著者
石井 一 佐藤 ハマ子 小尾 英樹
出版者
東北大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.ヒドラゾン化合物の合成と確認図1でn=1,3,5,7のアルキル鎖を有するヒドラゾン(SAAH)および図2の5-ブロモ-,3,5-ジブロモ-及び5-ニトロ置換ヒドラゾン(SSAH)を合成し、元素分析、IR、NMRスペクトル、融点測定を行って合成したヒドラゾンの構造と純度を確認した。2.抽出平衡の実験(1)合成したヒドラゾンの酸解離定数(Ka)及び分配定数(K_D)を求めた。SAAHのK_D値はアルキル鎖を長くすると増加し(炭素原子1個当りlog K_Dで0.64)、Ka値もアルキル鎖を長くすると増加した。SSAHの場合も、ブロモあるいはニトロ基の導入はKa値及びK_D値に対して極めて有効であった。(2)レアメタルとしてPr,Eu,Yb(一括してLn)を選び、各ヒドラゾンを用いて抽出実験を行い、錯体の結合比、半抽出pH、抽出定数(Kex)を求めた。その結果、いずれのLnもTBP及びClO^-_4の存在下で(Ln^<3+>)(HL^-)_2(TBP)_3(ClO^-_4)錯体として1,2-ジクロルエタンに抽出された。電子吸引性の導入は錯体のKex値の増大に極めて有効であった。3.抽出速度の検討図1でn=7のヒドラゾン(SOH)とYb(III)との抽出反応を速度論的に検討した。その結果、SOHによるYb(III)の抽出は二通りの反応経路、すなわち、Yb^<3+>+HL^-→P及びYb・TBP^<3+>+HL^-→Pで進行し、水相中で1:1錯体の生成反応が律速段階であることがわかった。以上の結果より、合成した一連のヒドラゾン化合物の中では、図2でX及びYにブロモ基を導入したヒドラゾン(DBSAH)がランタノイドの抽出剤として最もバランスのとれた有用な抽出剤であることを実証した。
著者
長松 康子 佐居 由美 今井 桂子
出版者
聖路加看護大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

中皮腫患者が急増し、国民の石綿に対する不安が高まっていたが、保健師向けの石綿関連相談ガイドラインが無かった。そこで、保健師向けの石綿関連相談ガイドラインの構築を目的として研究を開始した。まず、石綿関連NPOの石綿関連相談記録344件の内容を分析したところ、子どもを含む曝露不安、職業などからすでに曝露した人からの発症不安、関連疾患を発症した患者からの相談及び遺族からの相談に分類できた。相談内容に対して回答を行うには、医療のみならず、建築、法律、心理などの専門的知識が必要と考えられた。とくに、学校や工事現場などの環境曝露への不安に関する相談が多かったことから、子どもと保護者向けの石綿情報サイトを開設した。さらに全国の保健所の石綿関連相談事業についての調査を行った結果、前年度の相談件数は、平均5.3件で、担当者数は平均3.0人で看護師を配する保健所が7割を超えた。担当者で研修を受けたものは14%のみで、マニュアルを全く使用しない者が35.4%に上った。相談担当者の7割以上が該当業務について自信が無いと回答した。その理由として多かったのは、相談件数が減って知識が蓄積されない、相談内容が多岐にわたるなどであった。保健所の石綿関連健康相談担当者の自信度が低く、マニュアルがあまり使用されていないことから担当者のニーズにあったガイドライン作成が必要と考えられた。しかし、研究途中で他の研究者によって優れたガイドラインが開発されたので、保健所職員がもっとも相談対応が困難であると回答した患者の不安について研究目的を変更した。胸膜中皮腫患者14名を対象にインタビュー調査を行ったところ、患者は様々な困難を体験していた。困難は、進行の速い難知性疾患であること、希少疾患であること、石綿被害によって起こることという、中皮腫の特性に起因していた。このような複雑な困難が、次々と起こり、病気の進行が速いため、一つの困難が解決する前に新たな困難が発生して、困難の重層化が起こっていた。また、患者は医療従事者が経験と知識が不足しており、十分なケアを受けていないと感じていた。
著者
中森 茂 高木 博史 高橋 正和 辻本 和久
出版者
福井県立大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2002

