著者
堂浦 克美 逆瀬川 裕二 照屋 健太 逆瀬川 裕二 照屋 健太
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

プリオン病とアルツハイマー病では、難溶性蛋白質(プリオンとAβ)が脳組織内に沈着して神経細胞障害がおこる。インビトロ及びインビボにおけるアミロイド親和性化合物の構造活性相関解析研究を通じて、治療学の側面から両疾患に共通する病態発生のメカニズムの存在を検証した。その結果、難溶性凝集体としての物性は似ているものの、プリオンとAβでは凝集能や毒性に関与する立体的化学構造は異なっていることが明らかとなった。また、両疾患でアミロイド親和性化合物のインビボでの効果がほぼインビトロでの効果と相関しており、インビトロでの作用メカニズムの共通性から、プリオンとAβの産生や病態発生には共通なメカニズムがあり、アミロイド親和性化合物はこのメカニズムを抑制することにより治療効果を発揮しているものと考えられた。
著者
中須賀 真一 森 治 矢入 健久 松永 三郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

東京大学・東京工業大学の学生が手作りで製作を進めてきた10cm立方,1kgの超小型衛星CubeSat"XI(サイ)"および"CUTE-1"は最終的な機能試験を行い、平行して衛星の国際標識(Spage Warn)の登録、使用周波数に認可と衛星局・地上局の免許取得、輸出許可申請などの手続きを行い、日本での作業を完了した。2003年6月に打ち上げ射場であるロシア・プレセツク宇宙基地に学生・教官の手で輸送され、ROCKOTという3段ロケット上段に取り付けられる作業までを共同で実施した。同ロケットは6月30日23時15分(日本時間)に成功裡に打ち上げられた.7月1日午前0:48に高度824kmの太陽同期円軌道に投入され,その後順調に飛行し,午前4時すぎに日本上空を通過する際に,東京大学および東京工業大学の地上局にてビーコンが受信された。投入軌道は予定通りで,正常に起動・分離・アンテナ展開されたことが確認できた.その後、両大学において、順調に軌道上運用が行われ、それぞれに計画していた種々の展開実験、通信実験,地球画像の撮像とそのダウンリンク実験,姿勢運動の推定などの実験を行ってきた。8ヶ月たった2004年2月末においてもまったく異常なく動作を続けている。これらの実績は、宇宙開発、特に衛星分野における大学の存在を示した点で、また民生品を用いた低コスト・短期間開発の超小型衛星バスでも軌道上で正常に動作することができることを示した点で、大きな成果であったと考えられる。また、打ち上げに向けて実施した種々の国際調整や手続きは貴重な経験であり、今後大学で衛星を開発しようというグループにとって有益な情報をもたらすであろう。また、超小型衛星の軌道上運用の方法を実践的に獲得し、新しいプロトコルや地上局ネットワークを試行し効果があることを確かめられたことも、今後の超小型衛星の軌道上運用にとって大きな成果であると考える。
著者
中島 裕夫 本行 忠志 斎藤 直
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

チェルノブイリ原発事故以来、低レベル放射能汚染地域に生活するヒトの継世代的影響が懸念されている。ヒトへの影響研究の代替法としてマウスに0または100Bq/mlのセシウム137水を自由摂取させて世代交代させた子孫マウスでの発がん性、遺伝的影響を調べた。その結果、セシウム137摂取群で腫瘍増殖抑制ならびにDNA切断頻度の有意な上昇が認められたが、肺腫瘍発生頻度、小核頻度、染色体異常には対照群との間に有意な差が認められなかった。
著者
花枝 英樹 芹田 敏夫 宮川 公男 胥 鵬 須田 一幸 広田 真人 木村 由紀雄
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

