著者
淺井 知宏 三橋 晃 林 誠 坂東 信 古澤 成博 前田 英史
出版者
一般社団法人 日本歯内療法学会
雑誌
日本歯内療法学会雑誌 (ISSN:13478672)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.166-173, 2021 (Released:2021-10-15)
参考文献数
25

Abstract : Purpose : In 2003, a study was conducted in Japan on the use of a rubber dam during endodontic treatment. As a result, 25.4% of the Japan Endodontic Association (JEA) member group and 5.4% of the general dentists group (JEA non-member group) answered that they routinely use it. On the other hand, with the increasing interest in preserving teeth among Japanese people in recent years, interest in endodontic treatment has increased too, and the equipment and materials used have also made great progress. Therefore, we hypothesized that the frequency of use of a rubber dam might have changed, and examined it in this study. Materials and Methods : The study period was from October 2019 to November 2020, and questionnaires were conducted through workshops and seminars, etc. held by the JEA, and the Internet. The recovery rate of questionnaires was 97.5%, and responses were received from a total of 986, including 463 in the JEA member group, 100 in the endodontist/dental clinical instructor group of the Japan Endodontic Association (JEA endodontist group), and 523 in the JEA non-member group. Results and Discussion : As a result of the questionnaire, 51.5% of the JEA member group, 60.0% of the JEA endodontist group, and 14.1% of the JEA non-member group answered that they would routinely use a rubber dam. The percentages who use it on a daily basis were : 74.0%, 81.1%, and 28.6%, respectively. In addition, 65.3%, 61.1%, and 34.8% of these three groups answered that they would perform pre-endodontic build-up when necessary for root canal treatment. The JEA member group and the JEA endodontist group were aware of the necessity of the rubber dam isolation technique and pre-endodontic build-up, but the JEA non-member group seemed to have a low usage rate due to complexity and economic reasons. Conclusion : Compared to the 2003 study, it was revealed that the frequency of rubber dam use had increased significantly in both the JEA member group including the JEA endodontist group, and the non-JEA member group. In addition, more than half of the JEA member group and JEA endodontist group routinely perform pre-endodontic build-up, and one third in the non-JEA member group also perform it, suggesting increasing awareness of the importance of using a rubber dam in endodontic treatment.
著者
小田切 史徳 中里 祐二 秋山 泰利 島野 寛也 高野 梨絵 木村 友紀 塩澤 知之 田渕 晴名 林 英守 関田 学 戸叶 隆司 住吉 正孝 代田 浩之
出版者
一般社団法人 日本不整脈心電学会
雑誌
心電図 (ISSN:02851660)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.165-175, 2018-11-02 (Released:2018-12-28)
参考文献数
28

皮下植込み型除細動器(subcutaneous implantable cardioverter defibrillator : S-ICD)の有効性と安全性は,すでに海外の臨床試験データから示されているが,これらのデータに本邦での使用経験は含まれていない.今回,当施設におけるS-ICDの初期使用経験について報告する.対象は2016年3月から9月までに当施設でS-ICD植込みを行った7例と,対照として経静脈的植込み型除細動器(transvenous implantable cardioverter defibrillator : TV-ICD)植込みを行った10例である.患者背景,原疾患,検査所見,既往歴,内服薬,手術方法,作動状況などについて,両群で比較検討した.植込み術を施行された17例(S-ICD 7例およびTV-ICD 10例)を213±86(127〜312)日後まで観察した.S-ICD植込みを行った7例は全例男性で,平均年齢は46.3±14.1(34〜68)歳,BMI(body mass index)は23.3±2.6(20.7〜27.9)kg/m2であった.一次予防目的が4例,二次予防目的が3例であった.また,原疾患に関しては,虚血性心筋症2例,非虚血性心筋症2例,Brugada症候群などを含むその他が3例であった.S-ICD植込み群は,7例全例で術中に除細動テストを施行し,そのうちの1例はシステム位置の再調整を要した.観察期間内で,S-ICD植込み群およびTV-ICD植込み群ともに適切作動は見られなかったが,S-ICD植込み群において,2例の不適切作動が見られた.有害事象については,TV-ICD植込み群と有意差は認められなかった.S-ICDは,植込み時に本体・リードの位置に注意を要するものの,短時間で安全に植込み可能であった.当施設で経験した2例の不適切作動は,心房粗動波とノイズのいずれもオーバーセンシングが原因と考えられ,適切なスクリーニング方法,治療ゾーンの調整やセンシングベクトルの選択には今後の検討を要すると考えられた.(心電図,2018;38:165~175)
著者
林 秀之 山本 克也 水馬 義輝 佐藤 英男 塩田 良子 野村 知未 北 和貴 彦田 星香 杉山 寿美
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.29, 2017

