著者
天野 利彦
出版者
静岡産業大学
雑誌
静岡産業大学情報学部研究紀要
巻号頁・発行日
vol.9, pp.71-80, 2007

少年期より関わってきた詩的言語の省察からポール・ヴァレリーは、詩語の性質であるとともに、言語活動一般を可能ならしめる本質として、言語における「移行性」を見出し、その具体的諸相を『カイエ』に記録した。彼はその特徴を自家薬篭中のものとして駆使すべく、一度放棄した詩作を再開し、矛盾に満ちた言語の「移行性」から目を逸らすことなく考察を深め、幾多の名詩を紡いできた。『海辺の墓地』では、そのような言語の「移行性」を逆手に取り、その「移行性」を剥き出しにするかのように、意図的に、多義的な象徴言語を駆使し、絶えず変化する多層的な詩的世界を表わすと同時に、詩の構造そのものにおいても、無限の反復運動を惹起する連環的構造を企んだ。その結果としてこの詩では、言葉の内部と外部で無限に続く移行の過程において、一見、移行そのものが停滞する、そんな静止的印象を生み出す2つの特権的な場面が描かれることになる。そのひとつは、反復の永遠性が元となって生じる全体性の印象において、効果として生まれる静止であり、他方は、多方向の力が極限状態で、調和に達した瞬間に訪れる静止である。いわば反復的永遠性の静止と、調和的静止とである。
著者
木村 五郎 赤木 博文 岡田 千春 平野 淳 天野 佳美 大村 悦子 中重 歓人 砂田 洋介 藤井 祐介 中村 昇二 宗田 良 高橋 清
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.61, no.5, pp.628-641, 2012

【背景・目的】Lactobacillus acidophilus L-55 (L-55株)には,マウスアレルギーモデルに対する症状緩和効果が認められている.そこでL-55株含有ヨーグルト飲用による,スギ花粉症臨床指標への影響について検討した.【方法】スギ花粉症患者にL-55株含有ヨーグルト(L-55ヨーグルト群, n=26)あるいは非含有ヨーグルト(対照ヨーグルト群, n=26)を花粉飛散時期を含む13週間飲用してもらい,症状スコア,症状薬物スコア,IgE抗体について検討した.【結果】L-55ヨーグルト群の総症状スコアと症状薬物スコアは,対照ヨーグルト群より低い傾向が認められた.特に治療薬併用例(n=23)では, L-55ヨーグルト群の花粉飛散後第5週の総症状スコア,第4週の咽喉頭症状スコアおよび第1週の総IgEの変化比が有意に低値であった.【結語】L-55株はスギ花粉症に対する緩和効果を有し,治療薬の併用により効果的に症状を軽減,あるいは使用薬剤を減量することが期待された.
著者
天野 祐二 結城 崇史 石村 典久 藤代 浩史
出版者
一般社団法人 日本消化器内視鏡学会
雑誌
日本消化器内視鏡学会雑誌 (ISSN:03871207)
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, pp.3189-3203, 2012 (Released:2012-10-22)
参考文献数
37

食道胃接合部の内視鏡診療は対象疾患の増加により,近年,その重要性が高まりつつある.しかしながら,本邦及び欧米の間には,食道胃接合線の内視鏡診断において診断基準の乖離を認めるという大きな問題が存在する.食道胃接合部観察の基本は,胃内の空気を抜き,大きく吸気させて食道下部を十分に伸展させることであり,本邦ではこの手技により食道胃接合線として食道柵状血管の下端を探ることになるが,欧米では逆に可能な限り食道の空気を抜き,胃のヒダ上端を診断するのが一般的であるためである.現在,食道胃接合部において最も重要と考えられているのは,Barrett食道およびBarrett腺癌の内視鏡診断である.本邦では画像強調内視鏡を用いた診断が主流になりつつあるが,それらの内視鏡分類は臨床応用を考えた場合に未だ不十分なものも多い.今後は,正確な食道胃接合線の診断を基軸とし,同部位の特性がよく理解された画像強調内視鏡による精緻な内視鏡診断・分類が早急に必要とされる.
著者
村上 雅裕 池本 憲彦 戸屋 成未 朴 美姫 奥山 美結樹 畠山 和子 桂木 聡子 大野 雅子 比知屋 寛之 座間味 義人 室 親明 木村 健 倉田 なおみ 天野 学
出版者
日本社会薬学会
雑誌
社会薬学 (ISSN:09110585)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.34-37, 2016-06-10 (Released:2016-07-06)
参考文献数
9