絹タンパク質、セリシンにはSer、Thrなどの親水性アミノ酸残基に富む38残基の特徴的なアミノ酸配列が含まれている。本研究ではこれまでにセリシンの加水分解物や、上記38残基が2回連続したペプチドが昆虫細胞Sf9の血清中での細胞死に対して抑制活性があることを示してきたが、本年度の研究で以下のような新しい発見があった。1)38残基ペプチドの細胞死抑制効果の活性中心が10残基のペプチドSP3にあることを示した。この配列はSGGSSTYGYSである。2)SP3のC末端-YGYSをWGWSに変えても活性に差はないが、-AGASに変えると活性がなくなった。この事実からTyr, Trpなどの芳香族アミノ酸が活性に重要な役割を果たしていることが示された。3)NおよびC末端のSを削除したペプチドでは活性が大幅に低下した。このことからSerも重要な役割を持つことが示された。4)昆虫細胞Sf9の16時間培養後のDNAの電気泳動の解析によって明瞭なヌクレオソーム単位毎の特異的な切断が観察され、この細胞の死がアポトーシスによること、セリシンの加水分解物の添加がアポトーシスを抑制することが示された。
著者
飯田 浩二 康 燉赫
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2002

本研究課題である"計量魚群探知機を用いた日本海におけるスルメイカの資源量推定の高精度化に関する研究"の2段階目として,平成15年4月から平成16年3月までの研究進行状況および概要を以下に述べる。1.2003年6月,北海道の南西海域である奥尻島周辺において,北海道大学練習船うしお丸搭載の38,120,200kHzセンサーにより,スルメイカの音響データを収集した。3周波数で得たデータは,周波数別のスルメイカの音響散乱特性を基準として,エコーグラム中でスルメイカのみを抽出するために,2周波数間の体積散乱強度差法を利用して,分析用である。2.2003年7月,北海道大学野外実験場において,18個体の生きたスルメイカを利用して,27時間,自由遊泳状態の遊泳角度を測定した。この測定結果は,スルメイカのTS算出および現場での音響データ解析における重要なパラメータとして適用可能であろう。また,外套長15-19cmの生きたスルメイカのTSを,70,120kHzのセンサーを用いて,姿勢角と共に測定した。3.2003年11月,"time of flight method"によりスルメイカ体内の音速を,重量と体積から密度を測定した。また,超音波カメラを利用して,スルメイカ体内の構造を観察した。この実験結果は,スルメイカTS推定のための音響散乱モデルにおける重要なパラメータとして利用可能である。4.2003年12月,韓国麗水大学の海水水槽において,麻酔したスルメイカを用いて,姿勢角変化に伴うTSの変化を,38,120kHzのセンサーにより測定した。生きている状態での実験はTS備に偏りがあるため,任意の角度でスルメイカを固定して得た正確なTSは,自由遊泳状態のTS実験結果を補充できる。全般的に事前に計画した実験は実施したが,生きたスルメイカを扱わなければならないため,海上実験において多くの資料を得るのが困難であった。平成16年には1,2年目に得られた資料の不足分を補充し,得られた資料から研究結果報告書および論文を作成する予定である。
著者
白井 伊津子
出版者
淑徳大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

修辞表現について、とりわけ中国古典文学における譬喩表現と日本古典文学の譬喩表現を比較検討し、日本古典文学における譬喩表現の独自性を明らかすことを目指した。 結果 、『萬葉集』の直喩表現、序歌表現「詠物」「寄物」歌表現を一覧しうる譬喩表現比較のための基礎資料が整備されるとともに、(1)『萬葉集 』後期に至り、仏典の受容や諺の引用を契機としてあらたな直喩表現の方法が獲得されたこと、(1)『萬葉集』巻八、十の「詠物」歌「寄物」歌に中国詠物詩の譬喩表現の方法を見いだしうること、(1)懸詞に縁語をともなう表現や見立ての技法といった、音形式を主する表現方が平安朝和歌において人事と景物の事象の譬喩関係を表現するため方法として用いられていることが明らかとなった。
著者
寺岡 宏樹 上野 直人 遠藤 大二
出版者
酪農学園大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

