著者
田中 輝明 小山 司
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.49, no.9, pp.979-985, 2009-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1

単極性うつ病と双極性うつ病では治療アプローチが異なるため,「うつ病」診療においては早期診断が重要な鍵となる.抑うつ症状のみで鑑別することは困難であるが,双極性うつ病では非定型症状や躁成分の混入が診断の手掛かりとなることもある.双極性障害の診断には(軽)躁病エピソードの存在が必須であるが,患者の認識は乏しく,周囲からも注意深く(軽)躁症状の有無を聴取する必要がある.双極性障害のスクリーニングには自記式質問紙票も有用である.また,パーソナリティ障害や薬物依存などの併存も多く,複雑な病像を呈するため注意を要する.双極スペクトラムの観点から,双極性障害の家族歴や抗うつ薬による躁転などbipolarityについても確認することが望ましい.双極性障害の薬物治療としては,エピソードにかかわらず気分安定薬が第一選択であり,有効性や副作用(躁転や急速交代化)の面から,抗うつ薬の使用には慎重さが求められる.
著者
田中 啓太
出版者
日本鳥学会
雑誌
日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.60-76, 2012 (Released:2012-04-27)
参考文献数
93

自身で子育てをしない托卵鳥は宿主に適応度上の損失を課すため,宿主においては寄生者を検知し排除する識別能が自然選択において有利になる.その結果,宿主と区別のつかない寄生者の個体が有利となり,擬態が進化するが,そのことは宿主においてさらに高い識別能を選択することになる.このような共進化のプロセスは軍拡競争と形容され,古くから進化生物学の主題となってきた.中でもカッコウCuculus canorusを中心とする托卵鳥の卵擬態は研究が非常に進んでおり,宿主となる鳥がどのような環境で,どのような卵の特徴を手がかりに托卵を識別しており,寄生卵を排除する上でいかにその認知能力を駆使しているかが解明されている.一方,精巧な擬態が進化している卵に比べ,托卵鳥の雛が宿主の雛に似ていることは稀である.これは,宿主が雛の容姿を学習するプロセスにおいて強い制約が存在し,学習が阻害されているためであると考えられている.そのため長らく宿主による寄生雛の識別は不可能と考えられてきた.しかし,近年,宿主による寄生雛の排除や寄生雛による宿主雛への擬態の存在が発見された.これは従来のパラダイムでは説明できない現象である.本稿では,従来の研究や理論をまとめた上で,上述の托卵研究が経験したパラダイムシフトや,近年開発され,托卵研究にも適用されつつある新たな解析技法を紹介し,とくに熱帯性カッコウ類とその宿主の特性に焦点をあて,今後の托卵研究の発展的な方向性を示す.
著者
羽田 貴史 戸村 理 廣内 大輔 井上 美香子 田中 智子 蝶 慎一 福石 賢一 小宮山 道夫 荒井 克弘 渡邊 かよ子
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

60-70年代における社会運動としての大学紛争研究と、大衆化段階における大学改革の研究を統合し、政府・学術団体・経済団体・大学・教授団・教職員組合・学生集団の織りなす複雑な政治過程として大学紛争を捉え、紛争を経た大学改革像を解明する。さらに、このことを通じて、大学の自主改革案の全体像と大学政策への反映を明らかにし、70 年代の大学改革を、単純な政府主導ではない新たな歴史像を提起する。また、経済社会の変容と大学の大衆化、青年の叛乱という同じ課題を抱えたアメリカ・イギリス・ドイツとの国際比較を行い、日本の紛争=改革の特殊性を明らかにする。
著者
十津 守宏 田中 雅章
出版者
鈴鹿大学短期大学部
雑誌
鈴鹿短期大学紀要 (ISSN:13450085)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.173-178, 2013-03-01

最近、入学するゆとり世代の勉学姿勢にある変化を感じる。それは高等教育機関だからこそ受講できる難解な講義をできるだけ回避しようとする傾向である。つまり難解な授業内容を少しでも理解しようとする姿勢がかけているようにも思われたからだ。 そこで、本研究では宮崎アニメのジブリ作品を環境倫理教育教材として用いることを試みた。スタジオジブリの作品は単なる娯楽アニメではないと評価している。この作品は目的意識を持って視聴すれば宮崎が作品中で訴えているものが鮮明に見えてくる。それならばジブリ作品を環境学習教材として取り上げ、学生が作品中の意図を受取ることができるのかを試みた。 環境意識をどれだけ変化させたのかを測定するためにWeb アンケートを利用した。本稿ではゆとり世代のでも、アニメ教材によって環境意識の変化を述べる。
著者
鈴木 康生 真柳 秀昭 福田 理 森主 宜延 西川 康博 田中 晃伸
出版者
一般財団法人 日本小児歯科学会
雑誌
小児歯科学雑誌 (ISSN:05831199)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.571-582, 2005-12-25 (Released:2013-01-18)
参考文献数
7
被引用文献数
2