【目的】ダッチオーブンは,厚い鋳鉄製の鍋であり,屋外ではふたの上に炭火を乗せて上下から加熱調理する小型オーブンのような鍋である。屋内では炭火ではなくガスコンロの魚焼きグリルにダッチオーブンを入れることで高温加熱を行うことが可能であり,材料を入れるだけの簡単さからその調理方法への関心が高まっている。しかし,ガスダッチオーブンで調製した料理に関する報告はなく,その嗜好特性等は明らかではない。本研究では,ガスダッチオーブンで調製したいくつかの料理の嗜好特性とうま味成分量について報告する。<br />【方法】ガスコンロの魚焼きグリルを熱源として,ダッチオーブンでアクアパッツァおよびラタトゥイユを調製した。アクアパッツァは11-13分の加熱と10分の余熱調理を,ラタトゥイユは14-18分の加熱と30分の余熱調理を行った。また,フライパン,片手鍋を用いた従来法も比較として行った。食材からのうま味成分の浸出の程度について,煮汁のアミノ酸分析,イノシン酸・グアニル酸分析をHPLCで,ナトリウム分析をICPで行った。官能評価は煮汁の塩分濃度が同じになるよう調整した試料について,女子大学生をパネルとして行った。<br />【結果】ダッチオーブン加熱は従来法と比較して,出来上がり重量,煮汁重量が多く,食材重量が少なかった。また,煮汁に含まれるグルタミン酸,ナトリウム量が多く,官能評価において,味が深く,好ましいとされた。この結果は,ダッチオーブン加熱が,煮汁や食材に由来するうま味成分,ナトリウム量を多く浸出することで,高い嗜好特性と料理に添加する食塩量を減少できることを示したものであり,高温かつ緩慢加熱であるダッチオーブンによる調理が食材の組織変化を促したためと推察された。
著者
成田 樹昭 落藤 澄 小林 三樹 長野 克則 船水 尚行
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.309-321, 1995-05-05 (Released:2009-10-22)
参考文献数
15
被引用文献数
2

寒冷都市の水が持つ熱エネルギーの評価とその利用の可能性の検討を,札幌市を例に行った.まず,河川水・地下水・水道水・下水の月別熱賦存量を算出し,下水についてはその排熱分布図を作成し,さらに上下水道系の熱エネルギーフローを推定することによって,都市内での水が持つ熱エネルギーの賦存状況を明らかにした.次いで,水の熱利用形態に応じ熱源としての利用可能性の検討を行った.以上のエンタルピー的評価に加え,熱力学に基づく評価指標を用いた質的評価も行なった.これらの検討の結果,下水処理場の排熱が最も有望であることがわかった.最後に,広域熱供給に下水処理場排熱を利用した場合,得られる1次エネルギー削減量を地域毎に算定し,その分布図を作成した.
著者
山下 崇博 小林 健 伊藤 寿浩
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会学術講演会講演論文集 2015年度精密工学会春季大会
巻号頁・発行日
pp.329-330, 2015-03-01 (Released:2015-09-01)

現在,高度経済成長期に整備されたインフラの損傷や老朽化に伴う事故が多発している。そこで,本研究ではインフラ構造物及びその構成部材の状態を常時・継続的・網羅的に把握するセンサシートを開発する。シリコンウェハ上に大きさ1mm角,厚さ5μm程度のひずみゲージチップを作製し,スタンピング転写によりPET基材上にアレイ状に実装することで,橋梁などに貼り付け可能な大面積フレキシブルセンサシートを実現する。
著者
若林 功
出版者
日本職業リハビリテーション学会
雑誌
職業リハビリテーション (ISSN:09150870)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.2-15, 2007-09-15 (Released:2011-03-23)
参考文献数
24

わが国では職場定着や離職予防の要因として働く障害者本人の職務満足度を取り上げた研究は少ない。本研究はミネソタ職業適応理論の枠組みを参考に、職務満足度は離職意図と関連しているのか、また職業上の希望実現度は直接的に離職意図に影響しているのか、それとも職務満足度を媒介し影響を与えているのかを明らかにすることを目的とした。質問紙による調査を実施し、得られたデータをカテゴリカル回帰分析等により分析した結果、以下のことが明らかになった。(1) 職務満足度は離職意図と関連している。(2) 職務満足度と離職意図の関連の程度は障害種類により異なる。(3)「仕事の達成感」「労働条件」等職務満足度を構成する下位要素と離職意図の関係は障害種類によって異なる。(4) 就職時の希望条件が実現していないことや希望する配慮の実現していないことは、直接的に離職意図に影響しているのではなく、職務満足度を媒介して離職意図に影響を与えている。
著者
小林 忠雄
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.393-415, 1990-03-30

