著者
重安 哲也 松野 浩嗣 森永 規彦
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.45, no.8, pp.793-800, 2004-08-15

IEEE802.11bを始めとする無線LAN(Local Area Network)技術は,高度情報通信社会環境を構築する上でも欠かすことのできない社会基盤技術の1つとして位置づけられているそこで,本稿ではすでに普及段階にあるものから,標準化作業中のものを含めた無線LAN各規格を概観するとともに,各規格中で規定されているプロトコルに関する簡単な解説を行う.なお,無線LAN技術標準の中にはIEEE802.11のようにIEEE802委員会が標準化を行っているものや,欧州のETSI-BRAINが策定するHIPERLAN/2や,ARIB STD-T70として標準化されたHiSWANa (High Speed Wireless Access Network a)などさまざまなものがあるが,今回はIEEE各規格に限定して概観する. "
著者
今泉 光雅 大森 孝一
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.209-212, 2015

外傷や炎症,術後に形成される声帯瘢痕は治療困難な疾患である.その治療は,動物実験や臨床応用を含めて,ステロイド薬や成長因子の注入,種々の細胞や物質の移植などにより試みられているが,現在まで決定的な治療法がないのが実情である.2006年,山中らによってマウス人工多能性幹細胞(iPS細胞)が報告された.2007年,山中らとウイスコンシン大学のDr. James Thomsonらは同時にヒトiPS細胞を報告した.iPS細胞は多分化能を有し,かつ自己由来の細胞を利用できるため声帯組織再生の細胞ソースの一つになりうると考えられる.本稿では,幹細胞を用いた声帯の組織再生について述べるとともに,ヒトiPS細胞を,in vitroにおいて声帯の上皮細胞に分化誘導し,声帯上皮組織再生を行った研究を紹介する.
著者
森 健作
出版者
日本メディカルセンター
雑誌
臨牀消化器内科 (ISSN:0911601X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.8, pp.1159-1163, 2014-06-20

RFA前後の造影CTの比較による従来の焼灼マージン評価は,主観的で不正確であり局所再発の原因となる.SPIOを投与してからRFAを行って3日後以降のT2強調画像では,焼灼マージンが低信号帯として抽出される.焼灼マージンの状態(AM-plus,AM-zero,AM-minus)を客観的に評価することで,局所再発の危険性を正確に予測できる.
著者
森 永壽
出版者
公益財団法人 集団力学研究所
雑誌
集団力学 (ISSN:21872872)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.62-86, 2015-12-28 (Released:2015-06-12)
参考文献数
36

本稿では、島根県松江市におけるドキュメンタリー映画「ひめゆり」の市民上映会(2008 年7 月)及びその後の活動を、「野火的活動」の概念を用いて考察する。 松江市における「ひめゆり」の市民上映は、友人から「島根でも上映ができないか」と相談を受けたT が、素人ばかりの上映実行委員会を立ち上げてはじまった。実行委員会の参加メンバーは固定されなかったにも関わらず、上映のみならず、趣向を凝らした関連展示や、高校での上映に対する資金補助まで行った。一連の活動が終わると実行委員会は自然消滅したが、その後の他所での上映会や関連の活動のきっかけになった。 これまで市民活動の分析にはネットワーク論がよく使われたが、メンバーの入れ替わりも多く、飛び火するように展開することもあり、分析には限界があった。しかし、Engeström は、こうした市民活動を「野火的活動(wildfire activities)」、すなわち「ある場所から消えてなくなったかと思えば、全く別の場所であるいは同じ場所でも長い潜伏期間の後、急に出現して活発に発達するといった独特な能力」を持つ活動(エンゲストローム, 2008)として重要視する。 「野火的活動」は、「痕跡による協同(stigmergy)」とよばれる自己組織化のメカニズム、すなわち、ある行為によって環境に残された痕跡が、続く行為を刺激し、また環境に痕跡を残すメカニズムによって継続・拡張する。このメカニズムによって、組織化や事前計画がないままでも、複雑で、知的な協同がなされるプロセスを記述することができる。 「野火的活動」及び「痕跡による協同」の概念を用いて市民上映活動を考察し、①活動を通じて「上映」に新しい意味が加わり、活動終了後は「痕跡」となって次の活動のきっかけとなったこと、②メーリングリストを通じた上映活動の言語化によって、活動に参加しやすくなると同時に、活動の内容が変化しやすくなったこと、③メーリングリストだけによらず、顔をつきあわせて議論することで、メンバーが離散することなく、活動が具体化し、発展したことを確認した。 野火的活動の概念は、市民活動の分析のみならず、未知のものや事象に関わるときの原初的な形態である。集団と社会との関わりを明らかにしていくことは、新たな理論や可能性を導き出す「生成的能力」(Gergen, 1994)を高めると考えられる。
著者
森 章
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.283-291, 2009-11-30 (Released:2018-02-01)
参考文献数
44
被引用文献数
3

