- 著者
-
小野 勇一
- 出版者
- 鳥取大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2005
まず,メタルプリンタを用いて作製した多数の円錐状圧痕を有するステンレス板を使用して,微小な突起を有するニッケルリン合金薄膜を作製した.すなわち,硫酸ニッケルを主体とし,リン酸とホスホン酸を添加しためっき浴を用いて,圧痕密度の異なる2種類のステンレス基板にニッケルリン合金めっきを施した.めっき終了後,最終電着面には基板の圧痕に沿ってくぼみが残るため,耐水研磨紙によりくぼみがなくなるまで研磨して,最終電着面を平滑面とした.最後にめっき部をステンレス板から剥離して,突起密度の異なる2種類のニッケルリン合金薄膜を作製した.さらに,この薄膜に400℃×1hの加熱処理を施して,析出硬化させた.上述のニッケルリン合金薄膜に材料試験機に取り付けた炭素工具鋼製の圧力負荷治具を用いて種々の静圧を負荷し,突起部の塑性変形量を光学顕微鏡にて観察した.すなわち,突起の底面積Aと突起先端部と治具との真実接触面積Arの比Ar/Aを種々の静圧について計測した.静圧の増加とともに,突起の塑性変形量Ar/Aは大きくなるが,突起密度の高い薄膜では1.5GPa程度の圧力が作用しても突起が完全に塑性変形しない(Ar/A<1)ため,1GPa以上の静圧測定が可能となることが明らかとなった.これは,従来の銅薄膜を用いた方法で測定可能な圧力の最大値(300MPa)よりも格段に高い値である.しかしながら,突起密度の増加とともに静圧の変化に対する塑性変形量Ar/Aの変化は緩慢となるので,圧力感度は低下する.そこで低圧力の測定には突起密度をなるべく小さくして薄膜の圧力感度を向上させる必要があるといえる.この観点から,静圧の測定レンジに対して適切な突起密度を予測可能な汎用性のある較正式を導いた.さらに,本手法の有効性を検証するため,円柱同士が接触する問題として自作したローラ試験機に作用する圧力を求めてみた.すなわち,ローラ間に上述の突起を有するニッケルリン合金薄膜を挿入し,突起の変形量からローラ間の接触圧力を測定した.これにより得られるローラ間に作用する全荷重は,ロードセルから得られた値とほぼ一致し,本手法の有効性が確認できた.