(1)「日本企業の配当政策・自社株買い-サーベイ・データによる検証-」概要:わが国全上場企業を対象にペイアウト政策についてのサーベイ調査を行い、つぎのような結果を得た。配当決定は投資決定とは独立に行われており、減配回避の考えが非常に強い。一方,自社株買いは配当と比べれば柔軟性をもって決められている。情報効果仮説については,配当・自社株買いとも支持する結果が得られた.ペイアウト政策を敵対的買収防止手段として考えている企業が多く,株主構成の違いもペイアウト政策の意識に影響を及ぼしている。(2)"The choice of financing with public debt versus private debt: New evidence from Japan after critical binding regulations were removed"概要:成熟企業と成長企業の資金調達と社債発行との関連を分析した。とりわけ、日本の経験から、最も有効な社債市場育成策は、銀行の利権を保護する規制を緩和し、社債と銀行借入の選択を企業に委ねるべきことを提案している。(3)"Ownership structure and underwriting fee: Evidence from Japanese IPOs"概要:企業の株式所有構造と新規公開時の引受手数料,IPO後の長期パフォーマンスの間の関係について,1997年から2002年にJASDAQへIPOした企業サンプルを用いて検証した。(4)"Financing constraints and Research and Development Investment"概要:わが国企業の研究開発投資と資金調達の関係を実証分析し、特に、キャッシュフローの多寡で表せる内部資金制約が研究開発投資の大きさに大きな影響を及ぼしていることを明らかにした。
著者
山崎 文雄 松岡 昌志 丸山 喜久
出版者
千葉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,高解像度光学センサ衛星とマイクロ波を用いる合成開口レーダー(SAR)を組み合わせた,被災地域の抽出手法を検討した.災害前には衛星光学センサ画像,衛星SAR画像,更には数値標高データ(DEM)が得られているものとし,災害後に衛星SAR画像が得られた場合,これらを全て用いて被災範囲と程度を抽出する.イタリア・ラクイラ地震,ハイチ地震,東日本大震災等の被災地域に対して実データに基づいて被害抽出を行い,現地調査データと比較して精度を検証した.
著者
端野 道夫 田村 隆雄 末永 慶寛 山中 稔
出版者
徳島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

2007年台風4号に伴う大雨時に,香川県馬宿川流域(地質:砂岩・泥岩,土地利用:森林)と香川県鴨部川流域(地質:風化花崗岩,土地利用:森林・田畑・宅地が混在)を対象に,(1)山地渓流水の詳細な雨水・物質流出観測ならびに数理モデル・シミュレーションの実施と,(2)洪水ピーク前,ピーク直後,及びピーク後における源流部から河口部までの河川水濃度の観測を実施し,地質や土地利用の相違が雨水・物質流出機構に与える影響について数量的に検討した.なお一雨降水量は共に約200mmであった.特に重要な知見を以下に示す.1.砂岩・泥岩質の馬宿川の方が雨水の直接流出率が高いため,小規模降雨であっても馬宿川の方が,物質流出量が多くなる特徴がある.2.森林域での地下水涵養量は,風化花崗岩の鴨部川流域の方が大きいため,地下水帯からの単位時間当たりの物質溶出量は鴨部川流域の方が大きい.(SiO_2の場合で1.6倍)3.珪酸は山地森林域を流出源とするため,土地利用が高度化した鴨部川流域(森林域42%)では馬宿川流域(森林域100%)と比較して流出比負荷量は小さくなる,(SiO_2の場合で46%減)残念ながら,大雨前まで小雨であったこと等から海域の水質にまで影響を与えるような洪水規模とはならず,2流域に隣接する海域の調査・解析はできなかったが,ほぼ同じ降雨波形,降水量のもと,異なる地質,土地利用が雨水・物質流出機構に与える影響について数理モデルを用いて具体的に評価できたことは,非常に重要な成果であったと考える.