歯科大学・大学歯学部における小児歯科学の教育,障害児歯科の教育ならびに大学(附属病院)における障害児(者)の歯科診療の現状を知る目的から,29歯科大学・大学歯学部を対象にアンケート調査を行った.小児歯科学の教育については,講義学年や講義時間数の設定等は多様化の傾向がみられた.また小児歯科学の講義学年では,4学年が多いが,低学年や複数学年にまたがる場合もみられた.障害児歯科の教育については,9大学で「障害者歯科学講座」等が設置され,他の多くの大学でも授業科目としての「障害者歯科学」が設けられていた.また,小児歯科学の中での「障害児歯科」の教育は,大多数の大学で講義がなされていた.「障害児歯科」の講義内容については,「心身障害児の歯科診療」,「小児疾患と歯科治療」について多くの大学で講義されていた.また,「症候群・先天異常(染色体異常・遺伝性疾患)」はほとんどの大学の小児歯科学の中で講義されていた.大学(附属病院)における障害児(者)の歯科診療の現況については,「障害者歯誌科」等の診療科が設置されているのが22大学であった.また診療科がない場合の受け入れ窓口は,小児歯科,あるいは小児歯科と他科とで担当していた.また小児歯科における障害児の歯科診療は,大多数が15歳以上も対象としており,20歳以上の障害者も対象として診療を行っている大学も多くみられた.
著者
長谷川 範幸 田中 光 柳町 幸 丹藤 雄介 中村 光男
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.47, no.5, pp.433-436, 2010 (Released:2010-11-24)
参考文献数
24
被引用文献数
3 3

高齢者は非高齢者に比し低アルブミン血症をはじめとした低栄養状態を高率に認める.低アルブミン血症は,易感染性,難治性感染症,褥瘡の難治化,手術後の縫合不全や創傷治癒の遷延化などを引き起こす.このことからも,高齢者にとって栄養状態を良好に維持することは非常に重要である.われわれは高齢者の低アルブミン血症の原因を明らかにし,その治療法に関する検討を行った.その結果,高齢者では非高齢者に比し消化吸収能は低下しておらず,蛋白質摂取量の低下及び消化吸収率の良好な肉類の摂取量低下という摂取蛋白質の変化を認め,このことが高齢者の低アルブミン血症の主因であると考えられた.高齢者の低アルブミン血症を改善する方法として,プロテインスコアが良好で消化吸収率も高い鶏卵を摂取する方法が有効であった.高齢者診療においては低アルブミン血症を認めた場合,早期から積極的な介入を行うことが望ましい.
著者
廣中 直行 高野 裕治 髙橋 伸彰 田中 智子 板坂 典郎 小泉 美和子
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.96-102, 2011 (Released:2017-04-12)

