著者
森 周平 山田 実 青山 朋樹 永井 宏達 梶原 由布 薗田 拓也 西口 周 吉村 和也 國崎 貴弘 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ea0956, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 高齢者に於ける転倒は様々な要因との関連が報告されており,筋力・歩行速度・バランスといった身体機能の低下などの内的要因の悪化により転倒リスクが上昇することは多くの先行研究により証明されている.内的要因としては,身体能力以外に転倒恐怖感や自己効力感といった心理的要因が転倒と関連することが報告されている.しかしこれらで心理的要因の全てを説明しているとは言い難く,転倒者の性格が関与する可能性も示されている.そこで我々は熟慮的に行動する者よりも,衝動的に行動する者のほうが,転倒発生が多いという仮説を立て,本研究の目的を,地域在住高齢者に於ける衝動性と転倒との関連を明らかにすることとした.【方法】 対象は地域が主催する健康イベントに参加した65歳以上の高齢者246名(男性:40名,年齢:72.7 ± 5.8歳)とした.除外基準は認知機能の低下により会話・問診による聞き取りが困難な者,歩行の安定性を障害する明らかな疾患を有する者とした.性格の評価には,滝聞・坂元により作成された認知的熟慮性―衝動性尺度を用いた.この尺度は認知判断傾向に関する測定尺度で,「何でもよく考えてみないときがすまないほうだ.」などの10項目の文章に対し,自分があてはまるかを判断しそれぞれ4段階(4:あてはまる,3:どちらかと言えばあてはまる,2:どちらかと言えばあてはまらない,1:あてはまらない)で評価を行い(合計10~40点),点数が高いほど熟慮性が高い(衝動性が低い)ことを示すものである.さらに,過去一年間の転倒経験の有無と,転倒恐怖感の有無とを問診にて聴取した. 統計解析としては,転倒経験を有する群と有さない群との間の,認知的熟慮性―衝動性尺度の点数をMann-WhitneyのU検定にて比較し,その後転倒経験の有無を従属変数,転倒恐怖感の有無,認知的熟慮性―衝動性尺度の点数を独立変数として,年齢,性別を調整変数とした強制投入法による多重ロジスティック回帰分析を行った.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は京都大学医の倫理委員会の承認を受け,書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し,同意を得られた対象者に対して実施した.【結果】 転倒経験の有る者は71名,転倒恐怖感を有していた者は125名であった.認知的熟慮性―衝動性尺度の点数に於いて,転倒経験を有する群(26.7 ± 5.7点)は有さない群(28.3 ± 4.9点)に比べて有意に低かった(p < 0.05).さらに多重ロジスティック回帰分析の結果,転倒恐怖感を有すること(p < 0.01,オッズ比 = 4.0),熟慮性が低い(衝動性が高い)こと(p < 0.05,オッズ比 = 0.9),共に有意な説明変数として抽出された(R2 = 0.19).またHosmerとLemeshowの検定の結果,p = 0.463と回帰式は適合していた.【考察】 先行研究に於いて,心理的特性として転倒との関連が報告されているのは転倒恐怖感や自己効力感などであり,性格との関連を検討した報告は存在しなかった.しかし今回の研究により,高齢者個々人の性格の要素に当たる認知的熟慮性―衝動性が転倒経験と関連しており,転倒経験を有する群では転倒経験を有さない群に比べて熟慮性が低い(衝動性が高い)ことが明らかとなった.また,同様に心理的特性である転倒恐怖感とは別の説明変数として抽出されたことから,それぞれは独立して転倒に関わっていることが示された.しかし,今回の研究は後ろ向きの研究であることから,転倒恐怖感については転倒後症候群として転倒の結果発生した可能性を留意すべきである.より衝動的であることが転倒と関連していたことから,日常生活の中で熟慮的に行動する者に比べ,衝動的に行動する者のほうが周囲への注意を怠り,転倒の起因となる危険な動作に結びつく可能性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】 衝動性が高い,低いといった性格に関することは一概に善悪で語ることが出来ず,衝動的であるからといって性格を改める介入などは行うべきではないと考える.しかし今回の結果を踏まえ,衝動的な者は熟慮的な者に比べ転倒の可能性が高いということを本人,周囲が理解した上で,衝動的な動作などを抑えることが出来れば転倒を防止することが出来る可能性があると考える.よって,衝動的な性格であるが故に行ってしまいそうな危険行動に対して留意させる介入が必要であることが示唆された.
著者
梶田 真
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.99-117, 2011-03-01 (Released:2015-09-28)
参考文献数
64
被引用文献数
4 3

