著者
前原 直樹 佐々木 司 松元 俊
出版者
(財)労働科学研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究は,1週間から10日前後の実験研究およびフィールド調査において,睡眠脳波による睡眠構造の変化と,尿中17-KS-Sと17-OHCSのバランス,主観評定,生活時間調査および疲労感の評定尺度との関連を捉え,「睡眠不足」状態を定義,新しい疲労観測法を開発することを目的として行った。実験研究は,10日間にわたる5時間睡眠短縮実験であり,フィールド調査は16時間連続夜勤を行う病棟看護師であった。実験室実験の結果は,数週間にわたる慢性疲労状態では,労働日,特に勤務週の後半日において眠気や身体のだるさなどの疲労感の増大や熟眠感の低下が見られ,勤務や勤務後の生活に意識的な努力が必要となる事態が出現,その睡眠時の尿中S/OH値も低下した。また,休日でもこれらの値は回復せず,主観評価値や尿中S/OH値の低下が持続し,2日程度の休日では休息効果が認められなかった。またフィールド調査では,休日日数が1日の場合より2日以上の連続となった場合のS/OH値は大きい値を示した。2連続休日における健康水準が良好であることが示された。中でも特に3日以上の場合に有効性が高い結果が示された。2勤務サイクル調査での連続休日が2日以上配置されていた例の解析からは,尿中S/OHの変化の結果は3パターンが見られた。また,休日後の尿中S/OHの変化が次第に低下する事例において,連続休日が健康水準を回復させる上でどの程度有効となっているのかを検討した結果,図示された3例とも尿中S/OHは上昇していた。休日における生活調整の結果が示唆された。したがって,これらのことから,尿中17-KS-Sと17-OHCSのバランスは,睡眠短縮実験の疲労回復度との相関が高く,測定時点も少なく,調査対象者の負担も少ないことから,慢性疲労指標として有効性が高いと結論付けた。
著者
納富 信留 栗原 裕次 佐野 好則 荻原 理 大芝 芳弘 田中 伸司 高橋 雅人 土橋 茂樹 田坂 さつき 近藤 智彦
出版者
慶應義塾大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

古代ギリシアにおける「正義」概念を明らかにし、現代社会の諸問題に応える目的で、プラトン『国家』(ポリテイア)を共同で検討した。その研究成果は、将来まとめて欧文研究書として海外で出版することを目標に、国際学会や研究会で報告され、欧文論文として海外の雑誌・論文集に発表されている。2010年夏に慶應義塾大学で開催された国際プラトン学会大会(プラトン『国家』がテーマ)では、メンバーが運営と研究の中核として、内外の専門家と共同で研究を推進した。
著者
金子 由芳 松永 宣明 駿河 輝和 太田 博史 藤田 誠一 香川 孝三 三重野 文晴 川畑 康治
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

アセアン諸国の従来の制度構築は、欧米モデルの端的な移植、あるいは多国籍企業の便宜に応える設計に重きが置かれてきた。本研究は、中小企業の利益に根ざした制度構築の課題を、グローバリゼーションにおける中小企業政策、コーポレート・ガバナンス、金融促進、労働者の保護育成、などの多角的視点から、経済学と法学の融合的アプローチを通じて分析することをめざした。成果として、中小企業の技術効率の総合的な評価手法、中小企業の効率の特殊要因を反映した中小企業政策、企業経営判断と企業規模分布の関係性の複合要因、輸出志向型産業への労働移動の貧困削減効果、輸出牽引型産業における金融部門の貢献の限定性、中小企業促進に立った教育政策・労働法制の見直し、閉鎖会社・無限責任会社に重点を置いた企業法制の見直し、といった諸点が明らかにされた。
著者
柴田 重信
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