To administer oral anticancer drugs safely, the simple suspension method has been introduced in many hospitals. Therefore, concerning drugs for which it is unclear whether or not this method is applicable, testing must be able to be conducted at any time. In this study, we investigated 20 oral anticancer drugs to expand information on the application of the simple suspension method. Disintegration/suspension and permeability tests were conducted, as described in the 3rd version of the Tube Administration Handbook for Oral Drugs. All products were disintegrated/suspended after 10 minutes. On permeability tests, there was no residue in any tube for tubal feeding. On the final evaluation, the products were regarded as suitable (grade 1). Bicalutamide tablets (80 mg, TCK and KN), which were analyzed in this study, were regarded as suitable (grade 1) on the final evaluation. On the other hand, the simple suspension method is not applicable for a brand-name drug, Casodex® tablets (80 mg). This may be related to the different additives. Furthermore, the results suggest that, even when the simple suspension method is not applicable for a brand-name drug, it may become applicable for generic drugs. This may provide a new merit for promoting the use of generic drugs.
著者
天野 恵
出版者
イタリア学会
雑誌
イタリア学会誌 (ISSN:03872947)
巻号頁・発行日
no.41, pp.63-83, 1991-10-20

Nelle battaglie campali al tempo dell'Ariosto, mentre-come osservava anche Machiavelli-l'artiglieria pesante aveva un ruolo secondario, gli archibugieri spagnoli cominciavano a costituire una minaccia seria, non solo per la cavalleria pesante francese, ma anche per i quadrati di picchieri svizzeri, fino allora considerati invincibili. Questo fatto era di perticolare interesse anche perche, con la sconfitta dei francesi a Pavia (1525), avvenuta 4 mesi prima del ritorno dell'Ariosto dalla Garfagnana, la diplomazia ferrarese era entrata in un periodo difficile, caratterizzato da una instabilita internazionale, che si concluse nel tragico Sacco di Roma (1527) e nelle successive guerre della Lega di Cognac. L' analisi attenta delle tracce di correzioni apportate dall'Ariosto sul Fascicolo I dei Frammenti Autografi (Canto IX) ci induce a credere che il poeta, nell' inventare la storia dell'archibugio di Cimosco, si sia ispirato all'uso di questa arma da parte degli spagnoli in una serie di battaglie contro i francesi, alleati tradizionali degli Estensi. Questa osservazione spiega bene anche la metafora della polvere da sparo usata per descrivere il comportamento di Orlando che abbatte Cimosco (IX, 78). Inoltre il processo di perfezionamento del IX Canto e il successivo ritorno sull' argomento-con la famosa invettiva contro le armi da fuoco dell'XI Canto-lasciano trasparire le tortuose vicende della diplomazia ferrarese fino all'abbandono definitivo della linea filo-francese, con la Pace di Cambrai (1529) e l'incoronazione imperiale di Carlo V (1530) Nella "invettiva" (erroneamente considerata da alcuni studiosi una coraggiosa critica del poeta al proprio signore, che si vantava della sua potente artigliereia) si puo, quindi, rilevare un forte momento creativo dell'Ariosto, insieme all'interesse per gli avvenimenti storici del suo tempo.
著者
天野 拓
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.152-159, 2007-09-20 (Released:2017-04-27)
参考文献数
24