The purpose of this paper is to grasp the color culture mainly of the urban environment in Japan from the viewpoints of the history and folklore, and discusses what sort of materials should be aimed at as the subjects.Firstly, the ranking system of colors of the clothes and the symbolism in the ancient and middle ages in Japan are outlined. Then, the actual states of colors of dresses, props., theatesr, etc. used for “Izumo Kagura”, a folk art currently performed in mountain villages in Izumo-city, Shimane Prefecture are shown. Since this is an art using a myth as its theme, a question is proposed that the symbolism of color in the ancient and middle ages may lie behind.Further, from “Comprehensive folk vocabulary in Japan” compiled by Yanagita Kunio and other folklorists, the words that show four colors, white, black, red and blue are extracted and the symbolisms of the folk natures are described. Combinations of colors such as white and black, white and red, white, black and red, etc. are shown as the basic subjects of color symbolism in the folklore in Japan, referring the examples of Akamata/Kuromata ceremonies in Yaeyama Islands, Okinawa Prefecture.Finally, the words of 783 popular songs often sung by the Japanese are studied to check what sort of color image they have. The result shows that words representing the colors are used frequently in the order of white, red, blue, seven colors and black. In it, color preference and folk symbolism unique to Japanese are included. It is emphasized that the historical study on the color sense of the Japanese is important as one of the subjects of methodology of the folklore study.
著者
三木 貴弘 藤田 直輝 竹林 庸雄
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.116-124, 2019 (Released:2019-04-20)
参考文献数
29

【目的】近年,症状ごとに患者を分類し,対応する特異的介入を行う方法が提言されており,頸部痛において,Treatment Based Classification(以下,TBC)と呼ばれる分類法が提唱されている。今回,頸部痛に対しTBC を基に臨床推理を行い,生物心理社会的モデルに基づいた介入を行ったので報告する。【症例と経過】安静時・夜間の頸部痛が主訴であり,些細なことでも頸部痛が増強するのではないかと不安になることが多い70 歳代男性であった。患者情報および客観的評価よりExercise and conditioning に分類し,「患者教育」「頸部筋および肩甲骨周囲筋の筋持久力および協調性改善」「有酸素運動」を中心とした介入を約5 週間行った。【結果】愁訴は軽減し,さらに痛みに対して前向きに捉える発言が多くなった。【結語】頸部痛をTBC を基に分類し,多面的な介入を行うことで効果を上げることが可能であった。
著者
市川 賢 前山 彰 小田 大嘉 中山 鎭秀 石松 哲郎 小林 知弘 鎌田 聡 山本 卓明
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.70, no.4, pp.630-633, 2021-09-25 (Released:2021-11-12)
参考文献数
6

【背景及び目的】内側型変形性膝関節症に対するOWHTOは良好な長期成績が報告されている.インプラントの長期留置に伴う破損,違和感等の合併症が報告され,本邦では抜釘術が行われる傾向にある.一方,抜釘術自体に伴う感染・神経損傷等の危険性もあり海外では抜釘術に関しては一定の見解はない.また,これまでに抜釘術の術後評価を行った研究はない.研究の目的はOWHTOの抜釘術の満足度を調査することである.【対象及び方法】2015年4月から2020年3月までにOWHTOの抜釘術を施行し術後満足度を調査可能であった25例28膝.抜釘術の満足度をアンケートを用いて評価し,術前後の臨床評価スコアとの関連を調査した.【結果】VAS,NRSが術前後でそれぞれ有意に低下を認めた(P<0.05).82%の患者に抜釘術に対して満足/非常に満足との回答が得られた.【結論】OWHTO後の抜釘術により患者満足度は向上する.
著者
津布久 咲子 吉田 久雄 林 明人
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.290, 2011