我々の体内時計は24時間よりずれており24時間に合わせる機構として同調がある。同調刺激には光と食事が重要であることが分かっている。そこで、マウスを用い、朝・昼・夕食のいずれが、同調刺激として有効であるか、また、食事の内容によって同調刺激に差が見られるか否かについてマウスを用いて調べた。その結果、長い絶食の後の食餌(ブレイクファスト)が、血糖値を上げ、インスリン分泌を引き起こしやすい食事内容が体内時計を同調させやすかった。
著者
齋藤 美穂 野嶋 栄一郎 松居 辰則 石川 真 野嶋 栄一郎 松居 辰則 石川 真
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究では、小学校の一斉授業場面において、教師と生徒のノンバーバルなコミュニケーションの手段であり、また教師のソーシャル・プレゼンスの一要因でもある表情を分析することにより、表情が学級風土に与える影響を検討した。教師の特徴的な表情や表出程度、印象などを多角的に検討した結果、表出される表情や程度は教師によって様々であったが、教師の表出する表情は、教師自身の印象や児童との一体感、学級風土に影響を与えることが明らかとなった。
著者
奥野 喜裕 村上 朝之
出版者
東京工業大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

本研究では、クローズドサイクルMHD発電の実用化に向けて、「MHD発電機の実用高度化」研究を戦略的に推進した。衝撃波管駆動MHD発電実験装置、および高精度電磁流体数値シミュレーションを駆使して、類似の発電システムの中では世界最高の発電出力密度を達成するとともに、発電機形状の改良による発電性能の向上を実証し、理論的裏付けとともに,更なる性能向上に向けての確度の高いロードマップを提示することができた。
著者
長澤 榮治 池田 美佐子 黒木 英充 鈴木 董 松本 弘 松井 真子(黒木) 黒木 真子(松井 真子)
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

アラビア文字圏とは、アラビア語・ペルシア語・オスマントルコ語などアラビア文字を用いる文化的世界を指す。これまで同地域に関する研究は、思想・宗教分野への関心が強く、また伝統的資料利用法による印象論的分析が中心であり、基礎資料の体系的利用にもとづくに政治社会分析の体制が十分に整ってはいなかった。本研究は、近現代の同地域に関する政治社会分析のために、議会議事録・官報・法令集・政府年鑑・地誌など基本資料を用いたデータベース形成のための手法を構築することを目指した。具体的な作業として、これらの原資料のデジタル化を行い、デジタル化した資料の索引・目次などを利用して用語検索システムのためのアラビア文字入力作業とデータベース設計のモデルの構築を試みた。また、上記の作業に当たっては、未所蔵分の資料の補充や関連する資料の収集、そして現地専門家との意見のために海外調査を実施した。今回アラビア文字圏データベースの構築に向けて基礎的な作業の対象に選んだのは、(1)オスマン帝国官報、(2)エジプト議会議事録、(3)エジプト新編地誌の三資料である。(1)オスマン帝国官報については、マイクロフィルム化とデジタル化を行い、全刊行号に関する書誌情報を入力し、そのデータの整理作業を行うとともに、検索システムのための準備作業を完了した。(2)のエジプト議会議事録は、索引のデジタル化と会期・会議別一覧表の作成を行った。(3)アリー・ムバーラク著『新編地誌』は、エジプト近代社会経済史資料の宝庫であるが、全文のデジタル化と索引のアラビア語入力、キーワード検索のための入力データの選定・整理作業を実施し、パイロット版の検索システムを作成した。上記のデータベースについては、今年度中に試験的に公開する予定である。
著者
濱田 正美 久保 一之 稲葉 穣 東長 靖 小野 浩 矢島 洋一 小野 浩 矢島 洋一
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

中央ユーラシアにおけるイスラームの歴史的展開の全体像を通時的に把握することを最終目標として、歴史地理、イスラーム神学、イスラーム神秘主義哲学、文化史など、従来概ね歴史研究からは等閑視されていた分野に関する知見を組み込んだ歴史像を描く可能性への橋頭堡を築いた。
著者
山岸 みどり 山岸 俊男 結城 雅樹 山岸 俊男 大沼 進 山岸 みどり
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は、まず第1に、インターネットを通した国際共同実験システムを構築し、そして第2に、そのシステムを用いた国際比較実験を実施する中で、現在予想される困難への対処法を関発すると同時に、予め予想困難な新たな問題の所在を明らかにすることにある。この目的を達成するために、平成11年度には、実験システムの基本プラットフォームの作成に向けた作業が進められ、基本プラットフォームの原型版が作成された。平成12年度には、この基本プラットフォーム上で実行する国際比較社会実験の具体的計画を進め、いくつかの実験が試験的に実施された。まず、時差の少ない日本とオーストラリア間で最初の実験が実施され、インターネットを通しての同時参加型実験の実施に伴う多くの困難な問題の存在が明らかにされた。最も困難な問題は、インターネットを通したコミュニケーションの不安定性に関する問題であり、瞬時の反応を必要とする同時参加型実験の実施に際しては様々な工夫が必要となることが明らかとなった。今回の実験は瞬時の反応を必要としないため、実験はそのまま実施されたが、コミュニケーションの安定性を増すためのいくつかのプログラミング上の工夫・改良が進められた。またオーストラリア側の研究グループがプログラミングに関するサポートを十分に有していないためにいくつかの問題が生じたが、日本側のグループが現地に出向くことで問題は解決された。今後国際共同実験システムを拡張するに際して、現地でのプログラミングサポートの体制を作っておく必要があることが明らかとなった。この点は今後の課題である。平成13年度には、アメリカのコーネル大学との間で、瞬時の反応を必要とする共同参加型の実験が実施され、複数の研究室を結ぶ国際実験の完全実施が実現した。
著者
寒川 恒夫 杉山 千鶴 石井 昌幸 渡邉 昌史
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