アメリカでは、国民皆保険が存在せず、歴史的に民間中心の医療保険制度が発展してきた。重要なのは、こうした制度のもとでは、現在約4600万人以上の無保険者が存在する点、さらにその数が近年急速に増加している点である。無保険者は、医療へのアクセスという面で深刻な制約を受けるとともに、その増加は、本人の健康状態のみならず、社会全体に広範な影響を及ぼす。しかし、リベラリズムが衰退し、保守主義が台頭する現在の政治状況のもと、政府による無保険者対策はなかなか進展していない。こうしたアメリカの無保険者問題の現状は、「医療は権利か否か」、「医療へのアクセスの保障は、個人の自己責任か、政府の公的責任か」という根源的な問い(対立)を提起する点で重要である。現在無保険者問題がさらに深刻化するなか、全ての人間に適正な水準の医療を受ける権利を保障する、セーフティー・ネットの構築を行う必要性は、ますます高まりつつある。
著者
鈴木 千晶 藤崎 賢二 渥美 雄介 竹村 実紀 水野 孝一 永峯 岳樹 天野 智康 山本 英雄 高橋 護
出版者
公益社団法人 日本放射線技術学会
雑誌
日本放射線技術学会雑誌 (ISSN:03694305)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.273-281, 2017 (Released:2017-04-20)
参考文献数
22
被引用文献数
2 3

The purpose of this study is to measure the hemodynamics on the effect of Valsalva maneuver aiming at pulmonary thromboembolism (PTE) using 2-dimensional (2D) phase contrast imaging of magnetic resonance image (MRI), Philips Ingenia 3.0-tesla (T). The maximal inspiration reduced the blood flow rate in various degrees at all measurement positions, superior vena cava (SVC), inferior vena cava (IVC), pulmonary artery (PA), ascending aorta (AA), and descending aorta (DA). This result suggests that the contrast effect in the PA might become weak during general PA phase to give a substantial influence of Valsalva maneuver in the condition after maximum inspiration. A contrast-enhanced computed tomography (CT) examination aiming at detection for PTE should be scanned without an advance maximum inspiration.
著者
矢久保 修嗣 並木 隆雄 伊藤 美千穂 星野 卓之 奥見 裕邦 天野 陽介 津田 篤太郎 東郷 俊宏 山口 孝二郎 和辻 直
出版者
一般社団法人 日本東洋医学会
雑誌
日本東洋医学雑誌 (ISSN:02874857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.2, pp.167-174, 2019 (Released:2019-12-20)
参考文献数
15
被引用文献数
1

国際疾病分類(ICD)は疾病,傷害及び死因の統計を国際比較するため世界保健機関(WHO)から勧告される統計分類である。この国際疾病分類第11改訂(ICD-11)のimplementation version が2018年6月18日に全世界に向けてリリースされた。これに伝統医学分類が新たに加えられた。ICD の概要を示すとともにICD-11の改訂の過程やICD-11伝統医学分類の課題をまとめる。ICD-11は2019年5月の世界保健総会で採択される。我が国がICD-11を導入し,実際の発効までには,翻訳作業や周知期間なども必要であるためまだ猶予が必要となるが,国内で漢方医学の診断用語も分類のひとつとして使用できることが期待される。このICD-11伝統医学分類を活用することにより,漢方医学を含む伝統医学の有用性などが示されることも期待され,ICD に伝統医学が加わる意義は大きいものと考えられる。
著者
梅地 篤史 天野 暁 橋本 幸久 内山 侑紀 道免 和久
出版者
一般社団法人 日本作業療法士協会
雑誌
作業療法 (ISSN:02894920)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.107-113, 2021-02-15 (Released:2021-02-15)
参考文献数
14

要旨:欧米では,脳性麻痺や脳卒中の小児症例に対してCI療法を実施し,その効果が報告されている.今回,脳梗塞後片麻痺を呈した8歳の女児に2度のmodified CI療法を実施した.小児症例にCI療法を実施するにあたり,長時間の訓練へ集中と麻痺手に対するモニタリングが困難であることが予想された.それに対して,訓練環境や時間,方法を工夫,修正した.1度目の介入後に上肢機能の改善を認めたが,日常生活での麻痺手の使用は不十分であったため,実生活での使用に着目し2度目のmodified CI療法を実施した.その結果,さらなる上肢機能の改善と,麻痺手の使用方法に変化を認め,介入1年後まで改善が維持された.
著者
天野 文雄
出版者
日本演劇学会
雑誌
演劇学論集 日本演劇学会紀要 (ISSN:13482815)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.71-85, 2001-10-20 (Released:2018-12-14)