ヒト以外の動物を用いて快情動を研究することは難しく、客観的に計測可能な行動を対象にする必要がある。このような観点から、我々は報酬探索の神経機構について検討した。一連の実験によって、1)内因性のノシセプチンが高脂肪食に対する選好を調節していること、2)海馬のシータ波が報酬の予期に関係しているらしいこと、3)報酬記憶の形成に伴って海馬のドパミン受容体が増加すること、4)扁桃体のドパミン受容体が選好行動の発現に重要な役割を果たしていることなどが示された。これらの結果は報酬探索における学習や記憶の重要性を示すものであった。報酬探索は生存に必須な生理機能であるが、嗜癖や依存といった病態につながるおそれもある。今後の研究では、正常な報酬探索とその病態を統合的にとらえる視点が必要である。そのような研究の中から快情動の構造と機能について新たな洞察が得られることが期待される。
著者
宮垣 さやか 長谷川 聡 梅垣 雄心 中村 雅俊 小林 拓也 田中 浩基 梅原 潤 藤田 康介 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0096, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】胸郭可動域制限は,肋間筋など胸壁に付着する軟部組織の柔軟性低下,呼吸筋の筋力低下,脊柱や肋椎関節の可動性低下などにより生じる。臨床現場においては肋間筋ストレッチングや肋椎関節の運動など,肋骨の動きの改善を目的とした胸郭可動域トレーニングが実施されており,呼吸機能の改善に有用であると報告されている。一方,呼吸時には胸椎も屈伸運動するといわれており,胸椎アライメントが呼吸機能に影響を及ぼすという報告もあるものの,胸椎後弯姿勢の改善を目的とした運動(胸椎伸展運動)が呼吸機能を改善させるという報告は見あたらない。さらには,頚部痛など整形外科疾患患者や脊髄損傷患者において,胸椎可動性の低下が呼吸機能低下に影響するとの報告もあることから,肋骨の動きの改善だけではなく,胸椎の伸展運動が呼吸機能を改善することが予想される。そこで本研究では,胸椎伸展ストレッチング(以下胸椎ストレッチ)が,脊柱アライメント,胸郭拡張性,呼吸機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は喫煙歴のない健常男性15名(平均年齢24±3.4歳)とした。胸椎ストレッチ前後に胸椎アライメント,呼吸機能,胸郭拡張差,上部および下部肋間筋・胸部脊柱起立筋の筋弾性率を測定した。胸椎アライメントの測定はSpinal mouse(Index社製)を用い,安静立位での胸椎後弯角度を測定し,胸郭拡張差は腋窩,剣状突起,臍レベルの三箇所で測定した。呼吸機能はAutoSpiro(ミナト医科学社製)を用い,安静立位で対標準肺活量(%VC),一秒量(FEV)を測定した。筋弾性率は超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製)のせん断波エラストグラフィー機能で測定し,各筋の筋腹に設定した関心領域の弾性率(kPa)を求めた。上部肋間筋は右側の鎖骨内側1/3から下した垂線上の第2肋間,下部肋間筋は右側の前腋窩線上の第6肋間,胸部脊柱起立筋は第6胸椎棘突起右側方1横指の部位にて,全て安静吸気位で測定した。胸椎ストレッチは,対象者の両肩甲骨下角の位置で背部を横断する方向に株式会社LPN製ストレッチポールハーフカット(以下ハーフポール)を設置し,その上に背臥位となりセラピストが肩関節前方から鉛直方向に3分間抵抗を加えた。統計学的解析は,第2・第6肋間の肋間筋と脊柱起立筋の3筋の弾性率,3箇所での拡張差,%VC,FEVについて,対応のあるt検定を用いて胸椎ストレッチ前後の値を比較した。なお,有意水準は5%とした。【結果】肺機能について,胸椎ストレッチ前後に%VC(前:90.0±10.1%,後:91.3±9.6%)は有意に増加したが,FEVは介入前後で有意な差は認められなかった。筋弾性率について,上部肋間筋(前:18.9±7.5kPa,後:14.7±6.4kPa),下部肋間筋(前:17.6±9.2kPa,後:13.8±7.3kPa),脊柱起立筋(前:18.1±9.9kPa,後:13.1±5.1kPa)は,介入後に有意に低下した。胸郭拡張差について,腋窩レベル(前:5.5±1.8cm,後:6.2±1.9cm),剣状突起レベル(前:6.7±1.9cm,後:7.7±2.0cm)で介入後に有意に増加し,臍レベルでは変化は認めなかった。胸椎後弯角度は,胸椎ストレッチによる変化は認めなかった。【考察】本研究の結果より,胸椎ストレッチは,肺活量を増加させ得ることが示された。胸椎ストレッチにより改善がみられると予想された胸椎アライメントは,介入による変化を認めなかった。一方で,各筋の弾性率の有意な低下から,胸椎ストレッチによって,上部および下部肋間筋,さらに,ハーフポールにより圧迫された脊柱起立筋の柔軟性が向上したことが示された。これにより,腋窩・剣状突起レベルでの胸郭拡張差が増し,上位胸椎部分の胸郭拡張運動が改善したことで肺活量が増加したと考えられる。これまでは主として肋骨の動きに関連の強い肋間筋にアプローチする手技が胸郭可動域トレーニングとして取り上げられ,これらの手技により呼吸機能が改善するという報告がされている。しかし本研究では,胸椎の屈伸運動に着目した胸椎ストレッチによっても上位胸郭可動性が向上し,呼吸機能が改善することが示された。また同時に,肋間筋のみならず,胸郭構成筋として着目されることの少ない,脊柱起立筋の柔軟性も,呼吸機能に関連していることを示唆する結果となった。【理学療法学研究としての意義】本研究では,これまで着目されることの少なかった,呼吸時の胸椎伸展運動を促すようなストレッチによっても胸郭可動性が改善することが示唆され,胸郭の可動性低下を認める拘束性換気障害に対する有用な治療手段の一つとなり得る可能性が示唆された。
著者
山野 泰穂 田中 信治 菅井 有 松下 弘雄 斎藤 彰一 三澤 将史 堀田 欣一 竹内 洋司 佐野 寧 永田 信二 河野 弘志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1648-1669, 2020-12-25