全4年度研究の最終年度に当たる本年度は、東アジアにおける民族スポーツの観光化変容補充調査及び、本研究の目的である"民族スポーツに観光化変容をもたらした要因の分析"及び、本研究活動を報告書にまとめる作業にあてられた。補充調査は、日本にあっては、北海道最大規模の観光イベントであるよさこいソーラン祭り、また沖縄県最大規模の観光イベントである那覇祭りの民族スポーツ(大綱引き、エイサー)、韓国においては忠清北道忠州市の忠州世界武術祭と慶尚南道の晋州闘牛、中国においては新彊ウイグル自治区ウルムチの少数民族民族スポーツ、また広東省広州市で2007年11月に催された第8回中国少数民族伝統体育運動会、それに北京市及び河南省温県陳家溝の武術について実施された。民族スポーツの観光化変容については、当該地域の経済活性化が最大要因として指摘されるが、担い手が少数民族である場合、経済要因に加え、民族の存在主張・文化主張の動機が無視し得ない。また、観光化に当たっては当該地の行政が大きく関与する事も全体的に認められる。特に中国の場合、1990年代の改革開放政策後に民族スポーツの観光化変容が開始するのが、その良い例である。それまで中国の民族スポーツは当該民族の伝統文化保存と健康という目的に存在根拠が求められていたが、改革開放後は「文化とスポーツが舞台を築き、その上で経済が踊る」のスローガンのもと、全国的規模で民族スポーツの観光化が進行して現在に至っている。観光化する民族スポーツの種目は多岐にわたるが、今回の調査で、これまではもっぱら修行や教育の枠内で展開し、経済や観光とは無縁であった武術に観光化の熱いまなざしが注がれていることが大いに注目される。
著者
新井 邦二郎 飯田 浩之 藤生 英行
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

