著者
成瀬 厚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.74, no.8, pp.470-486, 2001-08-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
56

特定の場所を表象する方法と動機を探求するために,写真家田沼武能の東京に関する作品を意味論的側面と制度的側面から分析した.作者の自己同一性と表象される場所との関係に故郷概念から接近した.意味論的分析から引き出された,田沼作品に通底するnature概念は,この関係を修辞的に結び付けている.戦後の東京下町で青年期を経験した田沼は,その変貌に戸惑いを感じ,処女作『武蔵野』 (1974年)で人間の外なる自然景観と過去の人々が残した建築物や遺物などの文化景観を記録した.この作品は土地そのものの不変の特質を強調したが,『東京の中の江戸』 (1982年)では,人々の表情や生活様式を画像化することを通じて,土地に根付いた人間の生活の不変性,すなわちある種の人間の本性を主張した.『東京の戦後』 (1993年)は撮り続けた写真を1990年代の彼の解釈によって編成したもので,一つの教科書的な歴史物語を呈している.こうした作品生産を通して,作者のアイデンティティは彼自身の自発的な力と出版界などの制度による諸力の中で相互作用的に形成された.
著者
金丸 竣樹 横田 悠右 成瀬 康 矢入 郁子
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 第33回全国大会(2019)
巻号頁・発行日
pp.1D4J101, 2019 (Released:2019-06-01)

近年,脳科学の分野では、fMRI計測によって恐怖の交感神経活動に関する脳内ネットワークが明らかとなったと報告されている.しかし,日常的な状況下でのfMRI計測は困難である.日常的な状況下で脳波計を用いて簡易的かつリアルタイム性高く人の恐怖を検出できれば,客観的な恐怖の指標を用いてエンターテイメント分野での恐怖の制御,医療サービスなどでの恐怖の低減といった実応用が可能となる. 本稿では乾式の脳波計を用いて,VRホラーゲームを用いた実験とホラー映像を用いた実験の二つから,周波数解析を用いて恐怖時と非恐怖時の脳波データの特徴を周波数帯域毎に分析した.その結果,アルファ波の恐怖時と非恐怖時のパワースペクトル密度に有意な差が見られました.
著者
近藤 孝晴 成瀬 達
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

身体運動が消化吸収に及ぼす影響について検討した。1)イヌを用いた実験では、イヌに慢性胃・大腸瘻を造設し、運動が食物の消化管通過時間,胃、小腸、大腸運動機能などに与える影響を検討した。牛乳は運動の有無に関係なく小腸ですべて吸収され、消化管通過時間の測定が不能であった。固型食(肉)の消化吸収は血中脂質を測定して検討した。固型食の消化吸収は運動により遅延した。運動によって固型食の胃排出が遅延するためと推定された。胃、小腸、大腸運動は身体運動により亢進した。これは空腹時でも食後でも同様であった。2)ヒトを対象とした実験は、運動によって食物の通過時間が変化するか否かを、消化管機能が低下していると考えられる高齢者9名(平均年齢71歳)を被験者として行った。一日平均3700歩の安静と、12800歩の運動をそれぞれ2週間続け、小腸、大腸、全消化管通過時間を測定した。小腸通過時間はラクツロ-スによる呼気中水素の測定(クイントロン社マイクロライザ-,新規購入)によった。大腸通過時間はX線非透過性のマ-カ-を服用させ,一定時間後に腹部のX線写真を撮影して、残存するマ-カ-の数から推定した。全消化管通過時間はカルミン服用後、便が着色するまでの時間とした。小腸通過時間は安静時、運動時とも差がなかった。大腸通過時間は、安静時19.5時間であったが運動により11時間と短縮した。全消化管通過時間は安静時26時間に対し、運動時22時間と短縮した。 3)運動が微量元素の吸収に与える影響を、血中亜鉛を測定して検討した。血中亜鉛は身体運動によって変動しなかったが、断眠下の身体運動という強いストレスでは低下した。以上、身体運動は消化管機能を変化させるとともに、種々の食物の消化吸収に影響を与えることがわかった。
著者
藤田 喜久 佐伯 智史 仲吉 将一 福島 新 成瀬 貫
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
CANCER (ISSN:09181989)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.11-19, 2021-08-01 (Released:2021-08-26)
参考文献数
12