Introduction山野 本号は「大腸鋸歯状病変の新展開」ということで,本誌ではしばしば鋸歯状病変に関して特集されていますが,大腸鋸歯状病変,さらにはSSA/P(sessile serrated adenoma/polyp)に関しては概ね市民権を得ており,多くの内視鏡医が知っている病変であると思います.SSA/PはMSI(microsatellite instability)陽性大腸癌の前駆病変であろうと分子生物学的にも解析が進んでおり,adenoma-carcinoma sequence,de novo pathwayに次ぐ第三の発癌ルートserrated neoplastic pathwayとしてmalignant potentialも高いのではと考えられています. 一方,実臨床では鋸歯状病変,特にSSA/Pは本当に悪性度が高いのかという疑問があります.これまで長い間,SSA/Pは過形成性ポリープと見分けがつかず,非腫瘍として扱われ放置されてきた歴史,むしろadenomaのほうが前癌病変として問題であると考えられてきた歴史があります.
著者
山野 泰穂 松下 弘雄 田中 義人 吉川 健二郎 原田 英嗣 吉田 優子 加藤 文一朗 久保 俊之 菅井 有 仲瀬 裕志
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.48-56, 2019-01-25

要旨●大腸腫瘍性病変に対する拡大内視鏡診断は腺腫・早期癌に対する質的診断,量的診断において欠くことのできない診断手法となった.しかし,SSA/Pという新たな疾患概念の登場により,鋸歯状病変の拡大内視鏡診断は新たなステージを迎えている.今回筆者らはHPを除いた大腸鋸歯状病変180病変に対して従来のpit pattern分類にII型・IV型の亜分類(開II型,伸II型,鋸IV型)を加えて分類し,病変全体の均一性の観点からpit pattern単一群とpit pattern複合群とに分けて検討した.その結果,単一群において,SSA/Pでは81病変中69病変(85.2%)と高率に開II型を示し,TSAでは12病変中10病変(83.3%)と高率に鋸IV型を示すことが判明し,各々高い感度,特異度,陽性的中率を認めた.一方,複合群においては,SSA/P+CDでは31病変中24病変(77.4%)と高率に開II型+鋸IV型を示し,開II型+何らかのpit(α)で,またTSAでは何らかのpit(α)に鋸IVが付随することで高い感度と陰性的中率を示したが,特異度,陽性的中率は劣っていた.Ca in SSA/Pでは開II型+VI型が高率に認められたが,Ca in TSAでは特徴は見い出せなかった.その理由として,TSAの病理組織学的診断上の問題などの関与が示唆された.以上より,大腸鋸歯状病変に対する拡大内視鏡観察では均一性の確認が重要であり,複合したpit patternを有する病変では慎重な対応が望まれると結論した.
著者
田中 洋平 Yohei Tanaka
雑誌
淑徳大学人文学部研究論集 (ISSN:21895791)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.138-120, 2021-03-15

本論では茨城県稲敷市の天台宗寺院・不動院に残された「江戸崎不動院門徒分限帳」全三冊を基礎史料として、近世における同院の配下寺院について、その経営実態を分析した。特に天台宗教団内における寺格に注目し、寺格別に各寺院の檀家数や檀家から得られる収入、所持耕地などに関しての考察を進めている。そこからは、従来の研究史のうえで等閑視されてきた寺格によって、右記の分析項目に著しい差異が生じている実態を明らかにした。具体的には、寺請や葬祭を執行することができる住持によって営まれる「末寺」寺院では、一定の葬祭檀家と所持耕地を有しており、これによって寺院経営が維持されていたのに対し、寺請や葬祭の執行が原則として許されていない住持によって営まれる「門徒」寺院の場合には、檀家、所持耕地からの収入ともに充分ではない様子を数量的把握によって描出している。
著者
小山 由美 田中 美郷 芦野 聡子 熊川 孝三 針谷 しげ子 浅野 公子
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.50, no.6, pp.642-650, 2007-12-28 (Released:2010-08-05)
参考文献数
13
被引用文献数
2 2