1)ツメガエルの約4万クローンのcDNAについてマクロアレイを行った。2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p- dioxin(TCDD)は受精後27時間胚で1クローンの増加、5クローンの減少、7日胚で41クローンの増加、12日胚で14クローンの増加、42クローンの減少を起こした。しかし、cytochrome P450 1A(CYP1A6,7)を除いて、ノーザンブロット法で増減が一致したクローンを見つけることができなかった。2)ノーザンブロット法により、Ah受容体は受精後初日から既に弱いが発現し、7日で顕著な増加がみられた。AHRの発現はTCDD暴露で影響されなかったが、CYP1A6,7の他、CYP1Bでは顕著な誘導が受精後2日からTCDD濃度依存性に観察された。この他、Arntやグルタチオン転移酵素の発現はTCDDに影響されなかった。3)以上の結果から、初期発生においてTCDDであきらかな誘導を受けるCYP1AについてTCDD感受性の高いゼブラフィッシュで役割を検討した。モルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチド(AHR2-MO)を用いて、ゼブラフィッシュで報告される二種のAh受容体の一つ(AHR2)の翻訳を阻止したところ、体幹の血流遅延・浮腫、下顎の成長阻害および中脳背側部の局所循環障害とアポトーシスなどこれまで知られている主なTCDD毒性が顕著に阻害された。AHR2-MOは毒性とともに、CYP1A誘導を阻害したので、CYP1Aに対するモルフォリノアンチセンスオリゴヌクレオチド(CYP1A-MO)を処置したところ、上述のTCDDによる毒性が抑制された。4)最近、TCDDがヒト由来培養肝細胞で、炎症や各病態で誘導されるプロスタグランジン合成酵素であるシクロオキシゲナーゼ2(COX2)が誘導されることが報告された。COX2阻害剤は同時暴露した場合TCDDによる中脳静脈の血流遅延とアポトーシスを顕著に回復させた。COX2に対するモルフォリノアンチセンスオリゴ処置は低濃度TCDDによる血流遅延とアポトーシスをほぼ完全に消失させた。48〜50hpf胚の頚動脈と思われる部分にCOX2 mRNAの強い発現が観察できた。TCDD処置はCOX2発現に全く影響しなかった。5)我々はこれまで、ソニックヘッジホッグ(shh)が下顎にも発現し、TCDD暴露により顕著に減少した。AHR2-MOはTCDDによるshh発現の低下と下顎の低形成を阻止した。TCDDは下顎原基のptc1と2の発現には影響を与えなかった。以上より、TCDDによる毒性発現機構にAHR2、CYP1A、COX2、Shhの各分子が関与することが示唆された。
著者
小城 勝相 市 育代
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

1.動物実験における酸化ストレス評価に関する研究生体内における酸化ストレスを評価する指標として、ビタミンC、E、脂質ヒドロペルオキシドを使い、各種病態におけるこれら指標の動態を検討した。その結果、老化においては脂質ヒドロペルオキシドが優れていることが、老化促進モデルマウスの実験から判明した。薬物による肝炎モデル動物ではビタミンCが最も鋭敏な指標であることが判明した。2.この50年間ビタミンCと同等の活性があるとされてきたデヒドロアスコルビン酸の生理活性をODSラット(ヒトと同様ビタミンCを体内で合成できない)を用いて検討した結果、デヒドロアスコルビン酸の生理活性はビタミンCの10%程度であることが判明した。同じ手法を用いて、天然物である2-O-(β-D-glucopyranosyl)ascorbic acidにビタミンC活性があることが判った。3.動脈硬化に関する研究動脈硬化の初発反応は低密度リポタンパク質(LDL)の酸化であると考えられている。しかしその化学的意味は全く判っていなかった。本研究において、LDLを酸化すると、LDLのアポリポタンパク質B-100(アポB)が分解すること、その反応性はビタミンEと同程度で血液中の他のタンパク質よりずっと高いことがわかった。さらに、酸化分解したアポBはヒト血液中に存在し、その量を定量すると、動脈硬化の診断に使われている臨床指標と良好な相関をした。アポB分解生成物の定量にはWestern blotを用いるため、27時間もの時間がかかり、実用には向かない。そこで実用的な方法を開発する目的で、LDLの酸化を評価する別の方法を検討した。その結果、酸化とともにLDLの粒子径が小さくなることを発見した。この発見は昔から、動脈硬化の危険因子とされるsmall dense LDLに酸化反応が関与することを初めて明らかにした点でも重要な発見である。
著者
永合 祐輔
出版者
大阪市立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