本稿では,政策的・社会的背景と関連づけながらBleddyn Daviesの研究を展望し,彼の研究のどの部分がどのような観点から地理学者によって注目・受容されたのか,そして,両者の関係がどのように変化していったのかを考察した. Daviesが地域的公正概念を案出した主たる契機は,10カ年保健福祉計画にあると考えられ,福祉国家の時代における彼の研究は問題告発的なものにとどまらず,問題解決のための政策や制度のデザインにまで広がっていた.福祉国家が転換期を迎えた1970年代後半以降,Daviesと彼を所長とするPSSRUのメンバーはより安い費用でよりよい効果を達成することができるケアシステムの提案のために注力した.彼等の努力はコミュニティケア実験プロジェクトと福祉の生産アプローチに結実した.1970年代における公共サービスの地理学の台頭の中で,地理学者は彼の地域的公正概念に注目した.しかし,体制批判的なスタンスが英語圏地理学において支配的な地位を獲得した1980年代以降,地域的公正概念は改良主義者の道具として強く批判されるようになり,後期のDaviesやPSSRUの研究はほとんど紹介・参照されることはなかった.
著者
梶田 真
出版者
The Association of Japanese Geographers
雑誌
地理学評論 (ISSN:13479555)
巻号頁・発行日
vol.78, no.13, pp.913-927, 2005-11-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
23
被引用文献数
4 1

本稿では経営事項審査データを基に地方圏における土木業者の本店立地の空間パターンを分析した.分析の結果,(1)地方圏に本店を置く業者は完成工事高の規模や支店配置の面で全国ゼネコンとは明らかに区別される,(2)都道府県を超えた営業活動を行っている大規模土木業者の本店がある少数の道県を除いて,地方圏の各県では1位業者の完成工事高規模が62億円から81億円の間に集中し,県内における1位業者の卓越性が低い点で業者構造の類似性が高い,(3)極端に圏域の人口規模が小さい場合などを除き,地方圏の道県の土木関連部署のほとんどの出先機関の管轄域内には平均完成工事高10億円以上の土木業者の本店が立地している,という3点が明らかになった.(3)の知見は発注機関が入札において管轄域内に本店を置く業者を優先的に取り扱っていることによるものであり,発注機関の管轄域の編成が地方圏全域において土木業者の本店立地を強く規定していることが確認された.
著者
山根 康嗣 下田 一宗 黒田 浩一 梶川 翔平 久保木 孝
出版者
一般社団法人 日本塑性加工学会
雑誌
塑性と加工 (ISSN:00381586)
巻号頁・発行日
vol.62, no.720, pp.1-7, 2021 (Released:2021-01-25)
参考文献数
25

This paper discusses the effect of inclusions on internal fracture in skew rolling. The prediction of internal fractures is crucial given that internal fractures cause loss of product strength and are difficult to detect. Our previous report, published in 2019, proposed a new ductile fracture criterion that considers the effect of shear stress on void coalescence in a cylindrical coordinate system. This paper covers the following three points: (1) the evaluation of the hot workability of materials with different inclusions in tensile testing, (2) the relationship between the hot workability and the damage value determined using the proposed criterion, and (3) the effect of inclusions on void evolution in skew rolling. Given that the critical damage value decreased with decreasing hot workability, internal fractures are more likely to occur in a material that contains numerous large inclusions. The experimental results led to the hypotheses that the plastic strain nucleates the voids originating from inclusions and that shear stress allows the voids to coalesce. This study has demonstrated that decreasing the diameter and number density of inclusions is effective toward suppressing internal fractures.
著者
梶 克彦 磯村 奎介 高井 飛翔
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.235-245, 2021-01-15

歩行者のステップ認識は,屋内位置推定の一手法である歩行者自立航法(PDR)の構成要素として利用されているほか,歩数計・活動量計といったヘルスケアアプリケーションの根幹を担っている.ステップ認識には,歩行の際にセンサ信号が顕著に周期的な変化を示す加速度センサを用いるのが一般的である.我々はその代替として,角速度や磁気センサによって腰回転をとらえてステップ認識を行う手法を提案してきた.本稿では気圧センサを利用したステップの認識を行う手法について提案する.我々はスマートフォンを手持ちして意識的に腕振りをした場合,密閉型の腰巻きケースにスマートフォンを装着した場合,ズボンのポケットに装着した場合などについて,気圧センサの値が歩行にともなって周期的に変化する現象を発見した.この周期的な変化を,デジタルフィルタ・極値発見・閾値処理といった単純なアルゴリズムでとらえてステップ認識を行う.評価実験によって,推定誤差7.5%程度のステップ推定が可能であると確認できた.このような代替センサによるセンシングは,デバイスやシステム構成時に必要となるセンサ数の削減による省電力化,デバイス小型化,コンピュータリソースの開放につながる.たとえば活動量計は歩数や階段昇降といった情報から計算できるため,従来の活動量計はステップを加速度センサから取得し階段昇降は気圧センサから取得するが,本研究の成果を導入すれば,気圧センサのみによる活動量計の実現が期待できる.
著者
前梶 健治
出版者
公益社団法人 日本農芸化学会
雑誌
日本農芸化学会誌 (ISSN:00021407)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.251-257, 1978 (Released:2008-11-21)
参考文献数
14
被引用文献数
12 16