An endangered freshwater crab, Ryukyum yaeyamense (Minei, 1973) (Crustacea: Decapoda: Brachyura: Potamidae), is recorded for the first time from Kohamajima Island, Yaeyama island group, southern Ryukyu Islands, Japan. Kohamajima Island becomes the third distributional island of the species. The morphological characteristics of the species, their habitats, and ecological notes of the species are provided.
著者
千葉 隆司 貞升 健志 長島 真美 熊谷 遼太 河上 麻美代 浅倉 弘幸 内田 悠太 加來 英美子 糟谷 文 北村 有里恵 小杉 知宏 鈴木 愛 永野 美由紀 長谷川 道弥 林 真輝 林 志直 原田 幸子 藤原 卓士 森 功次 矢尾板 優 山崎 貴子 有吉 司 安中 めぐみ 内谷 友美 神門 幸大 小林 甲斐 長谷川 乃映瑠 水戸部 森歌 三宅 啓文 横山 敬子 吉田 勲 浅山 睦子 井田 美樹 上原 さとみ 小野 明日香 河村 真保 小西 典子 小林 真紀子 齊木 大 下島 優香子 鈴木 淳 西野 由香里 村上 昴 森田 加奈 吉丸 祥平 木本 佳那 新藤 哲也 堀田 彩乃 小林 千種 大塚 健治 吉川 聡一 笹本 剛生 稲葉 涼太 小峯 宏之 佐伯 祐樹 坂本 美穂 塩田 寛子 鈴木 淳子 鈴木 俊也 高久 靖弘 寺岡 大輔 中村 絢 成瀬 敦子 西山 麗 吉田 正雄 茂木 友里 飯田 春香 伊賀 千紘 大久保 智子 木下 輝昭 小杉 有希 斎藤 育江 高橋 久美子 立石 恭也 田中 優 田部井 由紀子 角田 徳子 三関 詞久 渡邊 喜美代 生嶋 清美 雑賀 絢 鈴木 仁 田中 豊人 長澤 明道 中村 麻里 平松 恭子 北條 幹 守安 貴子 石川 貴敏 石川 智子 江田 稔 岡田 麻友 草深 明子 篠原 由起子 新開 敬行 宗村 佳子 中坪 直樹 浜島 知子 野口 俊久 新井 英人 後藤 克己 吉原 俊文 廣瀬 豊 吉村 和久
出版者
東京都健康安全研究センター
雑誌
東京都健康安全研究センター研究年報 (ISSN:13489046)
巻号頁・発行日
no.71, pp.39-46, 2020
著者
村山 英晶 影山 和郎 成瀬 央 島田 明佳
出版者
公益社団法人 応用物理学会
雑誌
応用物理 (ISSN:03698009)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.883-886, 2002-07-10 (Released:2009-02-05)
参考文献数
6

構造の状態を正確に把握することができれば,構造物の安全性を保証することが可能になる.さまざまな環境下で使用される実構造物のひずみや振動をモニタリングするためには,正確な測定ができるだけではなく,耐久性にも優れたセンサーが必要となる.酎久性に優れる光ファイバーセンサーは,近年,発展が著しく,既存のセンサーにはない優れた特駐を兼ね備えている.本稿では,世界的なヨットレースに出場した笈さ25mの競技用ヨットに光ファイバーを張り巡らせ,船体のひずみを測定した結果を示す.これにより,船体が設計どおりの剛性をもつことが確認され,また経時的な剛性の変化を評価することが可能となった.
著者
大島 美穂子 成瀬 徳彦 伊藤 浩明
出版者
一般社団法人日本小児アレルギー学会
雑誌
日本小児アレルギー学会誌 (ISSN:09142649)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.551-559, 2020-12-20 (Released:2020-12-20)
参考文献数
15

【背景】食物アレルギーによる給食の除去対応は,給食で提供される最大量を超えて食べられることを確認したうえで解除される.【目的】地域の学校給食における卵,乳の最大使用量を明らかにする.アレルギー対応食の栄養を評価するとともに,食物アレルギー児が通常給食を喫食できる基準を考察する.【方法】愛知県豊田市の2018年度の学校給食198食を対象に,卵と乳の使用量を献立表と加工品の納入物資明細書より調査した.また,卵,乳アレルギー対応給食と通常食の栄養価を算出し,学校給食摂取基準と比較した.【結果】豊田市の飲用牛乳を除いた給食1食における卵の最大使用量は45 g,乳タンパク質最大含有量は5.93 gであった.乳を完全除去した牛乳アレルギー対応食では,カルシウム摂取が学校給食摂取基準の21.9±9.2%にとどまった.【結論】自治体の給食における使用量より,食物アレルギー対応が必要な基準を示すことができた.乳除去対応は著明なカルシウム不足につながるため,除去解除の根拠となる具体的な使用量を開示することは有意義であると考えられた.
著者
大石 幸二 成瀬 雄一
出版者
一般社団法人 日本人間関係学会
雑誌
人間関係学研究 (ISSN:13408186)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.51-59, 2013-01-29 (Released:2017-11-01)