超流動ヘリウム中量子乱流生成の原因の一つである、振動流によって量子渦上に誘起されるケルビン波を超伝導細線振動子で観測するため、希釈冷凍機を用いて~10mKで実験を行っている。ケルビン波を検出するために、ピエゾアクチュエータ(PAB4010)の先に直径70μm金属線(針)をつけ、その先と細線振動子の間の距離を100μm以内に近づけた実験装置を作成した。このことにより、振動子と針の間に橋渡しする付着渦糸を実現できる。この渦糸を振動子によって振動させた状態でPAB4010を駆動し、振動子-針間距離を変化させることで、ケルビン波の共鳴モードを観測することができると期待される。まず、ヘリウム減圧排気冷却用冷凍機を用いて1.2K超流動^4He中でこの実験装置の駆動テストを行い、その後、実験装置を希釈冷凍機に組み込むためのセル容器を作成した。容器下部には、熱交換率を向上させるため銀パウダーを焼結させ、渦を減らすため実験装置が入る容器上部との間を小さい穴でつなぐ構造にした。実験セル容器完成後、容器単体で真空漏れテストを行い、その後希釈冷凍機に設置した。液化速度を調節するための流量調節弁付流量計をとりつけ、配管やバルブ、配線を増設した。希釈冷凍機で実験セルを~10mKまで冷却し、まず真空でPAB4010駆動テストを行った。この温度でも一昨年の1.2Kでの予備実験の時と同様、±60μm程度変動可能であることが新たにわかった。その後、ヘリウム注入ラインに真空漏れが見つかったため、室温に戻し、修理を行った。現在、再度~10mKまで冷却し、ケルビン波探索実験が進行中である。
著者
森田 道雄
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究は、新しい設計思想にもとづいた学校建築、とりわけその教室などの学習環境が、児童生徒にどのような影響を及ぼしているか、また、教員がその学習環境をどう理解し、活用できているか、を実証的に明らかにすることを目的とした。対象校は、いわゆる「教科教室制」をとる、中学校とした。生徒調査については、3カ年に一校ずつ綿密な予備調査をおこない、ほぼ共通のアンケート票にもとづき悉皆調査で実施した。対象数はA校約500、B校約200、C校約200である。その結果、おおむね生徒は新しい学校建築に好意的であり、その内容についても設計思想をかなりの程度反映するものであったと言える。しかし、同時にこの影響結果は、校舎設計によるものだけでなく、学校経営や教員集団の工夫と努力が反映している点も、明らかになっている。「教科教室制」、には、デメリットも指摘されてきたが、適切な学校経営(および教育行政の支援)があれば、そのメリットが生かされ、生徒にも受容されるという「結論」が得られた。教員の理解・活用の実態調査に関しては、学校建築専門誌から抽出した学校リストから郵送によるアンケートを実施した。送付数は120、回収学校数は43であった。回答者は主に校長、教頭、教務主任であった。これは、A3判2頁、質問数9、すべて記述式で回答を求めた。対象校はオープンスペースをもつ学校がほとんどであったが、教員が、従来とは異なる校舎において、設計思想への理解、長所短所の認識、経営上の工夫などを聞いた。丁寧な記述が多く、現場のナマの声を聞くことができた。また、教員異動の実態や教育活動をおこなう上での違和感の有無にも言及した回答もあった。学校の実際の姿が多様であり、訪問調査を実施しなかったので、調査結果において、個別的な実態が把握されたこと以上の、結論的な特徴を洗い出すには至らなかったといえる。しかし、こうした設計思想に対して、回答のあった学校では積極的に受容し、かつ、学習環境を生かした経営に努力している姿が把握できた。これらの調査結果は、「生徒の行動・意識に及ぼす教室環境設計の影響の研究報告書」に掲載した。
著者
千葉 悦子 岩崎 由美子 浅野 かおる 坂西 友秀
出版者
福島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