著者
足立 明 山本 太郎 大木 昌 加藤 剛 内山田 康
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、アジア諸社会において行われてきた公衆衛生に関わる社会開発の客観的・実態的把握に加え、政治的、社会文化的に構成され演出されてきた「清潔さ」「衛生」「健康」の関する語りやイメージを把握し、人々の社会開発をめぐる生活世界を解明することであった。そして、複数の社会での比較研究を通して、「開発現象」の共通性と個別性を明らかにすることを目指した。具体的には、(1)スリランカ、インド、インドネシアにおける公衆衛生プロジェクトの事例研究と、それに付随する様々な「開発現象」の学際的資料の収集、(2)開発言説を軸にした公衆衛生をめぐる新しい開発研究における枠組みの構築の2点であった。その結果、この3年間収集してきた資料は保健衛生に関わる開発プロジェクト、特に村落給水計画事業に関わるものであった。また、それと相前後して、調査のとりまとめに向けた理論的枠組みの再検討(アクター・ネットワーク論、サバルタン研究論)と、このような医療衛生研究の背景となる社会史的な資料の検討も行った。また、オランダに所蔵してあるインドネシアの医療史関係の資料も収集し分析した。ただし、とりまとめの研究成果報告書には、時間の関係で、村落給水事業の分析を十分に行うことは出来なかった。今後、村落給水計画に関する資料の整理を行い、開発言説と公衆衛生との関わりを論じていきたい。
著者
山本 太郎 市川 辰樹 片峰 茂 矢野 公士
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、G型肝炎ウイルスの二重感染が成人T細胞白血病ウイルス(HTLV-1)の母子感染に与える影響と同時に、HTLV-1感染症の自然史を明らかにすることも同時に目指している。G型肝炎ウイルスに対し、RT-PCRでの検出系を確立した。また、日本に存在するHTLV-1には、二つのサブグループ(日本型と大陸横断型)があり、南北に行くにしたがい、日本型が優勢になること、分岐は、おそらく日本以外の場所で起こったこと、HTLV-1が日本に持ち込まれた年代が約2万年から4万年前であることなどが示唆される結果を得た。
著者
与謝野 有紀 高瀬 武典 安田 雪 高坂 健次 草郷 孝好
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では、自殺、犯罪率と社会関係資本、不安感の関係を解明するために、兵庫県下における1800名を対象とした面接調査を実施し、9区市町より1080票を回収した。この調査データと、自殺、犯罪率の公開されたデータとの地域比較から、以下が明らかになった。1)自殺は生活満足、サポートネットワーク、近隣への信頼と関係している。2)生活満足、サポートネットワーク、近隣への信頼の規定因は、人口によって大きく異なる。3)都市部では経済要因の影響が強く、人口規模が小さいほど近隣関係が強く影響し、因果関係は複雑化する。
著者
松川 寛二 定本 朋子 梁 楠 中本 智子 加島 絵里
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