The drawing is made use of for assessment and treatment in the clinical psychology. The purpose of this study was to examine the effect of the kinetic family drawing and the kinetic school drawing. We were going to explain the effect using a concept called a feeling of physical self-expansion. As a result of having surveyed a precedent study of our country, it developed that a physical sense and a perception of the body movement played an important role. We trigger this physical sense and perception of the body movement, and the certified clinical psychologist must interpret drawing. The future problem is to accumulate a proof study. And it is to elucidate the source of the effect to have of the drawing.
著者
成瀬 厚
出版者
人文地理学会
雑誌
人文地理学会大会 研究発表要旨
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.19-19, 2011

1970年代の人文主義地理学によってキーワードとされた「場所place」は概念そのものの検討も含んでいたが,その没歴史的で,本質主義的な立場などが1980年代に各方面から批判された。1990年代にはplaceを書名に冠した著書や論文集が多数出版されたが,そこでは場所概念そのものの検討はさほどなされなかったといえる。本報告では議論を拡散させないためにも,検討するテクストをプラトンの『ティマイオス』および,そのなかのコーラ=場概念を検討したデリダの『コーラ』を,そしてアリストテレスの『自然学』および,そのなかのトポス=場所概念を検討したイリガライの「場,間隔」に限定する。プラトン『ティマイオス』におけるコーラとは,基本的な二元論に対するオルタナティヴな第三項だといえる。コーラは岩波書店全集では「場」と翻訳されるものの,地理的なものとして登場するわけではない。『ティマイオス』は対話篇であり,「ティマイオス」とは宇宙論を展開する登場人物の名前である。ティマイオスの話は宇宙創世から始まるが,基本的な種別として「存在」と「生成」とを挙げる。「存在」とは常に同一であるもので,理性(知性)や言論によって把握される。これは後に「形相」とも呼び変えられる。「生成」とは常に変化し,あるという状態のないものであり,思わくや感覚によって捉えられる。創世によって生成した万物は物体性を具えたもので,後者に属する。そのどちらでもない「第三の種族」として登場するのが「場=コーラ」である。コーラとは「およそ生成する限りのすべてのものにその座を提供し,しかし自分自身は,一種のまがいの推理とでもいうようなものによって,感覚には頼らずに捉えられるもの」とされる。その後の真実の把握を巡る議論は難解だが,ここにコーラ概念の含意が隠れているのかもしれない。いや,そう考えてしまう私たちの真理感覚を問い直してくれるのかもしれない。デリダはコーラ概念を,その捉えがたさが故に検討するのだ。「解釈学的諸類型がコーラに情報=形をもたらすことができるのは,つまり,形を与えることができるのは,ただ,接近不可能で,平然としており,「不定形」で,つねに手つかず=処女的,それも擬人論的に根源的に反抗するような諸女性をそなえているそれ[彼女=コーラ]が,それらの類型を受け取り,それらに場を与えるようにみえるかぎりにおいてのみである」。『ティマイオス』では,51項にも3つの種族に関する記述があり,それらは母と父と子になぞらえられる。そして,コーラにあたるものが母であり,受容者であり,それは次のイリガライのアリストテレス解釈にもつながる論点である。このコーラの女性的存在はデリダの論点でもあり,またこの捉えがたきものを「コーラ」と名付けたこの語自体の固有名詞性を論じていくことになる。アリストテレスのトポス概念は,『自然学』の第四巻の冒頭〔三 場所について〕で5章にわたって論じられる。トポスは,物体の運動についての重要概念として比較的理解しやすいものとして,岩波書店全集では「場所」と翻訳されて登場する。アリストテレスにおける運動とは物質の性質の変化も含むため,運動の一種としての移動は場所の変化ということになる。ティマイオスはコーラ概念を宙づりにしたまま,宇宙論をその後も続けたが,アリストテレスは「トポス=場所」を物体の主要な性質である形相でも質料でもないものとして,その捉えがたさを認めながらも論理的に確定しようとする。トポスには多くの場合「容器」という代替語で説明されるが,そこに包含される事物と不可分でありながらその事物の一部でも性質でもない。イリガライはこの容器としてのトポスの性質を,プラトンとも関連付けながら,女性としての容器,女性器と子宮になぞらえる。内に含まれる事物の伸縮に従って拡張する容器として,男性器の伸縮と往復運動,そして胎児の成長に伴う子宮の拡張,出産に伴う収縮。まさに,男性と女性の性関係と母と子の関係を論じる。この要旨では,デリダとイリガライの議論のさわりしか説明できていないし,これらの議論をいかに地理学的場所概念へと展開していくかについては,当日報告することとしたい。
著者
成瀬 麻美 寺山 由美 宗宮 悠子
出版者
日本スポーツ教育学会
雑誌
スポーツ教育学研究 (ISSN:09118845)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.1-11, 2014-05-31 (Released:2014-09-29)
参考文献数
51