森林は陸域の生物相の約65%を支えており、森林における生物多様性の保全は、多くの分類群の保全につながる。しかし、人為の影響を欠いた森林はごく僅かで、多くの森林が人間の生活活動の場である。そのような森林においても、生態系の人為改悪を防ぎ、生物多様性の保全という機能を持たせることが、これからの持続可能な森林管理における主要課題である。本研究では、「自然生態系、生態プロセス、生物多様性の保全を主目的にしていない景観中のエリア」と定義される"マトリックス"において、如何に生物多様性に配慮するか、配慮できるか、その重要性を論じる。そこで、日本と同様に森林面積が高く、保護区率の低いスウェーデンでのマトリックスマネジメントの事例に着目した。スウェーデンでは、歴史的に長い間、人間活動が行われ、土地所有形態も零細かつ複雑になっている。国や地方自治体が大規模な自然保護区や国有林を一元的に所有・管理できる状況ではなく、国有林面積は僅か7%ほどで、民有林が国土の大半を占めている。しかし、スウェーデンでは、各土地所有者が生産性だけに焦点を当てた森林施業を行うわけではなく、生物多様性に配慮した新しい森林施業・管理を行っている。国立公園や自然保護区といった法的な保護対象となる森林の保全だけでなく、希少種の生育する潜在性の高い森林を数多くの私有地に指定し、伐採せずに保護している。また、伐採活動を行う施業林においても、伐採時に全ての樹木を伐採、搬出するのではなく、動植物相のための住み場所としての樹木や枯死木を残しておくといった、生態系の機能や生物多様性に対する配慮がなされている。つまり、スウェーデンでは、マトリックスの中に存在する、経済活動の対象となる森林において、如何にして生物多様性に配慮しながら管理、保全するのかを重要視している。このようなスウェーデンで実施されている新しい森林管理は、人為影響を受け続けた日本の森林生態系の保全、復元、そして管理に対しても、非常に重要な示唆を含んでいると考えられる。
著者
永田 一範 藤庭 由香里 森藤 武
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab1342, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 骨格筋を構成する筋線維は遅筋線維と速筋線維に大別される。多くのヒトにおける研究では、骨格筋に対するスタティックストレッチングは、Ib抑制により伸張反射を抑制させ、最大筋力を低下させるといわれており、スポーツ競技のパフォーマンス直前には推奨されていない。しかし、動物モデルにおいて、遅筋線維では速筋線維と比較して、骨格筋の持続伸張によりCaイオン濃度が上昇し、筋張力は増大すると報告されており、筋線維タイプの違いによりストレッチング後の筋張力発揮に違いがあることが示唆されている。スタティックストレッチングは臨床場面、及びスポーツ現場で頻繁に使用される手技であり、遅筋線維と速筋線維に分けて、その影響を検証することは重要である。そこで、我々は、ヒトにおいて、遅筋線維優位のヒラメ筋と速筋線維優位の前脛骨筋に対してスタティックストレッチングを実施し、それぞれのストレッチング前後におけるピークトルクを体重で除したピークトルク値(%BW)とピークトルク値が検出されるまでのピーク時間(sec)の変化を検証した。【方法】 対象は、健常男性31名(年齢25.6±3.5歳)とし、除外基準は、下肢に整形外科疾患を有する者や腰部・下肢に痛みのある者とした。測定には、CYBEX NORM(Computer Sport Medicine社製)を使用した。測定肢位は背臥位とし、ヒラメ筋と前脛骨筋が主動作筋として関与する膝関節屈曲位での足関節底屈と背屈運動を、最大筋力にて3回反復させた。角速度は毎秒15°に設定し、ピークトルク値とピーク時間を測定し、3回中の最大値を採用した。そして、10分間の安静をとらした後、スタティックストレッチングを30秒行い、その直後に再び足関節底屈と背屈のピークトルク値とピーク時間を測定した。統計処理にはt検定を使用した。(p<0.05)【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には本研究の主旨および手順を説明し、参加の同意を得て実施した。【結果】 ストレッチング後の足関節底屈のピークトルク値は、ストレッチング前と比較して7%増大し有意に高い値を示した(p>0.05)。一方、足関節背屈のピークトルク値は、ストレッチ前後において有意差を示さなかった。また、足関節底屈と背屈のピーク時間においては、ストレッチング前と後の値では有意差を認めなかった。【考察】 本研究において、スタティックストレッチングは、ストレッチング前と比較して、足関節底屈のピークトルクを有意に増加させ、ヒラメ筋の様な遅筋線維の割合が多い骨格筋では、スタティックストレッチングは筋出力を増加させる可能性が示唆された。これは、ストレッチングにより遅筋線維の筋張力が増大したことによるものと考える。筋収縮は、筋小胞体から放出されたCaイオンが、トロポニンと結合するとアクチンフィラメントが活性化され、ミオシンフィラメント頭部と連結橋を形成し、筋張力の大きさは活動する連結橋の数に比例すると報告されている。また、遅筋線維は速筋線維に比べてCaイオンに対する感受性が高いと言われている。これらのことから、遅筋線維では、速筋線維と比べ、持続的筋伸張によりCaイオン濃度が上昇し、アクチンとミオシンの連結橋が増加した結果、筋張力が有意に増大したと予測される。本研究では、ストレッチングにおける効果をピークトルクにて評価したが、そのメカニズムを明らかにするため筋張力などの更なる検証が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】 ヒトにおいても、ヒラメ筋の様な遅筋線維優位である骨格筋に対するスタティックストレッチングでは筋張力を増大させる可能性があると示唆された。このことはストレッチングを治療手技として用いる理学療法士にとって意義のあるもとと考える。
著者
大東 俊博 渡辺 優平 森井 昌克
雑誌
コンピュータセキュリティシンポジウム2014論文集
巻号頁・発行日
vol.2014, no.2, pp.426-433, 2014-10-15