国際結婚が日本と比較して20年遅れる韓国において、結婚移民者に対する社会的統合策に大きく転換した社会的背景と施策の有効性について、全羅北道鎮安郡・長水郡多文化家族支援センターの事例調査分析をとおして考察した。韓国文化への適応教育や韓国語学習など同化主義的性格が濃いものの、母国語の講師・通訳等の就労の場づくりや営農やコンピューター等の技能習得による就労自立支援、遠隔地に居住する者への訪問教育など結婚移民者のニーズにもとづく学習・指導援助が積極的に展開され、結婚移民者農山村への定住に寄与していることが明らかとなった。
著者
河合 千恵子
出版者
(財)東京都高齢者研究・福祉振興財団
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究の目的は,配偶者との死別後の最初の数年間での回復のあり方が,その後の人生におけるサクセスフルエイジングを予測するとする仮説を明らかにすることである.調査対象者は配偶者と死別した184名の中高年者(平均年齢70.9歳,配偶者と死別後平均8ヶ月)で,死別後の16年間に3回の面接調査を行った.第2回調査は初回調査の翌年に,第3回調査は初回調査から15年後に実施し,第2回調査は136名,第3回調査は51名の対象者から回答を得た.分析は,サクセスフルエイジングの指標となる変数(安否,精神的健康,いきいき尺度)を従属変数に,死別後の回復の指標となる変数(抑うつ感及び孤独感の変化)を独立変数にしたロジスティック回帰分析と重回帰分析を行なった.抑うつ感は第2回調査時の安否を予測する有意な要因であったが,第3回調査時の安否を予測しなかった.孤独感は第3回調査時点における病気や死亡のリスク要因で,第1回調査から第2回調査にかけて上昇した場合には第3回調査時点で病気や死亡の危険があることが判明した.孤独感はまた第3回調査時の精神的健康や幸福感を予測する要因でもあった.死別後に孤独感の上昇が見られたり,孤独感が高い状態にある場合には第3回調査時の精神的健康状態が悪く,また死別後孤独感が低下する場合には第3回調査時の幸福感が高まることが判明した.以上の結果から配偶者との死別後の孤独感の回復のあり方は,その後の人生におけるサクセスフルエイジングを予測すると結論した.
著者
小野 善生
出版者
滋賀大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究は、インタビュー調査を中心とする質的調査方法でコンテキストを重視したリーダーシップ研究を実施した。調査対象としては、エーザイ株式会社アルツハイマー型認知症治療薬「アリセプト」探索研究チームの事例、ランプ・メーカーであるフェニックス電機株式会社の再建事例、神戸洋菓子産業の阪神淡路大震災の復興事例、複合素材の研究開発を主とする株式会社I.S.Tにおいてフィールド・ワークを実施した。株式会社I.S.Tの事例は現在データの分析中であるが、それ以外の事例では成果が出ている。エーザイの事例では、リーダーシップの役割分担という新たな概念を導きだすことができた。この事例におけるリーダーシップの役割分担というのは、専門領域の異なる研究者を統率するには、リーダーが自らの影響力の範囲を自覚し、専門領域の異なる部下に対してはその分野に精通したサブ・リーダーを選び、彼等とリーダーシップを役割分担するというものである。フェニックス電機の事例では、企業再建における再建請負人のリーダーシップで重要なのは、リーダーの意向に従うだけの受動的なフォロワーではなく、リーダーと問題意識を共有し、いつでもリーダーになれるだけの能動的なフォロワーを育成することにあるという結果が得られた。フォロワーの能動性を喚起するリーダーシップとは、リーダーが有能性を示しフォロワーからの信頼を得たのちに、組織のビジョンをフォロワーとの意見のすり合わせという一見すると遠回りに見えるような粘り強い相互作用を通じて、彼らの意識変革を促すというものである。フェニックス電機は、倒産後7年目に再上場を果たし、その後当時の経営幹部に社長のポストが継承されたことから、このリーダーシップの有効性が実証されている。
著者
山根 祥雄 小山 健蔵 白石 龍生 安井 義和 YAMANE Yoshio
出版者
大阪教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