In this study, the aim was to clarify types of “MOHO” which emerge from second grade elementary school children during expressive play. Since expressive play has a characteristic of “turning completely into a subject”, this study focused on the viewpoint of imitation. In the experiment, children were shown the picture cards of animals and vehicles, and they were asked to make an improvisational turn into the subject. After the experiment, analysis of the movements of the imitation was followed, and the types of “MOHO” were examined.The result indicated two types of “MOHO”; “Imitation of a subject” and “Imitation of others”. “Imitation of a subject” includes three types of imitations; “Imitation of a framework” in which children imitate the form of the subject only, “Exaggerated imitation” in which children exaggerate the characteristics of the subject, and “Original imitation” in which children express the subject beyond the actual feature in their own way. “Imitation of others” includes two types of imitations; “Mutual imitation” in which two or more children mutually imitating the subject’s movement, and “Reflective imitation” in which children take the other children’s movement into their own movement.
著者
中島 耕太 成瀬 彰 住元 真司 久門 耕一
雑誌
先進的計算基盤システムシンポジウム論文集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.126-135, 2011-05-18

本論文では,通信量バランスの良いデッドロック回避ルーティング手法であるターン追加法を提案する.本手法は,ターン禁止法の一種であり,スイッチの入力ポートと出力ポートの組であるターンの使用を部分的に禁止してデッドロックを回避する手法である.全ターンを禁止した状態を初期状態とし,通信量の大きいターンから順に許可判定を行い,そのターンを使用してもデッドロックが生じない場合は当該ターンを許可する.ターン単位で禁止/許可を判別するため,既存手法と比較するとネットワークの一部分や一部のスイッチに禁止ターンが偏りやすくなる傾向は低くなる.このため,通信量バランスの良いルーティングを実現しやすい.本手法をランダムネットワークと Fat Tree ベースのクラスタネットワークに適用し,評価した.ランダムネットワークでは,Up*/Down* 法と比較してスループットを最大 2.05 倍改善し,TP 法と比較してほぼ同性能であることを確認した.また,クラスタネットワークでは,8192 ノード構成の Fat Tree を 2 つ接続した場合,Fat Tree を接続する経路において,TP 法と比較して,スループットを最大 4.77 倍改善できることを確認した..
著者
竹田 憲生 成瀬 友博 河野 賢哉 服部 敏雄
出版者
公益社団法人 日本材料学会
雑誌
材料 (ISSN:05145163)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.204-209, 2003-02-15 (Released:2009-06-03)
参考文献数
9
被引用文献数
4 4 2

Silicone gel is usually applied to electrical automotive devices to protect them from corrosion. However, under a vibration environment, the silicone gel vibrates bonding wires in the devices, thus, to evaluate the reliability of the devices, the vibration analysis of the gel/wire structure is indispensable. In this study, we clarify the relation between the fatigue life of gel-protected bonding wires and the geometry of the gel and bonding wires experimentally. It was founded that the diameter of wires and the thickness of the gel have a significant influence on fatigue life. Then, we developed a method, based on a vibration analysis model that takes into account the visco-elasticity of a gel, for predicting the fatigue life of the wires. It was confirmed that the predicted fatigue life showed good agreement with the measured fatigue life. Finally, we developed a design tool for easily calculating the fatigue life of the wires. This tool estimates the strain range by using a response surface, i. e., a neural network. As Bayesian regularization was executed in learning of unknown parameters in the neural network, we could make the response surface and ensure good generalization ability.
著者
成瀬 哲生
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会
雑誌
ヒマラヤ学誌 : Himalayan Study Monographs (ISSN:09148620)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.53-65, 1994-12-03