日常生活で行う軽度~中程度の随意運動でみられる心循環調節にとって,運動筋受容器反射よりも高次中枢から発するセントラルコマンド(central command)によるfeedforward制御が重要である。特に,屈曲運動において,このcentral commandによる心循環調節は強く現れる。一方,覚醒状態のヒトや動物では,筋機械受容器反射および筋代謝受容器反射は抑制されている。睡眠あるいは麻酔に伴って生じる高次中枢活動の低下は筋機械受容器反射および筋代謝受容器反射を促通し,この筋機械受容器反射の修飾には脳内5-HT1A受容体が関わる。
著者
松井 正文 西川 完途
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

流水性種からみたボルネオ産両生類多様性の起源を探るため、マレーシア領のマレー半島とボルネオ島のサラワク州において野外調査を行い、得られた標本や組織サンプルから形態・音声・分子に基づく系統分類学的な解析を行った結果、ボルネオの両生類ファウナは高度の固有性をもち、極めて古い時代に周辺地域から孤立して独特の進化を遂げたこと、マレー半島の両生類相の固有性が高いことが明らかになった。
著者
佐藤 康宏 板倉 聖哲 三浦 篤 河野 元昭 大久保 純一 山下 裕二 馬渕 美帆
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

人間が都市をどのようにイメージしてきたかを解明するために、日本・中国・ヨーロッパの典型的な都市図を取り上げ、作品を調査し、考察した。研究発表の総目録は、研究成果報告書に載る。以下、報告書所載の論文についてのみ述べる。佐藤康宏「都の事件--『年中行事絵巻』・『伴大納言絵巻』・『病草紙』」は、3件の絵巻が、後白河法皇とその近臣ら高位の貴族が抱いていた恐れや不安を当時の京都の描写に投影し、イメージの中でそれらを治癒するような姿に形作っていることを明らかにした。同「『一遍聖絵』、洛中洛外図の周辺」は、「一遍聖絵」の群像構成が、平安時代の絵巻の手法を踏襲しつつ本筋と無関係な人物を多数描くことで臨場感を生み出していることを指摘し、その特徴が宋代の説話画に由来することを示唆する。また、室町時代の都市図を概観しながらいくつかの再考すべき問題を論じる。同「虚実の街--与謝蕪村筆『夜色楼台図』と小林清親画『海運橋』」は、京都を描く蕪村晩年の水墨画について雅俗の構造を分析するとともに、明治の東京を描く清親の版画に対して通説と異なる解釈を示す。ほかの3篇の論文、馬渕美帆「歴博乙本<洛中洛外図>の筆者・制作年代再考」、板倉聖哲「『清明上河図』史の一断章--明・清時代を中心に」、三浦篤「近代絵画における都市と鉄道」も、各主題に関して新見解を打ち出している。
著者
三國 久美 工藤 禎子 深山 智代 広瀬 たい子 桑原 ゆみ 篠木 絵理
出版者
北海道医療大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、乳幼児を持つ両親を対象として育児ストレスを縦断的に測定し、1)子どもの月齢に伴う親の育児ストレスの変化、2)父母の育児ストレスの違い、3)育児ストレスに関連する家族特性について明らかにすることであった。育児ストレスの測定には日本版Parenting Stress Index (PSI)を用いた。日本版PSIは、奈良間ら(1999)により開発された尺度であり、高得点は高ストレスを意味する。子どもが4ヶ月の時点で縦断研究を開始し、3歳6ヶ月まで約6ヶ月毎に計7回の自記式質問紙による調査を行った。全調査で有効回答を得た父112人、母174人を分析対象者とした統計的解析により、以下の結果を得た。1)日本版PSI総得点は子どもの月齢による差がみられ、父では4ヶ月、10ヶ月と増加し、1歳6ヶ月時が最も高く、以降減少した。母では4ヶ月時が最も低く、10ヶ月から1歳6ヶ月にかけて増加し、その後の変化はみられなかった。2)日本版PSI総得点は、父母間で差がみられ、4ヶ月から3歳6ヶ月まで常に父よりも母の育児ストレスが高かった。また、4ヶ月から3歳6ヶ月までの父母の日本版PSI総得点には有意な正相関が認められた。3)日本版PSIと家族特性との関連をみたところ、子どもの出生順位では第二子以降よりも第一子のほうが、また子どもの健康状態では良好なものよりも治療中のもののほうが、父母ともに有意に育児ストレスが高かった。また、有職の母よりも無職の母の育児ストレスが有意に高かった。父の学歴では、中学卒のものはそうでないものよりも母の育児ストレスが有意に高かった。以上の結果から、子どもの月齢、出生順位、健康状態、また母の職業の有無など育児ストレスに関連する要因を踏まえて両親への育児支援を行う必要性が示唆された。
著者
重茂 克彦 山本 欣郎
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

ゲノムバイオロジーによる解析では、食中毒原性黄色ブドウ球菌の遺伝学的特性を検索するためにmulti locus sequence typing(MLST)によって由来の異なる黄色ブドウ球菌の系統解析とその系統のSEs/可動性遺伝因子/プラスミドプロファイルを行った。食中毒由来株と鼻腔由来株を用いて両集団の系統解析の比較を行ったところ、両集団を構成する系統の比率は有意に異なっていた。食中毒由来株で最も存在頻度が多かった系統では共通のSEH関連可動性遺伝因子を保有しており、さらに株によってSEA/SEB関連可動性遺伝因子と約25Kbpのプラスミドを保有していた。また、鼻腔由来株にも食中毒由来株と類似した遺伝学的特徴を示す株を含んでいたが、その出現頻度は2%と非常に低いものであった。また、ブドウ球菌エンテロトキシンA(SEA)の体内動態を検討するために、嘔吐モデル動物であるスンクスにSEAを複腔内投与、あるいは経口投与し、抗SEA抗体を用いて免疫組織学的にSEAの分布を検索した。複腔内、経口投与ともに、SEAは消化管粘膜下組織肥満細胞に結合していた。また、脱穎粒阻害剤の複腔内投与によって、経口投与および腹腔内投与されたSEAによる嘔吐が抑制されることが明らかになった。すなわち、SEAによる嘔吐発現において粘膜下組織肥満細胞による脱穎粒が重要な役割を果たしている可能性が高い。以上のように、ブドウ球食中毒由来菌の遺伝学的特性の一端を解明するとともに、SEAの感染機構に肥満細胞が関与することが明らかになった。
著者
実松 克義
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