1999年に田中は人工内耳適応児の言語指導法として, 伝統的な聴能訓練をベースにした方法とは異なるトップダウン方式を提唱した。この方法は補聴器活用に併せて手話と指文字を言語指導に導入し, 言語の意味論レベルの機能の発達を促し, これをベースにトップダウン方式で脳内にことば (speech) の聴覚的辞書を作ることを目的としている。2004年4月以降この方式で指導し, 人工内耳を装用させて2年以上経過を観察してきた17例のうち, 15例は人工内耳装用によって手話コミュニケーションが聴覚口話に自然に移行または移行しつつある。残り2例は聴神経発育不全や slow learner などの問題が関係してまだ満足な成果が得られていないが, このような問題を除けば, これまでの成績は手指法は注意深く導入する限り, 聴覚口話の発達を妨げないことを示している。
著者
黒崎 碧 田中 恭子 江原 佳奈 清水 俊明
出版者
順天堂医学会
雑誌
順天堂醫事雑誌 (ISSN:21879737)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.490-495, 2013 (Released:2014-05-29)
参考文献数
13
被引用文献数
1

目的:被虐待児における認知および精神症状の特性について検討する.方法:当院を受診した被虐待児21例を対象に,臨床所見および心理検査所見を考察し,その特性につき検討を行った.結果:被虐待児の精神症状として,境界域知能,多動,衝動性,言語社会性の遅れなどがみられ,認知機能は偏りが大きく,特に習得度が低く,同時処理能力優位である傾向にあった.また,虐待の原因として考えられた要因には患児自身の疾病,養育者側の経済的問題や心身の疾患が存在するケースがみられた.結論:虐待の長期化は,子どもの発達を著しく阻害し,脳へのダメージも大きいといわれており,その後遺症として,発達障害に酷似した症状を引き起こすといわれる.虐待の早期発見と適切な介入等,長期的な心理社会的支援などの確立が急がれる一方で,虐待の影響が発達期の脳発達に及ぼす影響をさらに多角的に検討を深め,多様性に富む臨床像に対する支援の方向性を見出す必要性があるものと思われた.
著者
村田 健介 岡本 健 池上 さや 川崎 喬彬 唐津 進輔 近藤 豊 松田 繁 田中 裕
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.307-309, 2020

<p>家庭常備薬の「正露丸」を200錠内服し, 木クレオソート中毒に至った1例を経験した。症例は67歳の女性で, 原因不明の意識障害で当院に救急搬送された。意識レベルはGlasgow Coma Scale E3V1M4であり, 気管挿管し入院とした。CTや血液生化学検査で明らかな意識障害の原因は断定できなかった。第2病日に意識が改善し, 入院前日に下痢症状に対して正露丸を200錠内服したことが判明した。第5病日をピークとした軽度の肝逸脱酵素の上昇が出現したが改善し, 第6病日に精神科に転科となった。正露丸は日本において家庭常備薬の下痢止めとして長年親しまれている薬である。その主成分は木クレオソートであり, 大量内服症例では木クレオソートに含まれる少量のフェノールによる嘔吐や血圧低下, 意識障害, 遅発性肝障害等の症状が出ることがあり注意が必要である。</p>
著者
田中 圭介 杉浦 義典
出版者
日本感情心理学会
雑誌
感情心理学研究 (ISSN:18828817)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.65-71, 2014-02-01 (Released:2014-06-04)
参考文献数
37
被引用文献数
1 2

The purpose of present study is to make Japanese version of the Repetitive Thinking Questionnaire (RTQ; McEvoy et al., 2010), which measures repetitive negative thinking (RNT). RNT is defined as attentive, perseverative, frequent, and relatively uncontrolled cognitive activity that is focused on negative aspects of the self and the world (Ehring & Watkins, 2008; Segerstorm et al., 2003). RNT such as worry, rumination, and post-event processing is seen as trans-diagnostic or trans-emotional phenomenon because it correlates with depression, anxiety, and various negative emotions. 107 undergraduate students completed Japanese version of RTQ and other self-report questionnaires. Exploratory factor analysis yielded one factor structure. RTQ and the short version of RTQ demonstrated high internal reliability and were associated with trait worry, negative mood, and non-adaptive metacognition for problem solving. These results suggest that Japanese version of RTQ and the short version have good psychometric properties.