中国パミールの少数民族である, タジク族の言語状況(二方言, 公教育言語はウィグル語, カリキュラムにある漢語の学習), 経済生活(主に牧畜)の停滞, 公教育の低水準は, 辺境における中央集権的近代国民国家形成過程の不可遊的現象である. しかし, ボーダーレス化は, パミールにおいても進むものと予想される. 国境の垣根が低くなれば, 必ずしも少数民族であることが弱者の立場を意味するとは疲らなくなる. 彼らの宗教であるイスマイーリ一派の, イスラム原理主義とは対極にあるような, 国際性と地域の現実に対する柔軟なアプローチの実績からも, 今後, 特にパキスタンの同じくイスマイーリ一派のフンザ地域との交流を活発化させ, パミールの現況を大きく変貌させる可能性がある.
著者
成瀬智仁
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第57回総会
巻号頁・発行日
2015-08-07

1.問題と目的 場面緘黙児(以下緘黙児)は他人への迷惑や教室での活動を妨害することもなく,ひっそりと声を出さずにいるために注目されず,問題視されることは少ない。彼らは非社会的傾向を持っているため症状が進行して集団に同調できなかったり,不登校などの症状を示し始めたときに教員達はその問題への対応に苦慮することになる。緘黙の症状にはさまざまな要因がかかわっており,改善への対応は発話だけでなく感情や行動などに長期的にかかわっていくことが必要である(河井 2004,成瀬 2007)。本研究では緘黙児の症状について分析し,小学校教員の指導援助の課題を検討する。2.方 法 ①調査時期と手続き:2012年7月~12月,A市公立小学校24校の教員(教諭,講師)に対して質問紙配布による依頼,後日回収,有効回収率61.7% ②調査協力者:335名(女性231名,男性104名)平均年齢40.1歳(SD=13.10,内訳:20代96名,30代94名,40代26名,50代以上119名) ③調査内容:緘黙についての知識4項目,緘黙児の担当経験項目16項目,基本的特性:性別・年齢。3.結 果 ①担任教諭239クラスの内,緘黙児が在籍しているのは36クラス(15.1%),わからないは7クラス(2.9%)だった。緘黙児担任経験のある教員は158名(46.9%)であり,担任経験のない教員は154名(45.7%),わからない25名(7.4%)だった。教員年代別の緘黙児担任経験は20代(26.8%),30代(38.9%),40代(38.9%)に対し50代(66.7%)や60代(71.4%)であり教員経験が長いほど緘黙児にかかわる割合が高かった(F(8, 337)=39.859, p<.01)。緘黙児担任経験教員より回答されたのは166ケースであり,女子105名(63.3%),男子61名(36.7%)だった。 ②緘黙児童のケースについて緘黙の特徴に関する12項目(5件法)をもとに主成分分析をした結果,「動作表現」と「言語表現」の2成分が取り出された(表1)。また,主成分得点をもとにクラスター分析をした結果,ほとんど話さない「緘黙タイプ」,動かない「緘動タイプ」,話も行動も控えめな「消極タイプ」,少し話せて行動は出来る「寡黙タイプ」の4類型に分けることが出来た(表2,図1)。学年別では高学年ほど緘動タイプが多くなっていた(χ2(5)=11.084, p<.05)。 ③学年別の緘黙症状は高学年ほど「表情」,「交友関係」,「教師との目線」などで現れ,低学年との間に有意差が見られた。「学習の理解」や「文章表現」でも高学年は低評価の傾向が見られた。緘黙症状の変化については「教員との視線」を合わすことが出来るほど(χ2(12)=23.582, p<.05),また,「動作のぎこちなさ」がない児童ほど(χ2(12)=21.201, p<.05)改善されていた。4.考 察 児童の緘黙症状によって4タイプの緘黙類型が見いだされた。また,学年進行により緘黙症状が改善する場合と,より悪化するケースがあり,緘黙児童に対する指導援助にはその児童に合わせた指導の必要性が示唆された。今後は緘黙児童への具体的な教育援助の方法を検討していくことが課題である。