子どもの自己決定権意識の構造を解明するために,小学生(5年生),中学生(2年生),高校生(2年生)と小学生・中学生の保護者(親)を対象に質問紙調査を行った.調査内容は,自己決定権意識(子どもが自分のことは自分で決定してよいと考える程度),自己決定欲求(自分で決定したいと考える程度),自己決定能力(自分で決定する自信の程度),自己決定環境(自分に決定が任されている程度)の4つである.その結果,次のような結果が見い出された.【子どもの結果】1 小学生・中学生・高校生とも,自己決定権意識よりも自己決定欲求のほうが高いレベルにある.(2)小学生・中学生・高校生とも,自己決定能力を自己決定欲求よりも,低く認知している.中学生・高校生は自己決定能力を自己決定権意識よりも低く認知している.(3)小学生・中学生・高校生とも,自己決定欲求や自己決定権意識よりも,自己決定環境を低く認知している.自己決定能力との関係では,小学生は自己決定能力よりも自己決定環境を低く認知し,中学生ではそれらを同レベルに捉えるが,高校生では自己決定能力よりも自己決定環境を高く認知している.【保護者の結果】(1)小学生・中学生の保護者は,子どもの自己決定権意識よりも自己決定欲求を高めに認知している.(2)小学生・中学生の保護者は,子どもの自己決定能力を自己決定欲求よりも低く,自己決定権意識とほぼ同レベルに認知している.(3)小学生・中学生の保護者は,子どもの自己決定欲求や自己決定権意識ならびに自己決定能力よりも,自己決定環境を低く認知している.以上のように,日本の小・中・高等学校の子どもに自己決定欲求が特に日常生活上の身近な出来事について高く見られるが,自己決定権意識はそれほどの高さではなく,自己決定能力は低く認知されている。このような結果をふまえて、小学校高学年までに放任ではなく指導的観点から自己決定環境を用意し,自己決定能力を身につけ,この自己決定能力とバランス(調和)のとれた自己決定権意識を発達させることが重要と思われる。
著者
品田 裕 大西 裕 曽我 謙悟 藤村 直史 山田 真裕 河村 和徳 高安 健将 今井 亮佑 砂原 庸介 濱本 真輔 増山 幹高 堤 英敬 平野 淳一
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、国会議員を主とする政治家と有権者の関係、あるいは政治家同士の関係がどのように変容しつつあるのかを調査し、その変化の要因を実証的に解明することを目的として開始された。その結果、本研究では、選挙区レベルの詳細な観察・データを基に、実証的に現代日本の選挙政治の変容を明らかにすることができた。取り上げた研究対象は、集票活動・有権者と政治家の関係・政治家同士の関係・議員活動・政治家のキャリアパス・政党下部組織など、多岐にわたった。これらの分析から得られた成果を基礎に、さらに、国会のあり方や選挙制度にまで分析を進めることができ、現代日本の選挙政治理解に一定の貢献を果たすことができた。
著者
秋野 晶二 林 倬史 坂本 義和 山中 伸彦 鹿生 治行
出版者
立教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

PC産業は、細分化された分業構造を基盤としながら、絶えざるイノベーションを特徴として成長を続けてきた。この継続的イノベーションは、部品・周辺機器産業におけるイノベーションと、そのイノベーションを方向づけるバスアーキテクチャのイノベーションとの二重のイノベーションにより実現され、それを可能にする企業内、企業間の開発・生産ネットワークが形成されてきた。ここでは製造機能、開発機能、販売機能のグローバルな分業構造が新たに見られる一方、製造機能は、規模/範囲の経済性を有効に機能させるための水平的統合・垂直的統合が見られる。
著者
成田 奈緒子 酒谷 薫 成田 正明 霜田 浩信 霜田 浩信
出版者
文教大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

脳科学的な所見を教育現場等で応用していくことを前提として、本研究は行われた。自閉症患児と健常児においてスイッチングタスク(音読→ワーキングメモリタスク)の負荷を行い、その際のNIRSによる前頭葉の脳血流量の変化を測定した。その結果、自閉症児では、ワーキングメモリタスクへの切り替えに応答して、前頭葉を活性化させる機能が健常群と比して大きく低下していることが明らかになった。教室での刺激の切り替えにおける自閉症児の困難さを理解し、支援する手立てとなることが期待される。
著者
香川 眞 佐藤 克繁 八田 正信 天野 栄一
出版者
流通経済大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

北海道ダウン・ザ・テッシ-オ-ペツ調査では、以下の点が観測された。当初、数人の仲間から始まった私的イベントが、その拡大に連れ、公的な色彩を帯び、全国レベルに拡大した。1998年度に全日本大会に成長し、2002年度には北海道新聞の支援の下、4日間で一気に100マイルを下る大規模なイベントに変化してきた。出発は手づくりカナディアンカヌーを製作した仲間という人間関係から始まり、流域地域に戻ってのカヌークラブ設立、個別カヌークラブの長が所属する広域カヌークラブ北海道カナディアンカヌークラブという構造から、当初の人間関係に基づく内実が失われ、現在まさにイベント集団分裂とイベント自体の再構成についての問い直しをしている。また、イベントが大規模になるにつれて、イベント集団と参加者の間に開きが出てきており、イベント集団の一部にはイベント自体の開催を危ぶむ事まで出てきている。これを回避するために、これまでの土着な人間関係のみに基づく集団から、NPO組織へ移行することにより、土着な関係からより強固な組織作りを目指している。また、高齢者・障害者の研究からは、養護学校の学生の修学旅行や、地元NPO法人の試みである「障害者のスポーツフェスティバル」、「障害者の海外旅行」を題材に、高齢者、障害者と健常者間の人間関係、とくに「生活への援助」の視点を超え、「遊びへの援助」の視点が、介助をする健常者、またイベント開催者側に芽生えつつある。
著者
二通 信子 大島 弥生 佐藤 勢紀子 因 京子 山本 富美子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