近年、国内外の学校安全が脅かされ、死傷事件が後を絶たない。先例を教訓化して、同様な事件・事故の再発を防ぎ、被害を最小化するために、学校管理の強化、および死傷事件の際における緊急の組織対応のあり方の具体的かつ総合的な検討が本研究の目的である。しかし、学校安全管理、緊急の組織対応に関して、研究調査・情報・知見が決定的に不足しているので、附属池田小学校、アメリカ合衆国・コロンバイン高校、イギリス・ダンブレーン小学校を訪問し、各事件を再検証した。さらに各事件を教訓とする各国の安全管理、予防策、緊急の組織対応に関する全国的方針、および悲惨な事件の被害者のメンタル・ケアなどを学んだ。一方、学校安全を推進する国内の避難訓練にも立会い、安全管理の強化や非常時の組織体制などを調査した。ロサンゼルスの学校安全管理システムは、予防・防止・緊急の組織的対応が包括的実働的であり、参考になる。昨今、学外不審者にとどまらず、児童生徒による事件など、多様な要因、危険の増大と予測の困難な傾向であるので、立地条件に応じた一層の安全管理、迅速即応・臨機応変の対応、情報の共有化・有機的連携などが要請される。リアルな緊急組織対応のための研修や実際訓練によって、危機回避・避難・対応の着想力やスキルを培う機会の設定が不可欠である。こうして、危険性の確認、管理維持・強化、組織体制の点検、地域・家庭・学校の連携、避難訓練の継続などが必要とされる。また、学校・家庭・地域が緊密に連携し、総合的に子どもを守る取り組みが提唱され、いわばグローバルなモデルとされている。本研究が、安全確保を生存の基本として、万一の場合における安全の一層の管理・整備、予備的な対応方法の準備・訓練の契機となり、通常の学校運営への示唆ともなれば幸甚である。
著者
田中 開 大澤 裕 川出 敏裕 寺崎 嘉博 井上 正仁 佐藤 隆之
出版者
法政大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

本研究において、我々は、近時問題化している銃器犯罪に関する諸問題につき、実地調査、資料収集、研究会などを行い、その成果のいくつかを公表した。研究した項目は、(1)少年犯罪と銃器、(2)銃器犯罪と民間ボランティア活動、(3)銃器犯罪について今後導入・活用されるべき捜査手法(4)情報提供者や証人の保護、(5)被害者や被害関係者の保護、(6)警察官による銃の使用、(7)諸外国における銃器情勢、であった。とりわけ、少年犯罪と銃器という問題を研究したきっかけは、本研究を開始した1999年4月に、アメリカ、コロラド州にあるコロンバイン・ハイスクールにおいて、少年が銃を乱射して多数の生徒や教師を殺傷するという事件が発生したことであった。少年による銃器を使用した凶悪犯罪は、近年における銃器の一般人への拡散傾向に照らすと、わが国においても、将来的には起こりうる重大な問題である。また、研究の過程で、(a)銃器犯罪の撲滅に向けて、民間ボランティア活動などの各種防犯・啓発活動との連携などによる銃器犯罪対策を考えていくべきこと、(b)おとり捜査、コントロールド・デリバリー、通信傍受をはじめとする捜査手法の活用や工夫が重要であること(捜査手法のなかには、とりわけ薬物犯罪と共通するものが少なくない。外国の例においても、薬物の不法取引と銃器は密接な関連を有している)、(c)情報提供者や証人の保護が肝要であること、(d)被害者・被害関係者の保護を進めるべきこと、(e)警察官による銃の使用の許否・限界につき再検討すべきこと、などの課題が認識された。また、諸外国における銃器情勢については、従来研究していなかったドイツの銃器情勢について調査研究ができたことが、一つの成果である。
著者
古川 達也
出版者
名古屋工業大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