コンニャクマンナン(KM)のゲル化機構を明らかにするため,ゲル化過程におけるレオロジカルな変化の速度論的な解析を試みた. 1. KM溶液(約1%)のゲル化過程をアミログラフで追跡し,再現性あるアミログラムを得た.このアミログラムの形状は,ゲル化過程で観察される現象とよく対応した. 2. ゲル化過程で,凝固剤添加時からゲル化の開始時までの時間を誘導期(tC)とし,これを脱アセチル化反応と仮定すれば,ゲル化の現象を合理的に説明することができた.しかし,他の測定値からはそのようなパラメーターは得られなかった.そして,1/tCを誘導反応の速度に比例する値と仮定して反応の活性化エネルギーを求めると11.6kcal/molとなった. 3. KMを鹸化し,そのときの活性化エネルギーを求めると11.8kcal/molとなり,アミログラフを使用して求めた誘導反応のそれとよく一致した. 4. 以上の結果から,アミログラフで測定されるtCの値は,脱アセチル化に要する時間で,1/tCはその反応速度定数に比例する値と考えられる.したがって, KMのゲル化における誘導反応については1/tCを用いて速度論的に解析することが可能と思われる。
著者
鳴海 拓志 伴 祐樹 梶波 崇 谷川 智洋 廣瀬 通孝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.1422-1432, 2013-04-15

本研究では,拡張現実感を利用することで満腹感の手がかりとなる要因を操作し,同量の食事から得られる満腹感を操作する「拡張満腹感」システムを提案する.近年の心理学や行動経済学等の研究の進展により,食事から得られる満腹感は,食事そのものの量だけでなく,照明環境や環境音,盛りつけや見た目の量,一緒に食べる人数等,食事の際の周辺の状況に暗黙のうちに大きく影響を受けることが明らかになってきている.こうした知見に基づき,食事そのものを変更するのではなく,満腹感に寄与する要素に対する知覚を変化させることで,満腹感と食事摂取量の非明示的な操作が可能になると考えた.そこで,満腹感に影響を与える要素の1つである食品の見た目の量に着目し,リアルタイムに視覚的な食事ボリュームを変化させてフィードバックする拡張満腹感システムを構築した.このシステムでは,デフォーメーションアルゴリズムであるrigid MLS methodを利用して食品を握る手を適切に変形することで,手のサイズは一定のまま,対象となる食品のみを拡大・縮小することができる.実験により提案システムがユーザの食品摂取量に影響を与えるかを評価したところ,得られる満腹感は一定のまま食品摂取量を増減両方向に約10%程度変化させる効果があるという結果が得られ,提案システムが無意識的に満腹感を操作し,食品摂取量を変化させる効果があることが示唆された.
著者
梶川 武信
出版者
安全工学会
雑誌
安全工学 (ISSN:05704480)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.477-484, 2014-12-15 (Released:2016-07-30)
参考文献数
10

熱電発電とは,2 つの異種導体を接合し,閉ループを作り,この2 つの接合部間に温度差を与えると起電力が発生し電流が流れるというゼーベック効果を利用した直接発電である.近年,材料性能の向上による熱電技術の成熟とエネルギー有効利用技術への社会ニーズの高まりにより,従来の数100 W 級発電から1 桁以上大きい,数kW から10 kW 級熱電発電システムの実証実験が開始されつつあり,その事例を紹介している.熱電発電の実用化はまだ未成熟であり,安全性の観点からの分析は第一歩を踏み出したばかりである.熱電側のトラブルが排熱源である主システムの動作に影響を与えないという制約の下で,熱電発電の特徴とリンクしたシステムの安全性の考え方について紹介している.
著者
梶山雄一 [ほか] 責任編集
出版者
講談社
巻号頁・発行日
1991
著者
齊藤 有里加 下田 彰子 梶並 純一郎 小川 義和
出版者
一般社団法人 日本科学教育学会
雑誌
日本科学教育学会年会論文集 (ISSN:21863628)
巻号頁・発行日
pp.493-496, 2020 (Released:2020-11-27)
参考文献数
3

理系学芸員課程の授業教材として,モバイル端末アプリケーションiNaturalistを使った体験を実施した.演習は国立科学博物館付属自然教育園で行われ,動植物の管理,保存,活用についてレクチャーと,植生管理のための生物モニタリングの試みとしてiNaturalistのシステムを紹介し,「バイオブリッツ」を体験し,ディスカッションとアンケートを行った.本発表では,大学生がiNaturalistを操作し,博物館資料として野外生物情報を習得し,公開するまでの過程を紹介し,野外博物館の資料特性理解の効果について考察する。
著者
梶山 正明
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.65, no.9, pp.440-443, 2017-09-20 (Released:2018-03-01)
参考文献数
6

高校生の多くは,有機化学は覚えるものだと思っている。確かに,教科書には数多くの化合物が並び,その構造や名称を覚えるだけでも精一杯である。しかし,そのために身近な物質が多い有機化合物について,深く学ぶ意欲を失い,人生を豊かにする知識や考え方を得ることができなくなるのは残念である。「化学基礎」で学んだ,共有結合や結合の極性の理論をはじめとする化学の本質でもある電子の振る舞いによって,有機化合物の性質や反応を学ぶことで有機化学の学習のイメージを変え,文字通り「生命」を吹き込みたい。