【はじめに】ROM制限に対する理学療法の手技は様々であるが、超音波療法については報告も少なく、また肯定的な意見も少ない.今回、超音波療法を運動療法と共に併用することで、高度なROM制限が改善した症例を担当したので、超音波療法の治療効果についての文献も加え報告する.尚、報告に際しては本人より同意を得た.<BR>【症例紹介】54歳男性.診断名:右膝化膿性膝関節炎.H22.5.8夜間に突如、右膝関節痛出現.5.27体動困難となり、当院に緊急入院となった.5.31関節鏡下滑膜切除・洗浄デブリードメント術施行(~6/3まで持続灌流).6.8理学療法を開始.7.7より超音波療法を開始.9.27理学療法を終了.<BR>【治療経過】<B>開始時</B>画像所見:X-P上、骨関節の明らかな異常所見(-) 炎症値:CRP10.1mg/dl 視診:右膝関節の腫脹(+) 触診:右ハムストリングスの短縮(+),右膝蓋大腿関節の可動性は全方向に認められず 疼痛:右膝関節周囲に常時出現 ROM:右膝屈曲60°伸展-20°移動:NWBでの歩行は疼痛により持続困難で、車椅子利用<BR><B>超音波療法開始時(術後5週)</B>炎症値:CRP<0.3mg/dl 触診:右膝蓋大腿関節の可動性は健側と比して頭尾側に1/2程度、内外側に1/3程度と低下していた 疼痛:右膝関節内側裂隙に荷重時痛(+),右膝屈曲時に膝蓋骨下を水平に走る疼痛(+) ROM:右膝屈曲90°伸展-20°移動:荷重時痛のため1/2~2/3PWBでの両松葉杖歩行<BR><B>終了時(術後17週)</B>疼痛:屋外歩行時に荷重時痛(+) ROM:右膝屈曲135°伸展-5 °移動:独歩・一足一段での階段昇降可能<BR>【超音波療法の設定】治療部位:右膝蓋骨下軟部組織 方法:直接法、温熱モード 周波数:1MHz 強度:1.0~1.5W/cm<SUP>2 </SUP>治療時間:10分 連続性:100% 頻度:2~3回/週(計15回)<BR>【考察】今回担当した症例は、高度なROM制限を呈しており、ROM改善に難渋した.ROM制限の要因として、膝蓋骨下軟部組織の柔軟性低下が関与していると考え、同部位の柔軟性獲得を目的に術後5週目より温熱療法を併用した.超音波療法は、物理療法の中でも特に深達性の温熱効果が得られるため、本症例に適応があると考えた.物理療法の温熱効果に関しては、Lehmannらの動物実験から『軟部組織の伸張性向上に温熱療法は有効である』、沖田らの動物実験から『拘縮の治療として温熱療法と運動療法の併用は有効である』とあるが、臨床においては『温熱効果の有用性を示唆する』といった内容の報告に留まっている.しかし、今回の症例ではROMの改善を得て、さらにADLの改善にもつながった.治癒過程における組織学的変化や退院後の活動量増加など他の要因も考えられるが、他の文献と同様にROM改善の一助として超音波療法も有効であるのではないかと考えられた.
著者
林 直保子
出版者
数理社会学会
雑誌
理論と方法 (ISSN:09131442)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.19-32, 1993
被引用文献数
1

これまで行われてきた囚人のジレンマ(PD)研究は、PDを孤立した2者関係として捉えるにとどまり、集団内に存在する2者間におこる状況として捉えることをしてこなかった。本稿では、3者以上の集団と、その中に生れる複数のPD関係を考えることにより、従来のPD研究の限界を克服することを目指している。そのために本稿では、集団の各成員が自分のつきあう相手を選択し、相互指名によってPD関係が成立するという状況――「ネットワーク型囚人のジレンマ」を設定する。このような状況では、特定の2者間に将来の関係が保証されていないために、PDにおける戦略的行動によって相互協力関係を築くことは難しくなる。従ってこのような選択的交際状況においては、孤立した2者PDにおける相互協力達成のためには最も有効であるとされてきたtit-for-tat(TFT)戦略は、そのままの形で有効性を発揮することはない。本稿では、ネットワーク型PD状況ではどのような戦略が可能で、また有効なのかということを調べるために、Axelrod(1984)が同一相手との反復PDにおいて行った「戦略のコンピュータ選手権」という方法をネットワーク型PDに用いた。その結果ネットワーク型PD状況で最も有効な戦略は、相手の裏切りに対しては非指名という形で対応するout-for-tat(OFT)戦略であることが明らかにされた。このOFT戦略は、TFTと非常に良く似た性質をもつ戦略であり、対象選択レベルに適用されたTFTと言うことができる。
著者
三木 千栄 小野部 純 鈴木 誠 武田 涼子 横塚 美恵子 小林 武 藤澤 宏幸 吉田 忠義 梁川 和也 村上 賢一 鈴木 博人 高橋 純平 西山 徹 高橋 一揮 佐藤 洋一郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ed0824, 2012