Broadcast SettingのRC4において,暗号文のみから平文全体を復元できる平文回復攻撃がFSE 2013で五十部らによって提案された.その攻撃はRC4の初期の出力バイトのbiasとABSAB biasを用いることで,平文の先頭1000テラバイトを2^{34}個の暗号文から復元できる.その後,USENIX Security 2013でAlFardanらによって異なる平文回復攻撃が提案された.AlFardanらの攻撃は五十部らの攻撃とは異なるbiasと効果的なカウントアップ手法を用いている.本稿では五十部らの攻撃とAlFardanの攻撃を適切に組み合わせることで攻撃成功確率を向上させる.提案手法では平文バイトを復元できる確率が概ね1になるときの暗号文数を2^{33}まで減少させることに成功している.
著者
竹川 佳成 植村 あい子 奥村 健太 高道 慎之介 中村 友彦 平井 辰典 森尻 有貴 矢澤 櫻子
雑誌
研究報告音楽情報科学(MUS) (ISSN:21888752)
巻号頁・発行日
vol.2016-MUS-112, no.10, pp.1-6, 2016-07-23

「新博士によるパネルディスカッション」 は,音楽情報科学の研究に取り組んできた博士号を取得したばかりの方を集め,研究の紹介,博士課程進学の動機,博士課程在学中のドラマ,今後の抱負などについてパネル形式で議論する.本稿では,今回パネリストとして参加していただく 7 名の新博士を紹介する.
著者
森田 寿郎
出版者
公益社団法人 精密工学会
雑誌
精密工学会誌 (ISSN:09120289)
巻号頁・発行日
vol.77, no.8, pp.751-754, 2011-08-05 (Released:2012-02-07)
参考文献数
2
著者
坂本 政臣 小浦 由紀夫 畑中 憲児 石森 富太郎
出版者
公益社団法人 日本分析化学会
雑誌
分析化学 (ISSN:05251931)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.7-11, 1990-01-05 (Released:2009-06-19)
参考文献数
4