学術的な論文の論述プロセスを、研究行動の表現としての論文の構成要素の出現情況に着目して分野横断的に分析することによって、分野を超えた論文のタイプの類型化を行った。同時に、論文の各構成要素を形成する表現を抽出した。さらに、レポート・論文の構想段階のプロセスに沿った指導法を提案した。これらの成果をもとに、幅広い分野の学生が、論じる行為への理解を深め、レポート・論文に使われる文型や表現を学ぶための教材(『留学生と日本人学生のためのレポート・論文表現ハンドブック』)を開発した。
著者
浪江 巌 篠田 武司 宮本 太郎 横山 寿一 前田 信彦 北 明美 伊藤 正純
出版者
立命館大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

完全雇用は、どの先進諸国においても戦後福祉国家にとっての基本的な政策であった。しかし、現在のグローバル化と知識社会化のもとでは、完全雇用を実現することは困難になってきた。福祉国家の危機も進んでいる。では、こうした雇用と福祉の危機のなかで、各国はどのようにそれに対処しようとしているのか。それを高度福祉国家スウェーデンにおいてみながら、日本にとってのその意味を考察したのが本研究である。本研究で明らかになったことは、次のことである。(1)完全雇用を実現することを福祉国家スウェーデンの中心的政策として明確に位置付けてきたスウェーデンにおいても、その実現は難しくなっていること、(2)特に、社会的弱者ともいえる移民、青年層、女性、障害者などが労働市場から排除されるか、雇用の多様化が進む中で雇用の質が落ちていること、(3)しかし、現実には将来的に少子化の中で雇用をいかに確保するべきかがいまから大きな課題として認識されていること、(4)したがって、あくまで失業率を下げ、雇用率を上げるために政府は労働市場政策プログラムを様々な形で展開していること、(5)しかし、財政の関係、ならびにEU内でも進むワークフェアー的な労働市場政策の影響も受け、90年代以降その政策が変わりつつあること、などを確認した。では、どのように労働市場政策は変わりつつあるのか。ひとことでいえば、(1)労働市場政策の分権化、いいかえれば地方の役割を大きくしつつあることである。(2)多用な雇用形態が進むとともに、規制緩和が進み、民間企業による派遣事業が許可された。(3)労働市場弱者にたいするきめ細かい政策が実行されていることである。労働市場弱者を労働市場から排除しないことが社会結合にとって大きな課題であることが自覚されている。日本においても失業率の高止まり、また将来的には労働力不足を迎えるという事態はスウェーデンと変わらない。したがって、雇用対策がこの間、重視され、様々な政策が実行されてきた。しかし、まだスウェーデンと比べると危機感が少ないかに見えるし、対策の効用も十分あきらかにされていないかに見える。報告書は、12章から成り立つ。1章-「スウェーデン労働市場とG・レーン(宮本)、2章「労働市場の現状と政策の変化」(篠田)、3章「労働市場政策プログラムと職業訓練・教育」(伊藤)、4章「スウェーデンにおける雇用の男女平等」(北)、5章「保護雇用会社のサムハルの現状と未来」(福地)、6章「若年雇用政策の理念と現実」(櫻井)、7章「高齢者による人口問題の解決」(B・ヴィクルンド)、8章「障害者雇用の現実と課題」(横山)、9章「雇用対策における非営利セクターの役割」(中里)、10章「労働時間をめぐる政策動向」(浪江)、11章「分権化とクラスター・ダイナミクス」(G・ヨーラン)、12章「惨めなリーン生産方式か、豊な方式か?」(T・ニルソン)
著者
岡 典子 中村 満紀男 米田 宏樹 佐々木 順二
出版者
東京学芸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、インクルーシブ教育についてその本質と課題を明らかにするため、インクルーシブ教育がもっとも盛んに議論されており、しかし同時に、インクルーシブ教育に関わる問題をもっとも深刻に抱えるアメリカ合衆国を対象として、インクルーシブ教育の理念的・制度的・方法論的出発点としての特殊学級の成立と展開の過程ならびにその教育的・社会的意味について検討した。特殊学級は、今日、インクルーシブ教育推進者によって、その対極に位置する特殊教育の象徴的存在として、特殊教育批判の重要な一角とみなされてきている。しかし、彼らの批判に反して、実は特殊学級には開設初期から既に、今日のインクルーシブ教育に連なる理念やそれを達成する方法あるいは実践が含まれていたのである。たとえば、インクルーシブ教育をめぐる現代の議論では、個別的ニーズへの着目と通常教育との一体化という理念のみが先行しているように思われるが、このような認識と議論は、特殊学級においても初期の段階から重要な課題として存在してきたし、障害種によって方法と程度は異なっていたが、その対応策も考案されてきた。アメリカの特殊学級は、すべての都市において、またすべての障害種について同一の様相を示していたわけではない。たとえば統合と分離(separation)あるいは隔離(segregation)をめぐる議論とその背景、特殊学級に対する障害当事者の見解、特殊学級の発展や挫折を生じさせた諸条件、教育内容や方法の開発・改善、スティグマなどは、いずれも時期によって、あるいは地域や障害種によって異なる実相をもつ。したがって、インクルーシブ推進者が主張するような特殊学級がすべて排除的・排他的であったという批判は正鵠を得たものではないし、むしろ特殊学級において何が達成され、何が実現できなかったのかを詳細に解明することで、インクルーシブ教育の実現に必要な課題と手段が具体化できるのである。
著者
原 實 川崎 信定 木村 清孝 デレアヌ フロリン ユベール デュルト 落合 俊典 岡田 真美子 今西 順吉 木村 清孝 末木 文美士 岡田 真美子 ユベール デュルト 田辺 和子 落合 俊典 デレアヌ フロリン 松村 淳子 今西 順吉 津田 眞一 北田 信 清水 洋平 金子 奈央
出版者
(財)東洋文庫
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