【はじめに、目的】 本学理学療法学専攻の数名の理学療法士と地域包括支援センター(以下、包括センター)と協力して、包括センターの担当地域での一般高齢者への介護予防事業を2008年度から実施し、2011年度からその事業を当専攻で取り組むことした。2010年度から介護予防教室を開催後、参加した高齢者をグループ化し、自主的に活動を行えるよう支援することを始めた。この取り組みは、この地域の社会資源としての当専攻が、高齢者の介護予防にためのシステムを形成していくことであり、これを活動の目的としている。【方法】 包括センターの担当地域は、1つの中学校区で、その中に3つの小学校区がある。包括センターが予防教室を年20回の開催を予定しているため、10回を1クールとする予防教室を小学校区単位での開催を考え、2010年度には2か所、2011年度に残り1か所を予定し、残り10回を小地域単位で開催を計画した。予防教室の目的を転倒予防とし、隔週に1回(2時間)を計10回、そのうち1回目と9回目は体力測定とした。教室の内容は、ストレッチ体操、筋力トレーニング、サイドスッテプ、ラダーエクササイズである。自主活動しやすいようにストレッチ体操と筋力トレーニングのビデオテープ・DVDディスクを当専攻で作製した。グループが自主活動する場合に、ビデオテープあるいはDVDディスク、ラダーを進呈することとした。2010年度はAとBの小学校区でそれぞれ6月と10月から開催した。また、地域で自主グループの転倒予防のための活動ができるように、2011年3月に介護予防サポーター養成講座(以下、養成講座)を、1回2時間計5回の講座を大学内で開催を計画した。2011年度には、C小学校区で教室を、B小学校区で再度、隔週に1回、計4回(うち1回は体力測定)の教室を6月から開催した。当大学の学園祭時に当専攻の催しで「測るんです」という体力測定を毎年実施しており、各教室に参加した高齢者等にそれをチラシビラで周知し、高齢者等が年1回体力を測定する機会として勧めた。A小学校区内のD町内会で老人クラブ加入者のみ参加できる小地域で、体力測定と1回の運動の計2回を、また、別の小地域で3回の運動のみの教室を計画している。また養成講座を企画する予定である。【倫理的配慮、説明と同意】 予防教室と養成講座では、町内会に開催目的・対象者を記載したチラシビラを回覧し、参加者は自らの希望で申し込み、予防教室・養成講座の開催時に参加者に対して目的等を説明し、同意のうえで参加とした。【結果】 A小学校区での転倒予防教室には平均26名の参加者があり、2010年11月から自主グループとして月2回の活動を開始し、現在も継続している。B小学校区では毎回20名程度の参加者があったが、リーダーとなる人材がいなかったため自主活動はできなかった。2011年度に4回コースで再度教室を実施し、平均36名の参加者があった。教室開始前から複数名の参加者に包括センターが声掛けし、自主活動に向けてリーダーとなることを要請し承諾を得て、2011年8月から月2回の活動を始めた。A・B小学校区ともにビデオあるいはDVDを使用して、運動を実施している。C小学校区では2011年6月から教室を開始し、平均14名の参加者であった。教室の最初の3回までは約18名の参加であったが、その後7名から14名の参加で、毎回参加したのは3名だけで自主活動には至らなかった。2010年度3月に予定していた養成講座は、東日本大震災により開催できなかったが、25名の参加希望者があった。A小学校区内の小地域での1回目の予防教室の参加者は16名であった。大学の学園祭での「測るんです」の体力測定には139名の参加者があり、そのうち数名であるが教室の参加者も来場された。【考察】 事例より、予防教室後に参加者が自主活動するには、活動できる人数の参加者がいること、リーダーとなる人材がいること、自主活動の運営に大きな負担がないことなどの要因があった。自主グループの活動やそれを継続には、2011年3月の地震後、高齢者の体力維持・増進が重要という意識の高まりも影響を及ぼしている。C小学校区の事例で、自主活動できなかった要因を考えるうえで、A・B小学校区と異なる地域特性、地域診断を詳細にする必要性があると考える。リーダーを養成することでC小学校区での高齢者が自主活動できるか検討する必要もある。高齢者の身体状況に合わせて、自主活動できる場所を小学校区単位、小地域単位で検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】 介護予防事業を包括センター、予防事業所などだけが取り組む事業ではなく、理学療法士が地域の社会資源としてそのことに取り組み、さらに介護予防、健康増進、障害、介護に関することなどの地域社会にある課題を住民とともに解決するための地域システムを構築していくことは、現在の社会のなかでは必要であると考える。