カリウム,ルビジウム及びセシウムを含む混合溶液から,これら三者を分離することなく同時定量することを検討した.すなわち,テトラフェニルホウ酸ナトリウム(Na[TPB])及びテトラ(p-フルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム(Na[F4TPB])を沈殿剤に用いて,M[TPB](M=K,Rb,Cs)及びM[F4TPB](M=Rb,Cs)として沈殿させ,それぞれの沈殿の648℃及び380℃での熱分解生成物の初期重量に対する重量パーセント(空気気流中,昇温速度:5.6℃min-1)と沈殿の総重量とから三者の定量を行った.その結果,溶液50cm3中に存在する各アルカリ金属が5mg以上のとき,10%以内の誤差で定量可能であった.
著者
松宮 奈賀子 森田 愛子
出版者
小学校英語教育学会
雑誌
小学校英語教育学会誌 (ISSN:13489275)
巻号頁・発行日
vol.15, no.01, pp.95-110, 2015-03-20 (Released:2018-08-02)
参考文献数
12

本研究の目的は小学校教員養成課程に在籍する大学生を対象に,外国語活動指導への不安を軽減するための方策の一つとして「学級担任の役割を意識した英語スピーチ練習」を実施し,その効果を検討することである。スピーチ練習は2013 年度後期の外国語活動指導法に関する演習科目の中で4 回に渡って実施し,127 名の大学2 年生が参加した。本スピーチでは単に流暢に話すことを目指すのではなく,児童が分かるような工夫をしながら伝える,という「学級担任としての発話」を意識することを求めた。4 人グループで順番にスピーチを行い,スピーチはタブレットを用いて録画した。スピーチ後には録画された映像を見て,振り返りを行い,次回への課題を明確にさせた。本スピーチ練習を体験し,事後アンケートに回答した122 名の学生の本実践の効果に対する自己評価を調査した結果, 85%以上の学生が本実践は「学級担任としての英語力」の向上に役立ったと評価し,基本的には本実 践は英語力向上感に寄与するものと受け止められた。しかしながら「教壇に立って英語を話すことに自信がついた(不安が減った)」と回答した学生は全体の39.3%にとどまり,自信の向上(不安の減少)につながるとはいえない結果であった。ただし,履修後に残る不安・課題について調査したところ,英語力を最大の不安と回答した学生の割合が例年と比較して20%程度減少し,「自信がついた」とまではいえないものの,本実践が指導への不安軽減に功を奏した可能性があると考えられた。
著者
森口 繁一
雑誌
情報処理
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, 1999-03-15
著者
山縣 広和 森田 寿郎
出版者
一般社団法人 日本ロボット学会
雑誌
日本ロボット学会誌 (ISSN:02891824)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.181-188, 2015 (Released:2015-05-15)
参考文献数
12
被引用文献数
2 4

This paper proposes underwater robots suitable for teaching materials for learning basic mechanics. Recently various robots for teaching materials have been used to educate future engineers. However, the ground based robots are limited due to the size of the contest rules, mechanics are left behind at the workshop. Thus, robots for teaching materials which mechanics have significant influence on solution to the target problem are desired. The authors have focused on underwater robot, because water causes large effect in terms of equilibrium between forces, even to small robots. We developed new teaching materials of underwater robot “Mark1” for junior high school students and held a workshop on a trial basis. We send out questionnaires and evaluated their answers by checklists. As a result, this workshop obtained a large training effect for education of basic mechanics. Then, underwater robot “Mark3” was developed for more advanced students. Mark3 had extensibility and was able to satisfy the needs of students. From the above, It was confirmed that the proposed underwater robots were useful for learning basic mechanics.
著者
長谷川 隆則 森松 文毅 川本 恵子 日高 智
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産学会報 (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.86, no.3, pp.343-350, 2015-08-25 (Released:2015-09-30)
参考文献数
28
被引用文献数
1