Noh plays, even popular ones, are rarely read as drama and given correct interpretations. The present writer tries to read a noh play, Kakitsubata, as a drama and determine to whom the “I” actually refers means, when the spirit of kakitsubata (iris), that is, the spirit of Lady Nijo, utters “I as the savor of all the human beings” in the story of Ariwara no Narihira. The writer concludes, examining some secret Medieval literatures on “waka”, a traditional form of Japanese poetry, that the “I” is not the spirit of the story-teller kakitsubata, Lady Nijo, but Narihira himself.
著者
天野 晶子 石神 昭人
出版者
公益社団法人 日本ビタミン学会
雑誌
ビタミン (ISSN:0006386X)
巻号頁・発行日
vol.87, no.9, pp.492-496, 2013-09-25 (Released:2017-08-10)

Vitamin C (VC, L-ascorbic acid) transport is mediated by specific transporters, such as sodium-dependent vitamin C transporter (SVCT) 1 and 2. SVCT1 and 2 have a functional role in secondary active transport of VC from the outside to the inside of cells at the expense of sodium electrochemical gradient across the cell membrane. Recent studies revealed that the effect of SVCTs gene polymorphisms on risk of preterm birth and any diseases. Moreover, some paper reported that the effect of SVCTs gene polymorphisms on VC concentration in human blood and interactions with other antioxidant related genes. In this paper, we review recent insights into the relationships between SVCTs gene polymorphisms and health and disease risk.
著者
石田 肇 百々 幸雄 天野 哲也 埴原 恒彦 松村 博文 増田 隆一 米田 穣
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

オホーツク文化人骨の形態解析とDNA分析の結果、北東アジア、とくにアムール川流域を起源としていること、mtDNAのハプログループYは、アムール川下流域集団の祖先からオホーツク文化人を経由してアイヌへともたらされたことが示唆された。また、食生活では栄養段階の高い大型魚類や海生ほ乳類を主要なタンパク質として多く利用していたことが示された。変形性関節症の頻度分布からも、生業との関連性が示唆された。アイヌ民族のイオマンテ型儀礼は続縄文文化・オホーツク文化にまでさかのぼる可能性が大きいことを示した。
著者
松本 紘典 中田 康城 蛯原 健 加藤 文崇 天野 浩司 臼井 章浩 横田 順一朗
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.10, pp.877-885, 2013-10-15 (Released:2013-12-30)
参考文献数
20

飲食物による咽喉頭および食道熱傷は臨床上,しばしば経験されるが,その報告例は少ない。今回,我々は90℃の高温飲料の摂取後に緊急気道確保を要する咽喉頭熱傷および遅発性瘢痕狭窄を来した食道熱傷の1例を経験したので報告する。症例は28歳の男性。飲酒の席で約90℃のコーヒーを約200ml飲用し,呼吸苦・嚥下痛にて当院受診となった。来院時,上気道粘膜の腫脹が強く,喉頭ファイバーにて喉頭蓋および声帯の腫脹も認め,気道緊急の状態にあり,気管切開による緊急気道確保を行った。咽喉頭熱傷については,経時的に粘膜腫脹は軽快してきたものの喉頭蓋の腫脹が遷延し,容易に誤嚥する状況が続いた。喉頭蓋の腫脹改善とともに第39病日に気管切開チューブを抜去でき,その後も瘢痕形成などは来さなかった。食道熱傷について,受傷早期は食道穿孔等を来さずに経過したが,第25病日に吐血のため,上部消化管内視鏡検査をしたところ,下部食道を中心として食道全長に渡る粘膜の易出血性びらん,潰瘍所見を認めた。第40病日に再度上部消化管内視鏡検査を施行したところ,内視鏡通過は可能であったが,散在性に瘢痕狭窄所見を認めた。粘膜所見は治癒経過にあり,流動食より食事を開始し,第48病日の食道透視検査にて全体的に伸展不良を認めたが,普通食まで摂取可能となったため,第53病日に退院となった。しかしながら,その後も緩徐に食道狭窄は進行し,食道拡張術も奏功せず,第264病日に食道切除術施行となった。温熱熱傷においても,上気道閉塞および遷延する喉頭蓋腫脹に伴う嚥下障害に対する気道管理や,食道瘢痕狭窄に対する経時的な評価,治療が必要である。