」を入れた「こうせんがゆ」の摂取頻度が多いことが特徴である。また,豆類では,豆腐の「でんがく」は摂取頻度が多かった。終わりに臨み,終始ご指導ご助言を賜わった学長堀敬文先生に深い感謝の意を表するとともに,いつも変わらぬご指導ご高配賜わっている三重県上野保健所長関本千恵子先生に深甚なる謝意を表する。In Oyamada Village, Mie Prefecture, where a high death rate from cerebral apoplexy is indicated, the blood pressure in males and females of 40-60 years was measured. Based on the results in the Awa district where of hypertension was comparatively frequent, nutritional intake was studied randamly selected 20 households each with and without patients of hypertension. (1) Blood pressure : The age group with a systolic pressure higher than the nationwide average was the 45~49 year male group and 40~44 year female group and that with a diastolic pressure higher than the nationwide average was the 45~49 year male group alone. The age group with a diastolic pressure lower than the nationwide average was the 50~59 year male group and 50~54 year female group. The people in this age group may be more concerned about their blood pressure, more of ten accept ideas on nutritional improvement, and can be said to make continued efforts to improve their dietary habits for a long time. (2) Nutritional intake : There was a significant difference between the intake of animal protein of the group with hypertension and that not having hypertension, statistically significant at the 99% level. It was particularly high in the group without hypertension. However, the values of both groups were higher than the standard allowance, and had improved markedly since 1964 when a nutritional survey was conducted. There was also a significant difference between the intake of carbohydrates of the group with hypertension and that without hypertension (signifi-cant at the 99% level) . In the group without hypertension, the intake of carbohydrates tended to be reduced, whereas in the group with hypertension, large amounts of carbohydrates tended to be consumed. The intake of calcium and vitamins A and B_2tended to be insufficient in both groups. The intake of vitamin B_2 was especially low in the group with hypertension. (3) Intake of foods : There was a significant difference between the group with hypertension and that without hypertension in their intake of fish, meat and poultry. That is, the group with no hypertension consumed more of these foods than that withut hyopertension. However, more than the standard allowance of these foods were consumed in both groups, and the intake was found to be greater than the values obtained during the 1964 survey. These finding suggest that the increase in the comsunption of animal foods is related to the lowering tendency of the adjusted death rate from cerebral apoplexy since 1967 in this village. Less than the standard allowance in both groups without any significant difference between the two groups, were fat, milk, eggs and green vegetables. (4) Salt intake was m:17.4g with hypertension households and m:15.4g with non-hypertension households. Between them no significant difference was observed. (5) A significant difference in agricultural labour as a special occupation, not as a side business was noticed between the hypertensive households and the nonhypertensive households. (6) Local diet in Oyamada Village Ayama County : Grain ; The consumption of tea rice gruel was less frequent than in Iidaka-cho, and that of gruel with roasted oatmeal was more frequent. Legumes ; Bean curd, baked and coated with miso were often consumed.
著者
上野 俊明 大山 喬史
出版者
口腔病学会
雑誌
口腔病学会雑誌 (ISSN:03009149)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.429, 1996-06-30 (Released:2010-10-08)
参考文献数
4
被引用文献数
1
著者
上野 加代子
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.70-86, 2018-06-30

<p>福祉の領域における社会構築主義の研究は多様であるが, この領域に特有の姿勢を見て取ることができる. それは, 自分たちがクライエントを抑圧してきたという「自身の加害性の認識」と, 「研究結果の実践への反映」である. 本稿では, 福祉の領域に特有のこれらの姿勢に着目し, それに関連する文献を中心にレビューする. 具体的に, ひとつはソーシャルワーカーとクライエントを拘束しているドミナント・ストーリーをクライエントと共同で脱構築しようとするナラティヴ・アプローチの研究の流れである. 本稿で取り上げるもうひとつの構築主義的研究の流れは, ソーシャルワークが専門職として確立, 再確立される過程で, 「トラブルをもつ個人」がどのように創りあげられてきたのかを, 外在的に分析するものである. なお, 「自身の加害性の認識」という点は, 英語圏の文献には顕著であるが, 日本語の文献では弱い. そこで, 英語圏の文献をレビューした後, 日本における構築主義研究ではどうして「自身の加害性の認識」という観点が乏しいのかについて考察する. そして最後には, 近年の英語圏の文献では自身の加害性のみならず, 「被害者性」についても議論されていることを踏まえ, 自分自身の知識や実践に対する構築主義研究が, 「自分は加害者たることを強制された被害者だ」という自己弁護に陥る危険をはらみつつも, 社会制度変革へのコミットにつながることに触れておきたい.</p>