自給飼料活用の更なる推進のため,北海道ではイアコーンサイレージ(ECS)の利用検討が行なわれている.本研究では,ECS給与が肥育豚の産肉性に及ぼす影響を検討した.肥育豚(平均65.4kg)を6頭ずつ3区分し,市販配合飼料を給与した対照区,配合飼料80%+ECS 20%の混合飼料を給与したECS区,配合飼料60%+ECS 20%+デンプン粕主体エコフィードサイレージ(EFS)20%の混合飼料を給与したECEFS区を設け,平均117.9kgまで肥育した.飼料(乾物)要求率は,対照区とECS区では同等で,ECEFS区では全期間平均で有意に高かった(P < 0.05).各試験区の肉質は,背部皮下脂肪中のスカトール含量が,対照区と比較してECS区,ECEFS区で有意に低かった(P < 0.05).以上から,20%量のECSを配合飼料と置換しても生産性に影響なく,産肉の不快臭を減少させる可能性が示唆された.
著者
小森 憲治郎 豊田 泰孝 森 崇明 谷向 知
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.350-360, 2016-09-30 (Released:2017-10-05)
参考文献数
33

意味記憶の選択的障害例である意味性認知症 (SD) の言語症状は, 語義失語である。SD に伴う語義失語では, 語の辞書的な意味の喪失を反映し, 語の想起と理解の障害像に特有の症状があり, また書字言語に関しては表層失読のパターンが認められる。これらの症状に共通する特徴は, 頻度や典型性から離れた対象に対する既知感の喪失である。SD 特有とされる語義失語であるが, 側頭葉前方部の萎縮を伴うアルツハイマー病 (AD) 例の亜型にも, SD と類似の言語症状や画像所見を認める場合があり, 注意が必要である。本研究で取り上げた2 例は, エピソード記憶障害に違いはあるものの, 年齢や教育年数など背景条件が類似し, 画像や神経心理学的検査プロフィールにおいても共通の特徴が認められた。しかし注意深い観察により, 次のような相違点を見出すことができた。まず, 呼称と理解成績の一貫性は, 症例2 では高いが, 症例1 では低かった。また理解できない対象への態度にも違いがあり, 症例2 では「わからない」反応が多いのに対し, 症例1 では命題的な場面で, 対象の個別の感覚的属性にとらわれ抽象的な判断能力が弱まる『抽象的態度の障害』を呈した。これは健忘失語の二方向性障害を示唆する所見である。これらの特徴から, 症例1 は側頭葉前方部の萎縮に伴い二方向性の健忘失語を呈したAD 例, 症例2 は高齢発症のSD 例と診断した。このようなSD と見誤り易い症候が出現する背景には, SD の神経病理として有力なTDP-43 の神経変性疾患における併存や, 比較的扁桃体周囲に限局する分布の特徴が関与している可能性を推測した。
著者
渡辺 宏久 Bagarinao E. 祖父江 元 伊藤 瑞規 前澤 聡 寳珠山 稔 森 大輔 田邊 宏樹
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、fMRIと脳波 (EEG) を組み合わせたEEG-fMRIを用い、fMRIの有する高い空間分解能を活かした解析に加え、脳波の有する高い時間分解能生を活かした解析を組み合わせて、ヒトの高次脳機能神経回路や精神症状をサブミリセカンドで観察出来るシステムを構築した。我々の解析方法を用いることで、作業記憶課題を用いた脳活動の観察では、認知課題中に1秒未満で連続的に変化する脳活動を観察可能であった。またてんかん活動を観察しつつ同定した焦点は、手術により確認したそれと良く一致していた。我々の開発した解析手法は、高い空間分解能で1秒未満の連続的な脳活動変化を捉えられる。
著者
片岡 弘明 北山 奈緒美 石川 淳 宮崎 慎二郎 荒川 裕佳子 森 由弘
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.89-93, 2012-06-30 (Released:2016-04-25)
参考文献数
8

閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者の外来での運動継続率が糖尿病患者,肥満患者と比較し低値であった.そこで,運動の実施状況や継続ができない理由,運動指導の改善点などを明確にすることを目的にアンケート調査を実施した.その結果,運動する時間・意欲がないと回答した者が多かった.運動の効果や方法を科学的根拠に基づいて指導するだけでなく,どのようにして患者の行動を適切な方向に導くかといった行動変容アプローチも必要である.