マヤ民族文化の世界観において最も重要な要素はマヤのカレンダー-とりわけ神聖暦-とその時間思想である。マヤの時間思想はその本質である「ナワール」にあるが、マヤ人にとって、時間とは、生命の火、エネルギー、叡智、サイクル、また歴史を意味する。時間によって世界と生命は創造され、また刷新され、絶えざる維持発展を遂げるものである。
著者
日野 秀逸 吉田 浩 尾崎 裕之 関田 康慶 藤井 敦史 佐々木 伯朗
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究では、第1に高齢化社会に対応した福祉・経済社会システムの事例研究として、最も福祉水準が高い北欧のリーダー的存在であるスウェーデンを事例として取り上げた。ここでは、日本との対比もしながら、スウェーデンの1990年代改革を分析し、スウェーデンの福祉国家再生・発展における地方分権と協同組合の役割を検討した。第2に、高齢者福祉に関する地域モデルの構築に関し、具体的には宮城県の市町村の福祉財政に焦点を当て、介護保険制度における介護者の意識と実態に関する研究として、在宅サービス提供者に対するアンケート調査を行った。その結果、「介護の社会化」、「在宅サービスの市場化」などに介護者の意識が変化していること、介護サービスに関するニーズが変化していることなど、行動学の面から介護者の現状が明らかになった。第3に、福祉NPOの実態を調べるため、阪神高齢者・障害者支援ネットワークの事例を通してNPOにおける<市民的専門性>の形成について検討した。また、神戸のコミュニティ・ビジネスと社会的企業に関して、神戸市において、主として対人サービスを行うコミュニティ・ビジネスに関してフィールド・ワークを行った。その結果、神戸のコミュニティ・ビジネスが、幅広いソーシャル・キャピタルを基盤として成立している一方、行政委託への依存体質が強いことなどが明らかとなった。第4に、高齢社会における財政の役割を、財政社会学の観点から評価を行った。現代国家はいずれも憲法やその他の法律上では公共の福祉を尊重しているが、日本においては、福祉政策に適した財政システムと、現実の福祉政策との間に大きなギャップが存在する。こうした現象の説明として、新制度学派の説く制度の「補完性」原理は有益ではあるが、国家の相対的自律性を説明するには不十分である。ドイツ財政学から生じた「財政社会学」はこの点を既に指摘していた。深刻な財政危機が生じている現在の日本で、財政社会学の再評価は不可欠である。第5に高齢社会における世代間の不均衡の問題を定量的に検討するため、社会保障をはじめとした世代間の拠出、受給の状況、生涯純受給の格差について、所得再分配調査のデータに基づき世代会計の手法を援用して検討した。その結果、今後100年間の政府の財政収支を均衡させるためには、将来世代に現在世代に比して1.5倍あまりの一世帯当たり約4,900万円の追加的な負担が必要であるという結果も得られた。この世代間の格差を公平にするため、より早い時点で受益を削減する改革が将来世代に望ましく、2005年で改革する場合は、およそ35%の受益を削減すれば良いという結果が得られた。また2期間の世代重複モデルを用いて高齢化と財政政策、社会保障政策を動学的にシミュレートした結果によると、短期の減税、ベビーブーム世代の存在の中で高齢化、世代間所得移転政策の存在は、資本蓄積に大きくかつ長期のネガティブな効果を及ぼすことがわかった。
著者
杉本 卓洲 西川 麦子 島 岩 鹿野 勝彦
出版者
金沢大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