2年目までの研究によってフルオロシュガーの重要な中間体であるFluorinated Osmundalactoneの合成に成功した。その研究ではアリル位のフルオロメチル化反応(Tsuji-Trost反応)がOsmundalactone合成の重要な鍵反応となっていたため他のアリル位のフルオロメチル化反応が行うことができれば,様々な置換基を有するOsmundalactoneが合成可能であると考えた。したがって,3年目の研究では新たなアリル位のフルオロメチル化反応の開発に取り組んだ。出発原料にMorita-Baylis-Hillman(MBH)反応の生成物から誘導できるCarbonateを用い,シンコナアルカロイドを用いたS_N2'/S_N2'型のモノフルオロメチル化反応を検討した。求核剤にFBSM触媒に(DHQD)_2AQNを用いることで高エナンチオ選択的にFBSM付加体を得ることに成功した。またFeCl_2およびTi(O^iPr)_4を添加剤として加えることによって選択性の向上が見られることを見出した。一方,求核剤としてRupert試薬を用いればトリフルオロメチル化反応が進行することも見出した。本反応はLewis塩基を用いたアリル位の初の不斉トリフルオロメチル化反応の例である。トリフルオロメチル化反応では触媒に(DHQD)_2PHALが効果的であり,エーテル系溶媒が重要な役割を果たしていることがわかった。得られたFBSM付加体およびトリフルオロメチル化体はラジカル反応を用いた分子内環化反応を用いることでフルオロメチル基を有するジヒドロインデンへと誘導することに成功した。X線結晶構造解析の結果,興味深いことにFBSMの付加体とトリフルオロメチル付加体は立体が逆転することが分かった。したがって,反応機構の違いが予想された。
著者
山崎 文夫
出版者
産業医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2002

暑熱環境下では涼しい環境下に比べて、起立時に血圧の低下が起こりやすく、起立耐性は低下する。動脈圧反射機能は起立時に動脈圧を正常な範囲内に維持するために必要不可欠な機能である。圧反射の反応性を考える際、応答量に加えて、圧受容器が刺激されてから心拍変化が起こるまでの時間など応答時間も考慮する必要がある。すなわち心拍応答が短ければ、変化した血圧を短時間で正常範囲内に回復させる能力が高いと考えられるが、心拍の圧反射応答時間に暑熱負荷がどのように影響するかは明らかでない。そこで本年度は、心拍の動脈圧反射反応時間に及ぼす暑熱ストレスの影響について検討した。被験者は健康な成人9名であり、実験の内容や危険性についての説明を受けた後、同意書に署名した。水環流スーツを用いて被験者の皮膚温を調節し、正常体温時と全身加温時に圧反射機能テストを行った。圧反射機能テストにはネックチャンバーを用い、頚部に+40mmHgあるいは-60mmHgの圧を負荷することによって、頚動脈圧受容器を刺激した。各圧負荷は2-3分間の休息を挟んでそれぞれ5回行った。頚部への圧刺激から心拍反応がピークに達するまでの時間(+40mmHg、正常体温時2.5±0.3秒、加温時3.5±0.3秒;-60mmHg、正常体温時1.2±0.2秒、加温時2.2±0.3秒)は、全身加温によって有意に増加した。全身加温によって、+40mmHgの圧刺激から血圧反応がピークに達するまでの時間(正常体温時4.3±0.5秒、加温時6.7±0.6秒)は有意に増加したが、-60mmHgの刺激に対するその反応時間(正常体温時5.1±0.5秒、加温時4.5±0.6秒)は変化しなかった。これらの結果から、心拍および血管運動の頚動脈圧反射反応は、暑熱ストレスによって遅延することが示唆された。
著者
三田 悟 大野 始
出版者
静岡大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

シンビジウムを25-30℃の高温ストレス下で生育すると花芽が壊死する。これを避けるために、シンビジウム生産者は植物体を標高1,000メートル程度の高い山に避暑させる。これを山上げ栽培といい、生産者にとっては重労働である。高温ストレス下でCyNAC1遺伝子の発現レベルが顕著に高まった。CyNAC1遺伝子を過剰発現させたトマトとシロイヌナズナでは顕著な生育障害が見られたことから、CyNAC1遺伝子は高温ストレス下で、他の遺伝子群の発現を制御しつつ、シンビジウム花芽の壊死を促進する役割を担っていると考えられた。
著者
初田 亨 平井 充
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