平成18年度より3年間、「古代インドの環境論」と題し、同学の士を誘って我々の専攻する学問が現代の緊急課題とどの様に関連するかの問題を、真剣に討究する機会を持ち得た事は極めて貴重な体験であった。外国人学者を交えて討論を重ねる間に、我々の問題意識はインド思想や佛教の自然観、地球観にまで拡がって行ったが、それらは現代の環境破壊や無原則な地域開発に警告する所、多大なるものがあった。「温故知新」と言われる所以である
著者
笹田 栄司 亘理 格 大貫 裕之 村上 裕章 赤坂 正浩
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

最高裁判例と異なり、憲法32条「裁判」は憲法82条「裁判」よりも広い概念と捉えるべきである。即ち、他の権力から独立した中立的な裁判官が、手続的公正に則って審理を行うのであれば、それは司法作用と言うべきであり、その際、手続的公正の核心として、法的聴聞、武器平等があげられる。憲法32条が想定する「裁判」は、公開・対審・判決を"標準装備"した訴訟=判決手続に限定されず、上記のような司法としての性質を有する「裁判」を含む。(決定手続で行われる)「仮の救済」がこのような意味の司法作用であるなら、憲法32条「裁判」に含まれる。執行停止=仮の救済を司法作用と見るならば、「内閣総理大臣の異議」の制度は司法権を侵害し、さらに、裁判を受ける権利を侵害すると解されよう。右制度を合憲とする別の根拠は、内閣総理大臣が「緊急事態等への対応」するために必要とするものである。しかし、緊急事態が執行停止手続に関わるケースを想定するのは困難だ。合憲説の根拠とはなりえないだろう。ただ、内閣総理大臣の異議を廃止した場合、行政文書不開示処分取消請求事件において特定の文書の提出が仮の義務付け(行訴37条5第1項)によって可能となるなら、これによって文書が閲覧され被処分者にとり「満足的執行停止」となろう。「国の安全等に関する情報」(情報公開法5条3号)等が関係する場合が特に問題である。最近の実務では、地裁の執行停止決定に対する即時抗告について抗告審の高等裁判所が迅速に審理・判断する運用が行われているが、上記ケースについては抗告審の出番はなくなってしまう。このような場合に限り内閣総理大臣の異議を存続させることも考えられるが、それでは憲法上の問題は解消されない。そこで、抗告審の意味を喪失させる上記のようなケースに限り、即時抗告に執行停止効を認めることが考えられる。