南アジアの宗教文化の展開および構造の大きな特性は、その多様性、複合性にある。それを総合的・包括的に解明し把握するためには、学際的な共同研究を行なうのが最も有効な手段であろう。しかもそれは、種々の観点からのアプローチがなされるべきである。本研究では、南アジアの宗教文化の解明に、聖と賎という新たな視点から光を照射する試みを行なった。一般の宗教研究においては、聖と俗、日常性と非日常性、特にインドの宗教社会にあっては、浄と不浄という相対概念、枠組みのもとに、そのあいだの関わり、交錯・葛藤が究明されるのであるが、本研究では特に賎の問題を追求した。これは従来見逃されてきた視点であり、本研究の意義として評価されよう。また、従来の南アジアの宗教文化の共同研究は、総じて仏教かヒンドゥー教に限られていた観がある。そこで本研究では、両宗教の外に部族宗教、イスラーム教の社会構造や文化複合の究明を加えて共同作業を行なった。その方法としては、インド学・仏教学の文献を用いての通時的・歴史的研究と、文化人類学・社会人類学の現地調査に基づく共時的研究との両面を交差させ相補しながら、学際的な共同研究を目指した。一般にインドの特に古典的文献は誇張と極端的表現に富み、どこまで実態を伝えているのか疑問を生じさせるものが少なくない。その史実性を解明するには、考古学的資料の参酌を初めとして種々の方法があろうが、現地調査とそのデータの記録である民族誌、宗教誌と、それらの分析および研究の成果を援用することは、きわめて有効な手段の一つである。また逆に、実地調査による研究成果についても、インドのような伝統的・尚古的社会にあっては、歴史的視野を抜きにしては単に皮相的な現状報告に止まるものとなろう。本研究では、こうした通時的および共時的研究の両面から、南アジアの宗教文化のなかの、特に仏教、ヒンドウー教、部族宗教、イスラーム教における聖のなかに現われた賎、賎のなかに現われた聖、聖から賎へ、賎から聖へといった聖と賎との浸透・交錯関係、そのメカニズム、下降・上昇の転化および作用のダイナミズム等を明らかにすることを目的として研究を進め、その研究のための資料の収集とともに、然るべき成果をおさめた。そして、以下のようなその成果の一部を含む成果報告書を刊行した。杉本卓洲「仏塔と菩薩に見る賎」、島岩「ゴーエンカーとヴイパッサナー瞑想法」、島岩「サンガラクシタとユーロ・ブディズムの成立」、鹿野勝彦「シェルパと職能カースト:南アジア周辺部の非ヒンドウー社会におけるジャート(カースト・民族集団)間関係についての一考察」、西川麦子「バングラデシュ農村の物乞、フォキールをめぐる聖と俗」。
著者
深谷 昌志 開原 久代 周 建中 深谷 和子 今井 和子 馬場 康宏 萩原 元昭 富山 尚子 馬場 康宏 李 珠絹 李 光衡
出版者
東京成徳大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は日本で見られる「育児不安」が、他の社会でも存在するのかを国際比較調査を通して明らかにするのを目的とする。調査結果によると、比較した5 地域の中で、それぞれの都市に固有の育児の問題が見られるが、日本的な意味での不安は見られなかった。そうした中で、東京の母親は親になるのをもっとも楽しみにし、献身的に子育てにあたっていた。母親として、熱心に子育てをする反動として、育児不安に陥る事例が生じる。
著者
花見 仁史 秋山 正幸 中西 康一郎 松浦 周二
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

すばる望遠鏡で検出した約10 万個の銀河について、赤方偏移、星質量、吸収量、星形成率を出し、多波長データベースを作成した。また、この一部の約1000 個の赤外線銀河について、それらの活動起源を星形成、活動的中心核、星形成+活動的中心核に分類し、星形成よりも巨大ブラックホールが潜む活動的中心核が卓越する後者2つの活動が赤方偏移1前後で急激に進化していること、また、その質量膠着率と成長率を明らかにした.
著者
真庭 豊 松田 和之 門脇 広明 片浦 弘道 丸山 茂夫
出版者
首都大学東京
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

単層カーボンナノチューブ(CNT)の、分子数個分程度の小さな直径をもった空洞内部に、水や炭素のかご状フラーレン分子などを挿入して、その性質を調べた。水分子ではアイスナノチューブと呼ばれる特異な氷が形成され、その形成温度がCNT直径に対してどのように変化するかが明らかになった。また、CNT内部の水分子が雰囲気ガス分子と交換する交換転移が発見された。さらに、CNT内部におけるフラーレン分子の大振幅回転運動の存在や特異な水の誘電特性が明らかになった。