東京の主要な繁華街である浅草・銀座・新宿・渋谷の建築機能は、戦後から現代において、ショッピングを楽しむエリアの拡大により、飲食店や喫茶店、居酒屋などの分布状況が大きく変化してきていることが確認できた。4つの繁華街に共通していたのは、社交を主とする喫茶店や居酒屋などの施設における、昼と夜の性格による分布が分離してきた変化である。さらに、新宿、渋谷では、ターミナル駅前における多様な機能が混在してきた集積の変化が認められた。
著者
森 善一
出版者
東京都立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本研究では,車椅子生活を送っている方々が特別なインフラのない環境でも,健常者と同等の日常生活を送れるような直立移動システムを開発することが目的である.本移動システムは(1)移動台車,(2)伸縮松葉杖,(3)下肢関節駆動機,の3装置から構成される.これらの3装置のうち,本研究に先立ち申請者は伸縮松葉杖の製作を行っており,また昨年度は,旋回機能を持つ移動台車の製作,および下肢関節駆動機の設計を行ってきた.今年度は以下の研究を行った.1.下肢関節駆動機の製作,および動作確認実験を行った.2.3装置を装着し,椅子からの起立動作を行った.この動作において伸縮松葉杖と下肢関節駆動機の協調動作が必要となり,どちらの装置を主として使用するかは,杖をつく位置や動作シーケンスによりさまざまに取ることができる,昨年までは,杖を体の後方へつき,杖の伸縮駆動力に頼った動作を行ってきたが,例えば電車における長椅子等の場合は,杖を後方へつけないという問題がある.また,動作中に杖がスリップした場合には,転倒する危険をはらんでいる.そこで,今年度は,杖を体の前方へつき,腕の力を利用して,体の重心位置が常に移動台車の上に来るように変更した.実験を通して,ほぼシミュレーション通りの起立動作が実現できることを確認した.また同様の動作手法を階段昇降へも応用し,シミュレーションを通して有効性を検証した.3.これまでは,電源装置や制御装置をシステムの外においていたが,今年度は,それらをバックパックへ収納して背負い,システムの完全自立化を実現した.システムへの通信には,他のPCを用いて無線で行った.4.当初の最終実験目標として,駅から駅への電車を利用した移動を掲げていたが,今年度は,実際の駅(京王線南大沢駅)において,改札の通り抜け動作,およびエレベータへの乗り込み,乗り出し動作を実現した.
著者
三谷 篤史
出版者
札幌市立大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

前年度に購入したユニバーサル顕微鏡を用いて,フィーダ表面およびマイクロパーツ表面をモデル化した。顕微鏡による撮影画像を,画像解析により断面形状を離散データ化し近似する方法を適用した。ここでは,微小物体表面に存在する凸部が半球型であると仮定してモデル化した。フィーダ表面が完全なのこぎり歯であると仮定してシミュレーションを行い,実験結果と比較した。その結果,より複雑なモデルによる近似が必要であることが分かった。また,微小物体の摩擦角を計測することにより,凝着力を検証した。ここでは,仰角を20 deg,ピッチを0.01,0.02,\…0.1mmとしたフィーダ表面を用いて,湿度を変化させた場合の摩擦角を計測した。なお,湿度は40,50,60,70%とした。さらに,湿度が輸送におよぼす影響を実験により検証し,湿度60%において最も高速な輸送が実現できた。これらの結果について,一般的な工場の湿度が作業効率の観点から55?65%に設定されていることから鑑みれば,本実験結果は妥当性の高いものである。一方,フィーダ表面を顕微鏡で観察したところ,フィーダ表面形状は非対称三角波形状をしていることが分かった。すなわち,フィーダ表面は完全なのこぎり歯形状である必要はなく,非対称形状を有していれば対称平面振動による一方向輸送が可能であると考えられる。そこで,フィーダ表面の加工法として,フェムト秒ダブルパルス加工法の適用を検討した。第1パルスによる材料の蒸散と同時に,第2パルスを照射し蒸発粒子を再加熱することで,反跳力は第2パルスの入射角方向にシフトする。これらの作用を利用して非対称表面を加工した。なお,フィーダの材料はステンレスである。ここでは,得られた加工表面を原子間力顕微鏡により計測し,Duty比35%の非対称性が確認された。また,輸送実験を行うことにより,これら加工法の適用可能性を示した。